ゆっくり茶番劇商標登録問題

Last-modified: 2022-05-25 (水) 17:19:42

 2022年5月15日を発端としたYouTuber柚葉氏による「ゆっくり茶番劇」問題がいちおうの収束を見せた様子なので、思うところを述べてみたいと思う。この問題は主にYouTubeをよく閲覧している人や動画制作をしている人には非常に馴染みが深い事項であることもあり、Twitterでトレンド上位に入るなど界隈では大変な騒ぎとなった問題である。


前提用語

 前提として「ゆっくり茶番劇」関連の用語を軽く説明する。

ゆっくり茶番劇



 ゆっくり茶番劇の大元は『東方Project』(原作者ZUN氏)というシューティングゲームにおけるキャラクターを用いた動画類である。動画の特徴は「饅頭(まんじゅう)」などと表現されることもある東方Projectの頭だけになったキャラクターが口パクアニメーションをし、それに合わせて「棒読みちゃん」「Soft Talk」などの合成音声出力ソフト(Aques Talk)でテキストのものを喋らせるという動画の総称。(形態などについてはゆっくり動画によりさまざまである)
 名称については「ゆっくり茶番劇」のほか「ゆっくり実況」「ゆっくり動画」など複数の名前があるが、「ゆっくり」という言葉は共通している。茶番劇という名前の通り、お茶の間の画像を背景として東方Projectのキャラクターが会話をしながら説明や実況をするという流れがほとんどだ。東方Project以外のキャラクターも有志により作られて使用されている。
 動画で実況をしてみたいが環境やその他の問題で実際の自分の声をマイクで録音できない、あるいは生声を入れたくない、さらに普通の実況動画の注釈としてなど使われ方はさまざまであり、気軽に動画を作ることができるというコンセプトのもと専用の作成ソフト「ゆっくりMovie Maker」などで専門知識や特別な環境がなくても容易に声の入った動画を作成できた。

ニコニコ動画
 ニコニコ動画は2006年に株式会社ドワンゴからサービス開始された大手動画サービスである。特徴的なもので視聴者がコメントとして投稿したものが実際の動画にオーバーレイ文字として右から左に流れていくといういわゆる「コメント弾幕」を採用していることで、うp主(動画投稿者)と視聴者が密に関わり合えるシステムとして愛されている。



 専用アプリや生放送、動画だけでなくゲームやニュースやドラマなどの多岐に渡るコンテンツ、ニコニコ動画内でも人気の高かった「歌ってみた」「踊ってみた」など一般人が気軽に歌やダンスを公開したものを全国ツアーとしてリアルイベント化するなど多方面にサービスや事業を拡大した。当時同じく人気であった2ちゃんねるとも相性が良く、ニコニコ動画の視聴者層と2ちゃんねる愛用者の内訳はほとんど同じだった(コメントなどで2ちゃんねる用語などが多用された)。
 現在はYouTubeなど他動画サービスにやや押され気味とはいえ、根強いファンも大勢抱えた動画サービスである。

ゆっくり茶番劇問題の経緯

 この問題の発生や経緯を示すとこのようになる。Wikipedia参考。

2021年9月13日「ゆっくり茶番劇」という名前が柚葉氏により特許庁に出願される
2022年2月21日登録査定・登録料納付が行われる
2022年2月24日正式に商標登録される
2022年3月8日登録証が交付される
2022年5月15日柚葉氏が自身のTwitter上で商標登録取得の宣言を投稿、ならびに自身のYouTubeチャンネルで関連する動画を公開
2022年5月16日殺到した批判により特許事務所が謝罪文を公開。同時に柚葉氏はTwitter上にて権利は保持したままライセンス料の支払いのみ不要と投稿
2022年5月20日柚葉氏が所属しているライバー事務所であるCoyu.Liveが柚葉氏に対して無期限会員停止処分を決定
2022年5月21日同事務所が商標放棄手続きを5月23日から開始するとTwitterにて発表
2022年5月23日ドワンゴが「ゆっくり」の商標権保護を宣言


2021年9月13日 特許庁出願

 そもそも「ゆっくり茶番劇」という名称が特許庁に出願されたのは前年の2021年であり、この時点では柚葉氏はCoyu.Liveにも所属していないYouTuberとして活動していた。すでにチャンネル登録者数やファンはかなりの人数がいたとはいえ、当然ながら「ゆっくり茶番劇」の大元、東方Projectの原作者ZUN氏などとはなんの関係もない人物である。
 柚葉氏はそうしたこと鑑みて正式に商標が登録されないうちはすべてを水面下で動かそうとしていたと見え、2022年5月15日になるまで「ゆっくり茶番劇」についての言及は内外問わず発言している様子はない。Coyu.Liveに所属したのも2021年10月のことだが、その時にも事務所に対して「ゆっくり茶番劇」商標登録についての話もしていない。

2022年5月15日 Twitter上で商標の取得公開、ライセンス料等の要綱発表

 交付されてからTwitter発表までしばらくの間が空いた理由としては、特許庁にて異議申し立てが可能な「交付から2ヶ月以内」が過ぎるのを待って満を持して公開したせいだと思われる(参考:商標登録異議申立制度)。柚葉氏も5月15日の直前日に自身のTwitterで「そろそろ大きなことを発表します」といった旨の発言をしていることもあり、待ちかねての大発表といったところだろうか。そして商標登録の公開後は同時にライセンス料として今後「ゆっくり茶番劇」という文字を使用する全動画に対して10万円を柚葉氏に支払うことを要綱として掲げた。
 自身の関わっていないコンテンツに対する商標登録の権利を主張するだけでも問題であるのに、さらに使用料金を一方的に徴収するというスタンスは「金儲け目的」などと皮肉られても仕方のないやり方であっただろう。確かに法律的には特許さえ取得すれば本人の意のままになるところもあるとはいえ、やはり感情面では批判的になってしまうのも仕方はない。

 東方ProjectのZUN氏からもTwitter上で意見が取り沙汰されており、その後ニコニコ動画のドワンゴ法務部からあらためて「ジャンルとしての使用なら商標権侵害はない」として公式声明文が掲載された。15日の時点でゆっくり茶番劇、ゆっくり動画を公開予定としていた全実況者もこの声明のお陰で一応は胸をなでおろせることにはなったが、もちろん問題はここで収まらなかった。

2022年5月16日 特許事務所による謝罪文、ライセンス料の中止

 この件は批判と炎上問題に発展し、柚葉氏だけでなく特許庁や東方ProjectのZUN氏、ゆっくり茶番劇が一大勢力を持つニコニコ動画(ドワンゴ)など多方面に飛び火した。まず最初に謝罪の公開をしたのが今回、柚葉氏が特許出願をしたという海特許事務所からの謝罪文である。
 この謝罪文によれば「「ゆっくり茶番劇」というワードをインターネットで検索し調査したが、ヒット数が数万件程度しか無かったために特許申請については問題はなかったとしている」といった旨の言葉がある。しかし、現時点で検索しても「ゆっくり茶番劇」という言葉は数千万件に及んでおり、今回の騒動を経て各所から関連記事や動画で増えたのを引いたとしても誤差の範囲であることが伺えるだろう。柚葉氏と海特許事務所の癒着すら疑われる発言である。

 一方で柚葉氏はこれらを受けてライセンス料とした10万円の支払いのみを中止するとTwitterで発言した。ただし権利だけは保持するとし、変わらず「ゆっくり茶番劇」という文字商標は柚葉氏が所有すると宣言し続ける。柚葉氏は特許出願の際に出願料その他の資金も支払っているはずであり、ライセンス料を徴収することで帳消しにしようというビジョンもあっただろうがこの時点で金銭的な意味では赤字となったと言える。ただし権利は放棄しないというところに「抜け目のなさ」あるいは「意地でも手放したくない精神」が伺えるのもやむを得ないだろう。

2022年5月20日 柚葉氏の所属するライバー事務所が同氏に無期限会員停止処分

 このようにしてライセンス料以外の権利は保持しようとした柚葉氏であったが、それに黙っていなかったのが柚葉氏所属のライバー事務所、Coyu.Liveである。ここは入門者から大手まで、さまざまな配信者同士を結ぶと掲げた事務所だ。最近のCoyu.Live加入配信者がほとんど配信停止処分や引退していることを見るにメンバー内訳がやや危なっかしい傾向はあるものの、今回の騒動においては誠実な対応をしてくれている。
 「所属ライバー「柚葉」に対する懲罰処分について」と題されたCoyu.Liveからの文章によれば「ゆっくり茶番劇」が利用者に愛されているコンテンツであることを前置きしたうえで柚葉氏の今回の行動は決して許せるものではないとし、今後の指導および対応の項目ではかなり手厳しく柚葉に対する処分を宣言している。これらの文章から察すれば柚葉という一個人のプライベートに事務所がかなり深く立ち入ったと見られ、ここまで柚葉氏が徹底していた(としか見えなかった)金稼ぎ、保身、自身の関わっていないコンテンツにも関わらず権利だけは手放さないといった傲慢で身勝手な態度と行動のすべてに直接的な鉄槌をくだしたのが事務所であったと思われる。

2022年5月21日 Coyu.Liveが「ゆっくり茶番劇」の商標放棄手続きを開始

 Coyu.LiveのTwitter上にて「柚葉氏から「ゆっくり茶番劇」の商標を放棄するという連絡を受けた」という旨のツイートが発せられ、これにて今回の騒動は一応の収束を見せた。全体的にCoyu.Liveの指導と指摘を受けて柚葉氏がようやく諦めたという形がもっとも分かりやすい終わり方であっただろう。今後、完全に放棄されるまでしばしの続報は待たれるところだが、これ以上の問題が起きないことを「ゆっくり茶番劇」の作成と鑑賞を愛する一個人としても願いたいところである。

2022年5月23日 ドワンゴが「ゆっくり」の商標権保護を宣言

 5月23日15時、ついにドワンゴが今回の騒動に本当の意味での終止符を打つべく記者会見をした。
 今回の騒動を受けてドワンゴのくだした決定を簡単に言えば「ゆっくり」関連用語等のすべての保護と相談窓口の設置をすること、東方ProjectのZUN氏とやり取りした上で株式会社ドワンゴが「ゆっくり」商標権の獲得をすること、現在においてまだ今回の件に黙秘を続けている柚葉氏本人への完全放棄への交渉、そして既に金銭的な請求をされてしまった人への無効審判など、全体的に「ゆっくり」という言葉における保護を宣言したことになる。

 これに加え、同日16時にCoyu.LiveのTwitter上で柚葉氏が放棄の手続き書類を確認したというツイートがあり、Coyu.Liveは実際に手続き書類を画像として見たという。これが本日付けで送付されていれば2週間後の6月6日には「ゆっくり茶番劇」の商標登録は柚葉氏とは関係なくなり、以後は株式会社ドワンゴが保有するという形で保護下に入るだろう。柚葉氏のTwitterがそれ以降なにも変化がないことだけは不安ではあるが、界隈の言葉通り「夜逃げ体勢」であるということだろうか。

 柚葉氏のツイートへのリプライは相互フォロワーのみしか受け付けていないため、多くの人々はSNSやネット上で個別に意見を取り交わしているが、ゆっくり動画を作成するすべての動画制作者、クリエイター、関係者たちが枕を高くして眠ることができる日もそう遠くはなさそうである。

柚葉という人物について(推測と憶測を含みます)

 現在、柚葉氏について各所の特定班により本名や住所が解析されている。偽情報や誤報も飛び交っているため関係者への迷惑も考えここでも明言は避けておきたいが、商標登録の際に本名と住所の提出が必須であることから考えて特定されたのが熊本県の石氷氏という線が濃厚であろうか。とはいえ、これも他人の名義であるなどの可能性も考えれば確定には至らないだろう。柚葉氏という人物のこれまでのTwitter上の言動から見ればそうした隠蔽工作に及んでいるかもしれないという側面もある。

動画での言動

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※柚葉氏が15日時点でYouTubeにアップした要綱動画
※2022年5月25日現在、柚葉氏により別の動画に差し替え



 柚葉氏は2015年にゆっくり動画を自身のチャンネルで公開して以後は複数のゆっくり動画や複数チャンネルの運用やその解散、プライベートでの環境変化も経て「たまゆら」という名前で2020年にチャンネルを運営継続するとした。そして2021年に名前を「柚葉 / Yuzuha」として活動再開している。

 ここで不思議なのが、チャンネルに現在ある動画の再生数全体から見ても登録者数23万(2022年5月24日現在)とは到底思えない数字であるということ。非公開もしくは削除した動画もいくらかはあるのだろうが、それにしても多くて10万、普通なら3~4万人ほどとしか思えない数だ。チャンネル登録者の買取をしているというウワサされているのもこうした理由があるからだろう。
 残されている動画をいくつか見てみると、直近ではゆっくり動画のコラボ企画において複数の動画実況者とのトラブルがあったと見え、それに関する“お気持ち表明”動画をアップしている。

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 今回の騒動に直接関係はないので詳細は伏せるが、とある複数実況者からイジメを受けたと題して身内間でちょっとしたトラブルがあったと見られる。これについては柚葉氏のTwitterでも言及されており、当人たちと彼ら実況者のファンとしてはショックを受けたひとつの騒動ではあったのだろう。

Twitterでの言動

 柚葉氏のTwitterアカウントにおいては5月15日から関連ツイートで溢れかえっており、それらに対する反応も多々あるところだが、注目したいのはそれより過去のツイート類であろう。柚葉氏という人物が普段どのような発言をネットで繰り返していたのかを判断する材料でもある。

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 こちらは2022年5月4日、今回の騒動より少し前のツイート。
 ここから察するに、YouTube動画を公開するという以上は収益化が大前提が認識としてあるのだろう。再生回数や登録者数のみを着眼点としており、それらが多ければ多いほど優位であるかのようなツイート発言である。
 確かに多くのYouTuberやクリエイターたちは収益があってこそ動画を制作するという面もあるだろうし、それで生活を賄うという意味でも大切なことだが、私の知る範囲では収益など考えず好きなことを好きなように発信したいという気持ちで動画を作っているYouTuberも大勢いる。なかには収益を考えるあまりに伝えたいことをありのままで伝えられない動画も多いだろう。

 すべての動画実況者、クリエイターたちが収益や登録者数、再生回数だけを考えて公開しているわけではないということを、まずは考え直してもらいたいところである。(この自分用Wikiのこのコラムも閲覧者数などまったく考えて書いていないし)

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 こちらは2022年2月18日、柚葉氏と同じく動画実況をしているなたね氏と近々ゆっくり茶番劇に関するライブ動画をするという予告ツイートである。柚葉氏が2月の時点で「ゆっくり茶番劇」に対して思うところがあったとすれば、ゆっくり茶番劇動画の実況者やクリエイター全体に対して物言いはあったのだと思われる。

 この後、なたね氏を含めた複数実況者でコラボ動画をしたもののトラブルとなったというのは前述の通りだが、こうしたことを含めて柚葉氏が「ゆっくり茶番劇を始めとしたすべてのゆっくり動画の権利を取り自身が自由にできれば大きな収益に繋がるうえに名も売れる」という思いに繋がったとも捉えられる。
 根幹的に「有名になりたい」「お金が欲しい」という上昇志向(悪く言えば欲望)が垣間見える、ある意味では分かりやすい性格と行動であることがTwitterから読み取れるだろう。

 また、細かなところでは文章の統一感のなさや半角と全角の乱用、不要な改行など、文章体裁について気を遣ったツイートが少ないということ。話し言葉かと思いきや急に丁寧語になる、3点リーダ(…)を使うかと思えば急に全角の「・・・」になる、不意に絵文字で「  」を使うなど、YouTubeチャンネルの公式Twitterアカウントとして運用したかったとしては言葉の使い方、書き方がやや幼稚と言ってしまってもいい。
 寝転がってスマホなどで予測変換をぽちぽちしながらサラッと書くという学生感覚でのTwitter投稿であるのなら尚のこと、公式Twitterアカウントにするには難点しかないだろう。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

 今回の騒動では東方ProjectのZUN氏とゆっくり茶番劇の勢力を持つニコニコ動画(ドワンゴ)だけでなく2ちゃんねる元管理人ひろゆき氏、その他記事や動画などを含めれば多くの著名人や有名人がそれぞれ意見や見解を述べている。騒動はテレビニュースでも報道され、ゆっくり茶番劇やYouTubeをさほど知らない一般人でも認知することにもなった。

 一般ユーザーのところで言えばSNSやその他のコミュニティサイトでも大規模な反対署名活動が起きたり、あるいは車両で爆破予告がされるなどして大変な騒動と実害が起きてしまった。これらは決して許されることではないが、考えてみれば昔の2ちゃんねるでは自分の意図しない社会的決定に爆破予告、殺害予告、事件予告などがしょっちゅう書き込まれて実際に事件が起きてしまった例も少なくはなかった。

エイベックス「のまネコ」商標登録問題

 特に今回の商標登録騒動について昔の2ちゃんねるを知る一部であれば2004年に起きた「のまネコ」騒動を思い出した人も少なくはないだろう。




 この事件は簡単に説明すれば、「のまネコ」という2ちゃんねる発祥(匿名掲示板なため、誰が最初に作り出したのかは不明)のキャラクターの図形商標登録を大手のエンターテインメント会社であるエイベックス・グループ・ホールディングスが取得したことから発生した騒動だ。ネット上での法的取り締まりがまだ完成されていなかった当時、エイベックス社員の殺害予告なども2ちゃんねる内の掲示板で取り交わされ、SNSがまだ一般的ではなかった当時、実際にエイベックスの本社に突撃するなどの騒動にも発展してしまった。
 これだけの事になってしまった理由も、当時この「のまネコ」は現在のYouTube等の動画と同じメディアであったFlash動画で多く使用されている愛されたキャラクターであったためだ。経緯がやや異なるだけで今回の「ゆっくり茶番劇騒動」とほとんど同じであることが分かるだろう。最終的にエイベックスは商標登録を取り下げることで事態は解決は見せたものの、ながらく2ちゃんねるのユーザーを中心にエイベックスという会社に対する批判が続いたのは言うまでもない。

 この「エイベックスのまネコ商標登録問題」と今回の「ゆっくり茶番劇商標登録問題」を比べてひとつだけ管理人が怖いと思うのが、今回は企業ではなく一個人の特許出願と交付であったことだ。
 身勝手な特許出願により以後の使用自由が保てず問題化した事件は「エイベックスのまネコ商標登録問題」より以前も含めて無数にのぼる。今後「ゆっくり茶番劇」と似たような、宙に浮いたままながらも多くのユーザーに愛されて自由使用が暗黙の了解となっているキーワードやコンテンツ全般に対して一般の個人がいくらでも特許出願し自分の物として主張できる社会だとしたら、これは恐ろしいとしか言えないだろう。
 特許を出願する時には金目当てではなく、その言葉(コンテンツ)がどのような人にどのような認識で一般に広まり伝わっているのかをしっかり考えてからであってほしいし、特許庁も同様にしっかりとした下調べを経て交付認可としてもらいたいと思うのが私個人の願いである。

伝説の古代兵器「田代砲」

 同じく2ちゃんねる発祥となる言葉で「田代砲」が今回使用されたのは「のまネコ騒動」を知る当時からの2ちゃんねらーたちからすれば感慨深い出来事であっただろう。15日に柚葉氏が商標権を公表するとほとんど同時に同氏が運営するWebサイトにてこの田代砲が使用され、アクセス不能の事態に陥った。

 田代砲とは通称であり、実際はDoS攻撃という、いわゆるサーバーに多大な負荷をかけてネットワーク攻撃を行う行為、また自動投票に特化したプログラムの総称である。
 名前の由来としてはタレントの田代まさしが2000年から2004年の間に複数に及びわいせつ行為や覚せい剤所持などの事件を起こしたことをネタにした2ちゃんねらーたちが米TIME社で毎年公表される「Person of the Year」(パーソン・オブ・ザ・イヤー/今年の人)という記念すべき表彰記事に選ぼうと開発された投票型プログラムであった。これらのお陰で田代まさしは2001年にて「アジアのヒーロー」としてTIMEに取り上げられ、2ちゃんねるではお祭り騒ぎになった。




 その後「田代砲」は改良や改造が加えられ続けて名称もさまざまに変化していったため今回の柚葉氏のWebサイトに使用された田代砲が当時使われたものと同一ではないだろうが、爆破予告、のまネコ騒動、田代砲といういずれも2ちゃんねるが大元となった騒動が今回も起きたというのはやはり「歴史は繰り返す」という言葉を強く感じずにはいられない。
 そしてまた、現在では5ちゃんねるとして管理人ひろゆきの手を離れてしまい、オワコンなどと揶揄されているこの大規模匿名掲示板の団結力や行動力が、当時ほどでないまでも“生きて”いることに、場違いではあるが感動したのは私だけではないだろう。

オフェンシブな商標登録とディフェンシブな商標登録 (2022年5月23日18時記)

 2022年5月23日朝にこの記事を書いていたが、15時に株式会社ドワンゴから商標登録保護の記者会見があったことで追記という形で思うことを続けて行こうと思う。

 前述した通り、エイベックス「のまネコ」商標登録問題よりも前にも商標登録問題というものは過去にも大量に発生した事例であった。

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 この動画はサブカルチャー界隈では有名人でもあるプロデューサーの岡田斗司夫とスタジオハードデラックスの代表取締役である高橋信之の対談、というよりもおじさん2人が楽しく思い出し笑いをしながら当時のゲーム業界、サブカル業界について言及しているという動画の切り抜きになっている。(元動画:https://youtu.be/JVxjzPd_1tY

 さて、この動画では今回の「ゆっくり茶番劇」に通じる問題であるゲームやアニメなどのサブカルチャー界隈においての商標登録についてが切り抜きの部分ではピックアップされている。ゲーム会社としてばりばりだった頃のコナミホールディングス株式会社の社長が社員に「商標登録1つ取れたら5万の特別給料を渡していた」、ドクター中松など発明家は「別に使わないかもしれないけど念のためにお金を払って先に商標登録を取ってしまう」などの話が飛び出すなかで、商標登録というものには「攻撃的な商標登録と防衛的な商標登録がある」という高橋信之の言葉がある。

 氏曰く、「攻撃的な商標登録」は得た商標権をガッチリにぎってしまい他所に渡さない、使いたいのであれば許可を取りライセンス料などを支払えと命令するもの。対する「防衛的な商標登録」は多くの人が自由に使ってもらうために面倒な責任はすべて一手に引き受けるので心置きなく使ってくださいとするもの、とある。

 実際に今回の騒動において、柚葉氏は最終的に「「ゆっくり茶番劇」という言葉に商標登録を得たのは保護が目的」という旨の発言をしているが、ライセンス料を支払ってもらう姿勢であることや言葉の使用に対して柚葉氏という(東方Projectとは何の関係もない)一個人に承諾を得なければならないという意味では「攻撃的な商標登録」として考えてもいいだろう。
 対する23日の株式会社ドワンゴによる同言葉の商標登録は「これからも多くのクリエイターにゆっくりという動画を作ってもらうため、騒動再発を防止するため」として東方Projectとも密にやり取りしながらというわけで「防衛的な商標登録」として成立している。当然ながら一個人ではなく株式会社ドワンゴという知名度の高い大手企業が商標登録をするという部分でも安心感もひとしおである。

 惜しむらくは、こうして攻撃的な商標登録が先に来てしまったことで炎上や爆破予告などの最悪な騒動になってしまったことであるが、これを教訓に今後も商標登録とその言葉が持つ世間的・社会的な強さについては考え直していきたいところであろう。そしてひとつでも、「防衛的な商標登録」が増えることを願ってやまない。