とあるファンアートにほだされて書いたやつ。
寂れた町のバーの片隅、サム・ウィンチェスターの周囲だけは、まるでスポットライトが当たっているかのように活気に満ちていた。
天性の社交性と、誰からも愛される末っ子気質の賜物だろう。サムがにこりと微笑めば、頑固な老人から警戒心の強い若者まで、面白いように口を開く。彼は単に情報を引き出すだけでなく、相手の話に真摯に耳を傾け、礼儀正しく接し続ける。その誠実な佇まいに、店内の対外的な評価はうなぎのぼりだった。
「ねえ長身のイケメンさん、何か知りたいことでもあるの?」
「この街じゃ見ない顔だね、一杯おごらせてよ」
次々と声をかけてくる客たちに対し、サムは心底楽しそうに応対を続けている。一方、カウンターの端で苦いビールを煽るディーンは、そのコワモテな外見のせいもあって、話しかける者は稀だった。
ふとした合間に、サムが口角を緩めながらようやく自分のビールを口にする。その横顔を見て、ディーンは直感した。
(……こいつ、相当キてやがるな)
久しぶりの「他人との他愛ない会話」に心が潤っているのは確かだろう。だが、傍目には人懐っこいゴールデンレトリバーにしか見えないその笑顔の裏で、サムが無意識に神経を削り、無理をして「善き協力者」を演じ続けていることを、ディーンは見抜いていた。
また別の客が、お調子者そうな足取りでサムに近づこうとしたその時。
ディーンはサッと腰を上げた。
彼は店主から無造作にスケッチブックを借りると、太いマジックで一筆書き殴った。
『Don't wake me up(起こさないでくれ)』
「え、兄貴……?」
ぽかんとするサムの横にどっかりと腰を下ろし、ディーンはその大きな頭を軽く叩いて、自分の肩へと強引に引き寄せた。
「……あ」
何かに気づいたように、サムがふっと力を抜いて俯く。
「ありがと、ディーン」
「気にするな。……寝とけ」
ぽんぽん、と大きな掌がサムの背中を叩く。
知らぬ間に溜まり続ける精神的な澱を見抜くのは、いつだって本人より兄の方が先だった。弟の重みを感じながら、ディーンもまた、背後の喧騒をシャットアウトするように目を閉じた。
その後、バーの片隅で寄り添って眠りこける二人を見つけた「地獄の王」が、ニヤニヤしながらスケッチブックの余白に一筆書き足した。
『Moose and squirrels are hibernating.(ヘラジカとリス、冬眠中)』
さらにその数分後、どこからともなく現れた「天使」が、寒くないようにと二人の肩にそっと自分のトレンチコートを掛け、満足げに消えていったのは、また別の日の笑い話である。