太虚剣気
精衛真人の生み出した奇功
この奇功を扱う門派を太虚剣派と呼ぶ
太虚剣気は高度の精錬を経て『真気』を特化する技術である
男性でも学ぶことは出来るが、その境地に達することが出来るのは女性のみとされる
太虚剣気に高度に熟練したものは古今東西の達人を上回る技の冴えと人ならざる剛力を得るという
代わりに、太虚剣気を扱う者は絶対の掟を背負う
「魔に堕ちたものは死すべし」
この掟が数々の惨劇を産んだ
太虚剣気には五蘊がある
すなわち心蘊、形蘊、意蘊、魂蘊、神蘊である
それぞれ太虚剣心、太虚剣形、太虚剣意、太虚剣魂、太虚剣神という呼び方をされることもある
太虚剣心
太虚五蘊の心蘊
雑念を消し、心を鎮め、世の本質を見通す術
心蘊は太虚剣気の入門の一蘊でありながら最も難しい一蘊である
到達出来た剣心の深さによって、太虚剣気をどこまで極められるかが決まる
剣心を深めるためにはより幼いうちから修行を始めなければならず、一生をかけて鍛え続けなければならない
また、少しの動揺があるだけで剣心は意味を為さなくなる
剣心には四つの領域があり、すなわち止水・無塵・明鏡・太虚である
凡人では止水にすら至らず、才ある者でも無塵で止まり、太虚まで達したものは開祖である精衛真人を除くと高弟の凌霜とその弟子の李素裳の2人のみ
太虚剣形
太虚五蘊の形蘊
剣を操る術、また、剣は拳にも通ずる
『生き字引』こと武経綸曰く、「一武概全」
剣形には四つの形があり、すなわち哲・化・守・開である
全部で二十一式
- 哲剣
最初の構えをとる形
- 斬月
左手で剣を持ち前に、右手で拳を握り腰に、半身に構える
- 断海
- 裂空
左手を真っ直ぐ前に出し、右手に逆手で剣を持ち、半身に構える
- 化剣
守から開、または開から別の開へ転じる形
- 飛鶻
- 玄隼
- 雨燕
相手の隙を突き、刺突を放つ
- 藤雀
- 雲鷹
- 月鷺
指を当て手首を返し、後ろへ受け流す
- 守剣
守りの形
- 垂柳
- 幽蘭
左手の五指から中指と人差指を突き出し、右手の剣を掲げ払う
- 勁竹
- 墨菊
- 浄蓮
- 青松
- 開剣
攻めの形
- 岩破
- 乱雷
- 霹靂
- 山崩
幽蘭の構えで刃を肩に担ぎ剣で寸勁を放つ突き
威力は絶大だが構えてから技を出すまでの間に力を溜めるための時間が生じる- 瞬塵
開剣において最も速く最も精度の高い剣
- 震風
何気ない踏み込みから放たれる掌打
真気を巡らせ激しい振動を起こし、表面は無事だが内臓に重い傷を負わせる
太虚剣意
太虚五蘊の意蘊
古剣・軒轅と心を通じ合わせる術
軒轅は使用者の心境を写し、その姿を変える
- 軽塵柳
刀身二尺四寸
剣身は非常に堅固でありながらも、しなやか
林朝雨はこれを袖の中に隠し持ち歩いている
この軟剣は驚くほどよく曲がり、敵の不意を突くことができる- 無双
一対の陰陽双剣
蘇湄の軒轅- 風清揚
江婉兮の軒轅
音を操る異能を持ち、精衛殺害時には聴覚を奪った- 落無着
江婉如の軒轅
詳細不明- 赤絶影
刀身五尺九寸の大剣
剣身はまるで焼き入れされたばかりの状態であるかのように赤色で、光る
剣は非常に大きいものの羽のように軽い
光を操る異能を持ち、精衛殺害時には視覚を奪った- 墨染香
李素衣の軒轅
娘である素裳に受け継がれた- 若水
程立雪の軒轅
水を操る異能を持つ
現代において素裳が用いているが、天命に保管されていた立雪のものを与えられたのか墨染香が変化したものなのかは不明- 太虚の拳
精衛真人の軒轅
太虚剣魂
太虚五蘊の魂蘊
万物を剣のように扱う術
魂蘊を会得することは、剣の道に通暁することでもある
形にとらわれず、あらゆる武器を剣のように使いこなし、あらゆる武器を剣のようにできる
太虚剣神
「神なるもの変化の極みなり、万物に妙にして言を為し、形を以て話すべからざるものなり」
太虚五蘊の神蘊
太虚剣気の境地である奥義
心蘊において太虚の領域に至ったもののみが会得出来るとされる
曰く、
技を使わずに技に勝ち、剣を持たずとも剣を持っている
剣気を意のままに操り、神によって剣を作り出す
その剣は空間を満たし、空間そのものとなる
故にどこであろうと存在し、どこであろうと用を為す
太虚剣気の術理
以下の内容は500年前の神州の人々は知るよしもないことである
太虚七剣や李素裳のような達人も太虚剣気の実際の理屈については知らず、本当に仙術のようなものとして認識していた
- 前文明時代にフカが受けた『神音』手術、アポニアの戒律を用いて発展途上にある少女の脳を改造し、崩壊エネルギーの操作に最適化する技術である
これを再現するための精神鍛錬法が太虚剣心、そしてその完成形において可能になる物質・精神両面に対する不可避の攻撃が太虚剣神である
つまり心蘊と神蘊のみが太虚剣気の真髄であり、形蘊・意蘊・魂蘊は本質ではない - 太虚剣気で扱うという真気、正体は崩壊エネルギーである
500年前の時代も崩壊エネルギーは普遍的に存在しており、神州の他の門派においても体内に流れる微弱な真気を操り剛力や異能を得る技術は存在した
それでも太虚剣派が彼らを圧倒する別次元の力を得ることが出来たのは、再現された『神音』によって空気中の真気をも操り、それを体内に取り込んで自在に扱うことが出来たからである
つまり圧倒的な崩壊エネルギー量の差がそこにはあったのだ - 体内の微弱な真気しか扱えない他の門派においては、より強力な真気を得るためにはより強い崩壊エネルギーに曝されるしかない
このため、より強い力を求めて崩壊獣が発生するような崩壊エネルギーに満ちた土地に留まる者がよく見られたし、崩壊獣を祀る宗教団体なども誕生した
もちろん崩壊エネルギー耐性の低い常人がそんなことをすればただでは済まないが、中にはそれによって超常の力を得るものもいた
これが太虚剣派でいうところの「魔に堕ちし者」つまりゾンビや疑似律者である、だから殺さなければならない - 「魔に堕ちたものは死すべし」
太虚剣派の剣士達の背負うこの掟は単なる口約束ではなく、『神音』に刻まれた本能に近い
それは相手が魔に与するものだと見做すと自身でも理解しがたい殺戮衝動に駆られるほどである
特に太虚剣気の使い手が融合戦士でさらに理性が弱まる人為的崩落を起こした場合、その殺戮衝動は自分自身にも向かってしまう
このせいでフカは人為的崩落を扱えない - 剣心を鍛える時に詠唱する太虚心訣は神音を現文明の人でも唱えられるよう音写したもの
前文明語を知らなければ意味はわからない - 太虚剣派にとって真気は体内に溜めるものではなく必要に応じて周りから借りるものである
彼女らは再現された『神音』によって高い崩壊エネルギー耐性を持っており、同時に真気を遠ざけることも出来た
とはいえ、剣心を鍛え一度により大量の真気を扱えるようになればある危険性が生まれる
剣心の熟練者が扱える真気の量は、自身の崩壊エネルギー耐性を容易に上回るのだ
これは太虚剣派であればこそ、力の使い道を誤れば魔に堕ちてしまうということを意味する - 古剣・軒轅、正体は第十の神の鍵である
実質的に意蘊は『神音』の再現とあまり関係ないが、剣と心を通じ合わせられなかったことを凌霜は悔やんでいるし、素裳も悩んでいる - 剣形は古代に伏羲、女媧、神農らと共にフカが祖父から教わった武術と合わせて作ったもの
フカにとっては亡き友との遺産である - 奥義である太虚剣神の源流は前文明で華が第十一律者に放った、第八の神の鍵“渡世の羽”の「第一定格出力」
これを再現し、太虚剣派の奥義として「太虚剣神」と名付けられた
第一定格出力より出力は落ちるが記憶を犠牲にしない分少ないリスクで使用できる奥義である - 太虚剣神は物理的な部分を防いでも不可視の精神攻撃が襲う回避不能の攻撃
周辺空間に満たした真気(崩壊エネルギー)によって隕石に等しい巨大な剣を作り出してぶつけ、満たされた気が全方向から精神攻撃を行う
空間に満たされた気そのものが攻撃手段な為、発動された時点で回避不可
空の律者が虚数障壁で物理部分を防いだが精神攻撃は防げなかったのを見るに回避方法は発動する前に空間転移するのみかと思われる - 太虚剣神の口上の元ネタは太平御覧の一節
- フカは高い再生能力を持った融合戦士であるが、融合戦士になった後に神音手術で得た脳の変化については復活時に再生されない
太虚七剣に殺された後は神音を失っており、心蘊も無塵までしか至れず、このため太虚剣神も通常の手段では使えない
しかし、記憶を燃料にするなどして大量の崩壊エネルギーを用意すれば無理矢理太虚剣心と同じ理屈の効果を起こすことは出来る
キアナは律者コアから必要な崩壊エネルギーを取り出し、その操作をフカに託すことで太虚剣神を発動させ識の律者に打ち勝った
神州の武学門派
門派とは武人にとって帰る場所、第二の家と言えるほど重要なもの
太虚剣派
精衛真人を始祖とする門派
精衛真人と太虚七剣が所属した
- 太虚剣気
上の該当項目を参照
新太虚剣派
林朝雨を始祖とする門派
隆盛により五大門派は新太虚剣派を加えて六大門派と数えられるようになった
林朝雨を門主、馬彦卿を副門主として多数の門下を抱える
- 太虚真訣
太虚剣形を簡略化し、更に馬彦卿個人の武学に対する理解を加え作り出した奇術
太虚真訣には五勁があり、すなわち太易、太初、太始、太素、太極である
太極の勁が円満になるとまた太易の勁に戻り、それを繰り返し生々流転する
太虚剣気と比べて修得が容易なようで、新太虚剣派が人材を輩出しているのも太虚真訣によるところが大きいとされる
崩壊3rdの現代においても新太虚剣派は存続しており、太虚真訣は崩壊獣との戦いに用いられている
無上自在門
李素裳を弟子に取った程凌霜が便宜上名乗った門派
程凌霜と李素裳の2人しかおらず、扱うのも純粋な太虚剣気である
ただし類い希なる武の才を持つ2人が共に剣意を苦手としており、その点においては造詣が乏しい
無双門
蘇湄を始祖とする門派
大きな勢力ではないが、門下は少数精鋭で門主の蘇湄に忠誠を誓っている
- 無双九転
蘇湄と馬彦卿によって作り出された、太虚剣気とは一切関連がない独自の武術
丹田を中心に真気を経絡に巡らせ、人ならざる力を得る
真気=崩壊エネルギーを身体に巡らせる性質から修得者は高確率で魔に堕ちる
李家
川中(湖北省?)の名門武家
聖火大会にも青木道人が参加しており、五大門派の門主と比べても遜色なしと林朝雨に称された
- 飛燕功
李氏伝家の武学
飛燕功は飛禽の姿を真似することで、自身の筋肉と関節を強化する独自の軽身術
『生き字引』こと武経綸曰く、「飛燕、燕に非ず、ただの人なり」
とはいえ李素裳は太虚剣気に取り入れ用いており、無用ではない- 垂燕十三式
李氏伝家の武学
飛燕功と合わせて用いられる剣術であるが、太虚剣形と比べると有用性は低い
憶剣山荘
李紳を荘主とする門派
六大門派に数えられるほどではないが、太虚七剣である秦素衣の名声によって多くの門下を集めている
李氏伝家の飛燕功と垂燕十三式を基礎としているが、秦素衣のもたらした太虚剣心の影響で武術としてかなりの進歩があった
- 垂燕十三式(李紳)
李氏伝家の武学である垂燕十三式に李紳が手を加えたもの
本来剣術であるものを李紳が武器として用いる簫に合わせた形にされており、威力は下がったが優雅さはかなり増している
簫とは中国の尺八のような笛のことである
つまるところ、見た目だけで実用性が伴っていないとも言える- 憶心剣法
秦素衣が夫である李紳のために垂燕十三式に太虚剣形を組み込んだもの
本来太虚剣形は太虚剣心による見切りが土台にあって成り立つものであり、もはや太虚剣心を修得出来る年齢ではない李紳に扱うことは出来ない
この制限を克服し李紳でも絶世の剣技を身につけられるよう、太虚剣形から太虚剣心の影響をなくした形で垂燕十三式と組み合わせることで憶心剣法は作られたが、この試みは失敗した
とはいえ、一部といえど太虚剣形を取り入れた憶心剣法は一流の武術である
同じく太虚剣心の影響を排した太虚剣形を目指し、太虚真訣を作り出した馬彦卿の卓絶した武才がよくわかる
河東虎争派
山西省の門派
- 虎吼震九霄
荒々しさで有名
内功にも外功にも並々ならぬ箇所があり、河東虎争派を代表する武術
軍人だった頃の「鷹」が、ある出来事によりその伝書を入手し、勤しんで修行した結果である
「鷹」は刀術と拳術を得意としているようで、太虚剣気を操る李素裳も受けに回らざるを得ない激しい乱打をくり出した
少派
五大門派のうち特に高名な門派
武派
五大門派のうち特に高名な門派
蓮華派
五大門派が一つ
暗殺術に近い
聖火大会に門主自ら出向いたが、到着前に閻世羅は精衛に討たれた
墨山派
五大門派が一つ
五大門派で唯一、聖火大会で閻世羅を討ち名を挙げるために人を派遣しなかった
精衛に弟子入りを断られたものの剣形一式を学び取った『剣聖』を称する人物を迎え入れた墨山派は剣術において他派に優越しており、近年勢力を増している
五霊山連盟
五大門派が一つ
羅家の衰退にあわせて五大門派に数えられるようになった
羅家
かつての五大門派が一つ
精衛が死んでいる20年の間に家中に不幸があり衰退した
聖火教
高濃度の真気を操る魔教
聖主である閻世羅は真気を用い炎を操る
閻世羅は精衛真人に次ぐ天下第二とされ、自身の武を誇るために開催した聖火大会では五大門派の門主級2人が束になろうと歯牙にもかけない隔絶した武を誇ったが、精衛の弟子である林朝雨に討たれたことで瓦解した
この一件は閻世羅が聖火大会を喧伝していたこともあり江湖の耳目を集め、精衛真人率いる太虚剣派の武名を轟かせた
- 碧玉神功
閻世羅の用いる奇術
掌から炎を迸らせ、攻撃を受け止め、敵を燃やし尽くす
前文明の第七律者と比べると矮小すぎる火だが、それでも人を殺すには過ぎた大炎である