「てんくう」の名が付く装備品一式については【天空装備】を参照。
概要
【ドラゴンクエストシリーズ】のうち、【天空城】にまつわる一連の作品である
の3作品の総称。『天空3部作』ともいう。
天空城の存在を軸として世界観が統一されている物語であるため、そう呼ばれる。
1980年代かつ昭和時代末期に発売された【ロトシリーズ】に対し、天空シリーズはいずれも1990年代、平成初期に発売されている。
呼称について
DQ4制作当初はまだ三部作として計画的されてはいなかったようであるが、1990年のDQ5制作発表後のインタビュー記事の中では
『I』、『II』、『III』はロトシリーズで完結。で、『IV』、『V』、『VI』は天空シリーズになるって噂があるんですが、どうなんです?
堀井 ノーコメント。それに『V』がまだできてないのに『VI』のことなんてわからないよ。
とあり(『ファミコン通信』1990年26号)、天空の物語がまだDQ4だけだったこの時点から既に、一部のファンによって「天空シリーズ」という言葉が使われていたようである。
そしてDQ6の画面写真が発表された1994年には、エニックス側が同作を公式に「天空シリーズの続編」と呼んでおり(『ファミコン通信』1994年9月2日号)、晴れて「天空シリーズ」は正式な名称となった。
海外では天空人をZenithian、天空の剣をZenithian Swordなど日本でDQ6が発売される前のNES版DW4の頃より【ゼニス】という語に訳しており、のちにDSで三部作が発表されてからはZenithian trilogyと呼ばれている。
特徴
ロトシリーズと比べてストーリーに重点が置かれるようになり、その影響かゲーム進行の自由度はロト編よりも低めになっている。
また各作品とも最初から魔王討伐の使命を受けて旅立っていたロト編に対し、天空編では最後にラスボスと戦うことこそ一緒であるものの、作品や章ごとに旅の目的はさまざまである。
DQ4では力試し・金儲け・敵討ちなどキャラごとに違い、DQ5の最初は旅の目的すらわからずに父に付いていくというもの、DQ6は村長から頼まれたお使いから物語が始まる。
異類婚姻譚をテーマにしたイベントも他シリーズに比べて多い。
また、DQ4とDQ5、それとDQ6の序盤においては、DQ2同様に個々の仲間キャラクターの役割が決められているが、明確なキャラクター性が重視されていなかったDQ2よりもキャラクターの個性と掘り下げが重視されている。
各々の特性や肩書きは基本的に固定で明確なプロフィール設定を持ち、ストーリーにも深く関わる。キャラ設定上の肩書きと能力面における特徴が一致しないキャラも少なくない(王女であるアリーナが武闘家型、踊り子であるマーニャが魔法使い型、占い師のミネアが僧侶型など)。
また、仲間キャラが従来よりも多く台詞を喋るようになり、無口な主人公に代わり脇を固めるキャラたちの会話でストーリーが牽引されていく。
他のシリーズよりも仲間キャラの数が比較的多いという特徴もあり、天空シリーズ3部作全てに【馬車】によるスタンバイシステムが採用されている。
【山奥の村】【サンタローズ】【ライフコッド】と、「主人公と馴染み深い村が敵に襲われる」というシーンが全作共通で存在している(ただし襲われた状況やその後の結末についてはそれぞれで結構違う)。
またラストダンジョンとラスボスがそれぞれ【闇の世界】【魔界】【はざまの世界】という人間の世界とは別の世界に存在し、ストーリー最終盤にその世界へ移動するという点も共通している。
作品間の関連
DQ4は、前作までの【ロトシリーズ】とは関連のない別の世界での物語となり、終盤には【マスタードラゴン】の治める天空城、およびそれに通じる【天空への塔】が登場。
また勇者専用の武具として、4つの「てんくうの◯◯」が存在する。
DQ5は、前作から数百年後の話であることがパッケージ裏(および「スーパーファミコン奥義大全書」)に書かれているものの、世界の地形は大きく変わっている。
しかし天空城と天空への塔だけは健在であり、前作で飛び降りる展開があった天空城の雲の穴の存在も確認できる。
マスタードラゴンや天空の武具も前作に引き続き登場している。
また、前作の勇者や【導かれし者たち】の子孫だとされる人間や、裏ボスとして前作の中ボスだった【エスターク】も登場する。
これらにより、世界観が同じであることがわかる。
DQ6が問題で、【夢の世界】にある【ゼニスの城】の構造が天空城とほぼ同じであり、エンディングでは夢の世界消失後にその城だけが残って空中を浮遊する描写がある。
また、攻略本などでは【ラミアスのつるぎ】などの伝説の武具がのちの天空装備に酷似したデザインで描かれた。
しかし、DQ3のときのように文章で繋がりがはっきりと示されるわけではなく、DQ4・DQ5との関連を匂わせる要素もそれら以外には無く、後はすべてプレイヤーの想像に任せられる形になっていた。
なぜか出演している【ルビス】など、ロトシリーズとの関連を匂わせるような要素もあることから、「ただのセルフパロディなのでは?」という意見も見られた。
【デスコッド】にはDQ4やDQ5を思わせるキャラが登場するが、色々とはっちゃけたものが出てくる裏ダンジョンであることや、そもそも違う時代の人間がいる理由がないことなどから、これについてはただのファンサービスでノーカンとみる人も多かった。
一方、SFC版時代の頃から取扱説明書にDQ6のみ「はるか古の頃、平和な人々の暮らしに影を落とす魔王ムドーの存在がありました。」と明確に過去扱いであるため、「ロトシリーズもDQ3が一番過去だったし、同一世界なら時系列はDQ6が最初だろう」という説もあった。
前述のように、DQ6が天空シリーズの第3弾であることは開発中の時点から示されており、発売直前には【堀井雄二】も天空城の登場を示唆する発言をしていた(『ファミコン通信』1995年12月22日号)ほか、エニックスの公式サイトにも記されていたのだが、いつしかファンには忘れ去られていたようだ。
(DQ6の【デバッグルーム】のフラグ管理部屋でも、ゼニスの城の復活フラグが「天空城 復活した」という項目名になっている。)
このあたりはDSでのリメイク版で少し補完され、デスコッドでは「近い未来または遠い未来の姿を見せる」と、DQ4やDQ5のキャラクターが登場。
これにより「同じ世界の違う時代」であると作中でも明言され、同時に時系列はDQ6→DQ4→DQ5となっていることがわかった。
他にも開発スタッフが「DQ6は天空シリーズの一部です」と改めて発言したこともあわせて、長年の疑問に決着がついたことを広く知らしめる形となった。
ただ、逆にいうとこれだけで、ストーリー上でDQ4やDQ5に繋がる何かが新たに追加されたわけでもなく、相変わらずルビスも出演しているし、プレイヤーが見ることのできる繋がりはあまりない。
後に【ドラゴンクエスト25thアニバーサリー 冒険の歴史書】には、ゼニスの城がのちの天空城であると明記された。
全体的に天空シリーズはロトシリーズと比較すると、作品間で世界の地形がまるっきり変わっていたり、オープニングテーマと【間奏曲】以外に共通するBGMがなかったりで、繋がりを実感できる要素は少ない。
一応DQ6→DQ4間では【エスターク】率いる魔族と【マスタードラゴン】率いる天空人の戦争、DQ4→DQ5間では【ブオーン】の襲撃で説明できなくもないが、天空シリーズの世界は激しい地殻変動が数百年単位で起こっているのだろうか?
これについて堀井雄二は『ファミコン通信』1994年10月21日号のDQ6開発中のインタビュー記事で次のように語っている。
ーー『IV』、『V』、『VI』と天空シリーズですよね。『IV』から『V』へは、シリーズはつながっていたけれど、内容的なつながりはなかったですよね。『VI』のつながりも同じような感じなんですか。
堀井 まぁ、そこそこですね。あんまりつなげちゃうと、フィールドマップから同じにしなくちゃならないので、けっこうつらい部分がある(笑)。ある程度世界を変えないと、新しいゲームってのはおもしろくないですよね。完璧に続編とかにしちゃうとね。だから、『VI』は天空シリーズといいつつも、そのへんでは希薄かなと。
つまり、各作品でマップがまったく違うのは、ゲームの面白さを出す、つまり販売戦略上のメタ的な理由があってのことだったのだ。
事実、外伝扱いで天空シリーズにこそ含まれないが、最終作で『DQ4の後日談』と明言されたトルネコシリーズにおいても、DQ4から数年しか経っていないのに世界の形は大きく異なっている。
DQ5の取扱説明書
SFC版DQ5の【取扱説明書】には次のような記載がある。
はるか昔、
邪悪なる意志により復活をとげた大魔王は、自らを究極の生物に進化させようとしていた。
しかし、根絶やしにしたはずの勇者の子孫は生きていた。そして、数人の勇士と共に大魔王の意志を打ち砕き、世界に平和をもたらしたのだった。
――それから数百年。
この広大な土地を旅する父と子の姿があった。
父はなぜ苦悩の旅を続けるのか?
天空の血を引いたはずの勇者の行方は?
あなたの冒険が今、始まろうとしている…
(『ドラゴンクエストVの物語』より)
また、PS2版DQ5のパッケージ裏などにも同様のことが書いてある。
DQ4での【導かれし者たち】の活躍について書いたものだと思われるが、「根絶やしにしたはずの勇者の子孫」とは?
「滅ぼした勇者」とかなら5章冒頭の山奥の村襲撃の話で済むのだが、どうもひっかかる表現である。
【主人公(DQ4)】はエスタークを倒す存在であると予言されており、また「人間と天空人のハーフ」とされているものの、「勇者」の血を引くと作中で語られたことはないからだ。
単なるスタッフのミスの可能性もあるが、これがのちに製作されるDQ6への伏線だと解釈することも可能なため、ファンの間で様々な議論を呼ぶこととなった。
時系列がDQ6→DQ4→DQ5であることを基にすると、実は彼は【主人公(DQ6)】の子孫であったと考えればある程度つじつまがあう。
つまり、「根絶やしにしたはずの(DQ6の)勇者(となった主人公)の子孫(であるDQ4の勇者)」というわけだ。
しかし、上述の通り、DQ4における勇者は、あくまでも「天空人と人間のハーフ」であり、「伝説の勇者の子孫」というような表現は、ゲーム中では全く言及されていないため、あくまでも想像の域を超えない。加えて、DQ6は主人公を勇者にしなくてもクリアは可能である。
結局のところ、解釈はプレイヤーに委ねられているといえるだろう。
なお、DS版DQ5公式ガイドブックのプロローグは上記取扱説明書の記載のリメイクのような記述になっており、そこには「知恵ある魔族は帝王の復活を前に、勇者の血を引く者を執念深く捜し出し、その命を絶って脅威の芽を摘んでしまったのだ。」との一文がある。
ここでも、取扱説明書と同じくDQ4の勇者が「勇者の血を引く者」つまり勇者の子孫とも読み取れるようになっている。
発売
ロトシリーズはオリジナル版が1988年にファミコンで、リメイク版が1996年にスーパーファミコン、2000年にゲームボーイカラー(翌年発売のゲームボーイアドバンスでも可)でそれぞれ三作すべてが遊べるようになったのに対し、天空シリーズはDQシリーズ24年目の2010年に至るまで、同一環境で3作品全てが遊べることはなかった。
オリジナル版はDQ4がFC、DQ5とDQ6はSFCという互換性の無い別ハードで発売され、リメイク版はPlayStation2があればDQ4とDQ5の双方をプレイ可能となったもののDQ6は据置機でのリメイクが発売されなかった。
2007年にはニンテンドーDSにて天空シリーズ全3作品が発売されることが発表され、同年にDQ4、2008年にDQ5、そして2010年にDQ6が発売され、ようやく3作が同一ハードに揃った。またこれによってそれまでDQ5とDQ6の無かった海外でも、天空シリーズ3作が揃ったことになる。
これらはグラフィックやシステムがほぼ同じものに統一されているが、DQ6の場合グラフィックはともかくインターフェースまでDQ4・DQ5のものと統一してしまったために呪文と(元々膨大な数だった)特技の欄が統合され、使いたい呪文や特技がSFC版に比べて探しにくくなってしまっている。
その後、2014年~2015年にはDS版が順次スマホ向けに移植された。
なおDSとの互換性があるニンテンドー3DSでは天空シリーズのみならず、2017年からはDQ11までの全ナンバリング作品を遊べるようになっていた(現在はDQ10が遊べない)。
ロトシリーズの頃は「RPGの王者と言えばDQ」であったが、天空シリーズに移行した1990年代はライバルが多様化。
特に同じRPGではビジュアル要素に長けたファイナルファンタジーシリーズ(以下FF)が大成し、DQ不在の1989年度にFF2が『ファミリーコンピュータMagazine』のファミマガゲーム大賞と、『ファミコン通信』のベストヒットゲーム大賞を制覇。
DQ4の頃にはその直後に発売されたFF3がDQと人気を二分するほどになり、1990年度のベストヒットゲーム大賞では僅差でDQ4が制するも、ファミマガゲーム大賞はFF3に大差で敗北。
DQ5・DQ6ではゲームとしてのユーザー評価ではFF5・FF6と長年決着がつかなかったことが大きく、ロトシリーズのような独壇場の人気は得られなかった。
(本頁は天空シリーズが主題なのでこれ以降については触れない。)
シリーズ誕生の経緯
【堀井雄二】はもともとDQ3で『ドラゴンクエスト』というシリーズを終了させるつもりだったようで、
一番困ったのは「III」の次。あれだけのヒットで、やりたいこともやり尽くし、ストーリーも3部作としてまとめてしまったので、4作目の依頼が来たときは困りました。
と語っている(ITmediaニュース 2015年4月10日付記事より)。
また、DQ3が発売される頃のインタビュー記事では次のように語っている(『ファミコン通信』1987年25号より、原文ママ)。
みなさんの希望があまりに多いようなら、つくってみてもいいかなって思っています。
『ドラゴンクエスト』シリーズは、ストーリー的には『III』で美しく完結するわけですが、『ドラゴンクエスト』の世界は、ずっと存在しているかもしれません。
たとえば『IV』は、『I』と『II』の間の話で、竜王を倒した勇者がローラ姫とともにローレシアを建国するためのラブロマンスRPGとか、あるいは、『II』の外伝として、「サマルトリア王女の冒険」(お兄ちゃん、私をつれていってよ、と言ってた、あの妹がくりひろげるコミカルRPG)とか、
さらに、不幸の星の下に生まれ、やることなすことすべて裏切られ、そのためにいつしか世の中をうらむようになった少年のアンチロマンRPG『大神官ハーゴンの悲しみ』とか、はたまた、ドムドーラの武器屋の息子と生まれ、平穏に暮らしていたが、あるとき町が魔物に襲われ、命からがらメルキドに逃げのび再びその地で商売が成功する「武器屋ゆきのふ一代記」とか……。
いろんなストーリーが考えられるでしょう。
しかし、それもこれもすべては『III』が完成してからの話です。
このほかにDQ3の次はDQ1のリメイクを出すという考えもあったのだが、悩みぬいた末、DQ4は「新しい展開の方がいいものができる」と考えた結果、全く別の世界観となり、後にDQ6まで天空シリーズとして続いていくこととなった。(参考: 前掲誌1989年4号)
なお上記の堀井雄二の構想は実現してはいないが、「武器屋ゆきのふ一代記」のアイデアはDQ4の【第三章 武器屋トルネコ】と共通点がある。また「サマルトリア王女の冒険」は【第二章 おてんば姫の冒険】に近いイメージにも思え、「大神官ハーゴンの悲しみ」の構想も【ピサロ】の設定に近いものがある。