日本で開催されているドリフト競技。
通常のモータースポーツのようにスピードを競うのではなく、いかにかっこよく、美しいドリフトを行えるかで点数が付けられる。
2000年に行われた「全日本プロドリフト選手権」から派生し、2001年からシーズンが開幕。全6戦から10戦でシーズンが組まれている。
運営はD1コーポレーションによって行われ、2014年からJAF公認競技として開催されている。
他にも下位カテゴリーとして、D1lightsやD1ディビジョナルシリーズが存在し、ドライバーはまずそこからステップアップして参戦することになる。
概要
D1グランプリの起源は、1995年に土屋圭市・稲田大二郎により開催された「ドリフト統一チャンピオン決定戦」である。
当時の主要なドリコンであった「STCC」「ドリコンGP」「いかす走り屋チーム天国(いか天)」の優秀選手が参加し、統一された審査基準の下でドリフトの腕前を競った。
これをきっかけとして、それまで存在しなかった「統一したルールによる、トップ選手によって競われるドリフト大会」という概念が生まれ、その後同様のコンテストが数度単発で開催された。
2000年、「全日本プロドリフト選手権」として初のプロドリフトイベントがエビスサーキットで開催され、優勝には50万円の賞金がかけられて行われた。
それまでにも全国の強豪ドライバーを集めて優勝を競う単発のイベントは行われていたが、賞金をかけて行われたのはこの大会が初めてのことであった。
開催にあたっては「ドリフトがどれだけ上手くてもその先はない。だったらドリフトで飯を食えるように、プロ化にしよう」という意図があり、土屋曰く「最初のうちはOPTIONやV-OPTでの仕事の斡旋も考えていたが、お金を払って見る価値が出来た」とのことである。
2001年、「D1グランプリ」の名称でこの年からシリーズが開催された。第1-3戦は観客を入れずビデオオプションの収録として行われていたが、第4戦エビスから観客を動員して開催されるようになった。
D1GPは各サーキットに審査区間を設け、その区間でのドリフトが採点対象となる。
まず予選として、各車1台ずつドリフトする単走が行われ、単走上位16名がトーナメント制の追走を行う。
単走では速度、角度、ラインの正確さが求められ、それらを機械式採点システムのDOSSによって点数化して順位を決める。*1
追走では2台が先行と後追いとなって同時に走行し、前後を入れ換えて2本走行する。
採点方式は基本的に単走と同じで、先行と後追いどちらにもDOSSを装着し、先行は単走と同等の走りを、後追いはミスせずに尚且つ先行に接近して離されないような走りを要求される。
後追いには、先行への接近量に基づいて審査員から後追いポイントが付与され、審査区間のスタートからフィニッシュまで接近し続けた場合はフルマークとして大きなアドバンテージを得ることが出来る。
ただ得点自体は「DOSSの得点+接近ボーナス」なので、追いつきたいがあまり角度や飛距離、ラインを犠牲にしてしまうと接近ボーナス以上に減点されてしまう。
後追い側はどこまでDOSSの得点を重視するかで一種の読み合いが発生する。
競技全体としてドリフトの完成度を競うため、ラインから外れる・角度が小さい・スピードが遅いなどの要因で点数が減少する。コースアウトやクラッシュ、マシントラブルなどは最悪0点となる。
追走においても、後追いが接近しすぎて先行に接触又は押し出してクラッシュさせた場合は後追いの点数が減点され、後追いポイントも付与されない。
現在はDOSSに感知されてしまうためあまりやる人は居ないが、目視審査時代には「先行時にあえてスピードを調整して相手の戻りやアンダーを誘発させる」というトラップを仕込む選手もいた。
昔ハチロクが優位だったのも「元々の速度が違うので勝手にトラップになってくれる」という事情もあった。
通常のレースとは異なり、D1ではそこまで大規模なサーキットが必要なわけではないため、シーズン戦は主にエビスサーキットや筑波サーキットといった中小規模のサーキット、または特設コースで行われる。
現在組まれるシーズン戦の中で最も大規模なサーキットは、2004年から組まれるようになった九州大分県のオートポリスである。*2
- シーズン戦が開催された主なコース
日光サーキット(栃木県)
備北ハイランドサーキット(岡山県)
セキアサーキット(熊本県)
エビスサーキット南コース・西コース(福島県)
筑波サーキット(茨城県)
スポーツランドSUGO(宮城県)
お台場特設コース(東京都)
富士スピードウェイ(静岡県)
オートポリス(大分県)
アーウィンデールスピードウェイ(アメリカ カルフォルニア州)
シルバーストン・サーキット(イギリス シルバーストーン)
鈴鹿サーキット(三重県)
岡山国際サーキット(岡山県)
他にも多くのサーキットや特設コースでシーズン戦が開催されたため開催のハードルは低いと思われるが、上記のいくつかの国際コースは路面に残るラバーの剥離のコストや、コースアウトが頻発するために清掃やアスファルトとグラベルの継ぎ目が傷みやすいという理由もあり、開催を敬遠している傾向にある*3*4。
車両
SUPER GTなどと違い純粋な速さや燃費を競うわけではないためベース車両に使われる車種も新旧86やGRスープラからシルビアや180SXと幅広く、とりわけS15シルビアと180SXの使用率が高い傾向にある。
- 湾岸マキシにて登場する出場実績がある車両
- Silvia spec.R (S15)
- SILVIA K's AERO(S14)
- SILVIA K's (PS13)
- 180SX TYPE III (RPS13)
- LAUREL 25 CLUB-S(GC35)
- SKYLINE GT-R (BNR32)
- GT-R (R35)
- Fairlady Z 300ZX TWIN TURBO (Z32)
- FAIRLADY Z Version S (Z33)
- M3 COUPE (E92)
- CORVETTE ZR1 (C6)*5
- SAVANNA RX-7 GT-X (FC3S)
- RX-7 Type R (FD3S)
- RX-8 Type S (SE3P)
- S2000 Type S (AP2)
- Impreza WRX STi Version VI (GC8)
- Impreza WRX STi (GDB-C)
- IMPREZA WRX STI (GDB-F)
- LANCER Evolution IX MR GSR (CT9A)
- LANCER EVOLUTION X GSR (CZ4A)
- SPRINTER TRUENO GT-APEX(AE86)
- 86 (ZN6)
- ARISTO V300 VERTEX EDITION (JZS161)
- CHASER Tourer V (JZX100)
- MARK II TOURER V (JZX100)
- SOARER 2.5GT-TWINTURBO(JZZ30)
- Supra RZ (JZA80)
- GR Supra RZ(DB42)
ご覧のように、定番のFRスポーツカーから高級4ドアセダン、4駆ラリーカーや果てにはスーパーカーまでもがD1GPに出場し、車体を横に向けてドリフトしている。
他の競技と違ってベース車両は基本的にドライバーの趣味で選定されるため、多種多様な車種が闊歩する状態になった*6。
特にハチロクの愛称で知られるAE86は、開幕初期の2000年代前半に上記の名だたる車両達を追走で圧倒し、シリーズチャンピオンまで手に入れた車両が存在した*7。
上記にはいくつかの4WDスポーツカーが存在しているが、D1のレギュレーションでは当初から4WD車の出場を認めていない。というのも4WDドリフトの場合「カウンターが当たらない」という根本問題がありFRと走行ラインから何から何まですべて違うので「追走ができない」という理由もある。
これらの車両は全てフロントシャフトが取り外され、純粋なFRとして車検を通過していた。エンジンを縦に配置するスカイラインGT-Rやインプレッサは比較的少ない改造で済んでいたが、横置きエンジンを採用するランサーエボリューション系統はそうは行かず、結果補機などを全て移動させエンジンを強引に縦置きに変更*8し、シーケンシャルミッション導入のためにアルミ板でフロアトンネルを成形*9してドリフト角度増大のために足回りをシルビア用のものに完全移植という魔改造が施されていた*10。
問題点
- 先述の審査システムDOSSは、稼働時の電力を競技車両側の電力に依存しているため、問題なく車両が走行した場合でもDOSSへの電力供給が停止した場合、単走追走関わらずどんなに素晴らしい走りでもDOSSエラーとして扱われ0点扱いとなってしまう。
2023年からはエラーが出ても再出走させず、映像などを用いた人間審査を行うため、問題はある程度緩和されたが、単走では公平性が損なわれる恐れがある。
- 近年、様々な要因*11からシルビア(S15)がベース車両として用いられることが多く、2022年シーズンは全34台のエントリーのうちなんと13台がS15で、その内11台が純正エンジンから他の大パワーエンジンに換装されている。
最も多いのは2JZ-GTE*12で、基本的にその全てが排気量アップのためのボアアップカスタムを受けている。
D1GPでは若干フロントヘビー気味のベース車両に2JZエンジン+シーケンシャルミッションを搭載して900馬力前後*13というパッケージが定番化*14し、車両純正のエンジンで競技を行うチームの方が少ない。
このため、良くも悪くも車両のスペックがほぼ均一化し、その中でも技量を持った選手が勝ち続けるという状況になっている。
2000年代こそ多種多様なマシンが参戦し、その光景に魅せられたファンも少なくないため、現在のD1レギュレーションに対しての不満が散見される。- ただ、若干前重心でないとD1で要求されるような「45度を超えるドリフトアングル」の実現が非常に難しいという理由も存在するので難しい所である。
大昔にFDがチャンピオンとなっているが、その時代は審査委員長土屋の趣味もあり「アングルの深さより速いドリフト」の方が得点が高かったという理由もあったりする。
そのため重心軸が中心に近いFDの方がトラクションをきれいにかけられるので、追走時の引き出しが狭いという弱点こそあれ速度的には圧倒的に有利という部分もあった。
- ただ、若干前重心でないとD1で要求されるような「45度を超えるドリフトアングル」の実現が非常に難しいという理由も存在するので難しい所である。
その他
- 2022年6月公開の映画「アライブフーン」はドリフト競技を題材に描かれており、野村周平演じる主人公*15がeスポーツ*16から実車ドリフトの世界へと足を踏み入れる…といった内容になっている。
この作品は土屋圭市が監修、さらに本人役としても出演しており、他にも実際のドリフト競技シーンで活躍している齋藤太吾・川畑真人・織戸学らが出演している。
- 以前行われたD1GPエキシビションに触発され、アメリカ国内では「Formula Drift(FD)」として類似の大会が開催されている。
日本にも「Formula Drift Japan(FDJ)」として逆輸入されている。
審査の基準や車体の基準が若干違うので、D1GPとFDJのどちらかに絞っているドライバーも多い。