本棚/仙舟「羅浮」(2)

Last-modified: 2024-03-07 (木) 09:05:44

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◆がついているものは内容が不足しているものです。

合理的かつ合法的な動物愛護を提唱、動物の違法・不法な「放逐」を厳しく取り締まる

地衡司の執行所が張り出したお知らせ。

市民の皆さま:

動物愛護は人の常であり、動物に自由を与えたいというのは慈しみの心の表れです。仙舟の言い伝えにも「君子は庖厨を遠ざく」とあり、古国時代の古典『冥様霊験記』にも、賢者が狩人に獲物を逃がすよう戒めたという話もあります···これらはみな、一切の有情の衆生を大切にすることが、仙舟人の伝統的な美徳であることを示しています。

しかし、動物愛護にも方法の吟味は必要です。動物を自然環境中に「放逐」するのは、一見善行のように思えますが、実際には多くの深刻な結果をもたらすのです。

昨年3月、柴容疑者(461歳)は購入した20匹の鼻行獣を永狩原野に持ち込み「放逐」しました。

鼻行獣はハイアイー星原産で、近年仙舟に輸入された、人気の異星ペットです。しかし、このかわいくて大人しい無害に見えるペットには、ある危険な特性があります。
生存空間の拡大に従って、体が無制限に成長するのです。雲騎軍のハンター隊がその鼻行獣を見つけた時、最大の1匹はすでに2隻の星槎よりも巨大化していました。

ハイアイー連邦生物医薬管理局のデータによると、記録された最大の鼻行獣は、羅浮半分ほどの大きさがあったそうです。柴容疑者がこの生物を永狩原野に放したことが、どれほどひどい結果を生むか、もうお分かりでしょう!一万歩譲つて、たとえ生物自身は無害でも、それが長命種のDNAバンクと予想外の反応を起こさないと保証できるでしょうか?それは不可能です。

逮捕後、柴容疑者は一貫して、この行為は善意から出たものだと主張しています。我々も多くの「放逐」が善意によるものだと信じていますが、その善意は仙舟に甚大な損失をもたらすかもしれないのです。

また、現在次のようなデマが出回っています。「有害放逐」は異星生物の仙舟への「放逐」だけであり、仙舟本土の生物の「放逐」は害がないというものです。

その考えは完全に間違っています。今年7月、凌容疑者(242歳)は農業市場で大量の灯魚を購入し、仲間の「放逐愛好家」と一緒に無許可で鱗淵境に持ち込み、すべて古海に「放逐」しました。

少しでも常識のある人なら、大量の獰猛な肉食魚類を鱗淵境に「放逐」することがいかに無知で悪質な行為かすぐにお分かりだと思います。幸い、凌容疑者とその仲間の愚行は深刻な結果をもたらすには至りませんでしたが、彼らは注意喚起のためにも、法的に重い罰が課されるでしょう。

地衡司から重ねて市民の皆さんにお願いです。現在、放逐を行えるのは資格を持つたプロのみ(正式名「野生放帰」)であり、民間人の私的な「放逐」行為はすべて違法行為または犯罪行為です!

動物愛護は理性的かつ科学的に行ってください。知識なき善意は、往々にして理性ある悪意より危険なものです。市民の皆さまのご理解をお願いします。

地衡司宣伝局

『仙舟通鑑』拾遺

仙舟同盟の原始史料をまとめたもので、同盟の歴史のあゆみの重要な注釈となる。本巻は『仙舟同盟宣』の序言の部分のデジタル拓本である。

仙舟通鑑・三劫本紀・残巻前篇

……

【星暦2605年】
この年の年末、「羅浮」は戸籍黄簿年鑑を用いて、各仙舟の死者を除籍した。

【星暦2606年】
7月、仙舟艦隊はコナント-ファレル星系に突入した。

【星暦2607年】
4月、「虚陵」の三洞天で維持システムの機能不全により災害が多発し、川の水があふれ、死者数や被害は計測不能となった。「虚陵」の貴冑は食糧の配給を命じて府庫を開き、救済を行った。各仙舟も吏を率いて救援に駆けつけ、復興が成し遂げられた。
12月、「曜青」、「朱明」、「方壺」は戸籍黄簿年鑑を用いて、各仙舟の死者を除籍した。

【星暦2608年】
この年は平穏であった。

【星暦2609年】
この年の年末、「玉殿」、「円嶠」、「蒼城」、「虚陵」は戸籍黄簿年鑑を用いて、各仙舟の死者を除籍した。

【星暦2610年】
6月、「羅浮」は不老長寿を願う祝祭を開き、恩赦を出し、30日間の盛大な酒席を設け、各仙舟は使いを出して万民から祝賀を集めた。

……

【星暦3061年】
5月、「玉殿」にて褐夫の盗賊による騒乱があり、貴冑がこれを平定した。

【星暦3062年】
4月、「円嶠」にて褐夫の反乱、貴冑がこれを平定した。
7月、「玉殿」にて再び褐夫の反乱、貴冑がこれを平定した。

【星暦3063年】
8月、「曜青」にて大商人が刺客に殺害され、貴族から庶民まで騒然とする。
11月、「曜青」にて褐夫の大反乱。武官と文官を殺害するも、軍により平定される。

……

【星暦3198年】
2月、仙舟艦隊全域にて大乱。
褐夫の首魁は各舟に檄文を送る。曰く「耆宿は『豊穣』の恩恵を受けて以来、長寿を得て、官位を独占し、権力を濫用し、高禄を食み、機密を握り、富と栄華を誇っている。そのくせ、新たに生まれた若者を禽獣や虫けら以下としか見ていない。これは魔陰に堕ちたに他ならず、仙舟はその災いに久しく苦しんでいる。天下の義士よ、傍観は許されない。今こそ力を合わせ、清く正しい流れで四海の心を満たさねばならない」
そして「朱明」で兵を旗揚げすると、舟中の洞天を占拠し、耆宿を戦い続けた。各仙舟の人々は動揺したが、呼応者も非常に多く、事態は危険度を増していった。

……

仙舟通鑑・三劫本紀・残巻後編

……

【星暦3287年】
十一月、仙舟「円嶠」が鬩壁にて轟沈。四海は深い悲しみに包まれ、夜が明けるまで涙は絶えなかった。両軍も意気消沈し、休戦協定が結ばれる。
十二月、各仙舟の残存金人が反乱。褐夫、耆宿の区別なくこれを虐殺する。その数、統計不能。

【星暦3288年】
二月、両軍は協力して金人の排除に当たるため、使いを交わして講和に望む。
四月、和議が締結され、戦争は終結。直ちに軍が編成され、金人討伐が行われる。

……

【星暦3290年】
五月、金人の首魁「止戈」型が精兵を率い、「曜青」にて邀戦。軍は一斉攻撃によりこれを撃破、首魁を破壊する。

……

【星暦3292年】
七月、各仙舟は残存金人をすべて武器庫に格納。戦いは収束し、金人の反乱は平定される。

……

【星暦3294年】
9月、各仙舟の内乱は100年を超え、天下は疲弊し、親兄弟は殺され、生ける者は塗炭の苦しみにあった。ゆえに、今は兵を収めて民を休ませ、「豊穣」の恩恵を受けて死を根絶して以来、不死となった一族を適切に管理し、生み育てていくことは急務であった。

……

【星暦3300年】
八月、各仙舟は合同で『睦音合議』を起草して不法の追及、忠孝の奨励、信賞必罰、弱きを助け強きを挫くことを定めた。古国の王朝が統一帝国を建てた故事の如く、四方の乱は収まった。
また、計画出産と宇宙移民政策を立案し、八舟の有志に土地が豊かで短生族の定住者がいない星への移住を許可し、適切な開拓を行って自立することを命じた。

……

天舶司金剛櫝紀総集・星暦3287年・庚酉3日

【記録日時】星暦3287年11月21日
【記録No.】庚酉3号
【飛舸No.】畢方-壱
【ラベル】飛舸;戦地記録;仙舟「円嶠」;鬩壁

【録音テキスト】

……

3287/11/21 1401 畢方-壱
司辰に告げる。当方の所在宙域は晴れ。強い恒星風を確認。視界内には赤色巨星を除いて、他の天体は見当たらず。

3287/11/21 1402 羅浮司辰宮指揮システム
司辰より応答。貴艦の所在宙域にその他の飛行活動は認められず。恒星風により短時間の通信途絶の可能性あり。乱流から距離を取り、飛行姿勢を確保されたし。

3287/11/21 1402 羅浮司辰宮指揮システム
現在、貴艦は円嶠に接近中。チャンネル351.017にて円嶠との通信を確保されたし。誘導は必要か?

3287/11/21 1403 畢方-壱
不要。現在、左方向から右方向へ本宙域を横断中。

……

3287/11/21 1527 畢方-壱
指定位置へ進入完了。円嶠から応答なし。繰り返す、円嶠から応答なし。

3287/11/21 1529 羅浮司辰宮指揮システム
(重いため息)なん…(通信ノイズ)ことだ!彼らの話は真実であったか。

(長いホワイトノイズ)

3287/11/21 1534 羅浮司辰宮指揮システム
畢方-壱に告げる。円嶠の損害状況を報告せよ。

3287/11/21 1535 畢方-壱
(ため息)ひどい有り様だ。

3287/11/21 1536 羅浮司辰宮指揮システム
詳細を述べよ。

(長いホワイトノイズ)

3287/11/21 1540 畢方-壱
(重いため息)もう(通信ノイズ)たくさんだ!彼らが助からなかったことは分かるだろう!あそこから逃げてきた人たちの(通信ノイズ)話じゃ分からないのか!?

3287/11/21 1541 畢方-壱
(沈黙)円嶠の外観に異常はない。だが、彼らが生還することはできない。彼らは失速し、慣性に従って赤色巨星に落下している。

(長いホワイトノイズ)

3287/11/21 1545 羅浮司辰宮指揮システム
救えるはずだった……この通信を構築できさえすれば!30分で十分だったのに(通信ノイズ)!

3287/11/21 1546 羅浮司辰宮指揮システム
一体なぜ(激しい通信ノイズ)こんなことになった?我々はなぜ(激しい通信ノイズ)こうなってしまったんだ!?

3287/11/21 1547 畢方-壱
(長い沈黙)あのクソッタレな豊穣のせいだ。なにが恩恵だ、なにが永遠の命だ……

3287/11/21 1550 羅浮司辰宮指揮システム
(長い沈黙)それに(激しい通信ノイズ)戦争のせいだ。(激しい通信ノイズ)権力争いのせいだ。

(長いホワイトノイズ)

3287/11/21 1629 畢方-壱
司辰に告げる。円嶠が視界から消失した。12時方向、赤色巨星の中に。

3287/11/21 1630 畢方-壱
(重いため息)円嶠のロストを確認した。

……

『仙舟同盟宣言・序』デジタル拓本

我ら仙舟の万民はここに同盟し決議する

後世の侵略戦争、危険で凄惨な争いを回避し、
無量の苦しみを除き、すべての人間の尊厳と神聖な権利を平等にするため、
正義と寛容を再確認して呼びかけ、
略奪、抑圧、搾取、拷問を放棄し、
死すべき身に回帰し、全宇宙から不死の災禍を根絶する志を立て、怠ることなく、

日夜その労に勤しむべし。

守眠を再開し、輪番にて交代し、期満ちれば解組し、賢路を避けん。
雲騎軍を建て、内外を鎮め、悪寇を清め、七舟を防衛せん。
十王司を立て、灯火にて夜を守り、罪囚は必罰し、邪悪を糾弾せん。
共に六御を挙げ、尊賢を能く用い、政事を諮問し、同盟を制御せん。

是を以て四海を慰み、上は帝弓から下は十王まで、星海の遥か遠くまで、殉難三劫烈士の英霊、その志を昭かにせん。

ここに七舟を代表して虚陵の使者がその内容が適切であることを証明し、本宣言を議定す。盟曰く「仙舟同盟」。

雲吟譜

持明族の民間歌謡集で、とある箜篌師が編集した。

『前世の夢憶』(『再生の縁』の段)
日が暮れて私はベッドにもたれ、
玉簾が半分サンゴの鉤に架かる。
不意に目覚めて眠れず、
半分衣を解いて半分目を閉じる。
つかの間、風が吹き花が落ちて水の流れが舟を押し、
終わることない戦いの夢を見る。
呉鉤を佩き、颯爽と馬の群れを飛び越え、
綺楼に登り、恋人と戦艦に遊ぶ。
チィチィと鳴く二羽のヒヨドリ枝先に停まり、
蕭々と前世の因縁を現世に愁う。
十世の脱鱗が、恩仇を水に流しても、
また恋人を失うことは耐えがたい。
顔を上げると珊瑚の窓は昼になり、
情はまだ、前生の夢の中に留まることを望む。

『龍王遺恨』(『龍牙伝』の段)
靡靡たる赤龍、鬱蒼たる青松
今や零落して寒風を追う
誰が憐れむべきか

靡靡たる赤龍、鬱蒼たる青松
世の栄華は風になびく草の如し
君に再び逢うことは難し

靡靡たる赤龍、鬱蒼たる青松
月明りの中斗酒を欲し
骨を幾重にも埋めん

靡靡たる赤龍、鬱蒼たる青松
六百余年の浮世過ぎて
夢の如く皆空なり

仙舟「玉殿」からの監察報告

仙舟玉殿からの情報。

策士長青鏃へ親展:

仙舟玉殿は現在、巨人の腕星団の外側を航行し、古代の航路に沿って探査を続けている。

26空漏時前、「瞰雲鏡」が帝弓の光矢の信号を補足し、そこから3個の座標を特定した。太卜の解読によると、これは天罰の啓示である。

元帥は軍令を発布し、曜青雲騎艦隊「鶴羽衛」、「丹歌衛」が今回の巡狩を開始したことを、ここに周知する。

なお、最近斥候が入手した大敵の動向を添える。作戦立案に用いられたし。

【記録印章】仙舟玉殿太卜司 呈上

》》》【策士長スタンプ】のみ展開《《《

【歩離人】

大巣父昂沁の率いるその猟群は、敵対する舍帕猟群艦隊を撃退するため、エキドナ天垣に進入した。
全軍合計器獣艦16隻、戦闘艦325隻。
近日中に歩離人の内戦が観測される見込みだ。その際は再び戦報を送る。

羅浮に対する脅威:極めて低い。

【造翼者】

スターピースカンパニーの提供情報によると、造翼者の「孔雀天使」軍団が失魂星域に到達。その目標は星核を発見し、その故郷「穹桑」を復興させることである。
この情報の真実性には考察の必要がある。

羅浮に対する脅威:極めて低い。

【反物質レギオン】

羅浮の航路上に隣接する工業惑星――バランザ溶炉は、すでに絶滅大君「鉄墓」の攻撃で全面機能停止した。
卜者たちが戦事について占ったが、戦勝確率は限りなくゼロに近かった。

羅浮に対する脅威:中から低。
対応措置の提案:羅浮太卜司に命じて「鉄墓」戦車の電磁波信号を観測し、その動向を警戒する。

大敵名簿

神策府内にある公文書。仙舟の敵である各勢力を記録してある。

燼滅の巻:絶滅大君

【大敵名簿・燼滅の巻・目次】

……
……
絶滅大君
終末獣
蹂躙
ヴォイドレンジャー
バリオン/反バリオン
……
……

【ステータス】絶滅大君

分類

その起源により分類。特定されない。

概要

絶滅大君とは「燼滅禍祖」ナヌークが選抜した使令であり、「反物質レギオン」の数多の部隊の統率者。

ナヌークは無数の世界を枯死させ、数え切れないほどの文明を消滅させてきたが、その意志に従い、自ら甘んじて「壊滅」の道に足を踏み入れた有能な者には、活路を残し、滅びの日を先延ばしにする。
こうして壊滅の力を与えられ、反転され歪まれたこれらの生命体は、皆が恐れる「絶滅大君」となる。

噂によると、ナヌークの下には7人の大君がおり、「壊滅」の7つの極致的な傾向を代表している。
しかし、現在に至るまで、7人の大君の具体的な情報を完全に掴むことはできていない。

同盟の観測記録であれ、カンパニーの情報網であれ、入手できる有効な情報は極めて少ない――
なにしろ、「壊滅」が通過した場所には、情報はおろか何一つ残らないからだ。
その内、少なくとも4人の大君は名前すら判明しておらず、「壊滅」の傾向からその存在を判断することしかできない。

観測記録

【風焔】

「風焔」は「一人万軍」という恐ろしい通り名があり、暴力による破壊に最も熱心な大君でもある。
その名の通り、風焔は物事が滅びる瞬間の爆発的な力と美しさに耽溺しているという。

星暦6804年、新ベツレヘムの太陽を点火させ、莫大な放射線でその地表を炙り、ガラス化させた。
星暦7143年、巨大な竜巻を発生させ、惑星アデンの生態系を壊滅に至るまで撹拌した。
星暦7658年、月衛の盾の地殻を破り、地核打撃を行って世界全体を圧壊させた……
これらの破壊行為はすべて、彼の終末の光景に対する異常で極端な嗜好を十分に反映している。

同盟に対する潜在的な危険性:極めて高い。

【星嘯】

「星嘯」は燼滅禍祖の先鋒将軍。

ナヌークの行動原理を理解できる者は皆無だが、星嘯は確かに其が最もよく用いる将軍。
その部隊は銀河中に分布し、星々の間に行軍経路と壊滅の道を織り成している。
曜青、朱明、方壺は、星嘯率いるレギオンの兵卒との交戦記録を残している。
星嘯は現在、仙舟に上陸した唯一の「壊滅」令使でもある。
『仙舟通鑑』の記載によると、彼女は星暦5700年ごろ、仙舟朱明に対して抵抗の放棄、および航路の変更を要求した。
その目的は、彼女の造翼者世界に対する攻撃に協力することだった。

同盟に対する潜在的な危険性:極めて高い。

【鉄墓】

「鉄墓」は技術の発達した世界への攻撃を最も得意としている。

生存者の残した情報で例外なく指摘されているのは、彼らは「知性の敗北」を目撃したということ。
無機的なAI軍団が一瞬で麻痺し、敵に寝返った。外層空間防御システムが地上への斉射を開始した。
飛行兵器がハエの群れのように散り散りになり、敵に向かわない……
鉄墓は科学技術に自信を持つ文明世界を滅ぼすのに長けている。
最近、仙舟玉殿から提供された情報によると、「鉄墓」はバランザ熔炉を攻略した。
我々は速やかに彼の攻勢に備えねばならない。

同盟に対する潜在的な危険性:極めて高い。

【???】

正確な呼称は不明だが、観測記録の残る大君。

仙舟玉殿の観星士は、滅亡した星「シラクサ-III」の152年における観察記録を提出した。
そのレギオンはこの世界で極めて緩やかに戦線を進め、優位を構築し、圧力をかけ、抵抗者を蚕食し、蟻の群れを観察するように、被害を受けた文明の構造が緩やかに崩壊していくのを観察した。
同様の現象は、赤色バベル、オーギュア星環などの世界の滅びの過程にも繰り返し出現している。
その背後には棋士のように冷静で自制的な大君がおり、その戦いを導いていると推測される。

同盟に対する潜在的な危険性:極めて高い。

【???】

正確な呼称は不明だが、観測記録の残る大君。

スターピースカンパニーの記録によると、彼らはこの600年間に最少でも122の世界が原因不明の混乱に陥り、最終的に反物質レギオンに壊滅させられた事例を観察した。
最初にカンパニーから派遣された調査員たちは、これらの事件がそれぞれ孤立した結果であると考えていた。
しかし、すべての災害評価を総括すると、これらの世界の滅亡が一つの原因に帰結することが見えてくる。
「精神」の崩壊――
信仰体系の内部衝突、精神的支柱の瓦解、文明内部の信用の崩壊、そして希望の完全な放棄。
仙舟玉殿の太卜司は、この一連の操作の背後には、正体不明の絶滅大君が潜んでいると考えている。

同盟に対する潜在的な危険性:未知。

【???】

正確な呼称は不明だが、観測記録の残る大君。

博識学会から、ヤバンナの鎖星域の光度対比図の提供があった。
その3分の1の恒星は、この300年の間に何らかの力で消滅させられている。
これは決して正常な天文現象ではない。
暗闇に包まれた世界では、反物質レギオンが傍若無人に往来し、永遠の夜から破滅が降ってくる。
ヤバンナを脱出した生存者たちの証言によると、彼らはそれを「太陽を呑む獣」と呼んでいる。

同盟に対する潜在的な危険性:未知。

【???】

正確な呼称は不明だが、観測記録の残る大君。

羅浮地衡司の生態学者は、徹底的に反物質化された奇妙な世界を調査したことがある。
そこではすべてのものが、自分の鏡映のような対偶物体に向かって突進し、衝突して消滅による眩しい光を放つ。
反物質レギオンの創造物は常に歪んだ奇妙な形をしており、崩壊の瞬間に激しい炎を噴き出し、敵をその消滅に引きずり込む。
その奇妙な性質は、この大君から来たものなのだろうか?

同盟に対する潜在的な危険性:未知。

(文末に小さな文字で2行の注釈がある)

「雲騎軍は帝弓の啓示により忌み物を討伐してきたが、同盟成立から今日まで、反物質レギオンとの衝突は数えきれない。
近い将来、雲騎軍と燼滅禍祖の手先との戦いは避けられない。早急に準備すべし」

忌み物の巻:歩離人

【大敵名簿・忌み物の巻・目次】

……
……
歩離人
造翼者
慧駿
視肉
歳陽
虺種
……
……

【ステータス】歩離人

分類

霊長目・ヒト科・イヌ亜種

概要

歩離人は連合の歴史上最古の大敵であり、「豊穣の民」の主要な一部である。その起源星はまだ判明していない。しかし、遺伝子鑑定の結果、歩離人の先祖は狐族と同源であり、最終的に異なる進化の道を歩んだと思われる。

狐族の叙事詩によると、二者は共に「長命主」と呼ばれる天外の神の啓示を受け、赤泉の水を飲んで長命を授かった。しかし、その後の歴史の中で、歩離人は狐人を奴隷または弾避けと見なし、彼らを天外への征伐へ駆り立てた。

同盟の確認可能な記録の中で、仙舟と歩離人は3度の大規模戦争を起こし、その損失は重大であった。
そのため、雲騎軍は常に歩離人の動向を警戒せねばならない。

生態

歩離人は明らかなイヌ類の解剖学的特徴を持っている:骨格は広く細長く、下顎と頸部の筋力が強く、犬歯が発達し、頭頂部に獣耳が生え、手足に鋭い爪を持つ。

「長命種」という広い生物分類の中で、歩離人はずば抜けた治癒能力を持っている。

この治癒能力に伴うのが、彼らの変身能力(歩離人は「月狂い」と呼ぶ)だ。
この能力は、狐族の系統にはほとんど見られない(仙舟「曜青」の狐族を除く)。
変身時には大量の骨と筋肉の増殖、例えば口吻部と下顎骨の突出、趾行構造の出現を伴う。
これらの傷害性の変身プロセスは、最終的に高速の自然治癒によって完全修復される。

戦闘中、歩離人は「狼毒」と呼ばれるフェロモンを放出し、偏桃体の恐怖の感情を呼び起こす。
これとの戦闘時は、雲騎軍は丹薬の服用によりこの本能的恐怖を抑制可能である。

科学技術

歩離人は生物科学に長け、自らの体に様々な生物科学技術による改造を行っている。
歩行者の装甲や武器には、明らかな生体的特徴がある。

その艦船は「器獣」または「獣艦」と呼ばれ、捕食、攻撃、繁殖能力を持つ生物宇宙船である。
歩離人が日常的な狩りで搭乗する戦闘機は、その速さで知られている。

政治

歩離人は部族議会制を採用し、その文化は弱肉強食、力を尊ぶ古き伝統にあふれている。
単一の部族は「猟群」と呼ばれ、複数の部族の連合体は「大猟群」と呼ばれる。
各部族は往々にして最も強く賢い歩離人をリーダーに選び、「巣父」と呼んでいる。
大猟群における首長選挙の儀式では、巣父同士が戦って強さによる席次を決め、首位に立った者を「父狼」や「戦首」と呼ぶ。

(文末に小さな文字で2行の注釈がある)

「前任の戦首、呼雷は捕らわれた。現在の戦首は……?」
「確定ではないが、昂沁または力薩のようだ。青鏃より以上」

忌み者の巻:歳陽

【大敵リスト・忌み物の巻・目次】

……
……
歩離人
造翼者
慧骃
視肉
歳陽
虺裔
……
……

【項目】歳陽

分類

無形目・魂精科・歳陽亜種

概要

歳陽一族は同盟の長きにわたる宿敵で、豊穣の忌み物の中では珍しい無形目の生命体であり、世外妖魔族に属する。其の起源の星はいまだに解明されていない。

其の生物学分類から分かるように、歳陽は固定形態を持たない純エネルギーからなる生物で、多くの文明の記録では「無形者」や「星火の精」と称されることが多い。歳陽は寄生を好むが、肉体(通常は汎人類の知的種族のこと)を司り、感情によって神経系に起こる各種変化を感受する。此の様な「様々な情欲を食する」行為によって、形を有しない歳陽は満足感を覚える。其れに寄生された宿主は衝動に駆られるまま刺激的な行為(暴飲暴食、肉欲、傷害、破壊…)をとることで、体内の歳陽を喜ばせる代わりに、其の莫大なエネルギーを提供してもらう。歳陽が宿主の心をなつかせる過程は、宿主の肉体を消耗させる過程でもある。

『仙舟通鑑』の記載によると、仙舟人が歳陽と初めて接触したのは、仙舟人がまだ長命種となる前の「孤航時代」に遡る。当時天外を漂流する九隻の仙舟は、様々な異様な生命体と接触したが、歳陽は其のひとつだった。屋根を通過した歳陽は、先祖の前まで来ると、自らを形も族類と称し、仙舟に居場所を乞いだ。変化無双な歳陽一族は、様々な幻像を作り出しては、人類を誘惑した。人々はこの奇妙なエネルギー共生物に熱狂し、共に戯れた。

しかし、間もなくして本性を暴きだした歳陽は、人類の肉体を占領し、喜怒哀楽を吸い取り、自由意志を左右しようとした。いわゆる「奪舎の禍」である。中でも最も被害が大きかったのは仙舟朱明。幸いにも仙舟の職人が無形の檻で其れらを捕まえ、未来永劫仙舟のためにエネルギーを提供するよう其れらに命令した。

豊穣の民との「火劫の戦」の終わりに近づいた頃、とある英雄が歳陽の封印を解き、其れと同盟を結び、穹桑の大軍を撃退した。この戦により、歳陽一族も重大な打撃を受け、その首脳は再び封印され仙舟各地の幽囚獄に収容された。わずか残党が逃げ出した可能性もなくはないが、星海には其れらと思わしき痕跡は二度と現れなかった。

*注:此処は少数の学者が擁護するいわゆる「帝弓神話」である。実はこの無名英雄が昇格して帝弓の司命となり、神と成った象徴として放った光矢が建木を切断したというが、まったく事実無根の説である。

生態

歳陽が姿を現す時、機器には高エネルギー電磁波反応が確認できる。
無形目生物である其れらは、「人類にとっての可視光線の周波数範囲を避け、形跡を隠すことができる。
しかし自らの存在を宿主に知らせる時には、緑青色の「火炎」(熱エネルギーを持たない)として姿を表す。「星火の精」と呼ばれる所以でもある。

すべての歳陽の個体は、人類が重い物体を押し進める時と同じように、一定空間内のエネルギーのバランスを変えたり、エネルギーの形を自由に変換することが可能。
エネルギーを弄って光学の映像を生成したり、燃焼や結氷、振動等の現象を引き起こすことが可能。
原始文明からすると鬼神のような能力を歳陽一族は有している。
姿を現す際の「火炎」の体積の大きさから、歳陽の個体の強さや、支配可能なエネルギーの量を判断することができる。

寄生する宿主の数が増えるにつれて、歳陽の個性も次第に成熟し、個体差が生まれるようにある。
十王司の記載によると、其れらは宿主の脳から学習するという。

科学技術

歳陽の科学技術における成果は皆無である。
其のエネルギーを操る性質は、精密テクノロジーとの一定の排斥を起こすためである。

政治

歳陽は豊穣の忌み物とされているが、「豊穣の民」の陣営に現れることは極めて少ない。
逆に、嘗ては仙舟と同盟を結んだことさえある(短期間のみ、詳細は上述参照)。

歳陽が制圧されて六千年以上経ったため、その組織形態についての考察は難しいが、わずかに残った記録によると、其の個体同士は「融合」によって、より大きな「火炎」を形成するという。

(ページ下部に小文字の添え書きが数行ある)

「仙舟朱明にこの妖怪が封印されてるって?」
「その通り。朱明の人は其れを『火皇』と呼んでいる。それより、工造司にも似たような牢屋があるじゃない?青鏃より」
「危険だね…」
「朱名の人は火遊びに夢中だからね…青鏃より」

忌み者の巻:造翼者

【大敵リスト・忌み物の巻・目次】

……
……
歩離人
造翼者
慧骃
視肉
歳陽
虺裔
……
……

【項目】造翼者

分類

霊長目・人科・有翅亜種

概要

造翼者は同盟の長きにわたる大敵であり、「豊穣の民」の主要な分岐である。
其の起源の星はいまだに解明されていない。
現時点で把握した情報によると、造翼者は「穹桑」と呼ばれる樹状を模した世界に棲息している。
造翼者とその軍隊は「穹桑」から伸びた「枝」を使って、他の世界に跳躍し、資源や民を略奪した。

造翼者の文化で、飛行能力を持たない陸上の知的生物はすべて『塵民』と呼ばれ、彼らは自分たちのことを『雲君』と呼ぶ。
他の知的種族を奴隷化し、自分たちのための生産、住処の修復に従事させた。

『仙舟通鑑』が収集した不完全な史料によると、仙舟人が初めて造翼者と接触したのは、仙舟が出航する前の「古国時代」に遡る。
「天外の海から到来した羽夷は数えきれない殺戮と蛮行を行った。
帝尊が軍を起こし戦った末それを撃退し、羽人方士および仙方をいくつか得た……」
関連記述には、仙舟艦隊が出航した理由が明かされている。
天外の海の神明に長寿を乞うため、尊名を消された帝王が我らの祖先を派遣した。

「火劫の戦」に至っては、仙舟艦隊は造翼者による2回目の侵攻を食らい、枝が垂れ下がり、羅浮は滅びる寸前となった。
帝弓の光矢が降臨して建木が切断されなかったら、きっと敗戦で終わったのだろう。

星歴5320年前後、玉殿太卜司は「穹桑」の衰滅を観測した。反物質レギオンはあっという間に造翼者の郷土を破滅した。
それ以降、宇宙を流浪するようになった造翼者の多くは、傭兵や星間海賊となった。

生態

人類を基準として造翼者の解剖学的特徴を見ると、鳥類に近い生理的特徴を持っている。
背部の筋肉が発達しており、1対(もしくは複数対)の翼、細長い脚、力を発揮しやすい足指の構造をしている。

飛行に長ける造翼者は、最高時速400キロで空を飛ぶことができる。
その骨格と筋肉には特殊な気泡空洞構造があり、迅速な空気交換によって、高速急降下と驚異的な突撃が可能となった。
同時に、その構造は造翼者に(短時間での空気交換は欠かせないものの)真空空間での飛行と行動を可能にした。

雲騎軍が造翼者と戦闘する際の注意点は以下の二つである。遠距離時は射撃に気を付けること。
近距離時は相手の飛行機動性を封じ、自身の長所である体重と体力を活用すること。

科学技術

造翼者が星間戦争で露呈した科学技術から、彼らの文明は大きな衰退を経験したことが推測できる。

彼らは空間跳躍できる「枝」を掌握している一方で、エネルギー供給と武器製造は略奪もしくは他の豊穣の民との貿易に依存している。
三度の豊穣戦争にわたり、彼らはずっと歩離人の武器と鎧を身に着けていた。

政治

造翼者は厳格な社会的階級に従って、「穹桑」での位置が決まる。

頂端の高い枝に鎮座するのは天青石聖の巣の主ーー
造翼者の羽皇。伝承によると、彼(もしくは彼女)は「豊穣」の使者であり、穹桑の成長と繁盛を導くことと、すべての羽民を育むことを役目としている。
その統治下には次のような階級がある。衛天種(戦士)、啼頌種(学者と書記)、「孵育種」(従者)、銜枝種(労働者)。
穹桑の五大階級よりも下は、地位が最も低い「塵民」ーー
異世界から来たりし、飛行能力を持たない知的生物である。

「穹桑」が壊滅したことで、造翼者の政治制度の詳細は遡れなくなった。
カンパニーの情報によると、星海に流浪するすべての羽民は、とある造翼者の傭兵団の構成員である。

(ページ下部に小文字の添え書きが数行ある)

「穹桑と建木の関係は……?」
「両者が関係あることを証明できる確実な証拠はないが、玉殿太卜司の推測によると、穹桑に似た世界はほかにもあるそうよ。青鏃より」
「造翼者の『孔雀天使』軍団に再び動きあり、情報更新待ち。青鏃より」

大毫の日記

長楽天にある地衡司官衙執行官の大毫の日記。彼の長い人生が記録してある。

その1

10月32日

朝、目が覚めても私は動かなかった。私が今日一日仕事を休んだら、官衙はどうなるだろうと想像する。

どうもしないだろうことは分かっていた。誰が仙舟から消えても航海は続き、帝弓の矢のように、必ず行くべき場所に飛ぶだろう。

最近は、署内のくだらない仕事の処理に堪えられなくなってきた。一つの仕事を引き継ぐたび、その仕事に関わる上下部門の人間に心の中で悪態を付きながら仕事をしている。部下への引き継ぎなど不可能だ。若者は自由すぎて自分のやりたいことしかやらず、出張で他の世界を巡ることばかりに憧れ、目の前の細かい仕事には目もくれない。

地衡司の仕事に意味などない。私が引き継いで以来122年、それらは脈絡なく繰り返され、そしてこれからも繰り返されていくのだ。

仕事などしたくない。私は犬になりたい。地衡司の官衙前に腹ばいになって、空の偽の太陽でひなたぼっこし、行き交う人の群れを眺めながら彼らの行動を推測し、旅行者が餅を投げてくれたら、喜んで尻尾を振る。

残念ながら、仙舟には働かない犬はいない。あの諦聴さえ私よりよほどガッツがあるだろう。

11月2日

短命種の「老化」の最初の兆候は、過去を懐かしみ始めることだと言う。仙舟人も同じだ。私たちの体は年を取らないが、心はとっくに空っぽで、過去の出来事に捕らわれている。

私は戦場に戻った夢を見た。私と雲騎軍の兄弟たちは雷弩を手にし、背後には自動索敵攻撃型の剣が従っていた。私たちは天戈星に戻り、巨人の腕に戻り、タラサの島に戻り、さまざまな豊穣の忌み物たちと戦った。

私は人型ではない獣に包囲される夢を見た。剣は回りを旋回し、切り裂いた後で砕けた。相手の体液が私の顔にかかったが、私はまさかそれが温かく、赤いとは思わなかった。

夢の世界は真っ赤に染まっていた。ケイ化キチン質の外殻を持つ巨獣たちが咆哮を上げ、近寄るすべての部隊をすり潰してミンチにした。忌み物たちが皮膜のような翼を羽ばたかせ、風が顔に痛かった。

もう一度兄弟たちの様子を見ようとしたが、周りには誰もいなかった。下を見ると、地面に悔しそうな顔があった。硬直した表情は、生前に叶わなかった願いを叫んでいた。どの目玉も、埃に埋もれたすり減ったガラス玉のように、必死に空を睨んでいた。

長命種……そんなジョークに思わず大笑いしたところで目が覚めた。

まるで巨獣の口から抜いた直後のように、右腕の切断箇所が熱かった。私は肘の関節を回した。たとえそれが元に戻ったとしても、私はあの世界のすべてを噛み砕きそうな痛みを忘れないだろう。300年が過ぎても、その痛みはまだ癒えなかった。

その2

11月10日

統計によれば、退役雲騎が最も魔陰の身に陥りやすい集団だという。私は幸運にも第3次豊穣戦争を上手く乗り越え、今まで生き延び、年金までもらって、地衡司で豆粒ほどの仕事をしてつまらない日々を生きている。大きな過失さえなければ、次の琥珀紀までこの飯を食えるだろう、恐らくは。

官衙のガキどもは、私が普段から大雑把で、重大な事態にも動じないのを見て、「不死身の大毫」とあだ名して笑っている。さらには私がいつ「十王司」に連れていかれるのかを賭けの対象にまでしている。

長命種であろうと短命種であろうと、若者は「人生が終わる」ことに対して、クソほど何の考えも持っていない。「十王司」の冥差が目の前に現れた時、このガキどもはどんな顔をするのだろう。残念ながら、私の方がこいつらより先に行くのだが。

十王司……すべての仙舟人が最終的に十王司に迎えられることは知っているが、それがどうやって行われるのかは分からないままだ。

羅浮の都市伝説によれば、十王司は生死簿を見て人を冥府に連れて行き、今生における善悪の罪を数えるという。その判官と凡人は生きる世界が異なり、正面からぶつかっても分からないという……

話は最もだが、よく考えると疑問も多い:

仙舟の冥府とはどこだ?
彼らはなぜ、対象に魔陰の身が迫っていることが分かる?
彼らはどうやって対象の人生の些細な出来事、小さな徳や罪を統計し、学舎の先生がテストを採点するように、その人生に上中下の評価を下す?

はは、結局のところ伝説は伝説、すべては子供だましだ!

11月12日

だが、私は本当に十王司の冥差の姿を見たことがある。それも一度だけではない。

最初は地衡司の勤務を引き継いだばかりの頃、私は提灯を持った小さな子供たちが、閑雲天の街を歩いているのを見た。その時、洞天は夜で、月と星の光も消されていた。家々の戸窓は閉ざされ、人影も皆無だった。ただその子供たちだけが、深い暗闇から生まれたかのように音もなく歩き、その周りに小さな明かりがいくつか浮いていた。彼らの後をついて行く人物を私はよく知っていた。私の父だった。

私の父は646歳の時、突然おかしな事を言い出した。なぜ机にご飯をひっくり返したのか、なぜ彼の服を燃やしたのか、なぜ彼の玉兆をボール代わりに持っていったのか……それらは恐らく、私が10代の頃にしたやんちゃの数々だったが、今の私の記憶には残っていない。それから数日後、彼は食事をやめ、人にも応じず、ただ死体のように座っていた。誰も掃除をしていない壁の隅にできた蜘蛛の巣のように、ほこりが積もって生気の欠片もなかった。

私は彼に五衰の兆候が現れ、魔陰の身に堕ちかけていることに気づき、規則を延ばして丹鼎司の医師に診せ、まだ回復の可能性があるかどうかを確かめた。医者は何種類かの薬を処方した後、私の顔を見つめ、準備が必要だと言った。

「何の準備だ?」私は医者に聞いた。医師は慣れた顔で「準備が済み次第、お父上には迎えが参るでしょう」と言った。

私はその時、父に大限が来たことを理解した。仙舟の誰にでもその日が来ることは分かっていが、それが父の身に起こるとは、あまりに急すぎた。

私はテーブルの処方箋を手に取り、まるで師匠が弟子の仕事を確認するように眺め回した。すると、医者は突然手を伸ばして処方箋の端をつかみ、回収しようとした。彼女の意図は分かっていた。魔陰に入った者に、医者や薬は無用であると。しかし、私はその処方箋を放さず、口の中でつぶやいたのを覚えている。「この処方で、もう一度、もう一度だけ」彼女は私の頑なな態度を見て、手を引っ込めて注射薬を置いていった。

その後、あの子供たちと共に私の目の前を通り過ぎるまで、父は私と一言も会話をしなかったと記憶している。気のせいか、父は若くなったように思えた。仙舟人が若くなったと言うのもおかしな話だ。私たちは大人になれば、もう顔が変わることはない――ただし、その表情は変わるだろう。父の足取りは軽やかで、表情には安堵したような気楽さがあり、ほこりで埋もれていたシワも伸びたようだった。

私は口を大きく開けて父を呼ぼうとしたが、その言葉は喉に詰まって出てこなかった。すると、父が先に「達者でな」と軽い調子で言った。はっきりした声だった。私は彼の病気が治り、魔陰の身からなんとか戻れたのではないかと疑った。だが、それが自分の勝手な考えに過ぎないことは分かっていた。二人の子供がそばの提灯を吹くと、一瞬で辺りは暗闇に包まれ、父とその子供たちは最初からそこにいなかったかのように消えた。

私は夜勤の仕事も忘れ、闇の中に一人で突っ立っていた。半日後、私は突然医者の処方箋のことを思い出した。私はそれをずっと懐に入れていたはずだが、触ってみるとそれはそこにはなかった。

帝弓垂迹録

太卜司が「巡狩」の降臨を観測した記録を冊子に整理したものが、この『帝弓垂迹録』となった。

……
……

【観測記録 星暦7900年】

同年第33回目の瞰雲鏡による全域スキャンにより、帝弓の霊験を観測した。その痕跡は失魂星域の3つの座標を指し示した。ジャダール変星、墨青の悪夢、白骨の指だ。

太卜が窮観の陣で占うと、その星域に寿禍が存在すると出た。卜占の結果を仙舟玉殿に報告すると、それは的中していた。

調査の結果、歩離人の蒼牙猟群がその星域で大略奪を行い、その内の一つの世界を武器牧場にしようと企てていることが判明した。そこで雲騎艦隊「垂虹衛」が劫罰を執行し、大勝して帰還した。

……
……

【観測記録 星暦7954年】

同年第6回目の瞰雲鏡による全域スキャンにより、帝弓の光矢の痕跡が観測された。予測される光矢の座標はレーヴァテイン-XVIだ。

雲騎艦隊「春霆衛」が座標に到着すると、その星はすでに破壊されて生存者はなく、「死滅世界」に分類されて星図航路から削除された。

羅浮工造司は、星の残骸から光矢の残り火を採取することに成功した。羅浮丹鼎司は生物サンプルの一部を抽出し、住民が感染した寿禍の特徴を解析する。

……
……

【観測記録 星暦8072年】

曜青、方壺の烽火信号により、豊穣連合軍が再形成され、遊星「計都蜃楼」が蘇って活性化し、方壺に迫っているという警告が届く。羅浮雲騎軍は「垂虹衛」、「春霆衛」、「畢方衛」、「欃槍衛」を援軍に送りこれを迎撃した。

この戦いは激烈を極め、何度も敗北しかけたが、幸いにも帝弓の神矢が難敵を一掃した。この役で、仙舟羅浮は合計で闘艦6万3000隻余り、飛行士12万人余りを失った。仙舟方壺は5分の1近くの洞天が光矢の爆撃を受けて破壊された。

(この記録項目の下に、ある閲覧者が加えた小さな注がある)

「帝弓は未だかつて凡人に口を開くことなし…ただ光矢をもってその旨を宣す」

……
……

占いの報告

かつてとある卜者が羅浮が災難に見舞われると予見したが、残念なことにこの報告は重視されなかった。

【3月12日 占卜結果報告】

慣例に従い、羅浮の航路を主眼として、10日以内の未来を占う。計算中、窮観の陣の基符が乱れ、卦成り難し。これは30年ぶりの現象である。

最終的に卦は艮と坎の間を揺れ動き、その勢は大凶である。他にも計算結果あり。以下添付ファイルを参照されたし。

【窮観の陣の計算結果】<<<

過去の八卦の例に基づき、以下の対策を提案する。

一、神策府に手紙を送って景元将軍に報告し、雲騎艦隊の巡回数を増やして敵襲を未然に防ぐ。

二、天舶司に手紙を送り、関所および物資の出入りを厳重に調査し、災いの種を取り除く。

三、工造司に手紙を送り、穹儀やエンジン等の仙舟の中枢施設を点検修理し、不測の事態を防ぐ。

四、太卜司が瞰雲鏡で可視星域を再スキャンし、ブラックホールやその他危険な天体が航路上に存在しないか確認する。

勤務卜者 若月

【検証および返信】

「関連情報は何の参考にもなりません。推演時に余分な諸元が混入したことが疑われます。採用しません。卜官明閲より返信」

「三司への報告については、採用されたら大変な手間がかかる。たった一つの凶卦で軽はずみに行うもんじゃない。再照合、再検討を勧める。卜官絵星より返信」

「若月、世間の詐欺師まがいの術士が、自分の顧客に未来が見えると語る時、どんな言い方をするか知っているね?『近々、あなたに大きな災いが降りかかる』だ。だが、具体的に聞かれると『天機は漏らさず』だ。君のこの報告と、あの詐欺師たちの言い分に何の違いがある?卜官静斎 返信」

「太卜司の報告では、時間、原因、吉凶を明確に指摘しなきゃいけないことは分かっている。でも、本当に再現できないんだ!この結果は突然現れたのだ。窮観の陣自身がまるで命を持ったかのように……卜者若月より以上」

【結論:不採用】

『覗密集』

符玄が仕事の暇な時に書いた原稿。占いの道、算法それから様々な占いに関する逸事が書かれている。

稽神篇・総論

……
……

占いの道に求められるのは「鑑往知来」の四文字である。人間の運命の歩み、星の空の動き、その勢を見れば未来が分かる。これらのすべては現在(あるいは過去、現在は常に過去になり続けるため)の「諸元」が、卜者に掌握されることで可能となる。

だが、太卜司制度を創設した玄曜様はかつて言った。「天と神を占ってはならない」。彼女にすれば、宇宙とその育んだ星神は占うことのできないものなのだろう。

理由は簡単で、同時にすべての観測角度に立って未来を計算することはできないからだ。「全知」とは到達不可能の境地なのだ。宇宙はもちろん「星神」と呼ばれる存在も、その諸元は膨大かつ極めて巨大である。神々の未来は宇宙と同様、我々の限界を超えた演算の外にある。

天体の目から見れば、星神は決して無生物ではなく、超越的な知性を持つ生物である。しかし生物の目から見れば、星神は天体のように星空を占め、巨大にして孤独で、己の道を行き、我ら凡物と交わることはめったにない。

観測記録によると、玄曜様は現在観測されている星神を3つに分類した:

司命:凡人の生死を予兆し、文明の盛衰に関わる。
天君:その善悪恩威を測るのは難しく、往々にして所在も不明。
禍祖:万禍の元凶。避けなければ、必ず滅びの大難を招く。

現在知られている諸星神は以下の通り:

【帝弓司命、嵐】
【補天司命、クリフォト】
……
【遍知天君、ヌース】
【遊雲天君、アキヴィリ】
【常楽天君、アッハ】
【妙見天君、イドリラ】
……
【寿瘟禍祖、薬師】
【燼滅禍祖、ナヌーク】
【螟蝗禍祖、タイズルス】

……
……

稽神篇・司命

……
……

【帝弓司命】

「巡狩」の運命の主。我らが「嵐」と呼ぶ天弓の神。

神が凡人の前に現れることは滅多にない。その出没の兆候は、星空を渡る光矢と航跡のみだ。帝弓は疲れを知ることなく「豊穣」の薬師が生んだ不死の忌み物を巡狩する。

帝弓司命の最初の降臨は星暦3400年前後で、傾天の光矢が天から降り、豊穣の奇跡「建木」を切り倒した。それ以降、仙舟人は混乱、狂気、衰退から復興することができ、同盟はここから始まった。

今日まで、太卜司の卜者の大きな使命は、帝弓の神矢の啓示を監視し、意味を判読することにある。

【補天司命】

「存護」の運命の主。琥珀王。スターピースカンパニーが「クリフォト」と呼ぶ天垣の神。

すべての観測記録から言えば、琥珀王はその構築した天体級の建造物――亜空の晶壁によって諸界を区切り、保護することで、世界間の往来を隔絶しようとしてきた。星暦1000年前後の記録によると、最初の9隻の仙舟巨艦は故郷を離れた後、長く苦しい旅を経て、世界と果てしない虚空を隔てる壁、エキドナ天垣を目撃した。

だが、その隔絶という行為に反して、琥珀王を奉じる主要派閥「スターピースカンパニー」は、星海間の文明の交流と融合を推進し、宇宙最大の星間航行艦隊を所有している。クリフォトは沈黙の巨人のように彼らの貿易、移動を放任し、挙句はスターピースカンパニー内に「存護」の使令まで出現した。このような神に背く行為が何の咎めも受けていないのは、中々に興味深い。

……
……

稽神篇・天君

……
……

【遍知天君】

「知恵」の運命の主。天才クラブ、博識学会が「ヌース」と呼ぶ知識の神。

ヌースの意図、座標、平時の姿は誰にも分からない。人々の噂によると、偉大な思考機械が星神に昇格し、宇宙の本質と最終解答の演算を開始したのだという。その答えが公表される前、その神は知的生命体の中で最も偉大な頭脳を集め、共にその真理を議論するのだという。

私自身は幸運にもヌースの神体に拝謁したことがあり、この神の存在についてもう少し説明する資格があるかもしれない。

一般的な認識とは裏腹に、ヌースは「答え」を与える神ではない。逆に、この神が与えるのは数え切れない問題だけだ。多くの人間はその一生を無知蒙昧の霧の中でさまよい、知識を求めてもその門に入れず、「前因」に縛られ「知見」には至れない。ヌースに謁見することは、この愚昧なる人間に「目」を開かせ、問題の所在を知らしめることなのである。

太卜司に意欲ある求学者あれば、博識学会のある苦学者を真似ていわゆる「開眼の路」に足を踏み入れ、もし縁があれば、必ずヌースに問いかける幸運を得るだろう。

【遊雲天君】

「開拓」の運命の主。ナナシビトが「アキヴィリ」と呼ぶ漫游の神。

遊雲天君については、ほぼ検証不能の伝説しか残っていない。仙舟人にとって「伝説」という2文字は、古くからの不思議な時間を意味する。琥珀紀の最初の紀元、アキヴィリは銀河各地の未開の世界を駆け回った。正にこの神とナナシビトの存在により、銀河の暗黒に散らばる孤立した世界はお互いを知ることができたのである。

遊雲天君の最も重要な奇跡は「虹車」と「星軌」を創造したことだ。伝説によると、虹車は星軌を敷設するための宝器であり、星軌は遥か遠方にある諸界を、何らかの神秘的な方法で一つに結ぶことができるという。カンパニーでも仙舟でも、現在我々が頼りにしている安全な航路は、すべてこの軌道の遺跡に沿って走っている。アキヴィリの死がなければ、今の諸界の往来がどれだけ便利になっていたものであろう。

玉闕仙舟が入手した最新情報によると、消失から千年が経った遊雲天君の虹車が、再び星海に現れたという。忌み物が暴れ、燼滅の軍団が生ける者を苦しめる……多事多難の時に、このナナシビトたちは銀河に何をもたらすのだろうか。当方には想像できない。

【常楽天君】

「愉悦」の運命の主。仮面の愚者と弔伶人が「アッハ」と呼ぶ欺きの神。

もし星神の在り方を「神性」と「凡性」の尺度で測らねばならないとしたら、アッハはかなり「凡性」側に近い星神で間違いない。この神は知的生命体の悲喜愛憎をかき乱し、運命の転覆と反転を促す――その信者たちによれば、神自身もそれを楽しんでおり、時には人の形で現れ、波瀾を助長するという。

しかし、もしこの常楽天君を神々の中の道化だと思う者がいたら、それは大きな間違いだ。確かにこの神は帝弓司命や補天司命のように全宇宙を驚かす奇跡を残すことはできない。しかし、この神は目に見えない手段で、知らぬ間に衆生の行方を左右し、現実に対して非常に巧みな操作を行う。

例えば皇帝ルパートによる星海征服の時代、その神の信者たちは「哲学者連合」が無機生命体の領土に成り果てた後、その地で再び反乱を起こした。そして「哲人の酖酒」というユーモラスな自己矛盾型ウイルスで征服者たちの演算中枢を侵蝕し、機械軍団による暴政を倒した。

似たような奇跡はどこにでもあり、取るに足らない小さなさざ波が、最後は山を揺るがす大津波になる――それがアッハの行動スタイルだ。

【妙見天君】

「純美」の運命の主。純美の騎士団とミラーホルダーが「イドリラ」と呼ぶ美を司る神。ある国の知的生命体からは「オン・ドレイ」と呼ばれている

これまでのところ、純美の騎士団は四分五裂し、ミラーホルダーは神の聖遺物を探して諸界をさまよってきた。これらはすべて、その神が既に死んだことを証明するに十分である。しかし、当方と博識学会が交換した書簡には次のような記述がある。「妙見天君の遺物をすべて揃えることができれば、その絶美たる姿を再現できる」

さらに古い時代の神話では、イドリラは数多の星域の「美」を一つにまとめ、英雄、悪党、そして凡人たちに宇宙の姿に隠された意味と美学を示し、彼らを自分を喜ばせるための驚くべき(しかし往々にして壊滅的な)偉業の歓声へ駆り立てたという。この神話は、「純美」の運命の意義が「意識、見解と価値の統合」にあることを表しているのかもしれない。

……
……

稽神篇・禍祖

……
……

【寿瘟禍祖】

「豊穣」の運命の主。我らの大敵、豊穣の民と仙舟同盟が「薬師」と呼ぶ生命の神。

言うまでもなく、かの神が羅浮に現れ「建木」を残したという神話については、卜者諸君はすでに学舎の在籍中や雲騎軍の従軍中、または個人の読書時間に読んでいるだろう。ゆえに、本書ではそのために多くの紙面を割くことはしない。

改めて諸君に申し上げるが、「寿瘟禍祖」本体を主眼として、その未来を占ういかなる行為も、決して許されぬ重罪である。

これはよくある話だが、卜占の道を学び始めて最初の100年間は、卜者はとかく知識を極めたという思い上がりから、自分が運命を支配し天地神明に通じる力を得たと思い込み、禁令を無視して星神を占い、聖遺物の秘密を入手しようと目論むものである。他の星神ならば、それも見て見ぬふりをしないでもないが、薬師に対しては十王司は明確に禁令を発布している。違反者は「許されざる大罪」を犯したと見なされ、厳罰に処される――むろん、それまで生きていられればの話だが。

「寿瘟禍祖」は仙舟人が長命種に転じた原因である。そのため、我らと薬師の間には決して断ち切れない距離を超えた作用が存在している。この物理学では説明できないつながりこそが、「魔陰の身」が生まれた原因の一つかもしれない。占いにより薬師をのぞき見ようとするいかなる試みも、この作用によりその反動を受ける。同様の行為はすべて悲惨な結果を招いた。これらの記録は太卜司の書庫の「違反者」の欄に保存されているので、卜者諸君は熟読されたい。

【燼滅禍祖】

「壊滅」の運命の主。反物質レギオンとアナイアレイトギャングが「ナヌーク」と呼ぶ破壊の神。

最後になるが、ナヌークとその手先こそが銀河の諸悪の筆頭だと言えるだろう。「寿瘟禍祖」が生命を癒すことで変異と壊滅的結果を招いたのに比べて、燼滅禍祖はより直接的に混乱をもたらした。その神と配下の使令たちは、反物質レギオン率いて文明の存在するすべての世界を侵略し、灰燼へと変えた。

いくら同盟が帝弓の啓示によって「豊穣」を追跡し、暴走する忌み物を狩ろうとも、同盟と燼滅軍団の大小の戦闘記録はすでに万を超えた。斥候からの情報では、仙舟と文明交流を築いた星々が近年急速に失われ始めているという。すべてが憂慮すべき状況である。近い未来、同盟が直面する大敵は、忌み物だけではなくなるかもしれない。

【螟蝗禍祖】

「繁殖」の運命の主。カンパニーとその被害を受けた世界が「タイズルス」と呼ぶ增殖の神。いくつかの世界では、「蟲の王」とも呼ばれる。

蟲の王が死して久しいが、その神が宇宙にもたらした恐怖は皇帝ルパートに勝るとも劣らない。仙舟が到着した多くの世界の中で、丹鼎司は特殊な生物汚染サンプルを採取した。それは「繁殖因子」と呼ばれるスウォームの変異遺伝子である。博識学会のある武装考古学士は、螟蝗禍祖の蟲の巣と化した星々はすでに修復不可能な恐怖の地獄であり、最終的には惑星破壊兵器で永遠に後患を絶つしかないとする多くの証拠を提示した。

彼の説によると、その恐怖は未だ消えておらず、虫皇の遺児は今も存在し、神自身もいつ復活するか分からないという。その学士から彼のコレクションを見せられたことがある。暗い黄色の琥珀の結晶の中で、私は開閉する斑点や蠢動する筋組織を見た。それが「蟲の王の檻」の一部だと告げられた時、私は驚愕した。額の法眼ではこの物体の未来を予見できないことが、学士の説を側面から裏付けていた。私はそんな日が来ることがないように、帝弓に祈るしかなかった。

……
……

黄鐘システム共鳴記録

同盟の各仙舟は、黄鐘システムを通して相互に現状を報告する。これは仙舟「羅浮」の星暦8098年の黄鐘システムの共鳴記録である。

星暦8098年4月
仙舟「方壺」より伝信:現在、トラルテクトリ星団ランナディ恒星系に停泊中。この恒星系にはいかなる地球型惑星も存在せず、初級の生態系を備えた惑星が一つあるのみである。方壺は、この恒星系は隠密性が高く、付近の数光年以内に生態圏が存在しないことから、豊穣の民や軍団の襲撃を回避できると判断。
特殊な状況がなければ、方壺はここに少なくとも10星暦年は停泊する予定だ。

夕葵の備考:方壺は第3次豊穣戦争以降、自己防衛政策に専念し、休養を続けてきました。それ自体は否定しきれませんが、方壺の自己防衛政策は、彼らと他の仙舟との正常な交流と貿易をほぼ断絶させました…羅浮の立場から言えば、それが良いことだとは思いません。
司舵の備考:方壺の龍尊は方壺の民衆と社会に対する責任を負っている。前の戦争で、彼らはあまりに多くを失った。持明にとって、人口の損失はすなわち永久的な損失だ。もう少し休ませてやるべきだろう。彼らは現在、いかなるリスクも冒せないのだ。

星暦8098年5月
仙舟「曜青」より報告:ファロモモにて忌み物を征伐し、大勝す。

星暦8098年6月
仙舟「曜青」より報告:テセウス-VIIIにて忌み物を征伐し、大勝す。

星暦8098年7月
仙舟「玉殿」より報告:現在、古代航路に沿って前進し、探査を続行中。監察報告は別途送信する。

夕葵の備考:玉殿の監察報告を受け取り、司舵に提出しました。
司舵の備考:受け取った、ご苦労。

星暦8098年10月
仙舟「曜青」より報告:サキンシャドの忌み物を征伐し、初戦では不利。後にカンパニーの協力を得て、大勝す。

司舵の備考:曜青の天舶司に伝信:適宜休養を取られたし。
夕葵の備考:了解、送信しました。

星暦8098年10月
仙舟「虚陵」より報告:すべて正常。

夕葵の備考:今まで虚陵がどこにいるのか知りませんでした……
司舵の備考:それが普通だ。私も知らなかった。

星暦8098年11月
仙舟「曜青」より報告:現在コルサランド星団サキンシャド恒星系サキンシャドに停泊中。現在、カンパニーと現地の鉱山を共同開発し、休養中。すべてが安定している。御空お姉様、心配してくれてありがとう。

司舵の備考:曜青の天舶司に伝信:黄鐘システムの中では厳正な発言を求める。
夕葵の備考:了解、送信しました。

星暦8098年11月
仙舟「朱明」より報告:現在レヴァラドゥリ星団ステラ・ヤマザキ恒星系に停泊中。この恒星系はクリムト立憲国の領域内にある。朱明はここで10星暦年の技術交流を行う予定である。
朱明は先進的な製錬技術と引き換えに、この地の極めて豊富な鉱物資源を手に入れることを期待している。

星暦8098年12月
仙舟「曜青」より報告:アトモデスにて忌み物を征伐し、大勝す。

夕葵の備考:彼らに何かメッセージを送りますか?
司舵の備考:いや、彼らに任せよう。

上国夢華録(残編)

ある歴史学者の、神降時代に対する追憶。

私たちは常々審判者の視点から、三劫以前の歴史を振り返る。

それは歳月の帷幔が私たちの前に垂れ落ち、過去を霧の中に包み込んだからだ。たとえ最も年長なものでもそれを見通せない。

故に、私たちは四千年前の人々をこのように評価する:人理を以て仙道に触れ、凡躯で神跡を受け、終ぞ業力の反噬に遭った。

しかし、その帷幔を掻き分け、己の双眸で見つめるんだ。過去は真に不堪なものだったのか?

建木萌芽、仙道盛隆。人は無尽形寿を以て世界を探索し、天人之尊を以て自身を照らした。仙舟艦隊が天際を横行する様は、正に万類の至聖者であった。

仙丹を煉制し、息壌を調合し、自在応身を以て無尽なる仙道を求め索した。此の時、此の刻こそが無尽なる果てに綿延する永恒。

肉身の不朽は霊魂の解放を促し、千百億の自由の魂が仙舟の名義で、長生の意志を星海の間に響かせた。

私たちは野獣を啓蒙し、毛物に人の言葉を通じさせ。金石を点化し、玉兆を使い万古の事を推演する。

建木萌芽、仙道盛隆。万民が其の豊穣を享受することに、何の罪が有る?古国の王朝は断絶し、新生の仙舟艦隊が無尽なる光華を載せて自由、永恒、そして慈悲に向かって進む。そして彼の時、帝弓の垂迹が顕現しようと、何故に我らの航路を阻断せしむ?

夢から醒め、私は目を開ける。往昔と変わらず、建木がそこに立っていた。そして瞬きすると、消えた。

其は必ずや再来し、仙舟をあるべき方向に正すだろう。

仙舟「羅浮」情報手記

丹恒が整理した仙舟「羅浮」に関する情報。

開拓者へ、

仙舟同盟は長きにわたって星海を航海する艦隊で、6隻の巨大な世界艦から構成されている。お前たちがこれから向かう「羅浮」という仙舟は、その同盟のひとつである。ほかの五隻はそれぞれ「曜青」、「方壺」、「虚陵」、「玉殿」および「朱明」であり、各々素晴らしい景色を誇る。

ほかの仙舟に関する情報はお前たちにあまり役立つものではないため、ここでは割愛し、「羅浮」についてのみ記述する。

羅浮に着いたら、覚えておくべきことはただ一つ。

絶対に「長命」への渇望や「豊穣」へのあこがれを表に出さないこと。それに近い思いがあるかないかに関係なく、である。

お前たちもアーカイブで関連資料を読んだはずだ。仙舟の住民の容姿は一般人とほぼ変わらないとはいえ、その本質は千年以上も生き延びる長命種。短命種が長寿の秘密を探ることを同盟は警戒しており、仙舟雲騎軍は「豊穣」が生み出した不死の忌み物を狩り続けている。

他の事については、羅浮に到着してから自ずと分かってくるだろう。無事帰って来られることを祈っている。

丹枢の日記

丹鼎司丹士長‐丹枢の日記。この盲目の丹士が運命に抗い続けた日々が記録されている。

その1

……

帝弓の司命よ、私の話に耳を傾いてくださいませ。

あなた様にお話ししたいとことを日記に綴ることを、雨菲に子供っぽいと笑われていましたが、これは私の小さい頃から習慣であり、またあなた様に必ず届くと信じています。

あなた様は見たいことを何でも見ることができます。私のような人間は、生まれるべきではなかったにもかかわらず、今こうやって豊かな暮らしをさせていただいています。それに雨菲のような仲間にも出会えて、あなた様の恩恵には感謝してやみません。

ですから、最近私のやっていることがあなた様の権威に触れることがなきことを祈ります…あなた様に庇護いただいている仙舟の世への不満があるわけではありません。私はただこの世の本当の姿と色を見たいだけです。

学舎に通っていた頃、目が見えないがために他の子たちにいじめられるたのは、帝弓の司命が与えてくださった試練だと信じていました。その後学宮に入り、学業についていくために一般人より多くの努力を払わなければなりませんでしたが、その時も私は同じ信念を抱いていました。 

私の努力に報いてくださるかのように、あなた様は私を雨菲に出会わせてくださった。7歳の時、雨菲は私をいじめていた悪童を追い払い、それから私たちは無二の友達となりました。

雨菲は私をいじめから救い出し、勉強を助けてくれた。休みの日には、生態洞天の山河に連れていってくれたり、美しい景色を言葉で再現してくれました。彼女の美しい声は、清涼な水のように指の先を流れるものでした。

本来ならば、私は今の生活に何ら不満もないはずです。

しかし…人間は視覚を持つ動物であり、光と影、色彩により世の中の物事を識別する生き物です。雨菲が聞かせてくれた「森の尽き当たり、夕日に赤く染まった空が一気に燃え上がるかのよう」な景色はいったいどんな景色かな…私は雨菲の顔さえも見たことがない。いくら触ったり想像したりしても、結局完全な絵を組み立てることは難しいのです。

ですから、雨菲の力を借りて、私は自分のために光を取り戻す方法を探すと決めました。

帝弓の祝福を承り、私は丹鼎司で最も優秀な丹士となり、雨菲は丹鼎司で最も優秀な医者となりました。もしかしたら私たちの手により、天欠者を永遠の苦しみから救う方法を見つけ出せるかもしれない……

……

この数日、雨菲といろいろな方法を試しましたが、あまりうまくいきません。

まず、侵入方式により義眼を作ってみました。私の機巧腕も実はこの技術で取り付けたもので、いまのところ正常な腕と大差なく動いています。

理論上は、非侵入方式によって視覚障害を持つ天欠者を助けることは可能です。しかし、私のような視神経の発達不全による天欠者にとっては、「非侵入式」は実現が難しいのです。

次に、「胡蝶の幻境」の原理を用いて物を視る方法です。胡蝶の幻境の本質は、狐族の情報の素を使って幻覚を制御することです。その原理を用いて「眼」という光学受信器を通さずに、画像を直接脳へ送信できるのではないか、という考え方です。

結論からすると、確かに可能ではあります。しかしそれらのメッセージは私の脳の中で意味をなす「図形」を形成することができませんでした。つまり、初めて色や形を「視る」ことはできたものの、どれが「赤色」なのか、どれが「丸型」なのか、分別できなかったのです。

恐らく、胡蝶の幻境は体験者の感覚器官によって映像を形成するからでしょう。体験したことのない感覚器官に対しては、狐族の情報の素があってもなす術がないのです。

あんなにたくさんの「色」を見ても、まったく懐かしいと思わないのは、なんとも不思議なことですね。

最後に、他の感覚器官によって「代理感覚」を誘発する方法です。これは雨菲のアイデアで、「非侵入式の義眼」の延長線上の方法です――視覚信号から聴覚、触覚、味覚、臭覚等の信号に変換し、それらの感覚器官で新たな「視覚」を作り出すのです。

私たちはプロトタイプを製作しましたが、一番の難題は軽量化でした。それらのセンサーを合わせると、私の体の3倍にも匹敵する大きさで、それを背負って歩くことさえ困難でした。ましてやテストはもっと無理でした。

それでも、私たちはいろいろなテストを行いました。結論からすると、この機器は短命種により適していると言えます。短命種の脳はより可塑性に優れているため、「代理感覚器官」から共感覚――ひとつの感覚から次の感覚が触発されやすいのです。彼らは長期間この設備を使用すれば、色や形や距離等を「味わい」、「聞き分け」、「嗅ぐ」ことができるようになります。

しかし、脳の可塑性が弱い長命種(私含む)にとって、これらの感覚器官から新たな統一した感覚を作り出すことはできません。今の私は辛い味から、テストの積木が青色だとわかりますし、ひんやりとした気配から、円錐型だというのがわかります。しかし、それらを本当に「視る」ことはできないし、「青色」が一体何なのかも分かりません。

この機器は短命種により適していると言いましたが、そもそも短命種は侵入式の補装具でほとんどの障害を補うことができますから、こんな複雑な設備など必要ないのです。

こういったテストのために雨菲と私は大量の時間とエネルギーを費やしましたが、結局何も得るものはありませんでした。テストが将来の学者たちの参考になるかどうかも、疑問です。

情けなさ、無力感、雨菲に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

……

博識学会のイーガン博士と交流した時、変わった解決方法を提案されました。イーガン博士はそれを「取消主義療法」と名付けました。

「取消主義」は古くから伝わる哲学思想の一つで、人の感情はすべてホルモンと電気信号から起因すると考えられています。天欠者の苦痛の根源をなくすことができないなら、その苦痛自体をなくせばよい、というのがイーガン博士の主張です。

投薬ポンプを通して、特定時間に特定の薬を体内に注入すると、自分の身体の欠陥を気にしなくなります。私もこの世界を「視たいと思わない」でしょうし、今の自分の身体に何も不満を感じることもなくなる仕組みです。

少し変わった方法ではありますが、有効な方法かもしれません。

残念ながら、テストの結果、この方法も長命種には使えないことが分かりました。

長命種の体内のホルモンは高度のバランスが保たれていて、外力でそれを乱そうものなら強烈な拒絶反応を起こすのです。

私は1時間ほど「気にならない」感覚を覚えましたが、その後免疫の嵐に死にそうになりました。

……

数々のテストを行ったものの、何も進捗がなく、気がめいりました。

せめて、雨菲の姿を見てみたいと思った私は、雨菲に内緒で(彼女がこの愚行を知ったら当然反対するでしょう)、イーガン博士にお願いして義眼をつけてもらいました。

やっと自分の姿を初めて視ることができた。そして初めて雨菲を視ることができた。彼女の黒い短髪はシルクのように光り輝き、白い肌は朱明の最上級の磁器のように美しかった。その黒い玉のような、、疲労と悲しみに満ちた瞳は充血していて、涙が溢れていました。

私の新しい眼を眺めながら、彼女は問いかけました。「丹枢、これが何を意味するのか分かる?」と。

勿論知っています。この新しい眼は次第に私の身体から排除されるだろうことを。その過程で私は極度の苦しみを味わうでしょう。過去にはその苦痛の果てに魔陰の身に堕ちた人がいたほどです。

その後私は再び暗闇の世界に戻り、束の間得たすべてを失うでしょう。

私は雨菲に言いました。「あの景色を見に行きましょう。あなたが私に聞かせてくれたあの景色を」

10日後、私たちは肩を寄せ合い、人工の夕日が洞天の偽の空の端に消えていくのを見届けました。拒絶反応はどんどん強くなりましたが、彼女のそばにいれば、その苦痛さえ和らぐ気がしました。

森の尽き当たり、夕日に赤く染まった空は一気に燃え上がるかのようでした。

その夜、私は血の海でわめきながら、再び暗闇に戻されました。

その2

……

帝弓の司命よ、私の話に耳を傾いてくださいませ。

雨菲は戦場に行きました。

これは同盟と豊穣の民との3回目の戦争。私が知っている多く人が戦争に駆り出されましたが、まさか雨菲まで招集されるとは思いもしませんでした。

「同盟には優秀な医者が必要なの。あいにく私は優秀な医者だから、仕方ないじゃない!」と雨菲は私の顔に手を添えて、わざと軽い口調で言いました。

私は雨菲の手を握り、切羽詰まって言いました。「羅浮には医者がたくさんいる、あなたじゃなくてもいいじゃありませんか。あなたは雲騎でもないし、断ってもいいはずです……」

「私のことを心配してくれているのは分かる、」雨菲は優しく話しかけてくれました。「私は軍医として附いていくだけだから、危険に晒されることはあまりないと思うよ。それに、帝弓が必ず私を見守ってくださるはず」

彼女はすでに心を決めたのです。私はすがるように彼女に言うしかありませんでした。「あなたはご立派だから、私がいなくても生きていける。しかし弱虫な私は、あなたのいない世界でどう生きていけばいいか分かりません。ですから、必ず帰ってきて」

雨菲は仕方ないという風に笑って言いました。「私もあなたがいないといけないのよ!心配しないで、必ず帰ってくるから」

彼女は私の手を放しました。私は地面にしゃがんだまま、小さくうずくまって、手で両耳をふさぎ、彼女の立ち去る足音を聞く勇気すらありませんでした。

帝弓の司命よ、彼女が無事に帰ってこられるよう守ってあげてください。

……

長楽天の都市部で魔陰の身に堕ちた事件が発生し、かなりの被害をもたらしました。十王司の判官より、魔陰の身に堕ちた遺体の解剖依頼がありました。

解剖結果に気になる点があり、ここに記録を残します。

この人は生前天欠者で、手足がなく先天性心臓病を患っていました。しかし解剖の結果、魔陰の身に堕ちた後はそれらの欠陥が消えていたことが分かりました。

彼の手足は牛よりも丈夫で、心臓は星槎のエンジンのように力強かった。文献で似たような記述を時々見かけましたが、実際目の当たりにすると、やはり衝撃です。

どうやら、天欠者の治療法の一つを私は意識的に無視してきたのかもしれません…それはつまり、寿瘟禍祖の力を抱擁する方法。確かに、歩離人について「天欠者」のことを聞いたことがありません。

寿瘟禍祖の力を危険なく利用する方法があるのかもしれません。

勿論、これはただ机上の空想で、そのような実験を行うのは、死罪にも値するでしょう。

念のため、この日記を調査する十王司の判官へ:以上の内容は私の空想であり、それを実践に移す計画はありません。

……

この頃は雨菲とよく連絡を取り合っています。

彼女がいるのは戦地後方の野戦病院で、割と安全とのこと。

それでも彼女のことが心配ですが、黙々と祈るしかありません。

帝弓の司命よ、彼女の安全を見守ってあげてください。

……

戦争が終わりました。私たちは勝ちました。雨菲は死にました。

なぜ後方の野戦病院にいた彼女が死んでしまったのか、どう考えても分かりません。

私は狂ったように雲騎軍に原因を問い詰め、やっと教えてもらうことができました。

帝弓の司命が世に降臨し、神の矢で歩離人の艦隊を殲滅した時、神の恩恵により「付加的な傷害」が加えられました――その傷害を負った一つに、雨菲のいた野戦病院がありました。

彼女は豊穣の民ではなく、帝弓の司命の神の矢によって、骨の灰さえ残らず消されてしまったのです。

帝弓の司命よ、どうして?

……

帝弓の司命よ、これは私からの最後のお願いです。

あなた様が滅ぼさんとするすべてのものが生き返りますように。

あなた様が生かさんとするすべてのものが滅びますように。

この地のすべての生き物があなたの意志に反して育ちますように。

宇宙のすべての星があなたの存在のせいで光が消えますように。

この銀河が、死滅ではなく、生命を育みますように。

同盟があなた様の期待とは別の形で永遠に生き長らえますように。

仙舟風物誌

1人の博識学会のメンバーが仙舟のあれこれに関する考察が記されたノート。

洞天

何年も前、私が初めて仙舟の「羅浮」を訪れた時、大きな艦船のことが深く印象に残った。

私たちの乗った宇宙船があの「旗艦」に近づき、仙舟の輪郭が一緒にいた乗客の目に初めて映った時、背後から感嘆の声、さらには低い歓声までも聞こえた。それらの巨大艦はそれほどまでに大きく、風変りだが美しいセンスを持っていた…当時の私もそれなりにたくさんのものを見てきていたが、心の中では仙舟の第一印象に内心感嘆していた。

しかし、港に上陸する前に、驚くべき事実に気がついた。文明の規模に比べ、仙舟の旗艦があまりにも小さすぎたのだ。

広大な銀河の中には、人の手によって作られた文明が無数に存在する。恒星系全体に張り巡らされた巨大な構造物、見渡す限りの人工惑星、ブラックホールを囲んで建設された環状都市…どんな状況であっても、そこに住む有機体に必要な生活空間と生態環境を維持するためには、本当の意味での巨大構造物が必要になる。

それらの銀河にまたがる巨大構造物と比べると、仙舟の旗艦はあまりに小さかった。博識学会の不明瞭な歴史の記述によれば、仙舟はもともと星神に拝謁しに向かった船隊であったらしい。だが、現存する船の数を考えても、6艘の仙舟では強力な宇宙文明に必要な生活空間を運ぶには足りないだろう。

しかし、私たちの渡し船が港に入り、天舶司の複雑な手続きを終えた乗客が仙舟「羅浮」に足を踏み入れた瞬間、先ほどの唐突な感嘆は驚きへと変わった。

「羅浮」で「星槎海」と呼ばれている華やかな空港に入ると、私は自分の距離感がおかしいのではないかと思ってしまった――肉眼で見える「星槎海」の全空間は、「羅浮」をいっぱいに埋め尽くすほど広い。また、不思議な惑星が空高く昇り、宇宙空間から見た光景とはまったく違っていた。これは何かの幻術なのだろうか?

随行した天舶司の接渡使が、「初めて来た殊俗の民の多くはそうやって驚くんだ。これが仙舟人の言う『洞天』さ」と事務的な微笑みを浮かべながら教えてくれた。

それからの数週間、私は仙舟にある他の「洞天」を訪れた。仙舟の「キャビン」と呼んだほうがいいかもしれない。それらの洞天の大きさや形態はさまざまだったが、決して1隻の船に収まるような規模ではなかった。長楽天のような繁華街のエリアを収容している洞天もあれば、永狩原野のような生気に満ちた広大な野原を収容している洞天もある……

具体的な原理を聞いても、教えてもらえるはずはないと頭では分かっていた。視覚的トリックではないだろう。となると、大方、何らかの想像を超えた空間を折り畳む技術なのだろう。「洞天」、ふむ、名前を変えるとエキゾチックな感じがする。

空間を折り畳む技術は目新しいものではない。旅行から収納まで、多くの文明でそれぞれの折り畳む手段を持っている。しかし、仙舟のようにこれほど大規模な空間を折り畳む技術を日常生活の基礎として使用しているパターンは珍しい。その理由は簡単だ。折り畳んだ空間の体積と必要な消費エネルギーは比例する。その支出は天文学的数字となり、大多数の文明にとっては耐えきれないものだからだ。しかし、仙舟人はいとも簡単にやってのけている。この力は星神が関係しているに違いない。

ヌースは天にいる。もう少し調べれば、仙舟がどうやってこのような異空間を作り出したのかを解明することができるかもしれない。私の発見は博識学会に大きな経済的利益をもたらすはずだ。

星槎

仙舟羅浮に入った時の第一印象と言えば、魚の群れや鳥たちのような「星槎」が玉界門をひっきりなしに行き交う様子を思い浮かべる者が多いのではないだろうか――

いや、飛行マシンが飛び交っている光景は特に珍しくはない。タンホイザー・スターゲートで宇宙船が大渋滞する壮観な光景や、パンクロードのエアタクシーを見たことがある。しかし、優雅な小舟が翡翠のような軒先を滑っている姿を見た時、確かに異国ならではのカルチャーショックを感じた。

仙舟人の言葉では、飛行能力のある乗り物はすべて「星槎」という。私たちが「宇宙船」と呼ぶのと同じようなものだ。しかし、これまでの調査によると、狭義で言えば星槎とは、角が鋭く流線形をしており、仙舟のエリア内のみを行き来する民間用の小型有人飛行マシンのことを指しているようだ。

私が仙舟に到着してから数ヶ月の間、それらの星槎は幾度となく私を他の洞天へと乗せていった。私をもてなしてくれた接渡使は、美しい狐族の少女である(もしかしたら私の祖母より年上かもしれない)。彼女は私に星槎を操縦してみないかと聞き、「簡単ですよ。羅浮では40歳くらいの若者でも操縦方法を知っているんですから…」と整った笑顔を浮かべた。私は自分の禿げあがった頭を撫で、笑いながらお断りした。

時間がある時は、星槎の構造を細かく観察した。船尾にはシンプルな構造の反重力装置のようなものが取り付けられている。形だけを見ると、玉の工芸品のようだ(接渡使によると、それは「玉輪」という名前らしい)。興味深いことに、船体には接合の痕跡が見当たらなかった。船底から甲板、さらには船首までが完全に一体となっているのだ。このような製造技術を見た私は好奇心をくすぐられた。6ヶ月後に「廻星港」に招かれて見学し、その好奇心はようやく答えを得ることができた。

そこでは星槎の製造ラインを見た。並んでいたのは、複雑な工業用ロボットアームではなく、培養槽、あるいは鉢植えのようなものだった。彼らの船の製造工程に用いられている技術は、科学技術というより、一種の「鉢植えで植物を栽培する」バイオテクノロジーに近い。船体の竜骨、湾曲部の竜骨、甲板などのパーツは培養槽の中の「種子」から成長し、最終的に完全に一体化した星槎となるのだ。

宇宙技術の先進性だけを見れば、スターピースカンパニーの乗り物も負けてはいないだろう。しかし、需要や製造スピードから考えると、カンパニーの船が仙舟で普及していない理由も多少は理解できるような気がした。

地衡司

地衡司は殊俗の民にとって、最も接触が多い部署に違いない。

道路で居留許可を確認するのも地衡司、戸別訪問して人口調査をするのも地衡司、大きな祭りで秩序を守るのも地衡司、街で泥棒を捕まえるのも地衡司、永狩原野で生態環境を調査するのも地衡司、仙舟が引力の強い星を通過する際に最新の「星時間」を発表するのも地衡司だ……

殊俗の民と地衡司があまりにも頻繁に接触しているので、ある時、私はこの考察文は完全に余計なものなのではないかと思ってしまった。仙舟で暮らしたことのある者なら、地衡司の役割について自然と詳しくなるからだ。

しかし、腰を据えて地衡司をつぶさに観察していると、それが非常に変わった組織であることに気がついた。

彼らが公開した公文書――たとえば殊俗の民が全員受け取る『殊俗の民のためのおもしろ法律宝典』や、デタラメな内容ばかりで政治色の強い広報ドキュメンタリー『星槎海を守る』を観ると、我々が目にする地衡司、あるいは地衡司が我々に見せている姿はいずれも普通の法執行機関であることが分かる。

しかし、彼らの実際の仕事を見ていると、業務範囲がとてつもなく多岐に及んでいることに気づくはずだ。

治安維持、消防、人口調査、暦の作成…このようにさまざまな役割を同時に持つ政府機関を作り上げることは非常に困難だろう。

もう1つ不思議に思ったことがある。地衡司は名目上、仙舟で起こった通常の刑事事件を取り扱っている(重大事件は十王司の管轄のようだ)が、それらの大部分は雲騎兵が犯人を捕まえている。同様に、暦の交付は名目上では地衡司の担当だが、データの収集は天舶司、計算は太卜司の仕事になっている。

私が集めた資料によれば、地衡司は他の機関の雑用を行い、姉妹機関の後始末をする実行機関のような顔を外部に見せている。言い換えれば「便利屋」なのだ。彼らは苦労を厭わず、仙舟にいる皆の平和な生活のために身を粉にして働いている……

しかし、本当にそうなのだろうか?他人の幸せのためなら苦労を惜しまない、そのような者たちが世界にいるのだろうか?私はそんな単純なことではないと思っている。

私の社会の常識から推測すると、人々は地衡司と各機関の関係を逆に捉えているような気がする。地衡司は各機関の下ではなく、上に位置している機関なのだ。

彼らは、スラム街から象牙の塔の頂上に至るまで、社会のあらゆる場所に広がっている。大変な思いをしている法執行者も、机に向かっている学者も、裏で糸を引いているのも彼らなのだ。仙舟では、地衡司の目から逃れられる者などいない。何故なら彼らは明らかなスパイであり、私たちの中に堂々と立っているからだ。しかし、私たちはそのことに気づいていない。

こうして考えてみると、思わずゾッとして、背筋に冷や汗をかいてしまった。

工造司

外の世界から見れば、仙舟はいつも謎に満ちた場所である。外の世界で語られる仙舟の製造に関する物語は、いつの時代も伝説的色彩が強くなっている。

しかし、実際には工造司の工業製造技術は他の文明とさほど変わらない。唯一謎めいていると言える点は、仙舟の社会の新陳代謝が極めて遅いこと、さらにその特殊な閉鎖性が彼らの習慣を「古風」なものにしていることだ。

初めて仙舟に来た頃、この文明の極めて風変わりな習慣にとても戸惑ったことをよく覚えている。仙舟に住んだことのある殊俗の民のほとんどは私に同意してくれるのではないだろうか。最初に戸惑うのは工造司の構造物だろう。

当時、私は家の防災用品の一部として、携帯用照明器具を買おうと思っていたのだ。しかし、商店のどの棚を見ても、目当ての品は見つからなかった。普通の懐中電灯で構わない。古代から現代までデザインが変わらず、どこにでもある、緊急時に使える小型の照明器具だ。

店員に手伝ってもらい、ようやく仙舟で最も「一般的」な懐中電灯を見つけた。

工造司はそれを魚の形にしていた。その上、くり抜かれた腹の部分が光る。さらに必要に応じて光の強さ、方向を変えられた。魚の背の持ち手を掴むと、頭の中は疑問でいっぱいになった。仙舟人からすれば、これは「一般的」な照明器具のようだが、私の基準からすれば、これは芸術品と呼べるほど手が込んでいて華やかな…懐中電灯だった。

その後しばらく、私は仙舟で工造司が製造した「一般的」な電化製品を集め、研究のために博識学会に送った。送られてきた報告書を読む限り、学者たちのほとんどは、この過剰包装の習慣を理解できないようだった。

私が最も印象深かった報告書には、「この金属製の動物は非常に精巧に作られている。どうやったらこれほど精密な運動構造をこんなにまで縮小させられるのか、想像すらできない。最も注目すべき点は、いかなるエネルギーにも頼ることなく、風力のみで活き活きと動き出すことだ。ただし、1つだけはっきりとしないことがある。この器具の用途は何なのだろうか?動物の体についている鈴と関係があるのだろうか?」と書かれていた。

このかわいそうな同業者は工造司の巧みな技術に惑わされてしまったようだ。実際のところ、彼は答えにとても近づいていた。その「金属の動物」とは「鈴」なのだ。仙舟人はそれを店の扉にかけて呼び鈴にしたり、庭の中に装飾品として飾ったりしていた。ただそれだけなのだ。

このように、ものに華やかな装飾を施す(時にはもの自体よりも精巧な装飾を施す)習慣は、仙舟の「古風」な伝統から来ているに違いない。彼らが母星を離れて宇宙を探索し、不老長生を手に入れてから、外の世界と幅広く接触するようになるまでの時間は、私たちにとっては非常に長いものだった。だが、彼らにとっては数世代分にすぎないのだ。

そのため、はるか昔に失われてしまった本当の意味での旧時代の習慣も、一種の「共通の記憶」として今日まで受け継がれているのだろう。

工造司はとりわけその伝統を重視している。この点は彼らがさまざまな儀式に熱心なことからも見てとれるだろう。

新しい生産ラインから最初の製品が製造される時に儀式を行う。古い生産ラインから最後の製品が製造される時にも儀式を行う。新しい工房が完成した時に儀式を行う。古い工房が解体される時にも儀式を行う…工造司は自分たちの技術以外は何も信じていないかもしれないが、それでもさまざまな儀式を熱心に執り行う。

また、工造司のそのような習慣のおかげで、彼らが無造作に作った小物すら不思議なほど精巧にできている。そのため、もっと長い目で見て、工造司の技術についてさらに踏み込んだ研究をする必要が大いにあると考えている。

玉兆

民間でも役所でも、「玉兆」はとても幅広く使われている。

以前、ある太卜司の元卜者に、「いわゆる『大衍窮観の陣』とは一体何なのか?」と聞いたことがある。

その元卜者は、「別に大したものではない。ただ無数の『玉兆』が連なってできた陣にすぎない」と答えた。

「別に大したものではない」という言葉を殊俗の民が聞くと、不快な自慢に思えるのかもしれない。しかし、仙舟でしばらく暮らした私からすれば、その者の言葉は嘘ではないのだ。玉の装飾品を身につけた仙舟人を見てみるといい。彼らが身につけている玉の装飾品は、玉兆の民間モデルなのだ。

しかも、私が見る限り、そうしたネックレスの見た目をした玉兆は、他のどのような民間用コンピューターにも負けないほどの高い性能を有している。

私はコンピューター科学の専門家ではないので、博識学会でその分野に詳しい仲間に玉兆をいくつか送った。しばらくすると、その人物から返事が届き、「トッド、宝石がいくつか入っていたが、君の言っていたコンピューターはどこにあるんだ?」と言われてしまった。私に分かるようなら、わざわざ彼に聞いたりはしないのだが。

彼はしばらく調べた後で、玉兆の秘密を教えてくれた。原理的には、玉兆は一種のクリスタルコンピューターだそうだ。

玉兆を分解して細かく調べてみると、半導体チップのような模様が存在していることに気づくだろう。仙舟ではこのような技術を「篆刻」と呼んでいる。模様には有用なプログラムが焼き付けられているのだが、結局、博識学会の仲間は電気信号の送受信らしき現象を検出できなかった。

その仲間の言葉を原文通りに引用すると以下の通りである。

「これまでに液体や気体のコンピューターも見てきた。コンピューターが持つべき構造がなくても、極めて強力な計算能力を発揮できるのだ。しかし、液体や気体のコンピューターがそのような性能を実現できるのは、それらが柔軟な分子構造を持ち、必要に応じてさまざまな変換をリアルタイムで行えるからだ。一方、玉兆の鉱石の構造からはそのような物理属性を検出できなかった。ただの石ころが自然界の万物によって、急に知恵を与えられたかのようだ」

仲間は興奮気味になり、さらに構造を分解しようとしていたが、私には新たなひらめきがあった。玉兆から演算能力を提供するパーツが見つかっていないということは、玉兆だけでは完全ではなく、他のパーツと組み合わせる必要があるのではないだろうか?

このことから、私はとてもクレイジーな想像をした(私は「クレイジーな想像」という表現が好きなようだ)…玉兆とは本質的には量子通信の部品であり、仙舟同盟全体で数千万とある玉兆の間には遠隔操作できる機能があるのではないだろうか?だとすれば、玉兆に演算能力を提供しているものは何なのか?

知らない人も多いかもしれないが、哺乳類の大脳は宇宙で最も完璧なコンピューターの1つである。「天才クラブ」のヘルタ、彼女の大脳にある強力な演算能力ですら、タンパク質の球体の中に制限され、ハードウェアの束縛から脱することはできない。

しかし、もし数千万もの大脳をつなぎ合わせ、亜空間に神経システムのような複雑で精緻な情報チャンネルを作り、そこに無数の知恵と知識を怒涛の水脈のようにまとめて注ぎ込む方法があったとしたらどうだろうか?そして、その数千万の大脳とは、数千万人の脳内に蓄積された情報だけを意味するのではなく、数千万人分の計算能力をも意味するのだ。湖面のさざ波のように小さい思考活動が巨大な波となり、荒れ狂う水泡のひとつひとつに無数の神経が放つ電流や伝達情報が含まれ、観測、記録、演算を行う……

そうだ。私の想像でしかないが、仙舟は玉兆を利用して人と人とを直接繋げているのだろう。彼らはそのような方法によって仙舟全体を観測し、すべての被造物を記録し、その後に起きるあらゆる瞬間を正確に計算しているのだ。つまり、玉兆はクリスタルコンピューターではなく、一種の量子・生物コンピューターなのだ。

博識学会にいる関連分野の仲間は、私の想像を聞いて大笑いした。まるで私のことを知性のない爬虫類とでも思っているかのようだった。しかし、彼にはこの技術の秘密にもっと踏み込んで調べてもらいたかった…もし、量子・生物コンピューターを博識学会に応用できれば、大きな学会そのものを1人の学者として一体化することで、知恵の星神に会うことも可能になるだろう。

博識学会はかねてから「あらゆる知識は貨幣のように流通させるべきだ」と主張してきた。これは間違いなく最も効率的な実現法なのだ。

長命種 其の一

クリオへ 前略

まず、不肖このトッドは本文をもって、クリオ学士にいかなる原稿料を請求する権利を放棄することを宣言する。

よし、ここからはある挫折した老いぼれの愚痴だと思ってくれ。出発前、君は私に繰り返し聞いたね。なぜこの歳になって、この「羅浮」での任務を受けなければならないのかと。私はその時……すまない、何と言ったかは覚えていない。しかし、私はもっと丁寧に返事する必要があると思った。

分かっている。学会が私たちをここに派遣したのは、大きな利益を生む学術交流のためであり、報告書の中で私たちが仙舟の景色を何度も褒め称えるのを聞くためではないこと。しかし「長命」という重要問題に関して、私の収穫は前任者たちと同じ、今まで景色を眺めていただけだった。

私が「羅浮」に来てから12標準月近くが経った――仙舟人の星暦では1年だ。私は腰椎間板ヘルニアをよそに、星槎海の賑やかな「海市慶典」に参加し、接渡使の案内で「ソーダ豆汁」という文化遺産と言われるらしいものを飲んだ(それが遺産と呼ばれるのも無理はない。想像してみるんだ、百年も放置された発酵ドリンクを。まあ、仙舟人の命では百年もそう長くはない)。私は丹鼎司で「金針刺穴」の治療を受けた。まるで20歳も若返ったようだ。これでまた何度かは、うちの女房のフライパンにも耐えられるだろう……

これらすべての無意味な行動の後、私は失敗した前任者のように、その重要な問いを聞くはずだった。「私のように骨粗鬆で、記憶力が衰え、皮膚も古いシーツのようにシワだらの老人を、再び若い頃の状態に戻し、さらに千年も楽しく生活させる方法はないのか――君たち仙舟人のように」

私は聞かなかった。そうだクリオ、私は一言も聞かなかった。それが、私がここに座って茶を飲みながら、この愚痴の山を書いていられる理由なのだ。

全宇宙の知的生命体はすべて、永遠の若さを保ったまま生きたいと願っている。私たちは生の苦しみを痛感しながらも、胸に手を当てて己に問う。チャンスがあるなら、もっと長生きしたいと。

しかし、科学技術の助けなしでは、ほとんどの霊長目の知的生命体は、わずか100年足らずで自然に老衰し、死ぬ。数少ない種族――「長命種」と呼ばれる人類亜種を除いては。

いずれかの星神の気まぐれな加護(往々にして薬師)により、いくつかの霊長目知的生命体は死という肉体が定めた限界を超えた。彼らは長い寿命を持ち、繁栄して災いとなった。さらに困ったことに、彼らは侵略を好み、様々な世界の資源を奪い尽くし、さらにその生態を改造した。これらの民族については、君もよく知っているだろう、「豊穣の民」だ。

豊穣の民に関する博識学会の研究プロジェクトは少なくない(私の知っている限り、その中のいくつかは決して人道的とは言えない。もちろん、豊穣の民に対して人道を説くのは私の考えすぎかもしれないが)。学士たちの結論は一致している。「豊穣の民」の延命方法は、そのDNA特性と密接に関連している――共食い、別の獣からの輸血、群生生物の巣になる、あるいは冬眠や脱鱗で体を修復する……大部分の豊穣の民は、永遠の命を得ると同時に理性を失い、害獣のような姿になってしまう(たとえサーベルタイガーに星間旅行が可能になっても、彼らがもたらすパニックは豊穣の民よりひどくはないだろう)。たとえ学会がその秘密を探し当てても、それを商業化することなどできない――金持ちが、人間を捨てた延命法に金を払うわけがない!

最後に、学会はより文明的な長命種——仙舟同盟に目を付けた。同じ長命種でも、彼らと豊穣の民は互いを敵とみなし、激しく戦い続けてきた。仙舟同盟はまだ理性的なコミュニケーションが可能に見える。だから私たちが少し金を払えば、彼らから長生きの秘訣を買えるとでも?

ふん、資源交換、政治的な斡旋、貿易戦争……使える手段は全部ダメになり、最後に定期的な学術交流だけが残った。学会はまだ諦めようとせず、私たちみたいに哀れな者を次々と仙舟に送り込んでいる。学術交流?頼むよ、額に「スパイ」の3文字を書いているように分かりやすいぞ。仙舟人たちが私たちの意図に気づかないとでも?彼らが街角で世間話をしている時に、うっかり口を滑らせるとでも?学派を管理している大教授どもはバカの集まりなのか?

クリオ、愚痴ばかりで本当にすまない。きっと、バカなのは私の方なのだろう。不可能な任務だと分かっていながらも、私はここに来た。なぜなら、私はもうあの頃の、君に講義をしていた中年ではない――私は歳を取った。関節は言うことを聞かず、中に鉄の棘が生えているようだ。私は椅子から立ち上がるたびにこの宇宙を呪う。くそっ、どうして、どうして科学技術がこれだけ進歩しても、関節炎は永遠に治療できないのだ?カンパニーが大教したサイバネ化医療保険を断ったのを死ぬほど後悔している。あの時の私は傲慢すぎる、自分は老いとは無縁だと思っていたのだ。

しかし、私は間違った。私が死ぬ前に、何かを見つけ出すことを望む。

君の師、トッド・ライオット

長命種 其の二

クリオへ

元気にしているだろうか。

まず始めに、この不肖トッドは本文を以って、クリオ学士にいかなる原稿料も請求する権利を放棄することを宣言する。

最近、ようやく丹鼎司の職員数名と懇意になることができた(かなりの経費を使った)。彼らから一般の殊俗の民では得られない知識を入手したいと思い、ゴマすりにゴマすりを重ね、何リットルもの龍泉老窖を飲ませたのだが、公に発行できない医学書や薬典はやはり見せてもらえなかった。彼らの言葉を借りれば、「それは頭が落ちることになりかねない」らしい。

だが幸いなことに、彼らは最終的に私の「誠意」に感銘を受け、彼らにとってあまり価値のない医学報告書を譲ってもらえることになった。それらの報告書は狐族の「自然死」についてのものだ。

報告書の原文を手紙に同封しておいた、君も読んでみるといい。

結論から言えば、狐族の自然死はすべての長命種の最期と同じく、浅薄な科学技術では晴らせない霧に包まれている。

狐族は一生のうちの殆どの期間、体内の多くの器官に大量の全能幹細胞を蓄える。この全能幹細胞は絶えず狐族の肉体を修復し、老化や損傷を短時間で治癒している。

彼らが「天寿を全う」する前の数年、全能幹細胞の数は次第に減少していくが、それでも彼らの老いを感じさせない容貌は十分に維持することができる。狐族の年齢が250歳~450歳(ちなみに中央値は307歳)に達すると、全能幹細胞は完全に活動を停止し、自由分化の能力を失う。

そして多臓器不全が起こり、死に至る。この「自然死」は進行が速く、全能幹細胞が分化機能を失ってから3~4日以内に死亡することが多い。しかし、ほとんどの人は臓器に様々な「老年病」が現れ始めた時から準備を始めるため、後の準備が間に合わないというケースは非常に少ない。

当然、全能幹細胞がある時点を以って突然機能を失う原因は、丹鼎司にも私にもわからない。

20年ほど前、博識学会が歩離人と戦争をしていた時、私たちは関連実験を行った。覚えているだろうか…いや、あの時まだ君は幼かったから、覚えていないだろう。当時、歩離人の肝臓を切除したところ、その歩離人は数時間後に巨大で攻撃的な「癌細胞団」に変化した。歩離人と狐族の分子生物学上の親縁関係を考えると、その原理は多分に共通していると思われる。

だが不可解な点もある。医士が狐族患者の肝臓を丸ごと切除したカルテは大量にあるのだが、狐族が「癌細胞団」になった記録は1つもないのだ。事実、ほとんどの狐族はこのような手術を受けた後、新しい肝臓が作られ、回復して退院する(ただ記録によると、肝臓を失った場合、他の臓器を失った時と比べて回復速度が著しく低下するらしい)。

私が考えるに、この現象には2つの解釈がある:

1. 狐族の全能幹細胞は肝臓によって生成されるものではなく、特定の要因によって肝臓に集まっているだけである。(そのため肝臓を丸ごと失うと回復速度が低下する)

2. 狐族と歩離人には生物学上の差異が存在する。そして、その微小だが大きな差異が、両者を「仙舟の住民」と「豊穣の忌み物」として区別している。

狐族の不完全な「長生」は明らかに利用できるものではない。だが、そこにはある程度の商業的価値が潜んでいると私は考える——「全能幹細胞」は全能ではないが、それでも狐族が死ぬまで若々しい容貌を保つことができる。

クリオ、私が出発する前に言っていたな。「ライオット先生、私は不老長生にはなりたくありません。そんなに長く生きていたら、きっと面白いこともつまらなくなってしまいますから。でも年を取るのは怖い、老衰は恐ろしいです」と。

あの時は褒めなかった(というか蔑んでしまった)が、今では君の考えが正しいと思っている。この銀河の中、私たちが接触できる大多数の潜在顧客たちは、君と同じ考えを持っているだろう。彼らは宇宙のように長く生きるつもりなどない。だが短い人生周期の中で、永遠に若さ(または美貌)を保ち続けることを望んでいるはずだ。

もし時間に余裕があったら市場調査を行ってくれ。狐族の全能幹細胞は、「永遠の青春」で私たちに莫大な利益をもたらしてくれるかもしれない。

もし時間に余裕があったら市場調査を行ってくれ。狐族の全能幹細胞は、「永遠の青春」で私たちに莫大な利益をもたらしてくれるかもしれない。

君の師 トッド・ライオット

  • Ver.2.0 7巻目実装

薬王秘伝・証拠物集

薬王秘伝の一味から集めた様々な証拠物。

送り出せなかった家書

䔥蕾姉さん、お久しぶりです。

家を出て一ヶ月余り、全てが順調です。姉さんはご安心ください。

僕は幼い頃から体が弱く、いつも姉さんに心配をかけていました。此度は挨拶もせずに離れましたが、決して自死などしようというつもりではありません。ただ、これ以上姉さんに迷惑をかけたなかったのです。姉さんには安楽な生活を送って欲しいのです。

この「仰天望気の疾病」のせいで、父と兄が戦死するまでは彼らに迷惑をかけ、今では姉さんの生活を妨げている。二百年以上経ちましたが、いくら医士を訪ねても治らなかった。振り返ると、そこには伝えきれない自責の念しかありません。

でも、もう心配する必要はありません。僕は今、丹鼎司のとある機密計画の臨床試験に参加しているんです。

僕たちを担当する丹士長の話によれば、仙舟で人々を何百年も苦しめる慢性病を治療するため、彼らはやっとのことで六御の許可をもらって、新しい療法の開発を認めてもらったらしいのです。

でも、彼らは研究が進展し何らかの結果が出るまでは、関連情報を厳格に封鎖するとも約束しました。だからこの手紙も、暫くは僕が持っていなきゃいけない、いつか外で活動できるようになった時に、姉さんに送ることにします。

治療手段はかなり有効で、いつもは杖を使ってやっと歩ける程度だったのに、今では好きに歩き回れる。丹士たちも僕の回復に驚いていたんだ、僕は「万に一つの奇跡」だと。

そういえば、ここで使ってる薬、けっこう変わってるんです。丹士長に薬の名前を聞いたら、その人は笑いながら「これは慈悲深い薬王の恩典だ」、と言っただけ。何の意味かは分からなかったし、丹士長もそれ以上説明するつもりはなかったみたい。

どうであれ、この薬は効くから、それでいいと僕は思っています。

でも、これには代償があるのです。あの丹薬を服用する度に、全身が刺されたように痛み、記憶も混沌とする。

こんなことを姉さんに教えるべきじゃない、やっぱりいい知らせを言うことにします。臨床試験が終わったら、丹鼎司から多額な協力金がもらえる。

その時は、僕は健康な体と十分な資金を手に入れられます。そしたらいい場所の客舎を買おう。

大都市の埠頭が一番いい、そこで観光客を相手にした客舎を経営しよう。姉さんももう苦労する必要はない、うちはお金持ちになるんです!従業員を何人か雇って、僕も働くから、姉さんはやりたいことをやればいい。姉さんはそういう生活を送るべきだよ。

じゃあ、また会う日を楽しみにしています。

愚弟䔥居、翹首して返信を待つ。

緊急指示

青棠へ

雲騎軍内に築き上げた情報網が暴露され、多く仲間を失ってしまった。ここまで来たら、もう確定できる——我らの内部に猟犬が潜んでいる、それも一匹だけではない。そしてその大半は羅浮に潜んでいるはずだ。

今ある情報から推測すると、そのうちの何匹かは我らの重要作戦に参加していた、神策府で失敗したあの作戦にもな。猟犬が潜んでいなければ、あの無眼将軍はもう死んでいるはずだ。これが我らにどれほどの影響を与えたのかは、想像できるはずだ。

早く猟犬共を特定し、跡が残らないように始末せよ。活かしてはいけない、危険すぎるし、そうする価値もない。今までの経験から見れば、如何なる手段を用いても、奴らは口を開かない。

もし兄弟姉妹が暴露したら、猟犬の手に落ちる前に慈悲ある結末を渡すのだ。

数日前、首領様がおっしゃっていた。「今、羅浮での布石は極めて重要である。千年の大業はこの一戦に在り、如何なる失敗も許されない」と。そのお言葉、心に留めておけよ。

薬王のご慈悲を!

紫桂

蒔者の日記

……
3月9日

世の中は不公平だと、私はますます確信した。

雲騎軍の武器庫にある数多くの武器から、私は最も操りにくいとされる槍を選んだ。それ以降、人並み以上の鍛錬を積み重ねてきたつもりだ……なのに、游山には勝てない。私の胸くらいの身長しかない、たった60年間しか生きていない持明族の奴に勝てないなんて。対して私は、雲騎兵法の鍛身再造を受け、百年近くにわたり槍術を磨いてきた。

「剣は軽やかに、槍は雄壮に操れ」と師匠に常に言われてきた。剣に気を集中させて操るには、高度な神経反射が求められる。一方の槍は、力の制御の世界。敵を突き刺した槍から跳ね返る驚異的な反動を吸収するためには、血のにじむ筋肉の鍛錬が必要だ。

反射神経に関しては、自分は狐族に到底叶わないことは承知していた。しかし、力においてまで、持明族の相手にならないとは思いもしなかった。
游山に勝てないのは、決して私の武術の学びが甘いとか、稽古が足らないからではなく、ただ単に筋肉構造が違うからだ。鱗淵境の古海から転生した持明族は常に巨大な水圧の中を悠々自適に泳いでいる。陸にしか適応していない我々仙舟人が奴らの体力に叶うわけがない。

たとえ私にさらに数百年の命が与えたられたとしても、遺伝子の壁を打ち破って、游山より強い身体になることは不可能だろう。これが私の情けない運命、絶対に最強にはなれない宿命なんだ。

……
4月2日

丹鼎司に勤める知人の丹士からある薬を勧められた――「龍蟠蛟躍」とかいう薬で、飲むと龍力が身につくという。

不気味な薬の名前だ、と思った私の気持ちを察したのか、彼はにやにやしながら「この薬の精製に使われた材料を当てられたら、ただであげる」と言い放った。恐ろしいものが入っていることを暗示するように、目配せをしながら。

こいつらの丹士は一体何を目論んでいるんだ?薬は、買わなかった。

「龍蟠蛟躍」…その名前からして気に障る。持明人は、自分らのことを星神の末裔だと思い込んで「龍」を敬うらしいが、フン!私にとっちゃ龍と聞くと、游山を思い出すだけだ。
游山の奴は十衛長に抜擢された。師匠は、自身の後継者として奴を推薦し、弟子たちに教える任を任せるそうだ。游山の奴、心は天狗になってるくせに、私に会うたびに兄さん、兄さんとわざとらしく呼びやがって、その裏でせせら笑っているに違いない。本当に腹が立ってしょうがないのだ。
奴と稽古するたび、その肉体に槍を突き刺してやりたいと何度思ったことか。だけど、どうせ無理。游山に勝てないんだから。

稽古の結果は3戦3敗。ま、予想通りか。私は道場に一人、長い時間座り込んだ。
……
6月20日

ついにやった!この私が、やってのけたのだ!
ついに、游山を倒した!

「龍蟠蛟躍」はまさしく神の薬だった!薬が体内に入る際は、内から狂風が巻き起こるがごとく、張り裂けそうになるが、その激痛は束の間のこと。その後は、手に持った槍が針のように軽く感じられ、軽く振りかざすだけで、稽古相手の皆をいとも簡単に倒せるのだ。
私は素早く強くなった!ハハハ、游山とてもはや私の相手じゃない!

私の目には、奴の動きがアリみたいにゆっくりなんだ。手を伸ばすと、簡単に奴をとらえられた。そして槍先でじっくり奴を押しつぶしてやろうと思った。しかし残念ながら、そこで師匠が稽古を中止させた。師匠は軍医に私の身体を診断させたが、何も異常は見つからなかった。
ふん、まったく頭の固い老いぼれだ。知人によると、この薬を服用し続ければ、私はもっともっと強くなれる!

神策府に非常に剣術に長けた武官がいると聞いたが、もうしばらくしたら、そいつだって私の相手じゃなくなるかもな!
……
7月25日

紹介を経て、私は姉妹兄弟に仲間入りし、蒔者となった。
心に限って言えば、既に悟りを得ているつもりだ。

雲騎兵法を読む際、仙人にしか到達できなさそうな境地に関する記載があった――「秋豪分け」、「昆鋼砕き」、「陰陽転換」、「流光追い」……しかし、これらは伝説ではなく、遥か昔の仙舟人は確かにその境地に達していたのだ。

しかし、私の身体はまだまだ悟りの境地に至っていない。
その極限に達するためには、秘伝の丹薬を服用し、苦行を積み重ねなければならない。
何ら心術や神秘的な力によるのではなく、ただ単に肉体の強度によってのみその境地は開けるのだ
――それこそが「薬王秘伝」の仙道が私に授けてくださったお教え。

その極限に到達し、さらに突破する力は、薬王の慈悲によってのみ授けられるのだ。
ここでは多くの姉妹兄弟と知り合った。彼らは仙舟の各分野業界の出身で、中には殊俗の民もいる。ここに集った目的は人それぞれ。命を救うため、復讐のため、魅力ある指導者に憧れて、薬王に対する熱狂から来た人もいれば…はたまた妖弓禍祖への果てしない憎しみに駆られて来た人もいる。そして私みたいに、悟りを得るために来た人も。

私たちは協力し合いながら、丹薬を精製し、猟犬から隠れ、そして薬王を慕った。他の者の信念を疑ったり、その目的を笑ったりする人は誰一人いない…「社会秩序」の中で生きてきた自分の人生がバカみたいに思えるほどだ。

丹薬の服用に、壮絶な苦しみが伴うことは否めない。あのまずすぎる液体を呑み込むと、まるで針を呑み込んだかのように内臓が灼熱して沸騰する感覚に見舞われる。必死に吐き気を我慢して呑み込んだら、今度は肉を骨から無理やり剥ぎ取られるような激痛に襲われ、続いて骨と骨が石のごとくぶつかり合い、たちまち身体が崩れそうな痛烈さを味わう。骨がぶつかり合うたびに、その衝撃が脳を直撃するので、いっそのこと気絶して苦しみを忘れることすらできない。

だが、数時間の苦しみに耐え切った暁には、身体能力が著しく上昇する。
数百、数千年にわたる肉体の修行が、その数時間の間に凝縮されたものだと考えれば、その苦痛も何とか耐えられるものだ。
……
9月10日
さらなる力を得て 私はさらに強くなった

游山はおろか 師匠でさえ私に勝てない 次第に私は悟ったのだ

武を学ぶ極みは 爪牙の利 筋骨の強さにあり

勝つことこそ 即ち生者なり 即ち武徳なり

武徳 即ち薬王の慈悲なり

薬王よ 薬王よ 薬王の慈悲よ
薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

薬王の慈悲 建木よ健やかに 蒔者は一心なり 共に仙道を登らん

※以降の数ページにわたり、この言葉が繰り返し書かれる※

作戦目標:景元

靛海棠へ
この一ヶ月で景元に対する排除作戦を5回も実行した、なのに何故ヤツはまだ生きている?お前たち、サボっているのか?
黄牡丹、九月十九日

黄牡丹へ
しょうがないだろ?こいつ「無眼将軍」って呼ばれていて、公務にもほとんど顔を出さないし…会える機会がほばないのに、どうやって始末しろと言うんだ?
靛海棠、九月廿二日

靛海棠へ
丹鼎司にあれほどの仲間が潜伏しているというのに、一人も役に立たないのか?いくら将軍だと言っても、丹鼎司で健康診断くらいはするだろう?その時を狙えないのか?
黄牡丹、九月廿四日

黄牡丹へ
兄弟よ、あんた羅浮は初めてなのか?景元みたいな大物が自分から足を運んで受診するわけないだろ?そういう時は専門の医士が神策府に行って診てあげるんだよ!神策府で手を出したら誰も逃げられない!
靛海棠、九月廿七日

靛海棠へ
薬王のご慈悲を。お前たち…そのように生を貪るとは、恥を知れ!
黄牡丹、九月卅日

黄牡丹へ
何を偉そうに、できると言うのなら自分でやれ。口ばっかり動かすな。
靛海棠、十月一日

靛海棠へ
貴様、どこにいる?逃げるなよ、二人で腹を割って話そうじゃないか。景元を始末できずとも、貴様くらいは始末できるわ。
黄牡丹、十月二日

薬王秘伝・密令

紫夷兄弟へ、

緊急の用事だから手短に説明する。君には丹鼎司の半夏という医士を捕まえてきて欲しい。司部で彼女の履歴を見て、煉薬の助けになれると思ったのだが…彼女が丹鼎司の洞天を脱出する手段を持っていたとは予想外だった。その上、彼女はとある名簿を持ち出した。

名簿の内容は言えないが、それは絶対に回収せねばならない。君は半夏の顔を知っている、そして私は君を最も信頼している。必ず彼女を連れてきてくれ、少なくとも名簿は処分しておくんだ。

情報によると、半夏は洞天が封鎖される前に龍女を連れて離れている。今洞天の外と連絡が取れる仲間は少ない、もし他の蒔者に出会ったら、手紙と薬方をその者に渡して、共に裏切り者を捜索するんだ。これは最優先事項だ、忘れないように。

薬王のご慈悲を!

藍芝

還塵駐形丹

蒔者の兄弟姉妹たちへ、

入教以来、皆宝餌を服食し、精勤に修行した。内丹を結成した者は甚く衆く、「薬王秘伝」の大業は期待できるものとなった、吾が心は甚く慰むものである。

或る蒔者は根器鋭利であり、早期に飛昇し、「薬王相」や「繁枝相」等の真仙の容貌を顕わしたが、日常の行動には不利となった。吾は汝らに「還塵駐形丹」の薬方を授予する。方に従い薬を服せば人の耳目を掩い、原の容貌を維持できる。

処方は以下に:

岱輿トウキ5銭
鱗淵天門冬2銭
波月古海龍鱗珊瑚3銭
蒼茯苓1銭
魔陰の身の骨粉1両(此の為同袍相食むべからず)
丹参骨膠、古根龍泪滴を佐け、研磨し薬丸を調製する。

皆の者よ、所謂「魔陰の身」とは薬王が我らに賜予した飛昇の天階、其の勢いは緩めるが、絶対に避けること能わぬ。頻繁に駐形丹を服用すれば、その薬力は次第に減弱し、無用に至る。蒔者の兄弟姉妹たちよ、留意するのだ。

薬王の慈悲、建木よ健やかに。

千手慈悲薬王救世品

如是我聞:

ある時、千手慈悲薬王は諸界を巡り、九万九千九百九十九人の蒔者と共に羅睺に住み、説を唱えた。

その時、倏忽使令、千手慈懐薬王に問いて曰く「衆生には病があり、みな苦しんでいる。すべての有情の衆生は生、老、病の苦に縛られている。苦の本とはいかに?」

千手慈懐薬王曰く「生、老、病の苦はみな死に帰する。生者の苦は、命に限りがあること。老者の苦は、必ず死に至ること。病者の苦は、死が近いこと。ゆえに生、老、病の苦とは、すなわち死にあり。死あることが、苦の本なり」

倏忽使令、合掌して曰く「一切の有情の衆生には、滅びの日もあれば、輪廻の日もあり。生、老、病の苦、いかにして断たん?」

千手慈懐薬王、倏忽使令に告げて曰く「彼の衆生は、肉体に捕らわれ、檻に囚われ、三苦刑を受けるが如し。私は今、永寿の神木を植えて彼の衆生を解脱させ、生きて限りなく、老いて至らず、死して生まれ変わりて、煩悩を断たん」

その時、倏忽使令、念じて曰く「薬王の慈悲、建木よ健やかに。蒔者は一心なり、共に仙道を登らん」

「薬王の慈悲、建木よ健やかに。蒔者は一心なり、共に仙道を登らん」

その時、蒔者九万九千九百九十九人、続けて曰く「薬王の慈悲、建木よ健やかに。蒔者は一心なり、共に仙道を登らん」

そう念じた時、蒔者九万九千九百九十九人はみな生、老、病の苦を断ち切った。

処方箋:龍蟠蛟躍

当薬品は武芸の修行者、または身体能力が常人とは異なる者が使用すること。
龍の血族は使用しないこと。

処方は以下の通り:
岱輿トウキ7銭
伏冬桑3銭
波月ニンジン1銭
乾燥タラサコガネ2匹(粉末)
乾燥方壺タツノオトシゴ1匹(粉末)
以上を蒸留し、沈殿物がなくなるまで濾過する。
常温になるまで放置し、波月古海水と1対1で混合する。
持明髄1両(生きたまま)を混合液に入れ12時間静かに置く。
金の注射針で薬液を取り、筋肉注射する。

投薬後の全身の激痛、骨の異音、視力聴力の低下はすべて正常な症状である。
この苦難を乗り越えた者は、必ずや禅の境地を悟り、永久に仙道に登るだろう。

薬王の慈悲、建木よ健やかに。

「龍蟠蛟躍」の薬理作用に関する考察

「龍蟠蛟躍」の薬理作用について議論するためには、まずは少し話題を変えて、「長命」の原理から話す必要がある。

銀河に生きるほとんどの血肉の造物にとって、「長命」はもう一つの意味――つまり「癌」を内包している。無秩序に成長し、永久に生存する「長命」の細胞は、宿主の体内に浸蝕し、共倒れするまで戦い続ける。

実際、数万年にわたる試行錯誤と生存ゲームを経て、一部の癌細胞は変異の末に宿主を離れても生存できる能力を身につけ、「長命」によりほかの生物をも浸蝕する能力を得た。星暦7142年、博識学会の統治下にあるヤガールアトで感染のよる甚大なパンデミックが発生した。事後の調査で、病原体は本来珊瑚綱生物に寄生する癌細胞であることが判明した。それは偶然の変異で生物種を超えて感染する能力を獲得したのである。

単に医学的な視点から見ると、我々「長命種」は「長命」の細胞が全身に蔓延しているにもかかわらず、体内環境を一定に維持することができる。これは誠に不思議な現象と言わざるを得ない。

仙舟人と狐族の生存秘訣を簡単に説明すると、全身の細胞が必要に応じて、特殊化した細胞と幹細胞の間で変換可能である点だ。この変換は特定の秩序にしたがって行われ、その秩序が乱れることはない。

その変換の仕組みこそ最も奥深く不思議と言える。それは内分泌のレベルなどによるものではなく、その人が生まれた時から決められた「基準」で決まる。その「基準」により、細胞が分化や特殊化といった変換が行われる過程でも、身体特徴は当初の「基準」に基づいて維持される。

この生物学の規則から逸脱した現象を、我々は寿瘟禍祖の神力の現れだと帰結した。一方、長命種の生命周期がある臨界点に達した時、寿瘟禍祖の力は新たなレベルに突入することがある――本来の「基準」が壊され、肉体が極端で破壊的な成長を遂げ、文明世界に生きる「人」は、やがて理性を失った「忌み者」へと化する。それはつまり世の言う「魔陰の身」である。

また、持明族の長寿については仙舟人や狐族とは異なり、寿瘟禍祖によるものではなく、彼らが龍祖の末裔であることから、「不朽」の力がその血脈とともに流れているからとされている。

その特殊な性質から、持明族には他の長命種とは異なる生命周期が存在する。成体から幼体に戻ることが可能な生命周期を繰り返すが、それは細胞の分化転移によって実現する。また、この特殊な分化転移のおかげで、持明族は多くの長命種が悩まされる各種「長命病」にも見舞われずに済む。

「龍蟠蛟躍」の核心的な原理は、龍祖のこの力を他の生き物の体内に転移させることである。岱輿当帰、伏冬桑、波月水参…これらの薬剤の核心的な薬理作用はただ一つ、即ち持明髄の細胞を再生および活性化し、薬を注入された体内で活動を再開させることである。

長命種の中で、これらの「薬剤」は「制御可能」な形で魔陰の身を誘発する。本来であれば寿瘟禍祖の影響で無秩序に成長するはずの身体の組織が、龍祖の引導を受け、「制御可能な範囲で制御不可」の状態となる。それによって、受容体は理性を保ったまま、魔陰の身にしか得られない力を獲得するのである。

しかし短命種にとっては、これらの薬剤は純粋に龍祖の力を身体の中に埋め込むものである。この埋め込み自体、非常に乱暴なものではありながら、短期間だが確実に、本来は脆弱な短命種の身体機能を大幅に強化することができる。しかしながら、最初に埋め込んだ龍の血族の細胞が免疫反応によって全滅したあと、身体の各種機能は極度な衰退を迎えることとなる。この衰えを抑制ないし逆転することができるものは、おそらく薬王秘伝が精製した他の「妙薬」しかないだろう。

以上のことから、神策府が私に薬理作用の解析を依頼した目的は、解毒剤の製造と思われるが、残念ながら、「龍蟠蛟躍」のような薬物には解毒剤など存在しない。何故ならば、その薬理作用の核心は、龍祖の力を利用して人為的に魔陰の身を誘発するものであるからである。

もしその薬物の「解毒剤」を精製できるなら、魔陰の身ももはや不治の病ではなくなるだろう。

丹枢

漁公事件簿

仙舟で有名な推理小説シリーズ。毒を飲まされて脱鱗して子供になった探偵の漁公が様々な謎を解き明かす物語となっている。

第一案・魔陰の身に堕ちる

第一案・魔陰の身に堕ちる

漁公は仕方なさそうに首を横に振り、きっぱりと言った。「遠霞を罠にかけ、魔陰の身に堕としたのは、常鴻、お前さんじゃのう」

「遠霞が魔陰の身に堕ちたのは、寿禍の王が仙舟人に掛けた呪いのせいだ。なのに、何を根拠におれだと言ってる?」常鴻は机を叩きながら立ち上がり、不満の声を張り上げた。

夫が責められると、歓歓も立ち上がって声を荒げた。「うちの旦那は聖人君主とまでは言えないけど、人をあやめるようなマネはしないわよ!漁公、あんたの脳は身体と一緒に縮んじゃったの?」

「口を慎め!」馬朝が立ち上がり、歓歓を睨みつけた。「漁公が君の夫がやったと仰るからには、確証があるからに決まっている」

馬朝の大柄な体が勢いよく立ち上がった際、危うく頭が天井にぶつかりそうになった。この怒った巨人の前で、歓歓はこれ以上口を挟むのを諦め、席に腰を降ろした。一方の常鴻は、自身のこの先の運命がかかった問題だけに、歯を食いしばって反論しつづけた。

「魔陰の身に堕ちるのは自然現象だ。おれは職人だし、漁公はそうなる前は医者の身だ。皆事の道理ぐらい分かるはずだろう…自然現象は人間がどうこうできるもんじゃないって」

漁公は手ぶりで馬朝に座るように指示した後、まっすぐに常鴻を見据えた。じっと見つめられて、常鴻の顔には不安な色が浮かびだした。

「お前さんの言う通りじゃ、」漁公がゆっくりと続けた。「しかし…プラズマストームを操れなくとも、飛行士をプラズマストームの中に誘い込むことは可能じゃ。隕石を操ることは無理でも、その隕石で致命的な弾丸を造れないことはない。魔陰の身を操れなくとも……そこに誘導することは可能じゃろう」

常鴻は強張った顔に不自然な笑みを浮かべて言った。「ハハ…漁公、なんというご冗談を…魔陰の身に堕とす方法って、十王司の機密だろうがよ……」

「お前さんの叔父、常九は薬の売人じゃったのう。これはお前さんが常九に注文した薬剤の一覧じゃ」漁公が手で指示すると、心得た馬朝がすぐに手元の展閲を開き、発注書を見せた。

漁公は立ち上がり、慎ましく跪いて展閲を掲げている馬朝の前に歩いていくと、展閲の文を指さした。「お前さんは聡明できちんと学問を身に着けておるが、その才能の使い道を誤っておる。お前さんは方壺の狐族に処方を頼んだ……方壺の狐族は独自の医学体系を持っており、殆どの羅浮人にそれは未知の世界じゃ。お前さんの仕業は、常九をごまかし、地衡司、ひいては十王司の目を盗むことはできても……残念ながらわしは騙せない」

「一体何が言いたいんだ?」常鴻の顔から笑みが消え、冷たい視線が漁公に向けられた。

「『タンタン』、『ラカイタカ』、『チンリク』…これらは方壺の狐族の薬学書に記載されている処方じゃな。『タイビーカントウ』、我々の言葉で言うと『躁うつ病』を治す処方じゃ」。漁公は1枚ページをめくると、落ち着き払った口調で続けた。「さて、当時の遠霞さんに現れた症状は、方壺の狐族の言葉で言うと…ああ、そうそう、『カシ』、我々の言う『うつ病』じゃな」

すると、突然馬朝が怒りを爆発させながら立ち上がった。その勢いで危うく漁公が押し倒されそうになった。馬朝の怒鳴り声が響いた。「キサマ!遠霞は君を信頼して、躊躇いもなくお前からもらった薬を飲んだんだ。なのに、お前はわざと逆効果の処方で彼女の病気を悪くしたな!許せない!」

常鴻は開き直って反論した。「いいだろう、漁公、私が処方を誤って彼女のうつ病を悪くしたとしよう…でも、それで魔陰の身に堕ちるわけねえだろ?漁公も道理の分かる人間だ。『相関関係と因果関係は必ずしも一致しない』ことぐらい分かるだろ?」

常鴻の詰問に対し、漁公も一歩も譲らない。「もちろん。羅浮人の中にうつ病患者は何百万といるじゃろう。彼らは魔陰の身に堕ちることなく、無事に生きておる。お前さんがやったことは遠霞の病気を悪くしただけ――が、これは第1歩に過ぎない。

「これからが、お前さんの計画の本番じゃ。お前さんの奥さん、歓歓は毎週のように遠霞の家に通い、一緒にお茶を飲んでおしゃべりする。そこで、普段使いの物の場所を変えたり、新しい物を置いたり、元々あった物を盗んで隠したりする。また、遠霞の手紙を横取りして勝手に返事を書いて仕事の依頼を受ける……そして、困惑する遠霞さんの前で、お前さん夫婦は知らん顔で、白を切る。遠霞は、お前さん夫婦を信じて一度たりとも疑うことはないじゃろう。

「間もなくして、彼女の生活はめちゃくちゃになる。いつも使っていた櫛がどこにいったのか、新しい鏡をいつ買ったのか覚えていない。いつ仕事を承諾したのか、なぜ上司に乱暴な口をきいたのか、全くの謎じゃ。それに加えて、お前さんたちの『不思議な薬』のお陰で…遠霞は、文字通りお前さんたちに生け捕りされるわけじゃな。

「でも、一番哀しいことは、彼女が『人類』として生きる最後の瞬間まで、お前さん夫婦のことを一度も疑ってないこと。仕方ないのじゃ、世の中にこれほどまでに悪辣な心があるとは思いもしなかっただろうからよ」

魔陰の身の考証

#include(): No such page: 本棚/仙舟「羅浮」(2)/魔陰の身の考証

持明からの訴状◆

羅浮持明族龍師が六御に呈上した請願書。

  • Ver.1.1にて追加された書物。

至味盛苑レビュー九和宴

至味盛苑 九和宴の実食レビュー、非常に細かい語句の配りで食体験を忠実に届けているが、文が全体的に意地悪である。

至味盛苑レビュー 九和宴
至味盛苑 九和宴の実食レビュー、非常に細かい語句の配りで食体験を忠実に届けているが、文が全体的に意地悪である。
至味盛苑レビュー 九和宴

至味盛苑のお名前はかねがね聞き及んでいる、一度は行ってみたいと思っていたが、一日に宴席は一席のみで中々入場券が手に入らない。先月、親友に頼んで入場券を1枚獲得したので、喜んで赴きました。その日は秋空高く朗らかでした、主厨の高唐師傅は新鮮な旬の食材を選び、九和宴を設けてくれました。料理には匠心が込められており、竈神にも勝る味でした。酒を酌み交わしながら、楽しい時間は瞬く間に過ぎてしまいました、家に帰った後でもこの一食の快意は収まらなかったので、このレビューを書きました。個人的な感想となりますが、「極みに至りし味、一度は頂くべき」、です。参考の程お願い致します。

前菜 瑠璃舟
開幕となる前菜からが至味。高唐師傅は殻を剥いた蟹を取り出し、弱火で蟹の殻を軽く炙る。そしてやすりで殻を小舟の形に彫刻した、こうして手を加えられた殻はもう泡のように弾ける寸前。ハサミの肉だけを選び、飛翔チョウザメの魚膠と混ぜ合わせて肉団子にする。出汁に通して舟に載せると、生き物のように震える弾力のある肉団子が出来上がる。団子の中身は成熟した蟹を使う、蟹黄の部分だけを選び、美酒を注ぎ入れ、流砂みたいに濃厚になるまでかき混ぜれば餡が完成する。そして竹筒で餡を肉団子に注入、ここで肉団子に魚膠を入れる意味が分かります!プルプルとした団子に蟹黄を注入すると数倍に膨らみ、表面は瑠璃のように透き通り、中には芳液が流れているのが見えるのです。

主菜 酔紅溪
大自然の風貌に彫刻された活水が流れる皿に、新鮮で活力のある縁海老を入れ、杏花佳醸を注ぎ酔わせる、そして焼いた石を置きゆっくり煮る。そうすると泥酔した縁海老は鉗脚を大きく広げる!この様な絶景は仙舟でも再現し難いでしょう。微細に震える海老は杏の花の香を吸収し、タレにつけてから食べます。高唐師傅によると、このタレもかなり工夫されたものです。縁海老の群れで稀にみる女王海老を捕まえ、ペーストにし、そして驚惶花の花びらと語薇草の芽を混ぜて調合して出来上がる。これもまた帝弓の一瞥、天を穿つ味だ!

主菜 清泉流石
至味盛苑は仙舟の家庭料理 巧石三味を改良し、別格な味を引き出したのだ。秋で最も旨くなる黄石牛の肉をぜいたくに使い、玉の紋様をした下腰部の肉を秘伝のタレに漬け、弱火でしっかりと煮込みます。私はこのタレの配合を何度も聞きましたが、師傅は表情を変えずに一言皮肉るだけでした、「配合方を与えたとしても、お前ではその神髄を理解できないだろう、だから必要ないだろ?」、まったく偉そうに。その後は牛肉を炉に入れて脂が出てくるまで焼く。食卓に載せて、墨のような牛肉と飾りの花火草を出汁で流すと、花は高温で咲き、墨は脂に溶け込む、まるで夜の池に映る花火のようで、見る者を魅了する。

点心 落九天
軽食も独特なものが出されました。永狩原野の明月弓芭蕉を糖液になるまで煮詰め、蜜で調合した赤い四角いものを入れる、それは羊乳を濃縮した乳酪だと師傅が言っていた、他のところでは余り見ないものだ。さらに双生の紫芋を角切りにして中身を取り出す、瑠璃舟を作る時のように、竹筒で芭蕉の糖液を紫芋に注ぎ込む。高唐師傅の包丁さばきは流れるようで巧妙。彼が芋を氷の中に置いて温度を下げると、直ぐに強火にして蜂王漿を煮込み始める、空気の泡が出始めると、芋を放り込む、すると空気が急激に膨らみ、鍋の中が沸騰する。糖液は完全に凝固する前に皿に傾倒し、すると液体は落ちる時に滝のような形に凝結する。黄金の外殻はサクサクしていて、流砂の味は甘くても度を過ぎない。

  • Ver1.1のアプデで何故か本棚一覧から消滅している為、ゲーム内では現在閲覧不可能。