かつて阪神タイガースに所属していたマイク・グリーンウェルが、引退理由として発した言葉。
概要
獲得まで
1996年、阪神タイガースは「暗黒時代」と形容される球団の慢性的な弱さから観客動員数が大幅に急落*1。オーナーの久万俊二郎がサントリー社長の佐治敬三へ直々に持ち掛けたとされる身売り話*2も土壇場で破談してしまうなど、崖っぷちに追い込まれていた。在阪メディアもあのイチローが在籍し、「がんばろうKOBE*3」を掲げてパ・リーグ連覇と日本一を達成したオリックス・ブルーウェーブ*4を取り上げる日が多く、阪神は徐々に見放されつつあった。
そこで、オフにはテコ入れのために補強へ動き、西武ライオンズからFA権の行使を表明した清原和博の獲得に邁進。星野仙一の監督就任まで非常にケチだったことで知られる「電鉄本社の重い金庫の扉」を開け「総額30億円超えの10年契約+将来の監督就任、さらには球団社長の椅子も用意するという終身雇用」という超大型契約を提示。当時の吉田義男監督も「ユニフォームの縦縞を横縞にしてでも」と獲得への熱い思いを清原に伝えたが、結果的に巨人への移籍が決定してしまう。
この清原用の余剰資金を流用してオファーを出したのが、過去にシルバースラッガー賞*5を獲得(1988年、外野手部門)するなどの活躍で「ボストン(・レッドソックス)の英雄」とまで呼ばれていたマイク・グリーンウェルだった。清原を失った西武、近鉄バファローズ、阪神による三つ巴の争奪戦が展開され(ただし、近鉄は早々に撤退)、契約寸前まで持ち込んだ西武を条件面で上回った阪神が土壇場で獲得に成功した。
入団後
阪神タイガースへの入団が決定した後、阪神は住居として家賃150万円もする高級マンションを提供した。しかし、グリーンウェル側から「部屋が狭い」と苦情を入れられてしまう。大物に機嫌を損ねられては困る阪神は、既存の部屋を2部屋借りて壁を取っ払う工事を行った結果、家賃300万円+工事費用を負担する羽目になってしまう。さらに、当時は甲子園球場の電光掲示板の出場選手欄が全角6文字しか表示できなかったため、それ以上の字数も表示できるよう改良を施した*6。
しかし、翌1997年の春季キャンプ開始(2月1日)には間に合ったものの、2月11日に「副業(牧場と遊園地経営)の事務処理」「夫人との結婚記念日」を理由にキャンプを離脱。夫人や子供を大切にする傾向が強い外国人選手(これ以外にも出産立ち会いなどで帰国するケースが多い)らしく「キャンプ途中離脱」自体も契約条項のうちだったが、直前に代理人から「キャンプ中に背中を故障したため、主治医から来日を控えるよう言われた」と連絡が入ったため、オープン戦中を見据えていた復帰予定が順延。以後、「主治医にしっかり診察してもらいたい」「徹底してリハビリを行う必要がある」と主張するグリーンウェル側と、「チームドクターが軽症と診断している」「早々に合流して欲しい」と主張する阪神側のせめぎあいもあって来日が遅延することとなった。阪神が提示した「デトロイト・タイガースのチームドクターに診察を受けて欲しい」という要望をグリーンウェル側が了承し、「軽症」の診断が下ったためにようやく来日したが、4月30日まで離脱期間が長引いてしまった。
一軍への再合流後は5月の2試合で活躍を見せた一方、「日本にはゴルフをしに来ただけ」とさえ言われたほど練習態度は不真面目*7、打撃は本塁打・三振・四球よりも併殺が多い低打率ノーパワーあへ単ゲッツーマシン*8、右翼守備はお粗末かつ久慈照嘉から「送球がチェンジアップ」と評される弱肩という状態。このため攻守で阪神ファンを失望させつつあった。
唐突な退団
そんな低迷が続く中、7試合目の出場で右足に自打球を受けて故障してしまう。グリーンウェル自身の意志で翌日も試合には出続けたものの、患部の状態が靴も履けないほど腫れ上がったために戦線を離脱し、病院で検査を受けたところ骨折が判明。この検査結果で即刻引退を決断したグリーンウェルは、再来日からわずか2週間ほどの5月14日に記者会見を開いてその旨を発表した。
この退団会見中に飛び出た「野球をやめろという神のお告げ」の文言があまりにも衝撃的だったことから、阪神ファンをはじめとする野球ファンから猛烈なバッシングを受けたが、この当時の球団渉外担当によると、「"God"や"Revelation"などの直接的な表現は用いておらず、『自分に降り掛かった運命』といった趣旨の発言を意訳したもの」らしく、実際には発言していないことになる。また、「阪神ファンには申し訳ないけれど、最後にいい球団でプレー出来て嬉しい」「野球は金じゃなく名誉のためにやっている」との言葉も残しており、これらは周囲を舐めきった発言ではなく「パフォーマンスを発揮出来なかったことへの悲しみ」と思われる。ちなみに、グリーンウェル本人は後年にもこの件について、「申し訳ないことをしてしまった」と胸懐した。
吉田義男監督は早々の退団に「あっという間の出来事」「嵐のごとくやって来て嵐のごとく去っていった、つむじ風のような男」と評し、ファンからは「ゴールデンウィーク(G.W.)にだけ来て帰っていったグリーンウェル(G.W.)」と揶揄され、その後「1試合2570万円男*9」なる異名も生まれた。
6月までは5割前後を維持しリーグ3位に付けていた阪神は、補強に失敗した影響で打撃が低迷し、7・8月には大きく負け越して失速。3年連続最下位こそ免れたものの、シーズン5位に終わった*10上に、ヤクルトスワローズの優勝を眼の前で見せつけられる始末であった。そのため、グリーンウェルはいまだに「NPB史上最低の助っ人」の一人として絶許扱いを受け続けており、ホセ・カンセコによる禁止薬物使用のカミングアウトを糾弾した*11時も、日本のファンから「グリーンウェルこそ薬物をやってるのでは」と逆に疑われたりした。
ちなみに、これ以後は「ビザ取得などの関係で来日が遅れる」「故障などでキャンプやオープン戦・シーズン開幕に間に合わない」などの条件に当てはまる外国人選手を指し、「グリーンウェルの再来」を懸念されることがある。マウロ・ゴメスやジェフリー・マルテなどがこれに当てはまり、ゴメスはイニシャルも同じ「M.G」だったため特にネタにされることが多かった。
余談
本命の補強選手を逃した焦りで実質解雇状態のグリーンウェルと高額契約を結び、理想通りの運用をまったく出来なかった本件。この年は他にも「(牽制球以外は)二軍選手のほうがまだマシ」とまで言われたボブ・マクドナルドの体たらくもあり、阪神は「外国人を見る目がない」「ケチな上に金の使い方を知らない」などの批判を受けることに。この一件が相当堪えたのか、これ以後「新外国人を性格重視で獲得する」と噂され*12、ケビン・メンチやウィリン・ロサリオ、シェーン・スペンサー、ジャスティン・ボーアなどは、成績が伴わなかったものの性格が良いことで知られ、なんやかんやでファンに愛されていた。
同時期にはロブ・ディアー(1994年)やマイク・ブロワーズ(1999年)など、高年俸を払って獲得した大物メジャーリーガーが期待外れに終わることが続発していたためか、2000年代前半は年俸1億円未満の格安助っ人を獲得する*13パターンか、国内他球団からすでに日本で実績を残している外国人選手を引き抜く*14ケースが中心になった。なお、スペンサー以降は再び新外国人に高額オファーを出す例が増えている。
また、阪神がグリーンウェル獲得で失敗した一方、中日がレオ・ゴメス、西武がドミンゴ・マルティネス、近鉄がフィル・クラークと、グリーンウェル獲得を見送った(もしくは獲得に失敗した)球団が皮肉にも当たり助っ人を引き当てた*15ことで、大枚をはたいて獲得したグリーンウェルの低迷も余計際立つ結果に。ファンからの風当たりの強さも残当であると言えよう。
そんなグリーンウェルは引退後、それまで経営していた遊園地を売却して農場主になった他、レース好きが高じてアメリカのレースに参戦するなどのセカンドライフを送っていたが、2025年8月に甲状腺癌が発覚。治療に励んでいたものの、同年10月9日に62歳で神の元へ召された。
素行面について
上記の阪神・西武・近鉄以外に中日ドラゴンズも獲得を検討していたが、当時の監督だった星野仙一が「背中の故障で調子が悪くなるとすぐ文句を言う」などの性格難や不真面目さを米国の野球関係者から忠告され、獲得を取り止めたという逸話も残っている*16。この他にも、代理人のジョー・スローバーがいわく付きの存在で、阪神の常務取締役であった野崎勝義もグリーンウェルではなくスローバーに警戒心を抱いていたとされ(結局最後まで警戒は解けなかったという)、上述の「マンションが狭い」と文句を付けた件はスローバーの意向が大きかったとも言われている*17。
また、前述のように近鉄が獲得を見送った理由も、同じくスローバーが代理人だったケビン・ミッチェル*18の存在などから、契約下の選手の素行を懸念したため*19。この他にも、ダイエーの瀬戸山隆三球団代表はこの件を指し、「阪神は代理人に騙されている」と評していた。
もっとも、阪神時代の低迷・離脱の原因にもなった数々の故障(背中の故障・肩の手術・死球による親指の負傷・膝の慢性的負傷など)は入団時点で実際に抱えていた他、アメリカでは前述のように"英雄”とリスペクトを受けて2008年にチーム殿堂入りしたり、阪神と結んだ高年俸もそもそも報道されていた額より100万ドルほど低かったり、契約破棄の際に全体の4割が返金されていたり、契約金を「全額返上する」と申し出ていたり*20するなど、"性格難””不真面目”エピソードについては少々盛られている部分がある。
関連項目
- ええの獲ったわ!
- 名誉外様
- 絶対に許さない。顔も見たくない
- 論ずるに値しない
- バースの再来/モチベーションが上がらない
- ケイ・イガワ…MLB移籍の顛末が「グリーンウェルの仕返し」とされることが多い(入団したのはニューヨーク・ヤンキースのため、直接は関係ない)。
- アダム・ダン率
- 肩に小錦…投手版。高年俸で入団、パフォーマンスの低さ、唐突な引退で批判を浴びたなどの共通点がある。現在ではロッテ時代の起用面で同情が増えたことと、重大な故障を抱えながら球団トレーナーが施術ミスをしていたことが発覚したため批判は減った。
- ペニス…早期帰国で共通点があるが、人間性の面で大きく異なる。
- イテームズ…目玉選手が故障で早期帰国した類例。ちなみにかつては阪神も狙っていた。
- 甲子園は幼稚園の砂場…グリーンウェル同様、阪神ファンから激しい憎悪
と強い殺意を抱かれている。