翌日の早朝。
VallaはBerllikの処置室で、シーツを掛けられた遺体と対面していた。
頭部から血が飛び散り、布に染み付いた血は既に乾いている。
「誰?」
「鍛冶屋のDurgenだ。奴さん、ここのドアまで辿り着いた時には、かろうじて喋れる状態だった…
逝っちまう前に、二言三言だけ。最も、それで十分すぎたがな」
「彼は何と?」
「ああ~ん?」
Bellikは猫背でやせている。
そして、大きな耳の割りに耳が遠い。
Vallaの来訪を五月蝿く思っているのがはっきり分かる。
「鍛冶屋が言い遺した言葉よ。彼は何と?」
Vallaは大きな声で尋ねた。
「ああ…」
Bellikはシーツを取り除けようとしたが、乾いた血が固くこびりついていた。
無理やり引き剥がし、遺体が露になる。
顔の半分に、酷い傷がある。
「息子にやられた、だとさ」
Vallaの視線がさ迷い、長いこと押し黙った。
また、あのイラつく感覚が戻ってくる。何か重要なことを忘れているような、あの感覚だ。
雑念を振り払い、目の前の現実に注意を戻した。
自身の息子に殺された男がいるのだ。
突然、外の通りから叫び声が起こった。
殺されかかっているとしか思えない、死の悲鳴が聞こえてきた。
「ここから出ないで!」
そう言って、Vallaはドアの方を向いた。
直ぐに夜明け前の通りに飛び出る。
少年、13歳くらいだろうか、が女店主に馬乗りになっているのが見えた。
手にしているのは鍛冶屋のハンマー、血肉に塗れている。
店主の頭はかち割られ、傍にある駕籠の商品にぶちまけられている。
今になって、Vallaは、Holbrookの店に子供の死体が無かったことに思い当たった。
…そして、直ぐに理解出来た。
それもそのはずだ、何故なら、子供達があの殺戮をやったのだから。
悪魔の操り人形として。
次の瞬間、自分が無防備であることに気付いた。
しまった、丸腰とは。
直ぐに我に帰り、状況を見定める。
即座に行動を起こさなければならない、さもなければ死が待つだけだ。
別の悲鳴が上がったが、Vallaは通りの向こうに見える少女から注意を逸らさなかった。
ピンクの服を着た、金髪のその子は片手に真っ赤なナイフを持っている。
その目は大きく見開き、輝いていた。
ここからだと姿は見えないが、ギシギシと足音が聞こえる。
誰かが外に出たようだが、音の間隔が短く、高い。それは、体重が軽いということを示す。
つまり、別の子供か。
今や、鍛冶屋の息子がVallaに近付いて来た。口を開け、ニコニコしながらだ。
さらに2人の子供が集まってきた。
男の子は鞘に納められた剣を引きずり、女の子の方は大きな石を両手に持っている。
そして、右手に斧を持った子も。
顔は真っ赤に染まり、前歯が2本無い。
大人が5人、通りで固まった。顔を出して、窓から覗いているのも数人いる。
「怪我をしたくなければ、ドアに鍵をかけて篭っていろ」
フードの下から、Vallaは声を絞り出した。
「今すぐに!」
大人達が逃げ出した。