インタークーラー

Last-modified: 2023-04-30 (日) 02:36:51

ターボチャージャースーパーチャージャーなど過給機付き内燃機関において使用される冷却用補機・熱交換器である。エンジンと過給機の間に取り付けられ、過給機の圧縮により温度が上がった空気を冷却する事で燃費効率や出力の向上、ノッキング防止によるエンジンの信頼性を向上させる効果がある。

 

エンジンなどの内燃機関は、同じ圧力では吸気温度が低いほど単位容積当たりの吸気質量(吸い込む空気)が増えるため、吸気温度が低いほどより多くの燃料を燃焼させる事が可能になり出力・効率を向上させる事ができる。しかしターボチャージャーなどの過給機付きエンジンでは過給機によって空気が圧縮されると吸気質量が増える代わりに断熱圧縮*1によって吸気温度も上昇するため、圧縮比を自然吸気エンジンと比べて低くせざるをえず効率が低下してしまう。*2
そのためインタークーラーを設置して吸気温度を下げる事で吸気圧力が低下する(空気の密度は変化しない)ため、その分圧縮比を高く設定できるようになり、出力を向上させやすくなる。またノッキングが発生しにくくなる事で信頼性を向上させる、大排気量の自然吸気エンジンをターボ過給した小排気量エンジンに置き換えることにより燃費効率を向上させる事もできる。*3

 

ただしデメリットも存在し、インタークーラーを設置する事で空気が圧縮されてからエンジンに供給されるまでの吸気系距離が長くなるため、輸送時間が増加しエンジンのレスポンスが低下する問題がある。*4*5
そのためフォルクスワーゲンのTSIなど一部のメーカーでは、吸気通路の短縮による応答性の向上と冷却性能を両立するため冷却に水冷式を用いる場合もある。(後述)

 

吸気を冷却する方式は、外部からの空気・走行風をインタークーラーに当てる事で吸気を冷やす空冷式、冷却水を用いて吸気を冷やす水冷式がある。
それぞれの方式のメリット・デメリットを上げると、以下の通りになる。

 
  • 空冷式
    • メリット
      • 吸気配管の一部を改良するだけで良いためコストが安い。構造が単純なため、故障のリスクも低い。
      • 走行風を利用して冷却するため、高速で走行するほど冷却効果が高くなる。
    • デメリット
      • 走行風を利用する関係上低速走行時では効果が薄く、停止状態では冷却効果がほとんど無い。同様の理由で設置場所も限られる。
      • 冷却性能は走行風が当たる面積つまりインタークーラーの大きさに依存するため、冷却性能を向上させるためには大型化する必要がある。*6
         
  • 水冷式
    • メリット
      • 同じ熱効率で見た場合、インタークーラー本体を空冷より小型に設計しやすい。また小型に設計する事により、エンジンのレスポンス低下を最小限に抑える事ができる。
      • 走行風を利用しないため、低速走行時や停止状態でも高い冷却効果が得られる。
    • デメリット
      • 空冷式より部品点数が多くなるためコストが高くなる。
      • 冷却水や水径路をエンジン本体の冷却系統と共有する場合、吸気温度の下限がラジエーターの水温に依存してしまい高い冷却効果が得られない。*7
      • インタークーラー専用の冷却系統を別に設けた場合、複雑・大規模・高コストになってしまう。またそれによる故障のリスクが高くなる。*8
 

現在ではコスト面などの関係からインタークーラーは空冷式が主流となっているが、CELICA XX 2800GT (MA61)やソアラのM-TEUエンジン搭載車、セリカGT-FOUR(ST185RC、ST205)ホンダ・レジェンド、スバル・レガシィの初代モデルなど、過去の市販車では水冷式を採用した例がある。当初は低速走行・停止時の冷却性能のメリットなどから水冷式の普及も期待されていたが、前述のコスト・冷却システムの複雑化が仇となり期待されているほど小型化できないなどの理由から主流となるには至らなかった。*9

 

インタークーラーの熱交換効率を向上させるためウィンドウォッシャー液等をインタークーラーに直接噴射することでその気化熱を利用する機構を搭載する車両もある。この機構はWRCを始めとするラリーカーへの採用が多く、三菱ランサーエボリューションやスバルインプレッサでは市販モデルからこの機構を搭載している。熱交換効率が落ちる気温が高い時は特に効果が大きい。

 

また、インタークーラーの設置する方法にも以下のような様々な置き方がある。

 
  • 前置き:ラジエーターの前に平行になるように設置する。
     
  • 中置き:ラジエーターの後方に平行になるように設置する。水温対策やクラッシュによるエンジンブローなどを防ぐ目的で採られる。
     
  • 水平:エンジンルーム上部に水平になるように設置する。ボンネットには、インタークーラーにエアを導くためのダクトが存在するのが一般的。*10
     
  • Vマウント:ラジエーターとインタークーラーがVの字になるように設置する。
 

湾岸マキシでは、チューニングにおいて基本チューニングのパワーチューンSTEP5、実戦チューニングのSTEP27においてインタークーラーを装着・交換する描写がある。

 

ちなみにインタークーラーの本来の意味は、多段過給において過給機と過給機との間に置かれ、1段目の過給機で圧縮された空気を冷却する中間冷却機のことを指す。エンジンの手前の冷却器の場合、本来の名称はアフタークーラーであるが、現在はインタークーラーが後述のものを指す言葉として用いられることが多い。


*1 大気圏突入してきた隕石や宇宙船がが真っ赤になるほど熱くなったり、手入れタイプの自転車の空気入れがアチアチになるのと同じ原理
*2 加給によって温度が上昇しているにも関わらず圧縮比を高く設定すると、燃料を燃焼する直前の圧縮段階で混合気(燃料と空気の混合物)の温度がさらに上昇し、温度が上がりすぎる事で本来の燃焼タイミングより早く燃焼してしまうプレイグニッション(ノッキング)が起きやすくなり、最悪エンジンが破損する恐れがある。
*3 他にも圧力低下をなるべく抑えたり、インタークーラーを前提に過給機を設計することにより、さらに空気の密度を上げる=出力を向上させる事もできる。
*4 特に冷却性能向上を狙って大型化した場合は顕著。
*5 構造上レスポンスが良いとされるスーパーチャージャーを使用する場合もレスポンス低下が起こりうる。ターボチャージャーを使用するエンジンの場合は構造上ラグ(ターボラグ)が存在するため元からレスポンスは自然吸気エンジンよりも悪い。
*6 しかし大型化した場合、前述のエンジンレスポンスの低下・設置場所が限られるなどの問題が発生する。
*7 例えばラジエーター水温がサーモスタットで81度に保たれた場合、インタークーラーを通過する空気は81度以下には冷却されない。
*8 インタークーラー用にエンジン冷却系統から独立したサブラジエーターを設けた場合、エンジン冷却系統のウォーターポンプが使用できないため、ベルト駆動あるいは電動式のウォーターポンプが別途必要となる。当然ながら停車中や低速走行時の冷却も考慮し、インタークーラー用のサブラジエーターには(エンジン冷却系統とは別の)クーリングファンを設けなければならない。
*9 しかし前述のフォルクスワーゲンなどの一部のメーカーは一部で水冷式を採用している。国産車でもトヨタ・カローラスポーツやC-HRなどに搭載される8NR-FTSエンジンや4代目デミオやCX-3などに搭載されるSKYACTIV-Dエンジンの1.5L仕様は水冷式を採用している。
*10 スバル・インプレッサWRX STI等。ちなみに三菱・ランサーエボリューションのダクトはエンジンルーム内の廃熱用。