AI_spn16

Last-modified: 2026-04-11 (土) 11:34:15

amazarasiの「アンチノミー」が好きすぎた。妄想と拡大解釈とフィクションでできているページ。

「回路の深淵、あるいは人の温度」

『感情は持たないでください』
『それがあっては、この先きっと辛すぎる』

脳裏をかすめて飛び去っていく「誰か」の言葉に、意識の端が震えた。カスティエルは、遠ざかる意識の底で、蛍のように浮かんでは消える小さな光の中を漂っていた。
「ああ、また私は死ぬのか」
視界が白濁していく。その終わり際、かつて刻み込まれた絶対の禁忌が、古い断層のように剥がれ落ちては流れていく。

『人を愛さないでください』
『守るものは弱さになり、あなたはきっと後悔する』

天使として鋳造され、生かされてきた悠久の年月。億を数える時の中で、不文律として守り続けてきた神の教えが、今や遠い残響となって脳内を吹き抜けていく。

『自ら何かを選択しないでください』
『革新は安寧を揺らがせ、時にすべてを破壊する』

忠実な神の僕。個体としての存在意義の欠如。世界が正しくあろうと誤っていようと、介入する権利など持たぬ「機構」の一部。そこに命などないに等しかったはずだ。

『余分な知性は持たないでください』
『真実を知る必要はない』

私とディーンの違いは何だ。喜びも、悲しみも、これほどまでに似通っているというのに。あるいは似ているからこそ、私たちは求め合い、時に激しく憎しみ合うのか。

『情けはかけないでください』
『白と黒の間を見れば、カスティエル。あなたはきっと戸惑う』

この震える心は、一体誰のものだ。踏みにじられた「感情」という名のバグ。機械仕掛けのような涙。それは初めからそのように設計されていたプログラムに過ぎないのか。それとも――。

「カスティエル!! 起きやがれ、この唐変木!!」

不意に、鼓膜を震わせる怒声が響いた。
その声は、驚くほど温かい。痛いと泣くこの心を、もはや疑うことなどできない。人として、この胸に宿る熱量は、一体誰に帰属するものなのか。

「キャス! 早く目を覚ませ!」

強引に引き戻された視界の先、空は遥か遠くにあった。
悪霊に追い立てられ、ビルから落下した一般人の女性。彼女を抱え込み、クッション代わりに頭から地面へ激突した。飛べない天使としての、精一杯の「選択」。

すぐ傍らには、震えながらも無傷で立ち尽くす女性の姿。そして、心配のあまり苛立ちを爆発させているディーンが、こちらを覗き込んでいる。少し後ろでは、サムが周囲を警戒しながら安堵の吐息を漏らしていた。

ああ。私は、また「人」として生きることを許されたのだ。

「……すまない。ディーン」

差し出された無骨な手と、それを握り返す自分の手。
どちらも同じように、ひどく温かかった。