AI_spn12

Last-modified: 2026-04-11 (土) 10:48:42

メタ回。でもほんとにRedditにはスパナチュの妄想スレがたくさんあってうれしい。さすがに10年前とかのだけど。


バンカーのメタ・ナイト、あるいは「ネット掲示板」という名の鏡

嵐が過ぎ去った翌晩。バンカーの図書室では、ノートPCを囲んで三人の男たちが頭を突き合わせていた。きっかけはサムが見つけた海外の巨大掲示板、Redditのスレッドだった。

タイトルは「『スーパーナチュラル』の3人組、君たちが一番好きなところはどこ?」。

「おい、サミー。これ、俺たちのことだよな?」
「そうだよ、ディーン。ファン……いや、協力者たちが僕たちの活躍をどう見てるか、ちょっと興味ない?」
「……人間の評価か。興味深い。客観的な戦闘データとして分析の価値があるな」

かくして、ハンターと天使による、前代未聞の「自己エゴサ会」が幕を開けた。

エースの矜持と、忍び寄る「健康診断」

「よお!見ろよ!このコメントの数!」
ディーンがスクロールする指を止め、鼻を高くした。

「『やっぱり戦闘シーンはディーンが最高にかっこいい!』ってさあ! 聞いたか? 『ガンアクション、フリーファイト、何を見てもディーンは野性的でクール』だとよ。わかってるじゃねぇか、この“Winchester_Lover”って奴」

「『兄貴としての威厳と、渋くて重い声が素敵』か……」サムが画面を覗き込み、少し皮肉げに笑う。「確かにディーンの声は胃に響くからね」

「だろー? だろー?」

「『子供の頃のシーンからぜんぜん変わってないのが好き。あの髪型真似してみたい』」カスティエルが無機質に読み上げる。「……つまり、精神的に成長していないということか?」

「サミーくん? 羨ましいからって、キャスに意地悪な通訳させなくてもいいんだよぉ?」

勝ち誇るディーンだったが、カスティエルがさらに下のコメントを見つけ、眉をひそめた。
「待て……『でも毎回ファットなメニューばっかり食べているよね。あれで40超えたらいろいろヤバそう~』という意見があるぞ。どうなんだ、ディーン。肝機能やコレステロール値の懸念を、見ず知らずの人間たちが共有している」

「俺の体は大丈夫だっての! 呪いでもねぇのに外野が騒ぐな!……もういい、次だ! サムのをみろ!」


逞しき末っ子と、不名誉な「異種間交流」

「なになに……? 『最初の頃はルシファーの器とか悪魔の血とかで守ってあげたい可愛い弟ポジションだったのに、いつの間にか逞しくなってたよね』……か」
サムは少し照れくさそうに髪をかき上げた。「そ、そうかな? 僕、そんなに強くなったかな」

「『兄貴があんなに脳筋特攻野郎だからこそ、サムの理性的な性格がなんか、安心するよね』だと?……おい、俺は某Aチームのコングじゃねえんだぞ!」

「『知ってた? 戻ってきたコルトで敵を確実に仕留めたのはサムだけなんだよ? スナイパー技術半端ないってこと!』」
カスティエルが感心したように頷く。「確かにあのコルトは、ディーンも私も一度は手にしたが、土壇場できちんと『使えた』のはサムだけだったな。君の集中力は人間としては特筆すべきものだ」

「ちょっと、キャスまで褒めすぎだよ……」

鼻の下を伸ばしかけたサムだったが、ディーンが意地悪な笑みを浮かべて画面を奪い取った。
「安心しろ、サミー。ちゃんと落とし所はあるぞ。『でも普段の狩りだとあんまり活躍してないよね、なんか傷を負って倒れてるシーンばかり思いつく』だってさ。あーあ、兄貴として嘆かわしいな。お前、気絶のプロかよ?」

さらにカスティエルが首を傾げる。
「『人間の女より悪魔とか怪物と寝た数の方が多い』……。サム、これはどういう意味だ? 君は異種族間交流のスペシャリストとして認定されているのか?」

「……もう見るなよ! 次! キャスのはどうなんだよ!」


堕天使のカリスマと、深すぎる「絆」

「『ド真面目にド天然ボケ! やっぱりカスティエルがいたからこそドラマが楽しくなったよね』『あのとぼけた感じで神の兵士の天使ってのが許せない~トレンチコート最高♡♡♡』……。やべぇ、キャス。ハートマークが3個もついてやがるぞ」
「『ねえ、カスティエルが銃を持ったシーンのカッコ良さ見た!? いつも短剣だからびっくりしちゃった、堕ちた天使に銃なんて無敵すぎー!』」

サムが微笑む。「確かに、コルトの黒い銃身とトレンチコートの明るいベージュのコントラストは、映像的に映えてたよ」

カスティエルは真剣な顔で画面を見つめている。
「『聞いて! カスティエルの非公式テーマ曲! Angel with a Shotgun!』……ほう。歌詞は……『君を守るためなら信仰だって捨てて構わない』か。……そんなに高潔な自覚は無いが、メロディは悪くないな」

「にしても、キャスのコメントだけ桁違いだね」
サムがさらに下へスクロールし、吹き出した。
「ほとんどが兄貴とキャスのカップリングトークだけどさ」

「……なんだと?」ディーンの顔から余裕が消える。

「だってほら! 『ディーンだけを愛する天使なんて完全に運命共同体じゃん!』ってさ。あはは! そういえばキャスの恩寵って、兄貴の魂とが一番しっくり来るんだっけ?」

「そ、それは確かに以前そう言ったが……」カスティエルはそっぽを向いた。
「……ケースバイケースな事も……ある」

「いいじゃん、認めちゃえよ。あ、僕は別に拗ねてないけどね」
「変な話にして行くんじゃねぇ! ネットの書き込みなんて全部デタラメだ、解散!!」

ディーンが強引にノートPCを閉じ、真っ赤な顔で図書室を出ていく。
その後ろ姿を見送りながら、サムとカスティエルは顔を見合わせ、少しだけ誇らしげに、そして困ったように笑い合うのだった。


バンカーの図書室。静寂を破ったのは、再びサムが画面をスクロールさせる指の音だった。Redditの書き込みは、ついに三人の「衛生管理」という極めてプライベートな領域にまで踏み込んでいた。

天使の洗濯事情

「……おい、これを見ろ。キャスのトレンチコートについての考察だ」
サムが苦笑しながら読み上げる。

「『カスティエルは天使だから風呂も入らないし洗濯とかはしないと思うよ。分子分解とかしちゃうんじゃない?』……だってさ。たしかに、キャスが洗濯機を回してる姿は想像できないな」

「分子分解……?」ディーンが怪訝そうな顔でカスティエルを見る。「おい、お前、あのドロドロの返り血とか、おっさんの加齢臭が染み付いたジミーの服、どうしてんだよ。まさかそのままか?」

カスティエルは心外だと言わんばかりに、シュッと背筋を伸ばした。
「失礼な。私は恩寵を用いて、衣類の繊維に付着した有機物や汚れを原子レベルで剥離させている。君たちが石鹸と温水で行う非効率な作業を、私は一瞬で完結させているのだ。分子分解という表現は、あながち間違いではない」

「血まみれ」のリアリズム

「でもさ、キャス」サムがさらに別の書き込みを指差す。
「『でも、あれだけ血まみれになっても着替えてないとしたら、それはそれで……不潔だよね』。……ファンは、君の『見た目』が変わらないことに、リアリティの欠如を感じてるみたいだよ」

「……不潔だと?」
カスティエルはショックを受けたように、自分の袖口を見つめた。
「私は常に清浄だ。だが……そうか。人間には、私が『洗っているプロセス』が見えないから、不信感を抱かせるのか」

「そうだよ、キャス。努力が見えないと評価されないのが人間社会だ」ディーンがニヤニヤしながら追い打ちをかける。

「しっぽり」の衝撃

「待て……これは何だ」
カスティエルが画面の最下部にある、一際熱量の高いコメントを音読し始めた。

「『そうだよね、じゃないとディーンとのしっぽりした一夜でも、色気が無くなっちゃう』」

「…………」
「…………」

バンカーの空気が一瞬で凍りついた。
「……しっぽり?」カスティエルが小首を傾げる。
「サム、この日本語由来と思われる語彙の定義を教えてくれ。私とディーンが共有する『一夜』とは、大抵がインパラの中での仮眠か、安モーテルでの地図の解読だが、そこに『色気』という概念は必要なのか?」

「……もうやめろぉ!!!」
ディーンが叫びながら、顔を真っ赤にして椅子から立ち上がった。
「なんだよ『しっぽり』って! 誰だこの書き込みした奴! 出てこい! 俺とこいつの間にあるのは、血と汗と、せいぜいビールの臭いだけだ!!」

天使の「決意」

「……ディーン、落ち着け。君の血圧が上がっている」
カスティエルは至って冷静に、しかしどこか決然とした表情でトレンチコートの襟を正した。

「分かった。ファンたちの懸念を払拭しよう。今夜、私はこのコートを物理的に『洗濯』する。……サム、君の使う『フローラルな香りの柔軟剤』を貸してくれ。私に『色気』が不足しているという指摘は、天使としての名誉に関わる」

「……いや、キャス。そういう意味じゃないと思うんだけど……」

その夜、バンカーのランドリールームでは、トレンチコートを乾燥機にかけてじっと見守る天使の姿があった。
翌朝、カスティエルからは、戦場にはおよそ似つかわしくない「春の野原」のような甘い香りが漂い、ディーンは「鼻がムズムズする!」と一日中くしゃみをし続ける羽目になった。


誤解の始まり

「しっぽり」――その語感の背後に隠された「心を許した者同士が過ごす、親密で静かな時間」という定義を、カスティエルは辞書とRedditの文脈から完璧に理解した。……あるいは、理解したつもりになってしまった。
「なるほど。ディーン、私は学んだぞ。人間にとっての『色気』とは、清潔感だけではなく、他者との距離感の問題なのだな」

翌晩。カスティエルは、いつもの不自然なほど至近距離に立ち、ディーンの顔をじっと覗き込んだ。柔軟剤「春の野原」の香りが、ディーンの鼻腔を容赦なく刺激する。

「……おい、近い。近いって。あとその匂い、森の中で目立つからやめろって言っただろ」
ディーンが椅子を引いて距離を取るが、カスティエルは音もなく詰め寄った。

「ファンたちは、私と君の間に『しっぽり』とした情緒を求めている。……サム。照明を落としてくれ。ルクス(照度)を下げることが、親密さを醸成する第一歩だとネットに書いてあった」

「……あはは、わかったよ」
面白がったサムが、図書室のメインライトを消し、琥珀色の読書灯だけを残した。

天使の「色気」プレゼンテーション

薄暗くなった図書室。カスティエルは、トレンチコートの襟を少しだけ寛げ、椅子に深く腰掛けるディーンのすぐ隣に立った。そして、どこで覚えたのか、少し低く、湿り気を帯びた声で囁いた。

「……ディーン。今夜の月は、インパラのボディを銀色に染めているだろうな。……どうだ。二人きりで、エンジンの構造について語り合わないか? 『しっぽり』とな」

「……ぶっ!!」
ディーンが飲んでいたビールを噴き出した。
「キャス、お前……そのポーズ、なんだよ! なんで壁に手を突いて俺を閉じ込めてんだ! あと声! 風邪引いた時みたいな声出すな!」

「これは『壁ドン』と呼ばれる親密なコミュニケーションの手法だ。Redditによれば、これで君の心拍数は上昇し、私との間に不可逆的な絆が形成されるはずなのだが」

「そもそも、僕がいる時点で『二人きり』じゃないんだけど…丸聞こえだよ」
呆れたサムの肩竦めが薄暗い部屋に影を落とした。

噛み合わない「親密さ」

「心拍数は上がってるよ! 恐怖と困惑でな!!」
ディーンは真っ赤な顔で立ち上がると、カスティエルを押し返した。
「いいか、キャス。俺たちの『親密さ』ってのは、地獄で背中を預け合ったり、安モーテルでクソみたいなパイを分け合ったりすることだ。……こんな、ライトを消して小声で喋るようなもんじゃねぇんだよ!」

「……そうなのか? だが、ファンたちは……」

「ファンはファンだ! 俺たちのことは、俺たちが一番分かってる。……お前がその、ダサいコートを着て、空気を読まずに俺のパーソナルスペースを侵略してくる……。それが俺たちの『しっぽり』なんだよ。……いや、言葉の使い方が違うな。とにかく、普通にしろ!」

結局、いつも通り

カスティエルは、少しだけ残念そうにトレンチコートの襟を正し、元の無表情に戻った。
「……理解した。つまり、私は私のままであれば、十分に『色気』とやらを発散しているということか」

「……まぁ、そういうことにしとけ。……サム! 明かりを点けろ! 目がチカチカする!」

サムが照明を戻すと、そこにはいつもの、少し仏頂面のディーンと、首を傾げる天使、そして爆笑を堪える弟の姿があった。
ネット掲示板の喧騒は、バンカーの静寂の中に溶けて消えた。彼らに必要なのは、飾られた言葉や演出ではなく、ただ隣に「いる」という、代えがたい事実だけだったからだ。

「……ところでディーン。次の『しっぽり』とした狩りでは、私がBGMを担当してもいいか? 『Angel with a Shotgun』のサビを……」

「……それだけは、絶対に、絶対にやめろ!!!」