本棚/仙舟「羅浮」

Last-modified: 2024-02-22 (木) 03:58:01

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長楽天夜遊記

文学評論コーナーに掲載された一篇の雑文、仙舟で世間を憂い、感慨する人はいつも長談をする。

「長楽天雑談 仙居生活版」
星暦癸酉十一月十三日
著者:懐民

長楽天夜遊記

十月十二日、不夜侯、そこで二、三百年会わなかった工造司の旧友に巡り合う。

変な感覚だ。当初は彼と諍いが生じ、今生は二度と相手しないと決めていたのだ。しかし不夜侯で偶然にも旧友の呼び声が聞こえた時、昔の不愉快な記憶が全部吹き飛んだのだ…まさか二百年以上の月日が経ち、私たちがもう一度卓を囲んで品茶する時が来るとは思いもしなかった。

不夜侯とはこのような場所なのだろう、ここではいつも予想外の出会いが待っている。

鱗淵春を一壺また一壺注文し、途中でさらに何回か茶水をおかわりした、気付かぬうちにお茶の味は薄くなって行き、夜の色が濃くなってきた。旧友は雲騎軍に異動し、今は船舶設備の管理をしている。軍紀があるため、彼は定刻に持ち場に戻らなければいけない。連絡先を交換した後、私たちは名残惜しげに不夜侯を後にした。

町の灯火が影を揺らす。帰宅の途中、私は旧友と共に奉職していた頃を思い出す。共に凌雲璧海で飛舸を学んだ頃、私は飛行免許を取れたが、彼は試験に合格できなかった。最新の玉兆「霊瑞」を購入するため、陳氏百貨で何週間も一緒に日雇いをした頃もあった…今ではもう思い出せない瑣事で、昔はなんでも話し合った親友と二、三百年も縁を切っていただなんて。

私と旧友が仙舟人でなかったら、もしかすると百歳にも達せずに死んでいただろう、それでは再会する機会もなくなってしまう。それは実に惜しいではないか。

茶の飲み過ぎだろうか、興奮しすぎだろうか、なかなか寝付けなかった、故に夜遊でもしようかと思った。その日の洞天は、月が格別に澄明だった、逃してはならない美景だ。一人で享受するには勿体ない夜、ちょうど愛弟子も夜更かししていたので、彼を連れて長楽天を夜遊する事にした。

悠暇庭を抜け、草の間の小道を歩くと、そこは古代の建築様式を真似た亭台の廃墟だった、生い茂る草木に埋もれ、撤去されずに置かれていた。月明かりに撫でられ、この石造の建物は優しい白い光を反射する。古い様式の石獅子は草地に横たわり、天地を寝床として眠りについている、まるで月光注ぐ深潭に沈みゆくように……私と愛弟子は彼を起こさないよう、声を潜めて獅子の前を通り過ぎた。

雲紋が彫られた蓮の石柱も倒れており、精緻だったであろう元の姿はほとんど見えない、実に残念だ。時折、復古的な風格を唱える若者が現れ、古人の玩具を作り出す。私はこう考える、私も、それらを作る復古芸術家も、長く果てしない時間に畏敬の念を抱き、いつも懐古的な方式で過去が希釈されないよう試みるが、流れ逝く時間の前で、その全ては無力なのだ。

茂る草木に埋もれる石構造は命が吹き込まれたように見える。遥か遠くから声が伝わってくる、「理解しようとするな、今夜は感じるだけで良い」、ならば私も余計な思考は止めよう。気付くと、愛弟子は立ったまま眠りに就いていた。

卉萌園には往返する行人があり、月明かりがあり、砕けた石たちがある。今日はただ、私や愛弟子みたいな暇人が増えただけだ。

星槎安全検査指南

天舶司が印刷して配布している、星槎が流雲渡しを出入りする際に必要な安全検査に関する公式ガイドブック。

一 概要

「羅浮」仙舟の星槎管理及び検査は主に天舶司航事部が担います。
航事部は『星槎の安全検査に関する規定』、『星槎の法定検査技術に関する規定』などの関連条例に則り、停泊する星槎に対し抜き取り検査を行います。
同時に、星槎の所属地で年次検査を実施し、仙舟の星槎航路及び航事関連施設の正常運行を保証し、仙舟人民の命と財産を守るため尽力しています。

二 安全検査略述

星槎の安全検査を行う際、当司は星槎の海事年次検査報告を参考に、検査の詳細度を調整します。
年次検査報告と登録情報が不十分の場合、天舶司は星槎の種類、建造時間、大きさ、総トン数、出力などの方面から適用規定を確認し、それに基づき安全検査案を制定します。

全ての星槎は、安全検査に合格すれば、その場で『天舶司星槎監督検査報告』を発行されます。
検査データは星槎監督管理システムに登録されます。

三 安全検査の手順

(一)入港する星槎の責任者は仙舟の星槎監督管理システムで、船級検査の登録情報及び当司の年次検査を受検しているかを確認してください。
   『仙舟星間貿易規制条例』で禁止されている。
   または当該規制に収録されていない貨物を運輸している場合、監督管理システムで申告、登記してください。

(二)星槎監督管理システムの個人ページを開き、「最近の申告」から星槎の情報を確認してください。
  「審査通過」が表示されていれば、安全検査ページの「ルート」画面を開き、ナビゲーションと音声通知に従って渡し場へ向かい、船舶登記及び仙舟臨時通行証の申請を行ってください。

(三)「最近の申告」で星槎を確認して、「渡し場照合中」が表示された場合、ナビゲーションと音声通知に従い、渡し場へ向かいシステムの照合をお待ちください。
   照合が完了次第、「羅浮」仙舟の臨時通行証を発行します。

(四)「最近の申告」で星槎を確認して、「船舶検査」が表示された場合、天舶司の安全検査チームが船舶へ検査に向かいます。
   停船して船員適応証明など必要な証明書を用意してください。

(五)船舶検査の途中、『仙舟星間貿易規制条例』で禁止されている、または当該規制に収録されていない貨物を発見した場合、流雲渡しの税関で一時差し押さえます。
   そして貨物の種類に基づき相応の税金を徴収し、航行禁止の処罰を与えます。
   三ヶ月以内に再度条例を違反した場合、天舶司の星槎監督管理システムは星槎の所有者を永久的に除名します。

(六)船舶検査の途中、星槎に規定に反する不正改造を確認した場合(船室の改装及び拡大、間仕切りの撤去など)、または船舶の設備が消防、
   安全の基準に満たない場合(エアロゾルスプレー、酸素隔離パックなどの設備を定期交換していない)は、欠陥を明確に指摘し、相応の改善要求書を発行します。
   そして改善要求書に従い船舶を整備してください。
   次の入港時、同じ安全問題が確認された場合、天舶司の星槎監督管理システムは星槎の所有者を永久的に除名します。

(七)渡し場で登記を終えた後、流雲渡しで全船員の保安検査を行います。全船員の船員適応証明と臨時通行証を用意してください。
   具体的な検査規範は、星槎監督管理システムで確認するか、渡し場で天舶司の職員から通知されるのをお待ちください。

星槎入出港報告管理報告

天舶司が印刷して配布している、星槎の入港、出港に必要な申請書に関する規定。

天舶司公開書類

第一章 総則

第一条
星槎が入出港する際の報告行為を規範し、仙舟内の交通安全を保障するため、『羅浮交通管理条例』、『星槎の安全検査規範』などの規定に則り、本措置を制定する。

第二条
民間星槎が仙舟「羅浮」が管轄する星域内で、港及び港外積載場所の出入りなどを行った場合、本措置が適用される。
本措置は雲騎軍戦闘艦、星産船、競技用飛舸には適用しない。
本措置が定める入出港の報告とは、星槎の所有者がネットワーク、郵便物などの方式で、天舶司に港及び港外積載場所の出入りなどを報告する行為。

第三条
天舶司は星槎の入出港報告の主管機関であり、仙舟「羅浮」で星槎の入出港報告を統一管理する。
天舶司航事部は具体的に、管区出入り報告の情報を接収、検証、管理し、就航星槎の登記及び星槎監督管理システムに関する航事業務を担う。

第四条
星槎入出港報告の管理は法に則り、公正誠実、国利民福の原則を徹底する。

第二章 事情報告

第五条
星槎が下記の状態にある場合、航事部に星槎の入出港情報を報告するべき。
(一)埠頭、停泊位置、投錨地、積載場所で貨物の積み上げ/積み下ろし、運送、人員の乗降、物資の補給または汚染物の接収を行う場合、入港報告を提出するべし。
(二)貨物の積み上げ/積み下ろし、運送、人員の乗降、物資の補給または汚染物の接収を完了し、埠頭、停泊位置、投錨地、積載場所を出る場合、出港報告を提出するべし。

第六条
下記の状態の内の一つに当てはまる星槎は、入出港報告の提出を必要としない。
(一)仙舟所属の星槎が星外から仙舟内部に入境する、または仙舟内部から星外へ向かう星槎に対し、既に規定を遵守し当該航次の星間航行の星槎入出港手続きを終えている場合。
(二)「廻星港」の自用補助星槎が区域内で作業する場合。
(三)天舶司の星槎が巡察、法務執行などの公務活動を行っている場合。

第七条
下記の状態の内の一つに当てはまる星槎は、簡易報告の形式で入出港報告を提出できる。
(一)港内の関連作業に従事している星槎。
(二)宇宙空間作業区域の範囲内で航行または作業している星槎。

第八条
牽引移動する星槎の場合、被牽引星槎は入出港報告を自ら提出するか、「曳槎」が報告するかを選択できます。
星間で救助、運輸、牽引を行う際に、臨時に被牽引星槎を増加、減少する場合は、速やかに入出港報告を提出するべき。
応急処置、人命救助などの緊急事態が原因で、規定のプロセスで入出港報告を提出できなかった場合、任務完了後に速やかに入出港報告を追って報告すべき。

(以下略)

この星芋ぷるっぷる不味すぎる

SNSの書き込み記録のスクリーンショット、星槎海のお茶の味について討論している。

「閑談しよう 宣夜前線放送」

物事をどう見るか、森羅万象をどう見るか、どれも重要な事だ——宣夜前線放送司令

【昼休みの一刻】この星芋ぷるっぷる不味すぎる

【削除されたアカウント】ユーザー九三二四六三五三
9月21日

この星芋ぷるっぷる不味すぎるって思ってるの僕だけじゃないよね?今年の「仙人爽快茶」の新製品、どれも人が飲める味じゃないよ!@仙人爽快茶-逍遥茶飲、お宅さんの星槎海支店の店員に聞いてみたいよ、この拳ほどの大きさの芋、どうやって吸い上げるんだ?お茶の味も水みたいに薄いし、濃縮液入れるの忘れたんじゃないの?

特別な観星士
9月22日

仙人爽快茶は濃縮液を使っているのか!?じゃあ俺はどんな味を求めて飲んでいたんだ?隠元豆が煮過ぎているからか?里芋を洗わずに使っているからか?宣夜にある26の茶屋、こんな度胸あるのは仙人爽快茶だけだろうな?

夜遊する隠元豆派博士
9月23日

今の羅浮で真っ当な茶飲店は「不夜侯」だけでしょうね、少なくとも、そこはまだ古式の方法でお茶を淹れているわ。量販機器しか使わないそこらの路上販売よりは全然マシよ。/ 再投稿で「不夜侯」クーポン券を抽選

ありがとう、そしてさようなら、すべての玉兆よ
返事:夜遊する隠元豆派博士 9月23日

うううむ、予想できる展開だ。いつの時代だと思っているのかね?まだ「不夜侯」を吹聴する者がいるだなんて。あそこの若い店主はどう見てもお茶を理解していない人だろう。あの店をおだて上げているのは茶を知らない殊俗の民ばかり、羅浮の地元民はそこでお茶を飲む事なんてないであろう?

陳婆豆腐の弓芭蕉和え
返事:夜遊する隠元豆派博士 9月23日

一目で「不夜侯」の老いぼれだと分かる発言ですね、塵砂壷で淹れたお茶は普通の杯で淹れたお茶よりも美味しいのですか?「御茗」に行ったことはありますか?あの店の入り口に最近置かれた大きな茶壷を見たことありますか?隣に「羅浮古物、触れるべからず」と札があるんですよ。私から見れば、「御茗」こそが尚古の手本です。それでも「不夜侯」に行こうと言うのなら、それこそ私たち羅浮人の面汚しです。

夜遊する隠元豆派博士
返事:ありがとう、そしてさようなら、すべての玉兆よ 9月23日

黙って聞いていれば「羅浮人」やら「地元民」やら、それこそ私たち仙舟人の恥よ!いつまで経っても過去に閉じこもっている頑固頭はあなたたちの方よ!「寰宇は浩瀚也、来る者皆客である」、学舎で教わらなかったのかしら?@宣夜前線放送-驚惶鹿、当番の管理人に不当発言の審査、削除をお願いします!

蹉跎に任す
9月29日

いやはや、なんて嘆かわしい、仙舟の茶道も亡くなったものよ。調和する風味の中庸、古雅堅実な行い、奉茶尊老の倫理、品茗述意の謙和…旧き時の美徳善行は今の羅浮にはもうない、雲散霧消よ!雲屯見えず、鳴泉見えず、撩雲を失い、烏府も消えた。全ては金属の不細工に替えられた、なんと醜い!茶具の隠蟄はやむを得ないが、茗道までが消失するとは。路上で散策しつつ茶を飲むなど、何たる様だ!仙舟は天涯も比隣の若しを求め、万物繋ぐ連絡網を設けたが、乱り言が飛び交じり、言葉が意義を失っておるではないか。此れ誠に仙舟危急存亡の秋也!

陳婆豆腐の弓芭蕉和え
10月2日

真の羅浮人が来ましたよ!皆さん早く逃げましょう!それと、このお方掲示板間違えてません?(笑)

宣夜を燃やす肖像
返事:蹉跎に任す 10月7日

先生のお言葉はごもっともです。しかし今の仙舟もそれ程まで廃れてはおりません。不才、羅浮の茶産業で働いてしばらく経ちます。私の観察では、新しく出てきた金工の茶器は品茶のハードルを下げているのですよ、古来の「丹鼎素針」では茶具がたくさん必要ですし、準備に時間もかかります。それが原因で飲む人もだんだん少なくなっています。今のように、殊俗の民でも仙舟茶道の精髄と特色を味わえるのは、いい事だと思います。

陳婆豆腐の弓芭蕉和え
10月10日

正直者が来ましたよ!皆さん撤退です!

バック・トゥ・ザ・未来

仙舟の星槎ブランド「飛梭」が出した、最新型民間星槎の広告。

「山游隼」、過去から今まで遊歴する浪子

私たちは「山游隼」の試作型を天舶司のテスト飛行士に預け、彼が星間のレースコースで試乗運転を完了するのを見届けました。

飛梭グループのロゴが目の前を通り過ぎた瞬間、心の底から湧き上がる誇りは本当に、本当に言葉では表しきれないものでした。あの飛行士には感謝します。彼の飛行は「羅浮十日リレー」での勝利を思い出させます。過去の全てがもうすぐ帰ってくるのです。

あの頃の私はまだ若かったです。まだ「飛梭銀索」、「鹿原狻猊」、「重霄蒼鸞」などの伝説の星槎が、私をどのように変えていくのを想像できませんでした。私は信じています。「山游隼」はきっと次の世代の星槎飛行士を激励すると。
——「山游隼」主席デザイナー

「山游隼」の設計の内核を成すのは、私たちと星槎の間の最も根源たる繋がりです。その純粋で、人間味があり、本能的な繋がりです。同時に、この星槎は私たちの広大な蒼穹に対する原始的な渇望をも表わしているのです。そして全ての飛行士が持つ、天空と我は一体、という精神の再帰でもあるのです。
——「羅浮」雑誌編集長

「山游隼」は游隼シリーズの流れを汲み、軽やかな設計理念を引き継ぎ、そこに新型のほぞ嵌合技術を取り入れました。優雅な曲線、最強の心臓。雲騎軍戦闘艦と同型の「狩日」エンジン、操縦席に座ればその重厚な唸り声が聞こえてくる。これは無限の可能性を秘めた猛禽なのです。

全包囲型の操縦席と内嵌合式のコクピットは競技用飛舸の操縦体験を完全に再現し、幾万の観客が歓声を上げるレース場を彷彿させます。こだわりのある飛行士の方には、星槎エンジン出力のオーダーメイドを提供できます。あなたが思い描く野獣を忠実に再現して差し上げましょう。

疑いようもありません、「山游隼」は操縦体験の極みに達しているのです。私たちはカスタマイズできる操作画面を設計しました、飛行士の皆様はご自身の癖に合わせて、星槎の各機能を調整できるのです。そして、前代の游隼星図の拡張計器盤と比べ、「山游隼」の簡潔でスマートな画面はより初心者に向いているでしょう。

「山游隼」は常識を覆す操縦体験をもたらしますが、これらの「破格」は安全設計の枠をはみ出していません。工造司が新開発した失速防止システムを「山游隼」で初運用、さらに姿勢制御装置も全面的にアップグレードしました。最新の特許技術を用いた設備は、AI制御で星槎が極限飛行を行う時のドリフト角をコントロールし、どのような曲技飛行でも安全を保障できるのです。

飛梭グループが全力を傾注して造り出した次世代星槎——「山游隼」は皆さまの試乗をお待ちしております

軽雨、塵埃を浥す

星槎海の有名旅館「浥塵客舎」の広告。

賓客遥かより至りて、舟車の旅頓に労する。雅舎は迎客せんと欲すも、軽雨塵埃を浥す。

巍峨たる辰宮、艶やかに輝く宣夜。

浥塵客舎は星槎海の中心に位置します。伝統的な仙舟の風格を受け継ぎ、風雅、友好な羅浮の印象を保ち続けてきました。ここでは清潔な寝床、温和な風呂場、精緻な饗膳を用意し、周全な礼数を以てお客様を接待させていただいております。客舎は枕戈時代の前から建設されており、風雨の中500年過ぎました。

浥塵客舎は当初の心持を忘れず、全ての星間旅客に親切なサービスを提供します。客舎のリフォームを記念して、観光セットを用意いたしました。この広告を持ってチェックインして頂いたお客様には心地よい宿泊体験と観光案内サービスを提供いたします。

浥塵での宿泊──軽雨塵埃を浥し、ここにて停まる

客室からは小橋が延び出しており、戸を出ることなく羅浮の絶景を楽しめます。
自動調整できる天窓と仕切り、全時間帯の全域採光を保障し、自然の風をお届けします。
珠玉を飾る帷幕と柔らかい光を放つ灯籠が室内を綴り、感応式の屏風はジェスチャーで簡単に操作できます。
星槎海中枢に位置し、ここはいつでも仙舟の心臓の脈動を感じ取れます。
欄干から見渡すと、宣夜通りの人の流れと星の明滅をその目に収められます。
客舎は交通が便利な立ち位置にあり、目の前に数々の美景が広がっています。
ここからは、お客様がご所望の物にも景色にも、手を伸ばせば直ぐ届きます。

浥塵での食事──鼎の中に万般の変化、精妙たり微繊たり

弊舎は特別に、尚滋味の板前に指導してもらい、独特な醒園料理で仙舟に名を馳せております。
定期的に至味盛苑と提携し、徳悦料理、明亭料理などの仙舟料理を提供しています。
昼頃は茶部屋の方で品茶致せます。
春の日は、群賢集茶舎で摘まれた朝露小芽がお勧めでございます。
他にも仙酒玉露や清醸漿など、羅浮の各式旨酒をご堪能ください。
購入証明を以て龍泉老窖、柳林美漿などの飲料を試飲できます。

浥塵での享受──縦横する阡陌、仙舟の経緯

弊舎は様々な地点をつなぐシャトルで、都市を覆う交通網を有しています。
舎内で通行証の申請を完了でき、仙舟の貨幣への両替も承っております。
弊舎は、24/7でサービスを提供できる人員を控えております。
観光案内、商品仕入れ、貿易協商など様々な事務について、弊舎は全面的なサポートを提供いたします。

お客様のご来臨をお待ちしております。

殊俗の民でも学べる生粋な仙舟の諺100句

天舶司が出版する、殊俗の民に仙舟文化をよりよく理解してもらうための冊子。

旅行編・初めての仙舟

【情景】

グリーンは仙舟に来たばかりの殊俗の民の旅客です。彼女は仙舟の生活に憧れていました。玉界門を通り、グリーンは先ず「羅浮」仙舟の星槎海に到達しました、そこで彼女はネットフレンドの寒梅梅に出会いました。グリーンは仙舟の風土と人情に詳しく、殊俗の民の中でも「仙舟通」と言える程ですが、実際の仙舟生活は彼女が想像していたのとは違い、いつも新鮮に感じていました……

【情景会話】

寒梅梅「長旅お疲れ様!歓迎するわよ、グリーン」
グリーン「ありがとう、寒梅梅」
寒梅梅「疲れたでしょう?先ずは浥塵客舎に行って休憩しましょう」
グリーン「いえ、疲れていません、もう少し散策したいです。ネットで仙舟に関する知識をたくさん勉強しましたが、実際に来てみると、知らないものがたくさんありますね」
寒梅梅「これが『百聞は一見にしかず』だよ!」

【俗語】

百聞は一見にしかず

「解釈」聞:聞く。百回聞いても、その目で一度見る事に及ばない。その目で確かめた方が話を聞くより確か、という意味。
「使い方」本来は、実際の状況に基づいて問題を処理すべき、人は自身の独立した思想を保ち、他人の思想に支配されるべきではない、という意味。
派生として、「聞いた話より実際見た方が分かりやすい」という意味がある。

【使用場面】

前からこの龍泉老窖はうまいと聞いてたんだけど、尚滋味で注文してみたら、大いに失望したよ、正に百聞は一見にしかずだな。

旅行編・贈り物

【情景】

グリーンは司辰宮で貿易申請の申告を完了した、貿易協定を無事締結した後、彼女はいつも自分を手伝いをしてくれる寒梅梅に感謝しようと思った。彼女は故郷から持ってきたお菓子を贈り物として寒梅梅に贈る……

【情景会話】

寒梅梅「おめでとう、貿易協定を締結したのね、よかったね。尚滋味の今夜の予約を取ったの、一緒に祝いましょう」
グリーン「ありがとう、寒梅梅!あなたにはどう感謝しても足りないぐらいよ、こちらは私の故郷のお菓子よ……」
寒梅梅「本当にありがとう、じゃあ遠慮なくいただくわね!」
グリーン「ささやかな贈り物ですが、心を込めています。どうぞ受け取ってください」
寒梅梅「かしこまり過ぎよ!」

【俗語】

ささやかな贈り物ですが、心を込めています

「解釈」大した贈り物ではないけど、気持ちがこもっている。贈り物の価値は問わない、重要なのはその心、という意味。
「使い方」謙遜を表す世辞、一般的に贈り物を贈る側が口にする。仙舟の社交儀礼では、ほとんどの世辞は実際の意味を持たない、しかし文雅で体面的なので使っている、多くの殊俗の民には理解し難い行為。
仮に高価な贈り物を贈ったとしても、仙舟人は「ささやかな贈り物ですが、心を込めています」と言い、贈り物の価値を自ら貶める。この行為を虚偽、不誠実と受け取ってはなりません。
そのため、贈り物を受け取る側は「ささやかな贈り物ですが、心が込められていますね」と言ってはいけない、何故なら、その言葉には「他人の贈り物を貶める」という意味があり、仙舟の礼儀に反しているからだ。

【間違った使用場面】

この玉兆は大したものじゃないけど、わざわざ送ってきてくれてありがとう、ささやかな贈り物だけど、心が込められているよ。

仕事編・職場での生活

【情景】

クラウドは仙舟に仕事を探しにやって来た殊俗の民。先月、彼はグリーンの下で対外貿易の商品倉庫管理の仕事についた。面接に受かった後、彼は流雲渡しの積玉坊倉庫で貨物登録の仕事を始めた。でも彼はよく遅刻したり、仕事中にボーっとしていたりするので、グリーンは彼と一度話し合うことにした……

【情景会話】

グリーン「どうして巡査査定する時、いつも仕事場にいないの?」
クラウド「タイミングが悪すぎるんだよ」
グリーン「今度仕事時間に持ち場を離れたら、解雇するしかないわよ」
クラウド「はは、好きにしなよ」
グリーン「なら、遠慮するよりはあなたの言うとおりにするわ」

【俗語】

遠慮なくいただきます

「解釈」敬って遠慮するより、命令をこなす事。
「使い方」本来は、相手が友好的な態度を示した時、礼儀正しく遠慮するより、遠慮なく受け入れる、という意味。相手のもてなしや贈り物を受ける際の世辞。この情景では、「私たちの間ではこれ以上遠慮する必要がない」、と言った意味を表している。
この俗語は元々謙遜の言葉であり、自分に対して使うものだった。そしてそれに対する敬辞は敬いを表す用語で、他人に対して使うもの。仙舟での生活では、謙譲語の対象を柔軟に区別し、謙譲対象にズレが生じないよう注意しましょう。

【間違った対話での使用】

「ここに三千人分の人事記録があります。今日中に登録し、私に転送するように。遠慮するよりは言うとおりにしてください」

人形には向かない職業

十王司の判官を主人公とした小説。都市伝説を脚色してある。ネットで連載されていて、アクセス数は普通。

その1

「文字書きになろう」
ここで起きたこと、見たものは必ずしも真実ではない――都市伝説

【超新星連載】人形には向かない職業

フライングチェスの名手
8月10日

……

観頤台、そこは丹鼎司の管轄下にある、養生の道を学ぶ場所だ。建物の軒先を1人の男が疾走している。

すぐさま軒先の道が尽きる、足の下にあるのは虚空のみ。次の瞬間、男は屋根から飛び上がり、カクウン運輸の機巧鳥に掴まった。鳥はあらかじめ録音していた警告文を不満げに呟き、体を揺らしたが、結局、彼を受け止め、遠くに停まっている星槎へと飛んでいった。

丹鼎司の守衛たちが屋根の上に駆けつけた時にはもう、虫のように飛んでいく男の影しか残っていなかった。

一人の守衛は、その徐々に小さくなっていく後ろ姿を見つめていたが、急に崩れ落ちるように座り込んだ。その目には涙が浮かんでおり、震えるような声で「終わりだ。何もかもおしまいだ」と呟く。

もう1人が彼に近寄り、「寧薩、これは俺たちの責任ではない」と言いながらため息をついた。そしてすてばちな口調で「十王司に報告しよう。彼等が解決してくれるはずだ」と続ける。

「解決?」寧薩と呼ばれた衛士は声を張り上げた。「賀徳、教えてくれ。どうやって解決すればいいんだ?神降ろしの時代の処方を隠した玉兆が、あいつに持って行かれたぞ!あの薬の処方は仙舟が千年に渡り守り続けてきた秘密だ。表に出たら一体どうなってしまうのか……」

寧薩は言葉を止めた。自分の相棒がいつまでも相槌を打たず、背後の部下たちも同様に押し黙っている姿を見て、立ち上がる。「しかし俺たちはあいつの顔すらまともに見てないんだぞ!十王司でも何もできないだろう」

彼が言葉を言い終えるより先に、一同の背後から「覚えています。安心してください」という声が響いた。氷のように冷たい女性の声だった。

兵士たちは自然と中央の道を開ける。そうすることで、声の主の姿が明らかになった。それは短く黒い髪の少女だった。手には鎖と錫杖を持っている。繊細でかわいらしい顔は見る者の背筋が凍るほど、無表情だった。

「観頤台辺りは機巧の接近が禁止されています。ですが、私は例外です」

少女はそう言いながら、屋根の端へと歩いていく。その声はまったく変わらず、冷たい。「すべての貨物用の機巧鳥は地衡司に登録してあります。勝手に改造したら、すぐにでも気づかれましょう」

「じゃあ、あの鳥はどう説明すればいい?見たんだろう?」と寧薩が聞く。

「ある種の生物信号に乗っ取られたのでしょう。あの殊俗の民は不思議な能力を持っています。気になりますか?」少女は答えた。

寧薩は少女の気迫に圧倒され、何も言えなくなってしまい、危うく再び地面に座り込みそうになる。賀徳は動物的な本能で少女を観察し、慎重に「すみません、あなたは……」と尋ねた。

「十王司の判官です」

少女はそう言うと、屋根から飛び下り、あっという間に姿を消した。

仙舟賢者
8月10日

先生!ついに先生の連載が始まったんだ!毎回必ず読むよ!先生、ありがとう!

情熱的ネット民マー姉
8月10日

十王司?題材は悪くないけど、私が想像している十王司とはかけ離れているよ。これじゃあ、仙舟の外の諜報小説にあるような設定を無理矢理当てはめてるみたい。作者は『愛と束縛の視聴原理』をもっと読んだ方がいいと思う。この冒頭部分よりずっといいから。

六つ目の飛び魚
8月10日

技術的な描写がすごく細かいね!現実的でびっくり!この人って本当に十王司で働いていたんじゃないの?

フライングチェスの名手
返信:六つ目の飛び魚 8月10日

お褒めいただき恐縮です。考証に力を入れているだけです。

雪外套
8月12日

おもしろい。

月月月月
8月12日

フライング先生の新作キターッ! #花びら#拍手#抱擁 これを待って827年生きてきたんだよ!! #花びら#拍手#抱擁 先生、ここを見てね。この書き込みだよ。先生の作品には毎回書き込みして、いいねを押して拡散しているよ。

存在主義の茶館
8月12日

「一流」。フライングチェス先生の物語を展開させる技術は、仙舟では間違いなく一流だよ。視点の移動から人物の描写、設計まで、あらゆる物語の緊張感が集約していき、最後になって解き放たれるんだ。

フライングチェス先生の作品は全体が臨場感のある文章を土台にしていて、洗練された描写はまるで生き物みたいなんだ。読者に監視、観察されている中でも、登場人物を導いてくれる。

判官様の犬
9月7日

判官様の犬の犬になりたい。判官様の鎖で思いっきり叩かれたい!!!!!判官様、私はあなたの犬です!あなたなしでは生きていけません!!!!!判官様ぁぁぁ!!!!!!

雪外套
返信:判官様の犬 9月7日

キモいんだけど。

その2

「文字書きになろう」
ここで起きたこと、見たものは必ずしも真実ではない――都市伝説

【超新星連載】人形には向かない職業

フライングチェスの名手
8月15日

前回までのあらすじ:古の不老長生の秘密が盗まれ、陶人形のような十王司の少女はすぐに犯人を追いかけた。彼女は秘密が暴かれる前に、犯人を捕まえなければならない……

背の低い狐族の女性判官が慎重な口調で「十王司といえども、何の証拠もなしに生物信号の識別はできません。そのような判断はいささか独断的なのでは……」と言った。

「重要なのは信号そのものではありません」少女は相手の言葉を遮るように、「観頤台に神降ろしの時代の処方があり、それが殊俗の民に奪われました…」と言い放つ。

「それはつまり……」狐族の女性は上司に「頭が悪い」と怒られやしないかと心配しながら、恐る恐る聞いた。

「もしかして観頤台が物を広告に載せて、殊俗の民にまで消息が届いたとか?」、「徹底的に調べてください。解雇されたり、自分から辞めた医師もすべて」と付け加えた。

「お嬢さん、お待ちを。ここは男子トイレで…」

トイレの入口で灯りを持っていた男性は言いかけたが、最後まで話すより先に、首に冷たい物体を当てられた。下を見てみると、それは槍先のような形をした錫杖だった。

彼の言葉によれば、自身がこれまでの300年を平和に過ごせてきた理由は「時の流れに逆らわなかった」ことに尽きる。彼はすぐさま「お急ぎなんですね。それなら止めませんよ。アハハ」と笑みを浮かべた。

そして彼は奇妙な姿勢をとり、振り向いて笑いながら、一目散に暗い路地へと逃げ出していった。

黒髪の少女は錫杖で「トイレ」の前にかけられた汚れたのれんを上げ、中へ入っていった。

のれんの奥からは強烈な臭いが漂ってきて、鼻を刺激する。しかし、それはアンモニアではなく、ピリピリするほど濃い次亜塩素酸ナトリウムの臭いだった。仙舟の住民のほとんどは法律を遵守する。廃墟となった公衆トイレで医館を開く者がいるとは誰も思いもしなかったのではないだろうか?

その「医館」の奥では、1人の医師らしき男がぼんやりとしていた。少女は幽霊のように、相手に気づかれるより先に飛び出し、一本の鎖は魂があるように彼を縛り付け、そして錫杖の先は相手の喉元に押し当てた。

「観頤台に隠されていた秘密の薬の処方ですが、誰に話したのですか?」少女はそう尋ねると、相手が話せるように右手の力をやや緩めた。

「薬の処方…何の薬のことか分からない。うっ……」

その男が何ごとか話したところで、少女はすぐに力を入れ、彼の首を絞めて言葉を遮る。

少女は「あいつは何者ですか?」と聞きながら、再び右手の力を緩めた。

「ゴホッ、ゴホッ…知らない…うっ……」

「十王司の判官が審問する方法を何種類知っています?ふ…最後にもう一度聞きます。あいつは何者ですか?」と尋ねながら、少女は槍先のような形をした錫杖を回収し、その体格と釣り合わない力で男を持ち上げた。

「ゲホッ…コヴェントリー!ゲホッ、ゲホッ…アルバート・コヴェントリーだ!話したぞ!話したんだから命だけは助けてくれ!」

男は急に全身の力が抜けるような感覚と共に、両足から崩れ落ち地面に倒れた。我に返り、少女の顔を見ようとしたが、暗い路地のざわめきしか残っていなかった。まるで、先ほどの嵐めいた尋問が嘘だったかのように。

仙舟賢者
8月15日

先生!ついに先生の連載が始まったんだ!毎回必ず読むよ!先生、ありがとう!

冬外套
8月15日

この章はなかなかだね。

六つ目の飛び魚
8月16日
さすがは「仙舟ハードボイルド小説の王」と言われるフライングチェス先生!逆転や驚きの伏線だらけとはね!この水準は誰も敵わないよ!

フライングチェスの名手
返信:六つ目の飛び魚 8月16日
お褒めいただき恐縮です。お恥ずかしい限りです。私が見る限り、私よりも優れたハードボイルド作家はたくさんいますよ。

六つ目の飛び魚
返信:フライングチェスの名手 8月16日
ありえません!絶対にありえません!先生、謙遜しすぎです。先生の「仙舟ハードボイルド小説の王」の称号は決して伊達ではありません。今の時代に、先生より優れた作家なんていませんよ。

哲学と精神を愛してる
9月15日

精神分析学の観点からすると、作者は他人の脳内に入るにはやや大きすぎるようだ。自己同一性を覚醒させ、指の滑らかな動きを制御すべきだ。

フライングチェスの名手
返信:哲学と精神を愛してる 8月16日

一体どういう意味でしょうか?

判官様の犬
10月28日

ああああ判官様、どうして彼を励ますのぉぉぉぉぉ!!!!!彼をぶつんじゃなくて、私をぶってよぉぉぉ!!!おもいっきりぶってぇぇぇ!!!!私は判官様の犬なのにぃぃぃぃぃ!!!!!

冬外套
返信:判官様の犬 10月28日

どこに住んでるの?現実で話をしよう。

判官様の犬
10月29日

自分の不適切な発言を深く理解し、反省しています。今後は言動に気をつけ、仙舟の模範となるように努めます。愛読者の皆さんもお気をつけください。レビューコメント欄の世界は治外法権ではありません。

その3

「文字書きになろう」
ここで起きたこと、見たものは必ずしも真実ではない――都市伝説

【超新星連載】人形には向かない職業

フライングチェスの名手
8月20日

前回までのあらすじ:犯人は大きな罪を犯しており、判官は裁きを下す。結果だけ見れば、誰も知らない秘密が何であろうと外部に漏れない限り、特にどうということはない……

少女は持っていた巻物を開き、そこに同時進行で更新、表示される地図を見つめながら考えを巡らせた。

「コヴェントリーが手に入れた情報は、薬の処方ではない。そういうことですか?」狐族の女性判官は、おずおずと聞き出した。

「薬の処方は目眩ましにすぎません」少女は地図を見つめたまま答える。

「つまり…私の考えを述べれば、コヴェントリーは利用された薬乞いにすぎないのではないでしょうか。観頤台に騒ぎを起こし、彼らの研究を消そうとする人がいるはずです。盗みを利用して注意を逸らそうとしたのです」狐族はそう言いながら、いくつかの印を少女が持つ巻物に送信し、「データを復元できる卜算者を見つけておきました」と付け加える。

「よくやってくれました」少女は頷いたが、その口調は相変わらず冷たかった。

狐族の女性判官はその冷めた褒め言葉を聞き、険しい表情を保とうとしたが、両耳は言うことを聞かず、どうしても揺れ動いてしまう。

約3時間後。誰にも尾行されていないことを確認したコヴェントリーは部屋のドアを開けた。「ただいま」

だが、彼はドアを開けるなり、異変に気がついた。部屋の中が真っ暗なのだ。しかも、いつもなら常軌を逸した仙舟のハッカーが奇妙な歌を口ずさみながら出迎えてくれるはずなのだが、今日は静まり返っている。

彼は心の中で「まずい」と呟くと、すぐに武器を取り出し、暗闇の中を慎重に進んだ。

部屋の屏風の後ろから、白い影がゆっくりと姿を現す。コヴェントリーは思わず手弩の引き金を引く。

2寸ほどの長さに、蝉の翼の如く薄い青の矢が飛び出し、少女の秀麗な顔のすぐ前で止まる。矢じりからは火花が飛び散り、まるで見えないバリアを必死に貫こうとしているかのようである。

「どうして、居場所が分かった?」

「機巧鳥」。冷たく、生気を感じない女性の声が聞こえる。

「あのドローン?とっくに飛ばしたよ!」男が言葉を濁す。

「ジャミングを受けた機巧鳥は地衡司に捕らえられた。太卜司にとって、機巧鳥の飛行ルートさえあれば、君の居場所を見つけるのに十分だ」。少女は蝶々を弄んでるように、空中で震えている矢じりを軽く触れた。

これがコヴェントリーが待ちきれていた、間一髪で逃げる瞬間だ。

彼はひざを曲げて前方を向け、かかとに力を入れ、手のひらからかすかな紫の電弧が現れた。コヴェントリーはいろんな世界を渡って、長年にカンパニーに指名手配されても捕まえられない理由は、綿密な計画を立てていたことだけじゃなく、捕まえられそうなときに何をすべきかはっきりしているから。

彼の人造皮膚の下に、電気パルスネットワークが埋め込まれていた。仙舟の長命種やら、工造司の機巧やら…全力で一撃をすれば、おそらく全員が灰になってしまうだろう。

「電磁場、フル回転!」

「やったのか!」男は敵に命中した手応えを感じた。電気の出力維持に全神経を集中させなければ、彼はすでに大声で笑っていただろう。

煙が上がり、火花が散り、不快なにおいが周辺に満ちた。

コヴェントリーは自分の体をコントロールできないように震え、敗北した衝撃で、真っ暗な部屋はぼやけた影に化した。

「動きが遅すぎる」。少女は影から実体化した。

う、動き?コヴェントリーは不自然な角度に曲がっている自分の手首を見つめた。いつの間にか、その手はすでに彼の顎近くに押し付けられていた。

「電気を使ってるのに、絶縁はしないなんて。使えない技だね」

真っ白な服を着ている裁判官は一切の感情を顔に出していない。

「『長生に堕とす』、『不死を求める』。これらは許されざる不赦十悪の筆頭です。あなたは罪を認めますか?」

男の震えが止まらない――それは電撃だけではなく、恐怖による震えでもある。

彼は残った僅かな理性で懇願する。「ど…どうか命だけは。薬の処方はまだ見ておりませんので…今すぐにこの処方を置いて、羅浮から出ていきます。もう二度と私の顔を見ることはないでしょう!」

コヴェントリーは気を張りながら、判官の判断を待っていた。しかし、暗闇の中、沈黙が続く。しばらくすると、沈黙の中から存在しないはずの嘲笑が聞こえてきた。

そして氷のように冷たい声が再び響く。神聖、かつ毅然としており、反論を許さない口調で一言ずつゆっくりと言い放った。

「十王の聖裁」

仙舟賢者
8月20日

先生!ついに先生の連載が始まったんだ!毎回必ず読むよ!先生、ありがとう!

情熱的ネット民マー姉
8月20日

この賢者って何かの自動返信のbotでしょ?

冬外套
8月20日

ちょっと大げさだけど気に入った。

六つ目の飛び魚
8月20日

「仙舟ハードボイルド小説の王」がまた新作を発表した!誰よりも早く率先して応援するよ!この作者に比べたら、いわゆる「名著」と呼ばれている作品なんて読むに値しない。本当にお金と時間のムダ!仙舟にフライングチェス先生がいてくれて、我々読者は本当に幸運だよ!

フライングチェスの名手
返信:六つ目の飛び魚 8月20日

過分なお褒めのお言葉、ありがとうございます!あなたのように見る目がある読者がいてくれて、私のほうこそ幸運です!

景元は最初の夫
返信:六つ目の飛び魚 8月21日

この六つ目の飛び魚ってフライングチェスの複垢でしょ?

フライングチェスの名手
返信:景元は最初の夫 8月21日

変な言いがかりは止めてよ。フライングチェス先生の複垢なわけないでしょ。フライングチェス先生の生き生きとした文章を真似できると思う?

景元は最初の夫
返信:フライングチェスの名手 8月21日

アカウントの切り替えを忘れてるよ。

判官様の犬
11月2日

判官様、逮捕して!!!!自首します。罪を犯しました!!!あなたに惚れるという罪を犯しました!!!判官様、私をあなたの犬にしてください!!!!!

冬外套
返信:判官様の犬 11月2日

いい加減やめなよ。

星槎海を守ろう

地衡司の日常生活をテーマとしたドキュメンタリー動画ファイル。手に負えないような民事紛争が記録されている。

その1

>>>(動画ロゴ:地衡司宣伝局)

地衡司は、最も身近でありながら、最も馴染みの薄い機関でもある。

我々は毎日地衡司の執行人が忙しなく働いている様子を目にしているかもしれないが、彼らの普段の仕事内容を知っている者はほとんどいないだろう。

我々の映像を見れば、この最も身近でありながら馴染みの薄い彼らのことをより深く理解できるはずだ。

>>>(「星槎海を守る」のクレジットタイトルを挿入)

星槎海。仙舟羅浮でおそらく最も賑やかで、交易が盛んな場所だ。仙舟の地元の住民と殊俗の民は、ここで衣食を賄い、普通の暮らしを送っている。

【大毫の見解】皆に注意しておく。「殊俗の民」という呼び方は公式の宣伝文句ではできるだけ使用せず、「外から来た客」または「一時滞在の旅行者」という表現を使うようにすること。知っての通り、これはお上の意向だ。今は文明間の交流に対して開放的で共生する姿勢が求められている。その言葉は多少なりとも排他的に受け取られてしまうからな……

しかし、どんな素晴らしい場所であっても、銀河では予測不可能な不協和音が生じるものだ。そして、その不協和音を正し、元通りの生活を奏で続けるには、地衡司の努力が欠かせない。

今日も…本来であればうららかな日であった。昼過ぎ頃、女執行人の旭光は星槎海の港エリアを定期巡回していた。賑やかな街並みを見て、旭光は気分をよくする。

>>>(警報音を挿入)

しかしその時、突然舞い込んできた通報が、旭光の穏やかな気分を吹き飛ばした。通報者によると、不夜侯の入口で2人の殊俗の民が決闘を始めようとしているそうだ。

通報を受けた旭光はただちに出動し、殊俗の民が流血沙汰を起こす前に現場に到着した。

2人を宥め、ひとまずその場を収めた旭光は、そのまま事情を聞くことにする。

>>>(アイーガ族の風習に関する資料を挿入)

2人の名前は、ジャーマンとアクラ。アイーガ族の仲間であり、故郷のエンタメ産業を活性化させるという夢を抱いて一緒に仙舟へやって来たそうだ。そして、2人は仙舟の発達したエンタメ文化を故郷に持ち帰ると決めていた。

>>>(場景模擬動画を挿入)

数日前、ジャーマンは「胡蝶の幻境」の重要技術特許を手に入れられると話す仲介人に出会った。

仙舟にしか存在しないエンタメ技術を故郷に持ち帰れると思ったジャーマンは、壮大な夢を頭に巡らせた。彼はすぐさま自分とアクラの全財産から半分を出し、その「重要技術特許」を買い取った。

もちろん、どのようなものであろうと、殊俗の民が仙舟の技術を簡単に買えるはずがない。ジャーマンが買ったのは重要でも何でもない特許だった。騙されたことに気づいたジャーマンは不夜侯にやってきて途方に暮れた。そんな時に、アクラがわざわざ彼に報告するためにそこを訪れる。

【大毫の見解】この文章の最初の一文は、故意ではないにしてもまた排他的になっている。外から来た客たちに対して、我々が「先進的文明の視点」を持っているという印象を与えないように。

アクラはジャーマンに、たった今、ある仲介人から「胡蝶の幻境」の重要技術特許を買ったこと、しかも価格も2人の全財産の半分という適正なものだったことを興奮気味に話した。

この件に関して激しい議論を行った末、文字通り一文無しになった2人は、決闘でこの問題を終わらせるしかないと考えたのである。

>>>(支援企業の広告を挿入)

その2

>>>(動画ロゴ:地衡司宣伝局)

地衡司が扱う厄介な問題の中でも、ジャーマンとアクラの一件は最も手の焼ける部類に入るだろう。

>>>(アイーガ文明圏の資料を挿入)

仙舟と殊俗の民の生活様式には先天的な違いがあり、仙舟現地の法律の多くは殊俗の民には適用されない。同じ文明の殊俗の民同士で権利侵害などの事件があった場合、司法の場では通常はその文明自身の法律に従って判決が下される。

【大毫の見解】もう疲れた。作者に修正を依頼する時、「殊俗の民」という言葉をすべて「尊敬すべき客」に変換してもらうこと。

本事案の場合、ジャーマンとアクラの所属するアイーガ文明圏では、一般的に「決闘」であらゆる対立や争いを解決できると考えられている。そのため法に則れば、仙舟人には2人の決闘に干渉する権利はない。

しかし、感情と法律の境界は明確に区別されていないのかもしれない。

>>>(場景再現動画および仲裁映像を挿入)

「一体いつの時代のやり方よ!」

事情を聞いた旭光は一喝した。そして2人の間に立ち、彼らが互いに危害を加えないようにする。

「いつの時代であろうと、アイーガ人にとって決闘は自身の尊厳を保つための最良の方法なんだ!」とアクラが反論した。

「だけど、財産を騙し取ったのはあなたたちじゃないでしょ。どうしてお互いを傷つける必要があるの?」と旭光は窘める。

するとジャーマンが「確かにそうだ。だが、俺たちのどちらかが騙されなかったら、今頃は一文無しになっていないはずだった!俺たちは家に帰るための金すらなくしてしまった!」と言った。

>>>(優しい音楽を挿入)

旭光は説得を続ける。「故郷に帰りたいのなら、天舶司が力になってくれるわ。詐欺師が捕まるまで待ち、騙し取られたお金を取り返したいなら、天舶司があなたたちに一時的な住まいや糊口を凌ぐための仕事を紹介してくれるはずよ」

感情が高ぶっているアクラは話す。「だけど、故郷に帰っても両親に合わせる顔がない。ここに残っていてもお互いに顔を合わせづらいし…だって、自分が欲張ったせいで全財産を騙し取られてしまったんだから、恥ずかしすぎる!」

話を聞き終えた旭光は、この事件の本質を理解した。短命種族の時間はいつも駆け足で過ぎ去ってゆく。彼らは、自身が何も成し遂げられないことに不安を感じているのだ。旭光は長く執行人を務めているが、このような事件に遭遇することは珍しくなかった。

心配いらないわ。2人が努力すれば、あと40年は生きられる。どんな問題でも時間が解決してくれるはずよ

【大毫の見解】この仲裁の会話は、地衡司の職員が仲裁業務に関して十分な素養を持ち合わせていないことを露呈している。異なる種族間の生物学的差異を無視して、短命種族のトラブルを「時間がすべてを解決してくれる」という言葉で終わらせようとしている。新人教育をしっかりするように!

>>>(場面転換の音を挿入)

旭光の優しい忠告を聞いたジャーマンとアクラは、和解するどころか、突如大声をあげて泣き出してしまった。一瞬にして収拾がつかなくなり、何としても決闘で決着をつけ、死ぬまで止めないと2人は主張する。

>>>(支援企業の広告を挿入)

その3

>>>(動画ロゴ:地衡司宣伝局)

旭光は感情を暴走させる2人を見て、頭を痛めた。

おそらく自らの優れた交渉術に自信を持っていたであろう彼女は、さきほどまではその技術を用い、2人を落ち着かせようと頑張っていた。しかし、今のジャーマンとアクラは感情のコントロールを失い、もう彼女が何を言おうとも聞き入れることができない状態になっている。

【大毫の見解】自画自賛はよせ。この台本の交渉術のどこが優れているんだ!

>>>(旭光執行人、ジャーマン、アクラへの取材を挿入)

このような困難な状況に遭遇した旭光は、地衡司の執行人に必要不可欠な、柔軟で臨機応変な思考といった優れた資質を発揮した。

狐族には「言葉は拳よりも力があるが、拳は言葉よりも効果的だ」ということわざがある。

【大毫の見解】天舶司に行って御空様に聞いてこい。もしくは狐族なら誰でもいいから直接聞いてこい!狐族はそんなことを言わないぞ!

「もうやめなさい!決闘で笑顔になれるなら、戦えばいいじゃない――でも、あなたたち同士で戦うのではなく、私と決闘して。私が勝ったら、おとなしく言う通りにしなさい」

ジャーマンとアクラはしばらく考え、話し合った。その結果、旭光の提案を受け入れることにした。

>>>(ジャーマンとアクラへの取材を挿入)

最初に決闘に臨んだのはジャーマンだった。彼は礼をすると、安全な距離をとるために後ろへ下がった。そして、武器を持つと凄まじい勢いで旭光に突進していく。長年に渡り女性用の護身術の訓練をしてきた旭光は半身をひらめかせ攻撃をかわし、指を剣の代わりにしジャーマンの「神封」穴を正確に打ち抜いた。

一瞬息ができなくなったジャーマンは、足並みが乱れ、そのまま倒れ込んでしまう。決闘は一瞬で幕を下ろした。アクラは一部始終を見ながら呆然としていた。

【大毫の見解】ここはまるごと削除。ただの宣伝用動画の台本なのに、どうしてこんなに細かい格闘描写が必要なんだ?それにアイーガ人の人体構造は仙舟人と同じなのか?ツボや経絡があるのか?

>>>(ジャーマンとアクラへの取材を挿入)

アクラは半ば諦め顔で出てきた。仲間の敗北を目の当たりにしたせいか、彼は武器を持たず、素手で構えた。旭光は手の平を空に向け、雲のように手を動かしアクラの一撃目を払うと、拳を次々とアクラの胸元に叩き込む。瞬きをする間に2戦目の決闘も決着がついてしまった。

【大毫の見解】戦闘描写を楽しみたい作者の気持ちは分かる――まあ、いい。この部分は俺が書き直そう。このような台本を世に出したら、文明論争を引き起こしてしまうからな。

2人が立ち上がるよりも先に、旭光がパッと前に出て彼らの退路を塞いだ。颯爽とした姿の女執行人は2人の前に立ってその手を掴むと、互いにしっかりと握手するように言う。

「ジャーマンもアクラも私に負けたんだから、決闘はここまで。2人とも仲直りしなさい!」

>>>(旭光への取材を挿入)

その後、ジャーマンとアクラは天舶司の助けを借り、船に乗って自分たちの故郷へと戻った。

一方、旭光については、武力で外交トラブルを解決したことが物議を醸した。地衡司の上層部が話し合った結果、彼女は戒告処分となった。

こうして地衡司はまたしても仙舟の平和を守ったのだった。

>>>(エンドクレジットの演者一覧を挿入)

【大毫の見解】よく考えたんだが、やはり脚本を書き直してくれ。俺はもう直したくないんだ。こんな宣伝内容が一般に向けて公開されたら、最後に残された地衡司の評判すら地に落ちるぞ!

雲騎と歩離の戦い

狐太鼓のリブレット。とある雲騎軍の将軍と歩離人の血戦が記述されている。仙舟では広く知られて人気もある。

……
(台詞)
将軍は孤児を見かけた。城外には歩離が押し寄せている。将軍は立ち止まって尋ねた。

「少年、どうして逃げないんだ?歩離が来てから助けを呼んでも手遅れになる」

その孤児は将軍を見ても臆することなく、口を開いた。すると真珠のような涙が零れ落ちた。

(歌詞)
将軍!寿禍が攻めてきて、
母と他の星へ逃げました。
流浪の身となって母とはぐれてしまったのです。
なんと悲しいことでしょう!

将軍はその言葉に涙した。
大切な人がいなくなって耐えられるはずがない!
私は邪悪を葬るように聖なる命を受けている。
これ以上悲劇を生み出してはならない!
……

……
(台詞)
将軍が歩離の船を破壊すると、無数の魔物が艦橋から現れた。将軍はそれを見て笑顔を浮かべ、心の中で思った。

(歌詞)
後顧の憂いを絶たなければならない。
寿瘟禍祖が私に復讐せずに済むようにしてやろう!

(台詞)
そして彼は丹田に力を入れて一喝した。世間で言われるのは――

(歌詞)
将軍の艦橋から怒声が響く。
彗星が逆流するほどの叫び。
帝弓より三尺の剣を賜り、
汝の首を斬り落として鎖を断ち切る。
いつか因果殿に来たとき、
この人生に未練を残さないようにするために!
……

瞑想忘却療法:健康と長寿、永遠に!

魔陰の身に堕ちずに済むという謳い文句の医療広告。治療法の継承者は祖先に逆らうような決断を下した。

ご存じですか?80%以上の仙舟人は800歳を過ぎてから魔陰の身に苦しめられます!
ご存じですか?50%以上の仙舟人は、しっかりとした頭で900歳の誕生を迎えることはできません!
ご存じですか?90%以上の仙舟人は、瞑想忘却療法が100%の仙舟人の晩年の暮らしを救えることをまだ知らないのです!

魔陰の身に堕ちる根本的な原因は、無意味な記憶の過度な累積です。
よく考えてみてください。子どもの頃の遊び友達の名前を本当に覚えておく必要がありますか?不愉快な仕事の経験を本当に覚えておく必要がありますか?失敗に終わった恋愛を本当にいちいち覚えておく必要がありますか?
そして、その不要な記憶こそが魔陰の身の元凶なのです!

研究の結果、人の大脳の機能の60%は自分で制御できないことが分かりました。たとえば心拍、呼吸、睡眠、代謝、そして記憶と忘却です!
しかし、実は瞑想忘却療法の継承者カント医師が、記憶と忘却は完全にコントロールできることを証明してくれました!
カント医師は今年で3176歳になりますが、今でも頭の回転が速く、他人の意見にも耳を貸してくれます。

彼はこのように言っています。
「私の一族は代々、魔陰の身に堕ちることから逃れ、しっかりした頭で数千年も生きている。これは私の先祖から伝わる瞑想法のおかげなのだ」
「一族の長老は、決してこの秘密を世間に漏らしてはならないとずっと私に戒めてきた。仙舟人の全員が数万年の寿命を持つことは決して好ましいことではないからだ」
「しかし、仙舟人が苦しみにあえぐ様子を目の当たりにした私は、先祖の言いつけに背くことにした!」
「私が開発した瞑想忘却治療器を購入すれば、不要な記憶をすべて簡単に忘れ去り、穏やかな脳を取り戻すことができる!」

患者インタビュー

文綿(2434歳):「瞑想忘却治療器を使い始めてから、学生時代の嫌な思い出を全部忘れられた!あばただらけのいじめっ子から殴られていたことや、好きな女の子が下級生の後輩に告白されて付き合ってしまったことも忘れられた!全部忘れられた!魔陰の身に堕ちないようにするには、幸せな気分になることも必要だよ!」

思松(1453歳):「年齢を重ねるにつれて、何事も能力が追いついていかないように思えてきた…だけど、瞑想忘却治療器を使い始めてから、黄金時代のことを忘れ去り、自分が最も輝ける時代が戻ってきたように思えた!瞑想忘却治療器は私の人生のピークを取り戻してくれたんだ!」

花怡(1800歳):「瞑想忘却治療器なんて偽物に違いない、私の年齢も嘘に違いないと言う人は大勢いる。そんな疑念に対して言いたいことは1つだけ。瞑想忘却治療器を買って、自分で試してみて!そうすれば頭がすっきりするし、自分の疑問がどれだけ馬鹿げていたのか分かるから!」

ここで朗報です!瞑想忘却療法は十王司と協力交渉を行っており、初の「仙舟魔陰の身救済事業」の指定製品となる見込みです!そうなれば、仙舟人は魔陰の身の苦しみから完全に解放され、健康な永遠の命を手に入れられるかもしれません!

現在、幅広い消費者の皆様への還元として、カント医師が期間限定の先行プランを提供しています。瞑想忘却治療器が普及する前に、その素晴らしい効果を体験するチャンスです!

まさに早く買った方がおトク、遅れれば一生後悔です。今すぐ玉兆を手に取って注文しましょう!ホットラインにダイヤルした先着100名様には、宝餌堂の健康食料ギフトをプレゼントします!

こんなチャンスは二度とありません!

瞑想忘却治療器!健康と長寿、永遠に!をよろしくお願いします。

万類事典

仙舟の動物ノート。生物の外見、習性、関連する薬、レシピ、ことわざなどが網羅されている。

毛類・黄石

黄石

「別名」
石牛、眠石、八百里ともいう。

「容貌」
コブのような角、尻尾は短い。光沢のある毛を持つ。石のような皮膚をしている。

「習性」
性格は温厚。寒いと山の中にこもる。冬に入る前に草や木の実をたくさん食べる。この時、肉質がよく、最も美味である。程なくして谷間などに移動し、冬ごもりのために石になると味がしなくなる。そのため、季節限定の珍味である。

「伝説」
かつて仙舟人の牛飼いが遠く離れた洞天の中で心を落ち着かせるため、300年帰ってこなかった。その兄が訪ねに行き、兄弟が顔を合わせると、悲しみと喜びの気持ちが入り交じり、弟は「牛でもてなそう」と言った。しかし、食事はどこにもなく、あるのは岩場だけだった。兄が不思議に思っていると、弟は「牛よ、立て!」と叫んだ。すると、山間に果てしなく広がる黄石が数万頭もの牛に変身した。

「特徴」
肉:甘く、温かく、無毒。
乳:甘く、やや冷たく、無毒。
角:苦く、温かく、無毒。

「効能」
肉:食欲増進と気の充実、筋骨の強化。
乳:心を穏やかにし、胃や肺に優しい。
角:傷の治癒と止血、下痢止め。

「推奨調理法」
巧石三昧:石頭スープともいう。黄石の首の肉と肋骨を数本取り、皮や筋を取り除いてから銅鍋に入れる。鱗淵朝露を数斗取り、その中に浸す。石キノコ、石タケノコを洗って薄く切り、弱火で煮込む。冷えやむくみを解消し、胃腸の調子を整えてくれる。

備考:
検証の結果、当時、辺境の洞天で牛を飼っていたのは丹鼎司の方士で、野獣の改造に長けていたことが分かった。そのため、この伝説は生物改造の実例であると思われる。

毛類・夢獏

夢獏

「別名」
夢君、長安、仙枝ともいう。

「容貌」
鼻が長く、角はない。毛皮に星のような模様がある。

「習性」
季節ごとに移動する獣。温泉、渓谷など、熱のある場所に生息する。警戒心が強い。鯨すら呑み込むような鼻をしており、カゲロウや小魚を捕食する。

「伝説」
夢獏が生息する泉には、気持ちを落ち着かせ、心を静める効果がある。水中で呼吸すれば、霊気を生み出す。昔、羅浮人はよく夢獏の角を薬として服用し、安魂散と名付けていた。悩みや悲しみを抱えて寝付けない人によく処方されていた。

「特徴」
肉:辛く、温かく、無毒。
角:苦く、冷たく、無毒。

「効能」
肉:喉の渇きを癒やして唾液の分泌を促す。血液を作り出して乾燥を防ぐ。
角:気を通して痛みを止める。気を体内に取り入れて落ち着かせる。

「推奨調理法」
夢枝:夢獏の角は、実はフンの塊だ。現在では、高値をつけるためにフンの模様や種類をでっち上げ、わざと等級分けしたりする悪徳商人がいる。私見だが、夢枝は装飾品としたり、切って香として焚いたりすると、確かに心を落ち着かせる効果がある。だが、口から摂取する必要はないだろう。

安魂散:夢獏の角をすりつぶした後、材料として用いる。ミネラルを多く含んでいるが、食べ過ぎると毒になる。

備考:
地衡司が調べたところ、夢獏の角はすでに薬として使われていない。その幻覚効果は中毒作用に近い。

毛類・晴柔

晴柔

「別名」
浮羊、巻婁、天胆根ともいう。

「容貌」
角は曲がり、尻尾はない。毛皮は柔らかく、手触りはふわふわしている。

「習性」
群れで生活し、温厚な性格。毛玉に似ている。攻撃されると、空気を吸い込んで体全体を膨らませ、空中に浮遊して捕食者から逃れる。群れで上空へと漂い、旅人のようにゆったりと移動する。

「伝説」
昔の仙舟人は毛皮のために飼っていた。群れで集まるので、当時の人たちは長い縄で羊の頭を結んでいた。現在では、伸縮性のある皮革、丈夫な空気袋の両方が星槎に使われている。天舶司の規碧空の牧場で晴柔を飼っているが、自由に暮らしている。

「特徴」
肉:甘く、とても熱く、無毒。
乳:甘く、温かく、無毒。
角:塩辛く、温かく、無毒。

「効能」
肉:食欲増進と内臓の活性化、冷えを解消して体を温める。
乳:肝臓と肺を温める、滋養強壮。
角:精神の安定、目のはたらきの改善。

「推奨調理法」
逡巡漬け:浮羊の肉を洗って細切れにし、土鍋に入れて、星ネギ、イモコショウ、パウンドアーモンドの粉末で漬け込む。強火で骨や肉が溶けるまで煮込み、飛翔チョウザメのスライスをすり潰してペースト状にすると、非常に美味しい。

天賜緋羊:龍泉の穴蔵の中で煮込んだ肉を選び、しっかりと巻いて漬け込み、淵境鱗の石で重しをする。骨まで酒がしみこんでから取り出し、紙のように薄く切って食べる。

備考:
記されている羊の群れの管理方法は古すぎる。現在では長い縄で羊を結ぶやり方はしていない。

毛類・笑茸

芙茸

「別名」
芳角、行枝、驚惶鹿ともいう。

「容貌」
角は木の枝のようで、春には花が咲く。尻尾は短く、毛皮は柔らかい。手触りはふわふわしている。

「習性」
角は花々と共に成長し、枝には節ができており、花の塊のように見える。捕食者に追われたり、驚いたりすると、角の花を周囲に散らし、敵を混乱させる。

「伝説」
昔、仙舟の民はその花を集めていた。ある上品な人が春の宴を設け、小さないかだに乗って、芙茸を探し、洞天まで追い回した。詩を作り、音楽が奏でられる中で空いっぱいに花が舞うのを見ていた。

「特徴」
肉:甘く、温かく、無毒。
枝の茸:甘く、温かく、無毒。
花や葉:苦く、冷たく、やや毒がある。

「効能」
肉:脾臓の機能を高めて気を補い、腎臓や胃に優しい。
枝の茸:肝臓と肺を温める、滋養強壮。
花や葉:熱やむくみを解消し、汗をかかせる。

「推奨調理法」
キノコ金飯:小さな芙茸が春先に咲かせた花の塊を取り、しっかりした色の花びらを選んで、符草のスープと岩塩少々でさっと茹で、一晩置いておいた紫米少々をこれに加えて煮込む。長く食べていると、心が落ち着いて視力がよくなる。鱗淵境の水で煎じると非常によい。

湯綻新芯:ナイフでキノコの芯を取り、食用ロウソクにつけ、蜜の入った容器の中に入れる。夏、鱗淵の地熱泉のそばで、地面に直に置くと、花の塊が開き、素敵な香りが漂う。

備考:
絶滅危惧生物だが、地衡司の管理の下、現在は一定の個体数を保っている。

『帝弓足跡歌』注釈

仙舟の歴史を題材とした歌行体叙事詩。歴史的英雄「帝弓」の波乱に満ちた生涯を描いている。

その1

【原文】

帝弓足跡歌 [注1]

作者不詳

昔の蒼城に琅玕が多かったのを見る前に、邪悪な星に呑み込まれて消えてしまった。
昔の円嶠に碧瑰がたくさんあったのを見る前に、星におびき寄せられて遠くへ行ってしまった。
昔の岱輿に沙棠があったのを見る前に、火の粉のように燃え尽きてしまった。[注2]
星中が荒廃しているのを見る前に、この世はわずかな草だけになってしまった。
ぼんやりと夜明けが訪れ、広大な荒野に波乱が起こり始めた。
各地で争いが起こり、中央でも皆が武器を手にした。
帝王は諸侯を受け入れることにし、金人は武器を回収して灯りを消した。
八つの地方を統一し、九つの地に同じ風が吹き始めた。[注3]
仙使は翼を受け取って青空に覆われる。叩けばなおさら穹桑を思う。[注4]
しかし、船は深い空を越え、星を飛び越えて薬王を訪ねる。[注5]
九つの船は曜青と呼ばれ、船内の洞天には義賊が大勢いた。
義賊で最も強い帝弓は、惑星を狩ることすらできた。
上は宇宙の果てに石珀を取り、下は星淵に虚鯨と戦う。[注6]
朝に偃偶を溶かして鉄鉞を揺らし、晩に視肉を斬って旗を掲げる。[注7]
五艦は丘陵の煙に消え、八船は川の霧に包まれる。[注8]
帝王が古の国を平定したことを思い返しても、その武勲は帝弓に及ばない。

【注釈記】

[注1] この詩は「歌行体」になっている。このような詩歌は自由な押韻と柔軟な形式が特徴的だ。さらに「歌」、「行」で題名をつけることが多い。詩が長くなるので、注釈では読者が読みやすいよう、物語の展開によって節を分けている。

[注2] 琅玕、碧瑰、沙棠はいずれも古の国の神話に出てくる神樹である。伝説では、幹はとても美しく、果実は人を不老長生にすると言われている。岱輿、円嶠、蒼城はいずれも滅びた仙舟である。岱輿は于星暦1200年に豊穣の民「視肉」との戦いの中で爆発した。円嶠は星暦3200年に「鬩牆の戦い」の中で制御不能となり、赤い巨星へ向かったまま行方不明になった。蒼城は星暦6300年に活性化惑星「呑界羅睺」に呑み込まれた。これらのことから、この詩が作られたのは少なくとも星暦6300年より後だと推測されるが、後世に追加された可能性もある。

[注3] この部分は仙舟同盟が古の国の時代、無名の帝王が惑星を統一したことを描いている。「金人が武器を回収」とは、帝王が世界中の武器を回収していることを指しており、金人がうまく治安を維持していることが分かる。

[注4] 「仙使」とは豊穣の民の「造翼者」のことである。「穹桑」はその母星であり、星のエネルギーを吸収する惑星級巨大樹である。この部分から、豊穣の民が古の国の時代に、仙舟の各部族と接触を持っていたことが分かる。

[注5] 「薬王」とは寿瘟禍祖のことであり、「豊穣」を司る。今では「薬王秘伝」と呼ばれることが多い党派のことだ。

[注6] 「石珀を取る」とは仙舟の民が星神「クリフォト」のウォールを観測したことを指している。「虚鯨と戦う」とは、星暦500年前後に、仙舟同盟と虚空歌鯨の部族が接触したことを指す。「虚鯨と戦う」のは「石珀を取る」より前のことであるはずだが、作者は倒置させている。他の資料には、帝弓は星暦1700年前後の生まれとあるので、これらの出来事を経験しているはずがない。ここは明らかに脚色である。後の文にも同じようなことが見られるので、繰り返して説明はしない。

[注7] 「偃偶を溶かし」とは、仙舟の民が金人の手から船の支配権を奪い取ったことを指す。星暦1400年前後に起こり、歳陽の戦いまで続いた。「視肉を斬って」とは、星暦1200年前後に仙舟が視肉と戦ったことを指している。

[注8] 「五艦」、「八船」はいずれも仙舟同盟の全艦船を指す。実際の数ではない。

その2

【原文】

君子は無数の玄兎を操り、君子は数々の金烏を動かす。[注1]
どこからともなく火の手が上がっているのが見える。歳陽が毒であることをまだ知らない。
文章にならなくても害をなし、詩や酒がなくても人を楽しませる。
幻想を通じて夢を見なくてはならず、悲しみや楽しみを鬼神に与えてはならない。[注2]
帝弓は炎のような洞察力をもち、神のような腕を広げて燃え盛る風を迎えた。
炎に包まれた敵は恐れを抱き、煌々たる赤き星は網に落ちる。[注3]
死んだ兵士は二百人、彼らを天に捧げると誓う。
中駆を分解して穴をあけ、それを持って仲間の槍とする。[注4]
火皇の奥深くへと潜り込み、雲雷が穹閣を揺るがす。[注5]
一瞬にして星が飛び散り、たちまち銀河が赤く染まった。[注6]
精霊の炎をとらえ、魔力を封じて舟や車を養わせる。[注7]

【注釈記】

[注1] 古の国の神話では、「玄兎」は月を指し、「金烏」は太陽を指す。ここでは帝弓(仙舟)が宇宙を航行している様子を指している。

[注2] 記録では、「歳陽」は形のないエネルギー体生物であり、人の感情を吸収して人の意志に影響を与えられるとのことである。

[注3] 「赤き星」とは、歳陽が仙舟を捕獲するために自ら集合したマイクロ型恒星である。赤色をしていた。

[注4] 古の国の古文書には、「軍の先鋒を先駆といい、その次を中駆という」とある。ここの「中駆」とは、仙舟曜青のサブエンジンを指す。この文は、帝弓が決死隊を率いてサブエンジンを分解して武器に変え、歳陽と戦ったことを言っている。

[注5] 「穹閣」とは、仙舟羅浮の居住地「登雲群閣」のことである。太卜司の「瞰雲閣」とする説もある。ここでは爆発の衝撃が広範囲に及んだことを言っている。

[注6] 記録では、仙舟の決死隊は武器にしたサブエンジンを歳陽の恒星に送り込んで滅亡に追いやり、崩壊させてブラックホールにしたとされている。この文は仙舟文学史上初めてその展開を描いたものである。

[注7] 記録では、歳陽との戦争が終わった後、仙舟の民は歳陽の首領「火皇」を封印し、永遠の人生の残りは、仙舟朱明のために動力を提供するという判決を下したとされている。

その3

【原文】

君子は努力して氷蟾を駆逐し、恐れながら六龍にむち打った。[注1]
船団は遠い場所を転戦し、魁元は恐れおののきながら天柱を受け取る。[注2]
神の術は多くの秘密に包まれているが、神の実在が現れる。
言葉のために野馬が抜擢され、成長のために涓塵が使われた。[注3]
玉兆と呼ばれる宝石が作られたが、天意をうかがい知ることはできなかった。
帝弓は玉を飲んで尋ねようとし、遍智は夢を南柯に託した。[注4]
知識の海が栄えるのは見ず、血が流れる地獄だけを見る。
残傷や汚染は何と苦しいことか、嗔恚、他化、無記のむなしいことよ。[注5]
走り回りながら叫び、狂ったように太卜を嘲笑する。[注6]
これを笑い、これを嘲り、これを哀れむ。老若男女、人種を問うことなく。
帝弓は急に貴族を叱責し、生を貪っていては昏侯と変わらないとした。[注7]
玉露は横たわるくびきにすぎず、やじりが神の悪に挑むことを教えている。
振り向くと引いた弦から龍の舌がでている。度肝を抜かれて恐れおののく。
ついに寒棺で長きにわたり眠りを守る。かつての英雄を振り返ることはない。[注8]

【注釈記】

[注1] 古の国の神話では、「氷蟾」は月を指し、「六龍」は太陽を指す。ここでは帝弓(仙舟)が宇宙を航行していることを指している。

[注2] 「魁元」とは、仙舟羅浮を指し、同盟の中で頂点に立っていることをたとえている。「天柱」とは建木を指す。この部分は建木の種子が仙舟羅浮の中心で芽生えたことを言っている。ただし、仙舟羅浮は建木を受け取った後に同盟の頂点に立ったので、ここは脚色の可能性がある。

[注3] 古の国の古文書では、「野馬」、「涓塵」は雲や塵埃を指している。この文は倒置法になっており、大まかな意味は「雲や塵埃はすべて建木の成長のために使われた」ということである。記録では、仙舟の民が建木の神体で実験を行った結果、動物が「進化」を遂げ、人類の知能や言語を真似できる「言葉を話して歩く獣」が現れたとされている。この文はそのことを指しているのだろう。

[注4] 「玉を飲んで」は賢者玄曜が玉兆を頭にはめ込み、未来を予知できるようになったことをモチーフとしている。ここは明らかに借用である。「遍智」とは遍智天君のことであり、「知恵」を司る。

[注5] 「残傷」、「汚染」、「嗔恚」、「他化」、「無記」は魔陰の身に堕ちる時の5つの症状である。「残傷」とは、肉体が外界からの暴力によって著しく損傷し、自己治癒能力によって長く苦しい修復を行わなければならないことを指す。「汚染」とは、肉体が不滅であるが故に、何らかの手強い宇宙のウイルスまたは細菌に感染し、長期間にわたって共存することを指す。「嗔恚」とは、恨みや他人を傷つけようとする気持ちが芽生え、激しい喜怒哀楽の中で感情が大きく起伏し始めることを指す。「他化」とは、肉体から変異した器官ができ、人間としての姿を保っていられなくなることを指す。「無記」とは、心が謎の虚無感に支配され、空虚な状態に陥ってしまうことを指す。この部分は帝弓が玉を飲んだ後、仙舟の民が不老長生によって魔陰の身に堕ちる悲惨な未来を見たことを描いている。

[注6] 「狂ったように太卜を嘲笑する」は仙舟の伝説に由来している。伝説によれば、ある仙舟にいた者が建木の神体は宇宙の異物であると考え、長命に反対し、狂ったふりをして意見を表明したそうだ。ここの「太卜」とは仙舟の貴族のことであり、さらには建木の神体をも指している。貴族は仙舟で最も早く神体を受け取った者たちだからである。

[注7] この部分の「昏侯」とは、古の国が統一された時の無名の帝王を指す。帝弓は、仙舟の民が無限の寿命の誘惑に惑わされ、死を恐れて生を貪ろうとした無名の帝王と同じだとして、激怒したのだ。

[注8] この部分は帝弓が不老長寿に反対し、神聖なものと見なされている建木に矢を放ち、自分の決意を示したことを描いている。不死の薬を飲んだ仙舟の貴族たちは驚きと怒りを抱き、帝弓を有罪とした。しかし、英雄のこれまでの功績と人望を恐れた貴族たちは、帝弓に眠り続けるよう判決を下すことしかできなかった。「眠りを守る」とは、仙舟同盟の初航海の時、仙舟の民が一定時間ごとに冷凍キャビンで休眠しなければならなかった制度を指している。「寒棺」とは冷凍キャビンのことである。

その4

【原文】

年月を重ね、浮き沈みする銀河の中に何かがある。
初めて見る穹桑は巨大で、他の星をことごとく呑み込んでいた。
最後尾は霧のような線になり、仙使の持つ武器は霞のようだった。[注1]
襲われると誰もが分かったが、立ち向かう術がない。
木の枝に戦闘艦を貫かれ、金の光が飛舸を揺らす。
窮地を脱するには帝弓を目覚めさせるしかない。絶体絶命の中、奇策で囲みを突破する。[注2]
首領と杯を交わすべからず。ただ、歳陽が肉体を共にすることを願う。
兵士を徘徊させるべからず。ただ、火皇と仇敵を討つことを願う。 [注3]
人の世は一瞬のものに過ぎず、英雄などはいない。
天下の群雄が立ち上がり、雲翳となって大空を守った。[注4]

【注釈記】

[注1] 「霧のような線」、「霞」は豊穣の民の軍隊の規模が大きいことの比喩。

[注2] 侵略を防ぐため、仙舟の民は帝弓を眠りから目覚めさせることにした。目覚めた帝弓は戦局を分析し、奇策で包囲を突破する。

[注3] 豊穣の民を撃退するため、帝弓は忠告を押し切って仙舟朱明の奥にある牢獄へ向かい、囚われ続けている歳陽の首領「火皇」を説得する。そして自らの肉体と引き換えに歳陽の助けを借りるという取引をした。

[注4] それぞれの仙舟では、大勢が英雄の献身に応え、英雄と同じ取引をした。彼らは決死隊に加わり、歳陽と手を組んで行軍し、空を覆う雲のように仙舟を守り、決して地上に降り立たないと誓った。これが「雲騎軍」の名前の起源である。

[付注]
ここでは血戦時代(およそ星暦5000年から星暦8000年)の「三劫」の1つと言われた「火劫」について描かれている。当時、仙舟朱明はある大質量の天体の引力を観測したが、いかなる光信号も捕捉できなかった。仙舟同盟が十分に近づいて初めて、観星士はその巨大な物体が星々を呑み込むダイソン・ツリーであり、古の国の時代の大敵、造翼者の故郷「穹桑」であることに気づいたのだ。
視肉の巨獣艦も再び現れたことで、仙舟の民はさらに震撼した。造翼者は視肉を操り、両者の間にはある種の共生関係が成立していた。そして、「建木」の力に引き寄せられるかのように、「穹桑」は仙舟「羅浮」にゆっくりと近づいた。やがて両者の間に仙舟史上、最も壮絶な戦争が勃発する。
これまでに鬩牆の戦い(「三劫」の1つである「生劫」)、金人の裏切りと移住計画を経験したばかりの仙舟の民には、これほど大きな危機に立ち向かう力は残されていなかった。民衆は凍結監獄の全囚人を目覚めさせて解放した。その中にはこの詩の主人公である帝弓も含まれていた。

その5

【原文】

帝弓は船首に立ち、力いっぱい軒轅を引いた。[注1]
命を捨てて死ぬ覚悟で戦えと言ったが、今日の戦いで形勢を変えなければならない。[注2]
この後には常勝が続くと教えたい。強い意志を持って悪を一掃せよ。[注3]
玉帯宝石は雲海を抜け、一矢で星を貫く。
空には稲妻が走り、地上では雷が鳴り響いている。
矢の影は三山の月に落ち、矢の音は百谷の風を巻き起こす。
虚陵は昼に血の雨を降らせ、方壺は夜を赤く染めた。[注4]
百尺の霊木は滅び、湧き出る流れが虚空を埋め尽くす。[注5]
霧がゆっくりと消えると、精霊と帝弓の姿はなかった。[注6]
残された弓を溶かし、古錠を鋳造して静寂に戻す。
磁雲の中に混ぜれば、星の周りを回転しながら永遠に輝く。[注7]
悲しみは銀河に広がり、血の涙が滴り落ちる。
生涯の英雄を哀れむ涙は、羅浮を追わずに星を追う。

【注釈記】

[注1] 「軒轅」は古の国の神話に出てくる名弓。ここでは帝弓の武器を指している。

[注2] この文の展開はややぎこちない。後の句の内容から、帝弓が戦場で戦いの前の演説を行い、士気を高めたと判断できる。帝弓はその日に命を落とすと分かっていたので、遺言を残したという説もある。

[注3] これは雲騎軍がよく使う掛け声「仙舟飛翔、雲騎常勝!」、「強い意志を持って悪を一掃する!」の起源とも考えられるが、後世になって加筆された可能性もある。現在の学界では意見が割れている。前後の順番は不明である。

[注4] 記録では、この戦いにおける各仙舟と穹桑の距離は、近い方から曜青、羅浮、玉殿、朱明、方壺、蒼城、虚陵となっており、虚陵と方壺の位置は後ろであることが分かる。また、他の記録によると、帝弓は仙舟曜青の船首から矢を放っていたようだ。この文は帝弓の弓矢の衝撃を受ける範囲が広く、仙舟同盟の全艦船が影響を受けていたことを示している。

[注5] 記録では、帝弓の矢が建木を破壊し、巨獣を貫き、仙舟羅浮と穹桑の接続を断ち切ったとされている。さらに虚空の奥につながる裂け目を作り、そこから膨大な虚数の力が湧き出てきたようだ。この文はまさにそのような状況を説明している。

[注6] 記録では、帝弓は戦局をひっくり返す一矢を放った後に姿を消したが、火皇は肉体の一部を残したとされている。この文は仙舟の民が両者を見つけられなかったとしているが、誤りの可能性もある。

[注7] この2文の「古錠」、「静寂」、「磁雲」、「回転」という表現は、帝弓の犠牲を悼んだ仙舟の民が、その遺品を静寂古錠に入れ、穹桑の外周軌道に向けて打ち上げ、星と共に輝けるようにしたことを説明している。現存する記録には、これに関連する記載がないので、この部分は脚色の可能性がある。また、この部分は仙舟文学史上で初めて、静寂古錠の発射儀式に関して描写されたものである。しかしながら、この風習の開始時期とこの詩の成立年代の前後関係は不明となっている。

将軍の日記

神策府の将軍が自ら書いた日記、内容は少なく、途切れ途切れである。何故かはわからないが、内容は全て猫と関係がある。

その1

九月初七

この日、長楽天を散策していたら、殊俗の歌民が露店で呼び売りしていたのを見た。聞けば、愛玩動物を売っていた。

その動物は猫のようだが、より小さく、より愛嬌があった。竹籠の中で座蒲のように身を丸くして、細い鳴き声を上げる姿は何とも可憐だ。しかし建木が根を下ろしてから、仙舟民は壮健で巨躯な愛玩動物を美とするようになった。そこで私は、この動物は何故これほどに袖珍なのか、これを気に入った者はいるのか、と歌民に尋ねた。

そしてその者は答える。仙舟民は誠に健美な愛玩動物を好むが、それは玲瓏を愛する者の妨げにはならない。そして今、その小動物を見て目を光らせる私を見て、彼は私を後者だと断定した。これは何かの奇縁だろう、流石に辞せない。

その者はまた言う、小動物の名は狸奴、古国時代の仙舟先民が愛する愛玩動物の一種だと、そして今の逞しい仙舟の家猫はこの小さな狸奴が進化したものだと。この説は私が読んだ典籍に符合するところがある。しかし、狸奴が絶滅して長い年月が経つので、私は疑問に思い、その来歴を問うた。

その者は胸を張り、狸奴は仙舟では絶滅しているが、他の星では一般的の愛玩動物だと言った。この小動物はごく普通の白い狸奴であり、遺伝子調整もしていなければ、侵入生物でもない、大いに安心せよとも言われた。

このような一度は絶滅した小動物を飼育することを拒むなんてできない、私はその宗脉を継続させるために貢献せねばならない——特にあの薄紅色の柔らかい肉球を触った後では。

そして、私は多額の金を払い、この小さな狸奴を買い取り、「みーみー」と名付け、府に帰った。しかし私は公務多忙でみーみーを世話する時間がない。考えた結果、餌やり、水やりなども全て青鏃に任せることにした。

その2

ろう月廿二

みーみーは日に日に大きくなるも、その愛嬌と賢さは変わらない。毛絨は冉冉と流雲が雪を映すが如く、尾は九坎と長く、端には斗大の茸毛が有る。そしてその氷紋の如く眼、色澤が円やかで、何とも威厳があるのだろう。

しかし、みーみーは食べる量がやや大きすぎて、どうも尋常ではない。本当に狸奴なのか?考えてみると、今までのように彼をみーみーと呼ぶのは少し不適切かもしれない。

青鏃からある報告が告げられた。この一週間、彼女は神策府の食費との科目で合成肉を二百斤買い入れたが、その全てがみーみーに食べられてしまったのだ。そして事態は発展し、巷で色々と噂になっているようだ。将軍は日々目を閉じ、政をおざなりにしているだけではなく、食事の量も牛の如く大量で、何ともおぞましいか。との噂だようだ。

青鏃はこの巷説が私に不利となることを恐れているが、私自身は全く構わないので、彼女に心配しないよう言い付けた。見るに、「暴食将軍」は「無眼将軍」よりも威風があるではないか。

その3

正月十九

府中の食費が段々と維持できなくなってきた。やはり対策しなければいけないと思い、先ずは丹鼎司の医士を呼び、踏浪雪獅子の検査を行った(済まない、青鏃、私には名付けの才能がないようだ)。検査の結果、不具合はなかったようで、医士は遺伝子検査を提案した、私はそれを同意した。その結果は雪獅子の大食いと相互に証明している——やはり、彼は狸奴などではないし、普通の家猫でもない。

彼は獅子なのだ。そして、それも私が彼の名前を踏浪雪獅子に変えた理由だ。

しかしこの事実があろうと、彼の狸奴のような気質は依然として変わらない。雪獅子は暇があれば(彼はいつも暇にしている)簾を掻いたり、フェルトを破ったり、または彼のために用意した荊芥に酔い痴れたりしている。賞賛せざるを得ない、青鏃は非常に良く雪獅子を調教している、ただそれが公務の妨げとなるのはあまり宜しくない。

それより、当面の急務は府中の食費を減らすことだ。これについてはまだいい案が出てこない、もう少し時間が必要だ

『蝶の影』雑誌特集号:胡蝶の幻境の千年十佳

『蝶の影』仙舟同盟で最も権威がある胡蝶の幻境専門の刊行物。この特別号では、胡蝶の幻境の千年の発展の歴史の中で、最も優秀な10部の作品を分析している。

第十位『袍哥』

仙舟同盟と世界の接触が頻繁になるにつれて、胡蝶の幻境という仙舟独特の芸術スタイルも人々に知られるようになりました。今期では、『蝶の影』が招待した30名の幻戯業界のベテラン従業者より、この1000年間の胡蝶の幻境作品ベスト10を選出させていただきました。どうぞご覧ください。

あなたの出身世界に限らず、以下の10作品を心よりお勧めいたします。これらは仙舟の現代文芸の結晶であり、偉大で広大な仙舟の精神史でもあります。

『蝶の影』編集部

第十位 『袍哥』
監督:万伊
脚本:紀蓉

誰だってあんたん家の商売は繁盛してるって知ってる、弟妹も甲斐性があるし、おらみたいな哥老官はいらねぇ。で今、あんたの妹が町の暴れん坊にぶたれたて、あんたはどうするか分んねぇ、こんな時にしかおらを思い出せねぇのか?おらはあんたに何もしてねぇのに、あんたはいつもぶしつけな態度だ、おらのことを「袍哥」とも呼ばねぇ。

この幻戯は時代を三劫時代末期の仙舟曜青に設定した。朱明の狐族日星を主視点とし、彼がどのように曜青最大の哥老会に加入し、よそ者として伝説的な袍哥になった経歴を描いた。万伊は胡蝶の幻境を芸術の殿堂に送り込んだ大御所の一人です。彼はこの作品で初めて「共感行列」技術を利用し、体験者の共感時間を大幅に延長しました、そして胡蝶の幻境も正式に長編時代に入ったのです。

三劫時代では、仙舟世界の社会秩序は崩壊寸前の状態であり、組織的な犯罪グループが素早く社会秩序の穴を埋めた。犯罪グループは地下の王国を築き上げ、空前絶後の繁栄を誇りました。その時の犯罪グループは「哥老会」と呼ばれ、その首魁は「袍哥」と呼ばれていた。

4000年の時が過ぎ、帝弓の司命の庇護の下、仙舟世界は再び秩序と安寧を取り戻した。「哥老会」と「袍哥」は自然と歴史のゴミ箱に捨てられ、過去の埃と共に消えました。

しかし、社会現象としての「袍哥」は消えたが、文化符号としての「袍哥」は永遠に仙舟人の魂の奥深くに存在し続けた。哥老会の構成員の多くは野蛮で優雅な曜青方言を喋る。そして今でも、青二才が訛った曜青弁を口にして、支離滅裂な兄弟の義理を模倣しているのがよく見える。

私が思うに、彼らが追憶しているのはあの残酷で、混乱で、秩序が崩壊した時代ではなく、堅忍で、勇敢で、正々堂々とした「袍哥」たちなのだろう。そのようなイメージは、幻戯で美化された演出に過ぎないが。

第九位『青丘』

第九位 『青丘』
監督:苑渤
脚本:バシル・バシット

——先生、僕たちは青丘を出る。僕たちは、もう戻らない……
——僕たちは離れたことがない。青丘はあそこではなく、ここにあるんだ。僕たちのいる場所が、青丘だ。

この幻戯は狐族の創世伝説をもとに、波乱万丈な物語を描いた。『青丘』までは、胡蝶の幻境は単一の主視点で物語を叙述していた。しかし青丘は革命的に多視点からの叙述を採用した。体験者は清正、曼枝、立思、三人の先賢の視点から、狐族の歴史初期の戦争と平和、安定と流浪を味わうことができた。

仙舟同盟とスターピースカンパニーの間で、深く文化交流を行った時期がある。そして『青丘』はその時代に誕生した作品である。当時のバシル・バシットはスターピースエンターテイメントで最も売れる脚本家だった、そしてこの『青丘』の劇作も確かに彼女の実力を体現するものである。

一方で、苑渤が見せた本作での戦争シーンの調度と、視点人物の変換の処理も、後に胡蝶の幻境の基礎教材となった。

しかし、こうも言える、この胡蝶の幻境はあの時代でこそ誕生し得る特殊な産物だ。仙舟の財力だけでは、あのような数百万人が殺し合う壮大な場面は撮れなかっただろう。そしてスターピースエンターテイメントが提供した「自由意志幻像」技術は、「体験者を完全に劇中人物に代入させる」ような魔法みたいな効果を実現させた。

時に私たちは思ってしまう、銀河はまるで一つ一つの孤島、島民たちは保守的でよそ者を敵視するだけ。そんな考えが芽生えた時、私はいつも『青丘』の中に浸る。その作品のストーリーを体験するためではない、もう一度確認するのだ、二つの文明が手を取り合うと、どのような奇跡を創造できるかを。

第八位『凱蒙凱』

第八位 『凱蒙凱』
監督:子成
脚本:子成

凱蒙凱、凱蒙凱、一団の寒気が肩を登る、君は振り返るべからずと。

方壺狐族の仲思は羅浮で百年ほど留学した。彼が故郷の大寨に帰ると、目の前の景色は記憶の中の故郷と微妙に違いがあることに気づく。探索が進み、彼女は長老はとっくに逝去していることを知る、そして人々は得体の知れない何かを新しい「長老」と拝めている。

「凱蒙凱」は方壺狐族の医療体系の中で、「体に邪祟なるものが侵入した」との意味です。方壺狐族の医学世家に生まれた子成は、当然の如くそれを題材にして『凱蒙凱』という作品を創作した。

『凱蒙凱』は史上初のホラー幻戯です。その前の創作者たちはこのような要素を物語のちょっとしたスパイスにしか思わず、主軸にしたことはありません。昔の人は「ホラー」を一種の極端な消極的な感情と見なし、良好な幻戯体験をもたらせないと考えていたのです。しかし『凱蒙凱』の大ヒットは幻戯業界の固有観念を徹底的に粉砕し、ホラー幻戯のブームを引き起こしました。

特筆すべきは、子成はこの幻戯で仙舟人の「歳陽」に対する恐怖を利用し、絶妙な雰囲気を創り出しました。しかし今になっては、ホラー幻戯で「歳陽」の登場が多すぎたためか、その魔力が段々と消えているようです。

第七位『透簾細草』

第七位 『透簾細草』
監督:文広、文娥
脚本:枢寛

「枯棋三百、千軍の将を演ずる。碁盤一木、万国の封を繹せしめん」。これこそが「対奕之学」の原理だ。

この幻戯は「鳴火」商会創立の史実物語をもとに創作した、仙舟の一世代を感動させた物語です。狐族の少女映珍は世にも珍しい数学の天才だが、ほんの出来心で学宮での前途を自ら葬ってしまった。その時の狐族はまだ仙舟にいる游商に過ぎない、仕方なく游商になった映珍は少しずつ、数学の知識を商業に活かす方法を学んだ。そして、映珍は「鳴火」商会を創立し、仙舟の商業界の巨頭となった。彼女が編纂した『透簾細草』も仙舟商人の必読書となった。

『透簾細草』が上映するまで、列伝幻戯は往々にして英雄、兵士、飛行士、または悪漢や匪賊などを主視点とし、その者たちの波乱万丈(または悪逆非道)な一生を描く作品だった。それらの列伝幻戯の一大特徴は、主人公の人生経歴を体験させるより、体験者に歴史上の壮大な大場面を見せるところだ。

それまでとは違う点として、『透簾細草』は商業を題材とした列伝幻戯だったが、ビジネスの過程で起きる競争や欺き合いに重点を置かず、数学と商学という二つの理解しづらい学科をストーリーの主軸として、体験者を映珍の視点に代入させ、彼女が学科の概念を突破するまでの道を見せたのです。

今でも覚えている、300年前、私は学宮の友達と一緒に『透簾細草』を体験しに行ったあの日——私たちはみんな幻戯学を学んでいたから、数学はあまり理解できなかった——けど映珍が「対奕之学」を悟った時、誰もが悟りの喜び(または戦慄)に全身が震えたわ。恐らく、これが胡蝶の幻境という芸術の独特な魅力なのでしょう。

そしてもう一つ面白い事が。『透簾細草』の大ヒットで監督の文氏姉妹は名をあげました。そしてその百年間、仙舟に無数の監督「兄弟」、「姉妹」、「兄妹」、「姉弟」が表れました。けど残念ながら、その多くは話題に乗っかっただけの小物でした。

第六位『飲膳正要』

第六位 『飲膳正要』
監督:宝昌
脚本:宝昌、雪榭

「料理」の芸術の中では、常にある矛盾がありました:人は「料理」は永遠に芸術にはなれないと悟った時に、芸術家になれるのかもしれない。

『飲膳正要』は唯一の入選した実録幻戯です。この幻戯では、体験者じゃとある幸運な食客となり、伝説的な主厨雪榭の個人サービスを享受します。

雪榭は仙舟玉殿で最も有名な食事処の一つ——「神雪廬」を創設しました。彼女が活躍していた時代、「雪榭」はほぼ「厨神」と同義でした。宝昌はそのチャンスを掴み『飲膳正要』を撮影し、胡蝶の幻境史上で最も高い売り上げを築いたのです。

幻戯学の角度から、この作品に「千年十佳」の序列に入れる何かの特殊な革新性があるとは言い難いです。しかし、つまらない専門知識を捨ててみよう…『飲膳正要』が嫌いな人はいますか?この幻戯の中で、体験者は雪榭の家に赴き、彼女と共に料理の支度をしながら、その料理の哲学をゆっくりと聞けるのです。繰り返します。『飲膳正要』が嫌いな人はいますか?

宝昌は名をあげた後、傲慢で狂妄になりました。彼はかつて、公の場で『飲膳正要』を批評する学者たちを辱めた。「他の幻戯が嫌いな多ば、お前はその作品が嫌いというわけだ。でも、もしお前は『飲膳正要』が嫌いならば、お前は己の人生が嫌いなのだ」。数百年過ぎた今、彼の言葉を振り返ってみると、確かにそうなのだと私は発覚したのだ。

『飲膳正要』の主役雪榭は、享年384歳で逝去しました。一説では、晩年の彼女は非常に孤独で、何度も彼女自身を述べたこの幻戯を体験し、最後は青春の活力に満ちた幻夢のなかで亡くなられたとのこと。

第五位『深水長眠』

第五位『深水長眠』
監督:永正
脚本:福栄

触るな、声を出すな、ゆっくり後ろに下がるんだ、あれは水草じゃない……

鱗淵境、持明族が脱鱗する場所には、特殊な職業が存在する。その職業とは「珠守り人」である。持明族が脱鱗する時、外界の脅威に抵抗する手段がないため、珠守り人が弱い同胞を守る必要があるのだ。小鶴はかつて雲騎軍だったが、退役後に鱗淵境に戻り、珠守り人となった。ある日、巡回中に小鶴は異常な兆候に気がついた。この時の彼女は知らなかった、それが数千年も水中で長い眠りについていた悪獣が目覚めたのが原因だったと…小鶴は仲間たちと協力して、暗い海の中で悪獣と戦い、鱗淵境という儚い聖地を守った。

『深水長眠』は悪獣幻戯の始祖ともいえる。監督の永正と脚本を担当した福栄は悪獣幻戯を世に生み出した2人だと言える。本作以外にも、彼らの合作である『羅浮怪獣』、『歳陽機巧』それから『仙舟、鉄血の人』も同じく愛好者から名作と評される悪獣幻戯である。

悪獣の威圧感をいかに掻き立てるか、いかに光の無い環境で恐怖を掻き立てるか(例えば『深水長眠』の中での鱗淵境の古海)、いかに悪獣に遭遇しら時、人が恐怖に陥り勇気を出す瞬間を形作るか…宮中で幻戯学を教えている学者は口を揃えて言う「永正の幻戯を全て履修すれば、悪獣幻戯をどう撮ればいいかわかるだろう」。

『深水長眠』に関して、他にも特筆すべき点が1つある:

胡蝶の幻境は、仙舟同盟の各民族が愛している芸術であるが、幻戯の監督はほとんど狐族である。

それは、仕方のないことである…胡蝶の幻境の撮影や制作には、狐族の生まれながらの鋭い精神力が必要だからである。幻境に対する集中とコントロールには非凡な繊細さが必要で、この才能がない者が幻境を制作するのは——無理ではないが、非常に困難だと思われる。

しかし、永正は紛れもない異端である。彼は持明族でありながら、胡蝶の幻境史上で最も偉大な監督の1人となった。このような偉業を達成するために、彼が乗り越えなければならなかった困難は想像に難くない。

幻戯業界に狐族の監督が多数いることは、他の問題も引き起こした。永正がデビューする前、多くの胡蝶の幻境は狐族にまつわる物語であった。やはり自分のよく知っているキャラを創るのが得意で、よく知っているキャラを創るのが好きなのである。しかし、永正が生涯で作成した作品は全て持明族の視点のものである。

『深水長眠』の中の勇敢で恐れを知らない珠守り人の小鶴だろうと、『仙舟、鉄血の人』の中の自分が行った狂気的な研究に逆に飲み込まれた持明族の科学者麟達も、幻戯の有名なキャラとなった。永正が有名監督になった後、多くの作品が狐族以外の物語を大胆に採用し始めたのである。

第四位『星槎タクシーの飛行士』

第四位『星槎タクシーの飛行士』
監督:賽鴻
脚本:蘇琴

しっかりお座りください。まもなく離陸いたします!

神秘的な星槎タクシーの飛行士、見た目は平凡だが、実は凄腕である。客が——仕事に遅刻しそうになる、悪人を追撃するなどの困難に遭遇すると、彼はお決まりの微笑みと共に「しっかりお座りください。まもなく離陸いたします!」と言った後、どこのものかも分からない戦闘星槎をのエンジンをふかし、極めて高い運転技術で任務を完了し、困難を解決するのだ。

『星槎タクシーの飛行士』は今、927部まで撮影され、監督は3回も変わっている。どの部の興行収入も好成績をおさめている。率直に言って、本作はすべてのスピード系幻劇と同じように、物語の深さがなく、展開に欠けている。キャラの変化が少なく、スピード感によるアドレナリンしかない。しかし、このシンプルでストレートな、感情的な体験を重視する作品が、仙舟で最も長く続く幻戯のシリーズとなったのである。

それでも、少し厳しい言い方になるが——本誌が招いた巨匠たちがこの作品を「千年十佳」に加えた(それも第4位)には、おそらく自分たちが難解な「高尚な芸術」だけではなく、一般の人と同じようにスピード系幻戯も楽しめるとアピールするためであろう。

第三位『羅浮の最後の夜』

第三位『羅浮の最後の夜』
監督:武赫
脚本:武赫

——時おり、人生とは3割が絶望で、3割が恐れで、3割が無援で、残りが半分の苦難と半分の愛であると思う。
——では、もしもう一度機会をあげたら、もう一度生きたいと思いますか?
——もちろんだ。

海源は仙舟の商人であり、1100年生き、もうすぐ魔陰の身に堕ちる。今の彼は何事もうまく考えることができず、寿禍に蝕まれるのを耐えるしかない。十王司がに行き自身の最期を迎える前夜、海源は長い夢をみた。その夢には今までの人生で会った全ての人が現れ、広い荒野で彼を待っていた。長い夢の中で、海源は思い出の人たちと人生、哲学、宗教、芸術について語り合い、ついに自分自身と折り合いをつけた。幻戯の最後、明け方に海源は目覚め、微笑みを浮かべながら十王司に入っていった。

武赫は千年十佳に選ばれた作品の監督と脚本家の中で最も若い人である。彼は『定軍山』で長楽天幻戯祭で最優秀新人賞を受賞し、『羅浮の最後の夜』で長楽天幻戯祭の最優秀幻戯賞、最優秀脚本賞、最優秀没入体験賞を受賞した。

ただ、『定軍山』の大ヒットと高い興行成績に比べれば、『羅浮の最後の夜』はヒットしたが、それほどでもないと言えるだろう。この理由は明白である——自身の夢を叶えるために幻戯を観に足を運ぶ人は多いが、実際に幻戯で長い夢をみたい人はどれぐらいいるのだろうか?

『羅浮の最後の夜』が本当に偉大な作品であることは疑いようがない。この作品は、人の心に深く入り込み、切望や恐れを探り、人生の最後の瞬間にいかにして自我を取り戻し、折り合いをつけることができるかを説いている。幻戯というよりは、人の心の解剖学的なレポートに近いのだ。

一部の粗探しをする評論家たちは、武赫は狐族の監督であり、魔陰の身を誤解しており、夢の世界に関する扱いも科学に符合しない点があると指摘している。しかし、実際武赫は「科学」なんかに符合させるつもりはないのである。この作品は、文字通りの意味の「魔陰の身の夢」ではなく、高度に概念化、象徴化された精神分析であるのだ。

確かに狐族と持明族は魔陰の身に堕ちない。しかし、私たちはこの幻戯を通して自分の人生を見つめることができる。自身の絶望、悲しみ、悔しさとやむを得ず諦めたことを見つめ——同時にある答えを見つけるのだ。それは世界で一番難しい質問の答えである。「私たちは何のために真っ当に生きていくのか?」

「それは、半分の愛のためである」

第二位『帝弓の司命』

第二位『帝弓の司命』
監督:暁桐
脚本:雨春

命を捨てて死ぬ覚悟で戦えと言ったが、今日の戦いで形勢を変えなければならない。この後には常勝が続くと教えたい。強い意志を持って悪を一掃せよ。

今から4、5千年前、仙舟は混乱を極めた三劫時代を迎えていた。巨視的にとらえれば、各仙舟での社会秩序の崩壊は、歴史の脇役に過ぎず、時代を支配するのは生死をかけた血みどろの戦いであった。帝弓の司命もまだ帝弓の司命ではなく、血肉が流れる平凡な身体を持つ英雄であった。彼は仙舟人を率いて豊穣の民と壮麗な戦いを展開し、最後には自身を焼くことを代償に造翼者の巨樹「穹桑」を滅ぼし、仙舟同盟を救った。『帝弓の司命』は、この伝説をもとに撮った史詩幻戯である。

現在でも、『帝弓の司命』は、帝弓の司命を冒涜する幻戯であると考える人々がいる。なぜならこの作品は、体験者を帝弓の司命の目線に引き込み、帝弓の司命の立場であの叙情的な最終決定を経験し、彼が神に昇格される過程を体験するのだから、不遜と思われるのも仕方ない。

しかし、実際には、この壮大な史詩を前述した目線を通して体験することでしか、現在の仙舟が束の間の安寧を得るために、帝弓の司命と仙舟上の勇敢な人々がどれほどの血を流したかを理解することができないのである。

これらの言いがかりを差し引いても、『帝弓の司命』は依然として賛否両論がある名作である。その中で最大の議論を引き起こしているのは、雨春が脚本を書く際に、個人の好き嫌いで歴史をねじ曲げることである。これは、多くの体験者にとって受け入れられないことなのであった。

例えば、雨春は幻戯全編を通して、歳陽の首領「火皇」の存在を薄め、帝弓の司命が建木を破壊した一矢を「星神の偉力が凡人の体で早めに覚醒した」と帰結したが、これは明らかに史実に反していることである。現在、史学界では、彼の当時の矢は火皇の力を借りたものだと考えられているが、雨春は歳陽を極度に嫌っていたため、この部分のストーリーを修正したのだ。

傷は玉を覆うことができないように、賛否両論がある傑作は依然として傑作である。しかし筆者としては、幻戯の改編された部分で誤った理解をしてしまわないように、『帝弓の司命』を体験する前に、信頼できる歴史資料(例えば『帝弓足跡歌』)を読んで欲しい。

第一位『おばあちゃん橋』

第一位『おばあちゃん橋』
監督:子潤
脚本:子潤

——こんなことをしたら、安らかには死ねない。
——この世で安らかに死ねた者などいない。

三劫時代から数千年が経ち、仙舟の社会秩序は益々安定し、哥老会は既に歴史となった。しかし、残された会党は依然として彼らに属していない時代で、過去の栄光を継続しようとしている。しかし、古の「世間のルール」はすでに崩壊し、新しい成員はレベルが低く手段を選ばない。哥老会は完全に消滅する前に、最後の地下戦争を勃発させた。

『おばあちゃん橋』は典型的な袍哥幻戯であり、「最後の袍哥幻戯」と称されている。他の多くの袍哥幻戯と異なり、『おばあちゃん橋』の目線はどの会の成員でもなく、ボスの娘である潤であった。目の肥えた人なら、潤が子潤監督の化身であることがわかる。

『おばあちゃん橋』に登場する哥老会は、鮮やかな外套を脱いで、その成員たちは卑劣で残忍、無知な犯罪者である。子潤はかつてこのような環境の中で生活し、子供として哥老会間での最後の大規模な流血を伴う衝突を経験したのである。

制作会社である魍魎幻娯は、子潤が自伝性の強い幻戯を撮影することに賛成していなかった。「自伝」という作者の存在が強い題材は、体験者の代入を阻害すると考えられているのと、当時、袍哥幻戯の人気はまだ衰えていなかったので、このような「反袍哥」の幻戯では、良い興行の見通しが立たなかっただろう。

結局、子潤は自腹を切って、この幻戯をローンを組んで撮影しなければならなかった。しかし、制作会社の判断が間違いであったことを事実が証明した。『おばあちゃん橋』はその年の最もヒットした胡蝶の幻境となり、史上最も偉大な胡蝶の幻境だとも認められたのだ。

その後、子潤は魍魎幻娯を退社し、ヒットしたお金を資金に香薷幻娯を設立した。そして、前者はしばらく経たないうちに倒産した。

『おばあちゃん橋』については、もう1つ考えさせられる詳細がある。実生活では、幼い子潤は雲騎軍が会党を徹底的に掃討した時、とある将校の養子となり、それ以来誰もがうらやむほどの幸せな生活を送っているのである。しかし、『おばあちゃん橋』の結末で、潤は父親が頑なに抵抗している時、父の腕の中で死んでいる。

もしかしたら、子潤の心の中では、自身はあの哥老会が滅亡した夜に死んでいるのかもしれない。

羅浮天舶司商会名簿

天舶司の商会目録。羅浮の商会の運営範囲を記録してある。

現在、羅浮天舶司に所属する商会には鳴火、天駆、乗軒、流金、素羽、暉夜、翔水の7社があります。
域内外のビジネス人脈と羅浮天舶司商会との交渉の便宜のために、各商会の接渡使および経営範囲を以下に列挙します。

鳴火商会
接渡使:停雲
経営範囲:各種加工品関連の輸出入貿易

鳴火商会は銀河の中で最も速く、最も安全な生物輸送艦を保有しています。工業原材料以外にも、商会は農畜産物の育種や改良業務を請け負っており、生物資源の豊富な星からの問い合わせを心から歓迎しています。

天駆商会
接渡使:岩明
経営範囲:芸術品、出版物等の各種文化製品の輸出入貿易

天駆商会は各種文芸商品の貿易を請け負っています。仙舟における域外文化に関する展示会やイベントの開催、および域外における各種の羅浮文化に関する展示会やイベントの開催については、天駆商会までご相談ください。

乗軒商会
接渡使:長慶
経営範囲:各種武器および軍需品関連の輸出入貿易

乗軒商会は軍需品の貿易を請け負っています。同盟の使命は、正しい自然秩序を維持し、豊穣の忌み物を取り除くことにあります。軍事技術製品の輸出については、必ず天舶司の審査を受けてください。

流金商会
接渡使:昌文
経営範囲:各種医薬品関連の輸出入貿易

流金商会は医薬健康製品の輸出入を請け負っています。『天舶司貿易管理条令』の関連規定に基づき、貿易ホワイトリストに含まれていない医薬品はすべて検査を受ける必要があり、違反者は羅浮との交易を厳禁されます。

素羽商会
接渡使:致尭
経営範囲:各種星槎関連の輸出入貿易。

素羽商会は星槎の輸出の他、星槎の外観デザインのアフターサービスも提供しており、異なる生活シーンや文化環境に合わせて改装を行っています。

暉夜商会
接渡使:蘊霊
経営範囲:仙舟同盟内部の各種貿易。

暉夜商会は各地の特産品を羅浮に集積しています。朱明の磁器、方壺の水産物、玉殿の玉兆など、仙舟の他地域からの物産品は何でもそろっています。

翔水商会
接渡使:仲初
経営範囲:各種非主要商品(農業副産物、化学工業原料、紡績原料など)の輸出入貿易

翔水商会はほぼすべてのタイプの貿易業務を請け負っています。極めて巨大な艦隊を有し、羅浮の7つの商会の中でも最大規模の1社です。

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腹の脂肪を捨てろ

お前より忙しい人もここで鍛えている
お前より金持ちもここで鍛えている
お前より年寄りもここで鍛えている

200年後は誰が金持ちか競うだろう
400年後は誰が偉いか競うだろう
だが、600年後は誰が健康かを競うのだ

どうして肉体を放っておくんだ?
洞天の重力の怖さを知らないのか?
時間がお前に教えてくれる──
骨格に支えられていない筋肉は、年々垂れ下がっていく。トレーニングを続けて、老化を押し止めろ!