【よく使う20文字のカタカナ】

Last-modified: 2024-03-18 (月) 10:39:09

概要

ドラクエシリーズのシナリオライターである【堀井雄二】が、【ポートピア連続殺人事件】(FC移植版)や【ドラゴンクエスト】を開発する際に選定した20字のカタカナのこと。
【ドラゴンクエストへの道】の作中で、【中村光一】がこう呼んでいる。
ちなみに、実際には使用しているカタカナは19種類であり、ひらがなの「り」と「へ」をカタカナとしても併用することで21文字となっているが、これはドラゴンクエストへの道では「ド」をカウントしていないため。
なお、ポートピア連続殺人事件の方ではこのような処置は行っておらず、「り」と「リ」は別で登録されているし、カタカナの「ヘ」は使用されていない。
つまり、両作品では使えるカタカナの種類が共通ではない。あくまで使用するカタカナを制限しているという点が同じというだけである(両作品に共通しているのは約半数の10文字)。
【メルキド】にいる女性が「ぽーとぴあ」と表現しているのに対し、ポートピア連続殺人事件では「ポートピアれんぞくさつじんじけん」と表記されていたことからもそれがわかる。
ドラゴンクエストへの道ではドラクエ側の20文字しか明示していない一方で、「ポートピア連続殺人事件では「ペンダント」が使えずに「ゆびわ」になった」という説明もされている。
その20文字で「ペンダント」は表記できるので、両作品のカタカナの種類が共通ではないことが分かるが、異なるとは明言されていなかったので混乱した読者もいるだろう。
 
使用文字数が絞られた理由は「ROM容量の少なさ」と語られることも多いが、実際は「ファミコンのメモリ(記憶領域)の少なさ」が大きな原因。
ファミコンは発売時点では群を抜く高性能なハードだったが、コスト削減のため、高価な汎用PCと比べればメモリ容量は少ない。
ゲーム画面を描画する際には、その描画に用いる画像と文字のドットパターンをメモリに読み込んでおく必要があるが、ファミコンはこのメモリが少ないため、一度に読み出せるデータ量の制約も大きな制限となった。
マルチウィンドウを採用したDQではマップ上の地形パターンとウィンドウの文字や枠線・カーソルなどといったもののドットパターン情報を全てメモリ上に共存させる必要があり、さらにDQ1では戦闘背景用の画像データも必要となる。
もしひらがな・カタカナ・数字・英字を全てメモリ上に読み込むと、地形や戦闘背景を描画するためのデータが足りなくなってしまう。
そのためカタカナは五十音のなかでも特に使用頻度の高い文字を精選し、ゲームに登場するカタカナの人名・地名・呪文名・モンスター名はすべてこの中から命名するという苦肉の策を取らざるを得なかったのだ。
 
DQ2以降はパーティ戦闘導入に伴い戦闘画面が移動画面から完全に切り替わる方式になり、またマップに使用するグラフィックをフィールド、城と町、洞窟、塔といった分類でまるごと切り替える方式を採ったことによって、全ての地形と背景を一度に読み込む必要が無くなったためメモリに余裕ができ、使用可能なカタカナ(および英字・記号)が少し増加した。
だが、ほとんど全てのカタカナが使えるようになったり、キャラクターの名前をカタカナで命名できるようになったのは結局、FCより多くのメモリを扱えるスーパーファミコンに移行してからとなった。
 
というわけでFC期のDQには【アルミラージ】から「ユニコンラット」への改名を断念したり、りせっとぼたんインデオラオおうーナなどといった、涙ぐましいカタカナ削減策の跡が随所に見られる。

DQ1

初代「ドラゴンクエスト」で使われたカタカナは以下の表の通り19文字。

        
   (り)    
         
    (へ)     
       
  

参考までに、ポートピア連続殺人事件との差分を色分けで示した。共通のカタカナはイ・カ・ス・タ・ト・ホ・マ・ラ・ロ・ンの10文字。ア・ウ・ツ・テ・ナ・ハ・ヒ・フ(・リ)・ッがいったん削除され、新たにキ・コ・シ(・ド)・ミ・ム・メ・ル・レが採用された。
 
濁点・半濁点は文字の中に含まれておらず独立しており、元の文字の真上に表示している(ひらがなも含めたフォント全般についてはこちらも参照)。ただし、コマンドウィンドウ最上部の「コマンド」の「ド」は、「ト」の上に濁点を入れることができないため、これに限って濁点の無い「ト」と濁点が付いた状態の「ド」の文字が別個に存在している。
 
表内に括弧書きで示した「へ」と「り」はひらがなを似た形のカタカナ「ヘ」「リ」の代わりとして利用しているため、カタカナとしての文字フォントは存在しない。
これらの理由のため、実質的にカタカナフォントとして登録されているのは前述のとおり19文字であり、これに「へ」と「り」を併せて21文字をカタカナとして使用している。
また、【つよさ】コマンドの項目中の「こうげきカ」「しゅびカ」の「カ」は、漢字の「力(りょく)」に似たカタカナの「カ」を使用している。
ちなみに英字に関しても本作の操作画面では表示に最低限必要なH・M・P・E・Gのみに絞られている。
 
この21文字のカタカナの中から【ホイミ】【ラダトーム】などといった名前を考え出した堀井雄二の発想力は見事という他ない。
だがこの制約の影響で、物語の舞台となったガルド】という地名は劇中に一切出てこなかったり、明らかに中世ヨーロッパ風の世界観なのに主人公の名前はひらがなに限定されていたりする。NPCにも【よしりーん】【ちゅん】といったひらがなの人物名が目立つ。
「ドラゴンくえすと」などは象徴的で、自身のタイトル(ドラゴンクエスト)すら表現できなかったのである。
ンスター」すら無理で、作中では「まもの」と呼ばれている。その名残なのか、以降のシリーズでもモンスターのことを「まもの」と呼ぶ場面が少なくなく、ある意味DQらしさを生んでいる。
 
また【りゅうおう】最終形態との戦闘画面では、文字の形が若干異なっている(りゅうおうの頁も参照)。
理由は不明だが、単なる確認ミスの可能性がある。というのも、りゅうおう戦の文字は上記ポートピアで使われてる文字に酷似しているからだ。
ポートピアをベースにドラクエの文字選別が行われたのに併せてフォントの作り直しも行ったのだろうが、「りゅうおう戦の文字」だけはそれを反映し忘れていたと考えられる。
もっともポートピアでは使われていない文字のフォントからして異なっているので、単に何度か作り直しただけなのかもしれないが…。
なお、MSX2・MSX版ではROM容量が増えた影響なのか、通常時と同じフォントで表示される。
 
ちなみに1986年当時、堀井は「中二コース」誌6月号掲載の取材で、1文字ずつ削るだけでだいぶ容量に余裕ができるということで、その作業に追われている最中だった。
1文字ずつと言っても、全てのメッセージを1文字短くするのか、使う文字を1種類減らすのかは不明。
もし後者だったら句点と半濁点を共通にするか、DQでは原則使わない「、」を削除すれば早かったのではないかと思えなくも無いのだが…。

DQ2

以降、 は新たに使えるようになった文字。

    
   (り)  
     
   (へ)    
     
  

戦闘用背景の画像データが無くなった影響もあって、19文字から32文字に大幅増加。無事「アレフガルド」も表記可能になり、「アレフガルドの へいし」が【ルプガナ】に登場する。
 
データ上では「」がナ・ヌの間にあるので、最後の方で「ニではなくウの方を使う」と決め追加したらしい(詳しくは【ウフラム】参照)。
この関係か「ウ」の使用箇所が異様に少なく、【サーベルウルフ】【ウドラー】(ニドラーから改名)、それに「ハ゜ウロ」のみ。
 
「モ」が使えるようになったので晴れて「モンスター」も表記できるようになった…と言いたいところだが、相変わらず「まもの」と呼ばれる傾向があり、使用箇所は少ない。固有名詞では【スモーク】【アークデーモン】【ドン モハメ】くらいではなかろうか?
これ以外にも、大幅増加の影響なのか、あまり多く使われていないカタカナがいくつか存在するようである。
 
本頁の主題からは外れるが、濁音として「ド」の他にコマンド画面の「ぶき」「かぶと」の「ぶ」、「じゅもん」の「じ」、「どうする」の「ど」、「だれに」の「だ」も1文字として登録されている。
この4文字のひらがな濁音は次作以降もカタカナを差し置いて引き継がれているが、コマンド画面の「じゅもん」の「じ」はDQ1と同じ「し゛」の表記に戻っている。
また英字は新たにステータス関連のL・V・Xと戦闘で用いるA・B・C・D・Fが新たに使えるようになった。

DQ3・DQ4

   
   (り)  
      
   (へ)  
   
  

「ウ」は本来の「ニ」に置き換えられたことで一旦削除された。またDQ2では【5つの紋章】を記号で表していたがそれが不要になった分、入れ替わるように5文字のカタカナが追加された。
ヒャド系呪文が登場した影響もあって拗音に使用する「ャ」が登場した一方で「ヤ」はまだ登場しない。
「セ」がなかったため、「りせっとぼたん」がひらがなになっている。

なおDQ4の【ポーカー】の画面は先述のりゅうおう戦と同様に通常画面とは別の文字データをメモリに読み込んでいる。なので上記以外の文字も表示され、濁点も文字に含まれている(ロイルストレートフラッシ、フカードなど)。
 
小文字のァィゥェォがまだ存在しないため一部のモンスターの名前が大文字に置き換えられているのは上記の通りだが、DQ4の【公式ガイドブック】では本来の表記をした上で実際のゲーム中の表示を読み仮名として併記するという措置をとっていた(上記の例で言うと「アークバッファロー【アークバッフロー】」という具合)。
…だが一方で、【フェイスボール】【フェアリードラゴン】は名前、読み仮名共に「フェ」表記だったり、逆に【イエティ】は名前も読み仮名もゲームと同じ「イエテ」表記だったり、扱いが一定でない
(「イエテイ」に関しては他のページでもほぼこの表記なので、ガイドブックの編集スタッフがこういう名前だと勘違いしていた可能性もある)。

DQ5、DQ1・2(SFC版)

  
  
  

メモリが増えたことによって「ゥ」以外すべて使えるようになったほか、「ヘ」と「リ」にもちゃんとしたカタカナの文字が与えられた。
また、すべての濁音が解禁された一方で、ドは「ト」に濁点をつける形に改められた。
「ァ」「ィ」「ェ」「ォ」の4つの文字は名前入力画面では使うことができないため、【チート】を使わないと「ティミー」「フィラ」が入力できない。

DQ6、DQ3(SFC版)

  
 
  

ア行の拗音に「ゥ」が追加され、現代仮名遣いでは使用しない「ヰ」「ヱ」を除けば50音順表すべてが揃った。
ただしDQ6の名前入力画面では、まだ「ァィゥェォ(ぁぃぅぇぉ)」を使うことはできない。
なお「ン」や「シ」にハネが入るなど、一部の文字はマイナーチェンジされている。

その後

GB系リメイク作品や、フォントそのものが変更されたPSのDQ7・DQ4では濁点・半濁点も文字の中に含まれるようになったほか、漢字も使われるようになった。
そしてPS2以降は印刷物や他電子機器などでも使われる一般のフォント(こちらを参照)が使用されるようになり、文字に関する制約からは完全に解放された。
なお「ヰ」「ヱ」はナンバリングではいまだに使えないが、DQMJ3Pでは使用できる。