Journals ジャーナル (Act7-1)

Last-modified: 2020-01-30 (木) 10:27:00
注意

このページはゲーム中に登場するジャーナル(拾ったり得たりするメモ書きなど)を掲載していますが、
その性質上ネタバレ成分を大量に含んでいます。
ゲーム内での読了を強くお勧めしますが、先に読んでしまったとしても一切責任を負うことはできません。

あくまで既に読んでいる人が改めて確認するためのページになっています。

注記1:どれが何処で手に入るか、は記載していません。
注記2:筆者等の人名の英表記が題名や本文に含まれていない場合は、併記しています。



Act7-1

Bloodsworn Manuscript 血に誓いし者の手稿

内容

*この羊皮紙は、 何か更に大きな大冊から破り取られたようで、まだ新しい走り書きが上に書き連ねられている。 残りの部分は どうやら人間の血と思わしき物にまみれている。*


ケタン'トゥーン、 暗黒の先駆け役よ、 我々はあなたに懇願します。
我々のブラッドロードは戦に敗れ倒れました、
そして、 彼のしくじりに関連し我々は苦しみを受ける事と相成りました。
しかし、 我々の声をお聞きください、 我らが血の主よ、 我々は供物を差し出しに参りました。
この土地、 この廃墟、 これらは魔力で溢れております、 瀕死の神の敵共の血にまみれた魔力に。


我々は この血の供物を以って、 あなたに懇願いたします。 現れ出でよ!
あなたの目覚めの後に、 エルドリッチの太陽を消し去る虚無の影が続きますように。
そして、 この堕落した王国を虚無が呑み尽くす時、
我々が、 あなたの永遠の栄華の一端ではなく、 あなたのお傍にこそ在りますように。
さすれば我々は、 あなたの御名に於いて突き進み、 卑しき者達から血を集めるでありましょう。


この文章の残りの部分は、 あなたの理解を超越する絵文字で書かれている。
これらをじっと見るだけでも、 あなたの頭は、 殺人と流された血についての思考で満たされる。


Death to the Usurper 簒奪者に死を

内容

三神を称えよ。
人類に対する彼らの賢明さ、 先見の明、 そして憐れみの情を崇拝せよ。
彼らの祝福なかりせば、 我らはエルドリッチ界の 贈り物を欠いた無価値な抜け殻として、
ルミナリの猟犬 のなすがままとなっていただろう。


簒奪者、 燃える復讐コルヴァンの破壊者に呪いあれ。
神々の頂点たる エルドリッチの玉座に対する、 彼の渇望に呪いあれ。
ドリーグの受けた千の膿んだ傷で、 彼に千の死があらんことを。
その体の中は蜘蛛で満たされ、 目はエルドリッチ ファイアによって灰と化されんことを。
エルドリッチ パワーの、 すなわち真の神々と そのしもべらによって 行使されるよう意図されたパワーの簒奪者に対して、
我らはこれらのすべてを訴える。


耳にはドリーグの囁きを、 傍らにはビスミールの猟犬を、 刃にはソレイルの黒炎を伴って、
我らは灼熱の砂漠を通り抜け、 炎の中心に行進する。
この怒りの前に、 容赦される者は一人としていないだろう。
守護神たちの贈り物によって、 彼らのものを取り戻そう。
我らの血はコルヴァンの砂の上に流れるが、 それは人類の真の主を称えた行いとなるだろう。


Convergence of the Covenant 盟約の収束

内容

私が聞いたのと同じ囁きを そなたたちが聞いたのは間違いない。
かの狂いし者は落ち着きをなくし、 心は燃え上がる者の帰還のビジョンで溢れていた。
もしも枷が壊され力が復活するならば、 彼はあらゆるものを消し去ることができるだろう。
そのような結果を指摘するまでもない。 三神連合の運命は、 この瞬間に義務付けられたのだ。


蜘蛛の網で知らせを回すのだ。 ビスミールのしもべたちを呼び集めよ。 私は聖なる契約を祈願しよう。
三神の力は、 コルヴァン人の忘れられた土地の一点に集めなければならない。
我らが勢力は、 この脅威に対して団結しなければならぬ。 分裂すれば復讐の炎に倒れるだろう。
一人たりと、 招集を拒絶することは許されぬ。
あちらは我々が戦っている勢力と同じくらい多くの敵であり、 同じやり方で対決しなければならないのだ。
自らの破滅の運命に屈するイセリアルや流血者たちの、 策謀に気を取られてはならない。
我らが失敗したときに待っているものに比べれば、 彼らのもたらす危険など些細なものなのだ。
連絡網がその役割を 果たしていれば、 エルーランの生存者が、
少なくとも我らの問題が解決されるのに足る間は、 彼らの前進を妨げるだろう。


双子の像を探し求めよ。 何のことを言っているのかは、 わかっていよう。
そこのベールは薄く、 我らの仕事を始めるのに適した場所としての役を果たすだろう。
無限の目の要請により、 私は潮の流れを有利に変える 貴重な同盟者を突き止めるために特使を急送した。
彼らの命は勝利を追求する中での 消耗品だと思うが、 彼らのことが我らの前にこれほど明瞭に書かれている以上、
運命の気まぐれなどで勝手に変更されるようなことがあってはならない。


三神の玉座にかけて、 我らの才能に対する この脅威を根絶しよう。 世界は、 魔神たちの力の前にわななくだろう!


―Sagon, Vicar of Solael
―ソレイルの代理人、 セイゴン


Web is Spun 網は紡がれる

内容

蜘蛛の網の女主人、ビスミールの囁きを聴く者よ、 私は貴女の要請を全て果たしました。
貴女が賢明にも 推測された通りに、
カイモンの選民の熱狂者どもは、 ここ、 コルヴァンの地に居ります。


我々は、 アーコヴィア丘陵から 北の悲嘆の砦まで、 奴等の動きを追跡して参りました。
そこからは かつてはルミナリの尋問官であり、
現在は自らカイモン神父と名乗る奴らの指導者が、
遺物を収集し、 クトーン教団に対する戦を遂行する為に 彼の熱心な信奉者達を派遣していました。
彼は、 成し遂げようと着手した試み全てに成功したようで、
我々は、 彼が或る夜に自軍の一分隊 (忠誠度の高い信奉者達と推測される者達) を伴って砦を離れるのを見ました。


奴等は遠くまでは旅をせず、
ほんのすぐ近くの開墾地で、 ひとつの燃える鬼火がその前に姿を現しました。
それは閃光と共に、 まさしく空気を貫き裂いて
陰謀家 (訳注:ビスミール)があなたに授けし賜物によく似た亀裂を生み出し
カイモンと彼の同朋達は、 希薄な空気の中へと消え去りました。


その時は、 我々は奴等の足跡を見失ったかのように思いましたが、
我らが秘密会議所へ到着した後に、 貴女が我々を急派した事は正解でした。
我々は、 砂漠の縁で宿営の痕跡を発見し、 北へと追跡しました。
貴女の推測された通りに、 奴等は選民の谷と その向こうの寺院の後方に居るようです。


更に重要な事として、
カイモンの選民は新たな旗印を掲げるようになり、 奴らの内数名は遂げつつあるようです...変化を。
奴等は、 額に奇妙な神秘文字を刻みつけ、 その瞳は炎へと転じました。
我々は、 奴等の睡眠中に幾度かの、 そのはらわたに ぽっかりと溶鉱炉が開いたような、 激しい震動を観測しました。
それは奴等の最終的な到達地点に近付く事による物のようで、
奴等は何らかの変態を始めたのです。


それでもなお、 我々の内一名が 奴等の隊列に潜入しており、
幾つかの発見と 更なる不穏な記録を私に報告に 戻り続けるつもりです。
偉大なる蜘蛛の網が、 ソレイルとドリーグの信者達との横列の中で機能している事を知って、 それにも貴女は喜んで下さるかと。
彼等は、 我々の知識無くば、 動くこと能わず、
我らが優位を得られぬこの地では、 恐らく何も発見できないでしょう。


蜘蛛の御心のままに。


―Areaka of the Shadows
―影群のアレアーカ


Visions of Terror 恐怖の幻視

内容

私達が集う地に選択したこの場所、 この秘密会議所、 ここは呪われた地である!
ベールは苦しみの中で叫んでいる。 超越領域からの囁きは、 現実界を明らかにする兆候を示す。


私がここで過ごした全ての夜、 向こう側からの幻視は更に頻繁となり、 より強く鮮明であった。
私が最初に思い浮かべた事は、 より更に多くなるであろうという事が判る、 暗黒の映像であった。
それには、 私に向かって泣き声を上げる、 無数の魂の叫びが内包されていた。
慈悲を求めて叫びを上げる泣き声が。
私の夢がはっきりとするにつれ、 暗黒が動いた事を認識した。
それは、 終わりなく何かを探している大量の触手のように、 のたうち回った。
その光景は、 私が今までに感じた全てを超越する恐怖で私を満たした。
私は、 息を喘がせつつ、
もう夢からは逃れたのだと自分に思い出させてくれる何かを、 手の届く範囲で掴みながら目覚めた。
テントを共有していた同輩の預言者達には残念な事に。


動揺させられて眠る事が出来ず、 私は託宣者の知恵を求めた。
驚いた事に、 或いは、 もしかすると私が期待していた通りに、
我が師は既に彼のテントの中で私を待っていた。
幾つもの角灯のちらつく灯りが、 胡坐を組んで座る彼を照らし出した。
いつもの彼の礼装ではなく、 敷物の上に私達の為に用意された御茶と共にだった。
彼は最初にうつろな目を前に向け、 口を閉ざした笑みを私に与え、 座るように身振りで促した。


私が言葉を述べる前に、 彼は言った: ユゴール。
私は、 あっけにとられて目をぱちくりとした。
託宣者は、 私が夢の中で見た正にその通りを描写し続けた。
まるで彼が そこで私とそれらを共有していたかのように。
尽きぬ餓欲の夜、 彼はそれをそう呼んだ。
超越領域に 存在する永劫の暗黒。
それは根源的な存在であり、 人間の精神では計り知れぬ。
我々はそれを のたうつ大量の触手として視覚したが、 その真の実体は言葉では描写できぬ。
ユゴールは、 あらゆる物を喰い尽くす為に存在し、
その終わり無き追及は、 天界の星々の光輝によってのみ、 押しとどめられる。


私は、 それは現実界の成り立ちの証人となる賜物にして 心の重荷であると告げられた。
私が見た物は、 見え無くする事は出来ず。
私があからさまに動揺し始めると、 託宣者は彼の手を私の額に置いた。
そして少しの間、 誓ってもいいが、 彼の目の入れ墨は私をじっと見つめた。
やがて私は、 自身が急速に落ち着いた事に気が付いた。


私が彼に、 何をしたかを問うと、 彼は何も言おうとはしなかったが、
自身を落ち着かせ悪夢から暗黒を追い出す技法を私に教えよう と申し出た。
それは私が、 砂漠の太陽よりも光り輝く自分自身の星々、
それを夢の中に呼び出そうとする事による明快な技法であった。


私は彼の知恵に 謝辞を述べ、 次の夕べに教えを受ける為に戻って来る事を約束した。
私は立ち去る為に 立ち上がる際、 彼の方をちらりと見た。
彼は従前のままに正面を見つめていて、 その顔には陰鬱な表情が浮かんでいた。
彼の御茶は手付かずのままで残されていた。
私はそれ以上は何も言わずに、 背後でテントの垂れ蓋をそっと閉じた。


私の幻視は、 託宣者を同じく動揺させたようだった。
だが私は、 彼の判断と洞察が
地平線に不気味に迫る暗黒が何であれ、 私達にそれを克服させてくれると信頼する。
私は、 託宣者の教えが 更なる悪夢から私を免れさせてくれる事を ドリーグに祈る。


Worthy Purpose 価値有る決意

内容

この犠牲的行為を、 秘密会議所の至る所に響き渡らせよ。
我々のブラザー ジャロスは、 彼の命をソレイルの刃の前に差し出すに値すると見出された。
名誉を与えられる者は少数で有り、
我々皆の利益の為に重荷を受け入れようとする者は、 更に少数である。


従って、 我々のブラザーの内 ソレイルの飢えを満たす為に、
ただ申し出ようとするだけではない者に関しては、
その者は、 秘密会議所の中央で自身を誇示するように、 胸の地肌に描かれたソレイルの印章を得た。
大変に堂々とした面持ちで、 彼は誇り高く セイゴンと彼の湾曲したウィッチブレイド (訳注: 魔術儀式用の刃) の前に立つと、
皆に向けて、 今日という日が簒奪者に対する彼等の勝利の記念すべき最初の日として記される、 と宣言した。
ジャロスは しきたり通りに跪いた。
しかし彼の眼は決して、 ソレイルの代理人 (訳注: セイゴンの役職) の冷静な凝視から逸らされる事は無かった。


ソレイルにより我々の上に定められた通り、 セイゴンは聖句を唱えると、
ジャロスの額に神秘文字を描く為に、 自身の人差し指に切り傷を付けた。
そして生贄の背後に立ち、 その喉元に聖なる刃を当てた。
これは、 選ばれし者が引き返す最後の機会であった。
しかし、 そのような馬鹿正直者は、 不名誉の為に いずれにしろ恐らく死による最後を迎えるであろう。
ジャロスは、 自信を持って正面を向いた。
彼の表情は誇りに輝いていた。 それが彼の信仰であった。


"ソレイルのため..." 彼が叫び始めると、
セイゴンは彼の喉を切り裂き、 黒炎を纏うもう片方の手をジャロスの胸に突き入れた。
セイゴンは、 死者の心臓を素早い動作で取り出すと、
力を溢れさせる生き血をゴクゴクと飲み干した。
ジャロスの遺体は、 地面に崩れるように座り込んだが、 彼の眼は未だ正面を見つめていた。
ソレイルの代理人は、 ソレイルの祠へ心臓を運んで行き、 数人の従者が 彼の火葬を執り行った。


心臓は華麗な器の中に置かれ焼却された。
そして、 それが燃えるにつれ、 祠の表面の神秘文字は輝きを増した。


"ソレイルは喜ばれておる、 " セイゴンは述べた。 血濡れた唇で微笑んで。


Harnessing the Forgotten 忘れ去られし存在の活用

内容

我々の秘密会議所に この地点を私が選択した事には隠された真意が有る。
ドリーグの預言者達は今頃はもう、 疑いなくそう感じていて、 あなたの蜘蛛達は薄々気が付いている。
そう、 ここではベールが希薄であり、
そしてそう、 それは各教団がエルドリッチ領域の恩恵を上手く活用する事を可能とする、
しかし、 また別の魔力の源が我々のすぐ手の届く所に 埋没されている。


私の強い要請により、 我々の内でベールの神秘について最も才能を持つ学徒 マザーンがこの魔力を利用する役割に従事している。
あなたもよく知る通りに、 そこには、 他の領域、 原初の神々による他の構築物が存在する。
この聖なる地を装飾する彫像達は、 単なるお飾り以上の存在である。
あれらは、 複数の現実領域の間に横たわる導管であり、
充分な意志の力により出入り口を形作る為に操作する事が可能であると思われる。


マザーンは事態の突破口に近付いていると私は信じていて、
ひとたび彼が成功すれば、
我々は、 我々の目的に活用する為の 手付かずの潜在的可能性に満ちた領域丸ごとを得るだろう。
私個人としては、 もしも過去の経験から判断できるのであれば、
我々が明らかにする物をこの目で見る事を熱望している。


Vanguard Must Hold 前衛は死守されねばならぬ

内容

我々の北への試みは、 抵抗の増大に直面している。
あの熱狂者どもは、 我々の活動に気が付くに至り、 我々を押し返そうと目論んでいる。


まず、 奴らは単に我々の防御を試した。
奴等が我々の防御結界を通過するのを見るのは愉快な光景で、 肉の焦げる悪臭が空気に満ちたものだった。
不運な事に、 奴らは数度の襲来をした後
より周到になり、 残念ながら我々の結界はもはや奴らを 食い止められなかった。
センチネル達は、 これら最初の頃の交戦では いくらかの怪我を負ったが、 死者までは出なかった。


カイモンの信者達の数は 我々の想定よりも遥かに数を増し、
奴らの利用する魔力は我々が以前に扱った類とは似つかぬ物で、 よりぞっとする物だ。
直近の襲撃に於いて、 顔の皮が剥がれている上半身裸の巨大な化け物じみた男が、 刃の竜巻で以って前衛に突撃を掛けた。
そいつの"はらわた"は、 我々の軍勢の上に浴びせられた溶融した炎、
それを撹拌する炉を露わにする為に剥き出しにされていた。
あっという間に、 そいつは止まる事無く、 我々のセンチネル達の内四人の命を奪った。
我々は、 やつの頭を切り離す事で、 遂に奴を打ち倒した時に、
そいつの腕が肘の所で切断されて、 熱く燃える刃と融合させられていた事に、 やっと気が付いたのだ。
我々にとっての救いは、 そいつが倒れると他の熱狂者どもは撤退した事だ。
私は、 もしも あのような巨人どもが幾人も一斉に我々に襲撃を掛けてきたら
何が起きるのかを考えるのが恐ろしい。


その襲撃の時は、 我々のすぐ頭上に有り、
私は、 秘密会議所の主戦力が、 ここで我々と合流してくれる事をドリーグに祈る。
援軍無しでは前衛はそう長くは持ちこたえられないだろうから。
だが、 これを躊躇とは解釈しないで頂きたい。
我々は、 三神の名に於いて、 この地点の確保を維持する為に最後まで戦うつもりである!


Korvan Expedition コルヴァン探検旅行

1/5

ここに纏められた文章は、喪われたコルヴァン市へ到達しようとする 我々の旅の記録として機能する。


この探検旅行は、 私自身、 トーマス ピータソンと、 我が尊敬すべき同僚 ロデリック クレーン による 生涯の研究の集大成である。
我々は共になって、 焼け付く砂漠の深部に隠された 黄金の壮麗な都市について語る古代伝承、 それに集中して取り組んできた。
その人民と文化が幾世代も前に消滅した都市である。
学者リオンの研究、 まばらな地域民間伝承群と多数の神秘的な宗教文献、
これらを追う事で、 我々は、 喪われた都市の候補位置を組み立てる事が出来た。


リオンの著述からは、 コルヴァン文明への入口となる主たる港が、
カイラン埠頭と呼ばれた場所であったと我々は知った。
大河の三角州の丁度内陸の保護された入り江に位置する 壮大な沿岸都市である。
しかしながら、 復元されたコルヴァンの民間伝承が主張する所によると、
カイランに在る この三角州の河川の水域と保護された港は、
その文明が滅亡した天変地異的事象と推測される出来事を通じて 炎に包まれて焼失した。
多くの貿易商人達と引退した船乗り達と会話した後、 我々はこの著述にしっくりとくる地点を特定した。
砂漠が海に出会う細長い土地、 エリナ岬の丁度北である。
沿岸から遠く離れ危険を冒して進んだ少数名によると、 そこの地勢と天候は、 どうもかなり危険なようだ。


我々の探検旅行の資金は、 エルーランとマルマス両方の多くの富裕な個人達により 出資されていたという事は、 言及しておかなければいけない。
喪われた都市に対する彼等の興味が、 我々とは方向性が一致しないかもしれない という事は、 私を実に心配させる。
そして彼等は、 我々の進捗を監視して彼等の投資金を管理する為に、 個人それぞれが従者を寄越した。
私は、 物事が彼等の望む成り行きに向かっていないように見えた場合に、 彼等が邪魔をしようとするのではと心配する。
ロデリックは、 彼等の意向が何であれ、 目的地へ向かう我々を妨げる事は容認しないつもりだと請け合った。
とはいえ彼は、 様々な種類の宝物や、 そうでなければ投資に見合うだけの重要な物品を発見する可能性が有ると彼等に伝えたのでは、 と私は思う。


間もなく、 私達の旅は始まる。

2/5

日付 - 二十三日目
今日に至るまでの我々の旅は、 ありふれた演習の如きものである。
船の乗組員達が、 明けても暮れても せっせと決まりきった仕事をするのを見るにつれ、
私はどのくらいの時間が経過したのか分からなくなった。
私は少なからぬ無駄を感じていたが、 船長はこう説明した、 実に幾度も、
我々の関与は 彼の乗組員達をより非効率的にするだけであろうと。
それで私は座り込み、 頭上を過ぎゆく雲を眺め、 私の記録を何度も何度も繰り返し見直した。


全ては今日の朝、 夜明けのすぐ後、 私が砲火の音で乱暴に目覚めさせられた時に変化した。
その強烈な轟音は、 まず私をハンモックから落下させるという始まりを与えた。
私が甲板上へ急いで向かうと、 その光景は全くの混沌と軍隊的な統制された行動が混在した物だった。
何が起きているのかを私が把握しようとする前に、 船長はロデリックと私に甲板の下に居ろと命じた。


騒動が収まった後で、 私は彼と会話する機会を得た。
どうやら、 その夜明けに監視員は所属不明の他船を発見した。
明らかに海賊行為の兆しだ、 と船長は言った。
襲撃を受ける危険を冒す代わりに、 彼はこちらからの攻撃、 その船が射程範囲に入るや否やの砲撃開始を決断した。
彼がした事が何であれ、 それは効果を表して他船は逃げ去った。
しかしながら、 これは地域の海賊の間での標準的戦術のようだ。
彼等は船の後を付けて、 乗組員達の警戒が弱まる夜間に襲撃を試みる。
私は、 我々が不毛な沿岸にすら辿り着く前に、
探検旅行はそのような ぞっとする結末に至るのでは と考えると身震いした。


日付 - 二十七日目
船長は私に、 我々は目的地の近くに居て、 1日かそこら帆走すれば
それからは、 失われた都市を求めての 日数不明の砂漠探索であると告げた。


我々の投資者達が寄越した子守り役の従者達は、 コルヴァン人民の埋葬習慣についてや、
そこで我々が発見する事を願う物品の種類に関しての、 たくさんの不快な質問を尋ねてきている。
私はそのどちらにも解答を持っていないが。
先日、 私は或る種類の古代めいて見える文献を読む人物に気が付いた。
アウレニアル アルケイナム、 とその書物名は読めた。
それは 私が馴染みの無い書物で、 よくはわからないにしても、
それは確実にルミナリの注意を惹くであろう類の物品だ、 と私は言う事にした。
私が彼に何を読んでいるのかと尋ねようとすると、 彼は本を閉じて上着の内に隠すと急いで運び去った。
彼の渋面が全てを 物語っていた。


実に奇妙であった。

3/5

日付 - 二十九日目
我々が陸地に接岸してから、 退屈で神経が苛立つ二日間が過ぎた。
我々の時間は、 注意深く道を選び、
文明の徴候の無い乾燥した峡谷と 不毛の谷間を通り抜ける事に費やされた。
我々は、 武装した護衛を脇腹にごちゃごちゃと集められて旅行する事を強いられた。
厄介ではあるが必要な措置だ。
我々の荷運び人の一人が、 用を足している間に、 未知の捕食者によって 裂傷を負ったのだ。
我々は、 更なる攻撃を妨げる為、 信じられないほど用心深くなければならない。


私は、 動物達の研究については専門家ではないが、
ここでは、 私の自然界への知識を拒絶する 沢山の物事を目撃した。
砂漠の中に こそこそと隠れる大きく重たい爬虫類。
船と同じぐらいの翼長の空を飛ぶ捕食者達。
人間と同じ大きさの甲虫めいた虫達。
ここは、 濃い原始の精力の地である。 我々は正しい道の上に居ると確かに感じる。


日付 - 三十一日目
本日我々は、 初めての明らかな文明の証拠に到達した。
これらは正にコルヴァン人民の残物であると 非常にはっきりと文書の中に描写されたのを、
私が以前に見た事があるだけの、 蓮の花の象徴主義と番人の彫像の崩れた残骸である。
味気無く死んだように乾いた砂漠をずっと歩いた末、 正午頃に我々の前に展開されたのは、
かつての華々しい都市の廃墟が不規則に広がる様だった。
砂に覆われた建造物の残骸を越えると、
大規模な港の残物と 今は乾いた塩の寝床に身を休める古代の船達の遺骨を見分ける事が出来た。
これは間違いない。 ここには カイラン埠頭が在ったのだ。
その港は これらの沿岸に権力と莫大な富を運んだ豪華な通商路で コルヴァン市へと繋がっていた。
外の世界との繋がりとして良く機能した、 今は荒れ果てている その入り江を越えた。
我々の努力は報われた。
我々は今、 かつてエルドリッチの太陽自身が歩いた道の上に居る。


日付 - 三十二日目
我々は、 港町の中心に古代の浴場と寺院複合体を見つけた。
我々の随伴者は廃墟を探検して、 彼等には特異に見える 一粒一粒の砂についての目録を慎重に作る事に固執した
(訳注: 本当に砂を記録するという意ではなく、 取るに足りない遺物まで全てという意)。
それは我々の探検の意図された目的では無く 遅延の為の時間は無い、 という事を彼らに認識させようと私は試みた。
我々がこれほど核心に近付いて居る時では無く、 あれほど多くの準備年月の後で無かったならば別だが。
私は、 無意味な工芸品を回収するという取るに足らない彼らの試みが 我々の進展を遅れさせるのを許すつもりはない。


おそらく、 より思い切った行動の為の時間が来た。
私は、 詮索好きな視線を避けて、 ロデリックと内密に話をするつもりだ。
我々は、 適切な次の手段に関して合意に達するだろう。

4/5

日付 - 三十三日目
今や我々は、 全ての妨害行為から解放された。
金儲けという口実と、 我々を監視する為の "子守り同盟" で我々の自由を制限するほど 収益に拘っていた出資者達から、 釈放されたのだ。
今日の朝、 我々の仲間達が、 更にもう一日 死んだ人々の所有物を分類して目録を作成する為に浴場へと引き返した時、
ロデリックと私は、 外から扉に閂を掛けた。
彼等の宝庫は彼等の墓とも成るだろうと 発見する為に過ぎない盗掘の長い一日、 から帰還した時の
彼等の表情を見る事についての想像で 私は溢れそうになっている。
我々は、 勿論の事、 今や孤立していて護衛も無い。


しかしながら、 我々二人だけでの旅行は、 より容易い物になるだろうし、
私は、 我々を上手に隠し続けてくれて、 飢えた野生動物から我々を保護してくれるであろう 沢山の護符を準備している。


寺院と、 コルヴァン市の燃える中心部へ 前進だ!


日付 - 三十五日目
私は 畏敬の念に打たれた。 非常に死に物狂いの旅の後で、 私はここに立っている。
コルヴァークに捧げられた 壮大な寺院の麓に。
彼の名の都市は、 四方八方に広がっている。
建造物は廃墟となり、 エルドリッチの神に敬意を表して跪くかのように倒れている。
基盤設備群の まさにその土台を根深く貫いた彼の憤怒の傷痕、 何世紀も前にこれらの人々の命を奪った天変地異の証拠である。
今や冷えて 黒い硝子状に結晶化した古代の石の河が有る。
建造物を貫通し彼の怒りの記念碑を形作る ギザギザの岩石の大規模な隆起。
寺院以外の全てが、 廃墟の中に横たわっている。
ここで、 この中心部で、 我々が目指して やって来た物を見付けるだろう。
不変の力、 人類の全ての富よりも壮大な財産だ。


これを我々は 自らの当然の権利として 獲得するだろう。

5/5

コルヴァンの伝説に関する物語達は真実では無かったのだろうか?
我々は、 虚偽の約束によって誤った道に導かれたのだろうか?
かつてコルヴァン市の根源を暖めた白熱した活力源はどうした?


ここには何もない、 啓示も、 偉大な力も。
寺院は冷たくなり、 その心臓は黒くガラス状に硬化した大きな塊だ。
かつて ここに宿った神は行ってしまった。 どこへ? 私には分からない。 彼の運命は 私とは無関係だ。
私は、 ここに残っていた筈の 全て無くなっている力にだけ関心が有る。


今や私は一人きりだ、 生涯の研究と友情は 去っていった... 無駄になった。
ロデリックは死んで横たわっている、 この場所の古代の番人によって打ち倒されたのだ。
唯一指し示される事は、 この場所には全く何の値打ちも無いという事だ。
ロデリックは、 私が寺院の中心に到達できるようにと彼の命を捧げた。
彼の犠牲は、 我々をここへ導いた歴史書が只の御伽噺に過ぎない という事が判明した事によって、 無意味にされてしまった。
偉大な力は、 かつてここに宿っていたが、 とうの昔に去っていったに違いない、
もしかすると他の者によって奪われたのかもしれない。


私には、 行くべき場所はどこにも残されておらず、 これらの壁を越えて生き延び続けようとする理由も無い。
そしてそう、 私はここで同じ様に死ぬのだろう。
私の まことの目的であり、 無駄になる事が定められていた、 我が人生をかけた研究、 その知識と共に。
それとも或いは、 私は我が友を倒したあの番人の所へ戻って、 私を同じようにする事をそれに許すべきかもしれない、
旧きエルドリッチの太陽への最後の貢物として。


Naiema's Letter to Yorhun ナイエマからヨルンへの手紙

内容

私の最愛の人ヨルン,
私達は今、 旅を終えようとしています。
私は、 遠く離れて私達を呼んだ、 砂の海に立つ素晴らしい灯台のようなオアシスを目にする事が 出来ます。


それほどすぐにではないでしょうが、 燃える砂漠の中でもう一日となれば、 イーシャは理性を失うかもしれません。
実の所、 彼女の魂は次第に衰えています。
彼女は、 自分自身がそうなる事が避け難いと心配しています。
彼女は、 ひとたび私達が寺院に到着すると 何が起きるのか、 もしも彼女が司祭達に選ばれたならばどうなるのか、 それを尋ねています。


私は、 もしも彼女が この年に旅をした全ての若い娘達の中から選び出されたならば、
それは素晴らしい名誉だという事を説明しようと試みています。
しかし彼女は、 その必要性に疑問を抱き、 なぜ彼女はホランにその身を捧げねばならぬのかと尋ねます。
私は、 理由を与えようとしましたが、 己の信仰が揺らぐ事を認めねばなりません。
私は、 あなた程の強さは持ち得ていないのです。
巡礼の旅の途上、 自分の娘達を連れた他の人達の中にも同様の事を見ました。


私のように、 若い娘の頃に旅をした事を覚えているであろう人達は、 期待と不安を感じていました。
私は、 同じように私を寺院の階段へと導いた、 母の信仰に対する疑問を思い出します。
彼女が、 それほどまでに喜んで私を手放そうとするのは解せない事のように思えました。
でも彼女は、 禁欲的で信心深いままでした。


私は、 自分が母がそうであったようでは無い事を恐れています。
どうすれば、 私は我がいとしの蓮のもとを去れるでしょうか、
もしも彼女が選ばれたとすると、 どうすれば、 私はイーシャを ただ手放す事ができるでしょうか?
彼女に、 私の本当に感じている事を伝える事さえ出来れば。
彼女の最期のひと時に、 ただ抱きしめて共に泣く事さえ出来れば。
しかし、 私はそれが出来ぬと知っています、 私は彼女の為に強くあらねばなりません。


ホランに感謝を捧げ、 彼の提供する全てに対して貢物で対価を払う事が、 我々にとって如何に重要かという事を、 私は知っています。
ですが我が愛する人、 美しく若い娘、 私達のいとしいイーシャがそうなるのを見る事、
彼女を喪った私達の人生を想像する事は、 とても大変に厳しい事です。


私は今、 私達が寺院に近付く為の最後の準備を始めなければ なりません。
私は、 かつて巡礼の旅で我が身に着けたドレスを、 イーシャに寸法が合うように直しました。
彼女は、 その名前でそれを着る四番目となるでしょう。
ひょっとすると、 それが彼女に幸運をもたらすかも。
それを着た彼女は、 とても美しいでしょう。 彼女がもし選ばれたならば、 ホランはお喜びになるに間違いありません。


あなたがこれを読む迄には、 儀式は終わり、 私は家路へと付いている事でしょう。
私を許して下さい、 でも私は、 一人で帰る事にならぬように祈ります。


いつもあなたの,


―Naiema
―ナイエマ


The Burning Shores 燃え上がる沿岸

内容

私は、 私達に降りかかった悲運が何かを見抜く事は出来ません。
湾内の水は、 まるで液状の炎の如くに燃え、 埠頭に沿って停泊していた無数の船が、
鍛冶屋の炉にくべられた小枝のように あっという間に焼き尽くされました。
地獄のような炎は、 湾を越え迫り、 私達の都市、 私達の家を脅かしました。


私には、 生きながら焼かれる水夫達の悲鳴や、 火炎が広がった街路の混沌が、 まだ聞こえます。
私の体は恐れで麻痺していますが、 私の頭の中には様々な思いが駆け巡っています。
私は、 夜明けの光の中で 私が証人となった光景や、
または、 何がこのような想像も出来ぬ悲劇を 私達の上にもたらしたのであろうか、 については理解が出来ません。
私の心の内から消えぬ湾の炎の残像は、 終わりの無い悪夢のようです。


イェーランの冷静な心と 素早い行動がなければ、
私はその後に続いて起きた最初の狂乱の中で死んでいたかもしれません。
他の者達が狼狽えて逃げ出し、 その過程でお互いを踏みつけ合う間、
イェーランは、 私達をまとめ上げると、 小さな必需品鞄と共に彼の荷馬車の中に乗せました。
遅れも惑いも無く、 彼は出口の門の方角へと最速の走り方で馬を遣りました。
彼は、 残って他の人を助けなければならないと言って 来るのを拒んだのです。


オシール寺院に避難者達が集まり続けましたが、 私は愛する夫の姿に出会う事はありませんでした。
私は、 彼の身がどうなったかは判りませんが、 私達の将来が実に暗いであろうという事を恐れます。


北の方角の空は、 燃え上がっています。
赤熱した複数の柱が、 コルヴァン市に垂れ下がる暗い灰色の雲へ向けて飛び跳ねています。
カイラン埠頭を襲った呪い その全てが、 そこでも同じように続いているようです。


南の方で、 私達が安全を見付けられる事を私は祈ります。


The Trials of Horran ホランの試練

内容

水を飲み、 その浄化された流れの中に身を浸す全ての者は ホランに感謝を捧げ恩義を負わねばならない。
それは、 エルドリッチの太陽の渓谷に流れる命を与える、 彼の愛の血なのだから。


寺院の壁がラーンの光で輝く前、 最初のコルヴァンの人民が彼等の信仰の帝国を築く為に到着する前、 そこにはホランだけが居た。


神々の中の神に対する彼の信仰の深さ故に、 彼の民族に蔑まれ迫害されて、
ホランは孤独の中で献身の人生を探す為に焼け付く砂漠へと立ち去った。
しばらくの間、 彼の為に提供された砂漠は、 彼の前に何の生き物も提供はしなかった。
そこでは、 ホランは幸福に暮らし、 目覚めている時間を彼の信仰に対する瞑想に費やした。


やがて、 男盛りの生き物が皆そうであるのと同じく、 ホランも寂しくなるようになった。
そしてそう、 彼は我等のエルドリッチな庇護者に祈った、 彼が所有する全てを交わりの楽しみの為に引き換えにすると。
アテフの赤熱光が焼け付く砂漠を美しく飾ると、 彼は病に罹り
冷たい夜が彼の上に降りても、 昼の熱さがいまだ彼の肌を焼いた。
彼の神は、 彼に眠りを命じ 彼は熱病的幻像に襲われながら眠った。


夜が明けると、 ホランは夢から目覚め、 彼の探究の旅を決意した。
彼の唯一の所有物、 彼の為に沢山の乳を出し最上の年月を与えてくれた、 山羊のアイネスと共にである。
そしてその産出物を腹一杯に詰め込むと、 彼は砂漠の深部へと行進した。
その朝、 ラーンの燃える光は彼に重くのしかかり、
そしてその後七日間の間、 彼は食物も休みも無しで行進した。
五日目にアイネスは、 それ以前の多くの生き物達のように、 熱に屈してそれ以上進めなくなった。
弱まっている体力で、 ホランはその獣を運び、
その肉体が最早彼に仕える事が 出来なくなる迄世話をした。


そこで、 彼の旅の終わりに、 ホランは衰弱しエルドリッチの太陽に慈悲を請い祈った。
彼の神は、 死んだアイネスを横たえ、 その獣の喉を切り裂いて、 その血を砂の上に吸わせるように命じ、
ホランは彼の主人の求める通りにした。
アイネスの命の深紅の水流は、 砂の上に零れ落ち、
真昼の太陽によってシューッと音を立てて燃え上がった。
燃え上がる命の水溜まりからは、 一人の女性がそこに生じた。
エヤーナ と名付けられた彼女は、 ホランが非常に熱望していた その愛情を彼に注いだ。


エヤーナとホランは 共に快楽だけを知って、 しばらくの間は彼等は幸せであった。
しかし、 彼等の愛は何も実を生じさせず、
故に彼等は、 欲望を十二分に満足させる為に、 再び神に祈った。
こうして、 ヤリアが生まれた。
ラーンとアテフの両方が、 如何に彼女の瞳の中に太陽と月の輝きが踊り瞬いているかと嫉妬を抱くほどの、
そのように計り知れぬ程美しい子供であった。
エヤーナとホランは、 今ひとたび幸せであった。


しかし、 贈り物は与えられた物であって
未だ支払うべき代価が付いており、 それ故に、 砂漠は彼等に牙を剥いた。
争いと諍いが、 エヤーナとホランを取り囲んだ。
彼等の触れた食物は、 古びて腐った。
彼等の飲んでいた水は砂と変わり、 若いヤリアは飢餓の病に罹った。


行き場を失ったホランは、 彼の神に慈悲を乞い、 エルドリッチの太陽は答えを与えた。
しかし、 ヤリアの命を救うには、 支払われるべき代価が存在した。
ホランは再び、 主人が命ずる通りにアイネスを始末した刃を取り上げた。
そして、 彼がエヤーナの寝床に跨り立ち、
そのギザギザで恐ろしい刃を彼の上に高く振りかざした時、 ホランの表情は怯んだ。
彼は愛する者の命を奪う事は出来なかったのだ。
ヤリアの命を救う為であってさえも。
ホランは、 その刃を彼自身の上に向きを変え、 その爪のような鋭い縁を彼の喉に沿って 引いた。
しかし、 何の跡も生じなかった。
すると、 エヤーナは叫びを上げて彼女の喉を必死に掴み、 真っ赤な命が、 彼女の指の間から滲み出た。
ホランは、 彼女の傍に駆け寄ったが、 既に遅かった。
暖かい血が彼女の体から溢れ出し、 彼の足元を覆う砂に溜まった。
エヤーナの命の水溜まりからは、 浄化された水の絶え間ない泉がほとばしった。


エルドリッチの太陽は、 彼に祈る者に もう一度応えたが、 ホランの命は彼自身の物では無かったのだ。
ホランはヤリアを泉の水に浸らせて、 彼女は癒された。
しかし、 その愛すべき子は、 彼女の母の死によって、 決して彼を許そうとはしなかった。
強欲の代償として、 ホランは彼の最愛のエヤーナの死を全き永遠に渡り思い出さねばならない。
そのような尽きる事の無い命で呪われたのだ。
そしてそう、 いつの日か ヤリアが最期の息を深く吸い込む時、
彼は彼女を その腕に抱くに違いない。


神格の代価とは、 そのようなものであるのだ。


Carmac's Notes カルマックの覚え書き

内容

この生き物は実に魅力的である。


私や、 私の前任者達によって以前に文書化された何にも似ていない。
その生き物の牙の突き出た胃は、 捕食性の植物がその無防備な餌食を待ち構えるように、 殆ど動かずに表面に位置している。
その生理機能の可視的な部分の大きさに基づくと、
私の最も正確な見積もりが示す所では、 我々に見えているのは、 その生き物の10%未満である。
表面下で埋もれている部分は、 恐らく、 実に巨大でコルヴァン砂漠全体に広がっている。


この見解を思案する事すら正気では無いように思われるが、
それは恐らく誰か勇敢な者が (愚か者でもいいが) その獣の内側に入って自由に歩く事が出来る程に巨大である。
生き物の消化器官に関する生物学を信じれば、 当然の事である。
同様の冒険は、 フレアノール半島の巨大なサンドワームに対し試みられた事が有る。
それらの遠征は明らかな不成功に終わった事が 証明されているが、
この獣は記録上の それらのどのワームよりも何倍も巨大である。


この発見は、 私の生涯の研究の集大成である。
私は、 このような好機を逃す事は出来ない。 それがどんなに異様なように思われるとしても。


必要とされる準備は全て整った。
その獣についての、 私の最初の観察が指し示すのは、 それは日中最も暑い時間帯の間は部分的に休眠状態にあるという事だ。
ぽっかりと口を開けた胃へと下降していこうと私達が試みるのは、 その時である。


Anorak's Journal アノラックの日誌

内容

アラルは、 オラ達三人が奇妙な連中、魔神崇拝の熱狂者らの集まり、 と一緒に仕事するようにしただ、
だども、 オラ狼狽してる。
一つには、 ああいう物議の的になる連中と ごっちゃ混ぜになるつうのは、
それで得する事よりも、 ヤバさの方がデカいっつうのがハッキリしてる気がするだね。
連中は、 物凄く沢山揉め事が有るようにも見えて、 みんなそれぞれが違う神さん達に誓いを立てていて、
どいつもそんなにあんまり長生きしねえように見えるだ。


連中は、 どうにかこうにかオラの兄弟達を連中の小さなカルト教団に参加させるように誘い込んだんだ、
だけどもオラは、 あの二人は、
魔女達の売り歩くマンボージャンボー (わけのわからない宗教儀式) に巻き込まれたりはしてねえ、 って感づいてるだ。
あいつらは、 オラ達が取引全部に賛同する事で "好ましい利益" を上げるだろと考えている可能性が有るだ。
だとしたら、 アラルとアンデランはそれを隠して "すげえ上出来の仕事" をやってるだ。
あいつらは、 日課の儀式に参加してて、 あいつらの"新しい神さん" に平身低頭してるだ。
そいつは奇妙な光景で、
あの二人の馬鹿が あいつらを金持ちにしてくれる以上の何かを好んでるフリをしてるだよ。
オラ、 あいつらがオラをそれに 参加させようとしてくる迄に どのくらいの時間が掛かるんだかなあって。
オラそれについては、 あいつらと喋る機会が無かっただども、
こういう熱狂者の集団を騙すってのはヤバい仕事になる恐れが有るだね。


差しあたっては、 魔女達はオラ達をよく潤してくれて、 連中がオラ達に漁って欲しがってる墓の不足も無いみたいだ。
連中が何を欲しがってるのかはオラは正確には知らないだども、 普通の装身具には何の興味も無いみたいだあね。
連中はオラ達の最初の収穫には むしろ不満げで、 それらは全部無駄なガラクタだって言っただ。
オラ達は単純に普通はよく売れる、 宝石とか、 高価そうに見える物を分捕ってきたんだども、
連中は、 偉大な貫禄、 オーラ、 とかなんかそんな意味のを持ってる物品に向けて、 オラ達の努力を集中しろと言っただ。


何よりその上、 キャンプの中の物事が激しくなってるだ。
魔女達は何かに向けて用意をしているようで、 連中同士の中で議論して、 こっそり計画を立てているだ。
ここには、 沢山の奇妙な人らが来ては去るだども、
数人はどうやら北の方にあるコルヴァン市の残骸での好ましくない行為についての噂に関心を持ってただ。
オラ達はそこへ向かう計画は全く立てた事は無いだども、 少なくともオラは行きたくないだ。


今朝、 カイラン埠頭へ二度目の墓掘りに出発しただ。
そこには廃墟の下に埋もれて、 魔女達が特に興味を示す墓所と寺院が網めいて繋がって存在しているだ。
オラ達は以前そこへ 降りていった事があって、 それらの場所の殆どは何年も前に調査されているようだっただね。
だども、 オーラ...の有る代物がまだその下にあるだ。
とにかくオラは、 アラルとアンデランを厄介事から守る為に手を尽くすつもりだあね、 いつもの通りに。


Rion's Notes リオンの覚え書き

1/7

私は認めねばならない、 この地は正に砂漠の宝石である。
私は世界の遠く隅々にまで及んだ旅の数々で、 多くを見て経験した。
悲しい事に殆どの光景は それら自身についての物語達には添わなかった。
この地は、 しかしながら、 その物語の雄大さすら超える驚異である。
その美と雄大さを書き写す事は、 私にとって挑戦でさえあると判るかもしれない。


私は昨晩遅くに、 カイラン埠頭に船により到着した。
私の借り上げた、 "尖塔"と呼ばれる商船には、 遠くの沿岸からの上質な品物が船べりまで詰め込まれていた。
その船の船長、 がっしりとして白髪交じりの水夫、 彼の献身と統率力は その乗組員達の気概にはっきりと表れていた。
繊細に調整された機械のように、 コルヴァン河の三角州地帯の西の危険な水域を、 彼等は巧みに航行した。


我々はまず、 まだ海上に居る間に見事な港を発見した。河口の数マイル手前にそれは位置していた。
カイラン灯台が地平線の上に明るく輝いていた。
至る所にある信号の魔法の動力が何かはわからなかったが、
その強烈な光は、 炎に向かう蛾のように、 海から船達を引き寄せていた。
我々が河の上流へ航行するにつれて、 意気込んだ処女のように、 その港が自らをさらけ出し始めた。
数え切れぬ暖かい黄色の光が 磨かれた砂岩で出来た構造物達を やさしく照らし出した。五つの物語達が語ったよりも幾分多く。
美しく創り上げられた彫像と泉の数々が、
数々の庭園と、 素晴らしいバザール (東洋的市場) で溢れ返る公共の空間を見下ろして誇り高く建っていた。
港そのものが活気で輝いていた。
船から縄で釣り上げられるコンテナ達。港湾労働者達と商人達は取引をまとめる。
乗組員達は酒場と上質の売春宿で休息を取っていた。
私は数週間ぶりに、 しっかりとした地面に足を下ろし、 その後すぐに現地窓口役から挨拶された。
リラックスした感じがする美しい中年の女性で、
優雅な滝のように彼女の姿を覆う 目を引くほどに美しい刺繍入りのガウンによって、 更に高められた魅惑的な足取りだった。
彼女は私を、 桟橋から離れて港湾都市の中心、 私がその夜泊まる宿へ案内してくれた。
私は 彼女も一緒にどうかと礼儀正しく提案したが、 その誘いは丁重に拒否された。
しかしながら、 これでさえ私の機嫌を悪くする事は無く、
一人きりではあるが、 私は人生で最も素晴らしい眠りの夜を得た。
バザールは、 途切れる事の無い活気による旋律的なざわめきで、 私を優しく揺らし眠りに就かせた。


今朝、 私の進路は北の首都コルヴァン市へと向かう。
私は、 東西南北から都市の中心部へと導く 染みひとつない石造りの道路に沿って
日常的にそこへ旅をする小さな隊商に、 同道するつもりである。
私は今、 宿の丁度すぐ外の進む道が見える 目を引くほどに美しい庭園の木陰に座って待っている。
その石組は優しい朝の太陽の中で輝く。
その境界線には見渡す限りに、 染みひとつない金箔の真鍮細工師の刻印が為されている。


私の旅の次の行程が、 最初の物に匹敵するのであれば、 それは実に一生物の経験となるであろう。

2/7

私は今日、 過酷な三日間の旅の後にコルヴァン市の中心部へ到着した。
その旅行は カイラン埠頭の防壁を越えてすぐの 瑞々しく茂ったオアシスを横断する時の高揚した調子から始まった。
コルヴァンの首都とは、 全くの別物である。
青々としたヤシの木が、 抑え切れない激しさで深部から泡立つ地下の泉によって 供給され流れる水流の岸辺を優美に飾る。
荒涼とした砂漠の真ん中では、 これは真に目を見張る光景である。


私は、 この一つの水源が地域に最も清浄な水を供給していると伝えられた。
明らかに、 全ての類の水商人達が、 そこから生気を与える甘露を集めるという唯一の任務と 国中にそれを配給する為に存在していた。


これは、 地域の奇妙で根深い信仰に私が最初にさらされた場所でもある。
私の旅の仲間達、 カイラン埠頭からコルヴァン市への定期隊商は、
オアシスの中心部に位置する、 ホランの聖域として知られている寺院で足を止める事に固執した。
焼け付く太陽が最も高い位置にある間に、 彼等が足を止めるというのは明らかに重要な事で、
彼等が神の慈悲と僅かな収入に感謝を捧げる日課の儀式を遵守するように定められた時間であった。


何故、 こんなに過酷で容赦ない土地に囲まれた文化が 全てに感謝しようとするのかを私は理解した。
それが、 このような大変魅力的な文明を作るように彼等に光彩を添えているのだ。
いずれにせよ、 この信仰の為に定められた時間が 一日の中で一度では無く何度も有る事から、
私はすぐに これらの儀式に対して慎重になる事を学んだ。
何故コルヴァン市への旅が三日間掛かるのかという事を、 今は知っている。


我々の旅の二日目に、 コルヴァン市郊外の より小さな都市を通り過ぎた。
それは真に特異な景観であった。
実際的な住居よりも多くの寺院が有るようだった。
私はそれが、 宗教的実践の為の中心地、 或いは、
地域信仰の最も信心深い信者達がコルヴァン本土の賑わいに邪魔されずに
彼らの様々な儀式を行う事が出来る場所、 であると推測する。
丁度、 広大に拡がる墓所の連絡網を横たえる寺院都市を通過する際、 私は隊商の馬方の一人に こう伝えられた。
過去のコルヴァンの指導者達と コルヴァンの信仰の力強い帰依者達が、 数え切れぬ程の貴重な遺物に囲まれて、 ここに埋葬されていると。
明らかに、 その渓谷は埋葬の地に選ばれた場所であった。
何故ならば、 彼等の神の沸き立つ熱い血が そこの表面近くまでに流れていたからだ。
私はここには、 渓谷を流れ通り覆った古代の溶岩が有ると推測した。
もしかすると長い休眠状態の火山の残物かもしれない。


これらの意外な新事実は、 全く好奇心をそそる物で、 更なる調査の価値が有った。
私はコルヴァン市で過ごす時間を通じて、 この信仰の実践と実践者について より多くを学ぶことを望むだろう。

3/7

今日は私がコルヴァン市で丸一日を過ごす始めての日だった。
そして私は全くの所、 始めてカイラン埠頭に上陸した時と同じぐらいに、 その荘厳さによって畏敬の念に打たれた。
その都市の焦点は、 私には馴染みが無いが、
地元の神学体系を支配する神格である、 エルドリッチの太陽、 コルヴァークに捧げられた壮大な寺院だ。
寺院の荘厳さは言い表す事が出来ない。
それは、 視界内の全て、 近くの山々ですらを小人にするように見えた。
そしてそれは、 真昼の太陽の中でも その熱を感じる事が出来るほどの熱量を放射している。
私のような無神論者でさえ、 本当の称賛をしている自分に気が付く。
その寺院の熱は、 数年の間に徐々に弱くなっていたが、
祝賀と儀式のお陰で、 近頃再び火勢を増したのであると私は伝えられた。
私はそれが地勢的な要素、 おそらく火山か熱泉の類、 の上に建てられているのだと推測する。
私は、 もっと詳しく内部へ接触したいと非常に強く願わざるを得ない。
しかし、 私が都市の周辺で より小さな寺院を幾度か訪れた事で気が付いたように、 これが実現する事は有りそうにない。
この中心的な寺院は、 特別な重要性を有していて、
そこへの入場は余所者に対しては厳しく禁じられているのだ。


しかし、 これは地域信仰の焦点となっているようだが、
コルヴァークはコルヴァン人民によって崇拝されている唯一の存在ではない。
人々が "上昇せし者" (アセンダント) と呼ぶ、 より下位の神々もまた存在しているように見られる。
この事が正確に何を意味しているのかは、 私には明確には分からないし、 私に対して率直な回答を持つ者も居ない。
これらの神々各個人について述べる物語達は それぞれに変わっていて、
彼等皆は誰も、 聖人や敬虔な修行者ですら無いように思われる。
私の所見では、 彼等は恐らく神聖視されるに至る為の彼等の手腕が非常に恵まれていた個人達で、
それにより社会的な敬意が払われたのだろう。
とはいえ、 下位の寺院は彼等の栄誉のもとに建設されていて、
彼等は各自の正義と様々な手段において最大に崇拝されている、
時には まだ生きている 時でさえも。


私は、 何が個人にそのような名誉の地位の為の資格を与えるのか、 という事を非常に知りたく思っていて、
そしてそう、 明日私はエルドリッチの太陽の中心的な寺院の周辺に位置している
幾つかの寺院を訪問するつもりだ。
生まれつきの権利によって私の接触が許可されぬとしても、
数枚の貨幣による賄賂が恐らく許可するだろう。

4/7

本日のコルヴァン市の墓所と寺院についての調査の後で、 私は更に困惑させられたと言わざるを得ない。
率直に言うと、 私がこうであろうと想像していた以上のコルヴァンの信仰に心を奪われたのだ。


今日私は、 ラーンの寺院での式典の目撃者となる為の特権を得た、
そこでは、 "上昇せし者" (アセンダント) 自身が、 栄誉ある儀式を執り行う為に出席していた。
ラーンは太陽そのものを越える領域を保持していて、
大地を暖めて収穫物に命を与える為に太陽が日々昇るのは彼の祝福によるものだ、 というのが私の知識である。
式典そのものは短時間で、 黄金の祭壇に捧げられる五匹の山羊の屠殺を含んでいた。
その血は、 複数の突起の有る太陽の形をした彫刻へと零された。


ラーンは、 目を見張るような光輝に満ちて、 彼の肌は、 身に纏う鎧と同じ様に金色をしていた。
鎧は燃え上がる精力で 照り輝いているのに、
寺院の侍者の数名が その手をその上に置くという祝福された機会から、 私に述べた所によると、
それは触れてみると冷たいのだ。
彼が自身をこの場に置くやり方は、
この男性は神格であるに違いないと彼の信奉者達が信じる理由を、 容易に理解させる。
侍者達が私に語る所によれば、 これは実にラーンの十二代目の転生であるという事だ。
彼の父親は十一代目で、 同じ事が彼の家族の家長に連鎖的に起きる。
伝えられる所では、 彼ら各人は、 何世紀もの間生き、 その人生をエルドリッチの太陽への奉仕に喜んで差し出すのだ。
私は、 この人物の神格化が、 彼の生まれつきの権利であったという事を発見し驚愕した。
しかしながらそれは、
これらコルヴァンの神々の本当の性質に関しての私の疑いの信憑性を高める。


この寺院の侍者達は、 むしろ喜んでラーンの歴史を私と共有しようとしていた。
これは誓って言えるが、 もしも私が彼等をそのままにしておけば、
彼等は一日中ラーンの数え切れぬ成果と聖なる介在について語ろうとしただろう。
しかし、 私の興味を惹き付けたのは、 ラーンと、 彼等が月の主君アテフと呼ぶ
もう一人の神格、 との間の 当然の事と思われている競争であった。
この競争が過熱するにつれて、 アテフ(私は覚えた)はエルドリッチの太陽を軽んじた。
彼はそれに従ってコルヴァン市に足を踏み入れる事、 また、 肉体に注ぐ昼間の暖かさを二度と感じる事、 から追い払われた。


しかし、 聖なるコルヴァークは慈悲が無かったわけではない。
太陽が三十週する毎に一度、 汚名を負った者アテフは、
コルヴァン市への巡礼の旅を行い、 偉大なる寺院の階段の上に供物を捧げる事が出来るのだ。
これは、 昼夜の入れ替わりと、 月の満ち欠けについての、 風変りで非常に創造的な説明である。


もしもこの、 "昇天" (アセンション) についての奇妙な慣習では 不十分であるならば、
コルヴァンの渓谷の人々は、 野生動物をも神格化しているようで、 時には人々と動物達とが奇妙な連携をする。
コルヴァンのグリフォンは、 この慣習の特に一般的な対象である。
この生き物達は明白に、 通例では牡の、 "君主"としてコルヴァン人民に知られている
特定の上位個体一匹を上に掲げる 堅固な階級的群体の中で暮らしている。
これらのグリフォンの君主達は、 二流の神格として地元民から信仰されてもいる。


コルヴァンの信仰の複雑さは注目すべきではあるが、
彼等全員は、 一つの流行かまたもう一つの後でコルヴァークに戻って行くという事は言及されないようになってはならない。
私は将来の調査を、 この最後から二番目の神格に集中させるだろう。
(訳注: アメリカインディアンのナラガンセット族が 彼等の信奉する万物の創造神 "コウタンタウウィット" を
"最後から二番目の神格" と位置付けていたり、 ムスリムの教典では、 キリストを "最後から二番目のメシア" と定めていたりする。
この記述は 同じような宗教的ニュアンスで 創造神や救世主としてのコルヴァークを指すと思われる)

5/7

私は最早、 コルヴァン市への最初の到着から幾日が経過したか数える事ができない。
私は、 太陽の昇り沈みの轍を見失った程に、 私の研究に包まれている。
ラーンは私に大変失望するだろう。


私は、 自分の注意を引き離す事が難しいと気が付く。
私は、 日に三度の食事を私に運んでくる若い男性を雇った。
そして私は、 それらが私の房室に通じる扉の外に積み上がっていると認めなければならない。
私の時間は文書と大冊の山に注ぎ入れる事に費やされる。
そこからこのコルヴァークの起源をよりよく理解しようと試みる儀式と式典に。


私がここまでに学んだ物は、 真に魅力的だ。
私が遡る事が出来る限りに於いては、 彼の存在または領域への矛盾、 彼の崇拝の進化、 は無いようである。
まるでコルヴァンの宗教の中核は、 どういうわけか その発端からずっと純粋なままで残されているようだ、 極めて珍しい事に。
それはこういう事である、 即ち、 その創設者はその本当の起源を隠す事に多くの力を注ぎ込んできた。
私が熟読した文書は、 彼らの式典と儀式が、 数世紀前に最初に規定された時のように今日行われるようにと、
まるでそのように思わさせる。


これらの文書に従うと、
コルヴァークは、 我々の世界とは並行した存在の 彼がまさしく作り上げた次元、 エルドリッチ領域全体に君臨している。
それらの文書は、 その栄華についての証人となって生きるであろう人間は居ないと言う。
幾人かの愚か者が試みて、 それに対する究極的な代償を支払った。
その文書は、 生意気にも神の領地へと侵入しようとする全ての者に
警告を発するように立つ多くの眼を持つ守護者についての注意を与えている。


コルヴァーク 彼そのものは、
原始の存在、 古代の不滅の、 人類が愛情を持って大事にする物全ての創始者、 と考えられている。
彼のエルドリッチの玉座から、 コルヴァンの神は彼の支配を執行する為に幾多の覇者達を "上昇"させた。
彼は、 彼の崇拝に敢えて疑問を呈する者達をなだめる手段として、 彼等を "上昇"させる事すらも知られている、
かつての敵達を不動の同盟者達に変えるのだ。
現在よく知られる ラーンとアテフの名前は、
コルヴァークの聖なる活動の周囲を巡る重要な物語達の中で何度も話題になった。
コルヴァンの信仰の歴史は、 実に作られている最中の時代なのである。


エルドリッチの太陽は、 祝福された炎と破壊の恐ろしい脅威の両方として叙述されている。
彼は、 彼に崇敬の念を示す者達から、 崇拝もされ畏れられてもいるようで、 そしてそれにも正当な理由が有る。
もっとも、 コルヴァークは通常、 彼の信奉者には慈悲深いように叙述されている、
そこには幾多の災害や徹底的な浄化の記録が有るが、
それは、 彼を不快にする人間に向けての、 神の天罰に起因していた。


これらの出来事のいくつかは、 薄気味悪いほどよく知られているようだ。
何故かを思い出す事は出来ないが。
私が接触した事の有る この付近の地域に似たような神話が存在すると私は薄々気が付いている。
私が且つて調査した、 原始的な習慣との注目に値する類似性を持つ、 かなりの数の儀式も存在している。


この事は、 古代からコルヴァークを崇拝している 他の部族と文明達が有るかもしれない (だが恐らくは 違う名前で) という想像へと私を導く。
これは、 更なる調査を必要とするであろう問題だ。

6/7

コルヴァンの文書群への、 最新の進出の最中に、 私は驚くべき発見をした。
コルヴァン市立図書館の膨大な収蔵品を探検中に、
私は一時的に図書館の係員達の注目から逃れて、 立ち入り禁止の記録保管所への行き方を見付けたのだ。
幾つかの最も権威有るコルヴァンの家門の古代の出生記録、 (数名の "上昇せし者達" を含む) その中で、
これらの人々の生活の要となる まさにその信仰の中核的教義の幾つかが、 粉々に砕けたように思われる文書の一群を私は掘り出した。


頁の大部分は酷く傷んでいた、
まるで、 どんな防護の魔法であれ、 それに掛けられた物が乱暴に消し去られたかのように。
奇妙な事に、 その羊皮紙自体は、 私が見てきた記録の幾つかよりも新しく見えた。
おそらく、 損害を受けた記録を誰かが後日に修復したのだ。
私が理解出来たのは僅かばかりであったが
しかし、 コルヴァンの信仰の初期の時代に関しての大変異なる説明が描かれていた。


コルヴァーク彼自身は簒奪者、 彼が創造に寄与していない領域の征服者、 として示されていた。
現今語られる "コルヴァーク"は、 これらの文書の中に記述されている者と全くの同一であるのか、
或いはそれは、 エルドリッチの玉座の支配者へ与えられる呼称なのか、
それは完全には 明らかではない。


もう一つ物珍しいのは、 そのような力の遷移に関係する大変動、
不運な信者達がその中に捕らえられた創造と破壊の旋風、 それについての叙述だった。
哀しい事に、 私がその文書の分析を完了出来る前に、
係員の一人が立ち入り禁止の文書保管所内の私の存在を発見し、 即座に私を建物の外へ追い出した。


どうにかして私が読んだ僅かな物は、 幾つかの悩ましい結論を提供する。
コルヴァークの支配は、 以前と同様に揺らぐ事を運命付けられているのか?
もしそうならば、 そうなる時、 同じ破壊がこれらの人々を焼き尽くすのか?
コルヴァンの信仰の起源に関する 私の研究の素晴らしい集大成に相当する程の これらの文書に、
私が更なる時間を費やす事が出来ないのは真に残念な事だ。


嗚呼、 私はこの地を離れる準備をしなければならない
そして、 私は大変多くを学んだが、 一生の知識以上の物がここに隠されていると確信する。
コルヴァン人民の献身と策謀は、 私にとって最も魅惑的な研究の一つとなった。

7/7

悲しい事に私のここでの時間は終わりを迎えた。
そして私は、 この最も華々しい旅を最初に始めたカイラン埠頭に自分が戻っていた事に気が付いた。
私は、 魅惑的な現地窓口役にもう一度再会した。
カトリス が彼女の名前だと、 私は知った。
そして、 まるでこの素晴らしい場所が私に別離の贈り物を与えたがっているように、
私の最後の夜の宿所で共に過ごす事に彼女は同意した。


明日、 私はもう一度商船の"尖塔"に乗り込んで、 遠く離れた海岸へ向けて出発する。
私の目的地、 エリナ岬とその向こうに横たわる自然のままの土地へ。
そこで私は、 先住民と接触を持ち、 彼らの薬草療法の深い知識と、
人間を生贄として神に捧げる事への飽く事を知らぬ偏好について研究しようとするつもりである。


私の旅が、 私をどこへ連れて行こうとも、
私はここ、 コルヴァン盆地での時間を確かに慈しむだろう。


Captain Freinhaul's Log フレインホール船長の記録

内容

数か月の旅の後、 我々はカイランの港へと辿り着いた。
そしてそれは 厳しい数か月だった。
乗組員達は、 彼等が受けるに相当する以上の苦しみを被った。
我々の海上での第一週目では、 異常な嵐が船倉を水浸しにして、 我々の美味い食料の相当部分を台無しにした。
給仕は本来の予定よりも少ない量の食糧を皆に割り当てざるを得なくなった。
食事時間が来ると、 かなり多くの彼の命に対する脅迫が有った。


乏しい食糧事情に加えて、 我々がターケン諸島の近くを通過する際に、
特段にふてぶてしい原住民の海賊達が小さなカヌーから船に乗り込もうと試みた。
彼等が、 船を奪う僅かな機会を得た時に何を考えていたかは私には判らなかった。
彼等の内誰一人として、 ちゃんと服を着ていなくて、 五人のうち二人だけが武装 (それをどうしても そう呼びたければだが) をしていた。
彼らは、 ほんのざっと作られた槍しか持っていなかった。
我々は、 彼らがそんなに致命的に危険だとは夢にも思わなかった。
乗組員達の反応は、 予想通りに簡潔で、 試みられた奇襲は、 それが始まる前に殆ど制圧された。
しかしながら、 乗組員達のうち二名、 甲板手のバルケン、 新しい水夫のレンネットが、 この事件で軽い怪我を負った。
両名は、 一日も経たぬうちに病み付いて死んだ。
あれら半裸の糞野郎どもは、 我々が寝ている間に全員に毒を盛ろうと企てていた事が判明した。
彼等はふさわしい物を得た、 四肢を縛られての船底くぐりだ。(訳注: 昔の船乗りの間での船上での一般的な制裁手段)
乗組員のうち数名は より味気無い終わらせ方を提案したが、
このような場面で暴徒化する事が流行るのを容認しない事が重要だ。
そのまま、 私は彼等に手を出させなかった。
これは酷い慣習だが、 私の意見では、
もしもあなたが適正な買い手を供給する事が出来れば、 彼等はしっかり素晴らしいコインを取って来るのだ。
甲板長のヤリクは、 ここで彼等を売る相手を苦も無く探してくる筈だ。


船の積み荷は売られて、 船倉は再び満たされる というのが、 港での三夜でまず行われる事になっている。
私は乗組員達に、 評判の悪い地元の居酒屋と 宿泊所で過ごすだろうに違いない休暇を与えた。
私は、 海運業の手筈を整えて、 我々の帰路の為の積み荷の調達を試みる事になっている。


カイランの港は実に見るべき光景である。
その全てが この船長の私が長年海の上で見てきた何よりも何倍も大きい。
何百もの船が接岸していて、 丁度同じくらいの数の船が、 積み荷を満載して河口で待機している。
波止場は良く油を刺された機械のように激しく動き、
汚れの無い都市は、 まるでその光線に浸るように月光の向こうに輝いている。
それでも短い上陸時間の間に、 隠されてはいるが、 どんな成功した港でも
それが支えている 暗い泣き所の証拠の全てを、 私は見た。
裏通りの取引、 不運に足を踏み入れる富裕な商人、 縛られて鎖で繋がれた人々が船倉に溢れかえる船、 遠方の地からの盗品。
我々の帰路は実り多い物になるに間違いない。
私が道義的に芳しくない積み荷を 多くは積みたくないと望むにも関わらず。


Yhania's Diary ヤニアの日記

内容

もしも父が知っているならば、 彼は私を絞首刑にするでしょう。
でも彼は依然として利口にはならないでしょうけど。


アンハドは、 今晩私を呼びました。
私の部屋の窓の下の庭から、 まるで夕べの燕がさえずるように。
彼は一緒に来るよう懇願し、 私は抗う事が出来ませんでした。
視界を避けて、 庭を抜け。 壁を越えて、 私達はこっそりと隠れて夜警を通過しました。
港へ下りた所で私は驚きで少しの間立ち尽くしました。
活気に溢れた様子に、 私は自分の目が信じられませんでした。
都市が眠って休息している間、 波止場は活気に溢れて陽気に鼻歌を歌っていたのです。
私は夜にこれらに出会った事が無かったのです。


アンハドは 私の手を握り、 呆然とする私を気付かせました。
彼は、 最後の船を過ぎて波止場の次へと通り抜ける 秘密の道へ私を導きました。
そこからは、 私達の前に湾が広がり伸びているのを見ることが出来ました。
その さざ波立った海面は、 アテフの光で煌めいていました。
それは、 私が想像する事が出来たよりも更に美しかったのです。
私達は湾に入る船を見ることが出来て、 その帆は、 宝石で満たされた夜空を背にした青白い幽霊のようでした。
私達が水泳に行く事が、 ずっとアンハドの計画でした。
水泳、 事もあろうに。
父は正気を失うでしょう。
彼は私に泳ぐ事を禁じていました、 彼は、 それは若い女性にはふさわしくないと言うのです。


アンハドは、 私に教えてくれると約束しましたが、 今夜は私の腰までの歩く事の出来る海岸に案内してきたのです。
海水は暖かい お風呂のようで、 私が歩くにつれて、 ニルドゥ魚が私の爪先をつつきました。
アンハドは、 埠頭を通り過ぎて泳ぎ出ました。
かすかに光る水面の中の彼を私がかろうじて認識できるぐらいの遠くまで。
私はあそこには、 そこを回遊する巨大な魚が居ると聞いた事があります、
船が捨てるゴミや、 水中に落ちる誰かを待っているのだと。
でも今思えば、 それは人々が子供達を水泳から遠ざけておく為に聞かせる只の作り話だったのでしょう。


何故彼等は、 誰かを泳ぐ事から遠ざけるのでしょうか、 信じられませんね。
私はいつかきっと、 私の子供たちに湾で泳ぐ事を教えるつもりです。


Missive to Elders of Ulzuin's Temple ウルズインの寺院の長老達への信書

内容

尊敬する長老達よ


私は、 我々の保護者にして番人である聖なるウルズインの、
最近の振る舞いに関連する心からの懸念を表明したく願います。
彼等の気まぐれは我々の理解の限界を超えている為、
神の振る舞いを審査する事は、 人間としての我々の本分ではないと、 私は理解致します。
しかし、 この出来事の進み様は懸念の正当な根拠であります。


彼の帰還以来、 その神性が彼自身には御座いません。
彼はこれまで、 我々の寺院の資金が充分すぐには補充出来ぬ程 酒浸りであられました。
私は我々の志願者に、 地元の商人に獲得されるであろう前に
ワインの入って来る積荷を押収するように教える事を、 強いられて参りました。
ですが、 それですら膨らみ過ぎた彼の欲求を十二分に満足させるには足りません。


カイランの隊商は日常的に寺院へと旅程を変更させられております。
我々の保護者の快楽の為の 活きの良い高級売春婦を運んでくる為に。
私は、 積荷の押収と彼等の隊商に関連する夥しい苦情を 商人組合から受け取っております。
私が彼等の面前でウルズインの御名を念ずると、 彼等の声はすぐに静まりますが。


私は、 これのどれも それ単独では気掛かりには聞こえないと想像致します。
しかしながら、 より最近、 神性なる者は
寺院のある特定の乙女に対して並ならぬ関心を持ちました。
彼女は、 若く野心的な尼僧であり、 力強いウルズインは趣味が良いと私は認めます。
彼女の鮮明なエメラルドの瞳は、 その緑の黒髪の下に輝きます、
そして、 彼女の顔は淫らな欲求に赤みが差します。
まず初めに、 私はそれを 聖なる者が多くの異性を獲得する事のまたひとつである と見做しました、
しかし彼は彼女を偏愛し他者を避け始めたのです。
折に触れて、 彼の付き添い役はウルズインの広間へ近づく事を拒まれます、
それは、 彼女が個人的に彼の怪我と欲求の世話をするであろうが為にです。


私は、 天界の憤怒を恐れずに申し出ます。
多くの者が彼の導きと保護を必要としている時に、
ただ一人の人間に、 それほど迄に彼への親密さを増す事を許すのは、 神にとって危険な事となるでしょう。
弱まった状態においても、 ウルズインは容易に私の方に石の火鉢を強く投げつけました、
壁のモザイクに損傷を与え、 火鉢は只の瓦礫になってしまいました。
彼の怒りがおさまるまでは、 私は二度と彼に私の顔を見せる勇気がありません。


今や私には この若い尼僧が聖なる者の注意力を喰い尽くしているのだとはっきりわかります、
蜘蛛が己の網に犠牲者を捕らえるように。
もしも我々がウルズインに、 道理を説き分からせる事が叶わぬのであれば、
我々は彼女から目を離さないでいる必要が有ります。
彼女のやり方と目的について知らねば。
彼女は単に、 神の肉体の楽しみを経験する事を望むだけであるかもしれませんが、
私はこれまで、 我々の強力な神が人間によって それほど迄に心を奪われるのを見た事がありません。


私は、 全ての信者仲間に この警告を心に留めるように、
そして我々の保護者の怒りを招くことなく、 私の努力に協力してくれるように呼び掛けます。
しかしもしもウルズインが、 これらの人間の追求から我が身を守れぬのであれば、
我々は、 必要な処置をとらねばならなくなります、
勿論、 コルヴァン人民の利益の為に。


Rhenet the Rat God 鼠神 レネット

内容

レネットは、 常に鼠であったわけではなく、
常に害獣とコルヴァン盆地の卑しい生き物達を統治していたわけでもない。
彼はかつては力強く誇り高い男、 ラーンの光に浴する誰にでも匹敵するほどの富裕な商人、 であった。


しかし彼は、 生まれつき富と権力を持っていたわけではない。
むしろ、 彼は病気持ちで格下の浮浪者として、
エルドリッチの太陽への彼女の信仰以外には 何も彼に与える物の無い 未亡人の母のもとに生まれた。
そしてそう、 病弱な子供を介護する事が出来ぬが故に、
彼女は己の神に、 レネットが生まれつき得た窮状から免れる為、 自らの命を捧ぐ事を誓い祈った。
死に物狂いの母による祈りは 応えられて、 その幼児は奇跡的に健康な子供に成長した。


若き青年となったレネットは、 貿易船の仕事に従事するよう徴収され、
そこでは容赦のない海さえ彼に好意を示したと言われている。
彼はその従事の中で力強く賢い男に成長し、 水夫としての彼の技量は彼に高い名声をもたらした。
彼は、 与えられた命を尊ぶ為に猛烈に働き、 彼の精力的な働きと献身を通して、 仕えていた船の船長となった。


彼の海上での成功は、
彼はある日カイラン埠頭に戻り それからそこで彼の名を掲げる船艦隊を指揮するだろう、
というほど迄に見事な物であった。
それは、 彼がこの権力の地位を、 彼の壮大な富により作り上げてから、
そして彼が、 自分の卑しい生まれを忘れはじめてからの事である。
レネットが、 己のような人生が偶然の物で有る筈がなく、 己は偉大さを運命付けられていたと思い始めたように、
彼の人生の成功は彼の自我を汚染したのだ。
彼は、 より偉大な力を探し求めて、 与えられた贈り物を忘れたのである。


レネットに仕える者達や、 彼に忠実な者達が、 彼に崇敬の念を浴びせ、 彼の自惚れは彼の富と共に成長した。
レネットが自らを海洋の支配者と宣言し、
彼の名誉のもとに建築される予定の多くの寺院の最初の物を注文した頃、
彼の出自の暗い陰は、 殆ど忘れ去られた。
すぐに、 水夫と船乗り達は貢物を捧げ始め、 これ等の信仰の拠点には富と宝物が残された。
レネットの好意が、 海に出る人々に幸運を授けると言われていた。
幾人かは、 彼を その伝説がコルヴァンの海すら越えて拡がる上昇せし者として、 海の神と認めさえした。


しかし、 レネットの壮大な傲慢は、 彼の恩人の怒りを招いたのである。
そしてそう、 エルドリッチの太陽は彼の玉座を離れ、
コルヴァン盆地の人々の中で歩き回れるように、 自ら初老の浮浪者に変装したのである。
そこで彼は、 レネットへの無闇な称賛を聞き、
まるでその男がコルヴァークに選ばれし者の位置にいるかのように人々が 話すのを耳にした。
エルドリッチの太陽が彼の玉座の傍らの場所を彼等にもたらしてくれるようにと
奉仕と献身を捧げる人間は、 極少数であった。
これは当然の事ながら神を怒らせた。
彼は変装した姿で海洋の神に自ら連絡を取り謁見を求めた。


彼の名に於いて建造された豪華な寺院の中で、 レネットはその老人に会った。
彼は、 目の前の病んで衰弱した生き物を見て嘲笑った。
"お前は海洋の支配者へ捧げる何を持っている、 貧しい老いぼれの愚か者よ?"
レネットは尋ねた。


"私はあなたに、 生かして貰った あなたの命について思い出させに来たのです、 "
その男は大人しく言った。
"私は、 エルドリッチの太陽の思いやりが無かったとしたら、 あなたが成るであろうであった あなたです。 "


レネットはもう一度嘲笑った
"お前は私を脅しにここへ来たのか? 神々について語る お前は誰だ? よくもまあ その口が言えたな?"


それと同時に、 その老人の声は轟き、 彼等の足元を覆う大地が震えた。
彼が話すにつれて その姿は捻じれて大きくなり 焼けつくような熱がレネットを洗った。
レネットの衣服は焼失し、 皮は剥がれ肉は泡立った。
"我は脅しに 来たのではない、 我は与えられた贈り物を回収に来たのだ。"


激しい熱はレネットの自惚れを浄化し、 聳え立つ姿の前に彼は身をすくめた。
"御許しを、 " レネットは乞うた、
"私は知らなかったのです。 "


"お前は我に与える何を持つのだ、 惨めで矮小な生き物よ、 "
その姿は 声を轟かせた。


"私の命を捧げます、 " レネットは泣き喚いた。


"ほーう。 しかし死はあまりにも価値が低すぎる。
いいや、 お前は、 お前が 常にそうであった、 生き物の中で最も格下の存在として私に仕えさせてやる。
お前は、 お前を神として見る者達の上に立ち ちやほやされるであろう。 "


その最後の言葉と共に、 レネットの肉体はそれ自体が崩壊し、 捻じくれて、
遂に彼が巨大で病み付いた鼠の姿を現す迄、 引き裂け軋んだ。
彼の寺院は あっという間に廃墟に変わり、 瓦礫からは鼠の大群が這い出てきた。
海洋の支配者に付き従った者は全て、 彼に忠誠を誓った者や彼の好意を乞うた者は全て、
鼠神に仕えて下劣な害獣として彼等の月日を生き延びる
そのように 呪われたのである。


レネットの物語を心に留めよ、
我々が人生で愛着を持ち大事にする全ての物は、 エルドリッチの太陽の贈り物なのである。


Vizier Erhaman's Note 大臣 エルハマンの覚え書き

内容

寺院が冷たくなる。
その心臓の温もりが、 眼下の都市に 打ち寄せる事は 最早無い。
何が起きたのか、 何がこのような出来事の原因に成り得たのかは、
私には判らないが、 下位の寺院の後援者達は気が付き始めた。
敬意を払いに来る人々は、 お祈りをした後で、 私が答える事が出来ない質問と共に、 私に接触してくる。
"我々はコルヴァークを怒らせたのでしょうか?"、
"エルドリッチの太陽は力が衰えたのですか?"。
彼等は、 当然の如くに心配し、 恐れる。
しかしながら、 これらは信仰の揺らぎに拍車を掛ける感情の類であり、 国教に反する想像である。
寺院への反抗を大っぴらに語る者達までがいくらか居る。
彼等の人数は少数であるが、 私は、 最近の出来事が彼らを大胆にするかもしれない事を心配している。
彼らには、 より大規模な運動の中心の腐った核になる可能性が有る。


ところで私は、 寺院の後援者達と共有しなければならなかった
心を落ち着かせる言葉を求めて、 長老達に導きを嘆願した。
彼等は、 私の不安に対して何の注意も与えなかった。
太陽が日々昇るのと同じように コルヴァークの炎は我々と共に在るのだから、
常にやって来た通りにやり続けるようにと告げられた。


エルドリッチの太陽は、 私が理解したいと思わないやり方で動くが、
我々は、 民衆が落ち着かなくなる時に用心せねばならない。
我々の都市の基礎、 他ならぬ我々の信仰、 は揺るがされてはならぬ。
私は人々に、 ただ言葉を与える以上の事をしよう、
私は彼等に目を見張る光景を与えよう、
寺院の心臓への壮大な生贄を。


Jeren's Travel Log イェレンの旅行記

1/2

我々は昨日、 黒焦げになった周縁を越えて下方の渓谷へ進もうとし始めた。
それは、 そびえ立つ玄武岩の岩山が古代の獣の骨のように地面から突出する環境である。
ここで何が発生したのかは私は判らないが、
まるで大地がそれ自身裏返しになったような有様で、 そのギザギザの内臓が谷底の至る所に噴出している。
その土地は現在は休眠状態にあるが、 古代の騒動を示す痕跡が多く存在している。


アマルの地図が的確であったと判った事で、 私は本当に心地よく驚いた。
彼が古い絨毯を 放浪するガラクタ行商人から購入し、
それから彼のちょっとした宝捜しに私を参加させようとした時、 私は控え目に言っても懐疑的だった。
要するに、 どんな旅ガラクタ商人でも本物の宝の地図を運んでいる。
驚くなかれ、 ほんの僅かな鉄片の為にだ。
私はこう思っていた、
例えこの地図が本物だとしても 惨めな魂達の長い間忘れ去られている墓を急襲する為に
焼け付く砂漠を踏破する事で アマルと私はどんな得をするのかと。
ところが彼は今回は、 本当に成し遂げた。
その地図は本当に本物で、 驚くべきことには、 アマルは我々をこの離れた地に何事もなく導いた。
地図によると、 彼等がかつて選民の谷と呼んだ場所へは半日も掛からない旅になるだろう、
そのぐらいだとアマルは言う。
私は、 その地図を書くのに使われている古代言語らしき物が読めないので 彼に全面的に頼っている。
彼が何と私以上にやれる事か。


そこには、 かつての強大な文明の痕跡が至る所に有る。
私は数々の、 建造物、 彫像、 墓所と寺院を見てきた。
いくつかは、 まるでそれらが昨日建てられたように立っていたが、
ほとんどは、 遠い昔にこの土地を引き裂いた破壊の猛威の餌食になって壊滅していた。
もし私がよく知らなければ、
ここに建てられた (いくつかの物は意図的に破壊され、 いくつかの他の物は手付かずで残されている) 構造物達に壊滅を引き起こす為、
大地そのものが後ろ足で立ち上がったのだ と言っただろう。
これは恐怖を煽る想像だ、 疑いなく。


何がこの場所や、 ここに居住していた人達に起きたのか、
また、 どうして誰もそれを取り戻す為に戻らなかったのか、 私には分からない。
アマルは私に、
大地が噴出させた熱い血が土地を覆い尽くして、
自然の物ではない獣達が 嘲られた神の復讐心に燃えた罰を強要する為に蜂起したという、
破滅的な出来事達の物語を伝えた。
彼が私を怖がらせる為にそれを拵えたのか、
それともそれが、 ここで起きた事だと心から信じているのか、
私は正直に言うと分からない。


結局の所、 皆が急いで逃げて、 沢山の価値有る物を丸ごと取り残していった という事だけが大事である。
これが真実で、 それが存在するようであれば、 これはつまり 非常に有益な旅行になるだろう。

2/2

昨晩我々は、 選民の谷の周囲の荒地に到達し、そこでギザギザの尾根筋に沿ってキャンプをした。
山峰を越えると、 見渡す限りに荒れ果てた火山地帯に
墓所の入口と 明るい月光に金色のはめ込み細工がきらめく石碑が点在していた。
その全ては、 壮大な埋葬用安置所の主回廊に沿って集中させられていた。


火山岩を横断して 溶岩の川を飛び越える事を、 私は楽しみにはしていなかったから、
それは、 気分を浮き立たせると同じぐらいに 気力を挫くような光景だった。
そして、 目標地点に近付いていくにつれて、 いくつか奇妙な事が進行している事を言っておく必要が有る。
今朝は、 大地そのものが私を揺り起こしたと断言することが出来る、
そして私は、 眠りの最後の断続的な瞬間に、
炎に焼き尽くされながら 終わりの無い火炎の海に どんどん深く潜っていく夢を見た。
私は、 目覚めの領域にさっと身を引いた時に、
アマルが乳を飲まされたばかりの子豚のように眠っているのを見た。
空っぽのラム酒樽を気前のよい母豚の乳首のようにしっかり掴んでいた。
私の頭の中に有ったそれはきっと、
我々の旅の最後の区間と、 目の前の渓谷に埋蔵されているに違いない財宝、 に対する予想によってもたらされた気掛かりな夢かもしれない。


だがその後、 我々がキャンプを畳んだ時、 私は大変異常な物に気が付いた。
我々は昨晩、 日没後に到着した。
そして命を懸けてもいいが、 巨大な彫像の足元でキャンプをした。
今朝になると、 その彫像は消えていた。
私は口がきけないほど驚いた。
それが居なくなっただけでは無く、 それから遠くへと続く、
重装甲のブーツを履いた人の物のような、 ただ何倍も大きな物凄い足跡が有った。
それらはまるで、 その彫像が本当に夜の間に歩いて立ち去ったか、
又は 誰か巨大な人物が彫像を肩に担いで持ち去ったかのように 深くて歩幅が大きかった。


私がアマルに伝えた時、 彼は最初は驚いたようだったが、 それからそれを跳ねのけた。
彼は、 そこに彫像は無かった、 それは満月が私をひどくからかったのだと言い張った。
私は彼も彫像を見たと思っている、 これは確信している。
しかし彼は、 どんな邪魔も認めようとしないほどに 宝物を見付ける事に集中しているのだ。


それだけでは足りないのならば、 我々が渓谷へ下りて行こうとしていた時、
誓って言えるが、 灰色の長衣と重装備を身に纏った男性と女性の旅行者の一団全体を、 私は遥か彼方に見た。
彼等は、 墓所群の隣の稜線に沿って 聖歌を唄いながら北の方向へ旅をしていた。
私はアマルに、 我々がこじ開けようとしていた寺院の扉の金の象嵌に
口をぽかんと開けて見とれているのを止めさせようとしたが、
その時には彼は彼等をすっかり見逃した。
私は、 自分が気が狂っているように感じるにも関わらず、
我々はここで孤独ではないのだと極めて楽観的だ。


私はこの点について、 それがそれほど重要だとは思わない。
我々は目標地点、 足元に潜っている アマルの地図に正確に記された墓所、 に到達したのだ。
このひとつの墓 (非常に多くの中の) は恐らく壮大な財宝を抱えている。
多分、 一旦我々が中に入れば、 ここで起きる異常な物事全てから離れて、 ほっとするだろう。
もしも我々が、 この忌々しい扉を開く方法を見付け出す事が出来れば。


Scorched Note 焼け焦げた覚え書き

内容

行き場所も、 逃げ場所も無い。


墓所の深部に通じる通路が分断されて閉じ込められた時、 アマルとはぐれてしまった。
彼にしては不自然な冷静さで、 もっと下でまた合流出来るから、 進み続けろと彼は言った。
私は歩いたが、 大地が揺れ始めた。
唸り声とゴロゴロいう音で、 寺院を覆う岩盤が目覚めた獣のように叫びを上げた。


私は恐慌に陥って走り始めたが、 全ての歩みが更にまた獣を怒らせるようだった。
揺れが私を跪かせる前に進んだ距離は二十フィート足らず。
私は這って進み続けた。
ギザギザの石の床で削り取られる両腕で、
自分がどこへ行こうとしているかも考え出せず、 逃げ出す為の計画も無く。


骨を粉砕するようなひび割れる音と共に、
寺院の床がぽっかりと口を開けた胃のように裂け、 その下の白熱した炎の河を露出した。
私を呑み込む恐怖の深淵について推察する事が出来なかったその瞬間に、
アマルの絶望的な悲鳴が 私の背後の通路に響き渡った。
私はなんとか動く為の勇気を振り絞って、 燃えるような暑さから我が身を引き摺り離した。
墓所が 私の周りで揺れる。
しばらくの間、 私はそこで身をすくめていた。
そのうめき声とひび割れる音は、 私に大声で呼びかける抑圧的な声に似ていた、
それは、 私の周りに溢れ出した炎の河の深部から 全ての命有る物に呼び掛けていた。


それから、 揺れが収まるにつれ、 そこは静寂になった。
遥か彼方の場所での他のひび割れる音と轟音を未だに聞く事ができたが、
私が横たわっている寺院は静粛だった。


今や、 ここには何も無い。
私の最後の休息場所になるであろう堅い石の島を、 今や限定した、
溶融する大地の発するシューシューという音とブーンと唸る音以外には、 何も。
富は無く、 財宝も無く、 燃え上がる死と私を炎へと招く声 だけが有る。


コメント

  • [tip] FGのジャーナルページ(約半分)を作成しました。FGのジャーナルは長い物が多くゲーム中のウインドウでは読み辛いですが、面白い物も有るので、一通り読んだ方もまたこちらで読み返してみて下さい。 -- 2019-05-03 (金) 03:12:21