丸裸エリー
(インフルエンサーと話す)
のんびりしているおじさん:毎日そりゃあ、いい気分だよ。
食べて寝て、友達と話をして、気楽で楽しいよぉ。
インフルエンサー:…お子様が側にいなくて、寂しくありませんか?
のんびりしているおじさん:うちの子は有能でね。
今は独り立ちしてるし、親としても安心だよ。
インフルエンサー:そうですか…本日はインタビューに応じていただき、
ありがとうございました。
記者は誰か近づいてきていることに気付いたのか、
残念そうに取材を終えた。
インフルエンサー:あなた、臨時のカメラマンよね?急いで!
あの人が寂しそうに去っていく後ろ姿をカメラに収めるの!
インタビューを受けていた男性は
ご機嫌な様子で角の向こうへと消えていった。
一方、インフルエンサーはボイスレコーダーを握りしめ、
悔しそうに足を踏み鳴らしている。
インフルエンサー:ちょっと、指示はすぐに実行して!ぐずぐずしない!
インフルエンサー:あ、いけない…一般人に向かって、私は何を…
コホン。あなたが依頼を受けてくれたカメラマンね?
インフルエンサー:ええ、そうよ。はじめまして。
『丸裸エリー』っていうチャンネルを運営してるの。
名刺にあるQRコードを読み取れば、チャンネル登録ができるわ。
インフルエンサー:それじゃ早速、今日の依頼内容を簡単に説明するわね。
実はいつも一緒に仕事しているカメラマンが病気で
衛非地区に来られなくなったの。
インフルエンサー:それでこの土地に詳しく、カメラ撮影の経験もある人に
番組製作のお手伝いを依頼したっていうわけ。
インフルエンサー:あなたにやってもらいたいことは2つだけよ。
1つはインタビューの対象を見つけること、
もう1つは私の指示通りに撮影すること。
どう?簡単でしょ?できる?
インフルエンサー:よかった。じゃあ出発しましょ。
インフルエンサー:最初のターゲットは衛非地区の不動産の大家よ。
ネットの情報によると、ポーセルメックスには今、
住宅の一部を社員寮に改造する計画があって
複数の大家と提携してるらしいの。
インフルエンサー:でも、この種の計画にはトラブルがつきものでしょ。
改造費用、契約更新の時期や契約終了後の改造した部屋の又貸しとか…
いろんなことが問題になってくる。
インフルエンサー:トラブルはネタになるわ。
だから大家さんの意見を聞いてみたいの。
あなた、誰か知ってる?
インフルエンサー:いいわね、行きましょう!
(インフルエンサーと話す)
インフルエンサー:あの人…ただ者じゃないはずよ、存在感がハンパないし…
インフルエンサー:うーん…余裕のある表情…
ちょっと若いけど、間違いなく大家ね。
インフルエンサー:ちょっと待ちなさい。
急に出て行って、警戒されたらマズいわ。
インフルエンサー:相手がどんな態度なのか、こっちの要望通り撮影に応じてくれるのか、
そういうことをインタビュー前に知るのは難しいの。
インフルエンサー:でも個人メディアを運営していくには、
後の編集に耐えうるだけの、十分な量の画像や動画の素材を
確保しておく必要があるわ。
インフルエンサー:あの人の周りの様子に気付いた?
後ろでスーツ姿の会社員が何人か立ち話してるでしょ?
インフルエンサー:ちょっと写真を撮ってきてちょうだい。
会社員が話に興じて騒がしくしてるのを
背を向けてじっと我慢している、
怒りたくても怒れない様子を撮ってくるのよ!
インフルエンサー:あなたは気にしなくていいわ。
違法な素材を使えば、アカウントは収益停止になるのよ。
誰よりも素材の合法性を気にしてるのはこの私。
あなたは撮影に集中していればいいの。
インフルエンサー:うん、わかった。構図には物語性が必要で、
矛盾や緊張感、話題性を表現しなきゃならない…
ああ、それからリアリティも。
十分な素材を撮り終えたところで、依頼人に合図を送る。
依頼人はうなずいて、インタビュー対象に歩み寄っていく。
インフルエンサー:『丸裸エリー』今日も盛りだくさんの話題をお届けします。
あの、そこの方。少しお時間よろしいでしょうか?
大家さん:おお!テレビの取材ですか?これ、映ってるんですか?
インフルエンサー:申し訳ありません、テレビではなく個人メディアチャンネルなんです。
でも私たちのような個人メディアの方が
エリー都の若者たちに広く知ってもらえるかもしれませんよ。
大家さん:おお?つまり、有名になれるってことですね?
インフルエンサー:ええ。余裕のある歩き方から察するに、衛非地区の方ですよね?
ポーセルメックスの社員寮改造計画について、ご存知ですか?
大家さん:もちろん知ってますよ!
何を隠そう、私は大家ですから、何でも聞いてください。
依頼人は目を輝かせた。
もともと真っ直ぐだった背筋をさらに伸ばし、
矢継ぎ早にあれこれと質問を投げかける。
だがその勢いも次第に弱まっていき、
細々とした声になったかと思うと、最後は沈黙してしまった。
インフルエンサー:えーと…では、次の質問です。
改造した物件の賃貸契約終了後に発生する問題については、
どのようにお考えですか?
大家さんご自身に何か影響は?
大家さん:それは問題の本質でもなければ、本質的な問題でもないと思いますね。
大家さん:ポーセルメックスは社会的責任を積極的に果たし、
従業員の住居問題解決にも力を入れる会社です。
ここで大切なのは、その恩恵を受ける衛非地区の市民として、
私たちに何ができるかということです。
インフルエンサー:ええっと…そのお話はもう何度もお聞きしました…
大家さん:ポーセルメックスがこの地で事業を興し、
先端技術や外の労働力を持ち込んでくれなければ、
私たちには部屋を貸す相手もいませんでしたよ。
大家さん:感謝の心を持たなければ、正しい道は進めず、
何も成し遂げられない――
それこそ私が皆さんにお伝えしたいことです。
大家さん:そうそう、私は伝統文化にも詳しいんですが、
聞きたくありませんか…
インフルエンサー:いえいえ、お話はもう十分聞かせていただきました。
あなたほど才能豊かで表現力も優れていないかもしれませんが、
ほかの出演者にも番組の尺を残さなければいけないので…
その後もしばらくやり取りを続けた後、
大家はようやく満足げに立ち去り、
一方の依頼人はまるで格闘技の試合でもしたかのように、
汗だくになっていた。
インフルエンサー:相手の言葉から感じるこの圧のせいで、
自分のIQがマイナスに思えてきたわね…
インフルエンサー:これ…どう編集すればいいの…ううっ。
いい写真を撮っておいてくれて助かったわ。上出来よ。
インフルエンサー:でも、このままじゃマズイわ…
今の素材じゃ30秒の動画すら作れない…
どうしましょ…何とかしなきゃ…
インフルエンサー:何か秘密めいた刺激的な話題は…
インフルエンサー:あっ、鉱員の待遇問題について!
これなら掘れば掘るほど話が出てくるわ!
インフルエンサー:そうと決まれば、
今からインタビューの計画を立てておかないと。
インフルエンサー:なるほど…一理あるわね。
インフルエンサー:それじゃあ、今すぐ出発しよう。
取材の進み具合をしっかり見て、
重要なシーンは逃さず撮影してね!頼んだわよ!
(インフルエンサーと話す)
インフルエンサー:前にいるあの方々、何かとウマが合いそうな気がするわね。
インフルエンサー:ええっと…装備に、器材…よし。
インフルエンサー:急ぐことないわ。流れはさっきと同じよ。
先に写真を撮ってちょうだい。
インフルエンサー:さてと、どんな構図がいいかしら…
どうしたら各要素をうまく取り込めるかしらね…
インフルエンサー:うーん…鉱夫たちは休憩中、笑い話で盛り上がってるみたいね。
大きな笑い声が絶えず上がってる。
インフルエンサー:こうしましょ。
あなた、あの人たちが笑い疲れて静かになった瞬間を狙って、
写真を撮ってきて。
インフルエンサー:いかにも「鬱屈した感情を抱えてる」っていう感じで…
フィルターかけるのを忘れちゃダメよ!
インフルエンサー:待って、まだよ。まだまだ…今よ、行って!
(写真を撮る)
写真を撮り終え、合図を送ると、依頼人がうなずいた。
そしてパンパンと頬を叩いて気合を入れると、
インタビュー対象へと歩み寄っていった。
インフルエンサー:『丸裸エリー』今日も盛りだくさんの話題をお届けします。
皆さん、こんにちは。少しお時間をいただけますか?
インフルエンサー:単刀直入にお聞きします。
ポーセルメックスの福利厚生や待遇について、どう思いますか?
これぞ奥の手とでも言うように、様々な回答が飛び交う戦場へと、
依頼人は自信満々で切り込んでいった。
そして、その後…言葉の勢いは次第に弱まり、
細々とした声になったかと思うと、最後は沈黙憑した。
インフルエンサー:で、では…次の質問ですが、
昨今のミアズマ活性化による作業リスクの上昇について、
皆さんはどのようにお考えですか?
鉱夫:リスクのない仕事なんてありやしないさ。
お嬢さんだってこうしてホロウに入るっつうリスクを冒してるだろ?
インフルエンサー:し、しかし、そういうリスクとはまた違う話ですよね?
鉱夫:一方的な見方はよした方がいい。
採掘だって新型の爆薬を使えば、リスクは上がるが、効率が上がるんだ。
そうすりゃ俺たちの収入も自然と上がる。
インフルエンサー:しかし私が知るところでは、作業効率が上がった後、
ポーセルメックスは輝磁の供給過剰を理由に
買取単価を下げましたよね…ってあれ?
インフルエンサー:私たち、ミアズマ活性化の話をしてましたよね?
鉱夫:あ?ミアズマ?…ああ、ミアズマな!
ミアズマ…ミアズマっつうのは…不吉なモンだよ!
鉱夫:俺たちはその…そうだな…要はだな…
親方らしき人物:お嬢さん、もうそれくらいにしてやってくれ。
こいつは普段から大げさなところがあるんだが、
こないだミアズマに触れちまってから、精神状態が不安定なんだ。
あまり刺激しないでやってくれ。
インフルエンサー:しかし先ほどミアズマについては、聞いたことがあるだけで、
仕事中、実際に遭遇したことはないとおっしゃいましたよね?
親方らしき人物:…それは…こいつは仕事帰りに出くわしちまったんだ。
仕事中とは言えないだろ。
親方らしき人物:さあ、ここまでだ。鉱夫の収入はただでさえ少ないんだ。
無駄話する暇があったら、精出して働かなきゃならないんだよ。
休憩時間も終わったし、お嬢さんも十分取材はできたろう?
インフルエンサー:いえ、まだお聞きしたいことが…
親方らしき人物:悪いが俺たちはもう何も答えたくない。
な、そうだろ?お前たち。
そういうわけで、仕事に戻らせてもらうよ。
インフルエンサー:そうですが…では安全には気をつけて…
インタビューに応じてくださり、ありがとうございました。
(インフルエンサーと話す)
インフルエンサー:はぁ…収穫ゼロ…用意してきた質問も全部はぐらかされたわ…
まるで奇襲を仕掛けたのに、相手が完全武装で待ち受けてて、
逆にこっちがコテンパンにされたみたい。
インフルエンサー:でも…カメラマンさん。
あなたみたいな一般人でも、今のはおかしいって思ったわよね?
インフルエンサー:ええ。きっと誰かに前もって教え込まれてるのね…
インフルエンサー:ポーセルメックスもTOPSも、憎たらしいったらありゃしない!
インフルエンサー:ううっ…こんなんじゃ番組にならないわよ。
この話題、奥の手だったのに!
インフルエンサー:「不意を突く」?なるほど…いい案ね。
インフルエンサー:でも録音だけじゃ証拠として不十分だわ。
写真がないと…あなたの写真がね。
インフルエンサー:ちゃんと証拠写真が撮れたら、報酬を増額するわよ!
親方らしき人物:おい、さっきのアレは何だ?
覚えたことを言えばいいものを、
しどろもどろだったじゃないか!
鉱夫:す、すみません…でも、もらった資料には
ミアズマについて聞かれた時の回答なんて
書いてなかったじゃないですか。
親方らしき人物:応用を効かせればいいことだろう?
鉱夫:ううっ…俺が悪いんです。
俺は普段から大げさだし、精神状態も安定してないんで…
親方らしき人物:口答えする気か?
インフルエンサー:まずは落ち着いて。勝手に動かないで。
勝利は目前なのよ、こういう時こそ冷静にならなきゃ。
インフルエンサー:あなたなら大丈夫。
写真をたった1枚撮るだけじゃない。
焦点を合わせて…シャッターを切って。
(写真を撮る)
インフルエンサー:撮れた!撮れたわ!アハハ…やったわ…
ついにヤツらの尻尾を掴んだわ…
インフルエンサー:ありがとう!この写真、完璧よ。
これでヤツらに大打撃を与えられるはず。
世論の力を思い知らせてやるわ!
インフルエンサー:それもこれもあなたのおかげよ…って、あら?
どうしたのよ?嬉しくなさそうね。
インフルエンサー:浮かない顔してるけど…これ、大スクープなのよ?
インフルエンサー:信じない理由なんてないじゃない。全部事実なのよ?
インフルエンサー:録音も、写真も、それからインタビューも…
今まで私が出してきた「作られた事実」とはまったく違うわ…
インフルエンサー:まったく別物なのよ…って、ちょっと…
どうしてそんな目で見るのよ…
インフルエンサー:言いたいことは分かってるわ。
たとえ今回のネタが事実だったとしても、
今までやってきたことのせいで、
今さら信用してくれる人なんていない――そう言いたいんでしょ?
インフルエンサー:でも…どうしてあいつらは汚い手を使ってよくて、
私たちはダメなのよ?
インフルエンサー:どうして悪を働くヤツらが堂々と広い道を歩いて、
民衆を守る私たちが狭い道を押し合いながら歩かなきゃいけないの?
インフルエンサー:ふん…ムカつくわ…
ムカつくほど、正しいこと言ってくれるじゃない…
インフルエンサー:体裁のいい弁解なら、いくらでもできるのよ。
でも規律があるから、黙ることにするわ。
インフルエンサー:あなたはきっと私を怒りに囚われた、
スクープのためなら手段を選ばない人間だって思ってるんでしょ?
言っておくけど、違うわよ。
私にはもっと重要な使命があるの…ただ言えないだけ。
インフルエンサー:私たちは新エリー都の民衆に幸福をもたらすため、活動しているの。
その目的を果たすため、時には行き過ぎたことも…って、え?
どうして分かったの?
インフルエンサー:そんなに分かりやすかった?
戦友たちの間では動作も変装も完璧だって評判だったのに!?
インフルエンサー:今の話、絶対に他言しないでよ。
このことが他人に知れたら、私…大変なことになるわ。
インフルエンサー:でも、今なら私の行動が理解できるでしょ?
防衛軍とTOPSの対立は旧都陥落時から今日までずっと続いてる。
インフルエンサー:輝磁は重要な軍事物資よ。
それなのにポーセルメックスは衛非地区の輝磁を独占し、
何かにつけ防衛軍の調達の邪魔をしてくる…
インフルエンサー:あいつらに私たち防衛軍の力を思い知らせてやらなければ、
装備不足なんていうくだらない理由で無駄死にする軍人が
どれだけ増えると思ってるの?
インフルエンサー:その通りね。冷静になって考えれば分かることだわ。
このまま証拠を公開したところで、
ポーセルメックスの広報部なら、たいして頭を使うこともなく…
インフルエンサー:過去の動画で撮影した人たちを集めてきて証言を取るだけで、
私を何年も刑務所に閉じ込めておけるわ。
インフルエンサー:あなたの言う通りよ。ありがとう。
仮にこの証拠を集めることができたとしても、
私1人だったら世界を良くすることなんて、できなかったでしょうね。
インフルエンサー:番組のスタイルをもう一度よく考え直してみるわ。
やっと掴んだ証拠だもの。
いつの日か必ず正しい形で世に出さないとね。
インフルエンサー:それまでは、楽しい話題でも取り上げることにするわ
インフルエンサー:いいわね。じゃあ今日の撮影はここまで。解散!