:Template/テキスト/ストーリー/ロージャ

Last-modified: 2024-11-17 (日) 15:55:37



このページの最終更新日は 2024-11-17 (日) 15:55:37 です。

人格/ロージャ/黒雲会若衆

おじさん。私、おじさんの金庫にナンボ入ってるか全部知ってるよ。
子供はふてぶてしい口調で、しかし鋭い冷笑を浮かべながら話してる。
組織というものは大体そういうものだろうけど、黒雲会もそこまで変わらない。
保護費という名目で裏路地の商店街を引っ掴んで揺さぶれば、血汗という名の金貨がチャリンチャリンと落ちてくるのでそれを受け止めて食べるのが毎日の仕事でしょう。
そういえば、子供は裏路地に立ち並んでいる商店で、特にここにだけ厳しく接してたね。
どこかで有名なけちんぼだって噂を聞いたのか、彼女はここのお金をぶんどれば、飢えてる沢山の部下の助けになると思ったみたい。
子供は今すぐにでもあの守銭奴の胸倉を掴んで、いいえ、胸倉を掴んでしまいたかったけど、そうはできないみたい。
単独行動は組織での禁忌だから、どうやら面倒ごとは避けようって考えてるんだろうね。
あぁ、幸いにも子供の視線を他の場所へと導いてくれる、案内人が来たみたいね。

ロージャ、愉快だ。遂にこんなお粗末な任務から抜けられる。
…うぅ~ん、いい知らせってことだよね?
無駄に言葉を縮めるのが好きな案内人は口元をつり上げると頷き、煙草に火を付けてはこう言ったんだ。
剣契のやつらと、ちょいと剣舞をすることになった。

人格/ロージャ/LCCB係長

(▌=几帳面な後任)
子供の目は眠気と疲労でいっぱいだった。
▌…感応結果異常なし。通路を確保しましょう。
ふぁああん…あ~めんどくさいなぁ。
▌…仕事ですよ。
いやぁね、仕事だからやるっちゃやるけどねぇ~。はぁ、どうして私たちがバスの子らの手伝いをしなきゃいけないの?
▌それがLCC部署の仕事ではありませんか。
知ってるって。子供はチッと口を鳴らしながら、そう無駄口を叩いた。
メフィストフェレスを運行する12人の囚人達が黄金の枝を回収できるように動くのがクリア部署、LCCの仕事。子供もその事実はよく知ってた。
実のところ、特に負担に思ってもいない。
面識のない人たちのため、自分の命を懸けるのが嫌だとかいうアマチュアみたいな不満も持っていないし。
でもただ…今自分のやってることに、胸がときめかなかったんだ。

あぁ~私もバスなら上手に乗れるのに。あの…ヴェルギリウス?って人にも会いたいし。
▌…無理ってことは分かってるじゃないですか。あの囚人達は…。
知ってる、あの時計ヅラと共鳴しなきゃならないだとか。チッ、知ってる。言ってみただけだって…。
子供は溜め息を吐くと、無線機に向かって言った。
ロージャ、E-361区画隔離室の事前調査作業かいし~。
そうしては身体をあちこち解し、回りの人に言った。
準備はいい?いくよぉ~?
ブリーチング!

人格/ロージャ/N社中鎚

素晴らしい。
ほんっと、とっても素晴らしい!
どうしてこの世にあんな方がいらっしゃるんだろう?
いや、どうしてこの世に人間のフリをする不良品がこんなにたくさんあるんだろう?
握る者に出逢ってやっと分かった。街をちょっと歩くだけでも不快な臭いが漂うっていうのに、私は必死に気付かないフリをして生きてきたってことに!
握る者の声はいつであれ私の馬鹿な考えを引っくり返し、正しい心構えで満たしてくれる。
初めて金鎚として召集されたときも、初めて金鎚を振り下ろしたときも、その声が私を安らぎに導いたんだ!
あぁ、どうして不浄なモノ達を壊すことに恐れを感じたんだろう?
純粋でない人間が街を闊歩してるというのに、土が穢されているという考えにどうして至らなかったんだろう!
そうしてやっと私は悟ったんだ。
私の美しい故郷でもそんな不純な…異端達が我が物顔で闊歩しているということに!
中鎚になってすぐの週、私は握る者に初めて告げた。濁りゆく故郷の未来を正したいと!
握る者はいつものように、慈悲深い笑みを浮かべていらっしゃった。
そうしなさい。
あぁ、やっぱり私は選ばれた人だったんだね!
その日の夜、裏路地の住民達はそのまま死体の塔になってしまった。
あぁ、そっか。「異端」の住民たちがね!
土と最も遠い場所に突き刺しておいたそいつらを眺めると…楽しくて笑いが出た。
綺麗に浄化されたこの故郷の土に、口づけをしたくなるほどに。

人格/ロージャ/バラのスパナ工房代表

(▌=心配性の職員)
さぁ…オールインだよ~。ほら、かかってらっしゃい!
色んな打鍵音と紙をめくる音、何かしら話してる音の中で。
事務所の中とは想像しがたい、楽しそうな歌が聞こえていた。

そう…!まんまと上手くいったね~。
子供は眉問に皺を寄せてる人とは違って、浮かれて楽しそうな顔をしてるね。
最近、子供の事務所がある裏路地で流行ってるオンラインカジノグーム。
子供は少し前からそのゲームにどハマりしてるみたい。

よし…もう一枚だけいいのが出れば…。
▌あの、代表…。
…うん?集中してるんだけど、あとにしちゃだめ?
▌あとじゃダメです。これを見てもらわないと…。
子供の部下なのかな?少し悲痛そうな声で子供を呼ぶ彼は、胸に紙束を抱えていた。
あぁ、マジで…
▌はい、こちら五日も滞ってる決済文書です。早く読んで…
来た!!!!!!
…事務所を埋め尽くしていた色んな音がサッと消えたね。
来た、来たよ!ねっ、これ見てよ!ロ・イ・ヤ・ルストレートフラッシュ!
▌…何ですかそれ?
なにって?ここのいる人の三ヶ月分の給料がまさに今入金されたってこと!
さぁ~みんな聞いて!私がさっき…。
事務所の中の誰も子供の言葉に集中してないけど、子供は気にしてないみたい。
…そしてそれは、忍耐が限界までに達した職員も同じだった。

▌代表!決済が滞ってて仕事が進まないんですよ!働いてください!
もぅ、うっさい!どうしてそんなこと言うの~。
ようやく、子供はまくし立ててくる職員の方を見た。
どれどれ…決済?これって私大抵の場合は突き返さないの知ってるでしょ?ハンコ押しといてって渡したでしょ!
▌それでも手順ってものが…。
はぁ、鼻クソみたいな規模の工房に手順?ただでさえ作業スペースがないから全部外注してるのに!
さぁ、それに…私が仕事してないって?外で仕事掴んできてるのは私でしょ~。
▌…その仕事が片付いてないせいで積もってますけど。
それは代表が考えることじゃないと思うけど~代表は、あなた方を信じているのですよ~。
▌……。
それに、みんなの金払いが滞ったことは一回もないでしょ!それじゃダメ?
それでも、このままじゃ…
あ、外勤の時間だ。さぁ~どいたどいた~あなたの言う通り、代表は仕事しに行くのですよ!
子供は茫然としている職員を放置して、そのままドアの外へ飛び出した。
…正しい代表の姿というのは、人によって違うと思うけど。
少なくともその職員にとって、子供はめちゃくちゃな代表に見えるだろうね。
でも…

よいしょ~っと!
子供の「外勤」の実力は本当に優秀だった。
もとはというと、子供が今までずっと取り組んてきた「改良」する能力が優れていたから、訪ねてくる人が多くて…。
その中でも、いけ図々しいことに人を得る才能まであったおかげで取引先を増やしていき、最終的に代表という座まて得たんだよね。
腐っても鯛という言葉は、こういうときに使うんだろう。

さぁ…今回の仕事はこれで終わって…はあ、もうちょっとお金になりそうなものないかな…。
細かいことにまで気を使うのは面倒だったけど、とにかく自分の事務所を一生懸命育てようという思いでいっぱいの子供は…。
また別の仕事を探そうと、情報を熱心に探し回った。
そのおかけだろうか。

おっ?K社…の巣から依頼が?
…あれ、でも改良依頼じゃなくて「廃棄作業」依頼だ。う~ん、ちょっと身体ほぐしとかなきゃ~。
子供はすごい仕事を、一つ見つけたみたい。

人格/ロージャ/南部ツヴァイ協会5課

(▌=お人好しのVIP、=怪しい取引人)
あのね~。
…。
あなたに話し掛けてるんだけど、ヒースクリフ。
…なんだよ。
のどかなある都市の昼。
子供は真っ黒いサングラスを掛けてベンチに座っていたんだ。
そしてその隣には、自分は絶対に怪しいと思われないだろうという考えで一杯の、別の子が座っていたんだ。

そうしてたら本当に怪しまれないと思う?
あんたが話し掛けさえしなけりゃ、そうだと思うんだけど。なんだよ、文句あっか?
うん、あるよ。今時そんな腕をガバッと広げて新聞を読む人っていると思う?
…ぐっ。
ただ新聞に没頭するならべつだけど。なんで何度も新聞越しにチマチマ覗き見ているの?
VIPさんがびびって逃げていくって。ねっ?
子供はそうやって咎めながら長く息を吐いたんだ。
二人の子供たちは潜伏任務を遂行中だった。中でも指定保護と呼ばれる、ツヴァイ協会の業務方式の一つをね。
ツヴァイ協会が顧客の保護を担当しているということは広く知られているのかまで全部知っている人は多くないんだ。
潜伏保護もその一つなの。自分の日常を侵害されたくはないけど、保護は受けられなければならない人々のためのサービスと言えばいいかな。

はぁ…何か起こらないかなぁ~黙って座ってるのも退屈だってのに。
でも子供は何だか気に食わないようだね。
それもそのはず、子供が図々しくなんでもできるという風だったので、指定保護という担当業務を任せておいただけであって…。
別に子供*1やりたくて始めたわけじゃなかったからね。

うぅ…あのときフツーに他の仕事やるって言っとけば良かった。なんかカッコよく見えたから…。
…子供のせいじゃないとは言い切れなさそうだね。
待てよ、あいつ動いてんだけど?
へ?まだあそこでもう1時間は油を…あっ!
隣に座っていた子供は瞬時に新聞を潰しながら立ち上がった。
よっしゃ~!ついに何か事件が起きるんだ!
はぁ、口は災いの元っていうけどよ…。
一人は喜びながら、もう一人は苛つきながら…。
二人は目立たない速度でVIPの後を付いて行った。

…おい。
▌おい?
まだ気付いてないのか?
お前脅迫されてるんだぞ、いま~。
▌な、何ですって?確かに契約の支払い関連で、顔を交わさなきゃならない人がいるって…。
何が顔を交わすだ、まぁ今から刃を交わすことになるけどな。さぁ、ご挨拶しな。
▌う、うぁ…。
さぁ、そこまで!
重い打撃音が狭い路地の中で強烈に鳴り響いた。
▌だ、誰だ!?あ…ツヴァイ?
はぁ~い、契約書に署名してからは初めてお会いしましたよねっ?
▌どこで何をしてたんだよ…。
私たちに教えてくださった行動計画から外れすぎた行動されると困るんですよね~。
目立たないよう周囲でくっついているのも苦労するんですよ…。
とにかく!今から我々ツヴァイが保護いたしま~す。
ヒース!この常識知らずの極悪人を片付けちゃって~。
子供はそう言いながら、顧客の前に立って特有の防御姿勢を取ったんだ。
さぁ、他のヤツらはどこ?今のうちに出てらっしゃい!
ついに何かできるという喜びに、顔をニヤニヤさせながらね。

人格/ロージャ/南部ディエーチ協会4課

(▌=インタビュアー)
「心の糧。」
私はこの本のタイトルが本当に好きだ。
心が食べる食事…それを盛んにするのが何よりも大事だって教えてくれるんだ。
▌だから…こうやって…。
▌食事されているんですか?
そゆこと。
いや、正確に言ってちょうだい。不確実な知識は却って誤解と混乱のみを生むからね。
間食を、食べたの。
▌…そうなんですね。
あのね、あなた。ここは図書館だよ。「心の糧。」を溜め込む…そう、「糧」が沢山溜め込まれてる場所ってこと。言い換えると、ここは食堂と言っても過言じゃないってこと!
だからここで何かを食べるって行為は極めて自然なことだ、ってことよ!
▌はい、ありがとうこざいました。戯言だらけのインタビューから得られる栄養はないので、ここまでにしましょう。
▌司書の方には、あらゆる食べ物でいっぱいの大食堂を運営するディエーチ協会について沢山お話伺いましたと伝えておきます。問題ないですよね?
えっ、あぁ!ごめん!!ちゃんとインタビューするから、司書の姉さんには…ねっ?
▌…ふぅ。
さぁ…だから、ディエーチ協会が正確にどんな協会かから言ってくれって話だったっけ?
▌はい。まあ、「知識」を担当しているってことは誰でも知っていますけど。
▌うーん…そうですね。ロージャさんにはどんな協会かを聞くのも悪くないと思います。
う~ん…どんな協会か、かぁ…
家みたいなもんだね、ここは。
ディエーチが身寄りのない子供たちを引き受けて育てるの、知ってるよね?
▌はい。救恤(きゅうじゅつ)の協会というイメージが広まっていますね。
私もそうやって流れてきたの~いつだったかはもう思い出せないけど。
道端に転がった埃まみれのパンを拾って食べて…おととい死んだ友達の服を剥いで私の布団にして…そんなときがあったような気はするんだけどね。
▌ふむふむ…。
あっ。この話、暗すきたかな?
まあ、とにかく。そうしてここへ入って、人間らしく暮らせるようになったんだ。代わりに、協会の人間として勉強を怠っちゃダメなのが面倒だけど。
▌それでも4課まで登り詰められたのを見るに、頑張っていたようですね。到底「身体の糧」なんかを召し上がっている方には思えません。
はあ~そんな頑張った気はしないけどね~。まあ…先天的に頭が良かったとかでしょ~。
▌……。
それに、勉強するのがつまらないってわけでもないの。
知れば知るほど…私の力も強くなるから。
▌聞いたことあります。積み上けた知識だけ、実際に力が強くなると…
フフッ。万古の真理が私を見守ってらっしゃるってのに、あの頭がスッカラカンの奴らを叩きのめすことが難しいわけないでしょ。
たまにいるんだ。ディエーチから派遣されたって話を聞くと、本の虫なんかが自分たちに手出しできるのかって侮る奴らが。
▌…無視されるんですね。頭にきたりはしないんですか?
ううん。むしろ…もっと面白くなるんだよね。
そうするたびに私のストラは輝き…拳は無知蒙味な者たちへ審判を下すから。
ディエーチの真骨頂を知らない愚鈍な者に、知識の格差を見せられる良い機会よ。
でしょ?

人格/ロージャ/南部リウ協会4課部長

(▌=???)
ささ!イシュ!こっちだよ~。
はぁ、部長さん。もう四時間も名店ばっかり回ってますよ。
部長さんじゃなくて、ロ・オ・ジャ。いつまで水臭くしてるつもり?
ろ、ロージャ…さん。
もぅ~。わかった、それくらいでいいよ~。
子供は気分良さそうな顔で短く溜め息を吐きながら、紙袋の中の食べ物を口の中へとスッと突っ込んだ。
両手いっぱいのショッピングバッグと紙袋のおかげで、子供がどれだけ沢山の店を回ったのか一目で分かった。

おえげ~。
ロージャさん、全部食べてから話してください。
むぐ…はっ。それで、次はね!
一体いつまでこんな風に店巡りするつもりですか。
トン。
横でポケットに手を深く突っ込んだ別の子供は、地面に向かって深く溜め息を吐くと…。
その場で立ち止まって、子供を意地悪そうに見つめた。

この路地にあるハムハムパンパンの期間限定のマントウも買って、本店で揚げたての蝦多士(ハトシ)も20個以上買ったじゃないですか。それに…。
マスカット、ミカン、イチゴ。
だらだらと恨みがまし言葉を吐き出す彼女に向かって、子供は静かに…そしてとても余裕そうに単語を羅列した。
…はい?
選んで。イシュ。マスカット、ミカン、イチゴ…どれ食べたい?
子供は白い紙袋をガサガサしながら目を輝かせた。
絶対に通用するという確信の宿った目だね。

そんなんで釣られると思って―
全部分かってるよ、イシュ。
さっきからこのタンフルが入った袋ばっかり見つめてるの。
うっ…。
さぁ、他の子たちよりも先に選ばせてあげる…。
それに、あとで牛肉麺も食べよ…どう?
…ミカンで。
はぁい~どぉぞ~!
…子供の懐柔策はいつも完璧だった。
それは今の状況だけじゃなく、協会の中で…特に4課で起こり得る全てのいざこざを調整するにあたっても輝いていた。
リウ協会が他の協会よりも和やかな雰囲気だという評判だというのも、もしかしたらリウ協会が意図的にこのような子供たちを中心に部長に割り当ててるからかもしれないね。
もちろん、実力だけで選ばれる部長と1対1で比較すると少し足りないかもしれないけど…。
だからって、こんな厚かましいだけで子供が部長の地位に立てたわけじゃないんだ。

はぁっ!
子供の周囲には誰もいない。ただ子供の手刀に貫かれるであろう敵のボスが残っているだけ。
それは二つの事実を意味するんだ。
一つは、小物たちじゃ子供の戦闘を妨害できないということと。
もう一つは子供の部下たちが、自分たちのボスと敵のボスを1対1の条件にしろという命令通り…戦場を創り出しているということ。

雑・掃。
部長!いつも通りこいつらは私たちが全員せき止めました!
はぁ~名前で呼べって、水臭いなぁ!
そう言いながらも、子供は目の前にいる組織のボスから目を逸らしはしなかった。
とにかく~部長って呼ばれたし、また部長らしく一件片付けちゃおっか?
子供は、既に数多の攻撃によってぼろぼろになった敵将のみぞおちを綺麗に打ち抜いた。
さぁ、あなたたちのボスの首が落ちましたね。それでもこの戦闘、続けるつもりですか?
▌くぅうっ…チクショウ!
規模のある戦闘で大将が倒れれば、団体は瓦解するものである。
士気を失った敵たちはジリジリと後ずさりをすると、そのまま全員逃げてしまった。

ふぅ~今日もキレイに終わったね!
リウ協会はこんな風に全面戦争で相手の足を縛っておき、その間に副将格の人物が相手の隊長を排除する形でいつも規模のある戦闘にて実績を作ってきた。
でも、それは逆に言うと…自分たちの大将が倒れたらどうなるか分からないという意味でもあるね。
どうなるか…それは、今言う必要はなさそう。
そんな物語がある世界を覗き込む時が来れば、自然に分かるだろうから。

人格/ロージャ/T社2級徴収職職員

(▌=2級 徴収職職員、=裏路地の発明家)
T社のとあるレストラン。
なんとまぁ…皆このステーキから滴る肉汁をご覧ぜよ!
子供の職場の同僚の内1人が、肉汁が滴るステーキを口いっぱいに頬張ってもぐもぐしてるね。
▌やっぱり、来て良かったですね。
反対側に座っている他の同僚も気分良さそうに口元を拭いてるんだ。
みんな美味しそうに食べてるのを見るに、結構良いレストランみたい。
でも…子供は一口も食べずに、フォークで刺したステーキをじっと見つめてるの。

陰気臭い…。
切り分けたステーキが美味しいって事実を、子供が知らないわけないよね。
ただ、色を奪われて黄色く変わったステーキが子供の食欲を掻き立てなかっただけなんだ。
その奪われた色が却って気色悪さを呼び起こし…。
子供の表情を冷たくしているだけ。
気に食わなそうな目つきでステーキの欠片を何度も刺すように見ていた子供は深い溜め息と共にフォークを下ろした。

ロージャ君、どうしたのであるか?今日に限って気分悪そうに見えるのだが…。
別にどうってこと無いよ。ただ…食欲が無いってだけ。
うぅ~ん、良くないな!これほどにまで美味しい食事を通じて激務のストレスを解消すべきであるというのに!
さあさあ、このワインで乾杯でもしようじゃないか!
…もう?まだお昼なのに?
多少のアルコールは業務効率の助けになるのだ!
▌それもそうですね。私たちがこんなことをよくやるわけでもないですし…。
同僚の言うとおり、こんなレストランでランクの違う職員同士食事を共にすることはあんまり無いんだ。
お互いが生きる時間が違うせいで、T社の職員たちは時間が合う人同士ご飯を食べに行く場合が大半なの。
一緒にご飯を食べるような集まりを作ろうにもまずTT4プロトコルが適用された食堂に行かなきゃならないし…。
そういう場所は、時間がそこまで多くない低ランク職員にとっては負担が大きい場所なの。
だから少しでも負担を減らすために、色がない料理を食べに来たんだ。
この食堂には色を戻すランプがなくて、比較的価格が安いからね。

もう、分かった。乾杯しよ、乾杯。
雰囲気を壊したくなかった子供は、渋々グラスを合わせた。
勿論、グラスに入ったワインの色を見た子供は嫌悪感を抱いた。
でもなるべく、その感情を顔に出さないよう頑張ってるんだよね。
当然、そんな姿を保つのは簡単じゃなかったし…。
子供はすぐ、その場から立ち上がった。
料理には手も付けずにね。

▌もう行くの?
最近、違法発明品の取り締まり期間真っ最中でしょ~。そろそろ行かないと時間が合わなそうだし。
最近取り締まり勤務が多いようであるな。ご苦労様である!
はは…この調子じゃすーぐ昇進しちゃうんじゃない?
とにかく先行くね。
▌うん…じゃあね。
食事が終わってから、子供が向かったのはT社の裏路地。
通報が入った場所を確認し、技術庁と連絡して登録されてない発明品を別途収集していくのが子供の今日の業務なんだ。

未登録発明品は全て回収。あと罰金なんだけど…。
今回更新されたマニュアルを見るに…これらは品目別に8時間ずつ、計40時間徴収することになるみたい。不満はないよね?
…40時間だなんて!この前は同じ品目で7時間徴収してたではないか。
最近罰金が引き上げられたんだよね~気に入らないの?徴収所に行ってひとつひとつ抗議するのがお望み?
そういうわけでは…ないが…。
実のところ、時間税は引き上げられてないんだ。
ただ子供は、自分が使う時間を稼ぐためにもっと沢山の時間を要求してるだけなの。
貰う時間が少ない、T社の低ランク徴収職では良くあることだね。
徴収する時間より多くの時間を回収し、その差額を自分の時間として使うってこと
無駄に目を付けられて、難癖や言いがかりで更に時間を払う羽目になりかねないからT社の市民も知っていながら目を瞑ってくれるんだ。

私だから、これくらいにしてあげてるの~。他の時間徴収者が来たら、品目につき10時間は出さなきゃならなかったでしょうね。
…。
あと、時計から手を離して。
腰についている時計に手をやる発明家を見ながら、子供は素早く制止した。
時間をいくら沢山持っていたとしても、当日に自分が持っている時間をすぐに使うことは不可能だけど…。
前日に予め巻いておいた時間があれば、時計を触ることで加速できるからね。
でも相手が取り出そうとしたのは、時計じゃなかったんだ。

工具!?
まぁ、いっかぁ。どうせ徴収者にやる時間なんて無かったんだし。
相手が腰から工具を取り出すや否や、裏路地のあちこちから工具を持った人たちが現れた。
最初から罰金を納付するつもりがなかったんだろうね。

あらぁ、いつこんなにお友達を呼んだの?
40時間も持ってかれちゃあ、1週間くらいは4時間で生きなきゃならないだろう。そんなのが人間の生活だなんて言えるか。
4時間保証されるだけでもマシでしょ。
子供は突然現れた人に少し驚いたけど、すぐに落ち着いて時計のぜんまいを巻き始めた。
ぜんまいが回る音と共に、子供の身体に残像のような痕跡がちらつき始めた。
T者徴収職に支給される普及型時計。
任務遂行用の時間を全て使い切っちゃえば、その次は自分の時間を使わなきゃならないというのに…。
子供は時間を借りることにしたんだ。

あんたたちに対して使うには惜しすぎる時間だけど…うん、どうしようもないか。
答えは返ってこない。
いいえ、正確には返ってくる答えが遅すぎたの。
人々がしきりに武器や工具を振り回すけど、意味は無い。
どんな方向から攻撃しても、幾分かは多くの時間を生きることになった子供の目には遅すぎるんだ。
増えた時間だけ早くなった子供が1歩を踏み出すたび、相手の顔にはゆったりと恐怖が浮かびあがる。

どうせ私の言うことは聞こえないだろうけど、それでも言っておかないとね。
私の時間を浪費させた代償。目一杯むしり取ってくから覚悟してね。

人格/ロージャ/北部ヂェーヴィチ協会3課

(▌=インタビュアー、=ポルードニツァ、=泥棒)
まったく、ダーリンも変わり者なんだから~。
こんな寒くて、吹雪しか吹き付けてこない場所なんだし付いてくるだなんて思わなかったんだ。
▌プロ意識…みたいなものだって思ってください。
鼻をズビズビ言わせながら手帳をぎゅっと握ってるインタビュアーは震える声でそう答えたんだ。
ここは都市の北部…それも大多数の時間は吹雪が吹き荒れてる極寒の寒さが支配する路地裏なの。
赤貧洗うがごとき人も、ここで寝ようって発想には絶対にならない…寒い、寒い場所。
そんな場所を子供と同僚…そして1人のインタビュアーだけがゆっくりと歩いていたの。

う~ん…まぁ、ヂェーヴィチ協会は有名税の割にはどういう風に働いてるかはあまり知られてはいないよね?
▌はい!大多数は高価で貴重な物を、責任を持ってどこにでも配達する協会…程度しか知りませんからね。
だよね~。都市だと普通の配達なんかはもっと身近な会社とか事務所が引き受けてるだろうし。
▌それでもその分危険な仕事なんですよね?他にも協会は沢山あるのに、どうして…。
うぅ~ん、お金いっぱいくれるから?
…一般的な稼ぎが良いって子供の言葉は嘘じゃなかったけども。
ヂェーヴィチ協会に入る人は、債務事情が良くないフィクサーたちがほぼ強制的に運ぶ羽目になった場合が多いという説明を子供はあえて付け加えはしなかったんだ。
騒がしかった自分の過去を、わざわざ口にしたくはなかったからね。

…おっ、風がちょっと収まってきたね?
みんな!ここでちょっとだけ休んでこ。食事も済ませるのが良いと思うけど、どう?
子供が周りの同僚にそう叫ぶと、みんな短く溜め息を吐きながら配達鞄に手を伸ばしたんだ。
▌おぉ…!それが噂に聞くデリバリーキャリアですね?
まあみんなそう呼んでるけど…ただの配達鞄だね、まぁ。あれこれ入れるのに便利な…よいしょっと!
[配達座標以外でのロック解除を確認。]
もうっ、静かにしてよ。
▌鞄が…あぁ!人工知能が作動しているみたいですね?
都市だと、人間と同じレベルの自意識を持つ人工知能は遠い昔から禁止されてはいるけど…。
反対に言うと、そうじゃないレベルのアシスタントAIは非常に一般的に使われてるってことなんだよね。
子供がどんどんと叩いてるその鞄も、丁度そのくらいの業務補助を担ってるんだ。

う~ん、こいつの名前はポルードニツァって言うの。これは世間にそんなに知られてはいないよね?
▌おっ!は、はい!ポルー…ドニツァ。風の噂で鞄としきりに会話してるヂェーヴィチ協会フィクサーたちがいるって聞いたんですけど…こういうことだったんですね。
▌私たちは、当然こんな険しい場所を歩き回っているから精神がすっかり参ってしまわれたのかと思っていたんですよ!
…そんな汚名を着せられてるとは思わなかったな。
子供は白い溜め息をふぅと吐くと、鞄の中から何かをさっと取り出したんだ。
最初に取り出したときは、半分に割った豆より小さい物体だったけど手が外に出るにつれ段々大きくなって…。
すぐに手の平くらいの大きさのエナジーバーになったんだ。

▌やっぱり、単なる鞄じゃなかったんですね!
一応協会だからね~。この中にはこの鞄よりも5倍は大きいものもすっぽり!入ってるんだよ?
それに重さが数百キロくらいするものもとりあえず中に入れちゃえば重さも感じられなくなるんだ。
▌空間が歪むくらいに大きさが変幻自在に変わって…入った物体の重量は感じられない…ふむ…そうなんですね!
む、難しい言葉使うんだね…前に南部ヂェーヴィチ特集記事書いた人はもう少し感傷的に記事を書いてた記憶があるんだけど。
▌あぁ、私は北部で理工学を勉強してたんですよね。そのおかげで何度も記事を簡単に書けって編集長に怒られますけど…はは。
…え、エナジーバーでも1つ食べる?
[注意。許可された配達品以外の物品保管は推奨されません。]
▌その…ポルードニツァは駄目って言ってませんか?
あぁ、気にしないで。協会でもある程度認知してて…こんな険しい場所へ行くときは目を瞑ってもくれるからね。
結局のところ…時間通りに配達を完遂するのが私たちにとって一番重要だから。
子供の目つきと声が一瞬曇ったことに、インタビュアーはすぐ気付いた。
▌配達が遅れたら…どうなるんですか?
また傷口に塩を塗り込むような質問してくるね…それは…。
そのとき、暗闇の中から何かが突進してくる音が突き刺さるように響いたんだ。
▌おぉっ…。
[敵対勢力感知。ポルードニツァ、強力配達モードとして起動。]
はぁ、言ったそばから。吹雪がちょっと弱まった途端に、泥棒たちがすぐに動きだしちゃってぇ。
子供は半分ぐらい残ったエナジーバーを口にもぐもぐと突っ込んで、地面へ椅子の代わりに置いておいた配達鞄を大きく振って肩に掛けたの。
ポルー、破裂エネルギーかいほ~。
[承認。吐出口に脅威要素がないか確認してください。]
むしろ脅威要素しかないんだけど?
話を終えた途端、子供が背負った鞄の端から巨大な刃がガリガリと音を立てて飛び出したんだ。
そしてインタビュアーが何か質問をする間もなく、前方から突進してくる敵に向かって鞄を振り回したの。

▌おぉ…。
…あんた、隠れてる方がいいと思うんだけど。怖くないの?
▌はい!私は険しい場所専門なので、こういう光景はよく見てきました。
人生つらそう…。
▌それに!私が担当するインタビュイーさんはみんな強いので私が危ない目に遭ったこともなかったです。
…なかったわけじゃないけど、これもインタビュアーが良い情報を得るために培った処世術の一種だろうね。
ふんっ、おべっかがお上手なんだから~。
良いよ!もうちょっとだけ教えたげる。
子供は引き続き、大きな鞄を同僚と一緒に振り回しながら言うの。
この喋る鞄の野郎が!私たちが配達に!遅れそうになるたび!
ぐはぁっ…。
早く配達しないと!危なくなるって力を貸してくれるの!
だから…できるだけ早く配達しようとしてるの!
▌そうなんですね!
▌あっ、じゃあ正確にどんな理由があって…。
…う~ん。
遅れたら上司に怒られるでしょ。あはは。
▌そ、それはそうですよね…。
子供の言葉は、事実とは違ったの。
時間を奪われたら奪われるほど、鞄の送り出すエネルギーがどんどん大きくなって…。
最終的にそのエネルギーに自分までダメージを受けて、死んだ場所には鞄だけが残るという話とは、違う答えだったの。

そんな、何か別の事情があるかと思った?みんな怒られないように働いてるでしょ?
でも…あえて知らせたくは無かったんだ。
この鞄が、このポルードニツァが自分を何代目の使用者として認識してるんだろうということや。
自分もじきに、過去の使用者みたいになるかもしれないって不安感は…。
わざわざ、記事に載せない方がいいだろうから。

人格/ロージャ/ラ・マンチャランドの姫

最初は…幸せだったんだ。
父上様は夢みたいなくだらない話を並べる人だったけど…それなりに愉快な方だったし。
まあ…そんな話を気乗りしないまま聞きつつ生きるのも、別に悪くなかったと思ってたんだ。
人間だった頃の記憶は一片も残っていないけど、たぶんその頃よりは楽しいだろうって。
だから、私は眷属になることを決めたんじゃないかな。
…それとも、永遠に自分の美しさを保てるって言葉に惹かれたのかも。
私の眷属…子供たちができて、一人二人とその規模が増えていくうちに、父上様の気持ちが少しは分かるような気がした。
あの方も、私たちが楽しく過ごすことを望んでいたんだ。
最初にあの方が孤独だったから、私たちからそれを取り去ってあげようとしたんだ。
そう思っていたの。
どこかから通りすがりの旅人が城に訪れ、お父様が夢を現実に変えれるっていう反吐の出るような唆しを受けて、それに乗ってしまうまでは。
…サンチョ。
父上様はずっと、私とサンチョを姉妹だと言って仲良くさせようとなさっていたんだよね。
幸いと言うべきか、私たちはお互いそんなに気軽に接するのを好む性格じゃなかったから、適度な距離を置いていたし…。
私は私でその者の力と能力…そして父上様より現実的な視点を持っていることに信頼を寄せていたし。
サンチョは…まあ、配下に子供を持ってはいなかったけど、私の眷属たちまで面倒を見るのを嫌がっている素振りは見せなかったね。
…この計画は、その曖昧な距離のおかげで成し遂げられたと言っても過言じゃない。
同じ第二眷属だけど、その者に家族たちと私の眷属の序列を一時的に委ねて…私は計画に集中できたから。
最終的に正気を失ってしまった父上様は、まともな城を壊して奇妙な遊園地を建てて。
人間と…一緒に生きていくなんて正気じゃない話を、夢見るように語られていたんだ。
熱く流れる血液が平然と歩き回っているのに、わざわざ袋に溜めた血を受け取って…。
挙句の果てにはクレパスよりも劣る味で、無理やり延命しながら生きていこうというその話。
将来、血鬼と人間が共存する未来を作るために…すべての眷属たちが血袋にも劣る生活をしろっていうその命令。
夢を見るなら血の渇望さえも耐えられるっていう…その眼差し。
ああ…でも欲望ってそんなに強いものだったみたい。
恐れ多くも逆らうなんて想像したこともない私に、飢えから来る不孝行を企てさせるなんて。
いいえ。もしかしたらただ、父上様ほどの夢を追う力が私にはなかったのかも。
…遊園地には、行商人がいつも訪れてきた。
父上様は気の毒なくらい純朴な方だから…彼が偽物の遺物を持ってきて嘘をついても、簡単に騙されてそれらを買い取っていたんだよね。
でも彼が本当に偽物ばかり持っていたわけじゃなかったの。
たまにサンチョと私が父上様に内緒で彼をいじめると、必ず翌日には本物の遺物を持ってきたの。
だから私は…飢えに苦しんでいたある日、彼に噂に聞いていたとある遺物の所在を聞いてみたの。
「被るだけで周りの全ての者と平等になれるっていう伝説の兜…マンブリーノの兜って知ってる?」
墓荒らしの人間がその兜をどこに使うかなんて想像もできなかったでしょうね?
無理な話か。
私たちが人間を一生理解できず、混ざり合えなかったように…。
彼らも私たちを同じように理解できないでしょう。
グレゴール。あの子はそうじゃないって、人間も私たちを見る目が少しずつ変わってきているって言ってたけど…。
でも…私は上から全部見下ろしてた。
顔にあふれんばかりの笑顔を浮かべながら幸せそうな姿でパレードの中の私を見上げる人間たちと…。
今日も飢えをこらえながらうつろな瞳を揺らしている血鬼たちが混ざっているのをね。
人間の視線が変わろうが、変わるまいが。
それはもう重要なことじゃないんだよね。
重要なのはどうであれ…私と私の子供たちは飢えてるってこと。
そして…サンチョもまた、父上様の行動と人間ごときの甘言をこれ以上黙って見ていられないって思ったんだよね。
やっと…カーニバルに必要なすべてが揃った。
尾を嚙み合って、永遠に同じ場所をぐるぐる回っていただけのパレードから抜け出して…。
本当の血の祝祭を始める時間だ。
あぁ…。
本当に、美しいだろうね。


*1 脱字?