No533 グロズヌイ/元ネタ解説

Last-modified: 2022-09-23 (金) 18:10:32
所属Военно-морской флот СССР
艦種・艦型58型駆逐艦→58型ミサイル巡洋艦(1962)
正式名称Гроэный
名前の由来Гроэный ロシア語で「恐るべき」という意味の形容詞
or Гроэный ロシア連邦北カフカース連邦管区チェチェン共和国首都
起工日1960.2.23
進水日1961.3.26
就役日(竣工日)1962.12.30
除籍日(除籍理由)1991.7.9(1993.スクラップとして売却)
全長142.7m
基準排水量4280英t(4350t)
出力KVN-95/64蒸気ボイラー4缶TV-12蒸気タービン2基2軸
45624PS(45000shp)
最高速度34.5kt(63.89km/h)
航続距離14.3kt(26.48km/h)/4500海里(8334km)
乗員329名
装備(建造時)СМ-70四連装ミサイル発射管2基8門 + П-35対艦ミサイル16発
ЗИФ-102連装ミサイル発射機1基2門 + М-1対空ミサイル16発
76mmАК-726連装機関砲2基4門
45mm21КМ単装機関砲2門
РБУ-6000対潜ロケット砲2基
533mm三連装魚雷発射管2基6門
艦載機x1
建造所ПАО Судостроительный завод<Северная верфь>,Ленинград\Санкт Петербург
(PAO造船社北部造船所(ソ連 第190号海軍工廠) 旧ソビエト連邦レニングラード 現ロシア連邦北西連邦管区サンクトペテルブルク連邦市サンクトペテルブルク)
  • グロズヌイは、ソビエト連邦が1960年代に建造した58型ミサイル巡洋艦(NATOコードネーム:キンダ級巡洋艦)の1番艦。
    核兵器と誘導ロケット(=ミサイル)兵器の二本立てでNATO諸国海軍に対抗する目的で建造され、ソ連崩壊まで赤色海軍の一員として活動した。

58型巡洋艦の設計背景
  • 戦後しばらくしてNATO諸国と対峙することとなった赤色海軍は、その艦艇性能で匹敵するものを作り出せなかったことから、原子力兵器や誘導ミサイル(ロケット)といった非対称兵器に傾注し、逆転をはかった。
    空母整備が思うように進められず、陸上基地からの航空攻撃では攻撃範囲が大きく取れなかった当時の状況においては、とりわけミサイルは補完的存在として重要視され、幸いなことに空母や揚陸艦といった標的にも事欠かなかった。
  • こうした状況を受け1956年に始動した58号計画では、「ヴォルナ」艦対空ミサイルシステム及び「P-35」艦対艦ミサイルシステムを主兵装とした、"誘導ジェット兵器搭載艦"が要求・開発されることとなった。
    船体設計のベースは同時期就役しつつあった56型駆逐艦としたため、本来はミサイル駆逐艦としての建造を想定した(その後につけられた艦名も規則的に形容詞とされた)。
    しかし58号計画艦が帯びる戦術的重要性や重武装はもはや「駆逐艦」の域を超えており、また将来的な巡洋艦の喪失を憂慮した海軍上層部の影響もあり、時の最高指導者フルシチョフの観閲を期に正式に「巡洋艦」となった。
58型巡洋艦の特徴
  • 船体
    • 上述のとおり56型駆逐艦をベースに拡大型として設計された本級だが、火器管制レーダーや管制システム整備のため上部構造物が必然的に大型化した。
      外見上でもあのレーダー満載のピラミッド型マストが目を引くが、アルミニウム・マグネシウム合金を採用することで重量軽減に努めた(とはいえフォークランド紛争時に発覚したように火災にはめっぽう弱い)。
      また軽量化したとはいえトップヘビーなのは否めず、調達の早期打ち止めの要因にも数えられている。
  • P-35対艦ミサイル
    • 潜水艦用に開発されたP-6対艦ミサイルの派生型。
      派生元と比較してやや小型化したミサイルを、艦の前後に配置された四連装発射管に収めた。
      • 58型が搭載したのは艦内の予備弾8発と合わせて16発。
        うち発射管に収められている4発目のミサイルは核弾頭装着型である。
      • 四連装発射管はさながら仰角のとれる魚雷発射管のような形で、ミサイル発射時の噴煙問題や発射後のミサイル針路制御の手間をある程度省ける構造であった。
        しかし極めて重量がかさみ、また複雑すぎた仕組みのため以降の採用にはつながらなかった。
      • ミサイル誘導はオペレーターが行う有人モードに加え、自動誘導モードも存在した。
        誘導レーダーが4つしか搭載されていなかったため、同時誘導可能数はミサイル4発まで。
        また、自動誘導モードでは長距離だと著しく精度が落ちた(そのため基本的に予備的な機能とされ、あっても終末誘導に用いる程度だった)。
  • M-1対空ミサイル
    • 陸上用地対空ミサイルシステムを艦載化したもので、「ヴォルナ*1」の名を持つ。
      艦首部の四連装対艦ミサイル発射管のさらに前に連装発射機が設置されており、発射機直下にV-600対空ミサイルを16発装備した。
      • こちらも長距離においては精度が著しく落ちるという欠点が指摘されており、個艦防空能力が不十分であった。
        それでもその信頼性は非常に高く、改修を幾度も施されて数多の艦船に装備された。
  • AK-726
    • 58型巡洋艦の数少ない砲装備の一つ。
      艦尾に背負式で2基配置されたこの連装両用砲は主として防空に供されるはずだったが、射撃指揮装置が1つしかなく、つまり2つ以上の目標に対して別々に射撃できないという致命的な欠点を抱えていた。
      またジェット機が普及しつつあった中では火力不足が否めず、さらに軽すぎる弾丸が対艦・対地砲撃にも不向きであるという散々な評価がされている。
      • のちにAK-630を4基追加搭載したが、こちらはCIWS(近接防御火器システム)*2として。
  • RBU-6000対潜迫撃砲
    • RBU-2500対潜ロケットの後継として開発された、「スメルチ*3-2」の名を持つ対潜迫撃砲システム。
      装填・照準まで自動化されており、射程もそれまでの対潜兵装から延長されてはいたものの、当時姿を現しつつあった原子力潜水艦に対しては力不足が否めなかった。二次大戦期の対潜装備の完成形ではあったのだが…
グロズヌイの艦歴
  • グロズヌイは1960年2月起工、61年3月進水、62年12月就役。
    就役の直前にフルシチョフのお墨付きを得て正式に「巡洋艦」となったグロズヌイは、北方艦隊で就役後の数年を過ごしたのち、1966年に黒海艦隊へ転属する。
  • 黒海に拠点を移すと、以降毎年のように他国へ歴訪するようになる*4(地中海沿岸の都市は勿論、アフリカやラテンアメリカ、東欧方面にまで足を延ばす)。
    70年代後半には大規模なオーバーホールを受け装備の近代化を図ったが、80年代に入って改修が終わると再び活動を再開した。
    • こうした諸任務の傍ら、グロズヌイは国内向けの映画*5への出演を果たしてもいる。
  • 1984年には北極海方面で「アトランティカ84」演習に参加したほか、85~86年には地中海に展開していた米空母コーラルシーとサラトガを中心とした機動部隊を追跡した。
  • しかし1990年代前後からソ連の崩壊や艦の旧式化などの諸要因により退役、ソ連の解体を眺めつつ、自身もスクラップとして解体されていった。
    • ちなみに、同型艦の「アドミラル・ゴロフコ」のみロシア連邦海軍として現役復帰、21世紀に入るまで運用を続けられた。

*1 ロシア語で「波」の意
*2 対艦ミサイルなどを至近距離にて撃墜するもの
*3 ロシア語で「竜巻」の意
*4 ソ連造艦技術の粋を結集したものを各国訪問に用いることで、外交のツールとする目論見があったとされている
*5 1968.『Нейтральные воды』(中立海域)、1970.『Письма домой』(故郷への手紙)、1972.『Визит вежливости』(表敬訪問)