本棚/ヤリーロ-Ⅵ(2)

Last-modified: 2024-03-11 (月) 03:32:09

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ベロブルグソーセージ

国民的美食の宣伝広告。ソーセージの作り方が数通り書かれている。

食通は絶対に知ってる!ベロブルグソーセージの食べ方。あなたはどれが好き?

ベロブルグ・ミートファクトリーで初めてソーセージが登場してから百年以上が経過し、ベロブルグソーセージは家庭ではおなじみの味となっています。ソーセージの食べ方については、誰もが発言権を持っています。みんなのお気に入りの食べ方をいくつかご紹介します。あなたはどの食べ方がお気に入りですか?

一つ目はそのまま食べる食べ方です。多くの段階を経て出来上がったソーセージは、おやつとしてもおかずとしてでも優秀です。そのままでもとても美味しいんですよ!

二つ目はハンマー唐辛子を炒めて食べる食べ方です。ソーセージはいろんな野菜と炒めて食べることができますが、ハンマー唐辛子は紛れもなくベストチョイスです。炒めているうちに、ソーセージそのものの香ばしさと唐辛子の濃厚な辛さが相まって、ソーセージの風味がさらに格別なものになっていきます。

三つ目は焼く食べ方です。ソーセージに隠し包丁を入れ、火にかけ、スパイスを加えて焼くと、食べ歩きにぴったりなおやつになります。

四つ目は太陽ブリヌイにする食べ方です。クレープ生地を焼き、薄く切ったソーセージを載せ、クレープで包みます。こうすることでクレープの味を豊かにし、ソーセージの味を和らげますが、その風味は損なわれません。

ベロブルグソーセージは、加工プロセスの改善と加工機械の改良により、味と生産量の両方を向上させることができました。本来の風味と脂が乗っているのに脂っこくない特徴を維持しているだけでなく、消費者が選べるように様々なフレーバーが開発されました。

ベロブルグ創立百周年を記念して、老舗企業であるベロブルグ・ミートファクトリーでは、現在、全てのお客様を対象に、全商品の割引を実施しており、ご試食やご購入をお楽しみいただけます。ご来店お待ちしております!

子供のお手紙

子供が落とした手紙。どうやら別の子供に向けた手紙のようだ。

マーレへ

もうずっと会ってないね。パパに、凄く会いたいって言ったら、手紙を書いたらいいよって言われたから手紙を書くね。

これはパパにチェックしてもらいながら書いたものだよ。
本当は見られたくないけど、結局、手紙を出す時にこっそり見られると思うから、今見てもらってる。

マーレのせいで、最近熱を出したの。
引っ越した後、私のことを忘れちゃったんじゃないかって、ずっと泣いていたけど、この前ビスケットが届いて、びっくりしちゃった。
テストの時もずっとマーレのことを考えていたから、いい点を取れなかった。
パパは全部言い訳だと言うけど、絶対にそれが原因だと思う。だから私が熱を出したのも。マーレのせい。

パパが週末にマーレを探しに連れて行ってくれるって。
でもやっぱり今の私たちの家は凄く遠いし、もしかしたら半年後、次の太陽の日になれば、私たちはそれぞれの新しい友達と一緒に遊んでいて、
だんだんお互いのことを忘れちゃうんじゃないかってパパは思っているみたい。
パパの子供の頃はそうだったんだって。
今そのお友達はどこにいるのって聞いたら、真っ赤になって顔を逸らしちゃった。

さっきママも手紙を見てたけど、今は二人とも他の部屋でお喋りしてる。

パパが心配するのもわかる気がする。
だから、マーレが毎週ビスケットを送って、私が手紙を出すのはどう?もし不公平だと思うなら、マーレが手紙を出して。
私がビスケットを焼くから。パパとママが戻ってきた。
ママが将来、同じ工場で働けばいいって。パパとママはそうやって知り合ったみたい。

大人はなんでも知ってるつもりになって、私たちが結婚の約束をすると思っているけど、私たちはそんなんじゃないもん!
二人は何もわかってない。二人がまた笑ってる。
熱を出さなければこっそりこの手紙を書いて、こっそりポストに入れて、絶対に二人に読ませないのに。

私は科学者になろうと思うの。
私が科学者になったら、大きなストーブを造って、外に遊びに行く時に分厚い服を着なくてもいいようにする。
覚えてる?私たち家族みんなで外に遊びに行った時、私の着ていた服が分厚過ぎて、手を下ろすこともできなかったから、何も遊べなかったよね。

だから、私は工場には行かないで、研究所に行こうと思うの。
もしあなたが私と一緒に行きたいなら、あなたも科学者になってよ。
あなたが他の仕事をしたいと言っても、私は怒らないし、そこが大人とは違うところだと思う。

ちょっと眠くなっちゃった。
今日はまだ薬を飲んでいるから、ここまでにするね。
パパが後で手紙を送ってくれって言ってたよ。

エルナ

『地下百科・植物と菌類』

下層部の植物生態に関する研究報告。この百科事典で紹介されている植物のほとんどは食べられないか、不味い。いくつかの項目には調理法が書かれている。

その1

【アイトウカサタケ】

「カサは、一体何だろう?」

アイトウカサタケは地髄の周辺に生息する真菌類で、子実体は小さく、傘は半球形に近く、中部は臍状になっていて、溝がある。直径は0.5~2㎝ほどで、膜質は滑らかで乾燥している。緑がかった藍色から薄い藍色をしており、傘の中心は色が薄い。茎は3~5㎝、太さは直径1㎜ほどで、滑らか、湾曲していて中は空洞である。傘にはよく光るコケの粉が付着し、暗い環境では、傘が青色に光っているのが確認できる。

肉質が固いため、直接食べるのには適さない。一部の診療所ではアイトウカサタケを薬として使用している。「アイトウ」シリーズの薬には痛みを和らげる効果があり、神経痛、片頭痛、骨折痛、関節痛などの症状に効果がある。鉱夫の歴史において、アイトウカサタケは凄まじい功績残したと言える。名前にある「カサ」はある物の形から由来したと言われるが、長い年月が経った今、下層部の住民ほとんどは傘が何なのかを知らない。

【鉱蝕コケ】

「使われなくなった坑道は、微かに緑色に光って、人々の想像力を掻き立てる」

鉱蝕コケは先端に球状の反射細胞を持つ小さな植物で、洞窟の入り口や廃棄された地髄採掘坑道内に生息している。鉱蝕コケは密接している構造で空気中の水分や有機物を貯蓄し、成長過程で仮根は酸性の物質を分泌する。その酸性物質と地髄の粉が化学反応を起こして、地髄採掘が終わった坑道の中で、微弱な光とエネルギーを放つ。

鉱蝕コケの原糸体は多くが球形で、光を反射もしくは屈折させて蛍光緑色の光を発する。ほとんど明かりのない坑道の深部でも、化学反応によって引き起こされる光を利用して、生存できる。わずかな光で光合成が可能な鉱蝕コケは、無人の坑道内では大規模なコロニーを形成している。「光コケ回廊」は、鉱蝕コケが坑道に沿って成長した生態現象である。

【ゾンビ将軍】

「これはどこからどう見てもゾンビ……」

ゾンビ将軍は決して本物のゾンビでも、将軍でもない。ガジュマルと呼ばれる樹が枯れたものである。寒波が訪れる前、かつては巨大なガジュマルの木が大陸に存在しており、一本の木がその地域の生態系の名所となっているほどだった。当時の人々は敬意を表して「シェルバ将軍」と呼んでいた。寒波が訪れたあと、「シェルバ将軍」の地上に露出した部分は、嵐の薄暗がりの中で枯れてしまった。しかし、ゆっくりと死が忍び寄る過程で「シェルバ将軍」の根は素早く成長し、地下の水脈を占領し、栄養を吸い込み、本体が死んだ後もその範囲を広げていった。

地髄開拓団が初めてその根に遭遇した時、団員の中にまだ「シェルバ将軍」のことを覚えている老人がいた。その老人は驚愕した。何故なら、「将軍」とベロブルグはおよそ百キロほど離れていたからである。その時から、開拓中でも成長を続けているこの根を「ゾンビ将軍」と呼ぶようになった。今日に至るまで、「ゾンビ将軍」は地下の人々の日常生活に欠かせない重要な素材となっている。なお素材として使われた分は、全体の1%未満だとされている。

その2

【コンペキヒトヨダケ】

「このような名前が付けられたのは、かっこよさのためではなく、警告のためである」

コンペキヒトヨダケ、またの名を死のアイトウ。青く、菌体が幼い時は卵型で、その後に傘が形成される。アイトウカサタケと同じで、中部は臍状になっていて、溝がある。色はグラデーションになっておらず、緑がかった青だけである。小さな白い斑点があり、暗い場所だと白い斑点の有無の識別は難しい。

猛毒を持つ。50gに含まれている毒で50kgの成人を死に至らしめる。主な毒素はアマトキシンとファロトキシンであり、新鮮なコンペキヒトヨダケの毒素含有量は非常に高い。これらの毒素は、肝臓、腎臓、血管の壁細胞、中枢神経系などに深刻なダメージを与え、臓器不全を起こし死に至らしめることもある。

薬用のアイトウカサタケと見た目が酷似しているため、地髄開拓初期には誤食による食中毒が多数発生した。集中的な焼却と埋め立てにより、現在は入手すら困難になった。これに加えて下層部の住民がアイトウカサタケを積極的に栽培し、野生で採取しない管理方式を採用したため、中毒事件は大幅に減少した。

【アロマエーテルグラス】

「『童話大王』?そんな呼び名に騙されないで」

アロマエーテルグラスは、通常は放射線濃度の高い洞窟の中に生息し、短く太い茎には芳香のある揮発性物質が多く含まれている。アロマエーテルグラスの葉は低温で素早く揮発性物質を生成することができる。この特殊な香りがする揮発性物質は、穴居動物を引き寄せる効果があり、物質の濃度が高い環境へとおびき寄せる。物質の安眠効果により、動物はこの植物の周辺で眠ってしまう。

動物たちが集まっている様子はまるで物語を静かに聞いている子供たちのようであることから「童話大王」と呼ばれるようになった。しかし放射線濃度の高い洞窟で眠ってしまうことは、童話のように甘い出来事ではない。アロマエーテルグラスは人間に対しても効果を発揮するが、健康な成人は昏睡状態に陥ることは無い。希釈後の揮発性物質は安眠作用のあるアロマの原料として、地下の市場でよく見かける。

【安神ダケ】

「これは普通の鎮痛剤よりかなり凄い!」

安神ダケ、子実体の大きさは普通、傘は肉厚で、直径は4~8㎝、楕円の半球形をしており、黒に近い緑色である。繊毛状の鱗があり、縁は内側にカーブしている。安神ダケにはシロシビンと呼ばれる、セロトニン受容体に主に作用する成分が含まれている。セロトニンがない場合、神経の接続を遮断し、部分的な知覚喪失を引き起こす。

特殊な神経遮断作用があるため、かつては鎮痛剤として開発されたが、シロシビンは痛みの感覚を遮断するだけではない。実験段階で、安神ダケの遮断剤を投与すると、体の各臓器の正常な機能に悪影響を及ぼすことがわかった。地下での非合法な改良により、低用量によるスポット注射で、特定の部位への鎮痛効果を得ることに成功した。

ジェムトカゲの串焼きのレシピ

一連の手紙によるやり取り。内容は多彩で、レシピまで書かれている。

「これは多くの書置きからなる手紙である」

(一)

おい、兄弟、お前たちが行く新しい鉱山は地盤が少し緩いらしいから、気をつけろ、俺はあまりにも危険だと思う。

俺の忠告を受け入れるんだったら、鉱区監督の言った報酬に騙されるな。崩落に巻き込まれたら、元も子もないぞ。

でも俺はお前をよく知っている、お前は絶対に俺の忠告を無視する。濾過装置や酸素ボンベどころか、避難所すらないと思うから、非常食は多めに持っていけ。

俺たちは小さい頃から一緒だった、これぐらいなら聞いてくれるよな?

(二)

お前には感謝してもし足りない、兄弟よ!

お前のアドバイス通り、クッキーを多めに持って行ったんだ。そうしたら本当に落盤が起きて、坑道を掘った人はみんな逃げた。鉱区監督は俺に賠償金をくれたが、この事故の口止め料で少ししかなかった。

やっぱり当時の状況を書いておく。

俺たち発掘している奴らは多少なり危機感があって、仮設の避難所を少しずつ補強していったんだ。坑道が崩落した時、避難所の近くにいたから、足を折った男性を除けば、ほとんどの人が無事だったのは不幸中の幸いだった。

鉱山事故への最善の備えは、事故を起こさないことだ。食料を多めに持っていても無駄だった、ビスケットはすぐに底をついたが、誰も助けに来なかった。

でも、閉じ込められている以上、何かしなければならない。その時ある人がどこからかジェムトカゲを七、八匹捕まえ、これを食べようと言ったんだ。俺は生まれてからそんな物を食べたことはないが、食べた人が言うには、鉱区監督が十八年履いた靴を噛んでいるみたいらしい。

でも、人は生きていく術を見つけなければならない。

食べてみると、ジェムトカゲは意外にも美味しかったんだ。整理した「ジェムトカゲの肉串」のレシピを教えてやるよ。

五香餅からほじり取った香料一袋、
冷製野わらび漬けの余った汁、
パン粉も袋の中の余り物を使う。
岩塩3g
唐辛子粉0.5g
ジェムトカゲの肉7匹分、結晶はちゃんと落とすんだぞ、じゃないと歯が欠ける。

とにかくまず、香辛料、パン粉、調味料などを混ぜて、それに綺麗にしたトカゲの肉を漬けるんだ。ジェムトカゲの分泌液はなるべくつけるな。薬みたいな味がするんだ。あの味は分泌液の味なんだ。

そうしたら、翌日には味がしみ込んでいるし、肉も柔らかくなる。そうじゃないと本当に靴底を噛んでいる気分になる。

次に、余った木の支え枠から木の串を数本切り出し、地下水に浸してから肉を刺していく。仲間が蜜茸を取ってきて、ジェムトカゲと蜜茸を交互に刺していたな、結構旨かった。

最後に、オーブンでじっくりと焼いて、塩と唐辛子粉をまぶすんだ。

最悪な味の肉でも、塩と唐辛子さえあれば、なんとかなるって感じだな。

一番面白かったのは、俺たちが食べようとした時に、救助隊が救助に来たんだよ。「急いで助けに来たのに、肉を焼いて食ってるなんて!」だってさ。

機会があれば試してみろ、意外に食えるぞ。

(三)

兄弟よ、困難を乗り越えてくれて、本当に良かった。

あんなに長いこと埋まっていたのに気をしっかり持つとは、本当に尊敬する。

でも、ジェムトカゲでお前が教えてくれたレシピを試したんだが、あの味、俺を殺す気なのか。

時間があればナターシャの所に行け、兄弟よ、お前の味覚はおかしいかもしれない。

俺たちは小さい頃から一緒だった、これぐらいなら聞いてくれるよな?

ベロブルグ七大不思議

もしこの文章を読んだら、不思議な出来事が身の回りで起きるかもしれない……

一、町の中で、前を向いて歩き続けていると、いつか空に向かっていく。

二、路上でふらふらし続けていると、地面に飲み込まれて奈落の底に落とされてしまう。

三、ある特定の時間、すれ違った人が突然、両手を広げて「T」のポーズをする。

四、人混みの中で急に振り向くと、壁が白くなる。

五、ある不思議な単語を言うと、会話の相手が化け物になってしまう。

六、道端のヒーターやゴミ箱が、雪の日には四角い箱に変わる。

七、誰もいない場所で、どこからともなく音楽が聞こえてくる。

八、もしこの文章を読んだら、不思議な出来事が身の回りで起きるかもしれない…

『モグラ冒険隊・見えない宝物』

ベロブルグで有名な児童向け冒険小説の最新作

目次

序文:モグラ隊の冒険の心得

────1ページ

意外な羊皮紙
外縁通路の露天カフェの入り口の近くで、モグラたちは、オークションのチラシを見かけた……

────3ページ

消えたカンテラ
ボルダータウン大鉱区の中で、モグラ隊の隊員たちはドレイクが残した手記を見つける……

────21ページ

「コンテナがカギだ」
リベットタウンのコンテナが置かれている洞窟の中で、モグラたちは隠し扉を見つけた……

────40ページ

戦地追跡
モグラたちはドレイクの手がかりを辿り、見えない宝物が隠されているのがシルバーメイン禁区の深くにある雪原に続く塹壕の中だと気付いた……

────56ページ

後日談

────73ページ
序文
モグラ隊の冒険の心得

読者の皆さん、モグラ冒険隊にようこそ!ベッキー、カービン、パワーと一緒に知恵と勇気を振り絞り、四匹目のモグラになろう。本書は4章あり、どれも緊張感ある描写で非常に読み応えがあるよ。さらに、各章の最後には謎解きを用意した、頑張って解いてみよう。

今回の冒険は、モグラ隊が過去に探索した雪山、ジャングル、神殿の遺跡などとは違って、モグラたちがよ~く知っているベロブルグで起こるんだ。今回の物語では、考古学者たちがベロブルグの大冒険家ドレイクが残した遺言書を発見した、ドレイクの遺言はこう言った:

「俺は50年以上冒険して、この一生でベロブルグ内外の全ての場所に足を踏み入れた。冒険の途中で、俺は色んな財宝を集めた、その一部はベロブルグ博物館に寄付し、残った邪悪で謎に満ちた宝は隠した。宝の在りかは地図に示し、幾つかに分けて『見えない宝箱』に入れておいた、全ての宝箱を探し出した者だけが、俺の宝を手に入れられる」

ということで、今回の『モグラ冒険隊』の物語では、四匹目のモグラ──つまり君の助けが必要だ。目次のヒントに従って所定の場所に行き、そこで本のページを探すんだ、ページにはナゾの手がかりがある、それを解けば「見えない宝箱」が見つかる…全てのページを集めれば、『モグラ冒険隊・見えない宝物』の完本を完成できるし、大冒険家ドレイクの宝物も手に入る。

物語に出てきた全ての手がかりが謎解きのヒントとなる、だから、よ~く考えて、如何なる些細な手がかりも見逃さないように。もし頭が回らなくなっても大丈夫、そういう時は直感で動けば答えは自然と見つかるかもしれないよ。モグラ隊の物語以外にも、冒険に必要な各種便利ツールを準備したよ、本の最後にあるから忘れずに確認してね。

それでは、楽しい冒険が始まるよ、モグラたちよ、準備はいいか?

意外な羊皮紙

……

カービンが競り落とそうとしているシルバーメインの旧式保温ポットは特に珍しいものではない、モグラ隊は会場を見渡したが、他に入札する人は全くいなかった。

「これがラストです。落札しました!」オークショナーがハンマーを叩いた、「この旧式保温ポットは眼鏡を付けた男の子が競り落としました」

「12シールドでポットを1つ買ったの?はぁ、君たちコレクターのセンスは本当に理解できないよ」パワーは髪の毛を掻きながら言う。「家にシルバーメインの祝日限定版のやつがあるんだ、安くしてあげよっか?」

モグラ隊はお金を支払い、古いポットを持って外にでた、露天カフェの付近はいつものようにたくさんの人が行き来している。考古チームが冒険王ドレイクの遺言を公開した後、市民の間では骨董品ブームが起き、誰もが「見えない宝箱」の手がかりを探し始めた。骨董品マニアのカービンはそれにひどく悩んでいる、なぜなら彼の収集コストが高騰したからだ。

「ねぇ見て、ポットの中に羊皮紙があるよ!」ベッキーがポットを開けた。「うそ!羊皮紙に『見えない宝箱』の事が書いてある、まさかドレイクと関係…」

「しーっ!」パワーは突然声を抑えた、「誰かがボクたちを見てる」

カービンはリュックから鏡を取り出し後ろを見てみたが、モグラ隊を尾行しているような人は見つからない。「ん?そんな人いないようだけど?」

パワーは体付きがいいし、頭も回る。彼は露天カフェの一角を指して言う:「あそこだ。カフェにはテーブルやイスがたくさんあるけど、人ひとり隠られるのはあの場所しかない」

カービンとベッキーは驚いた顔で露天カフェの方向を見る、そしてパワーの言葉の意味を理解し、彼の機敏さに思わず感服するのであった。

──親愛なる読者の皆さん、パワーが指さしたのはどの場所だか分るかな?

モグラヒント:
周囲のテーブルやイスをじっくり観察すれば、答えが見つかるよ。

消えたカンテラ

……

カービンとパワーが集会者の密談を慎重に盗み聞きしている時、大きな両手が彼らを持ちあげた、カービンは足が地面から離れてしまい、驚きの余り手も足も出なかった。もう一方のパワーは体を揺らして鉱夫に一蹴り見舞いし、逃げ出した。そしてようやく怒る鉱夫の姿が目に映る、まるで山のように大きな体躯が。

「ガキども?ここで何やってんだ?」大きな鉱夫は荒い息で聞く、どうやらパワーに蹴られて怒っているようだ。「鉱区は危ないぞ、こんな場所をウロウロしてないで早く家に帰れ!」

「こら、そこの子供二人。勝手に走り回っちゃダメって言ったでしょ?」ベッキーは鉱夫の安全ヘルメット、作業服と手袋をつけて現れた。「でかいの、子供たちを私に預けてくれるかな?責任もって彼らを連れ帰すから」

二人はすぐベッキーの意図を汲んだ:「鉱夫のお姉ちゃん、ボクたち迷子になったんだ、早く家に帰りたいよ」

大きな鉱夫は少しためらった、こんなに背が低い鉱夫は見た事がない、でも彼はそれ以上深く考えなかった。「ちゃんと面倒見てやれよ、鉱区は危ないからな」すると大男はパワーより重いツルハシを担いでその場を離れた。

「ほーら、肝心な時はやっぱり私が頼りになるでしょ?」ベッキーは得意げにヘルメットを被り直す、「で、さっきは何を聞いてたの?」

パワーは集会者の方向を指そうとしたが、振り返ると、そこには誰もいなかった。

「確かあの人たちが『全てを元の位置に戻し、群星を空に返す』って言っていたよ……」カービンは暫く考え込み、もう一方のフェンスに目を向ける、「わかったぞ!」

どうやらカービンは閃いたようだ。

──親愛なる読者の皆さんは、ケビンがどうするべきか分かったかな?

モグラヒント:
周囲のカンテラをじっくり観察すれば、答えが見つかるよ。

「コンテナがカギだ」

……

カービンは慌てて地髄鉱石の入ったコンテナの後ろに隠れた。「パワーが捕まった!」恐怖が頭から離れない。「もしかしたら、ボクたちはドレイクの宝を探すべきじゃなかったかも」後悔するだけではパワーを助けられない。早く何かしないと。

ベッキーはカービンの肩に手を置いて、少しでも緊張を和らげようとした。数日前まで、彼女たちは太陽ブリヌイを食べながら、次の休みはどこで遊ぶのかを決める穏やかな生活を送っていた子供たちだった。でも、たった数日で、想像もしなかった陰謀に巻き込まれてしまった。集会者たちは何故お宝を狙うのか、ドレイクが地下に隠した隠し扉はどこにあるのか、パワーは無事なのか…ベッキーは未だ何も分からない。

「ちょっと待って、」ベッキーは一枚の紙を拾い上げた、それは三匹の子モグラ学校の便せん、つまりパワーが残した紙だ。「紙には何もないのに、ねばねばしてる」

「ねばねばしてる?じゃあそれはパワーが残した『無字の天書』かもね」カービンは、小さい頃秘密基地の中で不可視インクを使って発明をしていた事を思い出す。塩水で書いたのなら、加熱する。白い蝋燭で書いたのなら、炭の粉をかける……「試してみよう!」

やっぱりこの紙には暗号情報が書かれている。カービンが紙をカンテラに近づけると、断片的な文字が浮かび上がった。

「棚、コンテナ、配置、同じ」

情報はただのいくつかの単語しかない、これもしょうがない事だ、パワーは紙を見ないで書き下ろしたのだから、できるだけ簡単で短い言葉で文字が重ならないようにしたのだ。ベッキーは暫く考えると、パワーが残したドレイクの隠し扉に関する手がかりを解き明かした。

「コンテナがカギ、隠し扉を開くのは家事をするように簡単よ」ベッキーは自慢気に言う。

──親愛なる読者の皆さんは、彼女がどうするべきか分かったかな?

モグラヒント:
周囲の棚をじっくり観察すれば、答えが見つかるよ。

戦地追跡

……

「あいつらを逃がすな!」モグラ隊の後ろから集会者の叫び声がして、貪欲な悪者たちが追ってきた。モグラたちは速度を落とさず、そのままシルバーメインの禁区に突っ込んだ。三匹の子モグラは振り返ると、集会者たちが禁区の外で何もできず、ただ怒り狂う姿が見えた。

パワーのおじさんはシルバーメインの将校、彼の導きで、モグラたちはシルバーメインの保護を得て軍営の奥——ドレイクの宝物が示した場所に来た。「パワー、べつに君のコネを使いたい訳じゃないんだけどさぁ、君のおじさんに頼んであいつら全員捕まえられない?」カービンはまだ怒っている。「前に君を誘拐したのも、立派な犯罪行為じゃないか」

「安心しなって、あいつらは逃げられないよ」パワーのおじさんは、今まで何度もモグラ隊を窮地から救った最も頼りになれる仲間だ。「この件は我々大人に任せればいい、君たちの冒険はあと一歩なんだろう?最後までやり切るんだ」

ベッキーはドレイクが残した最後の手がかりを開いた:「勤勉で賢い兵士は毎日、4か所の銃器棚を調べ、それぞれに銃がちょうど3丁あることを確認する」

「ん…本当に禁区にお宝を隠す人なんているのか?」パワーのおじさんは見えない宝物なんて信じたことがない、何故ならここは軍が駐屯する地だから、何百年前のドレイクも、何百年後の誰かも、軍隊の真っただ中にお宝を隠せるわけがない。

「見えないお宝だと言うんだから、きっと位置を特定できる方法があるはずだ」カービンは全神経を集中し、そして最後の答えに辿り着く。

──親愛なる読者の皆さん、君たちはお宝の在りかがわかったかな?

モグラヒント:
周囲の「3丁の銃」に符合する配置をじっくり観察すれば、答えが見つかるよ。

後書き

どんなに難しい謎でも、モグラ隊なら解決できる、「ドレイクの見えない宝物」はここでお終い。

今回の冒険の旅で、三匹のモグラは自分たちの探偵能力をもう一度証明した。おっと、もちろん今回の冒険の最大の功臣は君だ、親愛なる四匹目のモグラさん!

モグラ冒険隊をよく知っている読者の皆さんなら分かるでしょう、この冒険はただの始まりに過ぎない、子モグラたちはこれからもたくさんの冒険をする事でしょう!物語の中の大冒険家ドレイクにとって、偉大なる冒険は一生に一度しかなくても十分のようだけど、読者の皆さんはもちろん物足りないよね!

どうしてそう言うのかって?本を売りたいから?もちろんその理由もある。でももっと重要なのは、読者の皆さんに「リスクを冒さず冒険できる」という体験をして欲しいからだ。私は君たちが現実で悪意を持つ者に出くわし、三匹の子モグラみたいに危険に晒されない事を願う。

私はよく保護者から問い質されるんだ、「これ以上うちの子にあなたの本を見て欲しくない、こんなのを読んだ後、モグラ隊の真似していつも危険な冒険をするの」ってね、困ったなぁ、どう返答するべきかわからないよ。もし私が無責任に振舞うのなら、「行くんだ!人類とは冒険するべきなのだ」とでも言うだろう。でも保護者の憂いを顧みると、やっぱり「家で本を読むだけで冒険ができる、リスクを冒す必要なんてない、これは私が考えうる『最も安全な冒険』だ。まさか、こんな『冒険』すら禁止するのか?」と答えるね。

作者がいつも作品の後書きで悩みを語っているから、私も真似してみました。話を戻しますが、君は三匹の子モグラ達の足跡を辿り、怖い集会者たちには出くわしてないけど(そりゃ私が捏造したものだから)、自分の好奇心と想像力で最高の冒険を成し遂げた、そうでしょ?

それこそ私が目指していたものだ。

ここで、冒険を完成した君におめでとう!さあ、一緒にモグラ隊のスローガンを叫ぼう!

モグラ、モグラ、
活気揚々頭脳明晰!
モグラ、モグラ、
僕らの冒険どこまでも!

雪国冒険奇譚

民間人の間で人気が爆発している幻想小説。既にベロブルグから取り締まりを受けているようだ……

第一章 背井離卿 第一節

この章にはベロブルグの「超新星」探検隊隊員であるアルチョムが、ベロブルグの外で吹雪に巻き込まれ、崖から転落して命の危険にさらされる様子が描かれている……

アルチョムが古代遺物探検隊に加入した当初は、「探検隊設立以来最も将来有望な若者」として知られていた。

彼はベロブルグで最も良い医学院を歴代トップで卒業し、同時に考古学と地質学の学位を取得している。また、学問の面だけではなくアスリートとしても活躍しており、医学院のクライミングサークルの会長としてロッククライミングの全国大会で何度も優勝していた。

しかし、この華やかな経歴の下には、旧世界の遺物に執着し、異常に頑固な性格を持つエキセントリックな人物がいた。アルチョムが探検隊に加入した当初、古代遺物の研究に「のめり込む」ことが多々あった。彼は二、三日間、研究所に閉じこもって全く出てこなかったが、ある日、研究室の入り口で床に倒れているのをスタッフが見つけた。

「あれ?僕、またご飯を食べるのを忘れてた?」

「そうだ、アルチョム、ついでに寝ることも忘れていたぞ!」

「いけない、すぐに食べて、研究に戻らないと」

最近になってようやく、研究室の机の引き出しに缶詰を入れておくことを覚えたが、その結果、研究室から出ない時間が長くなってしまった。

当初アルチョムを追う若い女性が何人かいたが、それは「ひと時」に過ぎなかった。すぐにほとんどの人が、アルチョムという人型の生物が、人間関係を築く能力を持っていないことに気づき、多くの人がそれを惜しんだ。

彼の言葉で言うと「今はただ冒険がしたい」である。

古代遺物探検隊は、ベロブルグ博物館に所属する組織で、ベロブルグの周辺で旧世界の遺物を見つけるための探検隊である。彼らが持ち帰った様々な遺物は、博物館の考古学者や歴史学者の研究に役立てられるのだ。これらの前提として、吹雪という過酷な環境下での発掘作業には、知恵と勇気の両方が必要であり、常に危険と予想外の出来事が起こる可能性がある。彼らはベロブルグにおける真の探検家であった。

だから、あのような吹雪の中で、探検家はいつ死んでもおかしくないのだ。

今も同じだ。

痛みはあっても、ここなら風も弱く、死ぬ前に少しでも楽に呼吸ができるだろうと、アルチョムは必死で下半身を岩肌に近づけた。視界がぼやけたような気がした──風と雪のせいか、それとも目を負傷したせいか…彼は崖を見上げた:自分は先ほどあそこから落ちてきたのだろう。

自分が助けたチームメンバーは救助されたのか?救助されているはずだ──他の探検隊との合流には時間はかかるが、時間さえあれば大丈夫だ。もう安心してもいいだろう……

……

身体が重くなり、視界が段々と暗くなってきた。このまま眠ってしまうと、確実に吹雪の中で死ぬだろう。腹部の出血は既に凍っている──どちらが自分の死因となるのか?今のアルチョムにとってもう大差はない。

吹雪が激しくなった。自分も以前の遠征で通り過ぎた死体の一つになると思うとあまり寂しくはなかったので、アルチョムの胸のつかえが下りた。

……

あれは3歳だった頃のことだ。排水管を伝って屋上に上がり、両親をひどく慌てさせた……なんだ、もう走馬灯が見えるようになったのか。ああ、この人生には、一体どれだけの思い出があるだろうか……

アルチョムは岩の下で意識を失った。

彼の命の火は、雪と風の中で揺らぎ、今にも消えてしまいそうだった。

第二章 氷雪の都 第一節

前回のあらすじ:アルチョムは不思議な親子に助けられ、名も知らぬ医療施設で目覚める。彼が目にしたのは、ベロブルグとは全く違う異様な世界だった。そこは全て「雨水」によって作られている。住人たちは嵐と共生し、特殊な材料を使ってアルチョムの想像を超えた数々の不思議なものを作っていた……

再び時間が流れ始めた時、アルチョムはある医療施設に横たわっていた。

医療施設ではあるが、そこはベロブルグの建創者仁愛病院とは似ても似つかなかった──ベロブルグでは、水晶のようなもので作られたベッドを提供できる病院なんて存在するはずがない。アルチョムは自分に繋がっている点滴を見て、ようやく治療を受けていることに気がついた。

耳鳴りは酷く、半開きの目はぼんやりと、でも焼け付くような光しか感じられず、体の機能はまだ完全には回復していなかった。彼は死の世界から戻ってこれた──それだけが唯一疑いようのない事実だった。

退院した彼を迎えてくれたのは、以前夢の中でいつも彼を助けてくれた女性だった。

「退院おめでとうございます」

「ありがとう、ここは……君は……?先に僕から言わないといけないな……でも……」

アルチョムは言いたいことがありすぎたが、言葉は我先に逃げようとする魚みたいで、意味を成す文を形成することはなかった。

「私はアンナ」

『僕はアル、アルチョムだ……』

アンナの髪は、最初に会った時のように結ばれておらず、自然に下ろされていた。亜麻色の長い髪の透き通るような輪郭は、まるで煌めく光に優しく支えられているかのようだった。煙るような長いまつ毛と、潤んだ穏やかな目は、華奢な造りの顔に良く似合っていた……これまでアルチョムは、いつも同年代の女性の顔を凝視しないように気を付けていたが、今回はお互いの顔が恥ずかしさで真っ赤になるまで、眼を逸らすことができなかった。

彼女に命を救われたからか、アルチョムの胸には今まで感じたことのない感情が芽生えていた。

アルチョムが推測したように、ここは確かにベロブルグではない。

ここは吹雪の中に創られた都市──氷雪の都と人々は呼んでいた。

ベロブルグとは違い、氷雪の都の祖先は、旧世界の技術の助けを借りて吹雪の中を生き抜き、吹雪の中で旧世界の火を永続させた。アルチョムにとって、これがカルチャーショックの最も甘美な瞬間だった。何もかもが新鮮で、まるで博物館で眠っていた先史時代のテクノロジーがすべて目を覚ましたようだ。彼は数え切れないほどそれを夢に見ていた。アンナに連れられて、アルチョムの目の前でこの都市は徐々にそのベールの下を露わにしていった。

「手術の時、医者があなたに『エーデルワイス』を注射したはずよ」

「『エーデルワイス』……って何?」

『あ、エーデルワイスは…凄く小さな、何というか……機械?』

「機械?機械というのは、歯車やチェーン、蒸気の出るバルブがある大きなものばかりだと思っていたよ。機械は……注射で血液の中に送り込めるのか?」

「詳しい原理は私も知らないわ。私が知っているのは、氷の都の市民は皆、生まれた時から『エーデルワイス』を接種していて、それからは吹雪や寒さに強くなるということだけ。私が子供の頃、探索隊の人から異邦人は寒さをしのぐために厚着をしなければならないと聞いていたけど、あなたを見て、本当にそうなんだって思ったわ」

「厚い綿のコートを着た僕は、君には異邦スタイルに見えるのか?……そうだ、異邦といえば、この世界には氷の都以外にも都市が存在しているのか?」

「もちろん、この世界はとても広いのよ」

そうやって話しているうちに、アンナは足を止め、アルチョムもその場に留まった。前方の空き地では、制服を着た男たちが砲台の周りに集まっている。砲口は空をめがき、導火線に火が点けられるのを待っているようだ。

「彼らはあの高い建物に砲弾を撃ち込むつもりなのか?」

「あははは……」アンナは我慢できずに笑い出した。彼女は異邦人の案内に慣れているわけではなかったのだ。「確かにそうだわ。でも、彼らはここに建築物を建てようとしているだけよ」

「建築物?」

「そう、建築物。でも、完成するまでは、私にもどんなふうになるかは分からないわ」

連続した砲撃はあっという間に空き地の上空で分厚い雲になった。次の瞬間、アンナが「雨」と呼ぶものが空から落ちてきた。

アルチョムは初めて「雨水」を見た、それどころかこの単語すら長らく聞いたことがなかった。博物館の古い記録で読んだだけだった。『降水』は旧世界で頻繁に発生していた気象である。だがベロブルグで、空から降るのは雪だけである。

アルチョムは、故郷では冷たく厳しく降り積もる雪が、ここではこんなにも穏やかに降っていることに、今になってようやく気がついた。

雨は地面に落ちても流れず、すぐに凝縮されて何かの形になった——まるで目に見えない複数の人の手によって急速に形作られる彫刻のようだった。雨が降り続く中、建物の輪郭がだんだんとはっきりしてきた。そびえ立つその建築物は、ベロブルグの建築様式と全く違っていた。

アルチョムの目の前で、何十メートルもの高さの建物がわずか数分で完成した。まるで奇跡のようだった。

アルチョムにとっては衝撃的なことでもに、アンナにとっては驚くことではなかった。彼女によると、氷雪の都の建物はすべてこの不思議な「雨水」でできているという。もし気象観測を行う「雲船」が吹雪の到来を観測すると、これらの建物は命令一つで水になって流れ、氷雪の都の人々はより快適な場所に移動し、高い建物は再び形作られる。

人々が独自のデザインを交換し合い、様々な奇妙な建物がそびえ立つ、この地域の住人にとってそれは当たり前の光景となっている。

……

第二章 氷雪の都 第二節

前回のあらすじ:アルチョムはアンナに連れられて、氷雪の都の「雨水」や氷のトンネルなどの技術的な驚異を初めて目にした。アンナはアルチョムに、女王から正式に招待を受けたことを伝え、彼は外賓として女王に謁見することになった。そこで彼は溶岩の国からやって来たダミルに会う……

招待を受け、アルチョムは氷雪の都の水晶宮殿へとやって来た。誰もが一目でこの壮大なドームが宮殿だとわかるので、道に迷うことは無かった。

出迎えた兵士に案内され、アルチョムはホールを横切り、水晶宮の誇りでもある歴史ある廊下に入っていく。夕陽の鈍い光が、廊下の壁の繊細な模様をなぞっていた。

アルチョムの歩みに合わせて、古代の英雄や王様を模ったレリーフが動き始めた。槍が鋭く突き出され、ゆっくりと獰猛な悪魔を迎え撃つ。強い風の流れに乗って、マントが激しく舞っている。だが、アルチョムが足を止めると、壁のレリーフも止まった。

これでもアルチョムは博物館出身で、本業は常に沈黙を貫く文献から過去を探ることだ。過去の芸術家の常用技術に精通していた彼は、比喩的なシンボルの装飾を無視することに慣れていたが、歴史の核心に迫る場に来て、我慢できずゆっくりと歩き、レリーフを細部まで鑑賞した。

砕け散った空から黄金の血を流した神々が現れ、神は氷のような目で死すべき世界を見下ろしていた……

悪魔の大群と戦う氷の都の戦士たちは、アルチョムが見たこともないような鎧を身にまとい、炎のような死をもたらす武器を振り回していた……

山のように巨大な戦車、雪カモメのように飛ぶ雲の船、津波のように押し寄せる軍勢の先頭では、ダイヤモンドの冠をかぶった女性が槍を振り回し、その刃は天空の無慈悲な神々に向けられていた……

アルチョムは、この凍りついた瞬間に込められた力に押しつぶされそうになった。大きく息を吸うと、案内役の兵士が、夢中になっていた彼を見て微笑んでいることに気がついた。彼は兵士に申し訳なさそうな顔をして、追いつこうと歩みを速めた。

応接室に到着すると、彼を迎えた兵士は、女王からの通達があるまでその場で自由にして構わないと言った。

アルチョムが座ってすぐに、ボロボロな服を着た来賓がやってきて、彼の隣に座った。アルチョムが何か言う前に、男は自己紹介を始めた。

「おう、俺はダミルだ、遥か彼方の溶岩の国からきた。お前は……」

「僕はアルチョムだ、ベロブルグからきた……それから、僕は外賓じゃない、ただの遭難した冒険者だ」

「ベロブルグ?聞いたことないな、でもここで同業者に会えて本当に嬉しいぜ!」

「同業者?これは驚いた。その服、たくさんの刺激的な冒険をしたんだな?」

「刺激的かと言えば、確かにそうだ。大砲に乗ってここまで来たんだ。本当に未知のことばかりだな、俺は初めて雪を見たよ……」

「なんだって?大砲?大砲に乗って……ここまで来たのか?」

「そうそう、人を砲弾の中に入れて、発射するんだよ。そうしたらドカンッて!飛び出すんだよ、おい──わかったか?」ダミルという名の男は、興奮しながら放物線を描くジェスチャーをした。

「理解できないな。砲弾のように打ち出されて、人間は生きていられるのか?」

「これこれ、この瞬間が一番好きなんだよな。みんなの信じられないような顔を見て、それから俺はの故郷のことをゆっくりと丁寧に話すんだよ。はは、ここに来てからこの流れにも慣れてきたぜ」ダミルは両手を腰に当て自慢げに笑った。

「俺は溶岩の国から来たから、雪は初めて見るし、気温も氷の都と全く違う。俺のいた国には、大きなエネルギーを持つ活火山がたくさんあるんだ。火山ってわかるか?火山は雪山とは真逆で、熱くて煙を吹いてる山なんだ。火山口は時々空に向かって火を噴んだ」

アルチョムには火を噴いている山脈が全く想像できなかった。彼はよくわからないまま、頷くことしかできなかった。

「……そういうことで、火山の力を利用して火山砲を作って、俺みたいな冒険家を遠くの国へ発射して、冒険させてるんだ。でも、飛んでる途中で、ふと帰りは自分の足で歩いて帰らないとって気づいたんだ。これまでの冒険者は自力で歩いて帰っていたんだな、はははは」

ダミルは自他共に認める饒舌家で、その言葉には炎のような熱意が込められていた。それがアルチョムに親近感を抱かせた。ダミルと言葉を交わすうちに彼は、火山とは何か、地殻変動とは何か、火山砲とは何かを初めて知ることとなった……

溶岩の国の冒険者たちは、星のあっちこっちに発射されるが、常に溶岩の国を指し示すコンパスがあるので、必ず帰り道を見つけることができる。しかし、帰路は大砲の旅よりも安全ではないため、帰還できた冒険者はほんの一握りであった。帰還に成功した者は、必ず頼れる異邦人の仲間と一緒に、彼ら自身が得られなかった知識や技術、あらゆる種類の見聞を溶岩の国にもたらした。

「アルチョム、俺にはお前の助けが必要だ。俺と溶岩の国に来てくれ、史上最大レベルの火山活動が始まる前に!」

「史上最大レベルの火山活動……?」

『そうだ、俺たちはそれに合わせて最大規模の火山砲でこの惑星を飛び立ち、旧世界の「天外の境」に向かうつもりだ!』

(続く)

第二章 氷雪の都 第三節

前回のあらすじ:アルチョムは応接室で女王の呼び出しを待っている時に、話を持ちかけてきたダミルと出会い、会話をする。ダミルは自分の本当の目的は、共に溶岩の国に戻り、共に空を飛ぶ仲間を探すことだと告げ……

アルチョムの思考は、まるでスティックで強く叩かれたドラムの表面のよう──またしても彼は動揺してしまった。

『大地を離れ……天外に行くのか?』

未知のテクノロジー、未知の歴史、遠く離れた魔法の国——絶え間なく押し寄せてくる事実は常にアルチョムの知識の限界に衝撃を与えていた。もう二度と驚くまいと思っていたら、目の前の男に誘われて、火山エネルギーを動力とする大砲で一緒に星を出ようと誘われたのだ。彼に残された選択は一つだけである──

「すまないが、それは無理だ!」

「はあ?お前はチャレンジ精神があって、すぐに承諾すると思っていたんだがな?」

「それとこれは別だよ。遠く離れた異国の地に行くことや、地上の高い場所に登ることは、たとえ傍目には狂ってるように見えたとしても、人間の理性と冒険心の範囲内だ。火山の力を借りて空中に打ち出される……随分奇抜な自殺だな?」

言葉を何回か交わしたあと、彼は火山から来た冒険者に急いで別れを告げた。

「あれは無謀な愚行ではないかもしれません、若者よ」足音はしなかった。堂々とした、しかし心地よい声で、横から誰かがそっと話しかけてきた。

その時、アルチョムは少し離れた場所で豪華な服装の女性が立ち止まって自分を見つめているのに気がついた。その人の服装から、アルチョムは何かに気づいた──彼は慌ててお辞儀をすると、女性は笑顔で頷いた。

「一つ質問をいいかしら?ベロブルグから来た冒険者よ──あなたはなぜ生死すら分からないこの旅に出たの?」

「もしかしたら……僕の体の中に道を求める血が流れているからかもしれません?」アルチョムは考えながら答えた。しかし、次の瞬間彼は頭を横に振った。

「あるいは、ベロブルグでの生活があまりにも平和だからかもしれません。私たちは温室に隠れて、毎日演説家の講演を聞くだけ。兵士たちは国境を守り、怪物が都市に足を踏み入れることも、人々が国境を越えて一歩踏み出すことも許されませんでした。仕事を真面目にこなせば衣食住に困らないのは事実です。ただ、あそこの毎日は変わりなく平和で、新しい変化がありません。ベロブルグに住む人々は、不安定な未来や慣れ親しんだ生活の喪失を恐れているのです。ベロブルグの数百年の歴史の中で、本当の意味であそこを離れた人はいませんでした」

「僕は、毎日ほとんど同じ内容の新聞をもう見たくないのです。目を覆い、耳を塞いで、ベロブルグが世界の全てだとは思いたくありませんでした。平和で静かな生活から離れても生きていけるかどうかを知りたかったんです」

女性は笑った。「どうやらあなたは生まれる場所を間違えたようね。あなたは私が知っているベロブルグの人たちとは全く違うわ」

「僕以外にも、他のベロブルグの住民がここに来たことがあるのですか?」

「あれは百年前のことで、残念な結末のお話よ。幸いなことに、氷雪の都は一箇所に留まらず、雪や風の中を移動し続けているので、争いによってお互いが滅ぶのを避けることができたわ」

アルチョムは、女性の口から発せられる言葉に衝撃を受けながら耳を傾けていた。「つまり、ベロブルグと氷雪の都は昔、戦争になりかけたということですか?」

女性は手を上げて、質問をやめるように合図した。「それ以来、氷雪の都はベロブルグからの訪問者には警戒しているわ。でも、ご覧の通り、氷雪の都は動かない氷の塊ではなく、流れる水のように型にはまらずに作られているの」

「誰かを判断するということは、宝石を様々な角度から鑑賞することに似ている。私はアンナからあなたのことを聞いて、あなたが書いた冒険日記も読んで、今実際に会っている。氷雪の都の基準では、あなたは確かに優秀な人のようね」

「女王陛下、寛大なご判断をありがとうございます」アルチョムは深くお辞儀をした。

「話を戻しましょう。あなたがなぜ冒険に出たのかを知りたいわ。あなたの答えは、あなたが狭い範囲にとらわれたくない、同じことの繰り返しで毎日を過ごしたくない、という気持ちを証明した。氷雪の都、溶岩の王国……あなたは既にこの世界の多くの光景を目の当たりにし、その話を聞いた。それは普通の人が夢に見る内容よりも遥かに多いわ。でも、天空にとっての大地は、世界にとってのベロブルグのよう──あなたなら、私が言いたいことを理解できるでしょ?」

「僕は……わかります、陛下。しかし、僕は人が天空に足を踏み入れることができるとは思えないのですが?」アルチョムは小声で答えた。「そんなことができるのは鳥だけだと思います。僕、僕は、ダミルの誘いが、破滅への歩みなのか、それとも冒険での大きな賭けなのか判断できません」

「その二つに……明確な違いはあるのかしら?生存は人間の本能、冒険には遥か昔からリスクが付きものよ。旧世界は私たちが想像もできない高みに達していた。厳密に言えば、冒険や探検も旧世界の遺産の一部よ」

「ベロブルグで平和に暮らしていたあなたには、氷雪の都の様子は想像もつかないでしょう?ダミルの言った『天外の境』もでたらめではないわ。それは、旧世界の人類が肉眼では見えない遠い宇宙に残した奇跡よ。ただ、その存在を現代の人はとっくに忘れてしまっているの」女王はため息をつき、残念そうにした。

「あなたが古代の遺物を追って雪原まで行ったのは、旧世界の遺産を引き継ぐためでしょう。帰り道は雪に埋もれて、もう存在しないわ、アルチョム。前に進むしかない、あなたも、氷雪の都も、ずっとそうだったわ」

「考えさせてください」冒険家は考え込みながら、深いため息をついた。「ダミルと話し合おうと思います」

女王は急に真剣な表情になった。「私はあなたを説得しようとしているわけではないわ、若きアルチョム。冒険は衝動的にできるけれど、衝動だけで世界の果てまで行ける人はいない。あなたがどういう選択をしても、私はあなたに贈り物をするわ」

女王はマントから手を伸ばし、腕ほどの長さの短い杖をアルチョムに差し出した。短い杖の片方は二つに枝分かれしており、双頭の鷲の形をしているのが特徴的だった。

「若きアルチョム、氷雪の都に跪くという礼儀作法はない。でも、昔の人の知恵に敬意を表して、片膝をついてみるのもいいかもしれないわ。私にではなく、旧世界に」

女王が杖を握ると、突然、液体が流れ剣の形に変わり始め、冷たい蒼い刃になった。

彼女は驚くべき速さで刃を回転させ、剣先で軽く、アルチョムの左右の肩と頭頂部に一度ずつ触れた。

「あなたの前途に障害が無いように。あなたが常に幸運に恵まれるように。あなたの勇気が衰えぬように」

「この水でできた剣は旧世界から伝わった技術よ。氷の都の騎士、あなたに贈りましょう。天空にとってこれは些細な針に過ぎない。大地にとっては、障害を切り開くための道具でしかない。しかし、あなたにとっては、危機の中で前に進む勇気になる」

「行きなさい、アルチョム」

第四章 春の牧野 第一節

今回のあらすじ:雪山を離れたアルチョム一行は暖かで心地よい草原にやって来た。植生が生い茂り、土壌も柔らかいが、それでも危険が潜んでいた。この豊穣の土地で、彼らは見たこともない巨大な昆虫と遭遇する……

恵まれた環境が植物を驚異的に成長させ、足元の土はまるでふかふかのマットレスを踏んでいるようだった。アルチョムがコートを脱ぎ、膝丈の草むらを抜けると、草の匂いを乗せた風が通り過ぎていく。彼はこんなに優しい風がこの世にあると想像すらしなかった。

彼はそっとアンナの手を引いた。彼女は拒まなかった。

次の瞬間、アルチョムは自分の心の奥底の声を聞いた気がした。「残ろう。ここでアンナとずっと暮らそう」しかし、彼はすぐにその考えを否定した。アルチョムは傍にいる少女を見つめた。この少女は、彼と一緒に旅をすることで、旅の終わりに到達すると確信していた。もし彼が利己的な考えに取りつかれたら、途中で彼女の信頼と助けを裏切ることになる。

束の間の平和な時間を満喫していると、空から鋭い羽音が聞こえた。鼓膜に刺さるような音がし、奇妙な羽音が頭に刺すような痛みをもたらした。怪物は鳥のように空を横切ったが、それはガラスのように透明なゴワゴワした羽を、鳥よりもはるかに速く動かしていた。

ダミルは無意識のうちに耳をふさいで地面に蹲り、見知らぬ神への祈りを唱えていた。怪獣に連れ去られた経験から、彼は危機に常に真っ先に反応するようになっていた。アルチョムは鼓膜を刺すような痛みからアンナを守るために彼女に覆いかぶさった。同時にあの怪物に既視感を抱いた。

空より来訪した招かれざる客は、軽やかに素早く着地し、羽を広げることなく、不気味な彫像のようにじっとしている。

あれは……蚊?ついにアルチョムは記憶の片隅から、旧世界の百科事典のような文献の中に、目の前の生物が記載されていたことを思い出した。

旧世界の時代、世界の大部分には四つの季節があった。蚊は夏に発生する、血を吸う昆虫だが、その大きさはせいぜい指で潰せる程度の大きさだったはずだ。しかし目の前にいる「蚊」は彼らの背丈より高く、細長い節とびっしりと生えた毛がはっきりと見えた。巨大な蚊は、黙って見ている三人には気づかず、長い剣のような口器を地面に突き刺し、何かを吸い込んでいるようだった。

地面に這いつくばったダミルは、柔らかい土の下の液体の流れを微かに感じ、巨大な蚊の腹が急速に膨らんでいくのを見た。彼のひそめた声には恐怖があった。

「見つかってないうちに、はやく逃げようぜ……」

「ああ、気をつけろ」

アルチョムは出来るだけ息をひそめ、背の高い草の間をゆっくり進んだ。だが、この忌まわしい生物は、わずかな振動にも非常に敏感であった。一瞬で警戒して、口器を地面から離し、再び翼を広げて空へと飛び立った。しびれるような頭痛を起こす、羽音が再び響いた。アルチョムは、氷の都の女王から贈られた剣を引き抜き、防御の態勢に入った。

「アルチョム、気を付けろ!ヤツがこっちに来るぞ」

蚊の怪物が近づくにつれ、高周波のノイズが鋭くキツイ音となり伸びていった。アルチョムは水の剣を振りかざして、蚊の長い口器によるすばやい一撃を防いだ。蚊の怪物は、空中で機敏に動くことができ、静止するだけでなく、素早く方向転換することもできた。巨大な蚊は警戒しながら姿を潜めた。そのあまりにも素早い動きで、その姿は残像でぼやけていた。アルチョムが回避できなくなってきた時、背後で火薬が爆発する音が響いた。巨大な蚊は、爆風で地面に叩きつけられ、足を空に向けてひっくり返った。

アルチョムが振り返ると、ダミルが銃身から白い煙を上げた古い火縄銃を持っているのが見えた。

「よっしゃ!」ダミルは自身の正確な一撃に興奮していた。だが、蚊の怪物が足を動かして態勢を立て直したので、興奮はすぐに恐怖に変わった。

巨大な蚊は、一行の頭上でデタラメに飛び始めた。激しい羽ばたきは、蚊の怒りを表し、長い針のような鋭い口器は、次の襲撃の練習をするように動いていた。

剣を握るアルチョムの手は思わず震えた。これは素早く反応したからって避けられる一撃ではないのだ。

「アンナ、君たちは逃げるんだ!」

「でも、アルチョム──」

「逃げる?その必要はない」

聞き慣れない力強い声が響いた。空から降ってきた槍が、巨大な蚊の半透明の腹部を貫き、地面に固定した。

戦闘は一瞬で決着がついた。アルチョムは息を吐いた──彼らは助かったのだ。

声の主である男は、奇妙なスタイルの威風堂々とした衣装を着ていた。彼が乗っているものはさらに一行を驚かせた──それは鎧のような殻と発達した後肢を持つ昆虫だったのだ。虫の背中には、一行を苦戦させた巨大な蚊に匹敵する大きさの鞍が取り付けられていた。

昆虫騎士は蚊の死体から槍を引き抜き、アルチョムの前で止まると、槍の先端を信じられないほど正確に若い冒険者の心臓の位置に合わせた。

彼が口笛を吹くと、同じような格好をした騎士たちが長い草むらから現れた。

三人が騎士たちに感謝の気持ちを伝えようとした時に、先頭にいた騎士が大きな声で宣言した。

『我々の聖地である「ハルハラ」に不法侵入した見知らぬ人たち、お前たちを逮捕する──』

(続く)

第五章 水の監獄 第一節

今回のあらすじ:アルチョム一行は巨獣『ハルハラ』と直接会話できる祭壇を訪れ、巨獣の肺への道を知る。しかし、肺にたどり着くと、そこは旧世界の熱帯雨林で、深刻な浸水状態にあることがわかった。アルチョムとデュークは、巨獣の肺に水が溜まった原因を突き止めるために、水の中に入って捜索を試みた。しかし、息継ぎをしようとした瞬間、不意に水中深くに引きずり込まれ、水面に戻ることができなかったのだ……

……

意識を取り戻したアルチョムは、重い体から解放されたような、今まで経験したことのない素晴らしい感覚に包まれていることに気がついた。長い昏睡には、胎児が羊水に包まれているような安心感があった。

倦怠感は完全に消えたわけではないが、意識は徐々にクリアになっていった。

アルチョムは気を失う直前のことを思い出した。水面に向かって必死に泳いでいたが、何かが体を引っ張り、限界まで息を止めても抜け出せなかった……

僕は溺れ死んだのか?

アルチョムはこの疑問の答えを考える暇がなかった。まずは状況を理解する必要があったからだ。完全に水に沈んでいるのに、息苦しさが無かった。腕を動かすと、指の間から水が流れるのを確かに感じた。続いて足を動かすと体が上昇するのを感じた。

「バンッ!」と彼の背中は鉄の柵にぶつかった。

予想外の衝撃による痛みでアルチョムは悪態をついたが、まだ生きているという実感が彼を落ち着かせた。

「目覚めたか、アルチョム殿」後方から聞き覚えのある声がしたので、アルチョムはそこまで泳いで行き、一緒に水に入っていたデューク隊長と、彼との間にある鉄の柵を見つけた。

「キャプテン・デューク、まだ生きていたのですね?僕たちは一体……」

「私たちは水中の民にとらえられたようだ」

「それじゃあ、僕が気を失ったのは……」

「それは、お前が自分自身で勝手に窒息したからだ。まだ気づいてないのか?ここは水の中でも呼吸は出来る」

アルチョムは、この神秘的な水があったからこそ、自分は生き延びることができたのだと理解した。以前、医学について勉強をしていた時、水中でも酸素が十分にあれば呼吸ができるということは知っていたのだ。

二人の会話に反応したのか、檻の前に少年らしき人物が泳いできた。体にピタリとくっついた服を着て、持っていた銛で、金属製の檻を強く叩いたので、ものすごい衝撃が波とともにアルチョムを襲った。

「黙れ、ここはお前たちがお喋りする場所じゃない!」看守は、二人にいい顔をするつもりはなかったようだ。「水の中の他にどこで呼吸するつもりなんだ。二人とも、これを見るんだな」

看守が持っていた漁網を引っ張ると、網に入っていたものがゆっくりと二人の視界に入ってきた──それは白くて透明で太くてゆっくりと蠢くミミズの集まりだった。本当にミミズなのかはアルチョムには分からないが──うねうねと動くこれを始めて見たのは確かだ。

「この虫たちがとこから来たか分かるか?」

アルチョムとデュークは眼を見合わせて、頭を横に振った。

「ふん、使えない奴だな。これがなんなのか知ってると思ったんだがな」

「……これが虫?」

「知らない、でも何か名前はあるはずだ」看守はふと自分が誰であるかを思い出し、再び銛で檻を強く叩いた。「黙れ!俺ともしゃべるな!」

しばらくの沈黙の後、空気の読めないアルチョムは続けて尋ねた。「虫に内臓があるようには見えないので、生き物ではないのでは?」

「こいつらは、目があるように人を追いかける、生き物かどうかなんてどうでもいい」看守は軽蔑したような顔をしていた。「そして、傷がつくと、人を溶かす液体が出てきて、汚染された水は息ができなくなってしまうんだ」

「汚染された水……か……」

デュークは冷たく「だからお前たちは虫を攻撃するんじゃなくて、水中に巨大な監獄を作ったんだな……」と吐き捨てるように言った。

「ははは、賢いやつがいたじゃないか。お前の隣にいるやつは馬鹿みたいに黙っているぞ。そうだ、お前たちの独房の地下二百階には、全てこの虫が詰まっている」ここまで言うと、看守は自嘲するように「生きるために、監獄を作り続けるしかないんだ」と言った。

アルチョムは足元を観察した。デュークほどの視力はないが、足元に無数の虫が詰まっている檻があるのが何となくわかった。水深が深すぎて、一番底のケージは見えず、ただ深淵が広がっていた。水位が上昇していたら、底にいる虫は圧力で割れてしまい、深淵は既に死の世界になっていただろう。

アルチョムは「ハルハラ」の肺に水が溜まっている理由が分かった気がした。

虫が常に湧き、監獄が次々と増築され、肺の中の水位はどんどん高くなり、ハルハラが呼吸に使える部分はどんどん減っていった。

「この監獄は元々お前たちを閉じ込めるためのものじゃない」看守は再び銛で檻を叩くと「もし、お前たちがこの虫の発生源を見つけるのに協力してくれるなら、お前たちを来た場所に返してやる。どうだ?」と言った。

「もし、僕たちが水の外からやって来たと言ったら?」

(続く)

第六章 溶岩の国 第一節

今回のあらすじ:アルチョム一行は、ついに地上の旅の最終地点——溶岩の国にたどり着く。ダミルの信号弾で遠くの溶岩と岩の間からゴゴゴという音が聞こえてきて、鎧をまとった巨大な昆虫が彼らの前で止まった。彼らはこの大きなヤツに乗って大砲の国に旅立とうとしている……

……

アルチョムは元々、無脊椎動物に対して嫌悪感を持っていなかった。

「こいつらは信号弾を見たはずだ。ほら、あれが溶岩巨虫だ、俺らを迎えに来たんだ」

ダミルは喜びと誇らしさをなんの疑いもなく露わにした。

「迎えに来たのがこんなデカい虫だとは……この旅路に虫は多すぎる」

このミミズのような大きな虫は、高さが約2m、長さは約20mもあった。止まって待っている間も、ずっとうねうねと動き続けていた。環状の筋肉には花びらのような鱗が幾重にも重なっている。鱗には細かな黒い砂岩が付着しており、分泌物と砂岩が混ざってできた特殊なコーティングのようになっていた。

アルチョムは嫌そうにその場に立って動かずにいた。

「何を言っているんだアルチョム、ハルハラにいた虫より全然普通だろ」

「行くわよ、アルチョム」

アンナもダミルの後に続いて行った。

環状の筋肉の上には、年老いたように見える人が片手に長い棒、もう片手に……鉄製のフックを繋いだ手綱のようなものを持ってた。彼は虫の背中で身をひるがえし、大げさな動きで着地した。老人は腕を開き、ダミルを抱きしめた。

「よお!ダミル!」

「バービケーン会長!会長が自ら出迎えてくれるなんて!」

「はははは、驚いたろ。はやくお前の冒険の仲間を俺に紹介しろ!」

「初めまして、アンナです」

「初めましてアンナ!俺はバービケーンだ、本当に可愛い娘だな、ははは!」

バービケーンは、アルチョムが動かないのを見て、大声でアルチョムに向かって叫んだ。「あそこにいる小僧、早く来い、溶岩の国に戻るぞ!」

アルチョムは、老人が不自由な足を引きずってまで握手しようとしているのを見て、仕方なく彼の厚意に従った。

「……初めまして、アルチョムです」

……

溶岩巨虫の背中に乗り込むと、アルチョムが心配していたように、金属製の鎧のサイズは巨虫にあまり合っていないようだった。アルチョムは、この緩い鎧から落ちないように、座席の肘掛けを握りしめ、足を必死に踏ん張った。バービケーンの持っている長い棒の一端の電極が音を立て、彼は手綱を取って後ろの着席状況を確認した。

「出発だ!」

バービケーンの持つ電極によって刺激された虫は動き始めた。巨虫はリズミカルに筋肉を伸縮させ、移動速度はどんどん速くなっていく。アンナはアルチョムの前、ダミルは後ろに座る。三人の距離は筋肉の伸縮に合わせて変化しており、なんとも不思議な移動方法であった。

この移動手段には意外なメリットがあると言わざるを得なかった。

巨虫と緩い鎧はかなりの可動域があり、岩の隙間にも入り込むことができた。また、巨虫は小さな火山をぐるりと囲んで一定の高さに達し、迂回しなければならない壁を直接登ることができた。バービケーンは複雑な電極信号で巨虫を操っていたが、巨虫も自分で絶妙な判断を下していたのだ。一人と一匹のコンビネーションで、素晴らしい動きが何度も実現した。

さらにアルチョムは巨虫の特徴的な排熱方法に気づいた。巨虫の粘液は鎧に彫られたメッシュ状の穴から排出され、高温の岩砂を捨てつつ、新たな岩砂を粘着し、放熱をしているのだ。

「本当に信じられないな……」

旅が進むにつれて、ダミルとバービケーンの「溶岩の国雑談」はどんどん面白くなっていった。

ダミルによると、溶岩の国の冒険者の半分は大砲を作ることに夢中で、残りの半分は外界を冒険することに夢中になっているという。バービケーンは溶岩の国の大砲推進委員会の会長で、大砲に魅入られた者の代表だった。大砲促進委員会が豪語するのは大砲の大きさと飛距離だけだという。

「俺たちの委員会では、作った大砲の威力で偉さが決まるんだ。ダミルのように火縄銃しか作れないようなレベルじゃ、俺の委員会にはいられないな、ははは!」

「俺はプロの冒険者だぞ!はははは!」

バービケーンの豪快な笑い声は、とても親近感が湧きやすかった。彼は片目がなく、片手は鉄製のフックで作られ、片足は金属製の義足だった。彼が振り向いてアルチョムと会話している時、よく見ると、彼の頭蓋はゴムのようなものでできていた。

「この頭蓋か?前に大砲の爆発で頭皮を失ったが、脳は元気に働いてるぞ、はははは!」

アルチョムは、座席に安定して座る方法に慣れてくると、道中の景色を楽しむ余裕が出てきた。大小様々な火山は全て大きなエネルギーを貯めているようで、溶岩があちこちに流れ、見てるだけでも耐えられないほどの暑さだった。普通の人から見れば、ここはこの世の地獄とも思えるほどひどい場所だった。黒い火山、煙と埃に満ちた空、湧き出る赤い溶岩、まさかここに大砲を研究している科学国家があるとは誰も思わないだろう。

「冒険者が帰還したのは久しぶりだ、今夜は祝いの宴のご馳走を準備するよう、シェフに指示してある!」

宴の話を聞いたアルチョムは、とても嬉しくなった。ただアンナだけは、不安で陰った目で、遠くの火山を眺めていた。

……

客席は満員だった。大砲促進委員会と冒険者が宴会場を埋め尽くした。バービケーンがアルチョムら三人を紹介すると、宴会場には大きな拍手と歓喜の声が響いた。アルチョムはあることに気がついた、ここの人は基本的に身体の一部が欠けている。腕や足がなくなっていたり、ゴム製の顎やプラチナ製の鼻だったりするのだ。

アルチョムからしてみれば、ダミルは奇跡だった──未だに彼は五体満足なのだから。

「数年前から、俺たち大砲促進委員会は、先祖の名に恥じぬ大砲を使った活動を計画している!ご存知の通り、史上最大の火山活動が近づいている!」

「火山!万歳!」宴会場は大いに盛り上がっていた。

「俺たちは果敢に自らを空に発射する。自分の命をかけて、世界最大の冒険を成し遂げるんだ!」

「火山!万歳!」宴会場全体が震え、いつ崩壊しても不思議ではないと思われた。

「ダミルが冒険中に得た位置観測データで、天外の境への軌道を完全にすることができた。これで、正確に天外の境に向け大砲を打ち上げることができることを、この場で宣言する!」

一瞬、会場からは無数の叫び声が上がり、そして突然静寂が訪れた。そして次の瞬間、先ほどよりもさらに大きな拍手と歓声が沸き起こった。今、会場の大砲を一斉に撃ったとしても、湧き上がる喜びの声を抑えることはできないだろう。

アルチョムが宴会場の人ごみを避けて窓辺に行くと、そこにはハルハラから持ち帰ったスパークリングワインを片手に、遠くの火山を静かに見つめるアンナがいた。

「アンナ……」

「アルチョム、何も言わないで、まずはこっちに来てくれる?」

アルチョムは、冒険の道中でアンナの強靭さを何度も見た。だが、今の彼女の声は助けを求めるように弱々しく、アルチョムは背後から彼女を抱きしめたくなった。

「どうしたんだ?」

「空に行ったら、もう帰ってこれないの……?」

「そうかもしれない、天外の境にはもう火山大砲はないだろうから」

「アルチョム……」振り返ったアンナはの顔は赤く、どうやら泣いていたようだった。その瞬間、パーティーの音は遠ざかり、世界は静寂に包まれた。

「家に帰りたいの、一緒に帰ってくれる?」

(続く)

第六章 溶岩の国 第二節

前回のあらすじ:アルチョム一行は溶岩巨虫に乗り溶岩の国に到達する。彼らは溶岩の国で盛大な歓迎を受ける、そして大砲推進委員会の会長バービケーンの激高した演説を聞き、長き旅もいよいよ最後の一歩だと分かる。だがその時、アンナに脱退の念が起きる、そして彼女はアルチョムも一緒に残って欲しいと懇願する……

……

ダミルは非常に困惑しているが、何も聞くことができなかった。

祝いの宴の二日目、アルチョムとアンナの間には何とも言えない雰囲気が漂っていた。

ダミルは、アルチョムが宴の高揚感を利用して、アンナに告白をして失敗したのではないかと推測した。この二人なら大丈夫だと意気込んでいたが、自分の経験がまだ浅いことに気づかなかった。これまで何度も大砲から撃たれて世界を見てきた人なら、理解できたかもしれない。

「その……今日お前たちを発射場に連れてきたのは、自慢の火山砲を見せるためだ」

ダミルは二人の落ち込みを察したが、今は聞かない方がいいと自分に言い聞かせた。

「前にも言ったが、火山のエネルギーはこの星そのもののエネルギーだ」

「惑星の内側は星の中心に向かう力ではなく、常に引力とは逆の力が働いている。つまり、この内側から外側への巨大な圧力によって、マグマやあらゆる種類のガスが噴出し、それが火山のエネルギーになるんだ」

分厚いガラス越しに、アルチョムとアンナは、火山のなかの溶岩を見つめた。

それは寄せては返す波のようだった。一方で、煮立った水のように、マグマからは常にガスの噴出による泡ができていた。灼熱が空気の厚さを乱し、視界が歪んでしまうので、この輝く液体の不安定さがもうすぐ解き放たれるだろうということは一目瞭然だった。

いつの間にか、アルチョムは全身に汗をかいていた。

「不安定で、予想が難しい、あまりにも大きなエネルギーなどの問題により、過去の人類はこの根源的なエネルギーを利用することができなかった。氷河期が訪れ、祖先たちは考えを変えた」

「制御しようとするのではなく、解放させるんだ!」

「そうだ、同志アルチョムよ!お前の言う通りだ!こんなに強大なエネルギーは、思い切り解き放ってやらないとな、まるで……」

二人は同時に「おならを何回かに分けて出すんじゃなくて、一気に出すみたいに!」と言った。

二人は大声で笑った。このような品のないジョークを、ダミルは冒険の間に何度も言っていた。

今にも噴火しそうな火山を見て初めて、馬鹿げた説明が現実味を帯びた。その誇張された描写は驚くほど彼らの傍にある──アルチョムはまだ夢の中にいるように感じた。

後ろで歩いていたアンナも、思わず笑った。

「上にあるのがエネルギー保持装置、下にあるのが火山活動促進装置だな……高価だが、すべて使い捨ての消耗品だ……」

突然ダミルが立ち止まった──彼はその言い方に納得していないようだった。

「こいつらは一生の中の一回の試合のために準備してきたやつらだけど、すべてを証明するにはその1回の試合で十分なんだ。消耗品なんかじゃない、やつらは究極なロマンチストなんだ!」

「ロマンチストか……」

アルチョムは、胸の中で何かが不安定なマグマのように激しく動くのを感じた。ダミルの声が遠くなり、まるで大地の鼓動を感じて、その大きなエネルギーを使って一世一代のロマンスを実現したかのようだった。

「これを見ろ、これが俺たちが乗る砲弾だ!」

正面を広く見渡せる直径約7メートルの球形のコックピットには、精巧な計器類や操作レバー、各種ボタンなどが配置されていた。球形の左右には展開できる一対の薄い翼が隠されていたが。

それに溶岩の国の意匠は全くなかった。

「これは、まさか……」

「そうだ、これは旧世界の人が造った人が乗れる『砲弾』だ——全世界を探してもこれしかないぜ!」

外側は摂氏5000度を超える温度に耐えられる素材で覆われ、内部にはテレメトリ、通信、燃料、温度制御など様々な高度な設備が並んでいた。アルチョムは、かなりの数の旧世界の遺物を発掘していたので、一目でこれが旧世界の技術の頂点であると理解した──これは本当に人を空に連れ行くことができるものだ。

「この空への『大砲』は、行ったら帰らないロマンチストでもあるんだ。その旅を終えた後は、永遠のモニュメントとして、宇宙で漂うんだ……」

再度、アルチョムは、自分が地上ではなく、鮮やかな星の海に飛び込んだような気持になった。

アンナは目の前にいる男の魂が既に空の向こうにあることを感じた。

彼女は、アルチョムの心はすで大空の向こうにあって、自分が決して届かないことを理解した。それはあまりにも遠く、天外の境よりも、宇宙の果てよりも遠くにあった。そして、彼を苦しめないためにも、夜が明ける前にこっそり立ち去ろうと心に決めた。

……

でも彼女は出来なかった。

「ありがとう、アンナ」

太陽が昇る前の路地で、彼女はくっきりとしたシルエットしか見えなかった──それは彼女を待っているアルチョムだった。彼女が黙って離れることは叶わなかった。

「君に助けられてから、僕は君を深く愛している。君のような強く自立した優しい女性は初めてだった。僕は何度も君に伝えるチャンスを伺っていた、君を愛してる、僕とずっと一緒に生きて欲しい」

「でも、やっぱり僕は君と一緒にいることはできない。僕の人生でやり遂げなければならないことがあるとすれば、それは冒険──果てなき冒険だ。だからごめん……」

「僕もロマンチストで、冒険の中で僕の全てを終えてもいいと思っている。ごめん……」

アンナの目に涙が溜まっていた、彼女にはわかっていたのだ。

──彼と共に冒険を始めた瞬間からわかっていた、彼女が愛したのはそんな人だと。

涙が落ちる前に、温かい手が頬に近づき、そっと涙をぬぐった。それは彼女が最もよく知っている、アルチョムの手だった。

「わかっているんだ、君を泣かせるべきじゃないって。でも、僕はもう決めたんだ……」

「分かってる、分かってるわ……」

「僕から君に贈れるものは三つだけだ」

アルチョムは常に持ち歩いている日記を取り出した。中には冒険の内容、アンナとの思い出が細かく書かれている。

「一つ目は僕の過去だ。僕たちが経験したことは、絶対に幻なんかじゃない」

続いてアルチョムは女王から授かった剣をアンナに渡した。

「二つ目は、僕の未来だ。これは僕の女王に対する誓約だ、僕は永遠に君を守る」

「最後は、僕の今だ──君を愛してる、アンナ」

アルチョムは彼女に口づけした。

二人は深く愛し合っていた。まるでこの瞬間が永遠に続き、未来が来ないかのようだった。

(続く)

最終章 天外の境 第一節

今回のあらすじ:アルチョムとダミル一行が旧世界の『砲弾』に乗り、戻らない決意をして空に向かう。

……

火山大砲の衝撃は、当初の設計では考慮されていなかった。

発射された瞬間「砲弾」は驚異的なスピードに達し、発射場にいた全員が本当にこれで大丈夫かと、手に汗を握った。「砲弾」の中も決して快適ではなかった。アルチョムとダミルは、重力の何十倍もの力を受け、押しつぶされそうになっていた。

その一瞬、アルチョムは意識を失い、雪原で遭難した時と同じ気持ちになった。だが、その状態は長くは続かなかった。彼は驚くべき忍耐力と精神力で意識を覚醒させたのだ。一瞬生死の境をさまよったあと、アルチョムはすぐに船内の衝撃吸収の効果に気づいた。これがなければ、自分はきっと無事ではいられなかったと思った。

しかし、ダミルはそうはいかなかった。彼は白目を剥き、薄く開いた口の端から泡を吹いていた。ダミルは気を失っただけなのか、それともこの衝撃で死んだのかわからなかった。アルチョムは何度も通信機で呼びかけたが、返事はなかった。

「砲弾」の窓からは、迫り来る空だけでなく、はるか下の地面まではっきりと見えた。

そそり立つ絶景が一枚の巻物のようにアルチョムの目の前で次々と展開された。見慣れた風景がどんどん小さくなり、周囲はますます見慣れないものになっていく。メーターの数字はどんどん大きくなっていき、少しも止まる気配がなかった。

この現象が単純な事実を示しているにもかかわらず、アルチョムの理解は一瞬遅れた──彼らは高速で星の表面から遠ざかっているのだ。

──上空5km地点。

アルチョムにはまだはっきりと溶岩の国の建物が見えていた。特に目立つのは、「砲弾」を発射する火山主の峰砲台だった。

火山の主峰は、発砲によって崩れた岩が巻き起こした土埃で見えなかった。この高さになると、溶岩巨虫は見えないほど小さくなっていた。尾根を流れる溶岩は、蜘蛛の糸のような質感になり、元の燃えるような色よりも淡い色になっていた。

火山灰の混じった空気が高速で流れ、地上の風景が徐々にぼやけていった。

──上空10km地点。

アルチョムは既にハルハラを見下ろすことができるようになっていた。

上空10kmで、アルチョムはやっと巨獣の背骨の境が見えるようになったが、それでも巨獣の全貌を把握することはできなかった。巨獣というだけある!かつて通った長い道のりが眼下にあり、何とも言えない気持ちを呼び起こした。

今までの旅路を辿り、アルチョムの視線は雪山を捉え、吹雪を見つけた。氷雪の都は、高速で移動する雪雲に紛れている──彼はその全貌を見ることはできなかった。

アンナは、長い冒険の後には、いつもリラックスするために父親と一緒に釣りに出かけると言っていた。今回の冒険の後、彼女はどうやって己を癒すのだろうか……

薄い雲が視界を遮り始め、逃げ出したい気持ちが戻ってきた──「砲弾」はもうどれぐらい飛んでいるのだろう……

──彼らは依然として空を登り、暗い夜に突入した。

真っ暗な大地にベロブルグの姿が見え隠れする。

家々の明かりはコインほどの小ささになっていたが、アルチョムはそこがベロブルグだと確信した。周囲の寒さを拒むヒートアイランド現象は、雲の上ではさらにはっきりと見えた──この暖さはベロブルグを百年の間支え続け、同時にその民が外の世界へ行く道を阻んだ。

この星にとって、はとても小さく、皿の上に置いてある一粒の豆のようだった。アルチョムはかつて世界はベロブルグと周囲の吹雪だけだと考えていたが、今にして思えば、それは自分の見識の狭さを認めたくなかっただけである。

この高さにいると、誰でもそのようなささやかな見識を笑うだろう。

──上空100km地点。

惑星の曲面がアルチョムの目に鮮明に映る。

やがて巨大なオーロラが出現し、鮮やかな色のリボンが惑星の表面を優しく覆っていた。かつてアルチョムはベロブルグから、空に浮かぶ幻のようなヴェールを見上げていたが、今そのオーロラは眼下に広がっている。

その時、通信機から雑音が聞こえた……

「……あ……アルチョム!俺たち!ああああ!空にいるぞおおお……ゲホ、ゴホ……」

それはダミルの叫び声だった。

アルチョムは笑いながら泣いた。

……

──上空400km地点。アルチョムには『天外の境』が見えていた。

それは巨大な円柱状の空間で、ゆっくりと回転していた。アルチョムは、回転の遠心力で重力を疑似体験できるという説を聞いたことがあった──だが、その絵空事が実際に目の前にあると、言いようのない興奮が溢れ出した。

旧世界の人々がこの「砲弾」を見たらどんな反応をするのだろうか?恐れられ、驚かれ、侵略者扱いされて反撃されてしまうのだろうか?

「砲弾」の中に録音されていた音楽が流れ始めた。ドラムやギターの音はゆったりとしていて心地よく、まるで旅の終わりの贈り物のようだった。

「遥か彼方の宇宙無線局が呼びかけている」

「遥か彼方の宇宙無線局が呼びかけている」

……

「砲弾」が「天外の境」に近づくほど、その細部をはっきり見ることができるようになった。

もし円柱を広げれば、あの『天外の境』は巨大な正方形の領域になるだろう。正方形の領域の端と端が繋がり円柱状になっていて、その中の、どの位置からでも見上げれば、逆さまの街並みが見える。

街並みには、常識では考えられないような建築物が立ち並び、機械仕掛けの巨人が積み木を組み立てるように建築物を組み合わせ、整然と区画された街並みは常に変化していた。アルチョムには、まるで「街」全体が呼吸と脈動をし、常に回転するルービックキューブのように、絶えず進化し、究極の合理性を示しているように見えた。長い間放置されていた無垢な芸術作品のように、「天外の境」は孤独に浮かび、人類の賞賛のまなざしを待っていた。

まるで「砲弾」の存在に気付いたかのように、この巨大な物体は、巨人が飛んでいる虫に手を伸ばすように、ドッキングスタンドを伸ばした。アルチョムは、伸びてくるスタンドを見て、旅の最後が悲劇の衝突で砕け散るのではないかと思い、心臓がギュッと縮んだ。

だが、想像していたような着陸失敗は起こらなかった。スタンドはごくわずかな振動の中「砲弾」を優しく固定し、天外の境のスポットにゆっくりと引き寄せた。

そして、通信機からはずっとゆったりとした音楽が聞こえていた……

……

「私は星の階段に足をかけ」

「宇宙の画廊をゆっくりと進む」

「今夜の銀河は眠らない」

……

ある小包に添えられた手紙

昔、下層部を滅ぼす可能性があった謎の生物の興亡記。

マーシャへ

昔、君と一緒にイワグラシガニを捕まえてたフィンを覚えてる?

大きな長い顔、いつまで経っても寝ぼけてるような小さな目、覚えてるよな。あれからアイツは古代遺物の転売を始めたんだよ、そして数年後、縄張り争いに負けたようで、それ以来音信不通になってしまったんだ。

アイツは以前、機械の墓地で手紙を発掘したが、闇市では全く売れなかった。闇市では、古代遺物以外は無価値だからな。その後、無一文になったあいつは僕のところに手紙を買ってくれないかと言ってきた。僕は水産物を扱う業者であって、ゴミの収集家ではない。イワグラシガニなら買い取るけど、手紙を買い取ってどうするんだ?

でも一応昔のよしみで、僕はその手紙を安い値段で買い取った。

アイツ、口を開けた途端デタラメを言い始めるんだよ、手紙には水産物の転売に関する情報が書かれているから、闇市ではなく僕に売ったとか…結局何通もの手紙の中で、1通だけカニについて書かれていたよ。しかもトンネルイワグラシガニとやらだ、長い間水産物に関する仕事をしているけど、トンネルイワガニなんて聞いたこともない。

名前からして、イワグラシガニと関係はありそうだけど、同じ種かなんて誰にもわからない。昔、イワグラシガニには岩に隠れる習性がなかったけど、人々に食べられるようになってから岩陰に隠れるようになったという冗談を聞いたことがある。もしかしたらその時、カニが自分で名前を変えたのか?

手紙には、鉱山の地下にはそういうカニがたくさんいて大変なことになっている、このままでは200年後に鉱山が崩壊して、上の街がなくなってしまうと書かれていた。随分時間が経ったけど、そんなことは起きてない。なあ、僕たちに食べつくされたから、カニがいなくなったのかも。古代の人々は学問がなってないから、自分で自分を怖がらせているんだな。

そんなにカニがいたら、今頃僕はこんなに悩んでない。今、イワグラシガニの値段は高騰し、捕獲も困難だ。絶滅してしまうかもしれないから、僕は職業を変えなければいけないかもしれない。

聞いた話では、君は「地炎」に入り、歴史の研究をしているそうだな。手紙を見て、君の研究の役に立つかもしれないと思い、すぐに送ったんだ。もし「地炎」にまかないが必要なら、僕を紹介してくれ、見返りはそれだけでいいんだ、どうだい?

マルセル

「マっちゃん」育成日記

ペットの飼育日記……でも「バーチャル・ペット」はペットに含まれるのだろうか?

(一)

噂によれば、古代遺物を探したほうが採掘よりも儲かるらしい、親父さんの知り合いのツテで自分も探しに連れて行ってもらおう。

二週間ほど探して見つけたのは「ランド計数機」に似たようなガラクタだけだった。ただ計数機よりは小さい。私は古代遺物に詳しくないので、お金を払って、「カンテラ」のパフラヴィーに鑑定してもらおう。

パフラヴィーは、これをバーチャル・ペットと呼んでいた。旧世界の人間がペットの映像をインプットすると、ペットが死んじまっても、生きているかのように、飼い主に付き添えるらしい。

「ペットって何だ」って「カンテラ」に聞いたら、ペットは贅沢な概念だと教えてくれた。毎日餌をやったり、飲みもんをやったり、気分転換させたりするらしい…全く興味が湧かなかったぜ。

ああ、中にテクニックモジュールがあるから多少は金になるってパフラヴィーが言ってたぜ。でも高望みすんなよ、スヴァローグさんだってこんなもんに興味なかった。

せっかく手間をかけたって言うのに、採掘した方がましだったよ。

(二)

まあでも幸い、食べもんも飲みもんも本物じゃないから助かったわ。たくさん食べさせてやったぜ。

今は自分の食いもんも厳しい状況だから、ペットなんてあり得ないだろ。本当、「バーチャル」でよかったよ。

親父さんの知り合いが、買い手探しを手伝ってくれるって言ってたけど、今は少し考えが変わったと言うか…とりあえず売る前にちゃんと育ててみようと…あ、今日は「マっちゃん」のお風呂の日だ。

ちなみに、「マっちゃん」と名付けたぜ。可愛いだろ?

(三)

「バーチャルペット」も病気になんのか?

ナターシャに病気の治し方を聞いたら、彼女は自分じゃなくて「カンテラ」に行けって言ったんだ。凄い医者だって聞いたのに、「マっちゃん」のことも救えないのか?

「マっちゃん」、大丈夫だぞ、怖くない。父ちゃんがここにいるから、我慢しろよ。

(四)

「マっちゃん」の病気が治ったぞ!

ああ、ここ数日間、心配で心配でご飯もろくに食えていなかったんだ。ほっとしたー!みんなに「マっちゃん」の病気が治ったって伝えなきゃな!

しかも、もうすぐ「マっちゃん」の誕生日だ!一緒に誕生日を祝いたいから、「マっちゃん」にイワグラシガニを買ってやるつもりだぜ!…リアルのもんは食べないけどな。

(五)

しまった、「マっちゃん」が盗賊に奪われちまった!クソ賊どもめ!クズ拾いのカスどもが!

奴らの顔は知ってる、流浪者キャンプのごろつきで、古代遺物を転売する連中だ。奴らとは以前医者のとこで会ったから、きっとそこで「マっちゃん」のことを知ったんだな。

クソッ、俺がどうなったって構わない。「マっちゃん」のためにやってやる!

(六)

「マっちゃん」、俺の「マっちゃん」!分解されちまったなんて嘘だろ?

奴らを見つけた時にはもう、既に「マっちゃん」をスヴァローグさんとこの流浪者に売ったと言ってたんだ。今頃もうあのデカい缶詰に分解されたんだろうな。

うぐっ、「マっちゃん」!「マっちゃん」がいなければ、あの鉄の塊と戦っても意味がねえ。いっそのこと、死んでやろうか……

たぶん、たぶんの話だが、「マっちゃん」の墓を作ってから、ジェムトカゲを飼うかもしれない。

(七)

ジェムトカゲ面倒くさっ、もう飼いたくない。

『地下百科・動物』

年季の入った、下層部の動物生態報告。記載されている動物のほとんどはもう存在しない。

その1

【ジェムトカゲ】

「遥か昔の神話では、ジェムトカゲは鉱山の女王の使いとされていた」

ジェムトカゲは坑道内に生息する変温動物、爬虫類である。成体になる過程で、表皮に結晶体が現れ始める、また地域、温度、健康差などから、結晶体の色が異なる。生物学者はジェムトカゲが体内の浸透圧を用いて地髄などの鉱質を塩腺から体外に排出しているため、この結晶は体液調整の副産物としている。

結晶体の色は形成過程でランダムに決められる。かつては多くのジェムトカゲの収集家がおり、高い値段で希少な野生種を集めていたため、鉱坑の生態系が崩れた。過去に下層部で起きた虫害は全てジェムトカゲの乱獲と関係があるとされている。ベロブルグは個人的に野生ジェムトカゲを捕獲する行為を禁じた。

ジェムトカゲの体液に含まれているアルカロイドはよく薬物の原料として使用されている。適量なジェムトカゲの体液を水に溶かして製造されたスプレー剤は、鼻から摂取し、上気道を経由し肺胞腔に入る。使用後、肺に吸い込まれた鉱石粉塵が気管支から体外に排出される過程を著しく促進し、粉塵の肺の間質への侵入を阻み、リンパ節の働きを促す効果が発生する。原理は未だ不明。そのため下層部の医者はよくジェムトカゲを飼育する。しかし、飼育されたジェムトカゲには収集価値がないとされている。

【食髓洞窟イモリ】

「純粋なエネルギーを食物とする爬虫類がいるものか!」

食髓洞窟イモリは地下水脈付近に生息する両生類である。羽根のようなうろこは白とピンクで、視力が退化し、聴力と嗅覚が非常に発達している。旧開拓団の資料によると、有名な大鉱泉の付近に食髓洞窟イモリのコロニーが形成される、原因は不明である。だから、このホライモリは地髄を食料としていると考えられ今の名がついた。

ある生物学者は、食髓洞窟イモリの生存環境は食べ物が乏しいため、代謝と抗酸化能力が他の生物よりも強いと指摘している。緩やかな新陳代謝と運動制限により、食髓洞窟イモリは十年間飲まず食わずで生存できる。未確認だが、食髓洞窟イモリの食事サイクルは十五年以上の可能性がある。食事シーンの観測は至難の業であるため、専門家はこの説を支持している。

食髓洞窟イモリの生息地は暗くて湿度が高いため、人間の行動範囲と重なることは少ない。さらに人間を恐れているので、人間への脅威はほとんどない。

【葬礼虫】

「この虫は気持ち悪いとは思わない——彼らはどの死体の葬式にも欠席しない」

葬礼虫は、地下の洞窟に広く生息する甲虫類の埋葬虫の亜種である。葬礼虫の体長は、ごく小さい個体から3.5cmほどの個体まであり、平均は1.2cmである。ほとんどが黒とオレンジ色をしており、体は平らで柔らかく、動物の死骸の下に潜り込みやすい。動物の死骸を見つけると、葬礼虫は群れて死骸の周りに集まり、長い時間をかけて死骸を確認してから、その下の地面を掘り起こして動物の死骸を分解し始める。

葬礼虫が死骸を観察する過程が、葬儀の様子とよく似ているので、この名前がついた。生物学者の中には、こうした特異な習性は、食髓洞窟イモリのような滅多に動かない生物が関係しているのではないかと指摘する人もいる。死骸を見誤ると、かえって捕食されてしまうかもしれないからだ。葬礼虫は下層部の生態系の中で最も重要な存在で、様々な動物の死骸やフンを広く分解する、自然界のスカベンジャーである。葬礼虫の葬送過程は、墓地やコウモリの巣窟などで観察することができる。

その2

【水晶サソリ】

「水晶サソリに水晶はないって常識じゃない?」
成体の水晶サソリは極めて透明な甲殻を持っている。体長は5~6㎝ほどで、頭胸部と腹部で構成されている。頭胸部には6対の付属肢があり、第一節は食事の補助に必要な鋏角で、第二節からの十本は威嚇や移動に使う。カニのハサミのような形をした触肢は捕食、触覚や防御に使われ、残りは歩くために使われる。サソリの尾と呼ばれる後腹部は、体の前面に向かってカーブしており、毒針で刺されると、人間を死に至らせるほどではないが、焼けるような激痛を引き起こす。

水晶サソリの有名な透明の甲殻は実は地髄による擬態であり、高価な水晶ではない。地髄の粉塵がサソリの体外に排出される過程で、甲殻と同化するため、このような独特な透明な甲殻になった。特殊な擬態のおかげで、水晶サソリは地髄の近くを通るジェムトカゲを捕食することができる。

ジェムトカゲのブームが絶頂だった時に、水晶サソリも乱獲され数が激減した。この原因により、水晶サソリは絶滅危惧種として、地下市場では高い値段で取引されている。

【マッドモグラ】

「暗闇の中で気味の悪い洞窟の奥を探索している時に、運悪くこんなモグラの穴に落ちたらどうしようって考えずにはいられない」

マッドモグラの四肢は短く力強く、特に前足の爪は穴を掘るために発達しているが、穴を掘る時には前足よりも頭部と前歯を使う。目は完全に退化していて、視力がほぼ無い。外耳がなく、耳の穴を囲むように小さな皮膚のヒダがある。尻尾は短いが後ろ足よりは長い、毛は生えていないか、うっすらと生えていることが多い。マッドモグラは植物の根茎を主食にしているとされていたが、現在は雑食として広く知られている。

近年の観測の結果、マッドモグラは種の存続に不利な特徴を保有している事が発見された。現在、この特徴の原因は裂界の侵蝕の加速によるものと学界は判断している。どうやらマッドモグラは、裂界の中の特定の物質に対し、他の生物よりも高い感受性を持っているようだ。それにより、マッドモグラは非常に高い攻撃意欲を見せる。自分の数倍、数十倍の大きさの哺乳類にも躊躇なく群がり、あっという間に食べ尽くしてしまう。

そして、見境のないサバイバル地獄となる。マッドモグラの群れは、基本的に巣穴から出ることなく、巣穴をどんどん掘り広げる——原因は二つある。一つ、マッドモグラは地表大気に含まれるある特定の物質に対して強烈な不耐性があり、洞窟を出るとほぼ生存できない。二つ、裂界の侵蝕が加速し、限られた生存空間がさらに狭まり、マッドモグラは常に地下で新しい居住可能区域を探さなければいけない。巣穴に落ちた不幸な生き物は食べられ、そのような食べ物がなければ共食いを始める。大量のマッドモグラがいる巣穴にはいつも多くの骨がある。

しかし、このように種の存続に不利な形質も、その強すぎる繁殖力に相殺された。たとえ駆除して数を減らしても、数ヶ月後にはもとの数に戻っている。

昔、ある不幸な鉱夫がいた。毎晩寝る時に壁の裏でネズミが這う音を聞き、長時間の幻覚や悪夢に襲われ、起きていても不鮮明な言葉で支離滅裂なことをつぶやいていた。不幸中の幸いなことに、巨大な巣穴は台所のかまどと繋がっており、不完全燃焼により巣穴のマッドモグラは全滅し、彼は危機を免れた。

【イワグラシガニ】

「こんな奴らがベロブルグを破壊しかけた?冗談だろ?」

イワグラシガニは主に硬い岩を住処とする。エビとカニの中間的な形態で、主に岩石の内部に生息しており、長い体は頭胸部と腹部に分かれている。考証によれば、イワグラシガニは最初に海岸で暮らすようになった生物で、岩を掘って卵を産み、海に戻って成長するという習慣がある。氷河期が始まってから、初期のイワグラシガニは大量繁殖によって暖かいベロブルグの地下に移動したが、移動中にできたトンネルが大規模な地盤崩落を引き起こした。この時期には「トンネルイワグラシガニ」とも呼ばれていた。主な群れがベロブルグの地下に到達した後、原因不明のまま個体数が大幅に減少し、現在ではほぼ絶滅している。

現在、地下の人たちにとってイワグラシガニは料理の素材であることが多い。イワグラシガニの個体数は少なく、捕獲が難しく、岩を砕く道具が必要となるが、肉質が美味であるため、地下では有名な食材となっている。イワグラシガニの清蒸以外にも多くのレシピがあり、カニ身とハンマー唐辛子の炒めやイワグラシガニの塩焼きなどが広く受け入れられている。

イワグラシガニの個体数は少ないため、かつて地下で流れていた「どの家庭でもイワグラシガニを食べている」という話に疑いを抱いている人も多い。

「カンテラ」古代遺物特定記録

パフラヴィーが残した古代遺物鑑定記録

半円形の電極の首輪

半円形の電極の首輪

危険度:★★☆☆☆
レア度:★★★★☆
取引価値:40-60シールド

【外形説明】

外観は不整な半円形となっており、頂点の内側に金属状のシナプスがある。
アーチ状の部分にはいくつかのボタンがあるが、テストしてみた結果、一部が跳ね返らない状態であり、該当機能は不明。

【概略】

この半円形のリングは俺の常連客のコンラッドさんが拾ったもんだ。
これと同じ場所で出土したのは全部小さい古代遺物で、俺の推測によると、旧世界の家庭か個人が使ってたやつだな。
一夜大尽はできなくても、相当な価値があるぜ。

変な形の古代遺物だから鑑定が難しいってさ。
かの有名な「カンテラ」でもどうしようもないって、コンラッドさんが言ってた。
旧世界には何でもあってな、このリングはまだいいもんさ。
ちっと頭を働かせれば、解説できなくもない。

じゃあいつも通り、構造から話すぞ。

半円形のリングの弧はかなり整ってる。
「外力による変形」じゃなくて、元々こういう風にデザインされたものだと俺は思う。
重さから見て、このリングの主な機械要素は中心部に集まってて、両わきは控えめな構造だ。それに、内部に向けてへこんでいる弧形の表面……

俺が難しいことを言ってるって不満に思うなよ。
古代遺物を鑑定する時は、正確な話になるよう専門用語を使う主義なんだ。
どれも嫁さんとよもやま話をしてるように喋ったらダメだろう?
そんなことするなら、「カンテラ」の看板を下ろして、講談師になるわ。

ははっ冗談だ、続いて鑑定するぞ。

外見を見て、一番目を引くのは二つの曲がってる金属状のシナプスだな。
こいつは見たことあるぜ。

以前にも同じもんを確認したことあるんだが、スイッチを入れたら「パチパチ」と音がして、怖くてすぐ閉じたら焦げた匂いがした。
どこからの匂いだろうな?
その時鑑定に来た旦那がまだ手をかけたままだったんだ。
銅山の爺様のご加護で、俺が鈍くてよかったぜ。
だから、古代遺物を鑑定するのに最も大事なのは、「慎重さ」だ。
でなきゃ、腕が何本あっても足りねぇ。

そんで、この半円にある金属だが、あれと同じ「電極」だと判断する。
ほら、これでこの奇妙なもんの機能が分かっただろう?

古代遺物を鑑定するのに最も大事なのは「見識」だ。
見たもんすべてが経験値になる。

はぁ?最も大事なのは「慎重さ」じゃないかって?
鑑定の秘訣はいっぱいあるんだ。
お前さんが全部知れる訳がないって。
だから、このメシを食ってるのは俺で、お前さんじゃないんだよ。

その後、原稿と旧世界の雑誌を調べてみたら、似たような形の布製の工芸品を見つけたんだ。
その雑誌の記述によると、これは後ろから首にかけるやつだ。
だから半円だったんだろう。
俺は面倒事になるのは御免だから、すぐにコンラッドさんを呼んで、これを彼の首にかけた。
はは、ぴったりでそりゃあとてもお似合いだったぜ。
本当に、旧世界の人が来ても首にかけるもんだと言うほどになぁ。

コンラッドさんもこれほどぴったりだとは思わなかったって、大喜びだった。
首に当たる金属がとても心地いいけど何だろって聞かれて、拷問器具だと教えたら、びっくりしてすぐにそれを投げ出してたな。
そんで椅子を奪って、俺を殴ろうとしたんだぜ。濡れ衣だって言うのにな。
一つ、こいつにはもうエネルギーがない。
二つ、俺はスイッチに触ってすらいねぇってのに、この爺さんったら。

まだ類似の古代遺物を発見してないことを考慮して、とりあえず星4のレア度としておこう。
拷問器具ではあるが、加熱して爆発するような古代遺物と比べたらまだ温厚なタイプだ。
一応、危険度は星2かな。

鑑定人:「カンテラ」パフラヴィー

旧世界の積み木

旧世界の積み木

危険度:未知
レア度:★★★★★
取引価値:2g

【外形説明】

形の異なるいくつかの金属ブロック。
ほぞとほぞ穴の構造がはっきりしていて、凹凸の部分を組み合わせ接合することができる。
旧世界においても非常に古い古代遺物であると判断。

【概略】

取引価格から見れば、確かにあまり価値のある品じゃない。

古代の遺物を特定するために「カンテラ」の原稿を使って鑑定するやつは、ほとんどが運に賭けて手っ取り早く金を稼ぎたいだけだろう。
もう一度言っておくが、これはまったく価値のない物だ。

古代遺物の中には確かに高価な物がある。
ある物は特殊な技術で作られたから、ある物は稀有な材料を使用しているから。
この積み木みたいな金属ブロックたちは、旧世界でもれっきとした「古代遺物」だっただろうが、今の時代じゃ、面白いゴミに過ぎねぇ。

ガイムさんがこの金属ブロックを持ってきた時に言ってやったぜ、いい値段にはならないってな。
発光も発熱もしねぇし、ボタンも線路もねぇ、奇妙な模様が入ってる古代金属ってだけだからな。
それに、直感的に、やつが持ってきた量が明らかに足りねぇと思ったんだよ。
あいつ、俺の評価が信じられなくて、他の奴らに聞きに行って大爆笑されてたぜ。

分かったか?
本当に商売がしたいなら、「古代遺物」として売っちゃいけねえんだ。

で、ガイムさんが安く売ってくれた後、見つけた場所を聞き出して、半月かけて残った金属ブロックを全部掘り出したんだ。
面倒くさかったぜ…

はは、絶対に今頃、俺の話を疑ってるやつがいるんだろうな。
金にならないもんをなんで一生懸命掘り出すんだってな?

「お前に関係ねえだろ!」と言ってやりたいところだが、とりあえず説明しよう。
俺たちみたいな職業の人間はな、強迫神経じゃないとだめなんだよ。
「ここに積み木があるけど、幾つか足りないんだ」とか言われて我慢できる訳ねぇだろ?
我慢できる奴なんていねぇ!
俺ってそうだ、だから全部掘り出すまで終われねぇんだよ。

それ以来、鑑定の仕事をやりつつたまに金属ブロックを組んでたんだ。
このような金属ブロックは世に二つとねぇ——
少なくとも俺が鑑定してきたモンの中で、こんなに奇妙な金属ブロックは他に見たことがねぇ。

最初はまったく見当がつかなかったが、それでもだんだん形になっていった。
俺がバカなのか、何かの不思議な力に邪魔されたのか——
この積み木は8年経った今でも完成してなかったんだ。
けど、この神秘的な雰囲気が、店に面白いアクセントを加えていいだろって思ってた。

この8年間、旧世界の原稿をたくさん読んできた。

その中の記事の一つに「呪われた積み木」が載ってたんだ。
伝説によると、古代の世界には、クーデターで臣下に権力を簒奪された王がいた。
王の忠実な魔法使いは、王の魂を積み木に封印した。
さらに、王を殺されないようにそいつを壊してしまったんだ。
その積み木が元の形に戻ると、復讐に燃える王は、王国を取り戻すために積み木のパズルを解いたやつに取り憑いちまうんだってさ。

記述を見れば、これらのブロックがそれなんだろう。

ったく、旧世界の人間はなんでこんなにひねくれてるんだ?
最初からこんなもんを作るなよ。
強力な武器でも発明してれば、王はクーデターを起こした大臣を打ち負かすことができただろうし、俺だってこいつを金に変えることができただろうにな?

俺だって自分は大事さ、だから金属ブロックとの戦いはここで終わらせたんだ。
絶対に組み立てられないわけじゃあないが、旧世界の悪霊に取り憑かれる可能性を考えると馬鹿らしいだろ——
何で取りつかれなきゃいけねぇんだよ?
あんたらの旧世界は何も残ってねぇし、俺たちに残されたのは歴史のあるゴミばかり。
国の再建などさっさと諦めろっつーの。

しかし、奇妙な話があってな。

——誰かが知らないうちに完成させちまったんだよ!

挨拶でもなけりゃ、そいつが悪霊に取り憑かれているかどうかなんて分からないだろ。
しかも、そのまま置きっぱなしなんだ——
盗んでいかなかったことには感心するが、組み立てておいて、置いていくってどういう了見なんだ?

だからすぐに売り払ってやったさ。

この整った三角形のブロックは、漬物石としても重宝するって聞いたぜ。
こいつの価格は、当時の俺がおばさんに売り払った値段だ。

鑑定人:「カンテラ」パフラヴィー

鉱夫病診断書

とても参考になる鉱夫病の診断書。

受理番号:100451

診断書

[氏名]:
アリエン

[性別]:

[感染接触歴]:
鉱区第三連隊隊員。地髄結晶、粉塵、騒音に長期間晒される。

[臨床表現]:
1.呼吸困難、鼻詰まり、喀血、胸痛などの肺機能障害あり。突破性呼吸困難により仰臥位になることが難しく、下肢がむくんでいる。
2.聴力低下、重度の耳鳴りあり。時々幻聴があり、重度の不眠状態である。
3.感情のコントロールが損なわれ、精神状態が安定しにくい状態にある。頻繁に怒り、激昂し、落ち込むことがある。

[医療意見]:
患者は5年以上地髄鉱区での仕事経歴があり、重度の塵肺の症状が見られる。
患者は安全管理措置を怠り、上、下気道を作業環境に曝し感染した疑いあり。体調から判断して、鉱区での作業を続けることはできない。

[医師](サイン):
ナターシャ

[追記]:

  • 保護具の安全品質を詳しく検討することをお勧めします。

メイデン坑道落ちる

下層部の人なら誰でも知っている童謡。物好きな人が歌の起源を考察している。

歌詞:

メイデン坑道落ちる、
落ちる、落ちる。
メイデン坑道落ちる、
結晶モンスターにご愁傷様。

木の杭で支えろ、
木の杭、木の杭。
木の杭で支えろ、
結晶モンスターにご愁傷様。

木の杭が折れる、
折れる、折れる、
木の杭が折れる、
結晶モンスターにご愁傷様。

地髄鉱晶掘れた、
掘れた、掘れた
地髄鉱晶掘れた、
結晶モンスターにご愁傷様。

地髄鉱晶貰ってない、
貰ってない、貰ってない
地髄鉱晶貰ってない
結晶モンスターにご愁傷様。

意味:

歌詞は「メイデン坑道」の建設の大変さを表していると考えられる。しかし、「メイデン坑道」の詳しい位置は伝わっておらず、この歌だけが残っている。この他にも、様々な説が存在する。

【裂界の侵蝕に抵抗した結果】

一説では、裂界の活動の頻繁化により、多くの鉱洞に裂界のモンスターが突然出現した。地下深くに続く鉱洞をしらみつぶしに捜査するのは危険すぎるため、シルバーメインは「メイデン坑道」を砲撃で崩し、裂界のモンスターの侵攻を阻んだ。「結晶モンスターにご愁傷様」とは裂界のモンスターに対する嘲笑だと考えられる。だが「メイデン坑道」の存在を考証できないため、この歴史は存在しないと考えている人も多い。

【旧世界の原始的な『生贄』思想】

他にも、「生贄」が坑道を崩落から守ってくれるという、旧世界の原始文化的な考えに関連しているという説がある。しかし、この理論は地下では現実的ではない。どれだけ多くの人が犠牲になっても、坑道の崩落は起こり続けるからである。

ヴァフの手紙

ナターシャの兄、ヴァフが雪原に追放された後、秘密裏に送り出した手紙。

ナターシャ

拝啓、冬の挨拶を。

君が前の手紙で言った通り、僕は君に嫉妬している。どんな患者を前にしても、君はいつも平然に、親しく振舞える…その生まれつきの優しさが僕を苛む。

僕は未だに入学したばかりの時の演説を覚えている。僕は腕を振り上げて、「吹雪免疫」を開発する理想を吹聴して…今思えばなんて愚かだったのだろう。医学院にいた最後の時間の中、僕はさらに偏執で閉鎖的になっていた。頭の中は実験と抱負しか残らず、僕が責任を持つべき患者たちが段々と見えなくなった……

ナターシャ、僕は君の許しを望むほど図々しくない。下層部の人たちには、もう顔向けできない。

もし君が僕の自己追放の要請に同意していなきゃ、僕は一生己の理想に浸っているだけの変質者だっただろう。骨身に応える寒さに、自分の傲慢さを思い知らされた。寒さを吹き飛ばす魔法なんて、温室育ちの子供が手に入れられるわけないだろう?君が僕に最後のチャンスを与えてくれたんだ、ありがとう。

僕は放棄された建物に住みつき、吹雪の中で一進一退の実験を繰り返した。僕は震えている。寒さのせいじゃない、僕が少しずつ成功に近づいているからだ。僕は君たちが知らない姿になった、もう文明社会には戻れない、両親に顔向けもできない…でも絶望はしていない、僕はもうこの命の意義を見つけた。僕は正しい道を歩んでいる。

僕が下層部で作った試薬には原理的な欠陥がある。もし臓器の失温と機能不全の解決に執着すると、消耗と回復の悪循環に入り、永遠に好転できない。僕は既に研究方向を調整した、今は人体に制御可能な循環と昇温を促すよう働きかける薬品を開発している。

ありがとう、ナターシャ。君のおかげで僕は吹雪免疫の答えを見つけたんだ。

「吹雪免疫」実験記録

ナターシャの兄、ヴァフが残した手記、彼が「吹雪免疫」と言う薬を開発するために行った数々の実験を記録している。

その1

#02

多種の動物に注射実験を行った。全ての実験対象に活発化の傾向あり、だが薬剤の投与量は調整が必要、雪雀はもう3日間も止まずに鳴いている、これでは眠れない。

雪原でテストするのは正解だ、倫理委員会のアホ共に構わなくてもいいし、毎日型にはまった無駄話だらけの報告を提出しなくてもいい、一言二言で説明できる実験のはずなのに、あんなに書いて誰が見るんだ?

#14

衣ネズミで数グループの対照実験を行った。今の所、薬の「投薬方法」は吸収速度に大きく影響するようだ、初歩的な観測結果は以下のように。薬効:腹腔注射>皮下注射>経口投与。腹腔注射グループのネズミにはショック状態が確認された、投与量の再調整が必要。治験もスケジュールに入れておこう。

ここの衣ネズミ達を実験に使うのは少々惜しい、見ているとナターシャが小さい頃に飼っていた衣ネズミを思い出す。ここで効率は結構上がったが、材料と実験対象が少ないのは大きな問題だ。南にシルバーメインの前哨基地がある、物資の交換を試してみよう、薪と油はもうすぐ底をつく。

#01

自分の右腕静脈で皮下投与テストを行った。12時間内で重度なアレルギー反応が発生、嘔吐と眩暈の症状あり、だが薬理的の可能性は検証できた。続いての50時間でCIVDは起きなかった。

報告を書くのが遅い、最近指に明らかな感覚麻痺が発生している、皮下投与テストの後遺症かどうかはまだわからない。背部と腕の浮腫と紅斑は大分治まった、次はもっと安定した処方を試そう。

その2

#12

最後の注射テストを行った。胃に強烈な拒絶反応が発生、体温は段階的に上昇した後急激に低下、実験の安定性を高めなくては、より安全な経口投与を試してみよう。

最近は左手で字を書く練習をしている、右手の筋肉はもう制御できなくなった、気が急いたせいだ。咳と眩暈はたまに起こる、前回のショックから17日経過した、薬効はもう安定していると思う。もう随分ウサギ肉のスープを食べてない、明後日シルバーメインの隊長に罠の作り方を聞こう。

#03

30時間の観測期間で体温は安定していた、たまに喀血と喘息が発生、具体的な病因は分析が必要、恐らくは薬物の残留と代謝不可能な原料の濃縮によるもの、ターゲティングに使う媒介を変えた方がいいのか?

日付は合っているかな?ここ数日、目を開けると夜になっていた。人体機能の失調は肩部や頚部にまで拡散している、今は枕を高くしないと眠れない、このまま脳に拡散するのか?

#07

兵士たちのフィードバックは良好だ、現在、薬物が安定して効果を発揮できる期間は5日くらいに達している。

ほとんど声を出せなくなった、声帯が不可逆な損傷を被ったようだ。今まで最も安全な薬剤は、来週にシルバーメイン前哨基地に送る、この間は彼らに色々と助けてもらった。もし明日、足の状況が良くなったら、家の後ろの雑草を刈ろう、毎回兵士たちに手伝ってもらうのも良くない。

いいお店は、金のなる木

捨てられた不動産のチラシ、今では投資の反面教師になっている。

とある諺はこう言う、「良い立地の店は家を三代繁栄させる」、近年ベロブルグでは店舗開設用の土地が良く売れています。まもなくボート不動産の今年度最大企画——外縁通路区域中央広場が起工します。事業用地の予約購入は既に始まっています。区域を跨いだ人通りの多い位置をいち早く抑えましょう!

【老舗不動産デベロッパー、あなたの財産に安全安心な投資を】
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低コスト、高収益、付帯設備完備、駐車スペースあり、交通便利、投資者の皆様が求める条件はすべて満たしております。ベロブルグの新時代を画する革新的な投資計画、最も見込みのある資産運用商品、今がチャンスです!

ボート中央広場は市民の皆様に「生活を享受、楽しみを享受」できるパブリックスペースを提供します。典雅なデザイン、精緻な飾り、いつでも楽しいひと時をあなたにお届けします。
店舗百件、予約購入受付開始。

プロジェクト:外縁通路中心部(露天カフェ北側)
詳細情報はボート不動産広場管理部までお尋ねください。

鉱業機械発注書

リベットタウン商業連合の旧址に遺された取引契約書、これを見ているとリベットタウンが繁栄していた頃を思い出させる。

発 注 表

【発注番号】 693910-0003

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【仕入側】 ボルダータウン大鉱区採掘チーム
【担当者】 スティーブ・ノッジ

【サプライヤー】 リベットタウン商業連合
【担当者】 トーマス・ハンサ

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【番 号】 1
【貨物ナンバー】 2-65
【貨物名】 風動力削岩機
【仕 様】 「リベット」2型
【単 位】 台
【数 量】 5
【単 価】 1,450シールド
【金 額】 7,250シールド
【備 考】 レンタル設備、レンタル料/日
【総 額】 7,250シールド

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【納入期日】 9月20日
【納品方式】 サプライヤーが送り届け
【納入先住所】 ボルダータウン外縁大鉱区駐屯地

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【税 率】 15%
【決済方式】 シールド 現金決済
【その他】 頭金50%、残りは代金引換払い

生活用品要望書

生活用品の要望書。鉱夫達の需要に対して、大鉱区の鉱場監督はできるだけ満足しているようだ。

生活用品要望書 4月第一週

今週の生活用品の要望を受け付けています。需要のある鉱夫の皆さんは別紙で申請表を記入し、必要な生活用品をまとめて募集箱にいれてください。記入様式は以下のように:

【名 前】(ここに名前を記入してください)
【要望物資】(ここに要望する物資を記入してください)
【備 考】(ここに需要の詳細を記入してください)
【申請意見】(この部分は採掘チームの管理人が記入してください)

採掘チーム管理員は今週金曜日に鉱夫の皆さんの申請書を回収して審査します。審査意見の返答後にもう一度ここに貼り直してください。申請を提出した鉱夫の皆さんは、来週月曜日に申請が認可されたか確認してください。申請が認可された場合、物資は5稼働日以内に採掘チーム管理人オフィスに届けられますので、職員証を持って物資を受け取ってください。

※下に生活物資の申請表が乱雑に貼られている※

#1
【名 前】 アンドリュー
【要望物資】 ツルハシお手入れ油
【備 考】 3瓶、一番安いやつでいい、銘柄もどうでもいい。
【申請意見】 認可。

#2
【名 前】 オルガ
【要望物資】 倍潤ミネラルオイル
【備 考】 1本。この鉱区は乾燥すぎる、もう我慢できない。
【申請意見】 認可。大の男のくせによく保養してるね。

#3
【名 前】 ミュシャ
【要望物資】 ミルク
【備 考】 12本、できれば「モウモウ」で。ないならいい。
【申請意見】 却下。今月上から来た物資にミルクなんてなかった。それに、銘柄まで選び始めるなんて、乳牛を探してくるから自分でミルクを搾ったらどう?

#4
【名 前】 スティーブ
【要望物資】 ドリンク
【備 考】 味が強いのが欲しい。
【申請意見】 却下。岩塩水なら十分強いんじゃない?

#5
【名 前】 スザンナ
【要望物資】 倍潤ミネラルオイル
【備 考】 2本。
【申請意見】 認可。

#6
【名 前】 アレックス
【要望物資】 ベロブルグソーセージ
【備 考】 1箱。いつも通りニンニク味で。
【申請意見】 認可。たまには他の食べなさい、あなた鉱区に来てからソーセージ以外食べてないでしょ?

#7
【名 前】 アルチョム
【要望物資】 対鉱毒吸入剤
【備 考】 2本。
【申請意見】 却下。採掘チームにあるから監督にもらいなさい。

#8
【名 前】 ヴァリアン
【要望物資】 家庭用地髄炉
【備 考】
【申請意見】 却下。生活ルールを確認しなさい、鉱区での使用は禁止されているのよ。まさか発破作業の影響範囲が小さすぎるのが不満なの?

バラバラの日記

避難所で見つかった日記のページ。内容を見ると、重大な事件が如何に無力な一般人の運命を捻じ曲げるかを伺える。

※この3つのページに記された内容に連続性はないが、誰かの日記から剥がれ落ちたものに違いない。※

【1ページ目】
11月23日 火曜日
仲間たちと地下をさまよって数日。
毎晩寝る前に思う、流浪者の生活って大変だなぁ。以前は住んでる町に流浪者が来ると強く当たっていたが、そんな俺も流浪を始めるだなんてな?はぁ、こんな日が来るなんてな。
くそ裂界め、あんなもんがなかったら、故郷を離れる事もなかっただろうに。
できれば今夜は風を遮る小屋でも見つかればいいな、街を離れるとホントに寒いよ。

11月24日 水曜日
俺たちはボルダータウンの鉱区にたどり着いた、あそこの監督は俺たちの事が目障りで追い払おうとしていたが、結局すみっこの坑道に住まわしてくれた。
この坑道、俺たちが入る前にもう人が住んでいた。聞いてみたら、そいつらも流浪者のようで、これは何と言うんだっけ…同病相憐れむ?
その人たちはここを「避難所」と呼んでいる、以前は鉱夫が鉱山事故から避難するためのセーフルームだったようだ。この坑道が廃棄された後は流浪者の縄張りになった。
人の家に居候するのはなんとも肩身が狭い、でもしょうがない。風を遮る場所があればそれでいいんだよ、贅沢は言ってられない。

11月26日 金曜日
こいつらと一緒に生活し始めて二日目。腹がすいて力が出ない、採掘チームに入って働くのもめんどくさい。それにあいつら流浪者を見下してるし、俺たちの動きが遅いと嫌っている。
俺は悪事を働いたことはない、ただゴミを拾って食べ物と交換しているだけだ。どうして俺にあんな態度するんだ?
でも採掘チームにもいい奴はいる。スティーブといって、いつも青いシャツを着ていて、なんかボロボロな感じがする人。その人は俺の話聞いてくれるから、俺もその人と雑談したりする。昨日採掘チームがでかい鉱脈を見つけたとスティーブが言った、そんで流浪のならず者が彼らを妨害し、その場所を占領しようとさえしたって。

【2ページ目】
11月30日 火曜日
ゴミ拾いを続けても何の稼ぎにもならないから、採掘チームの雑用を始めた。俺だって技術者だったんだ、機械設備の修理くらいはできる。そんで採掘チームの人たちと知り合った。
スティーブの兄さんはいい人だ、よく手助けしてくれるし、食い物がある時は俺も呼んでくれる。
これからは採掘チームで仕事する事になるだろう。どうせ食い扶持のためだ、やっぱりゴミ拾いよりはマシだよ。
あの大鉱脈を見に行ってみたんだが。確かにデカい、道理で占領しようとするヤツが出てくるわけだ。

12月2日 木曜日
スティーブが採掘チームに入らないか聞いてきた、仕事は機械設備の修理だ。俺は、メシがあるなら勿論、と答えた。スティーブには感謝している。兄さんは他の人とは違い、よく面倒見てくれる。
今度金をためて近くの町で一食奢ろう、あと一緒に流浪していた仲間も連れて。ボルダータウンにゲーテホテルってのがあると聞いた、腕の高いシェフがいるそうだ。
今日、貯めていた金が盗まれた鉱夫がいた。流浪のならず者共がやったに違いないが、そいつらのせいで鉱区の人たちからの風当たりがさらに強くなった。

【3ページ目】
12月5日 日曜日
やっべ!朝起きたらならず者と採掘チームが乱闘していた。だから避難所から一歩も出なかった。
「地炎」の人まで調停に来たようだが、その人たちの話すら聞いてくれなかった。最後は重機が何台か来て、二組の人を分けたようだ。
どうか人命事故が起きないように、まだスティーブの兄さんにメシ奢ってないし。落ち着いてきたら探しに行こう。

12月10日 金曜日
この二日間ずっとスティーブを探してたんだが、見当たらない。採掘チームの人に尋ねても、誰も知らない。
兄さんはどこ行った?あのロボットらも人類を守ると言っているのに、まさか本当に何かあったのか?

12月13日 月曜日
恐らくスティーブはあの日出勤せずどこかに出かけた。
はぁ…変化はいつも急に起こる。今度こそ何もかも失った。やっと新しい友達ができたと思っていたのに、失踪しちゃったよ。
もうここに思い残しはない、片付けたら明日ここを離れよう。
最後にスティーブの兄さんに会えるかな?

広場の幹線道路にバリケードを増設する通知

リベットタウン陥落直前に貼り出された公告、住民に避難するよう警告している。この措置はあまり効果がなかったようだ。

広場の幹線道路にバリケードを増設する通知

リベットタウン周辺の裂界の侵蝕が加速し、裂界のモンスターの活動が頻繁化しています。モンスターがリベットタウン中心部に侵入し人的被害が起きる事を防ぐため、本日からリベットタウン広場幹線道路(北方面)にバリケードを設置します。撤去期日は未定です。商店街北口もセキュリティを強化します。

広場幹線道路を閉鎖した後、リベットタウン孤児院は一時的に運営を中止します。孤児院のスタッフは既に引き取り家庭のマッチングに取り掛かっています。同時に孤児院をボルダータウンへ移す作業も開始しています。住民の皆様は孤児院付近に近づかないようにしてください、必要な場合は商店街から回り道し、常にあたりを警戒してください。

ここにお知らせ致します。

リベットタウン管理委員
建創紀元694年4月23日

油でベタベタしている食レポ本

ゲーテレストランのシェフと客が新レシピについて交流するメッセージノート、表紙は油まみれ。

カウンターの端で長年油煙に薫陶され、紙の縁はすでに油まみれ

近頃新しいレシピを作ろうと思ってね、意見があるならどんと来なさい。
——ゴーディー

今週の新品:野菜たっぷりスープ
【お客さんの評価】
1.見た目がちょっと悪いな、ねばねばした塊を見てると食欲が失せる。
——ドーエン
2.「野菜たっぷり」とは言ってるけど、実は洞窟の中のコケ。コケは柔らかくなるまで十分に煮込まれていて舌触りがいい、だし汁の甘酸っぱさもしみ込んでいる。濃厚だが重くない、食欲が湧く一品。でも上の意見には同意し、この料理の名前はやっぱり変えよう。このまま他の客に出したらクレーム受けるかもしれない。
——サンダース
【シェフの返事】
分かったわよ、食感に問題なければそれでいいのよ、メニュー名は今度考えておくから、でもコケの供給が不安定でね、このメニューを店で提供するか悩んでいるんだよ。

今週の新品:イモリのブリキ缶蒸し焼き
【お客さんの評価】
1.缶はどっかの廃棄機械から取り外したものか?きれいに洗ったようだけどまだちょっと錆が付いてるぞ、これは気持ち悪い。
——ドーエン
2.ドーエンがあれこれ言うのもしょうがない事だよ、肉汁はよく煮詰められている、でも食べる時あごが何回かブリキに当たって熱かったよ。ゴーディー、どうしてブリキ缶で料理する事にこだわるのかい?他の容器に変えよう。
——サンダース
【シェフの返事】
ごめんごめん、ブリキ缶を使ったのは古本で「ブリキ缶は煮込みと蒸し料理に適し、最大限度に素材の新鮮さを引き出せる」って見てね。今度改善できるか考えてみるよ、熱すぎてごめんね。

今週の新品:イモリのブリキ缶蒸し焼き 改良版
【お客さんの評価】
1.小麦粉で作った皮か、面白い、ブリキ缶もいい物使ってるな。それよりゴーディー、この皮の上で花のデコレーションできるか?

——ドーエン
2.これはブリキ缶の縁に小麦粉で作った皮を乗せたのか。この料理の唯一の欠点がメリットになったな、余熱でサクサクになるまで加熱された皮、柔らかいイモリの肉、さらに肉汁を加えれば食感と味を両立させた逸品だ。これこそレストランの「最高峰」だ。

——サンダース
【シェフの返事】
ドーエン、しつこいわよ、無理なの!何回聞いてもあたいは皮の上でデコレーションはできない!
サンダース、アドバイスありがとうね、あんたが言わなきゃブリキが熱すぎるの全然気が付かなかったわ。イモリのブリキ缶蒸し焼きは明日からレストランで提供し始めるわ、あんたは特別に奢ってやるよ!遠慮するんじゃないよ!

今週の新品:蜜茸の甘辛和え
【お客さんの評価】
1.食欲が出る、でもこんだけじゃ全然量が足りない、おかげで家に帰ったらライ麦パンを6枚も食ったよ。
——ドーエン
2.冷菜か、これは珍しいな。焼きたての蜜茸にハンマー唐辛子の細切れ…味の構成が明白に区分されている、甘味が過ぎた後、唐辛子の辛さが直ぐに襲いかかってくる。前菜だから量が少なく、瞬く間に食べ終えてしまう。
——サンダース
3.辛味なしのある?美味しいと言えば美味しいけど、辛すぎるのは食べられないの、うぅ。
——エレイン
【シェフの返事】
辛くないのが欲しいのかい?ハンマー唐辛子の代替品はまだ見つからなくてね、今はまだ作れないの、ごめんね。明後日からレストランで提供し始めるのも辛味入りのしかないの。それとドーエン、あんたそんなに食べられるんなら大食い大会にでも出てみたらどうだい?

今週の新品:マウスアスピック
【お客さんの評価】
1.アスピックか、子供の頃を思い出すな、でもメニューで「ネズミの肉」だと直球で言わないでくれないか?俺はメンタルが弱いんでな、子供時代の味が子供時代のトラウマになっちまう。
——ドーエン
2.アスピックはボルダータウン地元の人でないと知らない料理だな。マッドモグラの肉は生臭くなく、ニンニクのみじん切りと一緒に食べると、口の中に肉の食感が溢れ返って気持ちいい。サワークリームも舌触りが纏綿で、いくら食べても飽きない。伝統的な魚肉のアスピックより全然美味い。
——サンダース
3.さすがゴーディーさん、一口食べるとアスピックがごく普通な家庭料理だった頃に戻ったみたいです。
——エレイン
【シェフの返事】
じゃあ名前を「風味アスピック」に変えよう、来週からレストランで出すわよ。

今週の新品:焼きキノコ
【お客さんの評価】
1.素材の新鮮度を求めるため、ゴーディー、君はこの道を行き過ぎた。市場に出回っているキノコがいつもその数種類だけなのには道理があるんだ。君が焼いたこれらのキノコは、どれも食べてはいけないものだ。
——サンダース
2.こんなに「カラフル」なキノコは見た事ないわ、本当に食べられるのかしら?
——アントニア
3.結構な量じゃないか、味もなかなかだ、でも食べるとお腹を壊す、客の消化能力が試されるな。
——ドーエン
【シェフの返事】
ええ!?本当にごめんなさいね、皆の無事を祈るわ…

今週の新品:イワグラシガニの唐揚げ
【お客さんの評価】
1、イワグラシガニの肉は味が鮮やかで非常にうまい、しかし油揚げには向いていない、このように油に通した後のカニの殻は固すぎて噛み砕けない。私は石で砕いてやっとハサミの中の肉を食べられた。
——サンダース
2、ゴーディー、あなたイワグラシガニに付いてる石粒を洗い流さなかったのかしら?揚げた後に石と殻が一緒に包まれて見えなくなっていたの、あと少しで歯が欠けちゃうところだったわ。
——アントニア
【シェフの返事】
カニを売る人に、鮮味が流失しちゃうから洗う時は程ほどにしてって言われてね。でもその度をうまく把握できなかったの、あたいが悪かったわ。

栄えあるシルバーメインが外敵から我らを守る!

カカリアが上、下層部封鎖令を公布した時の動員令。下層部の一部住民はこれに対して不満を表した。

栄えあるシルバーメインが外敵から我らを守る!

ベロブルグの市民の皆さん、共に冬を歩む同胞たちよ!我らの栄えあるシルバーメインの兵士たちよ!

私たちが暖かい地髄炉の傍で眠りにつく時にも、長きに渡る戦争は依然続いている!皆がよく知っているように、裂界と呼ばれる災厄は過去数百年で蔓延、拡大し続けてきた、そして今、裂界とそれが生み出したモンスター共がさらに牙を研いで襲いかかってきた——侵蝕の加速だ、今までにない激しさで!私たちはかつて大規模の防衛戦争で完全勝利を勝ち取った、そして今の戦いでも決して風下に立つ事はない!

シルバーメインの驍勇は天下無双、しかし裂界のモンスター共も日に日に凶悪になっている。建創者たちの存護の加護の元、シルバーメインは敵の攻撃を何度も退き、禁区前線からは毎日勝報が届く。我らの偉大なる守護者——カカリア様もこの機に勘づいた、反撃の時が来たのだ!

リベットタウン管理委員会及びリベットタウン商業連合はここに大守護者の命を伝える:本日から、上、下層部のシルバーメイン全軍は、即刻上層部の裂界前線へ集結せよ!今この時、我らが全ての力を持って裂界に猛攻を仕掛ければ、必ずこの戦争に終止符を打てよう!英雄的な人民はもう一度偉大なる勝利を祝う事ができるのだ!

ベロブルグ初代大守護者アリサ・ランドはこう言った:ベロブルグ人は勇敢で聡明、そして常に偉大なるクリフォトに祝福されている。何時であろうと、我らの人民は力と心を一つにし、来襲する敵と最後まで戦い抜くだろう!

今こそ私たちがベロブルグ精神を奮い起こす時だ——例え後方にいようと、後方でしかできない事がある!シルバーメインの物資供給を保証し、都市の地髄供給を保証し、英雄たちが心置きなく戦える事を保証するのだ!

建創者よ永遠に!ベロブルグよ永遠に!

英雄的なベロブルグの子たちと彼らの偉大なる都市が、寒風豪雪の中で永世に立ち続ける事を!

※古びた動員令の下には不満を訴える落書きがある。※

もう何年経ってるんだ?まだ反撃できてないのか?笑えるな、シルバーメインは全滅したのか?

大守護者様は上層部と一緒に滅んだんじゃないの?
私が寄付した鍋を返しなさい!
では下層部の民謡をお楽しみください:『私たちはシルバーメインの帰還を待つ』
お父さんに会いたい、お父さんはいつ帰るの?

夢を追う人の手紙

届かなかった一通の手紙。劣化した封筒をそっと開くと、夢が砕ける声さえ聞こえてくる。

お母さんへ

久しぶり!
最近は元気ですか?ここ数日暖房供給設備に問題が起こったようで、上層部だけでなく、下層部も夜になると寒くなるって聞いたんだ。母さんも体に気を付けて、風邪を引かないように!

今回は報告したい事があって、実は売却に出していた上層部の家に買い手が見つかったんだ。それと、リベットタウンの店舗も交渉が終えた、二か月後に開店する予定なんだ。

簡単に計算してみると、家を売却した収入から店舗購入の分を差し引いて、ローンを返済しても、80万信用ポイントくらい手元に残る。こう見ると上層部の旅は儲けた事になる、家を出た時は手持ちの財産を全部売っても50万くらいしかなかったからね。

それより、上層部の住宅価格は日に日に高騰しているんだ、今の家を売り出して、その金で新しいのを買おうとも手付金しか賄えない、これじゃあ僕が上層部に来たばかりの時とそう変わらない。あの時は窮屈だったよ、手元にお金がある時はソーセージが食べられるけど、無一文の時は雪水でも啜りたい気分だったよ。もうあんな生活はごめんだ、本当だよ、もうベロブルグソーセージは二度と食べたくない、どんな味でも食べたくない。

最初は不動産会社ともうちょっと売却価格について交渉したかったけど、やっぱりやめた、厄介払いだと思えば安いもんさ。上層部の生活は本当に人を食い尽くす、あんな場所はもう一秒も居たくない。特にあのベロブルグ銀行は横暴すぎる!ローンを組む時は人を賓客のように扱うけど、催促する時はまるで僕の皮をひん剥いて丸呑みする勢い、数日遅れただけで返さない訳でもないし。やっぱりリベットタウンの方がいいよ、人情味がある。

こういう事を思い出すとイライラする。やっぱり止めよう、どうせもうすぐ家に帰るから。僕の計画は変わらない、生活雑貨のお店を開くんだ。上層部ほどの稼ぎはできないけど、やっぱり生活感がある。上層部のあれは生活とは言えない、毎日休む暇もなく何のために働いているのさえわからない。

ごめん、また上層部の事言い始めちゃったよ。でも大丈夫、何とか切り抜けたから、母さんは安心してくれ。面倒事を全部やり終わったらまた手紙送るね。

母さんが健康で楽しい毎日を過ごせますように!

愛しています ロバート・モドリッチ

「新・焼入れ工房」オープン!

「新・焼入れ工房」の宣伝広告。どこかで似た名前を見たような。

「新・焼入れ工房」
オープン!

流浪者のみんな、ごきげんよう!
オレの名はオグラ・クラーク、リベットタウンから来た流浪者だ
オレの名を知るヤツはいないだろうが、リベットタウンの「焼入れ工房」は聞いた事あるだろう
そう!オレはあの伝説的な工房の出身なんだ!

リベットタウンは完全に裂界のモンスターに侵入され、「焼入れ工房」のみんなも逃げる時にバラバラになっちまった
オレは、この流浪者キャンプでみんなを探してみたが、誰もいなかった
でも、流浪者の中にも職人がいて、結構気が合ったんだ
だから「焼入れ工房」の看板を継いで
「新・焼入れ工房」をつくった!

オレたちの事業内容は:
各種古代遺物の鑑定、修理と回収
中古部品の回収とリフォーム
各種部品の販売

流浪者のみんなに注意して欲しいのは、工房の仕入れ先は正規ルートじゃないってことだ
これらはオレたちが命をかけて機械の墓地から持ち帰った部品だ
全ての部品には魂がある!オレたちの心血と執念がこもっている!
たとえ部品の質が低いと言っても、種類が少ないと言っても
他に売っているところはない!

何を待っている?
思ったらすぐ行動だ!
早く「新・焼入れ工房」でお前が欲しかった部品を手に入れよう!
ロボットの仲間を連れてきたら50%オフ!

子供(闇堕ち済み)の観察日記

やや稚拙な観察日記。日記の持ち主はひどいショックを受けたようだ。

※ノートの表紙は泥と鉱塵に覆われているが、開いてみると、中のページは新品のようだ、それにほんの数ページしか使われていない。※

2月21日
友達にどんな動物をかんさつするか聞いたの、そしたらみんなイモリ、葬礼虫、ジェムトカゲとかだったの。私は特別で小さな動物が欲しいから、お父さんが作ったロボペットをかんさつするんだ。ロボットの名前は「ナナちゃん」、四角い頭と足が四本あるんだ。お父さんもお母さんも「ナナちゃん」がすきなの。
今日はお父さんに「ナナちゃん」の夜ごはんを用意してって言われたの、だから「ナナちゃん」を連れてエネルギー転換設備のところに行って、おなか一杯食べさせたの。

2月22日
今日はお母さんと一緒にボルダータウンに行ったから、かんさつ日記は書かなかったの。

2月23日
今日はお父さんが「ナナちゃん」を連れてお出かけしたの、だからかんさつ日記が書けなかったの。

2月24日
お父さんが昨日「ナナちゃん」を改造したって教えてくれたの。今の「ナナちゃん」はしゃべれるの、それにかんたんな家事ができるようになったの。
「ナナちゃん」がどれだけ頭よくなったのか試したいから、「ナナちゃん」に「今日は気持ちわるいから学校に行けないって先生に教えて!」って言ったの。
「ナナちゃん」はすぐに「頭は大丈夫か?」って返事したの。
ほら、私の「ナナちゃん」はやっぱり頭がいいんだ!

※先生の評語:「もうこのロボペットを飼わないでください」※

2月25日
今日はね、「ナナちゃん」を連れて外であそんでってお母さんに言われたの。だから「ナナちゃん」の頭になわをつけてお出かけしたの。
私たちはキャンプでジミーに会ったの、ジミーもロボペットを連れていたの。
ジミーのペットは目が二つあって、一つは緑色で上にあって、もう一つは赤色で下にあるの、どれもまん丸だったの。頭の下には爪があったの、お母さんが作るむしイワグラシガニみたいだったの。
私はジミーといっしょに遊んだの、でもペットの事を忘れちゃったの。探しにもどった時、「ナナちゃん」とジミーのロボペットがだきあっていたの、これはぜったいにつき合っているんだ、クラスのトミーとマリーみたいに。

※先生はここに大きな疑問符を描いてる。※

2月26日
今日は病気で一日中ねていたの、だからかんさつ日記は書かなかったの。

2月27日
今日も病気で一日中ねていたの、だからかんさつ日記は書かなかったの。

※先生の評語:「七日分の宿題を出したのに三日分しか完了していないじゃない。それと、ロボットはペットではありません!」※

2月28日
先生が私のかんさつ日記に0点つけたの、お母さんも私をしかるだけ。
もうおこったもん…ふん、どうして私ばっかしかられるの、だれも私を理解してくれない…なんで日記なんか書かないとダメなの?ああもうヤダ!れっかいのモンスターになってトミーとマリーを食べて、先生も食べちゃう!あはははは!
ふふ、私こそ悪の化身だ…このかんさつ日記はうめる、私の過去をうめる…はははは……

※日記の内容はここまで。※

軍用機械定期メンテナンス記録表

シルバーメイン後方支援部が定期的に貼り出す軍用機械のメンテナンス通知、だが誰もこんな事に関心を持たない。

技術部の定期メンテナンスが終了しました、メンテナンス記録をここに公示します:

【点検項目】警備ロボット三型
【点検日】8月5日
【点検部位】カッティングアーム
【点検内容】カッティングアーム及びコントロールバルブの作動状況
【点検結果】正常
【メンテナンス担当者】ミラ
【技術部意見】
正常に作動できるレベルとは全く言えない、劣悪品は武器庫に出現すべきでない。

【点検項目】警備ロボット一型
【点検日】8月5日
【点検部位】警戒巡査ユニット
【点検内容】巡査ユニットの感度
【点検結果】正常かも
【メンテナンス担当者】レイリー
【技術部意見】
「正常かも」?メンテナンス報告書の用語には注意せよ。技術部の再検査の結果、巡査ユニットの感度良好、使用可能。

【点検項目】3番倉庫運搬装置
【点検日】8月5日
【点検部位】運搬装置のレールに欠損があるか
【点検結果】正常
【メンテナンス担当者】ミラ
【技術部意見】
再検査の結果、正常。レールの定期メンテナンスには用心すべき。

【点検項目】低圧防爆スイッチ
【点検日】8月5日
【点検部位】配線の絶縁体に欠損があるか
【点検結果】正常
【メンテナンス担当者】レイリー
【技術部意見】
先月交換したばかりの絶縁体が既に劣化、劣悪品は武器庫に出現すべきでない。軍需品調達部の徹底調査を提案する。

【点検項目】二連装旋回砲塔
【点検日】8月5日
【点検部位】液圧推進装置の作動状況
【点検結果】異常音あり、軸受部の磨損が原因、既に軸受を交換し潤滑油を施した
【メンテナンス担当者】レイリー
【技術部意見】
再検査の結果と一致、潤滑油の交換は確認済み。潤滑油の品質保証に問題あり、軍需品調達部の徹底調査を提案する。

技術部責任者サイン:モリー

ラップ大会投票開始

流浪者キャンプで開催されるとある大会の宣伝ポスター。この構図、ラッパーが手掛けた作品に違いない。

※このポスターは完全に色鮮やかな高彩度カラーで構成されている、流浪者キャンプのような廃れた場所には眩しすぎる。※

ラップ大会新シーズン 投票受付開始
ラップ愛好家熱狂募集中!

~YO!
~YO!
下らない生活に挑戦が欲しいか
拳をマイクにラップ大会参加しようぜ
リズムも韻踏みも気を使わなくていい
ステージ上がる勇気さえあればDr.クックもいいねするぜ

それともただステージの下で傍観者になりたいか
だったらそこでステージを盛り上げてくれ
ラップ大会新シーズンの投票受付が始まった
お前が知ってるヤツも知らないヤツも全部いるぜ
猶予して躊躇して何を考えてる
貴重な投票資格無駄にするんじゃねぇぞ

スヴァローグ基地史上最大規模ラップ大会
新シーズン起動!
88ロックボトル?スパイクワンちゃん?無敵オヤジ?
スター勢ぞろい、今夜から爆発していくぜ!
選手の勝ち負け?
デラックスステージの配置?
全部お前らが決めるんだ!

参戦/投票は「Dr.クック」まで!

噛みます!近づかないで!

拙い筆跡で書かれたメモ。多分どこかのロボットの機生を記録したものだ。

噛みます!近づかないで!

この子は私のロボペット「ナナちゃん」よ。昔はお利口さんだったけど、今は病気で人を噛む事もあるの!
スヴァローグさんがここのロボット達を修理していると聞いたからここに置いといたの。
スヴァローグさん、どうか私のナナちゃんの助けてください!
ナナちゃんの病気が治ったら自分で帰るから。ナナちゃんは家までの道を覚えてるの!

※捨てられたロボットに貼られていたメモ、署名はない。残念ながら、このロボットはもう人を噛めない。※

ボクサー募集広告

下層部の至るところで配られているファイトクラブの募集ビラ、ラップより耳当たりがいいキャッチコピーだ。

ファイトクラブ ボクサー募集!

お前は、平凡な人生に変化が訪れるのを想像したことがあるか——
他人に蔑まれる小物から大衆が敬うスーパースターに一躍!

またはお前は天賦の才を持っているが、
誰もそれを認めない、
そう、ファイトクラブが待っているのはそんなお前だ。

研ぎ澄まされた格闘テクニックはいらない
圧倒的な体躯もいらない
視線を集める潜在資質を持ち
自分を変える勇気さえあれば
俺がお前を唯一無二のヒーローにしてやる!

申込条件:成年であればいい!
慧眼、敏腕のオーナーとして、このスコットは分かっている、ヒーローは出身を問わない!
お前が成年であれば、性別、出身、出場の目的も問わない
条件を満たしたのなら俺たちは誰でも歓迎する!

出せなかった家族への手紙

脆くなった便せんには昔のベロブルグの厳寒と温かさが記録されている、これは過去の温もり、そして一種の立ち合い。

その1
※長い年月保存されてきた便せんはセミの翼のように薄く、脆くなっており、触れると粉々になってしまいようだ。※

お母さんへ
ママがこの手紙を受け取った頃には、ベッティーに頼んで家に送ったプレゼントも届いてるでしょう。

今年はママの誕生日を祝ってあげられなくてごめんね、軍の仕事が多すぎるの、毎日忙しいわ。

でも安心して、私たちがいるところは前線から離れているし、結構安全よ。大守護者様も数カ月間ここに留まって指揮を執っているし、みんなそれぞれの仕事を全うしている時に、私だけが現場を離れるなんてよくないでしょ?

ママ、私最近よく子供の頃の夢を見るの。子供の時、よくママの帰宅が遅いって言ってたでしょう?そうするとママは「職務は全うするべき」って言ってたわよね、でもその時の私は全然理解できなかったわ。でも今、ベロブルグに迫る危機が増える今、前線に行って私はようやく「建創者」が背負うべき責任を感じたの。前線は緊迫しているし、私は極秘のプロジェクトに参加している、ごめんねママ、たとえ設計院の職員にも言えないの。私が言えるのは、これは私が見てきた建創者の造物の中でも最も偉大なる作品よ、こんなものの設計に携われるなんて栄光よ。まさか自分の仕事にこれ程の誇りを持てる日が来るなんて……

これが動き出す姿をママに見せたいわ、どんな敵でも、この勇姿を見ると絶対に逃げ出すわ。でも大守護者様はこうも言った、これを起動させるという事は、ベロブルグの存続が危ういという事。だから、私たちがどんな物を作っているのかは永遠に知らない方がいいわ。

この話はもうやめましょう、何か別の事にしよう——先月、作戦司令室が完成したの、今は物資の搬入作業をしているの。私は暖陽花を買ってデスクに置いたの、暖陽花を見ているとリビングに置いてある花を思い出すわ、まだ育ってるかしら?ママはいつも窓の前に座ってセーターを編んでいたよね、最近は寒波が増してきたし、まだそこに座っていると体に良くないよ。ベッティーにお願いして届けたプレゼントは膝掛けよ、ずっと寒くなると膝が痛むって言ってたから。任務から戻った兵士に狼の毛を貰って、同僚に作ってもらったの、ちゃんと使ってね。

そして最後に、ちょっと遅くなったかもしれないけれど、ママ、誕生日おめでとう。

ラーナ
その2
※長い年月保存されてきた便せんはセミの翼のように薄く、脆くなっており、触れると粉々になってしまいようだ。※

ベッティーへ

ラリーに頼んで狼の毛で膝掛を作ってもらったんだ、彼の所へ取りに行ってね。ラリーは足を負傷してもう前線に立てないの、だから私の代わりに慰問品を買って彼に送って。それと、ちゃんと人に礼を言うのよ、じゃないと失礼でしょ。

私は何日か前に塹壕を検査する時にちょっと怪我しちゃったの、だからここ数週間は帰れないの。それほどの傷でもないけど、ママには言つちゃダメだよ、心配するから。ママの方にはずっと作戦司令室で仕事しているって伝えたの。

最近はものすごく忙しくてね、今は負傷で休んでいるからやっと手紙を書く時間ができたよ。あなたの近況はアニーから聞いたわよ、まさかこんなお利口さんになっていたとは。でも家でママの面倒を見ながら勉強も頑張らなくちゃいけないのはさすがに負担が重いよ。お姉ちゃんとして必要な時に傍にいてあげられなくってごめんね。

私はここでたくさんの死を見てきたの、だから段々…自分も突然死んでしまうのではないかって考えるようになって…もし本当にそうなってしまったら、一家を支えるのはあなたよ、自分とママを守るんだよ。実は家にお金を置いてあってね、これまで貯めた貯金なの、あなたのタンスの中に隠してあるわ、そう、そこよ、こう言えば分かるでしよ。何か食べたいものとか、買いたいものがあったら使ってね、あなたは無駄遣いするような子じゃないって信じてるから。

これ以上のお節介はいらないと思うけど、ベッティー、やっぱりママとは喧嘩しないでね、ママはそういう人なんだよ、争いになりそうな時は譲ってあげちゃいな。

それとさぁ、ずっと教えなかったけど、はは。実はね、ずっとあなたを一番かわいい妹だと思っていたの、ずっと。

麗しいあなたの姉
ラーナ

集会場の掲示板

「地炎」の掲示板、日常の細々した事が記録されている。

集会場の掲示板

集会場へようこそ!私たちのサービスに意見やアドバイスがあったら、ここに書き込んでください!

#1
【お客さんの名前】常連さん
【お客さんの意見】
このカップまた洗ってないだろ、指跡がついてるぞ!値段は上がってばっかりなのにサービスがいい加減になってんぞ!金返せ!

#2
【お客さんの名前】ボルダータウンを愛するボルダー人
【お客さんの意見】
最新情報:最近街に変な奴らが現れた、髪の毛を色とりどりに染めていて、あのインチキ商人と一緒に行動している。どう見ても堅気ではない、恐らく他の町から逃げてきたチンピラ。外出する時は、外から来た奴らに注意すべし——あいつらは手癖が悪いと聞く。

#3
【お客さんの名前】退屈なニーナ
【お客さんの意見】
おやつとかないの?水を飲むだけじゃつまらないよ、あんたら商売もできないの?

#4
【お客さんの名前】機械工志願
【お客さんの意見】
上の書き込み気持ち悪いぞ、お前だけがボルダータウンの人で、他の人はボルダータウンを出入りしちゃいけないのか?お前が言った人たちは見た、「地炎」の人とも一緒だったぞ。それと、髪を染めてどうした?誰にだって若い時はあるだろう、なんだそのとげのある言い方は?ボルダータウンはそんなに大した場所なのか?外から来た人がどうした?みんな苦労して働いてる人間だろ!悪意持って人を推測するのはやめろ、教養がない。

#5
【お客さんの名前】通りすがりのお爺さん
【お客さんの意見】
皆さん、メッセージを残す時は人を傷つけないよう、言いすぎないよう注意しましょう!コミュニケーションする際は、寛容的に、心を明かして交流しましょう。違う意見があっても、他人の言葉を尊重しましょう。

#6
【お客さんの名前】水は一日一杯
【お客さんの意見】
爺さん、何を言っても無駄だよ、ここの書き込みは全部匿名だからな、いつもこんな調子なんだよ。マッドモグラのように、闇の中で騒ぐだけ、外界の全てに対して過度に敏感、その上暇があれば内輪もめしてる。集会所ってのはそんなネズミの住処みたいな所、俺はもうとっくに慣れている。

#7
【お客さんの名前】ボルダータウンを愛するボルダー人
【お客さんの意見】
はっ、お前らみたいな外人がボルダータウンを汚染しているんだよ。お前らを受け入れてくれって懇願してたのはどこの誰だったのかな?なのに今は「みんなマッドモグラ」だなんてよく言えたな、やめてくれよ、俺たちボルダータウンの住民を入れるな、あんたらと一緒にすんな。

#8
【お客さんの名前】地炎メンバー募集中
【お客さんの意見】
下層部の住民は「マッドモグラ」なんかじゃない、裂界の危機を前にボルダータウンの人と外から来た人を区別する必要もない。俺だってボルダータウンの生まれだ、でも鉱場で裂界のモンスターに襲われた時、俺を助けてくれたのがアンタらの言う「外の人」だ。
それに、「マッドモグラ」が暴れ出すのは未来に対する安全感を失ったからだ、どうして世界が突然変わったのか知らないからだ。未来に対する安全感は全ての生物が生きるために必須のものだ、裂界の前では、俺たちは同じなんだ。
「地炎」の先輩の受け売りだけど、人と動物の最大の違いは、冷静に思考できる頭があると俺は信じている。「マッドモグラ」になりたくなかったら、俺たち「地炎」に入って一緒に故郷を守ろう。裂界を前に外人とかボルダー人とか言い争っても意味はない。

#9
【お客さんの名前】もうすぐ誕生日のアーレイ
【お客さんの意見】
上の言う通り、口喧嘩する元気があるなら「地炎」で力を振るいなって。まあまあ喧嘩はそこまでにして、それより明日は私の誕生日なんだ、よかったら明日の午後飲みに来る?高いドリンクは買えないけど、水一杯くらいなら奢れるよ。

#10
【お客さんの名前】ボルダータウンを愛するボルダー人
【お客さんの意見】
ありがとう、今日一杯奢ってもらった、ありがとうな。でも君のその訛り方、ボルダータウンの人じゃないでしょ?

#11
【お客さんの名前】機械工志願
【お客さんの意見】
……アーレイ、奢って損したね。

#12
【お客さんの名前】暴走兄貴
【お客さんの意見】
おいどうしたお前ら、もう喋るのをやめたのか?いつもはページ一杯に書かれてんのに俺が書き込もうとするとこれっぽっちしか残ってねぇ、移住してきた人をなめてんのか?いつもお前ら数人の書き込みしかねぇのか?だったら毎日来てやる、一体だれが書き込みしてんのか、何を書いているのか全部はっきりさせてやる。俺がいない時は寒波から鉱区の歴史、昼メシからゴーディーの腕前、楽できる採掘方法からメカのメンテナンスまで口が止まらないくせに、俺が集会所に入るとすぐ書き込みがなくなる、はっ、偶然じゃねぇか。んな偶然あると思ってんのか?今晩はここで徹夜だ、てめぇらが何を喋るか徹底的に聞きこんでやる!

#13
【お客さんの名前】常連さん
【お客さんの意見】
上のヤツは水を飲むだけで酔うのか?それともなんか隠しメニューがあるのか?

#14
【お客さんの名前】機械工志願
【お客さんの意見】
それは前のノートが使い終わったから新しいのに替えただけだよ……想像力が飛んでるな、小説でも書いたらどうだ?

外縁通路に捨てられた古新聞

昔の新聞、過去のベロブルグの風貌を断片的に記録している。

大守護者タチアナの重要スピーチ
※「告知板には丁寧に切り抜かれた新聞が貼られている。内容は、大守護者タチアナが新たに建設された博物館の前で行った記念スピーチの全文、『水晶日報』が掲載したものだ」※

大守護者アレキサンドラ逝去五十周年記念スピーチ

本日はベロブルグ3代目大守護者アレキサンドラ様の没後50周年にあたります。偉大なる人物が世を去ってから、私たちはベロブルグの創建以来、最も穏やかな50年を過ごしてきました。民は安居楽業でき、全てはあるべき姿へと向かっています。私たちは今、歴史上で最も良い時代を生きているのです。これらすべては大守護者様の功績の賜物です。アレキサンドラ様に心から敬意を払ってください。

アレキサンドラ様が大守護者を務めていた間、ベロブルグの形態に非常に大きな変化がありました。下層部の開拓進度が大幅に進み、多くの志ある青年が鉱山町で事業を興しました。下層部の経済を発展させると同時に、アレキサンドラ様は教育にも力を入れておりました。アレキサンドラ様は「ベロブルグ大学」の創立し、基礎科学の研究を支援しました、その援助が実を結び、地下世界の生態への認識は未だかつてない高みへ到達したのです。それ以外にも、アレキサンドラ様はベロブルグの度量衡を統一し、今も使われている「建創紀元暦」を制定なされました。アレキサンドラ様がいなければ、ベロブルグは今も、混乱した愚蒙な暗闇の中で迷っているとも言えましょう。

私個人の立場から言えば、アレキサンドラ大守護者は会ったことのない英雄のような人です。私がまだ大守護者候補だった頃、よくファイカ様が私にアレキサンドラお婆さんの物語を話してくれました。ですから、アレキサンドラは片時も離れることなく、私たちのそばにいてくれたと言えるでしょう。ベロブルグは永遠にアレキサンドラ、そして歴代大守護者の名前を忘れないでしょう、彼女らの偉大な名前を永遠に胸に刻み、今から50年後も忘れることはないでしょう。100年後、500年後、1000年後も同じです。

今一度、偉大なる大守護者アレキサンドラに深く敬意を表しましょう。

兄弟が法廷で審問を受ける、ゲーテ宅臨時封鎖
※「掲示板には丁寧に切り抜かれた『水晶日報』の記事が貼られている」※

ベロブルグで古くから知られている「ゲーテ一族」にとって、これまでの3ヶ月は一族の運命を変える3ヶ月となった。

オースティン・ゲーテの葬儀での騒動はいまだ収束しておらず、2人の息子はまたもや法廷で激しく対立した。波乱の裁判が終わった後、グレイ・ゲーテが「国家反逆罪」を犯したというニュースにベロブルグの住民たちは再び驚かされた……この間に一体何があったのだろうか?本紙記者が事件を整理する。

オースティン・ゲーテの死後間もなく 兄弟が遺言をめぐって対立

「ゲーテ一族」はベロブルグ成立時から名声高く、2代目大守護者「鉄腕のスベトラーナ」の厚い信頼を得ていた。ベロブルグ内の各勢力を統一する上で、ゲーテ一族は並々ならぬ功績をあげた。先日、一族の中心人物であるオースティン・ゲーテが死去し、盛大な葬儀が執り行われ、各界の著名人が参列した。

しかし、オースティン・ゲーテの遺言が2人の息子の待遇に差をつけていたため、葬儀の席で物議を醸すことになった。遺言では、長男のホワイトが財産の65%、次男のグレイが20%を受け取り、残りは一族の基金に投入、管理させ、定期的に孫たちに配分する事になっていた。グレイは財産の不平等な分配に抗議し、2ヶ月に及ぶ法廷闘争で2人の仲は完全に決裂した。

グレイはインタビューの中で何度も悔しさと怒りを滲ませ、「親父がこんな馬鹿げた遺言を作るはずがない――2人とも息子なのに、どうして差があるんだ?絶対に誰かが手を加えたに違いない……この遺言……俺は絶対に認めない!」と語った。

激怒する次男グレイとは対照的に、長男ホワイトはかなり冷静で、遺言に法的効力があることは疑いの余地がないとしていた。彼は「父が重病の時、グレイは1日たりとも帰って来ませんでした。父が亡くなり、すぐに金をせびりに来たのは本当にがっかりしました」と語った。

遺言をめぐる争いは最終的にグレイの敗訴で決着した。

グレイは敗訴後に国家反逆罪で失踪 ホワイトは罰金を支払うために家財を売却

グレイの敗訴により一件落着と誰もが思っていた。その矢先、大守護者タチアナはグレイ・ゲーテが重大な国家反逆罪を犯したとの判決を下し、多額の罰金を科した。これによって瞬く間に国中が大騒ぎとなった。『水晶日報』はすぐにクリフォト城のスポークスマンやゲーテ一族に連絡を取ったが、本記事執筆時点で、どちらからも明確な回答を得られていない。信頼できる情報筋によれば、グレイ・ゲーテは行政区を離れ、行方不明になっているそうだ。

グレイが犯した「国家反逆罪」の詳細については公開されていないが、大守護者様は強硬な態度を崩しておらず、グレイの兄ホワイト・ゲーテもこの罪名に異議を唱えていない。最近、「グレイが家族を連れて雪原の向こうに逃げた」と噂されている件について、クリフォト城のスポークスマンから「それは考えらえないような話」だという正式な回答が得られた。

「盛者必衰。これはゲーテ家の家訓です。私たちはいつもこれを心に留めてきました。ですが、こんなにも早く、こんなにも突然にやって来るとは夢にも思いませんでした」と語るホワイトだが、一族の将来のことに話が及ぶと、憂鬱そうな目で「巨額の罰金を支払うために屋敷を売り払い、使用人の半数近くを解雇しなければなりませんでした。今後は、残った資金で事業を興して一族の名誉を回復するとともに、弟の犯した許されない罪の埋め合わせをしたいと思います」と話した。

氷原オオカミ出没、大守護者が夜間外出禁止令を発令
※「掲示板には丁寧に切り抜かれた『水晶日報』の記事が貼られている」※

建創紀元144年6月19日、ベロブルグの大守護者タチアナは『第101号条例の夜間外出禁止令』に署名した。この禁止令によって、発令日より、毎晩6時から翌朝6時まで、街全体で夜間外出が禁止される。外出禁止の期間中は、シルバーメインおよび執政庁が認めた労働者を除き、外に出ることを禁ずる。『第101号条例の夜間外出禁止令』は、新たな政令が公布されるまで有効となる。

夜間外出禁止令を敷いたあと、大守護者タチアナは『水晶日報』にこの禁止令公布の実情を明らかにした。ベロブルグの外には生命の痕跡が殆どないため、シルバーメインは長い間、都市の出入り口の警備を怠っていた。最近、多くの市民が都市内で氷原オオカミの姿を見たと通報し、ベロブルグの温暖な環境が、耐寒種の移動を促したと考えられている。今回の目撃情報を受け、シルバーメインは外出禁止期間中、約1100人の兵士を動員して街全体で掃討作戦を展開し、氷原オオカミを完全に駆除する予定である。また、今回を機に、出入り口の警備を強化し、危険生物の侵入を防ぐそうです。

大守護者タチアナは、午後6時から翌日午前6時まで、警備を担当するシルバーメイン以外は、許可のない外出を禁じると再度強調した。また、氷原オオカミの情報を隠したり、匿ったり、それらに餌を与えたりすることも禁止とされており、違反した者は、その責任を負わされるだろう。