(※ストーリー関連の誤訳、「誤訳とまでは言えないが怪しい訳」派生ページ)
「いわゆるvariableの訳語としての「変数」を超えた意味で漢字語변수が口語的に使われている」といった話が韓国語講座ではよく出てくる
https://www.konest.com/m/todays_korean.html?id=18217
「변수(ピョンス)」を漢字で表すと「変数」。日本ではなかなか聞き慣れませんが、韓国では「状況を左右する要因」という意味で日常会話によく登場します。
選挙やスポーツ競技など、今後の行方に注目が集まっている話題のなかでは特に耳にすることが多い言葉です。
しかし、この語を独自の意味合いで使っているのは果たして韓国なのだろうか?
辞書的な定義
OED(名詞としてのvariableのみ引用)
variable /ˈvɛːrɪəbl /
▸ noun
an element, feature, or factor that is liable to vary or change:
there are too many variables involved to make any meaningful predictions.
▪ Mathematics
a quantity which during a calculation is assumed to vary or be capable of varying in value.
▪ Computing
a data item that may take on more than one value during the runtime of a program.
▪ Astronomy
short for variable star.
▪ (variables)
the region of light, variable winds to the north of the north-east trade winds or (in the southern hemisphere) between the south-east trade winds and the westerlies.
日国(精選版)
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%89%E6%95%B0-8693#w-2113083
へん‐すう【変数】
〘名〙
① 変化した数。
※日本書紀兼倶抄(1481)「万物の心を以て文字の多なるは五行の変数ぞ」
② 数学で、
数量を一つの文字で表わす際、いろいろに変わり得る数量を表わす文字。〔工学字彙(1886)〕
③ コンピュータで、
プログラム内で値が変化することのできる数。名前を付けて識別される(変数名という)。この名前と主記憶装置内の特定記憶場所が一対一に対応していて、文の中でこの名前を用いると、この記憶場所の中の値が読み出される。⇔定数
- 主記憶装置内の特定記憶場所
- カタカナ極力使わない縛りだと難読になるのがよく分かる例
ではなく
普通名詞variableの語義(変動または変化する可能性のあるelement、feature、factor)が日本語「変数」には取り込まれていない
ミレニアム勢にとってはまったく自然な領分
コユキ | トリッキーな変数 |
ノア | 「この先に、どのような変数が待ち受けているのでしょう?」 |
ユウカ | 「変数が……多すぎる……」 |
ユウカ(体操服) | 「普段とは違う変数に注意して、前進!」 |
ヒマリ | “これは天体の動きから人々の生体情報まで……世の中のあらゆる変数をとりまとめ、最も可能性の高い未来を提示します。” |
ヒビキ(日本版紹介) | あらゆる変数は、全て計算済み。 |
※「」付きはシステムボイス、句読点等ユーザーWiki準拠
「変数」がとても目立つミレニアム勢について言えば、数学・工学・プログラミング用語としての「変数」利用が露骨に反映されている
トリニティやアリウスでばにたす…が扱われるのと同じように、ミレニアム勢も自前のフィールドにおける用語を(場合によっては一般名詞として、場合によっては専門分野として)親しい存在として引用している
明らかにそうではない例
スキル説明文で隕石落としてる奴が科学始めたらキヴォトスは終わりだろ
当然原文でも변수表記
「(純度100パーセントの)普通名詞としてのvariables=変数변수」の用例
(参考)中国ゲーにおける用例
- 高度な演算能力を持った自律型ロボット相手の交渉シーン 變數
↑はテキトーにYouTubeから当該シーン引っ張ってきたら繁体字だったが、台湾ゲーではなく↓のスタジオのゲーム(崩壊スターレイル)序盤のシーン- 「状況を決定的に変え得る要素」としての変数
日本語でもやはり変数と訳されている
- 「状況を決定的に変え得る要素」としての変数
- 趣味としてサイコロを振るキャラ
原神の説明いる?
🆕(参考)ヨースターが変数以外を変数と日本語訳している例
↑明日方舟 bilibiliの投稿動画からスクショしてきたためクソ画質
↓(グローバル版)アークナイツ 配信担当ヨースター
- 原文「変量」をヨースターが「変数」と翻訳している例
特定の状況を予測/演算する計算モデルに言及する台詞
- 変量
- variate 厳密に言うと変数とは異なる定義の語 日本語においても統計学の狭い分野ではローカルに使い分けられているようだ
要するに
OED例文が顕著だが「(状況を左右し得る)未確定な要因」というニュアンスは元から一般名詞variable(s)に含まれており、中国にせよ韓国にせよそのまま取り込み用いている形になる
つまり英語/中国語/韓国語においては一般名詞としての「変数」がそれなりに市民権を得ている
- そもそも状況を左右し得ない変数は変数と呼ばれる必然性が無い(単なるノイズ)ため、原義を辿れば日本語としての「変数」にも(積極性の差はあれど)暗黙的に上記ニュアンスが内包されている
……と考えて別に間違いではない- 統計学ではかなり↑に近い用法で「変数」を使っている
他方で現代日本語も数学や工学やプログラミングにおける用語としてはvariable(s)を取り込んだが、日常レベルの会話となると訳語「変数」をあまり一般名詞的に用いてはいない
- たぶん聞かないし使わないだろ? 言われればまあ意味分からなくはないけど、同じような意味を表せとなったらきっと「不確定要素」とか言うよな 俺もそう言う
訳語としての変数を考える場合、「なぜか韓国でよく使われる」というよりは「なぜか日本では一般名詞的用法がいまいち浸透しなかった」*3と理解する方が妥当じゃないだろうか