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Last-modified: 2024-04-28 (日) 20:53:42

アーカイブ:固有名詞 | 遺物 | キャラクター | 星神 | 敵対種 | 派閥 | 光円錐


本棚:宇宙ステーション「ヘルタ」 | ヤリーロ-Ⅵ(1) | (2) | (3) | 仙舟「羅浮」(1) | (2) |ピノコニー| 収録なし


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星穹列車

三月なのか

なのか.webp

お茶目な少女。写真撮影など、この年頃の少女が興味を持つような物事すべてに「執着」するべきだと思っている。
漂流する恒氷の中から目覚め、自分に関する記憶をすべて失っていることに気付いた少女は、しばらく思い悩んだ後、生まれ変わった日を自分の名前にすることに決めた。
この日、三月なのかは「誕生」した。

  • ストーリー詳細1

なぜ三月なのかは写真を撮るのか?
「第一に、ウチみたいな女の子はこういうことが好きなはずだから」
「第二に、写真に撮ったものは忘れたりしないから」

三月なのかが写真を撮る際に学んだことは?
「まず、暗黒料理は細部まで撮影すること!『撮ることは食べることと同じである。よく味わうべし』ってね」
「あと、自分が目を閉じて誰かを撮影すると、絶対に相手も目を閉じてるんだ!」

なぜ三月なのかはカメラを肌身離さず持ち歩いているのか?
「次にウチを氷の中に閉じ込める時は、絶対カメラも一緒に入れてよね!」

では、なぜ三月なのかはスマホを使って写真を撮らないのか?
「言われてみれば、なんでだろ——って、カメラのほうがそれっぽいからに決まってるじゃん!」


  • ストーリー詳細2
    能力は「六相氷」だが、三月なのかはそれは氷ではなく、ある種の凝固した結晶だと主張している。
    「何度も言わせないでよね。あんなに綺麗な氷、見たことある?」

戦闘時に使用している弓矢も「六相氷」で形成したものだが、彼女は弓矢を使うことに不満を持っている。
「だって、弓を使うエースなんて見たことある?」
「それに、ウチが作った矢でウチが作った盾を攻撃しても何も起きないじゃん!」

そのため、以前は「斬星破宙・ビッググラスソード」という名の奥義の修行に励んでいたが、未だに成果は出ていない。
「三月ちゃん、名前からしてそれって大剣よね?」
「うん。でも、氷の像を落とした方が…効果があるかも」


  • ストーリー詳細3

「車掌」のパム、「ナビゲーター」の姫子、「護衛」の丹恒、「なんでもできる」ヴェルトに対して、彼女は「勇者」を自称している。
三月なのか本人でも列車での自分の役割を説明することはできない。
しかし彼女の一挙手一投足は、しばしば列車組の行動方針に影響を与えている。

「三月ちゃんが転んだぞ……」
「三月、頭上の鉛鉱の玉に注意しろ」
「三月ちゃん、あっちの景色は撮った?」
「俺はなのかを信じている。あの子が不味いと言ったものは、本当に不味いからな」

つまり三月なのかは周囲を不安にさせているのではなく、むしろ気にかけられているのだ。
もちろん、三月なのかはそんなことには気付かずに、開拓者にぴったりな列車の役割を全力で考えている。


  • ストーリー詳細4
    様々な兆候が示していても、ずっと宇宙を漂っていた三月なのかにとって、目覚めた時の状況は悪いものではなかった。
    何しろたまたま通りかかった列車に乗ることができて、そこの乗客たちも親切そうだったのだから。
    唯一の問題は、周りの状況はそれなりに理解できても、自分のことはまったくわからないということだった。

「ウチは誰で、どこから来たんだろ……」

三月なのかは鏡の中の自分を見つめ、姫子が用意してくれた服を試着しながら、何十通りもの自分の身の上を想像した。
しかし、どれが自分の過去で、どれが自分のような少女に相応しい過去なのか…三月なのかはわからなかった。
彼女に選べるのは今の自分だけであり、彼女が想いを馳せることができるのは、この先の未来だけである。
三月なのかは恐れを抱くと同時に、喜びも感じていた。


丹恒

丹恒.webp

凛とした無口な青年。「撃雲」という名の長槍を持ち、列車が行く果てしない開拓の旅で護衛役を担っている。
丹恒は自身の過去をひた隠しにしている。列車に同行するのも、己の手で築き上げた過去のすべてから逃れるためだ。
しかし、列車は本当に彼を「過去」から遠ざけてくれるのだろうか?

  • ストーリー詳細1
    新しい一日が始まった。

この巨大な船のごく平凡な1日。
市場の屋台は出たばかりで、葉尖には露がぶら下がったままだ。
しかし通りを横切る少年は、このような景色を見たことがなかった。
この都市の至る所が本の記述と違うことに気付くまで、彼は首に当たる陽光の暖かさを享受していた。
彼は初めて自分の体の全貌を見た。
この体は自分のものであり、今の名前に属するものである。

埠頭に着くと、少年を押送する兵士が最後の枷を外した。
彼は振り返らずに前へ進む。その間、少年は漠然と感じ取っていた。
都市の中から自分を睨みつける、憎悪に満ちた数々の視線を。

宇宙船が離陸する時、彼はようやく振り返って自分のいた場所を見た。
本に書かれている通り、これは確かに雄大で美しい船だ。

彼は船を一瞥した後、それとは反対側に顔を向けた。
くすんだ空間に輝く群星だけが浮かんでいる。
未来はどこにあるのだろう。

彼は一言も発することなく、ただ静かに遠くを見つめていた。


  • ストーリー詳細2
    新しい一日が始まった。

カンパニーの船を降りた彼は、また別の船に乗り込んだ。
重要ではないからと、目的地を聞くことはない。
彼には特に行きたい場所もなく、唯一の目的は過去と「故郷」から離れることだった。

船では多くの人が行き交っている。
カンパニーの社員たちは彼が誰であろうと気にしない。
仕事さえできればそれでいいのだ。

見た目を変えた今、人に気付かれることはないだろう。
しかし、彼は知っている。
あの力は未だに彼の体の中に潜んでいて、どこに行こうと決して振り切れないことを。
その力は彼の足を引っ張り、歩みを妨げ、過去から抜け出せないよう、彼を圧し潰そうとしている。
彼は常に用心しなければならなかった。

しかし、あの獣のような目をした男からは逃れられない。
「故郷」の人々が彼に「憎しみ」を抱いているとすれば、あの男が抱いているのは「殺意」だった。
彼が乗ってきた船は、ことごとくあの男に沈められている。
男は彼の目の前で確かに死んだが、やがて再び姿を現した。

「故郷」の外の広大な世界では、どんなことでも起こり得るのだ。


  • ストーリー詳細3
    彼は再び別の船に乗った。
    その船の人々は、それぞれ異なる仮面をつけている。
    彼は記憶を奪われそうになったうえ、妄言のような演説を聞かされた。

彼はこの航路に巨獣が居座っていることを知っていたが、生路を開くためには、最も険しい道を通らなければならないことも知っていた。

彼は巨獣を撃退して、次の港で船を降りた。
数え切れない宇宙船の中に身を隠せば、人に気付かれることもないだろうと踏んだのだ。
しかし、突然赤髪の女性に呼び止められた。
彼女は恭しく彼に敬意を表すると、自らの船も彼に救われたのだと言った。

彼はすぐにでもそこを離れようと思ったが、赤髪の女性の傍に停まっている列車が目に入った。

「あんた、これからどこに行くの?」
「…わからない」
「じゃあ列車に来ない?」
「……」
「私たちは今、昔の航路を辿っているの。でもやるべきことが多すぎて、護衛が必要で…ああ、あと記録員もだったわね」
「……」
「目的地が決まったら、いつでも降りて構わないから」
「いいだろう」


  • ストーリー詳細4
    新しい一日が始まった。

彼は目を擦りながら、これほど熟睡できたのはいつぶりだろうと考える。
自分は一時的に滞在しているだけだからと、用意してもらった部屋を断り、資料室の床で寝ることにした。
昨夜は一晩中アーカイブを閲覧していたのだが、どうやら途中で眠りに落ちてしまったらしい。

ドアを開けると車掌が外に立っていて、「徹夜するな、ホカホカの朝ご飯が台無しになる!」と叱られた。
彼が頷くと、車掌は満足そうに注意を止め、彼をラウンジに案内した。

赤髪の女性——姫子は彼に向かって微笑んだ。
その隣にいる茶髪の男性——ヴェルトは色々と聞きたいことがあるようだったが、結局は何も聞いてこなかった。

気が付けば、彼はこのような朝を何度も迎えていた。

過去の航路を辿る旅は決して楽なものではない。
星核によって軌道が塞がれることも多く、稀にだが彼が以前撃退した巨獣が現れることもある。
そして時には、中に少女を封じた巨大な隕氷を発見することもあった。

そのため、開拓者と呼ばれる少年/少女の体内に星核が封印されていることに気付いた時も、それほど驚くことはなかった。

列車の旅は続いていく。きっと、これからも色んなことが起こるのだろう。


姫子

姫子.webp

チャレンジ精神に溢れた科学者。彼女がまだ少女であった頃、故郷で座礁した星穹列車を発見した。
数年後、ついに列車の修理を終えた姫子は、それがただの始まりに過ぎないことに気付いた。新たな世界を「開拓」する旅路には、より多くの仲間が必要である——
たとえ同行者たちの目指す方向が違っていても、彼らは同じ星空の下にいる。

  • ストーリー詳細1
    少女は道に迷っていた。

彼女は自分がいつ方向を見失ったのかもわからないまま、ただひたすら歩き続ける。
何度も何度も、倒れるまで闇夜の中を歩き続け、太陽と月を追い求めた。

彼女は大学に入ったばかりの自分を思い出した。
自分が選んだ学科——星間航行動力学。
そして今、彼女は泥濘の道に横たわっている。

星空を見上げると流れ星が見えた。
1つ、2つ、3つ…そして無数の小さな星がチカチカと点滅したかと思うと、最後に壮麗な烈光が夜を引き裂いていく。

彼女の四肢は体を引きずり、彼女を陸地の果てに導いた。
そこは海の起点、海岸線。
座礁した列車を打つように、潮水は彼女を押し進める。
一人ぼっちで、道に迷ってしまった彼女を。

彼女が列車に足を踏み入れると、舷窓の外の景色が変わり始めた。
列車は色とりどりの景色を彼女に見せていく。
それは故郷から遥か遠い場所でもあり、列車に乗れば辿り着ける場所でもあった。

彼女は列車の修復を試みた。
それは短い時間しか動かなかったが、彼女を乗せて故郷の空を横切るには十分だった。
彼女は一目で帰り道を見つけた。
上空から見れば、その道はあまりにも近い場所にある。故郷の海さえもちっぽけなものに思えた。

列車は彼女に尋ねた、一緒に行くか?と。
一体どのような旅になるのか、彼女は興味が湧いた。

「それは始まりへ向かう旅」
「行くわ」少女は躊躇なく答えた。「私を家に連れ帰ってくれたように、今度は私があんたを家まで連れて行ってあげる」


  • ストーリー詳細2
    姫子はトランクを持っている。

トランクは彼女の宝箱だ。
以前は列車の修理に使う道具がぎっしり詰まっていて、彼女はそれを頼りに列車を修理した。
現在は単分子チェーンソー、軌道を逸脱した衛星、そして様々な機巧が詰め込まれている。
それぞれが彼女の奇想を具現化したものであり、彼女が歩み続けてきた証でもある。

彼女のトランクほど忠実な旅の仲間はいない。列車の乗客はしばしば変わる。
あの「車掌」でさえ、最後まで彼女と列車に同行できるとは限らない。

しかし彼女は気にしない。あの気取った金髪の男が、別れも告げずに列車を降りたことを気にも留めなかったように――

遠すぎる故郷や家族のことを気にも留めていないように。

彼女はこの旅が孤独であることを知っている。
たとえ旅の途中で志を同じくする仲間に出会ったとしても、たとえ旅の仲間から恩恵を受けたとしても、
たとえ仲間と共にひとつの旅の終点を見届けられたとしても

——それは彼女にとって単なる僥倖に過ぎない。

彼女はこの旅が孤独であることを知っている。
如何なる者も、他人と同じ軌跡を辿ることはできない。
如何なる者も、他人の代わりに旅路の風景を見ることはできない。
彼女が頼れるのは、自分の両目と両足だけ。

そして彼女は、その目で見たすべての景色と、その足で残したすべての足跡を、自分のトランクに収めるのだ。


  • ストーリー詳細3
    姫子は記憶力がいい。

旅が長くなり、仲間が増えても、彼女は常に多くの物事を覚えている。

彼女は覚えている。パムと気ままにおしゃべりした時間も、列車の最初の乗客がヴェルトと彼の金髪の仲間だったことも。
寡黙な丹恒が星を吞む巨獣を一撃で退けた姿も、明るい三月なのかが氷の中から目覚めた時のことも。
三月なのかのためにデザインした服も、彼女の最愛も。
そして、宇宙ステーション「ヘルタ」で開拓者に出会い、また新たな旅に出たことも。

彼女は覚えている。列車のあらゆる部品の仕様も、それらをどのように接続するのかも。
列車のベアリングに潤滑油を供給する周期も、列車の植物に水やりをする時間と頻度も。
パムには決して越えてはならない一線があることも、ヴェルトには少し子供っぽい趣味があることも。
丹恒が夜通しアーカイブを整理していることも、三月なのかは寝坊が大好きだということも。

列車組全員の性格、習慣、趣味、誕生日、そして他の記念日も。

もし彼らが列車に乗って自分の終点に辿り着くことができれば、姫子にとってそれ以上に喜ばしいことはない。

「旅には必ず終わりがある。その時が来たら、きっと笑ってみんなに別れを告げるわ」

いつもそう言っている姫子だが、彼女は決して忘れないだろう。

その記憶が彼女の歩んできた道を織り成し、やがて起点となった海に戻ることを。


  • ストーリー詳細4
    「本当に長い旅ね」彼女は言った。

「僕はずっと待っていた。とても、とても長い時間を」█████は彼女のほうを向いた。
「君をこの道に導いたのは不運ではなく、探求欲と好奇心だ」

「その通りよ」彼女は笑った。
「でも、私の経験はあなたに遠く及ばないわ」

「そうでもないよ。僕は君が経験したすべてを経験していない」█████は首を横に振る。
「歩む足の数だけ旅路があるんだ」

「今この瞬間、僕たちは同じ場所に立っているけれど、見るものや考えることには違いがある」

彼らは静かに星空を見上げた。
すると、流れ星が1つ、2つ、3つと横切っていく…
やがて、無数の小さな星がチカチカと点滅したかと思うと、最後に壮麗な烈光が夜を引き裂いた。

静かな声が再び空気を震えさせる。

「君には何が見えた?」

「星々が旅の終わりを迎えたわ」彼女は答えた。

█████は笑う。「でも僕から見れば、彼らの旅はまだ始まったばかりだ」

彼らは黙り込んだ。

「そろそろ帰りましょう。彼らが待ってるわ」

█████は沈黙する。そして口を開けた。「今までの旅は、幸せだったと思うかい?」

彼女はトランクを持ち上げ、振り返らずに列車のほうへ歩き出した。

「いつも通りよ」


ヴェルト

ヴェルト.webp

経験豊富で頼れるネゲントロピーの元盟主。「世界」の名を受け継ぎ、幾度も世界を滅亡の危機から救った。
セントフォンテーヌの事件が一段落した後、ヴェルトは陰謀を企てた張本人と共に門の向こうへと旅立った。
彼自身でさえ予想していなかっただろう。その先に、新たな旅と仲間たちが待っていることを。

  • ストーリー詳細1
    星門に向かう途中、ヴェルトはペンを手に取ると、紙の上に何か描き始めた。この前の8年間、彼はずっとこのような作業を繰り返している。

さらに時代を遡ると、かつての彼は別の方法で物体を構築していた。頭の中でイメージするだけで、その物体を構築することが可能だったのだ。しかし、彼はそれを「創造」と捉えることはできなかった。なぜなら、それは世界の元の形であり、彼自身の考えとは無関係だからである。

それは「世界」の名を継承した彼が背負うべき責任にほかならない。世界が救いを求めるのなら、彼は迷うことなく英雄になる。何度も倒れ、何度も嘲笑されたが、彼はいつも立ち上がる。過去から未来まで、それは変わらない。

しかし今、彼は新たな旅に出る。


  • ストーリー詳細2
    危険に満ちた宇宙の戦場に再び身を投じた時、ヴェルトの体に流れる熱い血が久々に燃え上がった。

乗っていた宇宙船が動力を失い、当てもなく宇宙空間を漂っていた時も、彼は動じることなく、仲間に冗談を言っていた。
「ある冒険の終点は、往々にして別の冒険の始まりとなる」

そして通りすがりの姫子が彼らを宇宙船から助け出し、もう家には帰れないと告げた時も、彼は冗談を言い続けた。

「こんなストーリーをアニメにしたら、誰でも都合がよすぎると言うだろうな」

実際、確かに都合がいいのだ。

——故郷に帰れず、しばらく平穏な生活に戻れないのなら、もう一度武器を取って戦おうじゃないか。

今回は運命を背負う必要はない、すべては自分の意のままだ。


  • ストーリー詳細3
    今のヴェルトは無闇に手を出すことはなく、全盛期の実力を保っているかはどうかは窺えない。
    しかし、「エデンの星」を改造したステッキから察するに、「重力操作」は依然として彼の攻撃手段であることがわかる。

敵を重力で制圧し、ブラックホールに近い存在を創り出す

——彼にとっては当たり前の能力だが、列車の若者たちからは喝采を博している。

「ヨウおじちゃんって何でもできてすごいね!」
「開拓者、わからないことがあればヴェルトさんに聞けばいい」
「1人ずつにしなさい、少しは休ませてあげないと……」

彼は突然、自分の落ち着きと自信は多すぎる経験からくるものであり、
そこには歳月が流れた跡ばかりが刻まれていることに気付いた。
しかし列車の若者たちは白紙のように、今まさに自分たちの人生を描いている。

——その中で、自分はどのような責任を担うべきなのか?

彼はふと思い出した。今までの人生の中で、自分を助けてくれた者たちの名前を。


  • ストーリー詳細4
    「ヴェルトの日記 ████年██月██日

████と主人公一同の人間関係:

█——████、アニメの主人公のように輝く心を持つ若者。進め!
█████——活発な若者。彼女にはいつまでも想像力豊かなままでいてほしい。
たとえ何かミスをしても、あまり罪悪感を抱かないようにしてやりたい。
若者が間違えるのは当然のことだ。それに、████が力になってくれるだろう。
██——頼れる若者、基本的に心配する必要はない。
もっと████と交流してほしいところだが、その気がないならそれでもいい。
██——命を預けられる仲間。彼女なら正確な決断を下せると████は信じている。
██——アニメによく登場するようなマスコットキャラクター。
可愛らしく見えて、実はとんでもない過去と強大な力を持つ生物。

注:故郷に戻れたら、この経歴をアニメにしよう」


宇宙ステーション「ヘルタ」

アスター

アスター.webp

好奇心旺盛で元気いっぱいな少女。名義上は宇宙ステーション「ヘルタ」の所長。
各々の意見を述べるスタッフたちを管理したり、博識学会の無理難題に失礼のないよう返答したりするのは、彼女にとって造作もないことである。
宇宙ステーションの指揮なんて……家業を引き継ぐより簡単よね!

  • ストーリー詳細1

まだ幼いアスターが自分で望遠鏡を選び始めた時、大人たちの称賛がそれとなく伝わってきた。
そして、彼女はそれを誇りに思っていた。
なぜなら彼女は、望遠鏡の主鏡の製造技術や天体自動導入装置のタイプを一目で判別できるからである。

しかし、ある日盗み聞きをしていた彼女は真相を知った。
彼らが称賛していたのは、1人の少女がこんなにも高価なものを選んだということに対してだったのだと。

観客の目に個人の嗜好は存在しない。彼らは彼女を甘やかされて育った娘だと思っている。

「星が好き?ああ、女の子はキラキラしたものが好きだからな」
「えっと…私は恒星胚胎について研究してるの。
いつの日か星を発見して、自分の名前を付けたくて…他の素晴らしい天文学者たちのように……」
「それだけか?それなら今年の誕生日プレゼントは、アスターの名前を星につけるというのにしようか?星2つでもいい、大して金はかからないからな!」
「……」
「おい、アスター?どこに行くんだ!アスター!」


  • ストーリー詳細2

彼女は理解していた。自分と母親がボランティアとして合格かどうかは関係ない。
人々は彼女たちがそこにいることだけを望んでいるのだ。

食糧の分配が終わり、人々がまばらに散っていく中、小さな男の子だけがそこに残った。
彼は右手を怪我しており、その目は狼のように鋭く、睨まれると少し不快な気持ちになる。

「貴方も私にお金を借りたいの?」
「金はいらない。さっきの食事代を払わないといけないのに、今は金がないんだ」

知らない「友達」がお金を借りにくることはあっても、お金を返そうとする人に出会ったことがなかったアスターは、驚きのあまり目を見開いた。
傍にいる母親も笑いを堪えきれない様子だ。

「貴方、まだ子供じゃない。何ができるの?」
「ケンカ」
「それは褒められたことじゃないわね——こうしましょう、私が貴方に仕事を紹介するわ」

——アスターの心の中では、あの時のアーランの食事代は、彼が返したいと申し出た時点で清算されている。


  • ストーリー詳細3

「星は自分の軌道を辿っていけるけど、人間は…人間は本当に自分の運命を掌握できないの?」

恵まれた家庭環境はアスターに星空を探索する力を与えたが、それは同時に彼女を束縛していた。

アスターが大きくなるにつれて、彼女の天文学者になりたいという夢は親族から異端視されるようになった

——彼女は家族会議で親戚と何度この問題について議論したか、もう覚えていない。

ある日の家族会議が終わった後、部屋に人形の少女が入ってきた。
そして、先ほどまで威張り散らしていた親族の1人が、その少女の前では唯々諾々としていた。

「この子だったよね?」
「しかし彼女は……」
「何がしかし、なの?遠路遥々やってきて、あなたたちのくだらない学術報告を聞くよりは、この子とあなたたちの言い争いを聞いてたほうが面白い」
「……」
「3日以内に、宇宙ステーションで彼女の姿を見られるようにして。いい?」

それだけ言うと、人形の少女は振り返ることなく去っていった。


  • ストーリー詳細4

宇宙ステーション「ヘルタ」の所長になってから、アスターの生活は以前よりも格段に忙しくなった。
各々の意見を述べるスタッフたちをまとめ、ヘルタに代わっておびただしい数のメールに返信し、
頻繁にカンパニーと交渉を行い、様々なルートから新しい設備を購入する…
しかし同時に、彼女はここで今までにない自由を手に入れた——

「2号設備部分のニューウェル・イマン望遠鏡を使用。100倍天文単位に設定。前方の『分子雲コア』を観測するわ」
「粒子の密度には特に注意するように。超緻密構造を発見したら、すぐに『恒星胚胎』の分裂過程を記録して!」

アスターには暇になると考えることがある。
それは自分が宇宙ステーションを引き継いでからというもの、ミス・ヘルタが一度も姿を表していないということだ。
以前彼女に尋ねたこともあるのだが、得られたのは「興味深いことや新しいものがなければ行かない」という返答だった。

「……この子とあなたたちの言い争いを聞いてたほうが面白い、かぁ」

彼女は遠い昔のあの日のことを思い出した。ヘルタが何気なく口にした、その言葉を。

記憶の中のヘルタは輝かしい星の中に立っていて、彼女に星と自分の運命を掌握する力を与えてくれているようだった。


ヘルタ

ヘルタ.webp

宇宙ステーション「ヘルタ」の真の主。
「ブルー」で最もIQが高い人間で、自分が興味を持ったことにしか手を付けず、一旦興味を失えばすぐに離れてしまう——
宇宙ステーションがその最たる例である。
普段は遠隔で操作できる人形の姿で登場する。「私の幼少期と比べると、7割くらいは似てるかな」——とは、ヘルタ本人談。

  • ストーリー詳細1
    ミス・ヘルタの手稿は極めて貴重な資産である。

その根底にあるのは、ミス・ヘルタが紙に記録するために滅多に時間を割かないということではなく、
彼女のような天才にとって、世の中には記録に値する物事がほとんどないということだ。

普通のスタッフたちが10年、もしくは一生を費やしてようやく得られる研究成果は、
いずれ未知の科学領域を照らす光になるかもしれない。
しかし、それは彼女にとって適当に省エネランプを灯したようなもの。
一体どこの誰が時間を無駄にしてまで、そんな些細なことを体系的に記録するのだろうか?

ミス・ヘルタだけでなく、「天才クラブ」のメンバーの文献のほとんどは何より貴重なものである。
しかし、ミス・ヘルタはさらに寛大で、より凡人のことを理解している。
彼女は自分の手稿を宇宙ステーションのあちこちに置き、集めた奇物や珍品を全スタッフに開放するくらい「気前がいい」のだ。

もちろん、それは決してミス・ヘルタが著書を完成させるのが面倒だからと、適当に書いた原稿を適当な場所に放置して、
投資側に説明する時に「書き終わったけど、失くした」と言い訳できるようにするためではないと、私たちは信じている。


  • ストーリー詳細2
    皆さんご存知のように、宇宙ステーション「ヘルタ」の研究資格を得ることは多くの研究者の目標です。
    本日は宇宙ステーションの主、ミス・ヘルタにお話を伺いましょう。
    ミス・ヘルタ、このような研究のオアシスを設立したきっかけは何ですか?

「物が多くて、置く場所がなかったから」

ああ、つまり適当に植えた柳が大木になった、と!
聡明なミス・ヘルタの何気ない行動ですら、多くの凡人に幸福をもたらすのですね。
しかし、そういった素晴らしい楽園を破壊しようと企む悪者は、いつの時代にもいるもの…ミス・ヘルタ。
前回の反物質レギオンの侵入についてどう思われますか?

「もう来ないで」

これは…このような厳しい警告は、ミス・ヘルタを形成する要素に違いありません。
たかが反物質レギオンがミス・ヘルタの宇宙ステーションに侵入するなんて、烏滸がましいにもほどがある!
では、次の質問に参りましょう!


  • ストーリー詳細3
    最近の宇宙ステーションの研究の進捗は、アクシデントに見舞われたせいで少し遅れてしまっています。
    多くのスタッフがミス・ヘルタの期待を裏切ったと自分を責めていますが…ミス・ヘルタ、それに関して皆さんに何か言いたいことはありますか?

「特にないかな。まあ、頑張って」

私たちはミス・ヘルタの研究に少しでも貢献しようと……

「必要ないから」

確かに私たちの研究はミス・ヘルタのそれに遠く及びません。だからこそ、私たちはあなたの知恵と卓見に感服しているのです。
ミス・ヘルタ、研究に関するアドバイスはありますか?私たちはあなたから学びたいのです!

「ない」

ミス・ヘルタの知能の高さと卓越した才能は誰もが知っていますが、私たち凡人からすれば、
あなたのようになることは不可能と言っても過言ではありません…
ミス・ヘルタ、私たちに教えていただけませんか?
例えば…私たちの知能に限界があるとしたら、どの分野に集中するべきでしょうか?

「家に帰って寝たら?」


  • ストーリー詳細4
    やっぱりミス・ヘルタは親切ですね。確かに「天才クラブ」のメンバーが研究していることなんて、
    凡人には見出しすら理解できないでしょう。
    では、次の話題に移らせていただきます
    。宇宙ステーションにいる人々はミス・ヘルタの忠実な支持者であり、誰もがあなたのことについて知りたいと思っています。
    そこでミス・ヘルタにお聞きしたいのですが、最新章はいつ発表される予定ですか?

「それは大して重要なことじゃない。もっと重要なのは、イリアスサラスが言っていたように、
自分を高めることほど大きな挑戦はないということ。
だから私たちは原稿を書く時、どうやって書くのか、慎重に検討する必要がある——」

は、はあ…なるほど。しかしミス・ヘルタ。
私たちはあなたの『私は如何にして天才クラブに入り、全てを認識するのか』という書籍に非常に関心を寄せていまして……

「それは大して重要なことじゃない。もっと重要なのは、ザンダーが言っていたように、
たとえ頂点に上り詰めても、己を磨くことを怠ってはならないということ。
だから私たちは天才クラブに入る時、どうやって加入するのか、慎重に検討する必要がある——」

これってもしかして…オート返答モードですか?

「それは大して重要なことじゃない。もっと重要なのは、余清塗が言っていたように、
学ぶことは目標を達成することであるということ。だから私たちはオート返答をする時、どうやってオートにするのか、慎重に検討する必要がある——」


アーラン

アーラン.webp

口下手な宇宙ステーション「ヘルタ」の防衛課責任者。
研究についての知識はないが、それを何よりも大切にしているスタッフたちが各々の研究を成し遂げられるよう、彼らを守ることに命を懸けている。
ペペを抱っこしている時だけ、少年は警戒心を解いて滅多に見せない笑みを浮かべるのだ。

  • ストーリー詳細1

防衛課でのアーランの仕事ぶりをどう思うか?
──アーランさんは防衛課を導く光であり、俺たちの戦いを支える核です!アーランさんが1日いなかったら宇宙ステーションは被災者で溢れ、アーランさんが10日いなかったら誰も安心して過ごせなくなる。そしてアーランさんが100日いなかったら、宇宙ステーションは煉獄と化すでしょう!
──でも彼は勤務時間内にペペと電子フリスビーで遊んでいる。
──それはアーランさんが防衛課の日常訓練を早めに終わらせたからですよ!アーランさんの姿を見ることは、俺たちの励みにもなるんです。
──でも彼は勤務時間内にペペと電子フリスビーで遊んでいる……
──なんでペペと電子フリスビーで遊ぶことがアーランさんの仕事じゃないと……
「巡回中にスマホをいじるな。没収だ」
「違うんです、アーランさん。グループであなたの悪口を言っている人がいて…このままでいいんですか?」
「そんなことを気にしている時間はない」
「え、緊急任務ですか?俺も一緒に行きます。何が起きたんですか?」
「ペペをリハビリに連れて行く。電子フリスビーで遊ぶつもりだ」


  • ストーリー詳細2

アスターの家には奇妙で貴重なものが数え切れないほどあるが、今は1匹の瀕死の子犬が注目を集めていた。
彼女は悲しみのあまり泣いている。拾ってきた犬は長生きできない。代わりに別の犬を買ってこようと両親が彼女を慰めるが、それを聞いた彼女はさらに大きな声で泣き喚いた。
薄汚れた子犬はただそこに横たわっている。頭を持ち上げ周りを見る力すら残っていないのだ。泣き声も、口論も、沈黙も、すべてが子犬とは無関係だった。
彼は子犬の呼吸が止まったのではないかと思い、しゃがみ込んで子犬の鼻先で呼吸を確かめようとする。すると突然、子犬が彼の指を舐めた。これは子犬が力を振り絞って触れることのできる、最も遠い距離だ。
──子犬の舌は、湿っていた。
「電子フリスビーで遊ぶか?」
虚ろな目に光が宿った。


  • ストーリー詳細3

彼は廊下で足を止め、窓の外を眺めた。宇宙は静かで、彼の目の下のクマを映している。
窓に別の充血した目が映った。その目の主は普段スタッフの前にいる時よりもリラックスしているようで、何も気にすることなく大きなあくびをした。
「こんな時間なのに、まだ寝ないの?」
「なんだか落ち着かなくて、少し巡回しようと思いまして……」
「シールドのコードは更新したばかりだし、セキュリティシステムも正常に作動してるのに?」
「俺の考えすぎかもしれませんが……」
「わかった。貴方は防衛課の責任者だから、私は貴方の直感を信じるわ」
宇宙ステーションは依然として明るく、昼夜を問わず運行している。彼らは各自の持ち場に戻った。
彼らは理解している。ミス・ヘルタの光に包まれていようと、宇宙ステーションの防衛措置に守られていようと、防衛課が日夜眠らずにいようと、もし危機が訪れたとすれば……
それは一瞬の出来事であると。


  • ストーリー詳細4

「みんな避難したわ!アーラン、貴方も早く避難して!」
「まだ生き残っているスタッフがいるかもしれません」
「いないわ…もう他に生命シグナルはないの」
アーランはアスターを信じるべきだと理解していた──反物質レギオンが彼のもとに押し寄せてくるまでは。監察区からの信号は微弱で、アスターにはこの画面が見えていないのだ。
この時、彼はエレベーターの前に立っていた。ここにいるのは彼だけで、アスターの命令に逆らってでも、自分で判断するしかない──彼らを守るためには、どんな犠牲を払ってでもエレベーターの権限を遮断し、これ以上モンスターを主制御部分に近づけないようにしなければならない。
「申し訳ありません。お嬢様……」
アーランは説明する間もなく、反物質レギオンに背後から襲われ、倒れた。それに伴い、遠距離通信も途切れてしまった。
アスターの家で働いていた時も、宇宙ステーション「ヘルタ」で防衛課の責任者になった時も、「躊躇」したことがなかったことを彼は思い出した。なぜなら、お嬢様が進む方向を決めた以上、自分も当然のようにそれについていくからである。これは当たり前のことだった。
アーランが何とか顔を上げると、モンスターが近づいてきて彼を取り囲んだ。今まで彼がお嬢様の命令に逆らったことはない。これが初めてだった。
「これが最後にならなければいいが……」
ふと、そんな考えが頭を過ぎった。
彼は大剣で自分の身体を支え、ゆっくりと、しかし確実に身体を起こした。


ルアン・メェイ

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物腰が柔らかく優雅な学者。「天才クラブ」#81、生命科学の専門家。
生まれ持った資質と驚異的な執着によってヌースの一瞥を受け、秘密の場所で生命の根源に関する研究と探求を始めた。
その結果ヘルタに声をかけられ、スクリューガム、スティーブンと共に「模擬宇宙」を開発。
伝統的な劇とお菓子が大好きで、刺繍にも興味がある。

  • ストーリー詳細1

幼少期、彼女は「科学者」である母から初めての啓蒙を得た。

科学に傾倒していた家族が集まる小屋の中で、彼女の生活と愛は切っても切れない関係にあった——そのため彼女は早い段階で「愛」には差があること、そして異なる香りを持っていることに気づいたのである。

祖母は白髪で、楽器と歌声を用いた戯曲が好きだった。父の革靴は大きくて毛むくじゃらだった。
父と母は互いに愛し合っていたが、よく喧嘩もしていた。
彼女は大人しい少女で、よく間違いを犯していたが、よく許されてもいた。

「アーリスおばさんは他の大人たちより私に親切で、お菓子を買ってくれる。だからおばさんからの愛が一番」

そのうち少女は強情を張ることを覚え、彼女の「愛」に対する理解も、書籍に書かれている公式の説明を超えるものとなった。
それからまた少し少女が成長した頃、母は彼女に巨大な氷河の惑星を一歩一歩一緒に進むよう厳しく求めた。
少女は途中で息が上がるたびに足を止めては、氷河の下にある魅力と不思議に満ちた「生命」——かつては「生命」だったものをじっくりと観察した。

観測が終わって小屋に戻ると、ようやく「ご褒美」の時間が訪れる——
お菓子をかじると、その美味しさが口いっぱいに広がっていく。彼女の小さな期待は、いつも母の研究に魅力的な香りを添えていた。

故郷、「豊穣」の祝福を受けた世界を起点に、彼らは観測用の宇宙船に乗り、多くの世界に赴いている。
家族から贈られた様々な「愛」と、螺旋状に上昇するデータによって作られた「生命」の中で、少女は喜びを抱いた。

「ルアン、青団子を食べた後は、手を洗ってからじゃないと実験台には触っちゃだめよ」


  • ストーリー詳細2

両親の葬式で彼女は真っ黒な喪服を着た。相変わらずしっかりと整えられた黒い髪が、彼女の表情を隠している。

彼女は涙を流さなかった。

夜が訪れた。実験室のモニターでは、螺旋状のデータによって作られた何層もの模様が、戯曲の声に変換されては広がり、流れている。そして、その何層もの模様が剥がれた後、彼女が大切に守り、細心の注意を払って作り上げた秘密が現れた——目を閉じている父と母。2人の冷たく、寝ているような顔。

「これは裏切りです。彼らは祖母との約束を守ることができなかった」

「私も両親との約束を守ることができなかったせいで、同じように彼らを裏切ってしまった」

「科学だけが…裏切らない」彼女は呟いた。

少女は両親が平等であることを望み、自分の名前を抹消した後、2人の名字を貰って自分の名前にした。

それ以来、「家」のことを聞かれるたびに、彼女の目には迷いが浮かぶ。まるで何もかもを忘れてしまったかのようだった。
そんな状態で、彼女は時間の法則を無視して演算を始めた。研究に集中するあまり食事は不規則になり、興が乗ると何日も研究を続けては、限界に達して気を失うように眠りに落ちる。

やがて彼女は蛍の微かな光を頼りに、毎晩研究を進展させるようになった。既存の生命の法則を無視すればするほど、彼女の進歩は加速していく。彼女は研究の法則、そして生命の意義を無視するようになった。彼女はただ観察、推察、それからデータを手に持って感じることで、新しい種の法則を編み出したのである。

その結果、彼女の実験室ではシダ植物や花がますます生い茂り、目に見えるスピードで成長を続け、ついには空間全体を埋め尽くすまでになった。花と葉の隙間には——集合した「データ」によって形作られた、両親の冷たい顔が隠れている。

眠っている「両親」が目を開こうとした時——彼女はもともと星に存在していた種の進化法則をほぼ破壊してしまっていたが、それでも目標に向かって進み続けた。
それは研究の最中に彼女が顔を上げ、空を仰ぎ、「ヌース」の一瞥が注がれるまで続いたのである。


  • ストーリー詳細3

ヌースの一瞥を受けてから、彼女は故郷を離れ、世間から隠れて生活を送り始めた。

彼女が其に何を尋ねたのかは誰も知らない。しかしその後、彼女の性格は輪をかけて淡白になり、今まで以上に研究に没頭するようになった——彼女が研究するのは「生命」の本質だけだ。

多くの「生命」が彼女によって模造された。
「燃える」生命は流動する炎となり、彼女の足元を這い、通り抜けていく。時々、彼女は自分が炎そのものになったと感じることがあった。
「流動」する生命は液体状の光となり、彼女の細い手首の傍を流れていく。時々、彼女は自分が光そのものになったように感じることがあった。
一部の「知識」によって模造された生命は、自らの思考、意識、感情を発展させようとした。そして、それらは時に泣き、笑い、悲しんだが、すべて彼女の体に溶け込んでいった。

しかし、彼女はそれらの「生命」を感じることができなかった。
生命が存在できる時間は短く、それらは朧げで、あっという間に朽ちてしまい、彼女の実験だけが続いていく。

彼女が片手間にしていた「研究」は、時に生物学の体系を揺るがすこともあった。彼女の「研究」は多くの惑星、空飛ぶクジラ、泳ぐ鹿、怯える花、巨大な植物の根を変え、その創造は有機生命体の経験と想像を凌駕するものだったからだ。

ただ其に近づくため、彼女は自分の「生命」に対する理解を打ち破り続けてきた——そう、其の一瞥は忘れがたいものだったのである。

「星神」とは…一体どのような存在なのか?あれも一種の生命なのだろうか?

その「衝撃」の美名が銀河の学界を駆け巡ると、いつも彼女の隠遁生活を打ち砕こうとする人が現れる。
彼女は振り返ると、机に置かれた「天才クラブ」からの手紙に視線を向けた——そして、またそれをゴミ箱に投げ入れたのだった。


  • ストーリー詳細4

小さな町の奇妙な科学の狂人、無機生命体、そして人形の少女が彼女を取り囲む。彼らとは一緒にアフタヌーンティーを楽しんだことも、共同研究をしたこともある。時には世間話をして騒いだり、笑い合ったりもした。

彼らに初めて会ったのはいつだっただろうか?もう思い出せないが、何かのプロジェクトのためだったことは覚えている。彼女は強制参加させられたのだ——これは紛れもない事実である。彼女はのんびりとお菓子を頬張った。彼らに加わったのは、時間と労力を費やす価値のある模擬「星神」のために過ぎない。

そう、時間を費やす価値はあるが…交流を強制される価値はない。

「天才クラブ?興味ありませんね」

「これは不思議な直感なのですが、あの『ヘルタ』という人は少し私に似ているようです。もっと深い…深いところにある何かが少し似ているのです」

彼女は自分が二度と過ちを犯さないことを確信している。もう何も信じなければ、裏切られることもないからだ。同じように…誰かを裏切ることもない。
「生命」の本質とは何か?「生命」の終点は一体どこなのか?
答えは本当に存在するのだろうか?

彼女の淡々とした表情からは何の感情も読み取れない。しかし、彼女の髪は沸き立つように香り、目元はほんのりと赤くなっている——彼女はすべてを楽しんでいるのだ。

宇宙の煩雑な物事は邪魔でしかない。「星神」という言葉だけが、彼女の心を動かせるのである。

なんと興味深いのだろうか。
「温床」の上で、「炊飯器」が育んだ「生命」がタイミングよくできあがった。生命の創造はまるで奇跡のようである。
なんとロマンチックなのだろうか。
彼女は誰よりも、「星神」を研究するためには対価が必要なことを知っている…それでも彼女は気にしない。彼女は知っている!彼女は——になることすら気に留めていないのだから!?

ちょうどいい時間だ——また「プロジェクト」のアップデートが始まる。

彼女は背を向けて立ち去った。
彼女は知らない。どれだけの時間が経とうと、祖母の視線はモニター越しに彼女に注がれていることを。

「ルアン…私のルアン。再会する時は……」


仙舟「羅浮」

景元

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帝弓七天将に名を連ねる「神策将軍」。
気怠そうな外見とは裏腹に、非常に思慮深く、策を用いて劣勢を挽回することを智謀と思わない景元は、
不要な問題が起きないよう、万事において工夫を凝らしている。
彼の周到な計略によって平和が保たれてきた仙舟において、景元は一見すると怠け者のように見えるため、他者から「無眼将軍」という渾名をつけられた。

  • ストーリー詳細1
    「太卜殿に教えを請いたい。この星陣棋、なぜ棋盤は四角く、棋子は丸いんだ?」
    「天円地方に倣っているのか?古人の文明が開化する前、人々は大地が平坦であると信じていた。列国の逐鹿、大地を一統した過去を模倣しているのであれば、星陣棋も当然四角くなる。そして棋子は…あの時代の人々は、天は球状の蓋だと信じていた。この棋子も星辰の流転に倣っているから、自然と丸くなった……」
    「いや、違うか」
    「将軍、次の48手はすでに予見しました。質問で私の注意を逸らそうとしているのなら、早々に諦めてください」
    「おや、なぜ符玄殿は私を疑っているんだ?」
    「話を逸らさないでください。続きを」
    「符玄殿の言う通り、棋は比喩、局を以って人を喩えている。戦争の規則は明々白々、各棋子の行動には定数があり、ただ進退するだけ。方を以って進退することこそ、棋盤が四角い理由だ。棋子については…先賢が『用智如圓』で伝えているように、陣中の各子には皆己の心智がある。だから丸い棋子を採用した」
    「星陣棋の起源は『玉砂巡拾』という書物に記されています。景元、私は博覧強記ですから、騙そうとしても無駄ですよ!」
    「雲車左三進四、将。君の負けだ、符玄殿」
    「ま、待った!この一手、なぜ先ほどの予見に出なかったの?や、やり直しを……」
    「棋子は人のようなもの、それぞれに心智がある。特に悔いの残る一戦でもなかったのだから、やり直しの必要はないだろう?はは。一司の長ともあろう者が、わがままを言っていいのかな?」

  • ストーリー詳細2
    六大仙舟を渡る建制として、雲騎軍は火劫大戦の末期に生まれ、雲が如く空を覆い、仙舟を守ると誓った。雲騎軍は帝弓の「巡狩」の勅命を遂行し、今まで伝承してきた。長命種の寿命は驚くほど長いが、血と炎が飛び交じる戦争の中で、百年の関門を潜り抜けた雲騎将軍は非常に少なかった。これは宿命というよりも、一種の伝統に近い。仙舟を鎮護し、忌み物を討伐する武装勢力として、将軍は未来を憂い人員や資源を配置する職責を全うするだけではなく、先頭に立ち、敵陣を叩き道を切り開くべきである。数多ある残酷で短い記録の中、羅浮の雲騎軍を率いる「神策将軍」である景元は、数百年の治軍で抜きん出ている。彼の韜略の下、羅浮雲騎軍は一時期同盟で名を揚げ、数々の輝かしい戦績を立てた。彼本人は戦に恐れる臆病者で、ほとんど陣刀を振るわない、という流言もあるが。景元の智謀は最も鋭利な剣にも勝ると、誰もが認めるだろう。

  • ストーリー詳細3
    最も広く知られている噂によれば、景元は代々地衡司に奉職する一族に生まれた。

狐族から伝わった「選び取り」の風習では、親は幼児の周りに色々な物や玩具を置き、それから1つ選ばせることで将来を占うという。景元の両親は我が子が衣鉢を受け継ぎ、地衡司の学者または執行官になることを期待していたが、景元は玩具の剣を掴んだ。

「選び取り」の結果が彼の未来を確定したかのように、学宮を卒業した後、景元は一目で未来がわかってしまう退屈な人生から脱するため、家族の反対を押し切って雲騎軍に入った。

雲騎軍の戦事蔵庫の中には、彼の雲騎兵卒としての初陣の様子が記録されている。輸送部隊の船がとある海洋惑星に不時着した。その地は忌み物に深く侵蝕されており、「傀儡タコ」と呼ばれる新興の長命種が雲騎の精神を乗っ取って艦隊に紛れ込み、艦隊を自身の巣穴に変えようとしていた。その危機を敏感に察知した景元は、傀儡タコの支配条件や対抗手段を素早く整理した。残りの船員は敵味方の区別がつかない苦境を乗り越え、敵を倒して無事故郷に帰ることができた。

このほぼ戦わずに勝利を収めた戦争で、雲騎将軍たちは景元の才能を目の当たりにした。そして仙舟に戻った後、彼はすぐさま雲騎軍内で頭角を現し、重用されるようになった。

彼の機転と実用主義的な手段は、しばしば上層部を悩ませると同時に強烈な印象を与えた。やがて前任の羅浮剣首の招待を受けた景元は、その所部に加入し、「雲上の五騎士」としての伝説の道を歩み始めた。


  • ストーリー詳細4
    仙舟の歴史に残る有名な伝説で、共に戦うために諸仙舟雲騎軍から集った5人の英雄のことを「雲上の五騎士」と呼ぶ。この5人を中心に成された功績は、絶えることなく史書に記録されている。タラサに攻め入った歩離人の艦隊を退けたこと。豊穣聯軍の慧駿族と造翼者の同盟を打ち破ったこと。仙舟玉殿の包囲を破り、活性化惑星「計都蜃楼」を打ち砕き、星海を観測する同盟の目を守ったこと……

しかし、累々の功績も時間の流れには逆らえない。「雲上の五騎士」の共闘は100年足らずで崩壊した。戦が減るにつれ、同盟の各仙舟はそれぞれの航路に戻り、羅浮も銀河間の交易路の巡航を始め、同盟のために補給と盟助を求めた。

旧友は風流雲散した、もはや二度と会うことはない。宿敵は死んだか捕らえたか、記憶の中に残るだけ。倒れた将軍はこのような苦悩に耐える必要はないが、生き延びた将軍はそのすべてに向き合わなければならない。どんなに素晴らしい未来を夢見ても、神の如く強敵を討っても、時間はお前の牙と爪を引き抜くと同時に、お前を生かし続ける。お前にできるのは、ただ片隅で余喘を保ち、己の無力を呪うことだけ。

そして真の智者だけが、時間という不敗の相手の前に立つことができる。


彦卿

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意気揚々とした雲騎驍衛、仙舟「羅浮」最強の剣士。
剣に生き、剣に溺れる少年。ひとたび彦卿が剣を握れば、この年若い天才を侮る者もいなくなる。
その宝剣の鋒鋩を収められるのは、恐らく時間だけであろう。

  • ストーリー詳細1

雲騎軍史上最年少の驍衛、景元将軍の衛兵、工造司の宝剣の収集家…
これほど多くの肩書を持ち、これほど話題になっている天才が、実はまだ子供であるということを人々は想像できない。

物心がついた時から、彦卿は常に景元の傍にいて、共に憂い、共に困難を乗り越えてきた。
そして、景元は彼に剣術と兵法を伝授した。長年の鍛錬を経た彦卿の心智は、その手に握る三尺水のように清く正しい。

雲騎武経の評価によれば、一呼吸の間に6本の飛剣を自在に操る力量は、雲騎軍の教習首席がさらに100年鍛えたとしても辿り着けない境地だという。
彦卿の天賦は実に恐るべきもので、仙舟の先人たちに評される「剣胎武骨」の再来とも言えるだろう。


  • ストーリー詳細2

雲騎軍の軍籍文献には、景元がどのようにして少年を見つけ、様々な異論を排除して軍に迎え入れたのかの顛末が記されている。
しかし、家系の欄だけは空欄のため、彦卿の血脈に関する情報は不明である。

天才と呼ばれる者の多くは、幼少期からその素質の一端を見せている。
この1000年間、巡狩の中で頭角を現した麒麟児は少なくない。
未成年が軍職を与えられたと知った人々も、「将軍は荒唐である」と評価しただけだった。

しかし、この天才少年が初めて戦場に立った時の光景は、すべての反論を黙らせるほどの異彩を放っていた。

遠くの星を巡狩する際、豊穣の民が造り出した巨大な器獣「防風」は、軍を虫けらのように蹴散らすことから脅威とされている。
しかし、少年は相対した瞬間にその頭を切り落とし、敵の勢いを削ぎ、それ以上は戦うことなく勝利を収めたのだ。

その後の戦績としては、景元と共に歩離人の貪狼鉄陣を破り、3人の巣父を斬り伏せた。
また造翼者との激戦では、最終的に空を覆う掌雲艦を墜としてみせた…これらは、彦卿の胆力と剣技を語るうえでの小さな注釈に過ぎない。


  • ストーリー詳細3

彦卿に剣術以外に興味があるものは何かと尋ねれば、簡潔な答えが返ってくるだろう——

「興味は僕の抜剣の速度に影響するだけだよ」

ひっきりなしにおもちゃを買いたがる子供のように、彼はお小遣いを使い果たすことも惜しまず、工造司が出したほとんどの宝剣——
真気で操る飛剣、接近戦用の短刀、伸縮自在の軟剣などを買っている。
それぞれの剣の規格や機能は唯一無二だと考えている彦卿は、常に実戦用と保存用に同じ剣を2本ずつ購入するため、月末には金欠になってしまい、「将軍の脛をかじって憐れみを乞う」ことも少なくない。

少年が剣を愛するのは至極当然の道理だ。
彼が所蔵する仙舟剣器にひとつの夢が映っている――

羅浮で一番…いや、仙舟で一番になる。羅浮の「剣首」、ひいては同盟の「剣魁」の称号を掴み取る。

「飲月の乱」の後、羅浮の雲騎軍で最も武芸に優れた者に与えられる称号「剣首」は、数百年もの間空位となっている——
この称号を手に入れようとした者がいなかったわけではない。
そこには説明が難しい深い理由があるのだ。

先代の剣首は13の奇功を残した伝説の剣士だったが、天律を犯して名前を抹消された。
そして彼女が得た名誉も、他の者には触れられないものとなったのである。

しかし、この意気揚々とした少年にとっては、今こそ歴史のページを捲り、新たな章を書き加える時なのだ。


  • ストーリー詳細4

「第123回対陣:彦卿、景元」
「将軍、もうやめよう!僕疲れた……」
「剣を握れば負けない自信はどこにいった?弱気になっているのか?」
「…護衛対象に切先を向ける護衛なんていないと思うけど。万が一傷つけたら……」
「君の技量が口の半分ほどでも達者だったなら、私は今頃負けていただろう。片手を封じる、早くきなさい」
「いや、両手を封じて!それか神君を封じてくれてもいいよ!」
「天舶司の取引のように値切りができるとでも?…はあ、少し考えさせてくれ……」
「隙あり!くらえ!」
「お見通しだ。はっ!」
「いたたた!くっ、絶好の機会だと思ったのに……」
「戦いで嘘を厭わず奇襲をかけるのはいいことだ。だが惜しいことに、君は剣を振るう時に気を隠せていない。これがいわゆる若者の気概というものかな?」
「将軍、もう1回!今度はできるだけ静かにやってみる……」

景元は手間暇をかけて彦卿を育て上げようとしているが、その姿を見て後継者を育成するためだと考える者もいれば、この子供を秘密兵器として使役しているだけだと考える者もいる。
しかし、景元が意図を明かしたことない。

彦卿の剣術が日に日に洗練され、仙舟「羅浮」で肩を並べられる者がいないほどの剣士になるにつれ、景元はいかにして少年に挫折しない程度の失敗を経験させ、その鋭い矛先を落ち着かせることができるかを考えるようになった。

剛が過ぎると剣身が折れやすく、利が過ぎると剣鋒を損なう。
宝剣には切れ味のいい刃だけでなく、それを納める鞘も必要だ。
彦卿の成長は、景元が思っていたよりも遥かに速かった。
今の彼に必要なのは力ではなく、それを抑える能力と経験である——
しかし、これらを身につけさせるには、彼に時間を与えるしかない。


青雀

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太卜司の普通の卜者、仕事をサボることを絶対にサボらない。
両親の期待に応えて太卜司に入った直後、彼女は楽で安定していると思っていた職が、仕事の絶えない苦海であることに気がついた。
そして数年の練磨を経て、青雀はひとつの能力を身につけた――どれだけ部署が変わっても、最低級の卜者であり続けるという能力を。
本を読んで、牌を打って…そんなふうに人生を過ごせるのなら、もう望むことはないだろう。
青雀

  • ストーリー詳細1
    青雀の伝説は学舎から始まる。

青雀が入学してから卒業するまでの間、記録のある試験の点数はもれなく「60」となっている——例外はない。

最初の頃、学舎の教師たちは青雀を凡庸な学生だと思っていた。
恐らく学問を修める才能がないのだろうと考え、特に彼女に注目することもなかった。
しかし、「60」という数字が成績表を埋めていくにつれて、教師たちはようやくそれが偶然ではないことに気がついた。

それからは、教師たちに面談に呼ばれることが青雀の日常になってしまった。聞いていればわかる。教師たちの話はいつも変わらない

——「物静かで賢い」、「天賦の才がある」から始まり、「残念なことに、その才能の使い方は間違っている」などの不満を垂れ、
最後には決まって「その要領の良さを学問に使えば、きっと成せることがある」……

しかし、青雀は自分の求める生活を明確にしていた。
面談の時は「はいはいはい」、「うんうんうん」と繰り返すだけで、
授業になると再び居眠りを始め、試験は常に低空飛行——

これが教師たちの心遣いに対する青雀の答えである。

ついに我慢の限界に達した教師たちは、最後、青雀の卒業評価欄に恨み節を書き添えることしかできなかった。

「大器に成り難し」


  • ストーリー詳細2
    太卜司に入ってからの十数年間、青雀は人畜無害で目立たない小さな雀のように振舞ってきた。

両親の期待に応えて安定した職に就いた青雀は、やっと一息つけると思っていたが、彼女は知らなかった。
情報と計算を担当する太卜司は、怠け者にとって果てしない苦海であることを。
いくら振り返っても岸は見えない。その過酷な労働は、青雀を逃れられない苦しみに突き落とした。

しかし「あなたを殺さないものはあなたをさらに強くする」という言葉があるように、社会に揉まれ尽くされた青雀は、
やがて熟練のサボり技術を身に着けた。
どれだけ部署を移ろうと、どれだけ上司が変わろうと、青雀は常に最底辺の卜者であり続け、さらに左遷される傾向もある…
これは喜ばしい成長と言えるだろう。

ただ、今の彼女には2つの悩みがある。1つ目は、毎年の元春に両親に会い、
最近の生活状況と将来設計について話し合わなければならないこと

——なぜなら、彼女自身に計画がないからである。
2つ目は、あの玉兆のように精確に行動する上司が、彼女がサボっている時を狙って新しい仕事を回してくることだ。

太卜司の恐ろしい上司から逃れるため、青雀は己の時間管理能力を磨くことを決意した
——残念ながら、小さな雀は理解していない。
「雀の計算は天の計算には敵わない」ということを。彼女の計画など、すでにあの法眼の中にある。


  • ストーリー詳細3
    「帝垣美玉」と呼ばれる遊戯は古代帝国時代から存在すると言われているが、仙舟同盟の長きにわたる星間漂流の途中で失伝してしまった。
    とある太卜司の匿名希望の卜者がルールをまとめ、現代の仙舟に蘇らせたおかげで、人々はこの星辰天象の法に則った牌を楽しむことができるようになった。

もちろん、ルールだけでは十分とは言えない。
そこで卜者は、書庫にある図面を餌に工造司で匠作をしている親友を釣り、美玉の牌と碁盤を作ってもらった。
その碁盤は自動洗牌、自動牌山積みなどの機能が搭載されており、後者が所有する「四至牌荘」で瞬く間に人気を博した。

今や「帝垣美玉」は羅浮で最も人気のある遊戯の1つとなった。卜者は時々、匠作との手紙の中で面白そうに語っている。
この玉牌は自分がサボる時に遊ぼうと思っていたもので、まさか羅浮人の心を掴んでしまうとは考えもしなかった、と。

「でも、別に悪いことじゃないよね——」
「だって…知力の活性化に役立つ牌を建前に堂々とサボれるなんて、最高じゃない?」


  • ストーリー詳細4
    「楽しく仕事をすることは一種の芸術である」

「その一、仕事は必要以上にやりすぎないこと。
上から与えられた仕事は期限まで一定の速度で進める。決して早く終わらせてはならない」

「その二、自分から仕事を探さないこと。上が明確にやらせたがっている仕事でなければ、それはあなたとは無関係」

「その三、1人で頑張ったり、功を争ったりしないこと。他の人を道連れにできる時は、絶対に1人で仕事を引き受けない」

「それから、手柄を立てたら同僚に譲ること。借りを作るのは将来のための投資の一環。
上司に評価されて昇進することも避けられる——昇進したら仕事が増えちゃうからね」

「とにかく、この3つが楽しく仕事するための基本的なルールってこと——自発的に動かない、拒否しない、責任を負わない。どう、わかった?」


御空

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仙舟「羅浮」天舶司の主司。性格は温和で、物事の処理に手慣れている。
若い頃は飛行士として戦争を経験し、優秀な成績で主司になったが、とある凄惨な戦争のために飛ぶことをやめた。
今は落ち着いた性格になり、公務に専念しているが、「羅浮」の航行の上には常に彼女の影がある。

  • ストーリー詳細1

「知ってるかしら?天舶司に入れる人は、3種類よ。
口が達者な人、刺激を追い求める人、星空に戻ることを渇望する人──この3種類で、他にはいないわ」

私たちは尽きない程寿命がある仙舟人とは違うわ。
狐族も「長生種」と言われるけど、寿命は300年ほどしかない。
だから、私たちの多くは生活を楽しんでいる──全身全霊で生活の究極を追い求めている。

私?私は、246歳よ。楽しむ年齢はとっくに過ぎているわ。
棺桶に片足を突っ込んでる年齢ね。
あなたも私が若い頃は、気が強く、激しい性格だったことを知っているかもしれないわね。
年老いた仙舟人から、私が赤信号を6個も無視した話を聞いたでしょ?

あの頃、私は成人したばかりだったわ。
将軍の前に引きずり出されて…どうなったと思う?彼は、私に天舶司に入って欲しいと言ったのよ──
私があまりにも星槎を上手に運転していたから、天舶司に入れば大いに活躍すると思ったらしいわ。

あの時、彼は私を「不良少女」と呼んでいたけど、その呼び方はいつの間にか、「王牌」に変わっていたわ。


  • ストーリー詳細2

「老いた老人は百に一の用なし。木の棒に引っ掛かったみすぼらしい服のよう」

昔、このような外から伝わった古詩を聞いたことがあるのよ。
この詩は、仙舟の詩とは韻律が違っていて好きではなかったけど、この一節だけはいつまでも心に残っているわ。
まるで魂のようにね。

殊俗の民が老い衰えていく姿を見たことがあるわ。
皮膚と筋肉が緩み、大脳に不可逆の退化が生じ、骨は脆くなって、目は濁っていく…

彼らが私たちを羨むのは理解できるわ。
私も昔は彼らと同じように、自分は老い衰えることなく、永遠に変らないと思っていた。

毎回出征する前、私は戦友に約束していたわ。
「あなたはしっかり武器を握りしめて、私があなたを仙舟に連れ帰る」

でも、私は約束を破ってしまった。
あの戦いの後、私だけが傷ついた身体を引きずって天舶司に戻ってきた。

私は戻れない。火を見るより明らかよ。

それ以来、私は公務に集中し、空に戻るような空想をすることはなくなったわ。

私は年老いたのよ。


  • ストーリー詳細3

「この物語はあなたたち仙舟人とは真逆ね」
この物語は仙舟の外から伝わってきたものよ。
あるところに、神と取引して、自身の長生きを願った若者がいた。
神は彼の願いを叶えたわ。彼は死ななくなった、でも彼の肉体は老い衰える。
彼は永遠に老い衰えるという苦行に耐えられなくなった。
これは、彼が口内身体を手に入れようとしたことが原因である。

物語の最後、私に物語を語り聞かせた老人はそう言っていたわ。
おそらく、仙舟は殊俗の民にとっては星の海を漂う至宝が乗った船よね──
ここで、人々は無限にある楽しみを享受し、廃れ滅ぶ苦しみを知らないと思われているのね。
私からみて、それらは全く違うわ。

仙舟人は、まさに永遠の老い衰えを経験しているわ。
確かに、私は50歳の時と同じように元気よ。
星槎を運転して渓谷を超えることができるし、何時間も踊り続けることもできる、歌うことも可能よ──信じられないかしら?
私は長楽天の芸能人よりも上手に歌えるのよ。

残念ながら、私はもうそんなことしないけれど。
もうしたくないのよ。楽しくないの。
私を楽しませてくれるものはもうないわ。

これが私たちの老い衰えよ。これは全ての仙舟の住民の老い衰えよ。


  • ストーリー詳細4

「紙鳶は落ちて亡くなった飛行士をしのぶ物なのよ。
しっかり持ってて——空に戻れない飛行士たちの代わりにもう一回飛んで」

燃え盛る星槎の残骸の中から私が這い出した時、血も涙もない、星の大気に飾られていない空が見えたの。

あれは、私が見た中で最も美しい空だったけど、感じたのは耐えがたい悲しみだった。
私は無力な蟻のように地面に這いつくばって、空を見ているしかなかった。

夢の中で、私はその日に死んだの。

たくさん考えたわ。私は過去を思い出した。
死んだ太陽を見たことがある。活性化した星を見たことがある。
帝弓の司命の光矢を見たことがある。
あまりにも多くの星を、命か消える瞬間を見てしまった。
多くの命が生まれるのを見た。見たものが多すぎた。
私は年老いた。私は年老いたい。私はいつか死ぬ。
私の翼は折れた。私は戻れない。
私は年老いた。私は戻れない。私は死ぬと思う。
私はもう飛べない。私の翼は折れたと思う。
私は戻りたい。私は空に戻りたい。
私は戻りたい。私は空に戻りたい。
私は戻りたい。

私は夢から覚めた。

戻りたい。戻りたい。戻りたい。

私は必ず戻らなければならない。
星空は私の物よ。私は星空に戻ることを渇望している。

私は人生最後の飛行を終わらせるわ。


符玄

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仙舟「羅浮」太卜司の長、自信に溢れたまっすぐな知者。
第三の目と窮観の陣を用いて仙舟の航路を占い、物事の吉凶を予見する。自分がしたすべての事が「最善策」であると固く信じている。
符玄は将軍が約束した「座を譲る」日を待ち続けているが…どうやら、この日はまだ遠いらしい。

  • ストーリー詳細1

どれだけの年月が過ぎようと、符玄は自分が「ライブラリー」に入る許可を与えられ、質問を投げかけた日のことを覚えている。

「君は何を考えている?」杖をついたサングラス姿の盲目の老人は、ただ静かに彼女の返事を待っている。

「選択ができる瞬間は…すべて定められたものなのか?それとも、あの瞬間に、もっと正確に、あと万分の一でも正確に占うことができたなら、私は正しい選択をして、彼らを引き止められたのだろうか?」少女は半分目を閉じていて、問いかけているようにも、答えているようにも見えた。

「私たちは常に、己の足跡が作り上げた迷路の中心に立っている」。盲目の老人はそっと杖をついた。「私には答えを教えられない。私が与えられるのは、問題…そして問題を見るための眼界だけだ。君がここまで来て私に求めるものも、きっと答えではないだろう」

「なら『目』を貰えるかしら。運命は定められたものなのか、1人の卜者として、もっとはっきりと見たいの」

「君の望むままに。だが、仙舟人の肉体は長存するもの…私が与える『目』を受け入れることは、永遠の苦痛を受け入れることを意味する。それは知識を得るための道具というより…むしろ『刑具』に近い」

「それなら遍知天君の信条にも合っているわね——知識は苦痛を経て手に入れるもの。私は未来の選択で同じ過ちを繰り返したくはない」

……

「目」を授かる時、彼女は昏昧の中で過去を見た。

正座して読書に励む幼い自分の姿。愛おしそうに彼女の頭を撫でながら、その聡明さを誇らしげに褒める父の姿。仙舟「玉殿」の観星士世家として、符氏一族の歴史がいかに素晴らしいかを語る家の年長者の姿。そして、彼女の輝かしい未来を占うため、準備を進める卜者たちの姿——彼女は、やがて「太卜」の座に就くらしい。

「これが私の未来?」

「一飲一啄、前定に非ざるは莫し。これが君の宿命だ。占卜の結果はすでに太卜竟天様に上程した。彼は君のために自ら講義をすると言っている…これは大きな福運だ」

すべての過去が確率の霧の中で重なり合い、夢か真か分別できない。それは意識の縁で変化を続け、数え切れないほどの未来に展延していく。彼女は無数の瞬間を必死に見極めながら、自分が正式に卜者になる日を探し求めた。


  • ストーリー詳細2

その日、仙舟「玉殿」の瞰雲鏡の下で、符玄は師と対面した。しかし、彼女は目の前にいる人物が、一族の者たちが神人として崇める太卜であることなど、にわかには信じられなかった。その男はやや古くなった飛行士の短褐を身に纏い、無作法にも足を伸ばして地面に座ったまま、投影陣列の中で変幻交錯する光の点をじっと見つめている。

「末学符玄、ご挨拶に参りました」。少し躊躇いながら、少女は口を開いた。

男は視線を動かすことなく、彼女に図を見るよう手で合図を送る。その時、符玄は彼の手が木製の機巧であることに気がついた。「玉殿の鳴珂衛がタラサの防衛に着き、曜青艦隊の忌み物の殲滅に協力している。君も聞いたことがあるだろう?だが、彼らはこの戦いには勝てない」

「え?曜青艦隊は武勇に優れ、敵うものはいないと言われております。戦報によれば、我が軍の人数と戦艦は歩離猟群の倍はある。それでも敗れると仰るのですか?」

「いい質問だ。君は簡単にあきらめる生徒ではないようだな」、男は立ち上がり、服についた埃を払った。「運命を知っていても、それに屈することなく、数多の可能性の中で最善の選択を模索する…これは卜者として正しいことだ。しかし、いくら選択しても運命は目の前の1本道しかない、という時もある。占卜が終わった時、凶と大凶、この2つの結果しか残されていない場合、君はどうする?」

「…両方の害を比較して、少しでも軽いほうを選ぶ。占卜学で一番最初に習ったことです」

「人間の眼界では、両者の軽重を量ることができない場合は?」そう言いながら、男はこちらに振り向いた。

「今回の占いは、新たに構築された陣法『十方光映法界』によって推演されたもの。その結果は2つ、仙舟「曜青」の鶴羽衛を借りるか、仙舟「方壺」の玄珠衛を借りるかだ。鶴羽衛を取った場合、その兵力に頼って一時的に強攻することはできるが、その後の勝利はない。玄珠衛を取った場合、遠方にいる方壺の協力を得るため、6ヶ月は戦を長引かせることになってしまう。その間も敵の反撃に耐え続けなければならないが、援軍が来るまで持ちこたえることができれば、勝利の可能性はある」

「彼らは前者を選んだのですね」

「そうだ。卜算の結果はあくまで参考であって、将軍の代わりに決断することはできない。彼は目の前の損害を小さくする方法を選んだ。だが、僕も間違ってはいない。これは定められた結果なんだ」

「兵書の『倍あれば戦う』原則に沿うのであれば、曜青の軍を呼ぶことも下策ではないでしょう。そもそも、この世に定められたことなどありません。それなのに、なぜ太卜様は必然だと断定するような言い方ができるのですか?」

「この世に定められたことはない?」、男は大きくため息をついた。「僕もそう思っていた…占いの結果が出た時、計算が間違っていたのではないかと疑ったが、改めて推演しても結果に変化はなかった。だから、僕は自分で証明を求めることにしたんだ」

「この数週間、僕はタラサに行き、忌み物と戦い、現地の水居者文明の信頼を得た。そして、驚くべき情報を手に入れた…月の干渉を受け、1ヶ月後にはタラサ人が『悪魔の潮』と呼ぶ大潮が始まる」

「方壺持明の雲吟師の助けがなければ、その劣悪な環境で敵と戦い続けることは叶わない。この情報は如何なる博物誌にも、軍の資料にも載っていない…余計な真似をしてソレを証明しようとした結果、僕は自分の手を失った」

男は苦笑しながら、木製の手を挙げて左右に振った。「時には、運命の道は1つしかないこともある。すべては運命に定められているんだ」

「ああ、そうだ。僕のことを太卜と呼ぶ必要はない、今日からは『師匠』と呼んでくれ」


  • ストーリー詳細3

玉殿の太卜司で、彼女は人生で最も楽しい時間を過ごした。宿命と自由意志、陣法推演と人の選択…占卜に関連するありとあらゆる問題について、少女は師匠と論争を繰り広げた。これは弁論のような言い争いではなく、師弟であり、友でもある2人の競い合いのようなものだ。最終的に、少女と師匠は大半の問題について意見を一致させたが、2人の間には避けては通れない相違があった——

ヌースに書籍演算を求めてから、仙舟「玉殿」の太卜司は数百年の歳月をかけ、解読を実現した。玉殿が仙舟一を誇る占卜陣法を構築することができたのはこのためだ。玉殿の卜者たちは皆、それを誇りに思っている。しかし符玄から見れば、これは仙舟人の未来を陣法が定めた道に縛り付けただけに過ぎなかった。

人々は陣法が示した未来は必ず実現すると信じ込み、選択とは名ばかりの置き物になった。卜者は陣法の囚人となり、吉時に出かけ、凶時に立ち止まり、その日に適した事や適さない事に注意を払い、すべてを占卜の結果通りに進める。

「陣法に明日お前は死ぬと告げられたら、私は自害しなければならないのですか?それなら、占うも占わないも同じことでしょう?」

「僕たちは、自らが天命を歩んでいることを知っている。それが違いだ。そして、これこそが太卜司の制度を創設した玄曜祖師が追い求めた、至上の道でもある

「陣法の助けがあれば、卜者たちはただひたすら敬虔に信じ、啓示に準じて1つ1つ選択をするだけでいい——たとえそれが信じられないようなものでも、艱難辛苦を伴うものであってもね。そのすべてが、いずれ僕たち仙舟の求める偉業を達成させてくれるだろう。寿瘟禍祖を取り除き、世間から寿禍の苦しみを消し去るという偉業を」男の表情は、まるで悟りを開いた覚者のように、堂々としていて穏やかだった。彼は符玄を見て言った。「僕が君の命数を知って、弟子にしたように」

私の才能のためではない?私の一族の人脈のためでもないと?ただ、予言を実現させるためだけに?まさか…そんなの馬鹿げてる!符玄の胸に怒りの波が押し寄せ、彼女は一瞬言葉を失った。

「知っているか?『十方光映法界』に問いかけ、卦象を解読した後、僕は君の手によって自らの運命が断絶されると確信したんだ。それでも僕は依然として君を弟子にして、仙舟『玉殿』の太卜たる座を受け継いでくれる日を待つことにした。なぜなら、すべては運命に定められているからだ」

運命に定められている?彼の運命が、私によって断たれる?

まるで、仙舟がまだ三劫時代にいるかのようだ。彼女が太卜の座を狙い、師を手に掛けることも厭わない逆徒であるかのような物言いではないか。この大馬鹿師匠め!

「ならば、私は…それを現実にはさせません!」

少女は彼の心智を、技巧を、人柄を、卜者としてのすべてを尊敬していた。ただ1つだけ受け入れられなかったのは、運命を覗く卜者でありながら、彼が宿命論の深淵に甘んじて堕落し、それを当然だと思っていることだ。

そこで符玄は一族の制止を振り切り、すべての妨害を無視して、半ば自己追放に近い形で仙舟「玉殿」から逃げ出した。彼女はより自由な気風のある羅浮の太卜司に入り、そこで占卜に没頭した。仙舟「玉殿」を離れるだけでは足りない。あの予言が誰かの馬鹿げた妄想でしかないことを、彼女は己の手で証明しようとしたのである。


  • ストーリー詳細4

それから百年が過ぎた頃、再び戦が起こった。卜官である符玄は命を受け、休むことなく占卜を続けていた。豊穣の大軍が三度結成され、仙舟「方壺」を強襲した。玉殿と羅浮は方壺からそう遠くない場所にいるため、救援の責任から逃れることは許されない。卜算の結果によると、全力で迎撃すれば、参戦した仙舟の軍隊はいずれも大敗を喫することになるが——守勢に徹すれば、挽回の余地はある。

だが、その転機がどこにあるのか、それを卦象は示さなかった。符玄は推演を繰り返したが、窮観の陣の結果は変わらない。

「失敗を選択する者はいない」。卜者にできることは、すべてここにある。符玄は利害を陳述すると、卜算の結果を神策府に報告した。方壺を侵犯する豊穣連合軍の兵力は非常に強大で、守勢を取るだけでは足りないと、帝弓天将は合議を経て決断した。想定内の結果だ。羅浮と玉殿の雲騎軍は敵を迎え撃ち、曜青の部隊が駆けつけるまでの時間を稼がなければならない。

その日、符玄は投影沙盤を通して援軍の敗北を見届けた。歩離人は天を覆うほどの艦隊と器獣だけでなく、いにしえの伝説に登場する活性化惑星「計都蜃楼」を呼び寄せたのだ。その邪星は方壺に落ち、そこに住まうすべての命に終末をもたらそうとしている——仙舟「蒼城」の覆滅の惨劇のように。人々は邪星の降臨を見ていることしかできない。

卜者にできることは本当にこれだけなのだろうか?焦りと怒りの中で、符玄の中に極めて大胆な考えが浮かぶ。「景元将軍に会わせて!」

将軍に会った彼女は、自身の考えを陳述した。目下の雲騎軍の力では、もはや勝機はない。唯一の転機があるとすれば、それは帝弓の垂迹を顕現させることであると。

意外なことに、この冒涜とも取れる非合理的な考えを述べ終えた後、目の前にいる疲れた顔をした将軍は、特に嘲笑する様子もなく、ただ頭を縦に振った。「君はどうしたい?」

「仙舟『玉殿』には同盟の観星第一重器、瞰雲鏡があります。この装置は観測だけでなく、外部に信号を送ることもできる…つまり、船を使って瞰雲鏡を方壺に運び、帝弓の光矢が最後に出現した場所に向けて助けを求めるのです。今すぐ動けば、あの惑星が墜ちる前に事態を好転させられるかもしれません」

「帝弓が降臨する唯一の兆しと、それがもたらすであろう結果を…君はわかっている。そうだろう?」

「はい。本件の提案者として、私自ら戦場に赴き、策を実行しましょう」、少女は険しい顔で言った。自分の案が突拍子もないものだということは、彼女自身も理解している。

「君の建言に感謝する。だが危機に瀕した時は、六御が心をひとつにして立ち向かうべきだ。それに、君にはその装置を操作する権限がない。この作戦によって事態の収集がつかなくなった時は、私が提言者として全責任を負う。符玄殿、君は何も心配しなくていい」

去っていく将軍の後ろ姿を眺めながら、符玄は不意に「六御が心をひとつにして立ち向かう」という意味を理解した。瞰雲鏡の全権限を持ち、さらには帝弓の勅命を解読する形で信号を送ることのできる人物は——

玉殿の太卜、ただ1人。

……

「これが、君が『眼界』を求めた理由か?君の夢を読み取った……」

少女は目を閉じたままだったが、周囲の世界が霧から実体に凝縮されていくのが見えた。すべての可能性は消え去り、明確で間違いのない唯一の選択だけが残っている。

「それは夢じゃない。今の私を形作った、私の過去よ」
「彼は間違っていなかった…運命の道は、常に1本しかない」


鏡流

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かつての羅浮の剣首、雲騎常勝の伝説を築いた者。
しかし今、その名は抹消され、魔陰の境を歩く仙舟の裏切り者となっている。

  • ストーリー詳細1

剣、長さ三尺七寸、この上なく軽い。
それは普通の鉄で鋳造されたものではなく、堅い氷を凝集させたものである。淡い光を放ち、まるで一筋の月の光を握っているかのようだ。

「剣、長さ三尺七寸、重さ七斤余り。手に持ち、鋭利な先端で敵を突き刺す」
軍装の女性が軽く手を振ると、、剣は魂が宿ったかのように武器の棚から飛び上がった。そして女性の手の中で収まると同時に鞘から抜かれ、少女の横に突き立てられる。辺りには衝撃で剣が震える音が響いた。
「覚えた?覚えたなら、歩離人の陸戦で最もよく使われる戦獣を相手にしてみよう。血眼の睚眦を10体倒せば、最初の授業は終わり」
彼女は口を閉じたまま、ただ左右を見回す。これは彼女が救助されてから初めて病室を離れ、生まれて初めて剣という武器に触れた瞬間だった。
「医士と助手には席を外してもらったわ。私の命令がなければ、彼らはあなたを探しにこない」
「蒼城の災禍を生き延びた人は多くない。救援が到着するまで、あなたが一体どんな経験をしたのかはわからないけど…あなたがこのまま過去の恐怖に溺れながら人生を送っていくところは見たくないの」
「口が利けなくても大丈夫、それを使って話すといいわ」
「それを使えば、私たちのすべてを奪った怪物を完全に消し去ることができる。それほど素晴らしいものは、この世に多くは存在しない」
軍装の女性は表情を変えることなく、少女の横にある長剣を見つめる。

鏡のような刃が彼女自身の姿を映し出している。無数の鋭い破片が嵐のように巻き上げられ、少女を引きずり込む――
暗く深い空の中、羅睺という名の妖星が悲鳴を上げ、歌を歌いながら、燃え盛る山脈と大地を伴い、人々に襲いかかってきた。
大通りにいた人々は叫び声を上げ、終末の絶望の中で藻掻き、転げ回っていた。金色の枝や蔓が口や鼻の中で成長することに構うこともできずに。
すべての出来事を目の当たりにした彼女は、身動きを取ることができなかった。体の内側が沸騰するように熱い。何かが彼女の体の中心で勢いよく転がっている。熟した穀物が殻を破って飛び出そうとするかのように、それは無限に膨張していく。
しかし、目の前に迫った山脈を見た彼女は、自分はただのカゲロウであり、まもなく死神の指先によって捻り潰される運命なのだと悟った。

溺れ死ぬ直前、彼女は傍にあった唯一の浮草を掴んだ。
剣、長さ三尺七寸、重さ七斤余り。


  • ストーリー詳細2

剣、長さ六尺五寸、重さ十四斤。
これは雲騎軍の大剣の形に作られているため、両手で握らなければならない。その刃には離火が秘められており、敵に接触した瞬間、器獣のイナート外殻を切り裂くことができる。
また、戦闘を支援するための飛剣が12本あるのだが、「大椎」から「陽関」までのツボに繋がっているため、激しい嵐のように一瞬で展開することができる。
彼女は剣術のことをよく理解しておらず、まだ多くのことを学ぶ必要がある。

軍装の女性にそれ以上を教える時間はない。まもなく軍を率いて出征しなければならないからだ。そして少女の2回目の授業は戦場で行われ、倒れた敵から学ぶことになった。
「突き刺す」は確かに簡単でわかりやすいが、敏捷な怪物は彼女に処刑されるべく、自ら剣先に向かってきたりはしない。そこで彼女は「斬る」ことを覚えた。
次は「絡む」ことだ。驚くべき力を持った怪物を前にして、少女は剣の背で攻撃を受け流すことを覚えた。
彼女は、自分は完璧に剣術を習得したと考え、自分の10倍の大きさはある器獣戦士「龍伯」に飛び乗った。
しかし、持っていたすべての剣を折っても、相手の巨体には浅い傷しか残らない。
大きな手で弾き飛ばされ、戦場の血に染まった泥の中に倒れた彼女は、再び恐怖に溺れた。溺死する瀬戸際で、彼女は剣術にも限界があるのだと理解した。
その時、炎を纏った弩の矢が龍伯の頭を吹き飛ばした。「立ちなさい」軍装の女性は彼女を見つめていた。

「もう剣術の修行はやめる。こんなもの…何の役にも立たない」
「役に立たない?私には大いに役立っているけど。結局のところ、扱う人間が役立たずなだけでしょう」
「……」
「剣術を学ばないなら、何を学びたいの?飛行士の星槎にある煉石矢?神腕営に標準装備されている熾火弩?それとも…仙舟『朱明』の朱明火?あの妖星を滅ぼすだけなら、それがあれば十分ね。それを学びたいの?問題ないわ。それらを使えば顔を合わせて戦わなくても相手を殺せるもの」
「…私はただ、なぜあなたが剣術を学ばせようとするのかわからないだけだ!」
「将軍から兵卒に至るまで、雲騎軍は全員が剣術から学び始める
「工造司の様々な兵器は、確かに自分の代わりに敵を倒してくれる。でも、そうした兵器はいずれも自動で動いているだけ。ある日、矢が尽きて、星槎が墜落して、金人の動きが止まったら、誰が私たちを守るの?誰が仙舟を守るの?」
「この剣を握って、心に刻みつけなさい。雲騎軍が自ら剣を握って出陣してこそ、人間たちの戦いになる。私たちは自分の肉体と技を使い、あの人ならざる忌み物たちに証明するの。機巧に私たちの代わりを任せるのではなく、私たちの手であいつらに勝つということをね!」

軍装の女性は背を向けると、鏡流と折れた剣だけを残して演武室から立ち去った。
剣、長さ二尺一寸、折れて柄と鍔しか残っていない。


  • ストーリー詳細3

剣、長さ五尺、非常に重く、黒い刃には血の色が浮かんでいる。
この剣は天外の金石を使い、何度も精錬して作られたもので、通常の武器の規則からは外れている。この剣を鍛えた短命種の職人のように、それは手がつけられないほど横暴で、極めて誇り高かった。

これまで剣だけを友人としてきた彼女に、多くの友人ができた。

彼女が剣首の名を獲得した日、その職人は黒ずくめの服装で式典に現れると、後ろ手に剣を放り投げた。剣は地面に数尺ほど埋まり、ほぼ柄しか見えなくなってしまった。人々は騒然となった。
「俺が鍛えた剣の真価を発揮できるのは、羅浮雲騎軍の剣首だけだ」彼は歯を見せて笑った。

月のように孤高で不遜な羅浮の龍尊は、彼女の神技を目の当たりにして闘争心を抱いた。
剣と槍は何年にもわたって戦い続けていたが、勝敗が決することはなかった。最終的に、彼女は顕龍大雩殿で剣を使って海を断ち切ることで、龍尊の敬服を勝ち取った。

星海を飛び回る見識の広いナナシビトは、彼女のために船の舵を取り、星海の向こう岸で作られた美酒を持ち帰った。彼女と酒を飲みながら語らい、共に輝く空の星々を見つめた。

「天の星々であろうと、我は斬り落とす」
ぼんやりと、彼女は酒の勢いで口にした大言を思い出した。子供の頃の記憶にあった、突如として現れた燃え盛る星宿、そして彼女を悩ませ続けていた恐ろしい悪夢も、もう怖いものではなくなっていた。
これまで剣を振るい続けてきた彼女だったが、今、初めて生きる望みとは何かを知ったのだ。それまで彼女が抱いていたものは、死の志に過ぎなかった。

そして彼——彼女の弟子。
彼女は彼との出会いを思い出した。彼は幼いくせに悪知恵だけはよく働く子供で、昔の自分とまったく同じ質問をしたのだ。
「師匠はなぜ剣を使うことにこだわるのですか?敵を殺せる武器はたくさんあるでしょう。あの星を消滅させたいなら、仙舟の朱明火を使えば可能だと思いますが」
「その質問は詩人になぜ詩を書くのか問うのと同じこと。自分を表現する方法はたくさんあるが、我の方法はこれだけなのだ」
今では彼も雲騎軍の俊才となっている。

もう彼女に師はいない。軍装の女性は戦の中で命を落とし、これ以上彼女に何か教えることはできなくなった。
しかし、もう彼女に師匠は必要ない。彼女は剣のすべてを会得した。今の彼女にとって剣は体の一部、所作の一つになっている。
人々は彼女を「無罅の飛光」と呼ぶ。それは到底手の届かないような剣士の頂点を意味している。しかし、彼女は理解していた。「天の星々を斬り落とす」には、彼女の剣でも力不足であることを——

たとえ彼女の手に握られているのが仙舟一の宝剣と称えられるものであったとしても……
剣、長さ五尺、非常に重く、黒い刃には血の色が浮かんでいる。


  • ストーリー詳細4

剣、長さ五尺、非常に重く、黒い刃にはいくつもの亀裂が入っている。
混乱した戦いの中で、彼女はその剣を手に、戦友や弟子と共に歩離の旗艦に攻め入り、戦首の頭を斬り落とした。また、空高くそびえる飛空城に登り、羽衛たちの羽を切り落としたこともある。彼女は慧駿の執綱者と戦い、六足駿馬の精鋭をことごとく牢獄へ送った…ひとたび彼女の剣が向けられれば、その先にいる忌み物は死ぬか敗れるかの二者択一で、逃れられることはない。
彼女は、生死を共にしてきた友人に剣を向けることになるとは思いもしなかった。

彼女は息を切らしながら傷ついた体を何とか支えていた。遠くの洞天からは悲痛に満ちた龍の咆哮が聞こえてくる。それはまるで束縛からの解放を求めているようだった。
誇り高き匠が泥の中に倒れるのを見て、彼女は彷徨う魂のように彼の横を通り過ぎる。
「先にお前を殺すべきだった…だが、お前には背負うべき別の罪がある。永遠の罪が……」
彼女は折れた剣を龍尊に向けた。
「馬鹿な。龍師たちは言っていた…我が一族の血、我が祖先の魂は、別の龍尊を創るはずだと。何もかも…こうなるはずではなかった」
「お前を殺してすべてが元に戻るなら、我はそうしよう…だが今は……あの龍の逆鱗の場所を教えてくれ」
「頭頂部だ……」

半分は龍の姿をした厄獣が稲妻のように空を駆け抜けていく。水平線を呑み込むほどの巨体で浮島を砕き、千本の剣がぶつかり合うような声で泣き叫ぶ。
彼女は自分の体の中心が燃えているように感じた。熟した穀物が殻を破って飛び出そうとするかのように、それは無限に膨張していく。
彼女は再び子供時代の悪夢に囚われる自分を見た。凶星が降り注ぎ、カゲロウは無力に藻掻く。
女性は服の裾から黒い布を破り取り、それで両目を覆った。
雷が轟く。彼女は剣を持って高く跳躍し、邪悪な龍に立ち向かった。
夢とも現実ともわからない幻覚の中で、彼女は自分の肉体がついに限界を超え、崩れ始めたことに気がついた。まるで糸のような束縛が体中を締め付け、少しずつ彼女の最後の意識を切り裂いていくかのようだ。
その時、突然あの言葉が耳元で響いた。
「天の星々であろうと、我は斬り落とす」

その瞬間、彼女は夢にまで見た宝剣を握り締めた。
それはあらゆる束縛を断ち切れる剣。それは長年慣れ親しんできた剣。
それは普通の鉄で鋳造されたものではなく、堅い氷を凝集させたものである。淡い光を放ち、まるで一筋の月の光を握っているかのようだ。
剣、長さ三尺七寸、この上なく軽い。


素裳

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一本の重剣を携えた少女。雲騎軍の新人で単純かつ熱心。
雲騎軍の伝説に憧れ、自分も名を響かせるような人物になりたいと願っている。
そのため、素裳は「頼まれたら必ず応じる、日に三度は我が身を省みる」という信条を固く守り、人助けを楽しみながら慌ただしい日々を送っている。

  • ストーリー詳細1

玉界は朗朗、瓊田は蕩蕩。
星槎は海市に織り込まれ、天門を往来する遊客は絡繹として絶えない。
羅浮に出入りする客人は、頭を上げれば広々とした界門を見ることができる。
その空間の隔膜は渦のように揺らぎながら、拠り所もなく大小不同の船を吐納している。
実に壮観な光景だ。

この天門の名は「玉界」、実は仙舟洞天の出入り口である。
門の下、少し離れた場所に並んだ観光客の列が、ゆっくりと羅浮の中へ進んでいく。
その中に杏黄の服を着た少女がいた。
顔だけ見れば16、17歳くらいだろうが、仙舟の尺度では実年齢を推測することはできない。
また、どれほどの怪力なのかはわからないが、かなり重そうな剣を背負っている。

その剣は二尺一寸ほどあり、尋常ならざる大きさを誇る。
白い布で剣身を覆ってはいるが、どうにも古典的で素朴に見える。
しかし、その両刃はセミの翼のように薄く、髪の毛を乗せて息を吹けば両断できるほど鋭い。
行き交う遊覧客はその兵器を見て度々賞賛の意を表しているが、少女は眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「変だなぁ。母さんが教えてくれたこの心訣、心を静められるって言ってたのに、どうして効かないんだろう?」

彼女がさらに小難しい言葉を口にする前に、関門を守る持明の男が彼女に向かって手を振った。
「次の人!」少女は驚いて歯を食い縛ったが、意を決して前に進み出た。

「金石は鑠けども、盟誓は……」
少女は持明の男に向かって真面目に告げる。
「金石は鑠けども、盟誓は不破なり」、持明の男は少し訝しげに言った。「ただ通関すればいいのに、なぜ呪文を唱えたんだ?氏名、来歴、入境理由などを細かく記入してもらおうか」
少女は黙り込んだ。
そして、自分が羅浮の典故を間違って使ったことに気付く。
彼女は仕方なく四方鏡を取り出し、男の要求通りに報告を始めた。
「氏名:素裳、持ち物:『軒轅』、来歴……」
「…もう!この『曜青』の『曜』って字…どうやって書くんだっけ?」


  • ストーリー詳細2

素裳が雲騎の招集に応えて羅浮に来てから、すでにそれなりの時間が経過している。
彼女は日頃から真剣に見回りをしていたが、いくら続けても事件に遭遇することはなく、そのせいで最近は苛立ちを感じていた。
結局、彼女は暇さえあれば剣術や武術の鍛錬をしたり、講談を聞きに行ったりと、とにかく退屈な日々を送っていた。

その日、彼女は「不夜侯」のテーブルにもたれながら、講談師が羅浮「雲上の五騎士」の話を始めるのを待っていた。
しかし驚堂木が落とされる前に、雲騎の同僚が扉を破って入って来るや否や、堂内で叫んだ。
「素裳、急げ!あの殊俗の民がまた騒ぎを起こしたぞ!」

その言葉を聞いた素裳は瞬く間に気力を取り戻し、重剣を持って外に飛び出した。
現場に到着すると、赤い髪の少女が剣を呑んだり、火を吹いたりと、周りの観客を賑わせている。
やがて、その少女は巨大な青花崗岩の大板を持ち出して、その場で「胸で大石砕き」を披露しようとした。

「そこまで!ここは普段から渋滞が問題になってるの。雑技をしていい場所じゃないよ!」
素裳は厳しく叫びながら、『軒轅』の切っ先を少女に向ける。
素裳の剣が不安定に揺れていることに気付いた少女は、怯むことなく斜め後ろに足を戻すと、その三尺はある火棍を振り上げた。

「こっちから行かせてもらうね!」
その赤い髪の少女は朗々とした声を上げ、槍棒を素裳の腕部めがけて投げつけた。
素裳は咄嗟に一歩後退したが、その隙に少女は懐から丸いものを取り出し、それを勢いよく地面に叩きつけた。
爆発音が立て続けに聞こえ、辺りが一瞬にして煙に包まれる。
素裳が気が付いた時には、少女は姿を消していた。
「これって…爆竹!?」
「あの殊俗の民…侮れない!」


  • ストーリー詳細3

「親愛なる母さん、父さんへ

2人とも元気にしてる?
アタシは言われた通り羅浮の雲騎で修行してるよ。
今回は2人に報告したいことがあるんだ!

アタシにとって、ここ最近で一番重要な出来事は——
やっぱり他の人の手を借りないで危険分子を1人制圧したことかな!
その殊俗の民はあちこちで騒ぎを起こしてるだけじゃなく、大量の爆発物を持ってたりもして、公共の安全を脅かしてたんだ。
でも…その子は生計を立てるために仕方なくやってたんだって。
今はアタシに感化されて更生して——
なんとアタシの友達になったの!

それから、2人の言いつけ通り毎日剣術の稽古を続けてるんだけど、すっごく上達した気がするの。
休暇が取れたら家に帰って2人にも見せてあげるね。
きっと喜んでもらえると思う!

家を出る時に母さんと父さんに言われたことも忘れてないよ。
心を鎮めて鍛錬に励む、決して心遠意馬してはいけない。
アタシは色んなことを経験して、少しずつ成長してる。
まだまだ足りないものもあるけど、アタシはもう独覇一面になったから!
2人も心配しないでね!

素裳
10月21日」


  • ストーリー詳細4

「素裳へ

手紙を貰って、まるであなたに再会したかのような気持ちになりました。
こちらは変わりありませんので、どうか心配なく。

手紙に記されていた近況はよくわかりました、喜ばしい限りです。
今回は新しく言いつけておきたいことができたので、この手紙の通りに努めてください。

其の一、交友の際は損益を明確にするように。
あなたはすでに及笄の歳ですが、人心は計り難いこと、世には陥穽の危険があることをまだ理解していない。
邪なる悪党と同じ道を行くことになれば、私たちは深い憂いと憤りを感じるでしょう。
素直な人、信頼できる人、知識のある人は君子であり、広く交際するべきですが、便辟する人、善柔な人、便佞な人は小人であり、離れるべきです。

其の二、功名心に囚われてはならない。
素裳が常に義侠心を貫いていること、義を重んじていることは私たちも知っていますが、手紙の内容には虚実が入り混じっていて、いくつか誇張されていると思われる箇所もありました。
仙舟の諺にもあるように、『名は簡にして得られず、誉は巧にして立たず』。
実力を発揮して傲慢になり、功績を自矜することは、多くの苦労をしたとしても避けるべきです。
肝に銘じておきなさい。
私たち仙舟の民の寿限は無窮ですが、幾多の功名は目前を過ぎる雲煙に過ぎません。
だからこそ人は根本を固め、薄氷の上を歩くような気持ちで歩を進める必要があるのです。
一時でも功を急げば、岐路の先で災難に遭い、魔陰に落ち、終生の害となるでしょう!

別:日頃から剣技を砥礪すること。
『剣心訣』を唱え心気を凝練することも忘れずに。
心蘊は武芸の根本、いつか無形に心気を練り上げられた時、剣は身外のものと知るはずです。
草、木、石、竹、すべて等しく剣と成し、心と力に順じ、逍遥自在の境地に至れば、『軒轅』を飼い慣らせる日も近いでしょう。

又:誤字が多いわね、素裳。
勤務の後は読書しなさい。
それと、正しくは「独当一面」で「独覇」じゃないわ。

素衣
10月22日」


停雲

停雲.webp

八方美人な狐族の少女、天舶司商団「鳴火」の首席代表。
生まれつき弁の立つ停雲が口を開けば、人々は彼女の言葉に耳を傾けざるを得なくなる。そんな停雲の指揮のもと、仙舟の貿易祭は次第に有名になっていった。
できるだけ戦闘を避け、できるだけ口で説得する——これが停雲のルールである。

  • ストーリー詳細1

「狐族は生まれた時から商売に精通している」と言われている。
茶屋「不夜侯」に少し滞在すれば、その事実を強く実感できるだろう。

「ご存じないかもしれませんが」、その狐族の女性は精緻な扇子を揺らしながら、目の前の半信半疑な男を見つめた。
「一方の水と土が一方の生命を育むのです。
水質がよくない国のカラタチの種をウェンワークの土地に植えれば、甘くてずっしりとした熾陽ミカンが実る。
それはウェンワークの四季の調和が取れており、土壌が肥沃だからです。
また、タラサの灯魚を我が仙舟に持ち込み、鱗淵境の持明族に育成を任せれば、三尺余りの灯魚に育つでしょう」

「『鳴火』の目標は、最も商業的な潜在力のある品種を厳選すること。
安全を保障するため、商団の星槎で中継輸送を行う予定ですが、数ヶ月もあれば最初の商品を受け取れるでしょう。
それらはタラサの淵底水晶宮を彩り、貴国の特産品になるかもしれませんね」

エラを持つ男は真珠のような泡をいくつか吹き出した。
それは泡語で躊躇いがちな称賛と同意を意味している。
そして、彼は不思議な音節を発した。
「『鳴火』は投機や仲買ばかりやっていると思っていました。
もしかして、カンパニーが運輸業を独占している局面を崩そうとしているのでしょうか?
どうぞ、値段を言ってみてください」

「往復の費用は9割にしましょう。
仲買商売は濡れ手で粟に過ぎません。
『大商算じず』という諺があるように、相手に利があってこそ己の利となるのです。
水晶宮の淵主が認めてくださるのなら、一紙…こほん、一邦の友人と長期的な契約を結びたいのですが。
いかがでしょうか?」

その日、停雲は契約を交わしただけでなく、同盟のために新たな友好関係を築いたのだった。


  • ストーリー詳細2

停雲は幼い頃から他の子供たちとは様子が違っていた。

稲妻のような反射神経と鋭い感覚を持つ狐族は、生まれながらにして反応が素早い。
そのため、幼少期の狐族はやんちゃでイタズラばかりする。
しかし停雲は?
この尖った耳の女の子はいつもふわふわとした様子で、人に会っても髪を引っ張るどころか、自分の髪を引っ張られても無邪気に笑い、甘い声で相手を止めるだけ……

性格は人それぞれと言うが、いつも家をめちゃくちゃにしようと企んでいる狐族の子供たちに比べ、争いごとが苦手な停雲は大人しすぎると言ってもいい。
天舶司で軍備士をしている彼女の両親は、そんな彼女のことを心配していた。
やがて停雲が成長すると、両親は彼女に家業を継がせることを諦め、自由に道を選ばせた——

こうして、羅浮の貿易史に輝く新星が昇った。
狐族の少女は持ち前の温厚な性格と才能を以って、16の世界の貿易使節団を取り持ち、スターピースカンパニーと互恵協定を結び直した。
仙舟人の貿易祭「海市」も、彼女の努力のよって星海に広く知れ渡る盛典となったのである。


  • ストーリー詳細3

停雲の六骨畳扇といえば、工造司の名物機巧である。

旅の危険から身を守るため、天外行商人の多くは武器を携帯している。
その中でも停雲は例外で——自分の美学にそぐわない武器は決して使おうとしない。
刀、槍、剣、戟などは剛強すぎて軽やかさと優雅さが足りない。
しかし、投矢や銀針などの暗器を使っては、自分が陰湿で悪辣な人間に見えてしまい、体面が保てない。

考えに考えた末、停雲はこの精巧に彫られた扇子を選んだ。
彼女によると、その理由は——

「商売人たるもの、和を以て貴しと為さなければ。
兵器を携えていては、友誼に亀裂が入り、商談にも暗雲が垂れ込んでしまいます」

「ですが、この扇子は違います。
普段は扇いで涼を取れますし、話の通じない方に出会ってしまった時は、この扇子で熱を冷まして差し上げることもできます。
座って話ができれば一番いいのですが、それが難しいようであれば……」

「——この扇子で思いっ切りひっぱたいてあげましょう!」


  • ストーリー詳細4

舵取に昇進するのであれば、停雲の温厚な性格は助力ではなく、足枷にしかならない——
天舶司の歴代責任者は全員超一流の飛行士であり、数々の修羅場を潜り抜けてきた戦士である——
停雲には星槎を操縦する才能もなければ、殺生を好む性質でもない。
彼女と天舶司の現舵取・御空には雲泥の差があるのだ。

それでも御空は停雲に未来を託そうとしていたのだが、彼女は自分にその資格があるのかどうかわからなかった。

彼女にとって御空は信頼できる上司であると同時に、行商で遭難した時に命を救ってくれた恩人でもある。
彼女の心の中で、御空は光芒を放つ偶像になっているのだ。
それは彼女の心の拠り所であり、前路を照らす道しるべでもある。
彼女は星の光を掴もうとしたが、自分は影の中で必死に追いかけることしかできないことに気が付いた。
そしてある日、その孤星が彼女に言った。

「時代は変わっている。
仙舟は変わっている。
いつの日か、この巨艦は血と炎の空に嫌気が差すでしょう。
その時、この天舶司はあなたの舞台になるわ」

その言葉はどこまでが冗談なのか、彼女にはわからなかった。
それでも彼女はそれを丁寧に封筒に入れ、店の引き出しの奥に仕舞った。
この言葉は絶対に忘れてはいけないと思ったのだ。

「たとえ戦場に立つことができなくでも、私の力を発揮できる場所はある」
狐族の少女は自分に言い聞かせた。
羅浮は緩やかに航行しながら、忌み物との征戦で負った傷を癒している。
そして、商業の繁栄がこの時代の下地となった。

停雲は御空の期待を理解している。
だからこそ、彼女はさらなる助力と親交を求めて星空に飛び出した。

「現在の羅浮で舵術の頂を拝する者は誰かと聞かれれば、人々は当然、御空様の名を挙げるでしょう。
しかし、私に言わせてもらえれば……」

「私の弁才も、ある意味『舵取』の能力に違いありません。そうは思いませんか?」


白露

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明るく元気な女の子。持明族の「啣薬の龍女」であり、腕利きの名医でもある。
「お湯をたくさん飲むように」、「一晩ぐっすり眠れば治る」など、医者らしくない治療法を提案することが多い。
人が苦しむ姿を見ていられずに、治療の時は決まって目を瞑ってしまう。
——とにかく病気が治ればいいじゃろ!

  • ストーリー詳細1

「丹鼎司医案治療綱要・四十八巻・例一千二百四十六

主治医:白露

患者:月追(狐族)、女性、62歳

症状:殊俗の民が販売するチョコレートを誤食。
いくら水を飲んでも喉が渇く。
全身、特に腹が痛む。
息切れ。尻尾の毛が抜け落ちる

診断:食中毒

処方:苦参1銭、生甘草1銭1分、五谷玉液1瓶、『飲食禁忌の常識』1冊

用法:苦参と生甘草を五谷玉液で水分が半分になるまで煎じ、濾過したものを吐くまで飲む。
『飲食禁忌の常識』を500回書き写し、その内容を心に刻むように

一言:典型的な食中毒。
臓器の軽度の病変は龍涎により治療済み。
処方通りに薬を飲んで嘔吐を促し、毒物を吐き出せばよい。
強い肉体を持つ長命種ではあるが、狐族がチョコレートを食べられないのは常識じゃ!!!

それから、症状が軽い患者を長く待たせる必要はない。
直接わしを起こして構わん!
あと…もっと重い病に罹った患者を寄こせ。
わしの才能を無駄にするつもりか?」


  • ストーリー詳細2

「丹鼎司医案治療綱要・七十三巻・例五百八十二

主治医:白露

患者:錦余(持明族)、女性、13日と2時間

症状:患者は数ヶ月で脱鱗してしまう。
その成長速度は通常の持明族の約100倍

診断:脱鱗異常。
非常に稀で、1万人に1人もいない

処方:薬はない。
お湯をたくさん飲むように

用法:なし

一言:確かに難解な症状じゃ!これはわしには治せん!

持明族の脱鱗転生の仕組みは今なお解明されておらん。
長い生命の中で受けた損傷を修復するために輪廻があると考える医士もおるが、この患者の状況は明らかにそれに反しておる。

彼女の血液と髄液を調べ、透影虫を飲ませて大脳も詳しく検査したが、病変部は見つからなかった。
はあ、生命とは本当に奇妙なものじゃのう。
老化や死を免れても、長命種が病気から完全に解放されることはないのじゃろうな。

わしの体も同じじゃ。
角が生えてから…もう6、7年は経つというのに、一向に背が伸びん!
きっと、あの嫌な龍師長老たちに毎日見張られとるせいじゃ!
子供は外に出て遊ばねば、体も成長せんじゃろ!

この医案を見た医士、いつになったらわしは外に出られるんじゃ!
わしは別に悪党ではない、なぜそんなに警戒する必要がある!
本当に腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ」

ページの下のほうに、あかんべえをする龍の角が生えた顔が描かれている。


  • ストーリー詳細3

「丹鼎司医案治療綱要・百二十八巻・例三十九

主治医:白露

患者:景元(仙舟人)、男性、年齢不詳(十王司なら知っておるじゃろ)

症状:息切れ、傾眠、眠すぎて目が開けられない。
今回の問診は定期再診

診断:神策府での座りっぱなしが原因

処方:茎ニンニクの豚バラ炒め1皿、パリパリキュウリの辣子鶏1皿、フナ風味の肉炒め1皿、陳婆豆腐1椀、仔豚の香ばし焼き1頭、狩原毛峰1杯

用法:とにかく食べること。
満腹で苦しくなれば、消化のために外に出て運動したくなり、ちょうどいい気分転換になる

一言:将軍は毎年問診に来るんじゃが、『息切れ』とか『眠すぎて目が開けられない』とか、適当な理由をつけて体を検査したいだけなんじゃ。

将軍の気の流れは健康そのもの。
奇妙な症状も、魔陰の身の兆候も感じられぬ(この件は十王司が管理しておるが、わしが再度確認してやった)。

わしが思うに、ずっと閉じ籠っておることに嫌気が差したんじゃろうな。
そうでなければ、いつも砂糖漬けなどを持参して座って雑談を始める説明がつかん。
わしの最近の調子はどうかとか、夢は見ているかとか、食事は取っているかとか…
わしよりも将軍のほうが医者みたいじゃ。

じゃが、将軍とのおしゃべりも悪いものではない。
あの老いぼれどもと違って威張らぬし、冗談を言うのが好きで、よく出征で赴いた世界の話をしてくれる。
外の世界は素晴らしいのう。
はあ、わしだって医館に閉じ籠るのではなく、剣を携えて天下を旅したい……」


  • ストーリー詳細4

「龍師各位

星暦████年█月█日、白露様の定期検診の簡単な記録は以下の通りです——

龍尊様の体は相変わらず成長していません。
発育の遅れは持明族によくあることですので、これは特に不思議ではないでしょう。
私は体の成長の停滞よりも、彼女が夢を見ないことを心配しています。

歴代の龍尊たちは『重淵の珠』と『龍化妙法』を継承した後、夢の中で龍祖の往事を追体験していました。
そして潜淵閣が復唱の書き起こしと注釈の追加を行い、現在までに膨大な量の関連文献が残されています。
それらの夢は断片的で理解や解釈は難しいですが、我々が不老不死に近づく唯一の方法であることは間違いないでしょう。
しかし、白露様はこのような経験をしたことがありません。
このことから、もし『龍心』が損なわれていないのであれば、『龍化妙法』が完全に施されていない可能性が考えられます。

それから、龍尊様はすでに雷を呼び、水を操る力を発現させています。
その力が暴走して『飲月の乱』の惨事を繰り返さないよう、一族の職人に再度『尺木の鎖』を作るよう命じ、龍の尾に装着しました。

また数ヶ月前、曜青の『天風君』から龍尊様の様子を尋ねる手紙が届きましたので、長老たちの方針に従って返事を書きました。
具体的には、まだお若い白露様には龍師の補佐が必要である。
成人の儀が終われば、龍師は『飲月君』の尊号を奉上することになる…といった内容です。

拝具 龍尊近侍 雲悠」


雪衣

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仙舟「羅浮」十王司の判官の1人。拘、鎖、刑、問のうちの「拘」を担っている。
鉄の鎖と破魔錐を手に、疲れを知らずに重罪人を追い、捕らえる。
過去の肉体はすでに灰となっているため、今は傀儡の身を借りて「還陽」している。罪人を1人捕らえるたびに、半日の休みが与えられる。

  • ストーリー詳細1

「十王の聖裁、業報は常に在り」

雪のように白い服を着た判官は、暗い路地から出て彼の退路を断った。

さらに男に近づくと、彼の恐怖を裏付けるような一際震えた声が聞こえた。「なんだ…あいつらを捕まえるだけじゃ物足りねぇってのか?」

「なんだ」という言葉で始まってはいるが、それは質問ではなく反語だ——語意の分析が頭の中をグルグルと回る。しかし、「目標と共犯者の末路はハッキリしている」以外の情報は何もない。

彼女は与えられた使命を直ちに遂行することを決めた。

目、こめかみ、下顎、心臓、腑、下腹…彼女は瞬く間に急所を捉える。相手は反射神経が鋭いことで知られる狐族だが、彼は隙だらけだ。一度…多くても二度武器を交えれば終わるだろう。

しかし、最初の一撃は空振りだった。

判官は好奇心から彼を見た。その男の筋肉は、まるでネズミが走り回っているかのように絶えず起伏しており、両目は計画通りに事が進んでいることを暗示するように光輝いている。

直後、彼は急病にかかったかのように激しく喘ぎ始めた。耐えがたい苦痛による叫びの中で、体からは細い毛が生え、四肢は見えない力によって膨らんでいく。洞天の月明かりの下、立ち上がったのは1人の巨大な人狼だった。この時の判官の視界には、人体を囲む深紅の輪郭が炎のように辺り一面に広がっていく様子が映っていた。

「あなた…それは自ら死に向かうようなものでは?」彼女は心の奥底に眠る習慣から溜め息をつこうとしたが、今の体にそのような機能はない。「薬王秘伝の薬を飲むのは、死期を早めることになりますよ」

しかし、男の目の光は少しも揺らがない。「お前らに見つかった時点で、俺の命はもって数日だった」

狐族の男は背負っていた薬袋を掴むと、豆でも食べるように、さらに薬を口の中に放り込んだ。「血も涙もないお前らにはわからねぇだろうが、俺には意地でもここを離れなきゃなんねぇ理由があるんだ!」

巨大な拳が瞬く間に視界全体を覆い尽くしたが、判官の機巧の体はかろうじて反応することができた。彼女は両腕を振り、いつも手にしている鎖で輪を作ると、相手の拳を受け止めようと試みる。

しかし、拳は凄まじい力で胸にめり込み、白衣の判官が踏み締めていた地面は蜘蛛の巣のようにひび割れ、深く窪んだ。

痛みはない。ただ機巧の器官が壊れた音がしただけだ。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細2

「雪衣様、この体はもうダメだと思います。ア…アタシが新しい傀儡の中に移しますね。途中で少し混乱するかもしれませんが、ちょっとだけ我慢してください」

彼女と冥差フォフォの間では、これまで何度も同じような会話が繰り返されている。彼女の返事はいつもと変わらなかった。「ありがとうございます。できれば、今度はもっと頑丈なのにしてください」

その言葉を聞いて、フォフォの狐の耳が揺れた。落ち込んでいるのだろうか?彼女にはわからない。彼女は目が見えても、感情を識別する能力はないからだ…もしかしたら、これは目の問題ではないのかもしれないが。

「雪衣様の体には、もう一番頑丈で、一番俊敏に動ける部品を取り付けてます。それなのに、アナタの負傷率と損傷率はここで一番高い…問字部の職人たちも愚痴を言い始めてる……」

「あなたが組み立て終わったら、私…私は……」

「…お姉ちゃん、またあの人たちの頭を『軽く』叩いたんでしょ?」聞き覚えのある声がバラバラになった彼女の傍にやって来た。「あの人たちは生身なんだから、お姉ちゃんのお遊びには耐えられないよ」

長い髪が彼女の顔に落ち、人工皮膚が妨害信号を発する。こちらを見下ろす女性の顔にあるそれぞれの五官から、それは彼女が最も見慣れた、最も親しい顔であることが識別できた。

「お姉ちゃん、機巧の体は『自分は鋼のように壊れない』って錯覚させるのかもしれない。でも、私は還陽の日を使って、お姉ちゃんの体の早期損傷を補わないといけないの。今度任務に出る時は、お姉ちゃんの心配をしてる妹がいるってことを忘れないで」

「わかりました、ちゃんと覚えておきます」

「それでもダメなら、フォフォにお姉ちゃんの頭の中に刻んでもらわないと…あ、大丈夫、フォフォ、今のは冗談だから…お姉ちゃんなら忘れないでいてくれるって信じてる」

「じゃあ雪衣様、始めますね」

彼女は自分が切り開かれ、複製され、数千部に分割され、十王司の数千万もの回路の中にアップロードされていくのを感じた——
一瞬にして、彼女は因果殿にある無数の記録を読み、仙舟人の魂の全貌を目の当たりにして、再び忘れた。
次の瞬間、彼女は近くにいた金人・勾魂の身体に入り、金属の体の強さと玉兆の揺るぎない意志を感じた。
彼女は千の目を持ち、機巧鳥の翼と目を使って星槎海の人の流れを見下ろした……
彼女は千の耳を持ち、無限の周波数から鋭い声を聞いた……
彼女の千の手は、冥差の体に業判を書き、千の足は見知らぬ道で先を急いでいる……
彼女は自分が十王司の玉兆回路の中にいることを理解していたが、同時に自分がどこにも存在せず、徐々に消えていくような気がした……

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

声紋の波形を超えて、よく知る声が再び耳に届いたかと思うと、彼女は記憶の中に固く閉じ込められてしまった。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細3

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

彼女は自分が青空の下にいることに驚く。周囲ではのびのびと成長した麦が風に揺られ、波のように寄せては返していた。

彼女は笑いながら、細い枝と朝に摘んできた花を一緒に編み込んだものを、腕の中にいる女の子の小さな頭に載せる。すると女の子は振り返り、花よりも明るい笑顔を見せた。

彼女は女の子の顔を両手でそっと包み込むと、この繊細で壊れやすい存在を守るためなら、何でもすると誓った。 

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

気がつくと、女の子の顔は成長して大らかになっていた。その美しい五官には、もう彼女の庇護を必要とする弱さはなく、ただ剛毅さだけがあった。その顔は自分と肩を並べて歩き、共に星槎に乗り、外域に遠征したこともある。

風砂、氷霜、泥痕…時間はこの愛しい顔に多くの汚れを残したが、いつも自分の手で優しくそれらの汚れを拭い取ってきた。

自分と同じように、妹はもう大人になったのだ。甲斐甲斐しく世話を焼く母親のように、大勢の前で彼女の顔を拭うべきではなかったかもしれない。だが、そう簡単に手放すことなどできるだろうか?彼女はこの繊細で壊れやすい存在を守るためなら、何でもすると誓ったのだ。

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

彼女は炎と血に満ちた焦土から顔を上げた。地面にはとっくに生気が失われた数千もの仲間たちの顔が転がっている。その中には妹のものもあった。

しかし、彼女は自分の顔を見つけることができなかった。

「吾は汝を救える、汝ら全員を救える。手にある枝を軽く振るえば、再び骨に肉を纏わせ、泥の中の花びらを花の芯に戻すことができる。汝はそれをよく知っているであろう」

彼女の体の下で、千の顔を持つ奇怪な樹が彼女に、すべての人に話しかけていた。其が枝を振るうと、枝が大地の奥深くに入り込んでいく。

「吾すなわち倏忽、吾すなわち万古。吾から始まり、汝らは真の長生を得る」

彼女は泣きながら目を閉じた。もう反抗する力もない。この時の彼女は巨大の樹に生る果実の1つに過ぎず、雄大な根に抗うことなどできなかったのだ。

燃える巨大な剣が天から舞い降り、空気中の甘い腐臭を焼き尽くしていく。そして重い鎧を身に着けた大柄な男が流れ星のように戦場に降り立ち、怒声を上げながら巨樹に突進する。その巨樹は花のように再び綻ぶと、金色の枝が勢いよく伸びていき、きつく宿敵を絡め取った。

「死の克服とは常に、この上ない喜びである。彼奴らと同じように、汝の血肉は取るに足らないものだが、その苦痛は吾の悦びとなるのだ」

枝先は笑いながら、それぞれの頭に其の代わりに一音ずつ発言させ、言葉を紡いだ。「騰驍、今度は如何にして吾を殺すつもりだ?楽しみにしているぞ」

「私自身を使うつもりだ」男は静かに答える。彼の背後にいた金色の幻影が、巨大な刃を天から振り下ろし大地を貫いた。

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

その叫び声はますます切迫したものになっていく。彼女は再び自分が選別され、削除され、統合され、狭く限られた自我の中に押し込まれていくのを感じた。

「いわゆる幽府の判官、十王の使者も大したことねぇな」

夢から目覚めた人のように、彼女は自分の体に戻った途端、先ほどの夢を忘れてしまった。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細4

白衣の判官の耳もとで、狐族の掠れた笑い声が狼の遠吠えのように響く。

男は組織の中で最も貴重な丹薬を数十粒持ち去った。そして彼は戦闘経験が不足しているというのに、たった1粒服用しただけで、目の前の判官を軽々と捻り潰してみせたのだ。

「結局、機巧には限界がある…俺たち長命種の身体、計り知れない潜在能力には敵わない」

狐族は笑って手を引こうとしたが、腕がピクリとも動かせないことに気がついた。何重もの鎖が彼の手を締め付け、蜘蛛の糸のように絡みついていたのだ。

顔を覆う黒い髪の隙間から、判官の光る瞳が覗いている。その表情は狐族に血の匂いを嗅ぎつけた捕食動物を連想させた。「『五臓神』、私の機巧の器官が壊されました。同情を司る部分の性能が少し落ちています」

「…何わけのわかんねぇことを!」狐族は指を鉤爪のように丸め、渾身の一撃を繰り出そうとしたが、逆に鋭い三陵尖が手のひらを貫く。彼は声もなく叫んだ。

「本当は五体満足のまま幽囚獄に送り込んで裁きを受けさせ、肉体の苦しみを減らしてあげようかと思っていたのですが…あなたは私の同情心を打ち砕いてしまった」

「ふざけたことを!お前、俺と鎖で繋がれてることを忘れたのか?」罠に落ちた手負いの獣が激しく藻掻く。狐族は鎖を引っ張り、白衣の判官を腕の中に引きずり込んだ。巨大で硬い筋肉が彼の怒りに呼応して、絞首刑に使われる縄のように判官を締め上げる。機巧の関節が外れるぞっとするような音が響いた。

「あなたの言う通り、生きた肉体の潜在能力は計り知れませんが…1つだけ欠点があります。それは痛みを感じること」

白衣の判官の声と男の壮絶な叫び声が夜空に響いた。

彼女は砕けた右腕を支えた。折れた腕の鉄骨は鋭い槍先のように剝き出しになり、狼の姿になった狐族の下顎に突き刺さっている。逃走犯は無我夢中で逃げようとしたが、判官を振り払うことはできず、激痛によってのたうち回り、やがて意識を失いぐったりとしてしまった。

「血も涙もない?」血染めの衣を纏った判官は、犯人の巨体の上でゆっくりと立ち上がる。「あなたたち豊穣の忌み物が…私の同情心を打ち砕いたのでしょう」

彼女は頭蓋骨、脊椎、そして膝蓋骨を無理やり正しい位置に戻した後、どうしても繋げられなかった腕を腰に結びつけた。

今度は妹とフォフォからどんな小言を言われるのだろうか。彼女は心の奥底に眠る習慣から溜め息をつこうとしたが、今の体にそのような機能はない。


寒鴉

寒鴉.webp

仙舟「羅浮」十王司の判官の1人。拘、鎖、刑、問のうちの「問」を担っている。
罪人の因果や罪を読み取り、「冥兆天筆」を用いて業を書き、判決を下す。
毎日夢占いの形式で仕事を行い、大量の魔陰の身の因果情報を浴びているため、世の中の万事に対して何も感じなくなっている。
同じ判官である姉の雪衣と一緒に行動する時だけ、本心を露わにする。

  • ストーリー詳細1

巨大な棺は嵐の中で揺れる小舟のようで、荒れ狂う意識の海の中で今にも沈みそうになっている。彼女は人々の怒り、願望、憎しみ、恐怖、疲労に己の体を晒している。それは無色の波が彼女を1つの流れから別の波頭に投げつけるようなものだ。

溺れて死んだ者のように、彼女はついに小さな自分を捨て、その混沌とした大海原に溶け込んでいった——

ある時の彼女は地衡司で忙しなく働く執行人で、山のような雑務をこなしながら、上へ行くため歯を食いしばって耐えていた。しかし、ついに頭の奥で弦が切れるような音が響き、そのまま幽霊のように街中を彷徨い始める……

次の瞬間、彼女は深い悲しみを堪え、生まれながらに天欠のある子供を星槎培養液で満たされたカプセルの中に沈めた。彼女も夫も、その子供が生まれてくることをずっと待ち望んでいたはずなのに……

かつて雲騎軍の兵士だった彼女は、鋭いオオカミの爪に激しく踏みつけられたことがある。冷たい爪が顔の皮膚を引っ張り、歪んだ「笑顔」を作り出した。それからというもの、彼女は微笑むたびに痛みを感じるようになった……

占いの結果を見て、自分の命が尽きようとしていることを知った彼女は、信じられない思いで窮観の陣の演算端末を点検する。自分自身を陣の中枢に繋ぎ、そのすべての力を使おうとしたが、窮観の陣の力は容赦なく彼女の精神を引き裂いた……

彼女は自分が丹精込めて設計した機巧を砕くと、それと共に彼女にあれこれ難癖をつけていた師匠も破壊した。彼女は自分が職人になれる望みがないことを理解している。しかし、職人以外に自分に何ができるのかもわからなかった……

彼女は彼ら全員になり、彼らのすべてになった。しかし、まるで滴り落ちた1滴の墨汁のように、ある光景が彼女の目の前に広がっていく……

彼女は青空の下に座っていた。周りでは麦の穂が波打ちながら成長している。器用な手が彼女の頭に花冠を載せた。彼女は枝や葉、花の香りに包まれ、まるで温かい両手に抱き締められているかのようだ……

その懐かしい温もりによって、彼女は溺れる寸前で情報の海から目を覚ました。

彼女は自分が彼らではないことに気がついた。彼らの中の誰でもなく、彼らのすべてでもない。その瞬間、彼女は意識の海の中で取るに足らない一滴の水滴となり、自分の名前、自分が担っている仕事を思い出した——

彼女は十王司の判官の1人、代名は「寒鴉」。

彼女が目を覚ましたことに気づき、棺の傍に控えていた金人が素早く筆を動かし始める。その動きは肉眼では追えないほどだ。

業判の結果はすでに出ていた。夢の中に現われた名前が玉兆の令牌に書き込まれ、送り出される。洞天の陽が落ち夜が更けると、また多くの人がこの世を去るだろう。彼らは仙舟の最奥の片隅で、自分たちの命が尽きる瞬間を決めている人物がいることなど知る由もない。そして数時間後には、その人物は彼らのことを忘れているのだ。


  • ストーリー詳細2

棺の反対側で、白い服を着た判官が彼女をじっと見つめていた。見慣れた顔のはずなのに、笑顔がないため少し違和感を覚える。判官は手を伸ばすと、金の杯を渡された。

杯の中には翡翠のような緑色の酒が注がれている。それは因果殿の薄暗い室内で彼女を見つめる碧眼のようだった。

「またお酒を飲む時間?忘れるところだった」彼女は棺桶の中から身を起こした。「なんで夜魄じゃなくて、お姉ちゃんがお酒を届けに来てくれたの?」

「夜魄…覚えていないようですね?」姉は目を半分閉じた。それは不安を表現する時の彼女の仕草だ——残念ながら、彼女が体としている機巧は精巧ではないため、その表情はどこか眠そうに見える。「彼女は薬王秘伝の妖人を追っている最中、不幸にも重傷を負った。そして、十王は彼女の入滅を認めました」

彼女は慌てて話題を変える。「今日の敵は手強かったの?」

「はい。会敵した瞬間に片腕を潰され、膝の骨も砕かれました。あの者は機巧の構造を熟知していた…それは彼が仙舟『朱明』のあの名匠だという何よりの証明です。ただ、彼の技は記録しましたので、何度か見返せばきっと見破れるでしょう」

彼女は姉が自分の生死の危機について語るのを聞きながら、まるでどうでもいい機械が壊れた話をしているようだと思った。「またフォフォにお姉ちゃんの修理をお願いしないとね」

「フォフォは…10日くらい前に判官に昇任しました。今、機巧整備を担っているのは守霊です」

姉は金の杯を彼女の手が届かない棺の端に置いた。その流れるような動作は正確で、杯の中の酒はまったく揺れなかった。

「忘川の酒、飲み干せば皆無に帰す…そこまでする必要はありません。私の罪は私の手で償うべきですから」夢の中と同じように、姉は彼女の頭を優しく撫でる。しかし、触れ合ったところからは少しの温もりも感じられなかった。

「忘川酒のちょっとした副作用でしかないよ。もし私が本当にお姉ちゃんのことを忘れたら、その時は私もお姉ちゃんも気兼ねなく入滅できる。十王の厚意で、この約束は因果殿の奥深くに記録されているでしょ?」

「それは私たちがすべてを捨て、永遠の眠りにつく時だよ」彼女は身を乗り出して、温もりのない手を握って自分の頬に当てた。

彼女は棺の端から酒の入った杯を取ると、その濃い液体を苦しそうに、少しずつ飲み下していく。酒とは言っても、辛さや刺激的な香りはまったく感じられず、まるで金人の体に注入される油を飲んでいるかのようだった。

「その前に、お姉ちゃん、十王、そして…あの将軍のために、もう少し働かせて」


  • ストーリー詳細3

飲んだ酒はずしりと重い水銀のようになり、体の隅々にまで回っていった。思い出したくない秘密、人間だった千年前のあらゆる記憶が呼び起こされ、そしてまた徐々に色褪せていく——

彼女は「羅睺」と呼ばれる深紅の星が仙舟蒼城の上空に昇り、心臓のように絶えず脈打つ様を見た。その後、岩、腱、蔦からなる外殻がゆっくりと引き裂かれていき、無数の子供を呑んだり吐いたりしているところも。それは満ちるを知らない獣が暴食を繰り返しているようでも、出産を控えた母親のようでもあった。

悪夢のような月明かりの下で、彼女は曜青の狐族たちが無意味に星槎を操っているのを見た。まるで鬱陶しい蚊が動かざる巨神を刺しているかのようだ。やがてそれは歩離人の巨獣艦に駆逐され、空中で星の光のように消えていった。

歩く巨木が戦場にいる彼女にゆっくりと近づいてきた。その巨木は無数の腕を広げ、行く手を遮る人々、そして彼女と共に戦う友人たちを突き刺していく。彼女は恐怖と戦いながら折れた剣を握り締めたが、突然、その木に笑顔が浮かんだ——それは姉の顔だった。

「寒鴉、私です!わからないのですか?」

枝や葉がガサガサと音を立て、戦友たちの顔が枝に生った実のように大きくなっていき、鋭い笑い声を上げる。「死に屈してはなりません。死に慣れてはいけません。さあ、私の中に入って、私を抱き締めてください——」

彼女の剣に花が咲き、心臓が数回鼓動する間に錆びて朽ちてしまった。器用に動く枝が花の冠を彼女の頭に載せる。彼女は枝や葉、そして花の香りに包まれ、かつて温かい両手に抱き締められていた時のことを思い出した……

燃え盛る大剣が彼女の幻覚を貫き、空気中の甘ったるい腐臭を焼き払う。彼女は息ができなくなりそうだった。重い甲冑を身に纏った巨漢が流星のように戦場に落ち、雄叫びを上げながら巨木に向かって突進する。その勇敢さはまさに彼の名に相応しい。しかし、彼も窒息しそうなほど纏わりついてくる巨木を払い切ることはできなかった……

ああ、またこの夢だ。忘川酒を何度飲んでも、彼女はこの夢から逃れることができないでいる。

彼女は懸命に、必死になって飲み下し…やがて夢は捉えどころのない煙となって消え去った。これでようやく眠りにつける。それが意識のあるうちに彼女の頭に浮かんだ、唯一の考えだった。


  • ストーリー詳細4

棺の傍らでは、白い服を着た判官が閉じられた棺を見つめていた。眠る妹を見守るのは、人間だった頃の習慣だ。

彼女は痛みを感じることも、後悔の念を抱くこともない。眠りにつく妹を見守ることは重要な使命であり、自分のためにしているのだと、頭の中に封じられた意識が彼女に訴えかけている。

判決を推察して生死を決める、それは重要なことだ。こうしたことは、世間から遠ざかりながらも人の心を持った判官に委ねるしかない。金鉄は所詮金鉄だ。彼女は人間の言葉の微妙な声の変化や表情の強張りを捉えられるが、それが彼女の金属の意識の中で波紋を起こすことはない。生身の肉体の喜怒哀楽を鋼鉄に共有させる魔法は存在しない。しかし、それこそ妹が十王司に捧げられるすべてだった。

1体の金人·勾魂が近づいてくる。「新しい任務ですか?」白い服を着た判官は顔を上げた。

「もし寒鴉様の傍に残りたいのなら、他の判官に任務遂行を伝えますが」

「その必要はありません、寒鴉の気持ちを裏切りたくはありませんから。それに、十王と交わした約束で、私は重罪人を1人捕まえるたびに、半日還陽する自由が与えられる。寒鴉はずっと棺の中にいるので、私は…この経験を、陽の光を見ることのない彼女に贈りたいのです」

「それでは、法器を用意して伏魔を始めてください」金人は下を向いて礼をした。

白い服を着た判官は、表情を変えることなく暗闇を見つめている。もう動じることのない心には1つの想いしかなかった。妹に温かく優しい夢を見てもらいたい——

青空の下にいる自分が、器用な手つきで彼女の頭に花冠を載せる夢を。


羅刹

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大きな棺を背負っている、容姿端麗な金髪の青年。
天外の行商人である彼は、不幸にも星核によって発生した仙舟「羅浮」の危機に巻き込まれてしまう。
その結果、優れた医術の腕を発揮する機会が生じた。

  • ストーリー詳細1

「あなたの身分は?」 
「行商人だよ」 
「仙舟に来た目的は?」 
「商業活動だよ」 
「仙舟同盟の法律を犯さないこと。法律や規則に従った商業活動をすること。査証の許可範囲以外に行かないこと。以上のことを守れますか?」 
「もちろん。ちゃんと守るさ」 
「『長生』に関するいかなる非合法な研究もしないと保証できますか?」 
「ああ…守るよ」 
「よろしいです。ではこちらに署名をお願いします」

「羅刹さん、ようこそ仙舟『羅浮』へ」


  • ストーリー詳細2

「ねえ、あの人のこと覚えてる?いつも私たちの家に来る、大きな箱を背負った……」 
「羅刹のこと?」 
「そう、羅刹…殊俗の民だよね?でも、話し方とか習慣は、古風な仙舟人にとても似ている。仙舟に来て長いのかな?でも、ずっと独特な外の服を着てる…」 
「さあ?あの金髪と仙舟の服装が合わないんじゃない?」

彼はたまに故郷のことを思い出す。
悪魔、教会、狂気…それは決して美しい記憶ではない。
人々は、自分の街がいかに壊れるかを眺めるために、群れを成して高い所に登った。
もし、全てが終わらなければいけないのなら、少なくとも目撃者と2つの目が必要である。

「どうして、今も故郷の服を着ているのですか?」
誰かが質問した。
「この服は僕に守るべき道を教えてくれる、それだけさ」
羅刹は答える。


  • ストーリー詳細3

仙舟人は棺を知らない。
羅刹が棺を背負って街に出るたび、人々はの注目を集める。
誰かが羅刹にこんな質問をした。
「それは一体、何なのでしょうか?」 
羅刹は必ず誤魔化す。
「これは、僕の商売道具だよ」

「『商売道具』…君を冒涜していることになるのかな?」
羅刹は、長楽天の亭台の上で少しも気にしてなさそうに言った。
「でも、僕と君の関係はビジネスのような物だろう?」

棺は沈黙で答えた。


  • ストーリー詳細4

羅刹は、棺を背負い遠方へ向かう。
棺からは何も聞こえない。棺は抗議しなかった。抗議する権利もなかった。
「君が何も話さない時は、自由だよ」

幕が上がり、彼は罪を後ろに放った。
罪は別の種類の操られた武器に過ぎず、自分が正しい答えを得られると騙しているに違いない。
「君は違うのかい?君の苦しみは、どうして他の人より価値があり、人の心を動かすのだろう?」

「仙舟に行くといい」
棺を彼に渡した人は言った。
「誓いを忘れるな」 
「永遠に忘れないさ」

そう言いながら、羅刹は心の中で別の誓いを立てた。


丹恒・飲月

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丹恒は前世である「飲月君」が残した力を受け入れ、持明族としての真の姿を顕した。
崢嶸たる角冠を受け継いだ以上、咎人の功罪もすべて受け継がなければならない。
しかし、最初から最後まで、彼が彼であったことはない。

  • ストーリー詳細1

光のない幽闇の中、彼は持明の卵に還り、波と夢の間を漂う。

彼は自分が祭壇に立ち、舞い、吟じる夢を見た。歌謡や所作は表象に過ぎず、両目から放たれる光と血脈の中で渦巻く嵐こそが真髄である。彼は手当たり次第に鱗淵境に霧のような波涛を呼び、燥狂の「龍」を巨木に鎮めた。長吟が天に登り霧散する——これで鱗淵境は次の数百年も静寂を保つだろう。彼の使命もこれで終わりを告げた。

礼を終えて振り返ると、離れていく石段の上に、華服を着た龍の角を持つ尊者たちが立っていた。彼らは鏡に映った影のように微かな差をつけながら、1人、また1人と袖を躍らせ、後ろを向き、この場から立ち去ろうとする。数え切れないほどの人々が天梯となり、果てしない虚空に向かって伸びていく。それらの顔は、朝起きた時に必ず鏡の中で出会う人物の——彼の顔だった。

いや、違う。あれは初代龍尊の顔だ。彼は苦笑しながら、手のひらで自身の五官を覆った。その仮面を剥ぎ取り、真の主に返せないか試しているようだったが——

彼にはできない。


  • ストーリー詳細2

光のない幽闇の中、彼は持明の卵に還り、波と夢の間を漂う。

彼は自分が神の如く戦場に臨む夢を見た。雲に懸かっている自分にとって、軍陣は蟻のように小さく、雲車と星槎は火に向かって飛ぶ虫のように見える。これが凡人の命…これが龍の視点なのか?一抹の驕りが湧き上がり、彼に冷たい殺意を抱かせる。彼は咄嗟に、共に戦い、共に楽しんだ仲間たちに視線を向けた。

疾駆する飛行士は隊列など気にも留めずに、勢いのまま射撃を行い、烈火を装填した矢を突進する歩離の兵士に向かって降らせている。

星槎の進行方向には、単身先陣を切る白髪の剣士がいた。刃が舞い、戦場に剣光が走る。その切先はあまりにも鋭く、彼女の同僚でさえ肩を並べて戦う勇気がないのか、ただ後ろから支援しているだけだ。

いつもは彼と談笑している雲騎驍衛も、この時ばかりはのんびりとした空気を引き締め、陣刀を持ち、軍士と共に側面から攻めてくる歩離人を迎撃する。

本陣の後方では、軍属の職人たちが巨大な金人を調整している。あの傲慢な匠も、今頃は大忙しで整備に当たっていることだろう——この数十メートルはある兵器は、器獣に対抗するための切り札だ。

そして、彼は当時の将軍騰驍に目を向けた。騰驍は帝弓の化身の如く、金色の雷霆を身に纏い、己の幻影で敵の戦獣軍陣を耕すように蹂躙している……

陣形を崩された歩離軍が逃げていく。彼は理解した、今こそ己に課せられた使命を全うする時なのだと。彼は自身の意識を嵐と雹に溶け込ませる。雷は彼の代わりに咆哮を上げ、津波は彼の代わりに怒り狂う。彼は雲に懸かったまま、深淵に飲み込まれていく敵を、そして背後にある地を、数多くの人類それから持明族と狐族を見た。彼らは永遠に戦場に残り、もう二度と故郷を目にすることができない。

龍心は彼に、世界がまた塵を払っただけに過ぎないと告げる。戦争は代価が伴う、生命はいつか再生する——龍の血族も持明族ではない。しかし心は、痛む。彼と一緒に戦った仲間と同じように温かな同胞のために、もっと生きられたかもしれないのに、もう二度とは故郷に戻れなくなった凡人のために痛んだ。


  • ストーリー詳細3

光のない幽闇の中、彼は持明の卵に還り、波と夢の間を漂う。

夢で彼は自分が海を割き、宮殿跡の奥深くを訪れ、亡き友の残した血を埋葬したり、長らく誕生していなかった新生を創造したりした——この2つのことは本来一体で、長らく実践できなかった渇望で、巨龍の心を挫いた最後の要素かもしれない。職人は剣を手に彼を護衛し、既に満身創痍であった。彼は決心を下すよう促してきた。

「倏忽は死に…俺たちは勝った。しかし、あと何度勝てる?俺たちはあと何度こんな代価を払う必要があるんだ?」
「建木を見ろ。まだ生きている。建木がそびえ立つ限り、化け物どもは…何度でも押し寄せて来るだろうな。仙舟人、狐族それから持明族と忌み物の戦いは永遠に終わらないんだ」
「そう、俺たちは何も特別ではない。俺たちの命は何かのために犠牲になり、あるいは死ぬ…でも全部、俺たちの選択だ。彼女がお前と鏡流を救うと選択したように…彼女がもっと大勢の人を生かすと選択したのと同じようにな!」

戦争、そして戦争で失われた命、そのどれもが自分と同じように呼吸をしていた人だったのだ。
彼はその人たちの顔を思い出し、疲れたように目を閉じ、そして決心した。
「もし、機会があるのなら…我らも彼女を、そして大勢の人を生かす選択をするだろう。
——持明族には自らの救いの道がある。余はそれを試そう」

夢の中の夢、身の外の化身。彼は自我を失いかける前の瞬間に戻ると、化龍した自分が変幻自在の血肉の影と戦う様子を冷たい目で見つめる。死の淵の幻覚の中で、神の使いは怪しくも美しい景色を彼に見せた。星辰は赤血球のように蠢きながら歌い、宇宙は肉と欲望の深淵に堕ちる。龍心は懸命に拍動し、爪牙を奮い立たせ、怒りを爆発させる——しかし、どんなに強大な力であろうと、生命は生命の神が遣わした使者には抗えない。

そして、1隻の星槎が矢のようにすべてを貫いた。彼は少女が廃墟の中から必死に這い出て、絶対的に暗い「太陽」を掲げたのを見た。永遠にも感じられる瞬間の中、彼女の手が消え、顔が消え、全身が消えていく——その物体は周囲にあるものすべてを粉に変えた。もちろん、あの少女のことも。

千切れた数本の髪と数滴の血が地面に落ちる。彼女が存在したことを証明できる痕跡は、これしか残っていない。


  • ストーリー詳細4

光のない幽闇の中、彼は持明の卵に還り、波と夢の間を漂う。

彼は夢を見た。鎖龍針を体に打ち込まれ、珊瑚金で作られた鎖で固く縛られ、幽囚獄に吊るされる夢を。長老たちが入れ替わり立ち代わり訪れては、妙法の真相と龍心の在処を彼に尋ねる。彼は沈黙するだけだった。

彼は夢を見た。判官たちが自分の前で判決文を読み上げ、大辟入滅を宣告する夢を。彼は沈黙するだけだった。

彼は夢を見た。白髪の雲騎驍衛が彼の見舞いに訪れ、斡旋の結果を伝える夢を。持明たちは彼が死ぬことも、去ることも許さない。彼は沈黙するだけだった。

彼は夢を見た。それは仲間と再び杯を上げ、共に酒を楽しむ夢だった。
彼は夢を見た。それは自分が卵に戻り、別の人物に生まれ変わる夢だった。

彼は多くの夢を見た。まるで永遠に終わることのない、「自我」という幻戯を見ているかのようだった。

幻戯の後に続くのは、より鮮明でありながら手の届かない虚像。

彼は見た、追放される自分を。彼は見た、ある列車に乗り込む自分を。彼は見た、遥か遠い星空に向かって、一度も振り返らずに走っていく自分を。


桂乃芬

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縁あって仙舟に留まっている殊俗の民。今は情熱的な大道芸人である。
本名は「グィネヴィア」。「桂乃芬」は友人の素裳がつけた仙舟の名前だ。
「羅浮」での新しい人生を前に、桂乃芬は仙舟文化に対する情熱によって、瞬く間に生計を立てるための得意技——逆立ち麺食い、胸元で岩砕き、素手で銃弾つかみなどを身に付けた。

  • ストーリー詳細1

はいは~い、聞こえる?リスナーのみんな、こんばんは!けいちゃんの配信へようこそ~

「ビッグフラワー_49886」さん、コメントありがとう!「けいちゃん、どうして半月も配信しなかったの?もしかしてサボってる?」まさか!実は最近リアルで色々なことがあってさ~…でも確かに配信は久しぶりだよね。ごめんね~リアルで面白いことにあってさ、また今度シェアするね。

さて!今日はタイトルにもある通り——「演芸の夜!けいちゃんが仙舟の演芸を披露!」

最近、雑技はオフラインのほうが向いてる気がして、演芸のライブ配信をやってみようと思ったんだ。今日はそのテスト配信って感じかな。もし気に入ってくれたらフォローとリポストよろしくね。投げ銭やプレゼントをくれた人は、配信中の抽選に参加できるよ!

「ミルミルク」さん、コメントありがとう!ミルミル久しぶり~なになに、「大丈夫、けいちゃんの配信なら何でも見るから」?ミルミル最高!今日は最後まで配信を見ていってね!チュッチュ~

コホン…声の調子を整えて…なまむぎなまごめなまたまご…よし、それじゃあ歌っていこうかな!今回の数来宝は、けいちゃんが自分で書いたんだよ~

……

金人巷に来るのは久しぶり、ここは復興ですっかり様変わり。
あるものは姿が変わり、でも景色は昔と変わらない。
近所の人は皆元気、お年寄りも皆生き生き。
今日は珍しく板の音が鳴り、観客たちにも楽しんでもらいたい。
拍手と歓声で盛り上げて、観客が巡鏑を投げたら開演させて。
神君が賊や災いを追い払った話、帝弓の神矢が穹桑を折った話、今日はどれも語らない。
じゃあ語るのは何の話?金人巷の素敵な少女、けいちゃんがどこから来てどこへ行くのかという話。

……


  • ストーリー詳細2

幼いグィネヴィアにとって、護国公の邸宅と、その前に広がる栄えた街が世界のすべてだった。

先生たちが言うには、彼女の家系の歴史は古く、その邸宅も数琥珀紀の歴史があるという。しかし、邸宅には歳月の痕跡などまったく残っていないように見える。その邸宅は時間の法則から独立して、この家族を永遠の平穏と美の中で守っているかのようだった。

父親は長兄、次兄、長姉に政治教育を受けさせた。この星の未来を彼らの中の誰かに託したいと考えていたからだ。一方、グィネヴィアと他の弟妹たちに対しては…この平和な楽園の中で、穏やかで幸せな人生を送ってほしいとしか望んでいなかった。

グィネヴィアは父親を愛していた。政敵を前にした父は、尾に針を持つヘビのように恐ろしい。それでも、娘の前では大きくて暖かい山ウサギのようだった。

彼女の記憶の中にいる父親は、彼女のためにどんなことでもしてくれた。彼女の盛大な誕生日パーティーでは、ヒロインのグィネヴィアに斬られる地霊を演じたことさえある。このような権臣の子供の誕生日パーティーには政敵も参加するものだが——父親は彼女を喜ばせるためなら、他人の評判など一切気にしていなかった。

その後、グィネヴィアは成長した。そして彼女の耳に風の噂が届くようになった——父親が王権を有名無実化している、忠臣を陥れている、欲深くて満足することを知らない…彼女はそれが政敵の流した嘘であると信じたかったが、すべてが嘘ではないことを知っていた。

しかし、その程度のことはすぐにどうでもよくなった。

反物質レギオンが大挙して押し寄せてきたのだ。父親は王都を守るため、軍を率いて一歩も譲らなかった。父親の訃報が届いた時、グィネヴィアは気を失ってしまった。そして再び目を覚ました時、彼女は飛行艇の中に押し込められていた。弟妹たちは横で咽び泣き、長兄と長姉は縄できつく縛られている。次兄は仕方なさそうに、「まだ縄をほどいてはダメだ。2人とも意地でも逃げようとしないから」と言った。

グィネヴィアが舷窓の外を見ると、母親が甲冑を身に着け、上昇していく飛行艇に背を向けながら、座して死を待つことを拒んだ家臣たちを指揮していた。少し離れたところでは、ヴォイドレンジャーたちが護国公の邸宅を破壊している。さらに遠くでは、街全体が燃え、黒く焼け焦げた死体が泥のように散らばっていた。

幼いグィネヴィアにとっての世界、そのすべてが銀河から抹消されたのだった。

……

あたしは遠くの朝廷キャメロットの出身、兄弟姉妹は12人。
日々の暮らしは楽しく平安、なのに燼滅禍祖が開いた戦端。
父さん母さん武器を持って戦った、でもレギオン強くて家も国も失った。
長兄、弟妹連れて各地を漂泊、やがてカンパニーの鉱星に漂着。
生き残るために屈辱に耐え、厳しい環境で病に倒れ。
苦労人の長兄、見た目は怖いが心は綺麗。最後は盗賊になるしかない、銀河の中で暴れ回る兄。
彼は商人だけを剥ぎ、民家を襲うことはない。人々は称える、彼は貧者や弱者を救う在野の英雄。
彼は数百人の貧者を率い、山を占領して王を名乗り、あたしたち弟妹を養った。

……


  • ストーリー詳細3

子供の頃、父親はよくグィネヴィアに「人は名誉を守りながら生きるべきだ」と言っていた。しかし、「ホンボルト-σ」で名誉を守りながら生きられる者などいるのだろうか?

それは荒れ果てた惑星。原始的な藻類、菌類、地衣類によって、かろうじて動物が生存できる大気環境が維持されているが、その劣悪な環境を生き延びてきた原始生命体の中で、人間の脅威とならないものはほとんどなかった。

スターピースカンパニーがこの惑星の隠された鉱物資源を発見していなければ、誰もここに移住しようとはしなかっただろう。

グィネヴィアはこの不毛の星で少女時代を過ごした。

彼女は友達付き合いが上手く、他の子供たちとの関係も良好だった。貧しい家の息子、亡命者の娘、博徒の弟、殺人犯の妹…グィネヴィアは出自を気にしない。どんな家庭の出身であろうと、この星では誰もが明日まで生き延びられる保証がないからだ。

この地に対するカンパニーの管理は厳しいものではなかった。負債や罪を抱えた者でない限り、税金さえ払っていれば、カンパニーも労働者の自由を制限することはない。ただし税金を払った後の彼らは、街の酒場で1杯の酒を買う余裕すらないこともあった。

故郷にいた頃、父親は家族の中で最も頼りになる存在だった。しかし、父親も故郷も存在しない今、家族の面倒を見る役目は唯一の年配者である「石壁騎士」に回ってきていた。故郷から逃げる時、母親はこの忠実な老騎士を子供たちと一緒に脱出させ、自分は故郷に残って荒野の最後の塵埃と運命を共にしたのだ。

老騎士は父親の最も親しい遊び仲間であり、最も勇敢な戦友であり、最も忠実な家臣でもあった。そして今は…子供たちにとって、もう1人の「父親」となったのである。グィネヴィアは最後まで彼の本名を覚えられなかった。彼女は「石壁おじさん」という、老騎士のもう1つの名前のほうに馴染みがあったからだ。

十数人の飢えた子供たちによって、ただでさえ困窮していた懐事情はさらに悪化した。ある晩、口論の末、石壁は3人の兄と姉が自分と一緒に鉱山へ行くことを渋々承諾した。しかし、グィネヴィアがいくら懇願しても、彼女が同行することは認めなかった。

夜が明けるたびに、彼は老い、やつれ、憔悴していった。肺は治らない傷で埋め尽くされ、かつてのように背筋を伸ばすこともできなくなった。力強くハンマーを振り回していた両手は、今やスプーンを持つこともできないほど曲がっている。

ほどなくして、彼は死んだ。

石壁が崩れた。夜明けが来る前に、音もなく崩れてしまった。砂浜の砂の城が打ち寄せる波によって消えていくように、冬の枯れ枝が風で静かに落ちるように、それが定められた結末であったかのように。

そして——石壁の外に広がっていたのは、雨と風と氷だけの世界だった。

兄たちが星間海賊になったのは、それからまもなくのことだ。グィネヴィアは満腹になるまで食べられるようになったが、薄々感付いていた。今の自分が父親の教えに背き、さらに不名誉な人生に向かっていることを。

そのため、カンパニーの兵士たちがグィネヴィアに手錠をかけ、弟妹たちと一緒に雲騎軍に引き渡した時、彼女は安堵の息をついたのだった。

仙舟人はとても優しいと言われている。彼女は、雲騎軍なら自分たち家族の体面を守りながら死なせてくれるだろうと思った。

……

頭に血が上った長兄が仙舟の商船を襲う、誰が予想できただろう?
仙舟人は剛直に悪を嫌い、それは時に嵐のように激しい。
長兄は賊として討たれ降参、あたしたち弟妹だけは許してほしいと将軍に懇願。
討伐軍の将軍心優しく、一家を仙舟へ連れ帰る。
長兄の命を救い、あたしたち弟妹の生計まで慮り。
弟妹たちは学宮で文字の読み書き学ぶ、ここの悠ねえはあたしに技を仕込む。
技を学んだら高飛びするよう長兄勧める、でも恩を仇で返せば「恥知らず」の誹りは免れず。
この金人巷であたしが才能を開花させ、貧しかった少女が名声と利益を手に入れることになるなんて、誰が想像できただろう?

……


  • ストーリー詳細4

「ごめんごめん。途中で怪我をした人がいて、ちょっと遅れちゃった…あ、けいちゃん、まだ歌ってたんだ。じゃあ静かにしてるね」

「あ、すーちゃん!みんなに紹介するね。今日のサプライズゲスト、雲騎軍の天才新人——素裳さんだよ!さあみんな、『ようこそ素裳さん』って弾幕流して~」

「こ…こんにちは、アタシは素裳…じゃなくて、『天才新人』って何!勝手に変なこと言わないで。上の人に知られたらイジられちゃうじゃない」

「すーちゃん、ちょっと待って。まだ数来宝の最後のところが残ってるの。ふふ、ちょうどいいところに来てくれたね~まさにすーちゃんに関する内容なんだ!」

……

その後あたしに忍び寄る悪党登場、幸い女傑が現れ相手を掃討。
さて、この度胸ある女傑は誰でしょう?それは後のあたしの親友、李素裳、その人である。
それ依頼、羅浮で一匹狼だったあたしに女傑の仲間ができた。
しかも満員の観客たちがいて、あたしの公演を楽しみにしてくれている。
短い公演では帰ろうとせず、熱烈なアンコールが押し寄せる。
でもけいちゃんの話はあまりに退屈で長い、年単位で話さないと終わらない。
今日の話はこれでおしまい。続きを知りたきゃまた今度!

……

「すごいすごい、みんな、早くけいちゃんに拍手して!それと、そんなことあったっけ?」

「シエン先生から、英雄が美女を救うような出会いが好まれるって聞いて、こういうふうに書いてみたの。もし気に入らないなら…あっ!『ネコもふ使令8190』がたくさん諦聴をくれた!太っ腹~!」

「太っ腹!…どんなふうに書いても大丈夫だよ!けいちゃんが書くものは何でも面白いから」

「わかった。さて、すーちゃんもようやく来たわけだし、前から準備してた2人の共演をリスナーたちに見せてあげよう。ほらすーちゃん、墜子琴こっちに。あたしが『騰驍、大蛇を斬る』の一節を歌うよ!」

「その部分は難しいと思うけど……」

「うん、業界に詳しい人なら知ってるかもね。この『騰驍、大蛇を斬る』には演奏と歌と殺陣があるから、1人では演じられないって」

「だからアタシを呼んだんでしょ!それで、どうやって演じるの?」

「それなら簡単~今日あたしが演じるのは、国を守り、武勇無双の先代羅浮将軍――騰驍!」

「じゃあアタシは?」

「すーちゃんは斬られる大蛇を演じて——蛇の妖怪め、どこへ逃げた?この剣を~受けてみるがいい~」

「うわっ、痛い…桂乃芬!よくもやったね!」


フォフォ

フォフォ.webp

不憫で弱い狐族の少女。怪異を恐れているのに、それを捕らえる羅浮十王司の見習い判官である。
十王司の判官によって「シッポ」と呼ばれる歳陽を尻尾に封印され、そのせいで邪を引き寄せる「貞凶の命」になってしまった。
妖魔や邪悪なものを怖がっているが、邪祟を捕らえるよう命じられ、困難な魔を払う任務を遂行している。
自分は能力不足だと思いながらも、辞める勇気もなく、怖がりながら任務を続けるしかない状況になっている。

  • ストーリー詳細1

意識を取り戻したフォフォが初めて十王司に連れてこられた時、司内のあらゆるものは彼女にとって珍しいというよりも、不気味で恐ろしいものに見えた。

少女の不安を察知した白髪の判官は、できるだけ優しい口調で彼女に尋ねる。

「少し聞きたいんだけど、どうやって『あの火』に遭遇したの?」
「…あ、あれがポツンと道端に落ちてて、消えそうになってて、だ、だから…た…助けたいと思ったんです」
「それで『あの火』を自分の尻尾の上に置いたの?どうして?」
「ア、アタシにもわかりません。気づいた時には、もうそうしてました…ごめんなさい」
「本当に優しいんだね。謝る必要はないけど…今日から私たちの保護を受けてもらうことになる」
「はい…ありがとうございます」
「私は寒鴉、よろしく」
「あっ、寒鴉様、アタシは…フォフォです」

寒鴉という名前の判官は数日前のことを思い出した——

十王司に救援要請が入り、命令を受け巡回に出た寒鴉は、歳陽に呑み込まれそうになっている狐族の少女を見つけた。寒鴉は少女が幼く、弱く、その歳陽もただの雑魚ではないことに気がついた。強引に取り除けば少女の命に関わる。事態は急を要したため、寒鴉は護符を書き、歳陽を狐族の少女の尻尾に鎮伏することしかできなかった。歳陽が少女を尻尾から吞み込もうとしていたことは不幸中の幸いだ。

「…これは正しいことなのかな、それとも間違っているのかな」
判官は独り言を呟いた。


  • ストーリー詳細2

歳陽は気性が荒く、孤高で傲慢だが、まったく交流できないわけではない。その歳陽はフォフォがめそめそしている様子に耐えられなかった。そして、狐族の社交も理解できなかった——なんと、少女は「尻尾が燃えている」という理由で同級生から仲間外れにされているのだ。

「その護符を剥がせ!」
「ダメ、寒鴉様が護符を剥がしちゃいけないって言ってたもん……」
「聞いただろ、アイツらは俺様のことをからかったんだぞ!こんな屈辱を受けるのは初めてだ!」
「…あの人たちは…アタシのことをからかったんだよ……」
「じゃあ自分でどうにかしやがれ。お前が俺様の代わりにこの怒りを晴らせないなら、もう俺様を呼ぼうとすんじゃねぇ」
「で、でも…そんなことできない……」
「ったく…んじゃ、深呼吸して頭を空っぽにしろ。お前は何も考えなくていい、俺様がなんとかしてやる」
「…か、寒鴉様は、護符を剥がしちゃいけないって……」
「心配すんな、お前は言う通りにするだけでいい」

…少女が我に返った時には、すでに「邪鬼に取り憑かれた魔女」の噂が広まっていた。

その後、フォフォは歳陽の過去に関する話をたくさん調べた。どれほど前のことかはわからないが、「燎原」という名の歳陽が羅浮の将軍に敗れ、いくつかの分霊に分けられ、造化洪炉の中に封印されたらしい。難を逃れた歳陽は「燎原の孤高」だったもので、誰かに憑依することもなく、放浪しながら長い間隠棲していた…死にかけているところをフォフォに拾われるまで。

「目立たないように、アナタのことは『シッポ』って呼ぶね……」
歳陽はそれに対して何も言わず、ただ黙認した。


  • ストーリー詳細3

フォフォはすぐさま十王司に送られた。これはシッポが封印から抜け出して悪事を働かないよう、安全を考えてのことだ。

彼女は少しずつ冥差の仕事に慣れていき、十王司が記録している様々な「邪祟」をことごとく覚えていった。

「雪衣様、こ、この前用意した護符は役に立ちましたか?」
「はい、星霊を相手にするには十分でした」
「えへへ…それならよかったです。正直、アタシもどんな効果かよくわかってなくて……」
「自分で試してみたらどうですか?」
「いえ、それは怖いので……」
「フォフォ、『邪祟』というのはそのほとんどが宇宙の生物、あるいは何らかの形で存在する有害な知的生命体です」
「雪衣様、『邪祟』が何かはわかってるんですが、それでも怖くてダメなんです。アタシ、この仕事に向いてないのかもしれません……」
「…それは自分自身に聞いてみるしかありませんね」

フォフォは自分の臆病さに無関心なわけではない。事実、「邪祟」に打ち勝つための勇気を養おうとしたことがある。

彼女は夜更かしして、低予算のB級ホラーコメディを見ることで度胸を付けようとした。しかし、結果は目の下にクマができただけ。また、新しい科学的な伏魔道具を買い込み、戦力を上げようともしてみたが、懐が寒くなるだけで終わってしまった。シッポは彼女の挑戦が徒労に終わるたびに嘲笑い、大袈裟にあげつらって事態を悪化させようとした。

「やっぱりシッポが一番怖い……」
しかし雪衣からしてみれば、今のフォフォはシッポに「恐怖」を抱いていないように見えた。


  • ストーリー詳細4

当初、シッポは他の歳陽と同じようにフォフォを「食べる」つもりだった。彼女の名前、身分を奪い、彼女の感情や感覚を貪ろうとしていたのだ。

しかし、ある時シッポはフォフォが困っている様子を見るだけでも楽しめることに気がついた。いずれは食べるつもりなのだから、別に急ぐ必要もない。

「シッポ、シッポ!助けて!」
「俺様には関係ねぇだろ。お前、なんて言ってたっけか…『一人前になる』?これはそのチャンスなんじゃねぇのか?」
「次は一人前になるから、今は助けてぇ!」
「先に言っておくが、お前が死ねば俺様は自由になれる。だが…何事も最後までやり遂げる主義だからな。お前っていう獲物を食わずに、途中で離れられるかってんだ」
「十王司の判官のくせに、死後妖魔が仙舟を荒らし回るのを放っておくなんざ、無責任にもほどがあるぞ…おい!何してやがる。雑魚ども、こいつを虐めていいのは俺様だけだ」
「あああううう!」
「めちゃくちゃにしてやれ!」

シッポに取り憑かれたことで、フォフォは蝶にとっての蜜、ホタルにとっての火のように、しばしば妖魔たちの注目を浴びるようになった。

この「貞凶の命」とシッポの繋がりを断てないことに、フォフォはいつも不満を言っていた。シッポも自分がフォフォと遭遇してしまったことは運が悪かったと思っている。しかし、長い時間を共に過ごすうちに、シッポもフォフォが困っている時には助けてくれるようになったのだが…それが友情だとは決して認めようとしない。

「十王が勅を奉ずる:冥差フォフォは、芸に精通しており誠に勤勉である。資質具足のため、要務に当たるに相応しい。従って即日判官に抜擢する」
十王司が彼女の昇進を伝え、ここからフォフォの見習い判官としてのキャリアがスタートした。


ベロブルグ

ブローニャ

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ベロブルグの「大守護者」の継承者、若く有能なシルバーメインのリーダー。
ブローニャは幼い頃から厳格な教育を受け、「継承者」に必要な気品と親しみやすさを身につけた。
しかし、下層部の劣悪な環境を目の当たりにした未来の指導者は、次第に疑問を抱くようになる……
「私が受けた訓練は、本当に民が望む生活を与えられるものなの?」

  • ストーリー詳細1
    少女は幼い頃から自分の考えを隠すことを学んだ。
    毎日、他の子供たちと同じ石畳の上を歩き、同じ遊びをして、同じ趣味を通して交流した。
    しかし、彼女は決して些細で平凡な生活に溺れることはなかった——
    1人になれる時間があると、彼女は灰褐色の石のベンチに腰掛け、頭上の円盤によって遮られていない完全な空を想像した。

少女は見た。働く人々の滝のように流れる汗を、そして生存の重圧が彼らの生活に対する情熱を砕くところを。
その疲れてはいるが素朴な瞳を見て、彼女は困惑の沼に沈んだ。人生はこうなるように定められているのだろうか?
広い空が巨大な鋼鉄の円盤に断絶されているように、彼女が憧れている自由も欠けているのだろうか?

彼女は懸命に沼から這い出ると、埃が積もった石畳の上に、自分が一生貫こうとする理想を書き留めた。

「この世界を…より良いものに変える」


  • ストーリー詳細2
    母親の膝に座っている時、彼女は少し冷たい腕で自分を優しく包み込んでくれる。

それが少女に何とも言えない安心感を与えるのだ。
母親は深く穏やかな声で、少女に遥か昔の民話を語り聞かせてくれた——
その物語の結末は円満とは言えないが、少女はとても気に入っている。
母親はとっくに彼女の好みを把握していた。
円満に終わる童話は少女を退屈にさせるだけで、考えることを止めさせてしまう。そうなれば、彼女はすぐに眠ってしまうのだ。

「お母様…どうしてグラト卿はキャサリンのように幸せに暮らせないのですか?」
「彼に幸せになって欲しいのか、ブローニャ?」
「グラト卿は善良な人です。善良な人は幸せな生活を送るべきです」

その会話はそこで終わったが、彼女は母親が優しく笑ったことを覚えている。
数年後、あのクリフォト城での暖かい午後を思い出して、彼女は当時の母親の笑顔には、無念という感情が隠されていたのかもしれないと思った。


  • ストーリー詳細3
    シルバーメインの制服を着た瞬間から、少女は一切の覚悟を決めた。
    しかし、彼女が初めて出席した葬儀は、想像を遥かに超える重々しいものだった。

それは彼女が初めて軍を率いた時のことであった。
北方の廃墟の中で、シルバーメインと裂界の造物は残酷な殺し合いを行った。
少女は数十名の兵士を率いて、武器も食糧も尽きるまで孤軍奮闘した。
緊急避難の道中、恐ろしい裂界の幻影が彼女に突然襲い掛かった——
致命的な攻撃は1人の兵士が身を挺して遮ってくれたが、彼女は命の恩人の顔を見る余裕もなかった。

葬儀のラッパが響き渡る。若い戍衛官は少女の悲しみを見て取り、彼女の傍に近づいた。

「棺には何も入っていない。彼をベロブルグに連れ帰る余裕もなかった……」
「ご自分を責める必要はありません。あなたのために、この都市のために、誰もが同じように犠牲になる覚悟を持っているのですから」
「…私が彼の代わりになれたら、どんなによかったか……」
「そのような重々しい考えを呑み込むことを学ぶのも、リーダーになるために必要なことでしょう」


  • ストーリー詳細4
    少女は部屋の中を行ったり来たりしている。強固な門が彼女と大勢の市民の間を隔てていた。
    彼女はこうしたスピーチには慣れていたが、どれだけ技術が向上しようと待ち時間の不安が消えることはない。
    これから自分が交わす約束や、人々の心を慰めるために丹精込めて考えた言葉を思い浮かべながら、ほんの数分の間、彼女は子供時代と同じ混乱と疑惑に陥った。

突然の風が室内の淀んだ空気を動かし、彼女の長い髪を揺らした。少女が振り返ると、見慣れた姿がこちらに向かって歩いてきた——
彼女の足取りは軽く静かで、まるで色とりどりの蝶の群れのように、重苦しいホールの雰囲気を変えていく。

「また余計なこと考えてるんでしょ?」

蝶のような少女が意地の悪い笑顔で尋ねた。
それに対して、彼女は何とも言えない笑みを浮かべる。

「いつものこと。あなたも知っているでしょう——事前に緊張しておけば、本番で実力を発揮できるって」
「ふっ、ドジしないでよね。最近は骨董品たちが何か企んでるみたいだけど、アンタの弱みが掴めないって悩んでたわ」
「ふふ…じゃあ、あなたに彼らの面倒を見てもらわないと」
「あ、そろそろ時間ね。ほら」

歯車が噛み合い、回転する鈍い音がホールに響く。
少女は最後に傍にいる人を一瞥した——
彼女は影の中に下がって、信頼を湛えた笑顔で頷いた。

門がゆっくりと開いていく。
暖かい光がホールに射し込み、彼女の顔を照らした。
次いで、耳をつんざくような歓声と拍手が聞こえてくる——

「行ってきなさい、ブローニャ」


ゼーレ

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颯爽とした立ち振る舞いの「地炎」のメンバー。地下の危険な環境で育った彼女は、一人で行動することに慣れている。
保護する者と保護される者、抑圧する側と抑圧される側。世界がゼーレに見せるのは、いつも白と黒で分かたれた景色だった——
そう、「あの少女」が現れるまでは。

  • ストーリー詳細1
    ゼーレの初めてのケンカは自分のためだった。

その頃、彼女は当てもなく町を彷徨い、喉が渇けば孤児院の救済所で水を求め、
お腹が空けばゴミを拾い、町の物売りにそれとクッキーを交換してもらって食べていた。
リベットタウンの裏では、誰もがその怖いもの知らずな流浪の少女を知っており、誰もがその野蛮で頑固な幼いならず者とは関わりたくないと考えていた。

ある暑い日の夜、遊びすぎて喉が渇いた彼女は給水所に来たのだが、鉄のバケツの中の井戸水が底を尽いていることに気が付いた。
そこに、彼女と同じく水を求めて浮浪者がやってきた——
ひとしきり戦った結果、浮浪者は逃げ、ゼーレは水を独占する権利を勝ち取った。

ゼーレがその浮浪者に再会したのは3日後のことだった。
診療所の窓を覗いた時、ベッドの上に横たわる痩せ細った体が見えたのだ。浮浪者は今にも死にそうだった。

それ以来、彼女は後から来る人のために水を残すようになった。


  • ストーリー詳細2
    幼い頃、ゼーレは一度だけ上層部に行ったことがある。
    それは彼女がオレグに出会った後のこと——
    当時のオレグは下層部の治安を守るシルバーメインの兵長だった。
    オレグはゼーレが憧れている街を見せてあげようと、彼女を自分の補給袋の中に隠れさせ、ケーブルカーで上層部に戻ったのだ。

ゼーレはオレグと共にベロブルグの名所を巡り、今まで食べたことのない美味しいものを食べ、
想像すらできなかった綺麗な服を着た。
彼女が粗暴な鉱夫のスラングで子供たちを追い払った時は、オレグも思わず笑ってしまった。
2日間という短い間だったが、彼らはずっと笑顔だった。

上層部を離れる前、2人は行政区の広場のベンチに座っていた。ゼーレは向かいのレストランをじっと見つめている。

「上層部は楽しかったか、ゼーレ?また来たいか?」
「ねえ、質問があるんだけど」
「…なんだ?」
「あの上層部の人たち、半分だけ食べてご飯を捨ててる」
「……」
「アイツら、地下の人がご飯を食べられないの知ってるの?」
「……」

オレグはゼーレの表情を窺った。幼い顔には一抹の憂いが滲んでいる。

「帰ろう。もうここには来たくない」


  • ストーリー詳細3
    診療所のベッドに横たわった時、ゼーレはようやく落ち着くことができた。
    彼女は静かに自分が「地炎」になってからの経験を振り返る。

彼女にとって怪我や流血は日常茶飯事である。
ゼーレは人よりも痛みに強かったため、戦闘中は取るに足らない傷や痣を無視して、思う存分自分を解放することができた。

傷は必ず癒える。裂界の脅威が常に増しているように、そして一度は救われた人々が、
再び退屈で苦難に満ちた生活に戻ってしまうのと同じように。
時折、ゼーレは下層部全体の時間が止まったように錯覚することがある…
彼女や「地炎」の努力は、すべて無駄なのではないかと思ってしまうのだ。

女性の医者が入ってきて、ゼーレに優しく怪我の具合を尋ねた。
彼女は何とか言葉を絞り出し、自分の困惑を相手に伝える。

「ゼーレ、重要なのは奇跡よりも……」医者はにっこりと笑い、手のひらを彼女の額に乗せて言った。「奇跡に対する人々の希望を守ることよ」


  • ストーリー詳細4
    行政区は多くの人で賑わっており、まるでベロブルグ市民の半分がここに集まっているようだった。
    ゼーレは騒がしい人々への嫌悪感を抑えながら、鋭い視線で彼らの顔を眺めている。

その努力の甲斐あって、彼女はターゲットを見つけることができた。
灰色のチェック柄の帽子を被った男は両手をポケットに入れ、人の間を縫って進みながら、陰に隠れた目で周囲を探っている。
近くに自分を見ている人がいないことを確認した後——
少なくとも彼自身はそう思っている——
彼は傍にいた女性のショルダーバッグに手を伸ばした。

彼の指がショルダーバッグの肩ひもに触れる直前、細いながらも力強い手が彼の腕を掴んだ。ス
リは痛みに声を上げそうになったが、ゼーレはもう片方の手で彼の口を塞いだ。

「静かにしなさい」

荘厳なトランペットの音が空を切り裂き、賑やかだった群衆が一瞬にして静まり返った。
そして派手な格好をした男が高台に駆け上がり、鋭い声で話し始める——

「レディース・アンド・ジェントルメン、本式典のテープカットゲストである——
大守護者、ブローニャ・ランド様に歓迎の拍手を!」

耳をつんざくような歓声が広場を包み込む。その喧騒に紛れて、ゼーレは静かにスリを人混みから連れ出して、
広場の端で見張りをしているシルバーメインに引き渡した。
彼女が遠くの高台を振り返ると、白いスカートの女性と視線がぶつかった。
大守護者は彼女に短く笑いかけ、ゼーレも小さく頷いてそれに応えた。

そして彼女たちは視線を逸らした。1人は光の中へ、もう1人は影の中へ足を踏み入れる。
——それでも、彼女たちは出会った。


ジェパード

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高潔で実直なシルバーメインの戍衛官、高貴なる血脈のランドゥー家の者。
常に吹雪で覆われたベロブルグで、人々が衣食住に困らないのは——
ジェパードと彼の率いるシルバーメインが、その日常を守っているからである。

  • ストーリー詳細1
    若き戍衛官は北の稜堡の上に立っている。

彼は真っ白で果てしない大地を見下ろした。
彼は裂界の異形が広がる雪線の中で逆巻く暗雲になるのを見た。
そしてシルバーメインが恐れずに、まるで強固な胸壁のように並んでいるのを見た。

そこは彼がいるはずだった場所だ。
まだ彼がしがない兵卒だった頃、ベロブルグで最も堅固な盾になり、戦友と生死を共にすることを誓った
——戍衛官になった今でも、それは変わらない
——これはシルバーメインが焚火を囲んだ夜に語った戯言ではない。あのクリフォトが見届けた真の誓いなのだ。

しかし、この時の彼は本来いるべき場所にいなかった

——なぜなら、そう大守護者に要求されたからである。

大守護者様は一体何を考えているんだ?若い戍衛官には理解できなかったが、彼は目下の戦いに集中するよう自分の気持ちを切り替えた。

「忘れるな、ジェパード・ランドゥー——」
「疑いは傲慢と邪念を生む。ベロブルグの模範として、余計なことを考えてはいけない」

若き戍衛官は北の稜堡の上に立っている。


  • ストーリー詳細2
    壮絶な戦いの後、僅かに残ったシルバーメインはベロブルグに帰還した
    。大守護者はこの容易ではない勝利を祝して、直ちに祝典を開くよう命じた。
    都市は3日間にわたって歓喜の声に包まれ、祝典の雰囲気はシルバーメインの勲章授与式で最高潮に達した。

群衆が見守る中、大守護者は今回の兵役で最も優れた軍功をあげた者に奨励を与えた。
ベロブルグの名家に生まれた若き戍衛官は、ただ静かに地髄を鍛えて作られた腕甲を身につけようとする
——軽く、動きやすく、強靭で、オーロラのような輝きを放っている——これが彼がこの宝に対して抱いた印象だった。

この名誉ある勲章のために、どれだけの戦友の命が引き換えになったのだろう?
そのことについては考えないよう、彼は自分に言い聞かせた。
今は大守護者とベロブルグの期待に笑顔で応えるしかない。なぜなら、それが忠実な兵士がやるべきことだからだ。

戍衛官が腕甲を完全に装着した瞬間、激しい光が甲冑の連結部分から飛び出した。

そして次の瞬間、式典の観客席から鳴りやまぬ拍手の音が聞こえた。

人々はシルバーメインの兜の下にある疲れた相貌を知らない——彼らはこれを凱旋だと思っている。


  • ストーリー詳細3
    大守護者の決定は正しかった。

戦いが終わった後、ベロブルグの多くの人々はようやく一息つき、また新たに不完全で簡素な日常を始めた。
しかし、戍衛官を含めた人々は知らなかった

——偽りの平和の後に彼らが直面するのは、さらに悲惨で長い戦いであることを。
外界からの干渉がなければ、この長い戦いはベロブルグの陥落で終わっていただろう。

この時、彼は寝室で自分の盾である「砦」のメンテナンスをしていた。
この重い力場防御装置は、彼の姉がギターケースを改造したものである

——もし本当に「砦」に問題があれば、哀れな戍衛官は一貫して自分を解き放っているロックスターに助けを求めなければならない。

「ジェパード。もしも、もしもだよ…」彼は彼女の言葉を思い出した。
「もしある日、大守護者が自分の目的を果たすために、ベロブルグの市民を見捨てるよう命じたら…あんたはどうする?」
「彼女はそんなことは言わない。彼女は大守護者だから」。

彼はきっぱりと答えた。

「もしもって言ったじゃん」。
彼女は彼を見つめた。

「なぜそんなことを聞くのか理解できないが、僕はクリフォトに存護の誓いを立てた。
ベロブルグと彼女の人民を守るためなら、どんな代価でも支払うつもりだ
——もちろん、それには僕の命も含まれている」

「もしある日、人々を守ることが大守護者様の命令に背くことになり、
どのような選択をしても危機的状況になる時がきたら、僕は前者を選ぶ。
なぜなら、それが僕のやるべきことだからだ」

2人は沈黙したが、やがて彼女は声を上げて笑い出した。

「ジェパード、あんたって奴は……」
「さすがランドゥー家の人だよ」


  • ストーリー詳細4
    若き戍衛官は北の稜堡の上に立っている。

彼は大守護者を横目で見た。
まるで城下のすべてなど無関係だとでも言うように、彼女は顔を上げて吹雪の奥を見つめている。
彼女の民は彼女を喜ばせることも、怒らせることも、悲しませることも、驚かせることもない。
彼女の瞳の中には果てしない虚無しかなかった。

大守護者様は一体何を考えているんだ?若い戍衛官は考えたが、答えは得られなかった。

進攻を知らせるバグパイプの音が響き渡り、一瞬にして雪のカーテンを切り裂いた
——青い衣を身に纏った勇敢な戦士たちは、音楽の呼びかけに応じて次々と長戟を掲げ、
嵐のように集まってくる異界のモンスターに銃の照準を合わせる。
砲火の援護を受けながら、彼らは命を懸けた突撃を始めた。

ジェパード・ランドゥー、お前は今何を考えている?若い戍衛官は思案に耽った。

「忘れるな、ジェパード・ランドゥー——」
「ベロブルグと彼女の人民を守るんだ。如何なる代価を払っても——守っている人々を裏切るな…ランドゥー家に恥をかかせるな!」

今回、若き戍衛官は内心で答えを求めた。

——そして、彼は戦場に向かった。


セーバル

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自由で反抗的なランドゥー家の長女。かつてのカカリアの親友で、今は趣味を楽しむ機械工。
常冬のベロブルグで「パーペチュアル」というからくり工房を経営しているが、時々休業してはロックミュージックの野外ライブを開催している。
からくり工房はどうやって儲けているんだと人に問われると…彼女は「これは趣味だよ。私、お金には困ってないからさ」と答えた。

  • ストーリー詳細1
    彼女こそ、ベロブルグで最も天才的な機械工にしてロックスター、そしてシルバーメイン戍衛官であるジェパード・ランドゥーの姉である……

「ストップ。前半はいいけど、後半のセリフは削除してくれる?」
「そんな簡単に私の身分を要約しないでほしいんだ。私、セーバル・ランドゥーは、誰の付属品でもないんだから」

「…えっ、もう何もないって?わかった、じゃあ私が自分で補足する。
何か壊れた時は——行政区のからくり工房『パーペチュアル』に来るといい。いつでも大歓迎だ!」
「なに?ロックが聴きたい?はは、それならもっと歓迎する——そういう時も『パーペチュアル』に来て、『機械ブーム』と一緒にこの都市をロックにしよう!」


  • ストーリー詳細2
    セーバル・ランドゥーはベロブルグ行政区の中心部にある——
    からくり工房『パーペチュアル』——という建物で、名目上は機械の修理をして生計を立てている。

しかし正確に言うと、この天才機械工の勤務時間は、ほとんど各種楽器の修理や改造に充てられている……

「ちょっと、雑誌に書いてあることを鵜呑みにするんじゃない!私は真面目に仕事をしてるんだって……」

「小さいのは地髄暖房から大きいのは車のエンジン、さらにはシルバーメイン製の自動機兵まで、大抵のものは修理できる。
それから、よくある機械の修理や改修だけじゃなくて、それに新機能を追加するサービスも提供してるんだ」

「例えば、除雪機に外付けドリルを追加したり、トースターに弾道計算装置を追加したり…とかね」

「は?商売の調子は?って、どういう意味?あんまり詮索しないでほしいな——私はお腹を満たせて音楽ができればそれでいいんだ」

「そもそもお金を稼ぐつもりはないしね…人生は短い、時間があるなら趣味に費やしたほうがいい」


  • ストーリー詳細3
    セーバルが再び趣味の音楽を取り戻せたのは、彼女がランドゥー家と完全に決別した後だった。

そして、この有名なからくり工房は彼女が思う存分ロックを楽しむための拠点となった——
度々苦情が寄せられているが、寒波前の前衛芸術は、流行を追う多くの若者に支持されているようだ……

「本当に…参ったよ!この手の雑誌が『音楽評論家』って呼ぶ連中は、もっと的を得た意見を言えないもんなの?
『度々苦情が』?『流行を追う多くの若者』?こんなの私もファンも納得しないから!」

「まあ、『機械ブーム』が若い子たちに人気なのは事実だけど——あの年頃の子たちは情熱に満ち溢れてるか、才能があるのに機会に恵まれてないかのどっちかだからね……」
「どういう感情だったとしても、たまには発散する場が必要だ。そこで、私の『ロック』が最適だったってわけ!」

「…あの頃の私みたいにね」
「いや、何でもない!気にしないで、ちょっと昔のことを思い出しただけだから……」


  • ストーリー詳細4
    かつては誰もが知っていた。セーバル・ランドゥーこそ、シルバーメインで最も優秀な頭脳の持ち主であるということを——
    ランドゥー家の天才令嬢に関する噂の8割は、このことに関連している。

しかし、数年前のある日、その噂はたちまち新しい噂に取って代わられた。
大守護者と親しくしていたはずの彼女が、なぜ何の前触れもなく軍から追い出されたのか?

セーバルは大守護者のことを恨んでいるのだろうか?
人々は様々な憶測を巡らせた。

「最初の質問に対する答えは簡単だ——ノーコメント。シルバーメインの最高機密に関わることだから、理解して」
「2つ目の質問に関しては……」

「私は…ちっとも気にしてない。考えてもみなよ、今みたいに悠々自適な生活を送れることよりいいことなんてある?
むしろ、こうなるように手を貸してくれたあの女に——感謝しないとね!」

「こんな世の中なんだから、楽しめるうちに楽しまないと…損でしょ」

「終末が決まってるのに、本当の楽しみなんてあるのかって思うけどね」


クラーラ

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ロボットに育てられた少女。年齢にそぐわない鋭さや頑固さがある。
クラーラにとって、スヴァローグの計算は決して間違うことのない世界の法則だった。
その「計算」によって得られた結果が、必ずしもすべての人に幸福をもたらすわけではないとわかるまでは。
臆病な少女は、勇気を出して立ち上がることを決意した。

  • ストーリー詳細1

「——記録 建創紀元████年██月██日」

「ボルダータウン南東部のゴミ埋立地で人類の少女を発見」

「スキャンによれば、この少女には如何なる機体組織構造の破壊や機能障害もない。
しかし精神状態は非常に不安定で、自分の状況を伝えることを拒否。回避する傾向が著しい」
「コミュニケーションを継続したところ、一部の情報の入手に成功」
「少女は泣き出した。その時間、およそ3時間7分」

「少女の名前はクラーラ。出自は不明」
「結論:基地に連れ帰り、さらなる観察と情報収集を行い、後続の処置案を考える」


  • ストーリー詳細2

「——記録 建創紀元████年██月██日」

「クラーラはベロブルグの共通言語を使いこなしており、機械工学の分野で優れた才能を発揮しているが、他の人類との交流を拒絶している。
この人格傾向は、クラーラがベロブルグで長期発展していくうえで不利になる」

「現在の急務は、クラーラのために適切なコミュニケーション教育案を作成することである。優先度:高」

「——記録 建創紀元████年██月██日」

「クラーラがボルダータウンで同年齢の個体と接触することに成功。今回の接触対象の名前はフック。
ボルダータウンの治安組織『モグラ党』の総責任者を自称している——この社会組織に関連する情報はデータベースにはない」

「クラーラとフックの接触は最初あまり順調ではなく、クラーラはかなりの羞恥心を露わにしていた。
しかし、相手は極端な情熱と共感をもって状況を打開することに成功。
クラーラを『モグラ党の名誉隊員』と呼んだ。
コミュニケーション終了後、クラーラはフックのことを『初めての友達』と表現した」

「この出来事はクラーラにとって極めて重要である。今日の記録を『重要』フォルダーに保存」


  • ストーリー詳細3

「——記録 建創紀元████年██月██日」

「クラーラの指導のもと、多くの流浪者が基地周辺に集落を作り、彼女の援助を頼りに生存している。
この行為は『存護』の指令と相反するものではないが、この基地の輸送通路を通って上層部に行こうとする者も少なくない。
ベロブルグの滅亡を加速させないために、基地の門を閉鎖することを決定」

「この件は以前クラーラとも議論した。彼女は門を封鎖する行為を『理解できない』としている。
それに対して私は以下の演算結果を伝えた。
大守護者が裂界との戦いに過度な資源を投入したことにより、かえって上層部の壊滅が早まったこと。
下層部にとっては上層部から隔絶することが最善の選択であること。
そうすれば、人々はより多くの生存時間を確保できること——最終的に、クラーラは同意を示した」

「大多数の人類は非論理的に行動するが、クラーラは違う——
私に育てられ、自動機兵に囲まれて成長した彼女の行動は、真の理性に基づいている。
彼女の存在はベロブルグの終焉の過程に関する演算結果に影響を与えるかもしれない。さらに観察する必要がある」


  • ストーリー詳細4

「——記録 建創紀元████年██月██日」

「私は誕生した時から下層部を『存護』する指令を受けている——
たとえ上層部より1秒しか長く存続させることができないとしても、私は指令を厳守する。
ベロブルグの伝統文化にある概念を借りれば、『何の疑問もなく、私は自分に課せられた使命に忠実である』と言えるだろう。
そのため、私は自分の計算結果を鉄則であると考え——何者にも何事にも揺らぐことはない——これには『外から来た者』も含まれている」

「しかし、私は膨大な演算結果の中で、ある可能性に気が付いた」

「この演算結果では、クラーラはベロブルグのすべてを変える。
かつて、私は彼女のことを『その行為は真の理性に基づいている』と評価した。
この演算結果をもとに新たに結論を見直すと、間違いではないが、偏りがあったことが判明した」

「この演算結果の中で、クラーラは『真の理性』を持つことが現状を変える鍵ではなく、
むしろ彼女の真摯かつ情熱的な『感情』がすべての計算結果を覆すこと。
そしてベロブルグの滅亡の運命を逆転させることを証明した。
しかし、新たな外因が介入しない限り、この演算結果の達成確率が0.25272%を超えることはない。
小確率イベントグループに分類し、この演算結果に対する研究を一時停止しなければならない」

「現在、下層部の存続確率は過去5サイクルの間で明らかな上昇傾向は見られない。
評価としては保留も認められるが、関連するリスクの要因を監視下に置くことに変わりはない」

「本サイクルではクラーラの家族を探すことに専念する。彼女は『もう本当の家族を見つけた』と言っているが、一刻も早くクラーラの本当の家族の居場所を突き止めるため、今後も情報収集を続けていく」


ペラ

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物事を綿密に進めるシルバーメインの情報官。年は若いが優秀な頭脳を持っている。
部隊の動き、物資の分配、地形の状況など、ペラはどんな質問にも冷静に、かつ寸分の狂いもなく答えてくれる。
ペラのスマホケースについては…「これは仕事と関係ありません、長官」

  • ストーリー詳細1
    以下の内容は『シルバーメイン面接選抜記録・情報部・第24部』102ページから抜粋されたものである。

受験者個人に関する基本情報——

「わたくしはペラゲヤ・セルゲーヴナと申します。『ペラ』とお呼びください」
「わたくしはベロブルグ士官学校社会科学部および理学部を卒業し、戦争研究学と情報学の2つの優等学士学位を取得いたしました」
「趣味ですか?すみません、少し考える時間をください……」
「…わたくしの趣味は『ベロブルグの先史音楽の研究』です。それだけです」
「はい、他に趣味はありません…本当です、わたくしを信じてください」


  • ストーリー詳細2
    以下の内容は『シルバーメイン面接選抜記録・情報部・第24部』103ページから抜粋されたものである。

なぜ栄誉学士号を取ったのか——

「『ベロブルグ士官教育および学位軍隊階級の授与についての規約』第3編第5章第23節第1条目第7款の内容について説明してもよろしいでしょうか……?」
「学位の授与対象が最低年齢制限を満たしておらず、かつ目標学部の指定単位を修了した場合、当該対象に『優等学士』の学位を授与するものとする、とされています」
「はい、今のところ進学する予定はありません——この先もありません」
「実践は理論に勝りますから」


  • ストーリー詳細3
    雪夜のベロブルグ。止まった巨大な時計の下で、少女たちの笑い声が暖かい光と共に窓格子から漏れ出している。

「『ベロブルグの先史音楽の研究』!?無理ありすぎだって!それで?カカリアは追及してこなかったの?」

少し年上であろう女性がゲラゲラと笑った。

「カカリア様とお呼びください、セーバルさん」

小柄な少女は口をへの字にして曇った眼鏡を外した。

「わたくしが貴方のバンドに所属していることは、きっと彼女も知っていると思いますよ」

もこもこの帽子をかぶった少女もペラに同調する——

彼女は室内にいても可愛い帽子を取ろうとしない。

「…さすがだね、ペラ。カカリア様はあなたの他の趣味についても知ってる?」

「はっ、そんなの知らないに決まってんじゃん」

セーバルと呼ばれた女性が立ち上がった。

「一緒に住んでたけど、あいつが小説を読んでるとこなんて見たことない——むしろ時間の無駄だって言ってたよ……」

「よし!ペラ、リンクス——明日は『奇譚』の交流会だから、今日は早く寝よう」


  • ストーリー詳細4
    もし巷で流れている噂に詳しければ、『雪国冒険奇譚』のことは聞いたことがあるだろう。
    そしてこの作品の熱狂的なファンならば、まず間違いなく「『雪国冒険奇譚』交流会」のことも知っているはずだ——
    それは招待状を受け取った人だけが参加できる、開催時間も場所も秘密の会のことである。

交流会の参加者は大きく2種類に分けられる。創作を楽しむ「生産者」と、前者の努力の結晶を楽しむ「消費者」である。
彼らは『雪国冒険奇譚』を心の底から愛しており、ベロブルグ文学史の不朽の名作を支えるために微力ながら貢献していた。

そんな中、また新たに伝説の人物が誕生した——その人物は小柄な女性らしい。
すべての交流会に参加している彼女は、噂によれば仮面を着けており、
絶版の画集に大金を注ぎ込むこともあれば、「生産者」になることもあるらしく、どの創作もファンの間で大きな反響を呼ぶという……

「こんなにたくさんの伝説があるのに、シルバーメインに関する話題は1つもないんだ……」
「どうやら……わたくしの偽装は上手くいっているようですね、ふふ」


サンポ

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口が達者な商人、「利益」あるところにサンポあり。
サンポが手にする圧倒的な量の情報に人は近づかざるを得ないが、彼の「客」になるのは決して良いことではない。
値段さえ見合えば、「客」はいつでも彼の「商品」になり得るのだ。

  • ストーリー詳細1

「皆さん、こんにちは!私は水晶日報の記者ブルーヘアー・ポサンです。私は今、行政区の噴水広場に来ています。
近くに『ネイビーブルー詐欺被害者の会』のメンバーだという方がいますので、これから簡単なインタビューをしたいと思います」

「こんにちは。詐欺に遭った経験について聞かせていただけますか?」

「はあ…本当に腹が立つ!あの青髪の男め、さっさと死にやがれ!」

「その、テレビの生放送なので…少し落ち着いてください」

「ゴホン…わかった。水晶日報だったな?そうだ、苦しんでいる人々を報道するんだ。建創者のくだらないゴシップは程々にしておけ……」

「…あの青髪の賊は、まだ行政区をうろついてる!つい昨日も、アイツは私の店から黒パンスパイスを1.5kgも盗んだんだ!
1.5kgだぞ?それだけあれば、官僚や貴人たちがどれだけの間使えると思ってる!あの野郎、きっと次はスパイス工場に強盗にでも入るぞ!」

「落ち着いてください!あなたの境遇には深く同情します…ところで、さっきベロブルグのスパイス工場と仰いましたね?」

「ああ…言ったな。それがどうかしたのか?」

「その工場の具体的な場所を教えていただけませんか?」

「はあ…なんでだ?」

「それはもちろん、メディアとして少しでも社会の正義に貢献したいからですよ——
工場の正確な場所がわかれば、シルバーメインや正義感溢れる市民を動員して窃盗を防ぐことができるでしょう?」

「ふむ…確かに一理あるな。よく聞け、工場の場所は……」


  • ストーリー詳細2

「お名前をどうぞ」

「アレクセイ。アレクセイ・ボゴダです」

「階級は?」

「一等兵です」

「こんにちは、アレクセイ一等兵。私はブルーヘアー・ポサン。シルバーメイン直属の上級人材資源専門家です。
今回はジェパード戍衛官からあなたの私用による休暇申請の審査をするよう頼まれました」

「お会いできて光栄です。ブルーヘアー女史」

「どれどれ…4ヶ月前の防衛行動により負傷、全身の5か所を骨折したと…
それでも、あなたは今まで責務を全うしてきた。素晴らしいではありませんか!」

「ありがとうございます、ブルーヘアー女史」

「あなたが守っているのは…シルバーメイン禁区の3号武器庫ですよね?さすがです!
聞くところによると、そこは極めて重要な軍事拠点で、中には最もお金に…いえ、価値のあるシルバーメインの軍装備が保管されているとか」

「その通りです」

「ふむふむ…はい、問題ありません。アレクセイ一等兵、不測の事態さえ起こらなければ、来週の火曜日から家に戻って休めるでしょう」

「…え?来週から?確か…僕のような重要な防衛業務担当の申請が受理されるには、少なくとも1ヶ月は——」

「…何も言う必要はありません、一等兵——あなたの頑張りには感謝しますが、
私にとって何よりも重要なのは、シルバーメインの心身の健康を守ることなのです。
安心してください、代わりの人員はすでに見つけてあります。何も心配することはありません」

「…わかりました。本当にありがとうございます」

「よろしい!では来週の火曜日——20時17分までに、荷物を持って禁区を離れてくださいね!」


  • ストーリー詳細3

「よお、兄弟」

「よお——お前もあのポサンとかいう奴のために働いてるのか?」

「ああ。お前は爆破担当か?」

「そうだ。お前は…ピッキング担当だな?」

「その通りだ」

「よし、これで全員揃ったな。仕事を始めるぞ」

「…これを…こうして…よし、これでいい。後は待つだけだ」

「なんか頼りないな…こんな小さいので本当にこのデカい鉄の門を吹き飛ばせるのか?」

「俺はお前の実力を疑ったりしないぞ、兄弟。俺を信じろ。
お前が泥遊びした回数よりも、俺が鉱山を爆破した回数のほうが多いんだからな」

「ああ…わかったよ。そういえば、お前はあの女になんて言われたんだ?」

「廃工場、見張りはいない、ブツは好きに持っていけ。こんな簡単な仕事は初めてだ。お前は?」

「ああ、俺も同じことを言われた。ただ、なんかおかしい気がするんだよな……」

「稼げる時は稼ぐ、だろ?余計なことは考えるな。ほら、耳を塞げ——火を点けるぞ!」

「……」

「…おいおい、やりすぎだろ兄弟。もう十分ホットな展開だってのに!」

「言っただろ、俺の力を信じろって。行くぞ、次はお前の出番だ——」

「シィッ!喋るな、聞こえたか?中で話し声がした!」

「なんだって?いや、そんなはずはない。あの女は誰もいないって——」

「シルバーメイン…シルバーメインだ!くそ、兄弟!早く逃げるぞ!」

「くそっ、ポサンめ!覚えてやがれ!」


  • ストーリー詳細4

「おはようございます。少しよろしいでしょうか?」

「…あなたは?どうして朝からシルバーメインがここに?」

「申し訳ありません、ミス。建創者の命令で、各家庭に聞き込みをしているのです」

「え…聞き込み?何についてですか?私は何も……」

「落ち着いてください、ミス——これはあなた個人に対するものではなく、ベロブルグの全市民を対象とした聞き取り調査ですので」

「な…何か事件が?」

「私を信じて協力していただければ何も問題はありません。質問したいことは1つだけ…あなたの家にカツラはありますか?」

「え…カツラ?な、ないですけど。ほら、私の髪は量が多いくらいですし…どうしてそんなことを聞くんですか?」

「本当ですか?もう一度よく思い出してみてください。
シルバーメインはベロブルグにあるすべてのカツラを回収するよう命じられています。
拒否すると深刻な事態に発展する可能性が……」

「いえ、うちにそんなものはありません。信じられないなら、中に入って調べてもらっても構いませんよ」

「ああ、そこまでする必要はありません。あなたは何も隠していないと信じます。それでは——」

「…待ってください。一体何があったのか聞いてもいいですか?」

「そうですね、あなたになら教えても大丈夫でしょう。
実は最近、女装した賊が上層部をうろついていて、あちこちで詐欺を働いているんですよ。
その男は極めて謎めいた人物で、頻繁に身分や外見を変えることもあり、まだ居場所を突き止められていないんです。
それで治安大臣が昨日の報告会で激怒して、ベロブルグ中のカツラを回収すると……」

「…そんな不思議なことが起こってたなんて」

「正直、シルバーメインもあなたと同じ気持ちです。私たちは聞き込みを続けなければならないので…これで失礼します。お邪魔しました、ミス・ポサン」


ナターシャ

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何事に対しても慎重な医者。いつも掴みどころのない笑顔を浮かべている。
医療資源が乏しい下層部で、ナターシャは数少ない医者として老若男女問わず治療している。
おてんばなフックでさえ、彼女を見ると大人しく「ナターシャお姉ちゃん」と呼ぶ。

  • ストーリー詳細1

「早く、ここ押さえろ!強く押さえて出血を止めるんだ!」

ナターシャは慌てながら兄を見た。彼女の目の前に横たわっている男は、全身に包帯が巻かれている。彼の体は耐え難い苦痛によって捩じれ、ピクピクと痙攣しており、その口からは不明瞭な言葉が次々と紡がれていた。

「…何をもたついている?早く、押さえるんだ!」

兄の命令に怒りと、それから——鋭い少女だからこそ気付くことができた——僅かな希望が含まれていた。ナターシャは慌てて男の右腕を掴み、全力で彼の肩に止血綿を押し当てた。

負傷した男の口から悲痛な呻き声が上がったが、兄の指示があるまで、彼女は少しも気を抜くことができなかった。

どのくらいの時間が経ったのかわからなくなった頃、彼女は負傷者の呼吸が止まったことに気付き、ぼんやりと目の前の命が失われた体を見つめた。

「ナターシャは全力を尽くした」、兄は言った。口調はいつもの冷淡なものに戻っている。「少し休むといい、まだ負傷者はいるんだ」

彼女は自分の手のひらを見た。指は強張り、血の匂いが鼻につく。その匂いはナターシャの心を掻き乱したが——この道を進むには、それに慣れる必要があることを彼女は理解していた。


  • ストーリー詳細2

「素晴らしい…相変わらず素晴らしいわ」

教授の目の前の紙を何度も捲りながら、独り言のように言った。「あなたの成績と臨床所見なら…病院でも舞台でも、間違いなく活躍できるでしょうね」

ナターシャが緊張から10本の指を握り締めると、教授も彼女の変化に気が付いたようだった。

「どうしたの?…何か言いたいことがあるのね?」

ナターシャは慌てて表情を整えた——自信に満ちた態度で自分の決断を伝えたいと思ったからだ。

「私は下層部に行きたいんです、教授。そこでなら、もっと多くの人の助けになれますから」

年配の女性は一瞬固まったが、ゆっくりとメガネに手を添えた。そして彼女は頭を下げ、手元の資料の続きを読み始めた。

「なるほど、あなたはお母様の言う通りね…幸運を祈るわ、ナターシャ」

ナターシャは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。最後にベロブルグ医学院の白い廊下を歩いた時、彼女の心は決意に満ちていた。


  • ストーリー詳細3

お父さん、お母さんへ

元気にしてる?

すぐに返事ができなくてごめんなさい。最近は下層部で混乱が続いていて、孤児院も負傷者でいっぱいだったの。だから治療以外のことをする時間がなかなか取れなくて……孤児院の惨状を見せたくなかったから、幼い子供たちは町の里親のところに送ったわ。

この前の質問だけど——そうね、確かに噂で聞いた。大守護者が上層部と下層部を封鎖しようとしてるって。2人が私を心配してることもわかってる。でも私の立場からすれば、こんな時に下層部の人たちを見捨てることはできない。人々が不安がっている時期だからこそ、私は自分のささやかな力で人々に慰めを与えたいと思ってるの。

私はお父さんとお母さんが私の選択を尊重してくれることを知ってる。学院を卒業したばかりの頃、お父さんが言っていたことを今でも覚えてるわ。「もし医者の道に進んだ目的が立派な仕事を得るためだけだとしたら——その人は遅かれ早かれ自分の選択に後悔するだろう」ってね。私、この言葉の意味を理解できた気がするの。

次に会えるのはいつになるかわからないけど、2人とも元気でね。私はもう大人だし、自分の面倒だって自分で見られるから、そんなに心配しなくても大丈夫。

2人を愛する娘
ナターシャ


  • ストーリー詳細4

ベッドには浅黒い肌をした男が横たわっている。年齢は50歳前後といったところだ。彼の筋肉の輪郭は彫刻のように整っているが、今は傷と血に覆われている。彼の呼吸は荒く、胸は激しく起伏していた——彼は生死の境にいるのだ。

ナターシャの視線は素早く負傷者の体の上を走り、彼の命を奪おうとしている致命傷を探している。そして、すぐに左の脇腹の傷口を見つけた。それは小さな傷だったが、血が止めどなく流れ出ている。恐らく鋭い武器によって内臓が傷つけられたのだろう。

彼女は新しい医療用手袋をして、傍にあったロールから大量の包帯を巻き取った。それを負傷者の腰と腹にきつく巻きつけた後、出血している部分を強く圧迫していく。黒ずんだ赤色が包帯の表面に広がったが、ナターシャは慌てる様子もなく、一定の力で圧迫を続けていた。

しばらくすると、荒かった男の呼吸は整い、強張っていた表情も和らいだ。ナターシャは負傷者が生命の危機を脱したこと、そして夢の世界に入ったことを悟った。

彼女はゆっくりと手袋を外して、診療所の窓枠に寄りかかりながら息をついた。

「死んじゃダメよ、オレグ……」

彼女は病床を見つめながら呟いた。

「…まだ果たさなきゃいけない使命がたくさんあるんだから」


フック

フック.webp

冒険集団「モグラ党」の親分、自称「ドスクロのフック様」。
子供だと思われることを嫌がり、大人に頼らずとも自分の力で生きていけると思っている。
大人たちは裂界へ行き、サンポは地上で冒険し、病人たちは危険を冒してナターシャの治療を受ける…フックの指揮のもと、子供たちだって冒険するのだ!

  • ストーリー詳細1

「██年██月██日  天気:すごくいい  気分:さいあく」

「今日は、まじょばばぁの式けんかん 試けんかんをこわして、怒られた」

「まじょばばぁは、すっごく怖かった。お昼は、あそぶのを禁止されたから、お昼ねだけした。うんざりだ!」

「ばばぁの、きょうふ正治 生治 政治を止めなければならない!ばばぁの好きにはさせない!」

「あたしは『モグラ党』をつくって、しんりょう所の子供たちを 捕まえ たい捕 要せい 招待した!いっしょにまじょばばぁに立ち向かうんだ!そして、いっしょにおいしいものを食べて、いっぱいあそぶ!だれもあたしたちを止められない!」

「あたしがモグラ党の親分だ!そして、しんりょう所の親分だ!毎日、まじょばばぁを思いきり怒って、毎日、そう字 そう治 そうじをさせる!ははは!」


  • ストーリー詳細2

「██年██月██日  天気:すごくさむい  気分:さいこう」

「今日は、『きかい ぼん ぼち』に行って、あたしにぴったりな武器をさがした。親分として、すごい武器が必要だからな!」

「そこで女の子に会った。たぶん、あたしより年上(でもあたしが親分!)で、きれいな赤いコートをきてたけど、くつははいてなかった。なんでくつをはいてないのか、知らないけど、すごく寒そうだった!でも、女の子は寒くないのかも」

「その子のかみの毛は、白くて、雪みたいで、きれいだった!あたしも白くて、長いかみの毛がいい」

「さいしょは、ずっとはずかしそうにして、話もしてくれなかったけど、大丈夫!あたしは 話すのが大好き 友だちを作るのがとくいだから!女の子とずっとお話ししてた。女の子のパパは、でっかいロボットだった!」

「かっこいいパパだったけど、あたしのオヤジには負ける!あたしたちはすぐに友だちになった。それから、すごい『ホールマスター』を見つけてくれた!だから、かわりにモグラ党のめいよたいいんに任命した!」


  • ストーリー詳細3

「██年██月██日  天気:ずっとさむい  気分:よくない ふつう」

「今日、アリーナのパパとママが来てた。アリーナはすっごく楽しそうで、あたしもうれしくなった」

「パパとママを思い出した。もうずっと会ってない!オヤジはあたしにすごくすごくすごくよくしてくれるけど、それでもパパとママに会いたい!」

「夜、オヤジはまたパパとママがかえってこない理由をおしえてくれた。でも、実は全部おぼえてる…オヤジが何回もきかせてくれたから!」「オヤジ、自分が言ったことをすぐわすれちゃうみたいだ!まじょばばぁにきいたら、オヤジが年だからって言ってた。治せるかきいたけど、オヤジのこのびょう気は治せないって、ごめんなさいって言ってた」

「まじょばばぁは、最近あたしが悪さしてるからって、うそをついてるんだ!町で一番のいしゃなのに、どんなびょう気だって治せるのに、オヤジを治せないわけがない」

「よし、決めた。オヤジが話したことは、あたしがオヤジのかわりにおぼえる!だって、あたしはすごいモグラ党の親分だから!」


  • ストーリー詳細4

██年██月██日 場所:診療所 フックとの会話記録:」

「オヤジはずっと前からパパとママの友達なんだって。昔はみんなで北の小さな町に住んでた。ある日、ママが裂界に行ったまま戻ってこなかったんだ。ママは岩焼き洞窟イモリが大好きだった。パパはママに会いたがってたから、毎日あたしに岩焼き洞窟イモリを作ってくれたんだ」

「ある日、あたしが家に帰ったら、パパがベッドで寝てた。すごく苦しそうだった。あたしはびっくりして、泣きながら隣に住んでたフェスマンのオヤジを探しに行った。オヤジは『パパは病気だ』って言って、町の医者のところに連れていってくれた」

「あたしたちは何日もパパと医者のところに泊まってた。でも、最後にはお金がなくなっちゃって…そしたら、パパが小声であたしにお金を貯めろって、ここは居心地が悪いから家に帰りたいって言ったんだ。だからあたしはオヤジを探して、パパを家に連れて帰ろうとした。なのに、オヤジと一緒に戻った時、パパはもう何も話さなくなってた」

「オヤジはずっと地面に膝をついて泣いてたけど、あたしは何が起こったのか理解できなかった。オヤジは、パパはママに会いたくて、会いたくて、すごく会いたかったから、夢の中にママを探しに行ったって説明してくれた。じゃあいつ起きるんだって聞いても、オヤジはずっと泣いてるだけで、答えてくれなかった……」

「あ、あたしは泣いてない!いい…ナターシャお姉ちゃん、ティッシュなんかいらないってば……」

「…実は、後でこっそり医者に聞いたんだ。あたしは知ってる。パパが死んだってことも、もう戻ってこないってことも。ママも同じ…知ってるけど、オヤジはあたしを悲しませたくないから、ずっと嘘をついてる……」

「あたし知ってるよ、親父が世界で一番いい人だってこと。あたしもオヤジが大好き……」

「だから、あたしはみんなと一緒にお宝を見つけて、オヤジにでっかい家を建てる!それから…オヤジの病気も治してあげるんだ!」


ルカ

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ポジティブで些細なことにはこだわらない、義手の格闘家。「地炎」のメンバー。
リングから戦場へ、ボクサーから戦士へ。ルカはその力で下層部の人々を守ってきた。
その身で絶望を経験したからこそ、ルカは他の者に希望をもたらそうと努力する。

  • ストーリー詳細1

一度、もう一度と、ハンマーを振り下ろす。

火花が目の前で弾け、筋肉と関節が擦れる音は、金属がぶつかり合う音の中に埋もれる。少年の身長ではまだ棚の一番上には届かないが、ハンマーを振り回す力はもう熟練の鍛冶職人に匹敵する。

この小さな鍛冶屋が彼の生活の全てだ。父は店の前に座り、錆びついた表札を何度も拭いている。彼はたまに、硬いベッドの上に横たわって自分の未来を想像する——だが、いくら思考を巡らせても、果てには父親の背中が浮かんでくる。

足音が聞こえてきて、彼は手を止めた。父が立ち上がった。その厚くもやや曲がった背中からは、一抹のへつらいが見える。また「地炎」の人たちだ——ハンマータウンに戒厳令が敷かれてから、彼らはよくこの鍛冶屋に来るようになった、おかげで各種武器の注文もかなり増えた。

少年が考え事をしていると、リーダー格のあの常連客と偶然目が合った。その人は黒い皮膚と逞しい体躯、そして鋭い眼光を持っている、だが、自分を見た瞬間に突然柔らかくなった。彼は少年に向かって頷く。

「ようこそ、オレグの旦那!今日は何が必要ですか?」
「まあまあ、急がずに。今日はただ話をしたいだけだ」、彼はルカを指差した。「お前さんの息子について」


  • ストーリー詳細2

炎の光が辺りを照らし、煙が彼の視線を遮る。怒号と叫び声が耳に伝わってくる。オイルと血の匂いが交わって襲い掛かってきた。ルカは吐き気をこらえる。

初めて標準的なストレートを打ち出した時、オレグ師匠の笑顔は彼を大きく励ました。しかし、前線の残酷さをその身で知った後、あの時のような温かい心の流れはもう感じ取れなくなった。整列する時、彼はいつも戦友たちの表情をこっそりと観察する——一つ一つの顔から読み取れる不安が、逆に彼の緊張感を和らげる。

大きな叫び声がルカを現実に引き戻す。声の方向を見ると、子供がモンスターに追い詰められていた。彼は本能的にモンスターと子供の間に飛び込む。

後ろからとても大きな声がした。ルカはパニックになった男の子を抱きしめながら、ゆっくりと振り向く。流れ弾が急所に当たったのか、異形のモンスターは既に倒れていた。

「あ…ありがとう、お兄さん……」

「大丈夫か?」

「お兄さん…腕…腕が……」

子供が指差す方向に沿って、自分の右腕を見ると——上腕があるはずの肩の部分には、風に揺れる布切れしか残っていなかった。その下からは血がだくだくと流れている。

痛みが意識を奪う前に、あの温もりがもう一度彼の心に流れ込んてきた。


  • ストーリー詳細3

初めてのトーナメント。ルカは決勝戦で倒れた。

「ハハハ、役立たずが!これが弱肉強食の世界だ——テメェみてぇなザコが出しゃばっていいところじゃねぇ!」

ルカはその侮辱を気にしなかった。決勝戦の相手は、汚い手ばかり使うことで有名なワルだ。卑劣なやり方でしかチャンピオンを勝ち取れないのなら——ルカは思う——ベルトなんかいらねぇや。

次の日の夜、彼はクラブの曲がり角で数人の子供を見かけた。やせっぽちな男の子が満身創痍でうずくまっており、大きな図体の子供たちがその周りを囲んでいた。

「ははは、役立たずが!」先頭に立ついじめっ子が傷を負った男の子を見て嘲笑う。「これが弱肉強食の世界だ——テメェみてぇなザコが出しゃばっていいところじゃねぇ!」

その時、ルカは下層部のチャンピオンになることを誓った——彼自身の方法で、正々堂々と。


  • ストーリー詳細4

「今日はここまでにしよう。こっちだ、小僧、座りな」

「…これで終わりっすか?今日はもう何セットか追加しようと思ってたんすよ!」

「まったく、無理をするな。早く来い!」

「ハハハ、今行きます!」

「小僧——一つ聞く、正直に答えろよ」

「お?なんだそりゃ、師弟の打ち明け話をするんすか?んじゃどうぞ、師匠」

「じゃあ聞こう。お前は…心からボクシングが好きなのか?」

「ハハハ、どうして突然そんなことを聞くんすか?もちろん好きっすよ!じゃないと師匠の傍に何年もいられる訳ないじゃないっすか?」

「小僧、上手いことを言ってるとでも思ってるのか?真面目に答えろ!」

「真剣だな…わかったよ。正直に言えば…そんなに好きじゃないな」

「…ああ、ようやく本音を言ったな。じゃあもう一つ聞く…もし、下層部が『地炎』を必要としない日が来ても…お前は拳を振り続けるのか?」

「うーん、そうっすね…振るい続けると思う」

「なぜだ?お前はチャンピオンベルトのためにリングに上がった訳じゃない、俺にバレてないだなんて思うなよ。もし下層部が本当に平和になったら…それでも拳を振り続ける理由がお前の中にまだあると思うのか?」

「師匠が言ってたっすよね?どの時代にも悪党がいる。たとえ裂界のモンスターが死に絶えても、人間は些細な出来事で争い合う」

「あー…確かに言ったな」

「だから、この世に悪人がいる限り、守るべき善良な人がいる限り——」、ルカは立ち上がった、「——オレは拳を振り続ける!」


リンクス

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ランドゥー家の末っ子の少女、ベロブルグ随一の極地探検家。
無気力のように見えるが、実際は行動力がある。人を寄せ付けない雰囲気を出しているのは不要な人付き合いを避けるため。
不要な人付き合いの定義については――「え…人付き合いって全部不要じゃないの?」

  • ストーリー詳細1

雪原の風景はベロブルグの日常から離れすぎている——少女は夢の中でしかそれを見ることができない。

普段勉強する時に使っている教科書の中で、彼女は寒波が訪れる前の世界がどれだけ広く、どれだけ多彩だったのかを学んだ。しかし、リンクスがそのことについて詳しく知ろうと先生に質問しても、先生は困ったようにこう答えるだけ。「残念だけど、それは雪原の奥深くでしか……」

地理の授業で、先生は時々「オーロラ」という奇妙な天象について語る。そのたび、リンクスは頭の中で奇妙に変幻する現象を想像した。しかし、城内でオーロラを観測できるかと先生に尋ねても、先生は困ったようにこう答えるだけ。「残念だけど、それは雪原の奥深くでしか……」

その遠すぎる天地の答えをいくら少女が求めても、彼女の手が届くことはなかった。

だが、もし先生の言っていることが本当なら。すべての答えが雪原にあるとしたら——

雪原に行き、自分の目で確かめればいいのではないか?

「だから…雪原の奥を見に行きたい!」
「へ?」
「は?」


  • ストーリー詳細2

「リンクス、ベロブルグの外がどんなに寒いか、君も知っているだろう……」

「…大丈夫だよ、兄ちゃん。暖かい服とストーブを用意したから」

「だが雪原は危険だ——異常気象だけでなく、恐ろしいモンスターも……」

「…大丈夫、心配しないで。何度か巡回隊と一緒に行ったことがあるから、ちゃんと対応できる」

「それはいつの話だ?」

「えっと……」

「はぁ…姉さんもリンクスの説得を手伝ってくれ」

「え?リンクスが行きたいなら行かせればいいじゃん。うちのリンたんはちゃんと自分の考えを持ってて、お姉ちゃん嬉しいな~」

「…へへ。ありがとう、姉ちゃん」

「でも、ジェパードが言ったことも間違ってない。1人で城外に出て探検する時は、身の安全に注意して、くれぐれも無理をしないように!ほら、これを持っていって……」

「…これは?」

「これは先月リンたんが欲しいって言ってた『ボーダーランナー』のピッケル、使いやすいようにちょっと改造してみたんだ。あと、こっちはシーカーシリーズの新作のスノーボード、ジェパードが買ったんだよ。あ、それと、この水筒はゲーテホテルの周年記念の限定品ね。ストラップを調整して、ついでにアクセサリーも付けてみた。あとあと、このエネルギースティックと缶詰はエネルギーの補給に……」

「スノーボードのことは言わない約束だったじゃないか……」

「もう…こんな時に張り合わないで!」
「とにかく、リンたん——これをうまく使って、ちゃんと自分の身を守るんだよ…わかった?約束だからね!」

「…うん、約束!」


  • ストーリー詳細3

「リンたん、もう着きましたか?」少女のスマホの着信音が鳴り響く。

リンクスは見慣れた送信者のアイコンを確認すると、その場で返信することはなく、ただレンズに息を吹きかけ、氷のついたグローブでそれを拭った。

レンズの状態は良好だ。彼女はスマホを持ち上げ、ベロブルグの外では滅多にお目に掛かれない晴れ渡った夜空に向ける——風も、雪も、雲もない。ただ煌めく星が散りばめられた黒いベルベットの天幕があるだけだ。

カシャッ——送信。

あまり電波がよくないらしい。空気は上空で滞り、雪と夜は沈黙している。しばらくすると、今度は連続して着信音が鳴り始めた——山、夜、星空。それは少女が完成させたばかりの原稿だ。

リンクスは微笑みながら、スマホのレンズを風の中で波打つテントに向け、再びシャッターを切った。カシャッ——送信。

ピロン、また写真が送られてきた。今度は少女の机、原稿、そしてペンが薄暗い光の中に散らばっている。

カシャッ——キャンプ用の椅子とリンクスのお気に入りのラグ。
ピロン——ホットミルク。

カシャッ——湯気の立つ温かい紅茶。
ピロン——鉄製のランプ、それから少女の大好きな画集。

カシャッ——温かい寝袋。
ピロン——散らかったベッド。

カシャッ——山頂から見えるベロブルグの金色の波。
ピロン——アパートの外、微かに光が見える行政区の街並み。

カシャッ——
最後は夜空に現れた、煌めきながら揺蕩うオーロラ。
ピロン——
可愛らしいスタンプが送られてきた——リンクスは知っている。少女が羨ましいと思った時は、いつもこれを送ってくることを。

それに応えるため、彼女もアルバムの中から選りすぐりのものを相手に送る——

「これでよし」これは、彼女たちの間で交わされた暗黙の了解。


  • ストーリー詳細4

「リンたんはどうして極地観測隊員になったのですか?」

リンクスは以前、親友からこんな質問をされたことがある。当時のリンクスは考えがまとまっておらず、それにうまく答えることができなかった。

それからというもの、リンクスはその質問の答えを探し続けている——自分はベロブルグの先史時代の文明や地理に興味があるのか?それとも城の中では避けられない社交から逃れたいだけなのか?あるいは……

だが、彼女自身でさえ気づいていないのだろう。リンクスにとって、ランドゥー家のことは至ってシンプルだ——

「やりたかったらやればいい」

姉は趣味に夢中になり、工房のオーナー兼ロックミュージシャンになった。兄はベロブルグを守りたいとシルバーメインに入隊し、今では名だたる戍衛官になっている。

だからこそ、リンクスも唐突に家族の前で宣言したのだ——「あたしは雪原の奥に行きたい!」と。そう、本当にシンプルなことなのである。

寒いから行ってはいけない?それなら防寒装備を整えよう。
危険だから行ってはいけない?それならサバイバルの訓練を受けよう。
誰も成し遂げたことがないからやってはいけない?それならリンクスが成し遂げればいいだけだ。

「スタートから出発してゴールに着く…それってすごくシンプルだよね?」


星核ハンター

銀狼

銀狼.webp

宇宙をひとつのゲームと見なしているスーパーハッカー。
どんなに厄介な防御システムでも、銀狼はいとも簡単に解除してしまう。彼女と「天才クラブ」のスクリューガムのデータ攻防戦は、今やハッカー界の伝説となっている。
宇宙には、あといくつのステージがあるのだろう?銀狼はとても楽しみにしている。

  • ストーリー詳細1

彼女は、毎日ジョイスティックを動かして遊ぶ。
店員が1人しかいないファーストフード店。地下室を改装して造られたゲームセンター、数台の古いゲーム機、これが彼女の幼少期のすべてだった。

彼女には、合法な名前も身分を示すIDもない、あるのはただ女主人が彼女につけたあだ名だけ。
彼女には友人のいなかったが、決して孤独ではなかった。
彼女は『ポーン』が好きである。2本の横線、1つの光点、最も簡単な卓球ゲームである。彼女は、これを1日中でも遊べた。
彼女は『チャリオット32』が好きである。格子で描かれた星空の中、異なる8つのカラーブロック、ルールは1つだけ——どんな方法で1位になってもよい。
彼女は『ジオメトリー・ウォーズ』、『オデュッセウス』、『スターチーター』も好きである。これらのゲームのスコア記録には、ユーザーが残した天文学的な数字が多く残っている。

彼女は、毎日ジョイスティックを動かして遊ぶ。
そして、ある日、全ての記録に1人の名前だけが残った。

だから、彼女はジョイスティックから手を放し、ガランとした地下室を振り返った。
ここで休憩する人は多いが、残る人は少ない。
ここを離れる人は多く、戻ってくる人は少ない。
彼女は瞬きをしてから、画面を消した。

その夜、ファーストフード店の唯一の店員は女主人に別れを告げ、離れた人の1人なった。
「地下室」という名前のゲームは、この日終わった。


  • ストーリー詳細2

彼女は西に突き進み、大荒原を突き抜け、スクラップ山にたどり着いた。
仕事を見つけようとしたが、一匹狼だったため様々な困難に遭遇した。
パンクロードでは、人々は仲間を作って仕事をする。1人で何かをする人は、生き残れない。

仕方なく、彼女はバーチャルの仲間を作った。
1人目の名前は、もちろん「トモダチ」だ。
2人目は「魔王」である。街角でポスターを見た時に思いついた名前だ。彼女の想像の中で、「魔王」は言葉を失った軍人である。
突然、彼女はこのパーティは仲が良く、現実味に欠けると思った。だから、3人目には「低所得者」、4人目には「奴隷」という名前を付けた。
最後の1人は「幼稚園児」である——理由はない。創作意欲が尽きたのだ。長い間迷った末に、彼女はリストから最後の1人を消した。
彼女は、残った「仲間」をAI武器に保存した。そうすれば、彼女は仲介人の前で、もっともらしく自分の巨大なパーティを紹介することができた。

彼女は、望み通り最初の仕事を得た——その仕事のリスクは、報酬と同じぐらい想像を超えるものであった。

パンクロードでは、人々は仲間を作って仕事をする。1人で何かをする人は、生き残れない。
だから、1人で生き残った人は、伝説となる。

24システム時間後、彼女はスラグ団の拠点から出てきた——1人で、正面から出てきたのである。
仲介人は、黙って彼女を見てから空を見上げ、最後に振り返り、金塊を1箱地面に投げ捨てた。
「スクラップ山」という名前のゲームは、この日終わった。


  • ストーリー詳細3

彼女は虹の都市で最も高いビルの頂上に立っている。ここから彼女の生まれた場所が見えるのだ。
店員が1人しかいないファーストフード店。地下室を改装して造られたゲームセンター、数台の古いゲーム機。彼女は覚えている、それが彼女の幼少期のすべてだった。

彼女は自分が『ポーン』を好きだったのを覚えている。2本の横線、1つの光点、最も簡単な卓球ゲームである。彼女は、これを1日中でも遊べた。
ちょうどその時、ドローンの群れの赤い光が夜空に一直線に広がった。ドローンの群れは彼女に襲い掛かり、1台また1台と地面に墜落していった。

彼女は自分が『チャリオット32』を好きだったのを覚えている。格子で描かれた星空の中、異なる8つのカラーブロック、ルールは1つだけ——どんな方法で1位になってもよい。
ちょうどその時、カラフルな色によってサイバー空間は8個に分かれ、各組織の人々が広場でいいねを押した。それは、どんな対価を支払ってても成し遂げたい、ただ1つの目標——「銀狼」を捕まえるためである。

彼女は自分が『ジオメトリー・ウォーズ』、『オデュッセウス』、『スターチーター』を好きだったのを覚えている。あれらのゲームのスコア記録には、ユーザーが残した天文学的な数字が多く残っていた。
ちょうどその時——いや、今までとは何かが違う……
追跡不可能。は?「追跡不可能」って?

彼女は虹の都市で最も高いビルの頂上に立っている。ここから彼女の生まれた場所が見えるのだ。
彼女は、傍にもう1人立つことすらできない、高い場所に立っていた。
それでも、彼女は頭を上に向けて、更に高いところを見た。見えた星空は、とても近かったが、触れられないほど遠かった。

「ほんと、つまらない」
「虹の都市」という名前のゲームは、この日終わった。


  • ストーリー詳細4

彼女は椅子の上に立って、アーケードゲーム機の画面を拭いていた。円を描いて、何度も何度も、まるで1回で1粒の埃しか拭けないかのように。
彼女はあのファーストフード店、あの地下室に戻っていた。ドアを開けると何も変わってなかった。女主人が彼女のためにすべてをそのままにしていたのだ。

ピンク色の光が画面の上に広がった。まるで都市の虹のようで、彼女はあの夜にみた星空を思い出した。
彼女は初めてあのビルの頂上に登った人でも、あの星空を眺めた人でもない。
彼女は「ゼロ」の物語を知っていた。ネット戦争時代で最も偉大なハッカー、最も恐ろしいプレイヤー。スターピースカンパニーの護送船を家の前に呼ぶためだけに、第一次世界ネットワークダウンを引き起こした。
彼女は「先哲」のことを考えた。エーテル編集技術の創造者、死者を自分の名にした怪人。星を離れるために彼は喜んで肉体を捨て、黒域に攻め入り、星間ネットワークの中を永遠にさまよう幽霊となった。
彼女は「ロックソード」のことを考えた。スクラップの山の誇り。彼はオアシスゾーンに反抗した物語は大荒原でよく知られている。彼は最後に巡海レンジャーの後を追い、銀河で反逆の火花を散らしているという人もいる。
そして彼女が好きな「ツインスネークス」、オアシスゾーンのインフルエンサーである。彼女の行方に関しては様々な論がある。人々は、身分が彼女とロックソードを別れさせることはできなかったが、銀河が2人を最終的に別れさせたことしか知らない。

パンクロードで「伝説」と称されるハッカーは同じ終点にたどり着く。
そして今の伝説である彼女は、自身もその終点の前にいることをわかっていた。

コツコツ…彼女の頭上から足音が聞こえ、それは徐々に近づいてきた……
1人、2人、3人、4人。
1人は男、1人は女、1人はロボット、最後は……
彼女は座ってから振り返り、ガランとした地下室を見て、ドアの傍にいる人を見た——

「加入するよ」 
「パンクロード」という名前のゲームは、この日終わった。


刃_0.webp

己が身を顧みず、刃に晒す剣客。本来の名前は不明。
「運命の奴隷」に忠誠を誓い、恐ろしいほどの自己治癒力を持つ。
彼は古びた剣を使って戦う。ひびが入った刀身は、その体と心のようだ。

  • ストーリー詳細1

視界は赤黒く染まり、口の中は血生臭く、四肢には力が入らない。
——自分は死んだのだろう。

「覚えたか?」
彼は呆然としながら口を開いた。その声は野生の獣のようだった。
喉で鳴っていた声が止まり、冷たく固い物が彼を貫いた。
このようなことは、少なくとも千回は繰り返された。

実に奇妙なことであった。肉が断裂された時、彼には筋骨が繋がり融合する微かな音が聞こえた。
実に奇妙なことであった。身体の内にある化け物に養分を与え、彼はそれをより巨大なものへと成長させようとした。
実に奇妙なことであった。彼は生きる信念を失ったが、体は当初の様子に戻った。
実に奇妙なことであった。

剣が再び身体を貫く前に、彼はそれを掴み、ゆっくりと身体を起こした。
「覚えたか?」
彼は女の血のように赤い眼を見たが、頭の中は空白であった。
——彼は再び刺し貫かれた。
「死の感覚を覚えて、奴らにも味わわせるんだ」

視界がまた赤黒く染まる。彼は自身を殺す剣を見つめた。その刃は半分砕けている。
「起きろ、もう一度お前を殺させてくれ」


  • ストーリー詳細2

視界は赤黒く染まり、口の中は血生臭く、四肢には力が入らない。
——自分は死んだのだろう。

黒髪の少年は全身を震わせながらも、手に持った槍をしっかりと握った。
少年に龍の角は生えておらず、反応も記憶にあるものと比べると、いくらか拙かった——
だが、彼があの槍を、あの双眸を見間違えるはずがない。あの湖面のように静かな青緑の下にあるものが、どれだけ残酷なのかを忘れるはずもなかった。
傷口が癒え始め、彼は少年を見た。
少年は躊躇うことなく、再び槍を振るう——

「つまり、こういうことだ」
敵を皆殺しにしたのは、貴様だ。
愛する者を葬ったのも、貴様だ。
故郷を滅ぼしかけたのも、貴様だ。

彼は再び倒れる。
少年は傷口を抑え、彼の視界から外れるまで後退した。
「███、貴様の死期をこの目で確かめる前に、俺たちはまた再会するだろう」


  • ストーリー詳細3

視界は赤黒く染まり、口の中は血生臭く、四肢には力が入らない。
——自分は死んだのだろう。

化け物は再び彼を呑み込んだ。しかし今回彼が見ているのは他の者ではない。
大きな甲冑は沈黙を保っている。彼はその腕にがっちりと拘束されていた。話しているのはサングラスをしている女だ。

「聞いて、私はもう1度君を殺すことができる。じゃないと、君を連れ帰れないもの」
彼女の声は優しく、身体の中の化け物も静かになり、話を聞き始めた。
「でも、私はそんなことをしたくないわ」
女は身をかがめ、彼の耳元で話し始めた。内容は、彼が断われないような取引だった。
「何を望んでいる?」
「死なない人間がどうやって死ぬのかを、目の当たりにすることより楽しいことはない。『彼』はそう言っているわ」

大きな甲冑は彼の腕を離した。「運命」は既に前方にある、彼はこの者たちと共に歩み始めた。
「聞いて、刃ちゃん、リラックスしてちょうだい」
「聞いて、何も考えなくていいのよ」
彼は頷き、女の傍に歩み寄った。彼女は笑っていたが、彼にはその笑顔が悲しそうに見えた。
「誰かがこの女の話を聞き終える前に、去ったのかもしれない」そう、彼は考えた。


  • ストーリー詳細4

彼は何も見えなくなった。

数十年前、彼は商船と共に仙舟に来て、この地の神工鬼斧に感服したことを思い出した。
少年は飲食の時間も惜しんで、自身の霊感を思う存分に発揮し、百もの奇物を鍛造した。その中の4つは非常に有名である。

「支離」という名の剣は瑕一つなく、血が光るような色であり、仙舟の最強の剣士だけがこの剣の神髄を引き出すことができる。
狐族の少女は窮地の時に、3本の弓を同時に射たが、星槎を運転しながら人々と談笑することを忘れなかった。
黒髪に龍の角を持つ男子が、水を操る術で仲間の傷病を癒した次の瞬間、水を槍に纏わせ、敵を刺し貫いた。
彼とよく口喧嘩をしていた少年は、この陣刀を見た時、すぐに奪い取り、二度と手放そうとしなかった。

今や██は死んだ。最初で唯一の死である。
しかし、彼は未だにここにいる。その少年のような頭で考える。永遠に考えている。
彼はもう器用に動かなくなった両手について考えた。この両手はもうどんな武器も造り出せない。
——だがそれは、彼とは無関係だ。
これからは、この身体が唯一の「刃」になるのだから。


カフカ

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スターピースカンパニーの指名手配ファイルには、カフカの名前と「趣味はコートを集めること」としか記されていない。人々がこの星核ハンターについて知っているのは、彼女が「運命の奴隷」エリオの最も信頼する構成員の1人だということだけだ。
エリオが予見した「未来」に辿り着くため、カフカは行動を開始する。

  • ストーリー詳細1

「カフカ。人類女性。プテルゲス-Vの新バビロン出身。星核ハンターのメンバーで『運命の奴隷』の助手。罪状:ピアポイント侵入、計2回。ピアポイント窃盗事件。トロヴェス星系失踪事件。ジェモス、ノースカナ、シーラ-39C、ウルモラ、七中村、ロー-51、トロワー星核事件。ピアポイントに対するハッキング攻撃、計4回。スクリュー星に対するハッキング攻撃。『ヘルタ』に対するハッキング攻撃。ヤペラー反逆事件。関与が疑われる罪状:シーツララ、インヌピース、ウェン-G7、祖寇、リタヴィア、イリー、アテューン、ブーハヤマ星核事件。

指名手配レベル:最高。生死を問わず」

——スターピースカンパニーが公表した指名手配書


  • ストーリー詳細2

「…事件の捜査のため、容疑者の基本情報を発表する。容疑者:カフカ(指名手配番号:L933012000020002010004)女、殊俗の民、年齢不詳。身長およそ170cm、標準体型、目撃時は黒い外套、中には白いブラウス、黒のタイトなパンツに紫のタイツ、頭には黒いサングラスを着用。

同容疑者は近頃発生した人的災害の関連者として通報され、現在逃亡中のため、羅浮全域で指名手配されている。容疑者の拠点または本人を見かけた場合は速やかに雲騎軍に連絡するように。容疑者に伝える。逃げられるとは思わずに、速やかに自主し、重要な情報をこちらに引き渡すように」

——羅浮が公表した指名手配書(撤回済み)


  • ストーリー詳細3

「…この女は『カフカ』という。新人ハンターで登録情報がなく、所属組織もない。彼女には『言霊』と呼ばれる能力があり、言語を使って催眠術をかけることができる。初めての事件で新バビロンのリバーランドに現れ、大領主シッドと話し合いをしたのち彼を連れ去った。現場にいた人数143人。その後、オーダーメイド服飾店に行き、黒いコート1着、白いブラウス2着、赤いワンピース1着を受け取った。現場にいた人数6人。その後、中古レコード店に行ったが、何も購入しなかった。現場にいた人数28人。彼女がリバーランド警備局へ懸賞金をもらいに行く前、最後に目撃されたのは中央公園である。現場にいた人数2695人。我々は『カフカ』の首を求めている。命の負債にはその血を持って償ってもらうのだ」

——プテルゲス-Vの悪魔が公表した指名手配書


  • ストーリー詳細4

「…プテルゲス-Vに行くと、135:7372124,271:6372711に廃棄されたビルがある。中に入ると、1階の窓台の下に手つかずの飲料缶がある。それを持って、水曜日の午前11時12分まで待ち、缶をビルの入り口に置く。カフカは2分後に現れ、缶を調べる可能性がある。その隙にこのボールを彼女の足元に投げるといい。その後のことは、私が彼女に直接話す。

カフカが缶を気にしない可能性もある。その場合は、ボールを投げるだけでいい。君たちは死んでしまう。でも、人は皆、いつか死んでしまうものだ。君たちが欲しい未来を私は現実にしてあげよう」

——運命の奴隷が公開した指名手配書


スターピースカンパニー

トパーズ&カブ

トパーズ&カブ.webp

スターピースカンパニー「戦略投資部」の高級幹部であるトパーズは、特殊債務ピケ部隊を率いている。
若くして「十の石心」の一員となった彼女は、「徴収の黄玉」という基石を所持している。
相棒の次元プーマン「カブ」は富の在処を鋭く感知できるだけでなく、警備、債権回収、保険数理などの仕事も容易にこなせる。
現在、彼女たちは銀河を巡りながら、カンパニーの事業拡大に影響を及ぼす様々な債権トラブルを調査している。

  • ストーリー詳細1

「ダイスター、この履歴書を見たか?」

「どの履歴書でしょう…あっ、彼女のですか――市場調査チームで研修を終えたばかりですが、かなり話題になったみたいですね――あっ、もちろんいい意味で、ですけど」

「もう研修が終わったのか?ふむ……」

「何か問題でも?ドビスキーさん」

「いや、ただ少し気になっただけだ。彼女の入社年齢は部署の最低年齢を下回っているからな…それに、この娘のキャリアには目を見張るものがある。どれどれ…ほぉ、彼女が結んだのは『終身契約』なのか?まさか、こんな落ちぶれた星でこれほどの逸材を拾えるとは……」

「業務担当者に確認しましたが、履歴書に書かれている情報はすべて事実です。しかも、彼女は当時の入社試験の結果すら記入していません。聞くところによると——保険数理、ミクロ経済、マクロ経済、星間金融、経営学など、すべての学科試験で高得点を叩き出して、体力テストも満点に近かったとか。彼女が唯一合格しなかった科目は……」

「む、それはなんだ?」

「…ビジネスマナーです。なんでもテストをサボったらしくて…その時、彼女は『私が最も嫌いなものは形式主義』と言ったそうですよ」


  • ストーリー詳細2

「おい、少しいいか……」

「はい?どうかしました?ドビスキーさん」

「…オフィスへのペットの持ち込みが禁止されていることは知っているな?」

「当然じゃないですか!従業員マニュアル第86小節第144条——いかなる形式の有機体ペットであろうとスターピースカンパニーのオフィスに持ち込むことを固く禁じる」

「…本当によく覚えているじゃないか。それなら説明してくれないか——」

「——でも、この規則は根拠に欠けるので、守る必要はないかと。正直に言いますが——この可愛い子たちがここにいてくれると、私の作業効率が27%もアップするんです!」

「…君の口から出た数字を疑うつもりはない。だが……」

「見てください!この子——おいで——カブっていうんですけど…あ、普通の次元プーマンと一緒にしないでくださいね。この子は『お金の匂い』にすごく敏感なんです!今ではどこへ出張に行くにしても、絶対この子を連れていくんですよ。まさに私の幸運の星~」

「オフィスでこんな生き物を目にすることになるとは、まったく…コホン。まあいい、見なかったことにしておこう。ただ今度総監が視察に来る時は——う、うわっ!!なんだ!?や、やめろ、噛むんじゃない!は、早くそいつを連れていけ——」


  • ストーリー詳細3

報告者:フランシスコ・ドビスキー
報告先:「ジェイド」
報告内容:チームリーダーによる業務報告

「ジェイド」様

これは私がシステムを通じてあなたに送る最後の業務報告になるでしょう。時が経つのは早いもので、気がつけば戦略投資部で半琥珀紀を過ごし、多くの難しい仕事を経て、現在の地位に就きました。大きな成功を収めたわけではありませんが、少なくとも私の家族が数世代にわたって裕福に暮らせるだけの財産を築くことができました。もう望むものは何もありません。この場を借りて、これまでの第166市場チームに対する「ジェイド」様の多大なるご支援にお礼を申し上げます。

本題に戻りますが、今回の業務報告では、第166市場チームの直近の業務内容や実績について詳しく述べることはいたしません。この内容につきましては、当チームの月報にすべて記載しておりますので、そちらをご覧ください。今回の報告書の唯一の目的は、私のチームにいる社員████・███████を推薦することにあります。

████・███████の業績や勤務実績については、ある程度お聞きになったことがあるかと思います。システムに彼女の業務報告ファイル、彼女に対するチーム内の複数の社員の総合評価ファイルを添付いたしますので、どうぞご参照ください。████はまだ若いですが、すでに並々ならぬ業務遂行能力、経営者的思考、そして強い意志力を見せています。彼女が第166市場チームのチームリーダーの職務を引き継げば、当チームの営業収益およびプロジェクト成功率は一段と高まるに違いありません。そう信じるに足る理由があります。████が見せている潜在能力から考えるに、彼女のキャリアがこの程度で終わることは絶対にありえません。彼女は将来、より大きな舞台で大いに活躍することでしょう。最後に、私が第一線から引退した後、どうか████・███████のことをよろしくお願い申し上げます——戦略投資部が一貫して主張しているように、人材は最も重要な投資です。私は彼女がすでにあなたの視野に入っていると信じております。

戦略投資部第166市場チーム
フランシスコ・ドビスキー


  • ストーリー詳細4

「ダイスター……」

「どうしました?ドビスキーさん」

「もしよければ…先に食べたらどうだ?恐らく誰も来ないだろう」

「大丈夫です、まだお腹は空いていませんから。それに、これはあなたの歓送会じゃないですか。もう少し待ちましょう」

「ふふ…あの連中の性格を一番よく知っているのは私だ。どいつもこいつも、毎日仕事と金儲けのことしか考えていない…私のような老いぼれ上司のことなど、とっくに忘れているだろう」

「…残念です、ドビスキーさん。少なくとも、エレーナだけはと思っていたのに……」

「——おっと、その名前で呼ぶのはやめるんだ。今は『トパーズ』だ。彼女が本当に彼らの一員になるとはな……」

「感服するほかないだろう、ダイスター。私のような頑固者は、何度生まれ変わろうとあの地位に就くことはできない。もはや彼女は別世界の人間なのだ。こんな小さな集まりに参加する暇などあるわけがない……」

「謙遜しすぎですって…私が思うに…あ、誰かがドアをノックしたようですね——待っていてください、私が見てきますから」

「…誰だった?ダイスター。この老眼では目の前に立たれてもよく見えなくてな……」

「すみません、参加者ではなくて…ただ手紙を届けに来た人がいました」

「ほう…そうか。メッセージを送れば済むことだというのに…そんなに格式張るとは、一体誰からの手紙だ?」

「封筒には差出人が書かれていませんね。待ってください、今読み上げます——」

「親愛なるドビスキーさんへ。これまでのご恩とご指導に感謝いたします。あなたに指導していただかなければ、きっと今の私はいなかったでしょう。大変申し訳ないのですが、私は今タイキヤンに出張に来ているため、退職歓送会には出席できません。ただ、このプロジェクトが終わった暁には、必ず時間を作って伺います。それと、たしかドビスキーさんはモーターボールが趣味の1つでしたよね?タイキヤンからお土産として持って帰りますね!いつまでもあなたに忠実なエレーナより」

「……」

「ドビスキー…さん?泣いて…いるんですか?」


アベンチュリン

アベンチュリン.webp

スターピースカンパニー「戦略投資部」の高級幹部。「十の石心」の1人で、「博戯の砂金石」という基石を所持している。
個性的かつリスクを好む性格で、常に笑顔を絶やさないが、その本心を人に見せることはない。
運命の賭けによって今の地位を勝ち取った彼は、いつもどこか余裕があり、人生をハイリスク・ハイリターンな投資と見なしている。

  • ストーリー詳細1

「すみません。あの新入社員について、いくつか報告したいことがあるのですが……」

「エルヴィン、何をそんなに心配しているの?」

「公式、非公式を問わず、彼に対する苦情が紙吹雪のように私のメールボックスを埋め尽くしていまして…戦略投資部の一員として彼を迎え入れることについて、再考いただいたほうがよろしいかと……」

「そう…それで、その苦情の内容は?」

「主に彼の身元と…あの目についてですね……」
「彼は昔、ツガンニヤの痩せた黄土にはまだ開発利用されていないエネルギーが隠されていると言って、市場開拓部を騙しました。それがまったくのデタラメだとわかったのは、彼らが巨額の資金を投じて採掘を始めた後のことです」
「また、『エイジハゾ・アベンチュリン事件』について触れているものありました。彼の生き残りが、そこに蟲の王「タイズルス」の遺骸が埋められていると博識学会に信じ込ませた、あの事件です——学会の学者たちは慎重に慎重を重ねながらも、相手の罠にはまってしまった」
「さらにツガンニヤの議員からも手紙が届いています。内容は、彼の部族が決議を破り、人々を不安に陥れ、氏族間の和平に変化をもたらしたこと…そして、それによりツガンニヤとカンパニーの協定締結が何度も延期されたことに対する非難でした。この者がカンパニーに入社した今、また悪い影響が……」

「それだけなら、わざわざ話し合う必要はないわ」

「…もしかして、ご存知だったのですか?」

「どの宝石にも固有の価値がある。そして、それに『投資』するのが私たちの仕事なの」
「そうやって苦情を言ってくる頑固者を宥める必要もない。こうした噂は、いずれ彼の耳に届くでしょうし——いえ、もう届いているでしょうね。ちょうどいいわ。彼がどれほどのサプライズをもたらしてくれるか、見てみるとしましょう」


  • ストーリー詳細2

「小僧、やるじゃねぇか…ふざけた嘘でオレの事業を台無しにするとはな。だが、絶対に降伏したりしねぇぞ。どうってことねぇ、ここを吹き飛ばしてやる…お前には何もできねぇよなぁ?」
イイマニカの「狂牛」は部下に手を放すよう合図すると、テーブルから顔を上げ、襟元の埃を払った。
「偉そうなカンパニーの犬は、流浪者のことなんか心の底から見下してんだろ?だが、オレたちの縄張りにいる以上、こっちのやり方に従ってもらうぜ」

「狂牛」は弾倉を空にした後、弾丸を1つだけ込めた銃を足元に放り投げる。
「6回だ、最大で6回引き金を引く。生死は運次第、やるか?」

彼はしゃがんで銃を拾う。
「僕に銃を向ける人は多い。それどころか、実際に引き金を引いた人だっている…なのに今、どうして僕はここに立っていると思う?」
彼は立ち上がり、「狂牛」の目をじっと見つめながら銃を上げると、自分の心臓に突き付けた。
「最後には、必ず銃が僕の手の中にくるからさ」

「でも、いい加減このゲームにも飽きてきたところでね…6分の1の確率なんかじゃ全然足りない。運命に挑むなら——」
静まり返った宇宙船の中で、6発の銃声が連続して鳴り響いた。硝煙が消えると、彼は再び銃を構え、「狂牛」に歩み寄る。弾倉には未使用の銃弾が1発入っていた。
「まずは自分をダイスの目にしないと」
「——降伏しないんだね。どうしてだい?このくだらない確率ゲームのため?それとも……」
彼は銃口の向きを変え、暗闇の中の一点を指した。
「彼女のためかな?」

銃口を向けた先から、同じく銃を構えた女性がゆっくりと姿を現す。彼女を視界に捉えた「狂牛」は、まるで命綱を手に入れたかのような顔をした。
「ジェイド、これじゃ話が違うじゃねぇか……」
次の瞬間、2人は同時に引き金を引いた。それぞれの背後の暗がりで、2人の黒服が銃声に呼応するように倒れる。

「カンパニーの敵はどこにでもいるでしょう?」女性は落ち着いた様子で拳銃をしまうと、手鏡を取り出して自分の身嗜みを確認する。
「自分たちの命をエサに彼らを誘き寄せ、内輪揉めだと思わせて一網打尽にする…悪くない計略だけど、少しスリルがありすぎるね」彼は笑顔で彼女を迎えたが、その両手は微かに震えていた。

「計略?いいえ、これはただのテストにすぎない」
女性は優雅に手を広げた。彼女の手のひらには、不思議な色彩を放つ「砂金石」が静かに横たわっている。
「何もおかしくはないわ。望まれ、求められ、切り分けられ、売られる…これが宝石の宿命だもの」
「でも、あなたにはまだやるべきことがある。すべては自分自身をどう見るか次第よ」


  • ストーリー詳細3

廊下の一番奥にある部屋に入った時、彼は前回ここに来た時、自分がまだ憎らしい顔つきの囚人だったことを思い出した。しかし今、彼はここに立ち、部門の頂点に立つ人々と向き合っている。

彼は金髪の女性が読み上げる、長くてつまらない報告を聞いていた。その冷たい数字は、彼が生死の縁を歩いたスリルを伝えることも、その過程でどれだけのものを失い、どれだけのものを得たのかを伝えることもできない。彼が気になっているのは、彼女が人間なのか、それともオムニックなのかという点だけだ。

そして、権力と未来を象徴する「砂金石」が彼に正式に渡される——命懸けで手に入れたものだが、手に入れた瞬間、彼にとっての魅力と価値は失われてしまった。

「『アベンチュリン』、他に質問はある?」会議の最後に、ジェイド——この場中で唯一知っている女性——が尋ねた。

「ツガンニヤのエヴィキン人は…その後どうなった?」

「残念だけど、もうツガンニヤにエヴィキン人はいないわ。あなたが唯一の生き残りよ」

「じゃあ██星で僕を助けてくれた人たちは?今なら彼らに恩返しできると思うんだ」

「彼らももういないわ」

……

彼はぼんやりしながら自分のオフィスに戻った。机の上で、あの砂金石が奇妙な光を放っている。それは彼を祝福しているようにも、嘲笑っているようにも見えた。
「運命と戦う時…君は本当に幸運なほうなのか?」


  • ストーリー詳細4

「ピノコニー…『ダイヤモンド』はついにピノコニーに手を出すことにしたんだ?」
机の上のミニチュア模型はぐるぐると回り続け、透き通った憶泡から小さな泡が放たれている。

「これは想像を超える歴史的な不良債権だからな。その裏にある利益は…驚くほど大きい」
目の前の人物は彼に背を向け、ピアポイントの黄昏時の赤紫色に染まった空を見つめている。

「でも、どうして僕なんだい?」
その人物は依然として背を向けている。彼の目は物事の真意を捉えるのに長けているが、今回の決定の意図を推し量ることはできなかった。

「本来なら私のはずだった。だが『ダイヤモンド』は、ファミリーにはまだ協力する価値があると…少なくとも、この問題は平和的に解決する余地を残したいと考えている」
「色々と考えた結果、私も君が適任だと思ったのだ」

「へえ…まだ2回しか話したことがないのに、そんなに信用してくれてるんだ?」

「勘違いするな、私は君を信用しているわけではない——『ジェイド』なら信じるかもしれないが、私は違う」
「今回、運は君の味方をしないかもしれない。それどころか、これまでの過ぎた幸運の代償を支払うことになるかもな」

目の前の人物がついに振り返った。オルゴールが鳴り響く中、遠くのビルがオパールのような虹色の光を反射している。
「だが…それこそが君の望みなのだろう?」


純美の騎士団

アルジェンティ

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「純美の騎士団」の古典的な騎士。
正直で堂々とした性格をしており、天性の高貴さによって人々に尊敬されている——宇宙を1人で渡り歩き、揺るぎない意志で「純美」を実践している。
宇宙で「純美」の名誉を守ることがアルジェンティの責務だ。この責務を遂行するためには、敬虔であり、相手を心から承服させなければならない。

  • ストーリー詳細1

彼の故郷は何年もの間戦火に晒されていた。砲火が飛び交う中、彼の子供時代の記憶は、常に血と煙が付き纏っている。ある時、砲火を避けて地下に隠れていた彼は、瓦礫の下から陶器の笛を見つけた
彼は流れる空気をメロディに変えようと試みたのだが——
その音楽は間違いなく災いだった。

ただ、その時の陶器の笛の音は、彼にとって唯一の「精神の逃避先」だった。

音の旋律は時間と共に彼の記憶の中に溶け、「神秘」の瞬間となった。数年後、ある場所で吟遊していた時、彼は塔の砲火の中から子供を救い出した。そして貴重な陶器の笛を贈られた時、その記憶が再び蘇った。
彼は笛を手に考えを巡らせる。白くて完璧で高貴な質感をしており、笛の穴を空気が通ると気圧によって音階を作り出す。音階が組み合わさることで、記憶の中の感情を呼び覚ましていく——
しかし、それでも彼の音楽は災いだった。

「僕はなんと愚かなのでしょう。ここまでこれとの関係を上手く築けないなんて……」
彼は困惑と不安に苛まれたが、しばらく考えていると、再び不気味とも思える勇気が芽生えた。彼は流れる空気で再びメロディを作ろうとした——
音階は昔と同じだったが、彼は大きな声で笑った。

「しかし、僕はこれを愛している——本当に愛しているのです。そして、これが『美しい』と信じています」
彼はその陶器の笛を大切にしまうと、躊躇うことなく旅を続けた。


  • ストーリー詳細2

故郷を離れた後、彼は年老いた師匠と旅をした。
日々の肉体的な鍛錬や精神的な修行に加え、昼の休憩時間になると、師匠は時折自分が見たことのない時代の話をしてくれる——それは古い時代の星間の吟遊詩人たちが、「純美」の瞬間を目撃したと主張する内容だった。

「それは静止した瑪瑙の世界、その中に封じられた奇妙で壮大な現象に人々は涙を流した」
「イドリラは亡くなった後、13琥珀紀の輪廻を経て、13番目の月に宇宙のどこかに戻ってくると言われている」

その歳月の中で、師匠は毎日彼に「純美」の精神を教え授けた。
いかに「詩」を詠む代わりに敬虔に「戦い」、「純美」の精神を貫くかといったものだ。

——彼は理解した、それが「騎士」たる者の掟と品格なのだと。

しかし、師匠は彼に多くを話す前に世を去ってしまった。そして再び1人で旅を続けることになった彼は、かつて故郷を離れたばかりの頃と同じように、自分の存在について深く考えるようになった。しかし、もう孤独の「憂い」は感じない。彼が考えていたのは、どうすれば「騎士」になれるのかということだ。

彼は歴史のある町に滞在した時、汚れた大通りを陽の光を浴びる赤ん坊のように綺麗にしたことがある。
彼は悪夢のような怪物を打ち払い、翌年の春には、ウサギたちが再び森の中を飛び跳ねていた。
彼は短い間ではあるが、もう1人の「騎士」と世界を旅したことがある。その騎士は、自分の鎧には女神の祝福があると信じていた。

「常に帰ってこられない可能性があるが、それでも決して引き下がらない。魂を捧げるとは、こういう意味だ」
「共に励もう、友よ」

彼は槍の斑点を見つめる。それは「純美」を守る証である。
彼は槍の斑点を拭く。それは「純美」の道に足を踏み入れる証である。


  • ストーリー詳細3

「純美」の運命に足を踏み入れてから、苦行の道を行く彼の前に、次第に様々な「試練」が現れるようになった——
それには祈願からくるものもあれば、懺悔からくるものもある。あるいは、三重の悪魔の形で密かに囁き、混乱させようとするものもあった。

彼が恐れることなく「槍」を使い、心に誇りを抱きながら三重の悪魔の誘惑を切り裂くと、弱さ、欲望、雑念のすべてが消えていく。
彼は魂と命を純美の星神の足下に捧げることを決めた。

三重の悪魔の囁きは形の異なる寝言のように、混沌とした霧の中で人間の様々な欲望に変化していく。
それは単なる利益追求であり、恥知らずな罪であり、権力の冠であり、魅惑的な言葉でもある。
それは戦いの頂点であり、食欲を満たすことであり、後悔を忘れることであり、単なる普通の感情でもある。

彼の血は栄誉と共に戦場に流れ、深紅の滴と長い髪が絡み合った。彼の槍はそこに置かれ、神はそれが永遠に鋭くあるようにと祝福している——
亡き師匠、そして同行者の声が夢の囁きとなって彼の耳に届く。彼の主が頭を下げない限り、その槍が折れることはない。

彼が血に浸かり、ほぼ意識を失いかけた時、ついにどこからともなく響く夢の囁きを聞いた。

「あなたは悪名を拒み、栄誉を宣揚した。あなたたちは『純美の騎士団』。
あなたたちは勝利するたびに自分を見つめるべきです。悪事を働こうとする自分の心を見つめるのです」

「おめでとう、あなたはまた『鏡の試練』を乗り越えました」


  • ストーリー詳細4

騎士団の「純美」の態度を保つ方法は様々だ。
ある者は一生涯かけて自らの信念を貫く。ある者は仮説を立て続け、絶望を繰り返して仮説を覆す。
ある者は勲章を授かり戦場で戦う。ある者は自らを時計台の隠居人と認め、「純美」の華やかなローブを受け入れることを恥じる。

変わらないのは、誰もが宇宙の中で苦心しながら「イドリラ」の真の姿を探し続けていることだ。
彼は謙虚、慈愛、公平を忘れないと誓い、これまでにその誓いを破ったことはない。彼は「純美」の掟を胸に刻み、ますます信仰に固執するようになっていた。
「変人…純美の騎士は本当に変人の集まりだ!」

「イドリラ」が逝去したかもしれないという噂が宇宙に広まってから、彼らの戸惑いは一層激しくなった。
これまで以上に信仰心を強めながらも、疑問は増えていった。これまで以上に笑顔を見せるようになりながらも、さらなる変人ぶりを見せるようになった。
太古を振り返ってみると、あらゆる「名誉」、「美名」、「悪名」は等しく長い年月の中で消えている。

最後に。

かつて共に旅をした「騎士」と彼が再会した時、相手はすでに力を求める道に迷い込んでいた。
伝説の武器を手に、天をも呑み込む巨獣を倒した英雄…その鎧は巨獣の鱗と化し、その武器は取り外せない爪や牙となり、その血は粘性のある炎となっている。その瞳は野性的で理性などなく、以前は「友」と彼を呼んでいた声も、今では掠れた咆哮にしか聞こえない。

試練の言葉は「終焉」の予言に変わり、目の前に迫っている。
自分も…同じように「悪兆」に堕ちてしまうのだろうか?


博識学会

Dr.レイシオ

Dr.レイシオ.webp

率直的で自意識が高い博識学会の学者。いつも奇妙な石膏の頭部像で顔を隠している。
幼い頃から人並み外れた才知を発揮しているが、今は「凡人」を自称している。
知恵と創造力は天才だけのものではないと信じており、「愚鈍」という名の病を治すため、全宇宙に知識を広めることに尽力している。

  • ストーリー詳細1

「真理の医者」を自称するベリタス・レイシオという人物については、彼の研究と同じように議論が絶えない。レイシオの故郷では、少なくとも彼の伝説的な逸話を描いたドキュメンタリーが8本、彼に関する回顧録が10部発表されており、彼に対する評論は多く存在するのだが、十分な説得力を持つ見解が示されたことはなかった。その穴を埋めるため、筆者は自らDr.レイシオの成長に影響を与えたというロンド教授を訪ねることにした。教授は高齢で言葉を発するのは難しかったが、筆者がDr.レイシオの名前を出した時は興奮を抑えられないようだった。筆者は教授の家族と学生の協力を得て、黄ばんではいるが非常に保存状態のいい推薦状を手に入れることができた。


第一真理大学採用委員会 御中
私は銀河自由大学数学科の名誉教授、ロンドと申します。才能と教育を重んじるという貴校の評判を聞き、レイシオという学生に貴校への進学を推薦したいと思っております。 レイシオは現在高校生ですが、数学、物理、さらには哲学に至るまで、その習得度は多くの一般大学の学位取得条件を遥かに凌駕しています。

私が指導していた時、彼は予想を遥かに上回るスピードで数式の方程式を解いてみせました。 私が受け持っていたクラスの大学生は、それらの概念を理解することすらできなかったというのに。 好奇心から、私は彼に「ロンドの予想」の手稿を渡しました。 この方程式の提起者である私ですら証明できなかったものです。 そして日夜討論を重ね彼は、見事かつ驚くべき発想で、一気に最後の論証まで終わらせました。 これに関する論文は近いうちに発表されるので、私の言葉は嘘ではないとわかっていただけるでしょう。

日々交流する中で、レイシオは非凡な感受性、好奇心、創造力を見せてくれました。 彼は毎朝早く起きてトレーニングをした後、知識の海に飛び込むことを日課としています。 もしかすると、レイシオは世間一般が想像する天才のイメージに誰よりも合っているかもしれません。 彼には激情があり、深みがあり、情熱があり…天性の資質があるのですから。

地元の学校では、これ以上レベルの高い課程は受けられないため、 貴校がレイシオを受け入れてくださることを切に願っております。 私は私の名誉を以って、彼ならこの時代の限界を超えるような成果を収め、銀河で名高い貴校にさらなる栄光をもたらすことができると保証しましょう。

ロンド
哲人暦■■年■■月■■日

——『知識は特権である:Dr.レイシオを解き明かす』p.9


  • ストーリー詳細2

8つ目の博士号を取得した後、Dr.レイシオは第一真理大学で2琥珀紀にわたり空席となっていた第一級名誉学位までもを取得した——何年経っても、これは大学の歴史の中で比類のない偉業であり、今後達成できる者は現れないだろう。この頃、Dr.レイシオはすでに社会の風雲児となっていたが、彼の周りにいた学友や師には違った見解があるようだ。筆者は以下の貴重な電子資料を入手することに成功した。


キャンパスハイライト:
1. 第一級名誉学位授与 ベリタス・レイシオ
閲覧数(2500)コメント(145)
詳細:
本校で2琥珀紀にわたり空席となっていた第一級名誉学位がベリタス・レイシオに授与される。これは生物学、医学、自然神学、哲学、数学、物理学、工学などの分野における彼の卓越した貢献が認められたためである。また、惑星エネルギー問題においても優れた功績を収めたため、ベリタス・レイシオには直接教授の資格を与えるものとする。

ヴェリッタ-数学系教授:
おめでとう、レイシオ!彼の努力と知恵はすべての栄誉に相応しい!彼が考え事に集中するために、被り物をして外界から自分を遮断していたことを覚えている。そんなことができる人間、この世に何人いるだろうか?私は短い間レイシオに勉学を教えていたことがあるが、実際には私が教えたことよりも、私がレイシオから得た学びのほうが多い。レイシオはその誠実さと率直さで第一真理大学に新たな息吹をもたらしてくれた。私たちは彼に感謝すべきだ!
グッド(1000+)バッド(2)
哲学系ならず者:
これで天才クラブに入れないのか?
グッド(850)バッド(5)
物理は優雅なり:
どっかの議員の息子が、レイシオが教授助手してた授業を受けてた時、レイシオに賄賂渡してテストパスさせてもらおうと思ったら、クソほど罵倒されて教室から放り出されたんだって。そう、本当に物理的に「放り出し」たんだ…まさに神みたいな男だよ……
グッド(550)バッド(112)
基金を買った養分:
あの人の授業受けたことあるけど全然わからんかった。最後まで頑張って0点だったンゴwwwマイナスじゃなくてよかったンゴ……
グッド(448)バッド(37)
天国の観光者:
あいつに泣かされた奴はグッドボタンを押せええ!
グッド(330)バッド(110)
猫には耐えられぬ:
お風呂入る時も被り物を取らないって聞いたんだけど
グッド(220)バッド(10)
ついて来い!:
こいつ別に大したことないだろ。俺だって頑張れば……
グッド(1)バッド(1000)
……
おすすめスレッド:
2. #ベリタス・レイシオが8つの博士号を取得
3. #ベリタス・レイシオ、大学の教科書に掲載される
4. #ベリタス・レイシオは狂人か?

統計によると、Dr.レイシオは合計で52の科目で教鞭を執っており、その教え方は厳しく、複雑で難しいことで知られ、単位を取得できた学生は全体の3%ほどしかいないらしい。しかし最後まで耐え抜いた学生は、そのほとんどが何らかの分野の専門家になっている。
……
——『知識は特権である:Dr.レイシオを解き明かす』p.82


  • ストーリー詳細3

世間はDr.レイシオが何も言っていなくても、彼は天才クラブに入りたがっているものだと考えていた。しかし、レイシオが世間から見たら驚くべき成果を挙げても、ヌースが反応することはなかった。この話は長い間、学術界隈でよく討論される謎となっている。筆者はDr.レイシオの学術補佐であるマルガリータ氏から貴重な証言を得ることができた。

「レイシオ先生が天才クラブのことを話題に出したことはありません。でも、1つだけ今でも覚えていることがあります…あれは私がレイシオ先生の学術補佐を担当していた時のこと。私の主な仕事は銀河各地から届く手紙を処理したり、彼と外部との間に立って仲介役をしたりすることでした」 

「その日、私はスターピースカンパニーからの手紙を受け取りました。たしか…レイシオ先生が長年研究していた対天体兵器の試射に成功した時だったかと。カンパニーの招待は私から見ても丁重なものでした。なので、興奮しながら先生に手紙を渡したのですが…先生は何も言ってくれなくて。それは石膏頭越しでもわかるほどの重い沈黙でした。そして、彼は礼儀正しく私に外に出るよう言いつけたんです。私が言われた通りに部屋の外に出てドアを閉めると、その瞬間、彼の重々しい溜め息と自嘲するような笑い声が聞こえてきました。これは推測ですが、先生は…もう自分は天才クラブには入れないと判断したのかもしれません……」 

「その後のことは、あなたも知っているでしょう。でも私からすれば、先生は本物の天才で…彼の創造は多くの世界を前進させました。医者として宇宙を癒やそうとする学者は、あのお高くとまった天才たちよりも価値がないというのでしょうか?……すみません、少し感情的になってしまいました。今の部分は削除してください。」 

Dr.レイシオの支持者の中には、マルガリータ氏のように悔しい思いをしている人が少なくない。そういった人々は、天才クラブがDr.レイシオのような人物を迎え入れなかったのは、一種の「天才」の奇行と偏執の表れだと考えているようだ。

——『知識は特権である:Dr.レイシオを解き明かす』p.150


  • ストーリー詳細4

多くの人はDr.レイシオが博識学会に入った後、学会の掲げる現実的で、平和で、素朴な学術環境に馴染むために、以前のような鋭さは抑えるものだと思っていた。しかし筆者としては、Dr.レイシオはやはりあのDr.レイシオだったと書かずにはいられない。以下は内部記録の原文を抜粋したものである。

 「
答弁者:ベリタス・レイシオ
テーマ:認識論理
委員会主席:ロッセーゼ
記録者:マリーヴェ
答弁記録:
ロッセーゼ:『レイシオ先生、ご説明ありがとうございました。あなたの論文は素晴らしいものでした。では皆さん、質問を始めてください』
会場は静まり返っている。
ロッセーゼ:『では…私から始めましょう』
ロッセーゼ:『先生の主要な観点には賛成なのですが、詳細の一部については、まだあまり理解できていません』
ベリタス・レイシオ:『誰かに賛同されるたびに、自分は間違いを犯したのだと思ってしまうな……』
ロッセーゼ:『私の質問は、なぜ先生は知識を特権だと考えているのか?ということです』
ベリタス・レイシオ:『ロッセーゼ教授、その質問をするということは、君が僕の論文をまったく理解していないだけでなく、僕が運用している導出方法についても理解できていないということを意味する』
ベリタス・レイシオ:『だが、君は簡単に答えるための例を提供してくれた。君が僕の考えを理解できないのは、知識が誰にでも享受できるものではないということを証明している』
ベリタス・レイシオ:『愚鈍は難病だ。ならば、それを根絶して宇宙を治療することが学者の責務だ』
ベリタス・レイシオは演壇に上がり、人々に向かって言い放った。『だから諸君、アホを見て見ぬふりするのはマナーではなく、道徳性に欠ける世間の習慣に過ぎない。知識を伝播するためには、まず人に自分はアホだとわからせる必要がある。もちろん、学会の学者も自身を平等に扱うべきだ』
ロッセーゼは肩をすくめて苦笑する。
……
ベリタス・レイシオは騒然とした空気の中で退場した。
答弁評価:情熱的な手が冷たい剣を握っている。これこそベリタス・レイシオに最も相応しい評価といえるだろう。ベリタス・レイシオは論理、情熱、そして批評芸術を結び付け、我々に無知に立ち向かう思想家の卓越した思考と行動を見せてくれた。レイシオ先生の加入は博識学会に莫大な利益をもたらしてくれるだろう。
答弁委員会の意見:全員一致で通過

博識学会の中には「凡人院」なる組織が存在するという噂がある。そして、その謎の組織には学会で最も優れた頭脳が集まっていると言われている。Dr.レイシオが「凡人」を自称することは、この噂を裏付けるようなものだった。彼と天才クラブの関係を考えると、この名前からは色々なことを想像してしまう。凡人は天才の対義語であり、多くの努力と対価を支払うことで、ようやく後者の後塵を拝することができる。Dr.レイシオは凡人を自称しているが、それは一種の委縮なのだろうか?それとも嘲笑、もしくは宣戦布告なのだろうか?いずれにしても、彼は知識を以って思想の病を治療することに固執している。それは「真理の医者」という称号に恥じないものである。
……

——『知識は特権である:Dr.レイシオを解き明かす』p.230


ガーデン・オブ・リコレクション

ブラックスワン

ブラックスワン.webp

「ガーデン・オブ・リコレクション」のメモキーパー。謎めいた雰囲気の優雅な占い師。
常に優しい微笑みを浮かべ、相手の言葉に辛抱強く耳を傾けることでその人の「記憶」に入り込み、全ての情報を把握する。
唯一無二の記憶を集めることに夢中になっているが、その真意は見通せない。

  • ストーリー詳細1

「あの子は不思議な子だったの。そのことはずっと早くから分かっていたわ。あの子が生まれた日は、ヒバリが鳴いていて、月の淡い影と朝日が一緒になっている空が見えたわ。手の中のカードには過去を懐かしむ魂がこの世にやってくると書かれていた。そして小さい頃から、過去の物語を知ることに一番興味があったわ。私たちは誰に作られどこから来たのか、この世界がどのように生まれたのか。あんな質問、どんなに博学な人でも答えるのは大変でしょうね。あの子は周りの子供たちによく笑われていたけど、とても重要な質問じゃないかしら?人生は入り組んだ迷宮で、私たちは記憶以外なにも持ってないのだから」
——ある母親の記憶

認知症を患った母は物忘れが多くなり、家族を見分けることができず、少し前に起きたことも思い出せなくなった。
彼女は診断書を手に、戸惑う母をしっかりと抱きしめながら、日記をもう一度読み聞かせようとした——母は確かにそこにいた、けれど、本当はどこにいたのだろうか。

彼女は母に、その最期まで付き添った。しかし母の記憶が支離滅裂になったあの日から、母自身の存在も曖昧となっていることに気付いていた。いつか彼女の記憶も支離滅裂なものになってしまったとき…母は、完全に彼女のもとからいなくなってしまうだろう。

「人生は入り組んだ迷宮で、私たちは記憶以外なにも持ってないのだから」この言葉の意味が、初めて分かった。


  • ストーリー詳細2

「探検家としてこの星にやってきて、ずっと川の流れる方向や街のレンガの材質、一番急な坂の傾き、煙突の数と分布なんかを調べていた…こういう仕事は星の「記憶」を保存したいという人々の想像と一致している。

——でも、それだけでは足りない。

僕が本格的に仕事を始めてから、あの女の子を頻繁に見かけるようになった。ある時は陽光が木の葉を掠めて彼女の姿を追いかけるも、最後は街灯に照らされた角を曲がると消えていった。またある時は、毎週水曜の夕方に大祭司の住む城を出る伝書鳩を追いかけ、翌日の夜明けに政敵と知られている衛兵長のところに戻ってくる。対岸から発射された大砲の傷跡が残る下水道に、雨水が滴るのをじっと観察していた時もある。時には川で洗濯をしていた老婦人が、前の権力者とその五人の隠し子たちについて一人語っている間に、水しぶきでスカートを濡らしていることもあった。

——星がこんな風に「記憶」を隠していることを知っている人は、僕たちを除いてほとんどいない。

僕は彼女を荒野の岩の前まで追いかけ、そろそろ声をかける時だと思った。

『何が見えたんだ?』彼女に見える姿になって聞いた。
彼女は雑草が生えている所を指さして、磨かれた跡が見えると言った。
『石が一個、前は暖炉の一部だったんだと思う…でもそれだけじゃないみたい』
僕はうなずいて、岩の隙間にある雑草と土を取り除くのを手伝った。
『記念碑でもあったのね』石に刻まれた文字を指でなぞりながら言った。
『そうだよ。でも「記憶」はこれだけじゃない』

そして彼女に見せてあげた。荒野の石はかつて暖炉であり、その前は記念碑であり、花壇であり、祭壇でもあった…そしてさらにもっと前には、やはり荒野の岩だったということを。

『こういう「記憶」を見るためには、どんな対価が必要なの?』
『あなたが姿を現わすまで、誰もあなたの存在を知らなかった』
『黒鳥を見るまで、白鳥は白しかいないと思われていたように?』
『そんな感じ』」

——ある探検家(メモキーパー)の記憶

メモキーパーは多くの星を行き来し、街に記憶されないために自分の痕跡は決して残さないよう、街のあちこちで記憶を掘り起こしている。そして、メモキーパーの資質を備えた人に出会うと街の記憶から連れ出して、より広い世界へと誘うのだ。


  • ストーリー詳細3

「多くの人は、過去の美しい思い出に浸って生きたいがためにメモキーパーを志す。けど残念なことに、そういう人たちは欲望に負けて焼却人となり、好き勝手に記憶を変えてしてしまう。でも彼女は違った…記憶そのものに対する敬意と、強い決意を感じたんだ。だからお決まりのように三つの質問をすると、彼女はこう答えた。

『記憶を集めることに自分の人生を費やしてもいいか?』
『はい』
『そのために自分の肉体を捨て、姿を変えることを受け入れられるか?』
『はい』
『もしある日、自分が存在しなくなったら、世界に何を残すか?』
『私の記憶です。そこには未来に生まれ変わる過去の種があります』

小さくて温かい記憶、果てしなく大きい記憶、ペットのように飼いならされた記憶、猛獣のようにコントロールできない記憶…彼女がメモキーパーになったその時、彼女の記憶は静かで穏やかになった。まるで荒れ狂う波が、自分の港を見つけたように」
——あるメモキーパーの記憶

「何を思いだしたのかしら?」メモキーパーが尋ねた。
彼女が目を開けると、記憶のかけらが舞い上がる。
「人々は現在から未来に向かっていると思い込んでいるけど、実際は過去に向かっていると誰も気が付いていない」


  • ストーリー詳細4

「場所:ピノコニー
時間:██年██月██日
お客様:██、██、██、██
『悲しい記憶、██より。この金色に輝く記憶は誇張と憧憬に満ちている。この先何年も悲しみを隠し、持ち主に影響を与え続ける運命にある』
『楽しい記憶、██より。この劇的な思い出は美しい色彩をまとい、喜び、混乱、滑稽をも含んでいる――しかし幸福とは言いがたく、その示す未来もまたしかり』
『残念な記憶、██より。つかの間の幸せな思い出は、死の炎から飛び出した流星のように美しく、瞬く間に消えた。うたかたの時を楽しむべきだ、楽しい時はすぐに過ぎ去るのだからと教えてくれた』
『ぼんやりとした記憶、██より。このおぼろげな記憶は混沌としていて、終わりの見えない冷たい雨のよう。私はその指し示す明日を知りたい。それが雨だろうと、晴れだろうと……』」
——ブラックスワンの記憶

「女の人の姿が見えた、映像と絵の間で、形を変えながら跳びはねてたんだ。いや…おかしくなったんじゃない。確かに『彼女』を見たんだ。あの声…ベルベットのような質感で、いかにも魔力が宿ってそうな手の中にあった色鮮やかなカード…ああ、そうだ、占ってみないかと誘われたんだ。『占うのが幸運、災難、なくした物、予期せぬ収穫、何であろうと…私に必要なのは真実の物語だけ』だと——『過去と未来は元々同じ円周上の、同じ点に重なっているのだから』と…頭はぼんやりしてたが、彼女は本当に優しくて、いろんなことを話してくれた。こっちのくだらない話にも辛抱強く耳を傾けてくれた…それから占いどおり、ホテルの宿泊客用の鏡を見つけたんだ!彼女に何を話したかって?——大したことじゃない。過去の噂についてさ……」
——あるピノコニーの住民の記憶

今では占い師として異なる世界を旅しながら、自身にまつわる運命や星神の記憶を探している。これらの記憶はダイヤモンドのように硬く、忘れられたとしても完全に消えることはないと信じている。

「たくさんのメモキーパーたちがピノコニーにやって来たけれど、何の収穫もなかったと言っていたわ。あれは水に浮かぶただの派手な夢だって」
「でも夢は…記憶が形を変えたものよ。メモスナッチャーや焼却人がまだ来ないうちに、何か残っていないか見に行くわ」


ピノコニー

ミーシャ

ミーシャ.webp

礼儀正しく聡明な「ホテル・レバリー」のドアボーイで、祖父のような銀河冒険家になることが夢。
働き者で、機械の修理が得意。ホテルの宿泊客から聞く星々のエピソードに夢中になっている。
早く大人になることを切望し、そしていつか星を巡る旅に出られる日が来ることを楽しみにしている。

  • ストーリー詳細1

時計が朝の6時を告げると、いつものように厨房からホットミルクとトーストの香りが、彼の小さな寝室に漂ってきた。

もうすぐお客さんが来る。彼は慌てて飛び起き、玄関に立った。彼が口を開く前に、数人の背の高い人物がホテルに入ってくると、機械油と革、そしてタバコのにおいが彼を襲った。

「い…いらっしゃいませ……」

遠路はるばるやって来た冒険家たちは、下っ端のドアボーイなど目もくれず、過去の武勇伝を大声で吹聴している。そしてそうした話はなぜか、いつも彼の心を惹きつけ、彼は時折振り返っては耳を傾けていた。

「巨大な光の束が天から降り注いで、緑の生い茂る星を貫いたんだ…俺はその時近くにいたが、飛行船が衝撃で吹っ飛ばされちまったよ。なんとか写真に収めたが、命懸けだったぜ……」
「それが何です。私なんかもっとすごいですよ。星の間を旅していた時、底なしの記憶域に落ちたことがありまして…見たこともない怪物だらけで、幽霊みたいなやつなんかもいて……」
「シケた話ばっかだな!お前らは、地表を覆い尽くすほどのスウォームを見たことがあるか?俺様は生きて帰ってきたが、星がまるごと滅んじまったのよ……」

本当かも分からない武勇伝をうらやましそうに聞きながら、彼はついに勇気を出して口を開いた。
「あの…すみません!銀河で冒険するために、何か勉強した方がいいことはありますか?」
会話が止まり、数人が一斉に彼を見た。
「どうした、チビ助。お前も銀河を冒険したいのか?」
「はい…冒険家になって、銀河中を旅したいんです。祖父のように」
「でっかい志だな、ハハハ!」
「おチビさんよ、冒険家になるってのは簡単じゃないぜ。武器の使い方から修理の仕方、方向感覚…勉強することは山ほどある」
「知ってます…祖父はいつも、何かが壊れたとか、コースを外れたとか…延々と愚痴を言ってますから。学べることがあるかも……」
「まったくお前さんたち、子供を怖がらせるのが好きじゃのう」
先頭の老人がせき払いをして、ミーシャの方を向いた。
「ゆっくり学べばいいんじゃ、ただしようく考えないといかんぞ。本当にその夢を叶えたいと思っておるのか?いつまでもその夢を持ち続ける覚悟はあるか?ミーシャよ、それが最も大事なことじゃ」


  • ストーリー詳細2

時計の針が昼の2時を指すと、彼は掃除と出迎えの仕事を同僚に任せる。そして自分は作業服に着替えて、機械を修理する仕事にかかるのだ。

ウェルダーは前を歩きながら、時々立ち止まっては複雑そうな機械を叩いている。ミーシャは小走りで彼の後ろをついて行き、機械から発せられる音を聞いて、問題のある箇所を正確に指摘した。

今日の仕事は、山積みになった壊れた時計の修理だ。さびたもの、廃棄されたもの、歯車が欠けているもの、壊れてしまったもの…それらがミーシャの目には方角を見失った船員たちに見えた。誰かが、正しい方向へ導いてあげなくては。

「壁掛け時計さんは、西へ向かってください。えっと…懐中時計の奥さん、そこで止まらないでください!」
「目覚まし時計さんは、まずご飯を食べてください。そちらにいる三人の時計さんは、懐中時計の旦那さんについて行ってくださいね」
突然、壊れた時計が全て動き始めた。ねじを回し、針を調整するミーシャの姿は、まるで時間の海を旅する船長のようだった。
「ミーシャ船長、方角はこっちでバッチリですね!」
「ついに霧から抜け出しました。この海を渡れば目的地です」
「航海を続けよう!大海原にも負けないぞ!」
ミーシャの目には、時計たちに命と意志が宿り、前に進める喜びを力いっぱい表しているように見えた。

ウェルダーは微笑みながらミーシャの頭をなでた。
「時間が狂う心配はなさそうだな。何があっても、君という船長がいる」


  • ストーリー詳細3

時計の針が夜の7時を指すと、彼は早めの夕食を済ませて、戸棚を改造した小さなベッドに横になる。
目の前の閉ざされた暗闇を眺めて、懐中時計が刻むカチカチという規則的な音を聞きながら、幸せな妄想に耽る——仕事も現実もなく、ただ自由な空想の世界へ。

霧を通り抜けると彼の空想物語は、最高に手に汗握る海戦のシーンに差し掛かる。両手を伸ばし、波でひっくり返った仲間を引っ張り起こした。そして彼は、まるで海の怪物をやっつけるかのように、画面に横線を引いた……

「船長、船長、起きてください、晴れましたよ!」
目をこすると、そこには信じられない光景があった。
手足が生え、制服と赤い蝶ネクタイを身に着けた懐中時計が彼を呼んでいるのだ。
銀色の鏡が彼の姿を映し、長いスカートをいじりながら望遠鏡で景色を見ていた。
昨夜の嵐は跡形もなく消え、爽やかな風が制服をなびかせる。遠くにはもう新大陸の影が見えていた。

「船長、見てください。海岸まではもう遠くありませんよ」
クロックボーイはミラーガールと手を取りながら、軽やかにジャンプする。ミーシャがまだうまく反応できないうちに、三人は雲に飛び乗った。下には果てしない大海原と三日月形の大陸が広がっているのが見える。クロックボーイとミラーガールは歓声を上げてミーシャの手を取り、楽しそうにタップダンスを踊った。彼は仲間たちの手をしっかりと握りながら、喜びと驚きに胸を躍らせた。

「アナタたち…アナタたちはボクの仲間なの?」
「そうですよ。私たちは道中いくつもの大きな困難を経験して、何度も道に迷いながら、ついに新大陸に到達したんです」
……

夜が明けると、彼は夢から覚めた。目の端から一滴の涙がこぼれ落ちる。
寝室を見渡すと、懐中時計が胸に押し当てられ、鏡が壁から落ちていた。
涙をぬぐった彼は、何も失っていないような、あるいは何もかも失ってしまったような、そんな感覚に陥った。


  • ストーリー詳細4

時計の針がまた朝の6時を指すと、いつものように厨房からホットミルクとトーストの香りが、彼の小さな寝室に漂ってきた。

彼はここの生活にすっかりなじみ、自分の夢を心の奥底へとしまい込んだ。宿泊客の語る物語にたやすく心動かされることも、祖父はすぐ帰ってくると期待することもなくなった。

「大人はみんなそういうものなのかもしれない。約束を守らないし、子供の話なんて真面目に聞いてもくれない」
宿泊客はミーシャに荷物を預けると、彼に目もくれずそそくさと立ち去った。その場には、独り言をつぶやく彼一人だけが残された。

彼は時計の部屋に戻り、いつものように時計をチェックする。世界にはいろいろなタイムゾーンがあり、それぞれの場所で流れている時間は都度違う。壁一面にかかった時計をぼんやりと眺めながら、そうした世界で起こっているであろう出来事を空想した。やがて彼は画用紙を広げ、自身と空想上の仲間たちの物語の続きを描きはじめる。

物語は、すでに終盤へと差し掛かっていた。

「みんな、さようなら!ボクは新大陸に残るよ。そしてここが完成したら、キミたちと一緒にまた新しい世界を目指す」
「ミーシャ船長、さようなら!きっとまた会えますよ」
仲間たちは行ってしまったが、ぴょんぴょん跳ねるクロックボーイと、優しいミラーガールは残ってくれた。彼はかつて仲間たちを率いて霧のなかを航海し、海を渡った。危険に遭遇するたび、羅針盤を調整して皆を正しい方角へと導いた。そしていま、ミーシャという子供は再び錨を上げるその時まで、新たな大陸に新たな国を築くのだ。

「続きを描くなら第二部は…とりあえず、新大陸での冒険記かな」
最後の部分を描き終えると同時に、聞き覚えのある音と振動が伝わってきた。それはまるで、宇宙から何かものすごく巨大な怪物がやって来て、ホテルの外に止まったかのようだった。

彼は筆を置き、ドアを開けて外へ飛び出した——

「こんにちは、いらっしゃいま……」

夜明けの光を浴びて輝く星穹列車は、やや疲れた様子で、しかし誇らしげに…そこで静かに佇んでいた
——まるで、「夢」の中にいるようだった。


ギャラガー

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ピノコニーのハウンド家の保安官であり、身なりを気にしない怠惰なバーテンダーでもある。
服装もドリンク作りも適当。来賓には礼儀正しく接しているが、常に強い警戒心を持っている。
何やら複雑な過去があるようだが、自分からそれについて言及することはない。

  • ストーリー詳細1

「タバコ、キャンディー、安物のシャンプー——彼からは典型的な中年独身男性の匂いがする。服はそこそこ清潔にしているが、いつもシワだらけでセンスがなく、面倒臭がって身なりを整えようとしない。友人は少なく、仕事終わりの楽しみは、美しい夢のスペシャルモクテルを飲むことだ。いつもの場所、いつもの味、いつもの接客…もう年十年も変わっていない。

そんな男がハウンド家のメンバーから慕われ、尊敬を集めているのは、恐らく彼の顔の傷跡に関係があるのだろう。事故などほとんどない美しい夢の中では、大きな傷跡は保安官にとって珍しい栄誉であり、経験と名声の象徴でもあるのだ。

彼は事件に直面するたび、まずキャンディーを口に放り込むと、それをよく噛んでから、しかめっ面で調査を始める。そして深夜の酒場で、手掛かりの指す方向性についてひたすら考えるのだ。しかし若い連中とは違い、彼はもう容疑者を捕まえたくらいで喜ぶことはない。美しい夢で堕落した犯罪者たちを見る彼の目にあるのは、達成感ではなく空虚と憂鬱だけだった。

彼の気持ちは理解できる。あのくらいの年齢になると、それまでの自分の人生に何の意味があるのか疑問に思い始めるのだ。この点は、昔の私とまったく変わらない」

——『手記・ハウンド家 保安長官』


  • ストーリー詳細2

「人と人との交流は常に何らかのきっかけを必要としており、美しい夢のさまざまな特製ドリンクは、化学反応の触媒のようなものだ。

私は周囲を見回して、すぐに万事を解決することに慣れている人物像を見つけた。

美しい夢の特製ドリンクの名を借り、彼はシロップとスラーダの歴史から語り始め、シェイクする時間と完成品の風味の関係性について触れた後、特製ドリンクの香りと人の性格の適合度、さらには材料の配合のコツを掴む秘訣について説明していく…周りの人たちの顔は暗く沈んでいる。彼は悲しみや喜びの話に耳を傾けつつ、交錯するグラスの間から、人々の心を冷ややかに見つめていた。

客が1人、また1人と店を去っていく中、彼は銀製のゴブレットを磨く手を止めないまま、ドアの外を眺める。来る日も来る日も、彼は二度と戻らぬ人を待ち続けているのだ——ひいては、その人が永遠の嘘によって長い運命を終わらせてくれることを。

すべての明かりが消えると、彼は1人、長い影を落として街を歩く——
もしかしたら、いずれは私も彼と同じ運命を辿ることになるのかもしれない」
——『手記・美しい夢のバーテンダー』


  • ストーリー詳細3

「美しい夢には喜びしかない、それこそが最大の悲しみなのだ。

この美しい夢の中にいる失意に沈んだ者たちは、ファミリーに追放されることを恐れ、まるで幽霊のように夢境の辺境へと赴く。そして自分の感情を必死に隠しながら、悲しくほろ苦い記憶を避ける。特製ドリンクを飲む瞬間だけ、彼らは痩せ我慢をやめるのだ。まるで生涯の残りの言葉をすべて吐き出すかのように——

『私を見下す奴はごまんといるが、対等に接してくれる人は…はあ、どんどん減ってるんだ……』
『みんな白昼夢を見てる。俺が君くらいの時は、星間アウトローになることを夢見たものさ。でも結果は明らかだ…ほら——白昼夢は砕け散った』
『ネクタイが乱れてたって自分には見えないだろ?ピノコニーでは誰も他人の服装なんか気にしない。それどころか、相手が「人間」かどうかすら気にしないんだ』
……

彼らの言葉は本心ではなく、舌足らずで意を尽くせていない。彼らは決して胸の内を明かしたりはしない——そうでなければ、物語は本物にならないのだ」
——『手記・夢の中で失意に沈む者』


  • ストーリー詳細4

「彼は経験豊富で、仕事中に何が起きても冷静でいられる保安官だ。栄光の時代は過ぎ去り、彼の手も柔らかくなり、野心と志も白昼夢の消滅と共に色褪せてしまった。仕事が終わると、彼は古いバーに行って長い夜を過ごし、自分と旧友のために自らモクテルを作る。グラス同士をぶつけた瞬間、言葉が泡のように湧き上がったが、すぐさま消えていく。

彼は自分の黄金時代を思い出しているのだ——その頃の彼は監禁されても自由を望んでいた。命を託した仲間と共に抑圧に抗い、自由な土地を夢に見る。いつ死んでもおかしくなかったが、数々の素晴らしい明日を手にしているかのようだった。しかし結局は多勢に無勢、自分の知る者たちが次々と亡くなり、理想は打ち砕かれ、不条理で埋め尽くされるようになったのである——

『それはあなたが経験したことですか?さすがに…冗談ですよね?』客が彼の静かな独り言を遮った。
『もちろん、本当のわけがないだろ?』彼は笑いながら、手元の作業を続ける。

——ギャラガーは俺にとって最も真実に近い嘘だ。時々、彼と自分の境界線さえわからなくなることがある」
——『手記・ギャラガー』


仮面の愚者

花火

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「仮面の愚者」の1人。つかみどころがなく、手段を選ばない人物。
危険な演劇のマスターで、役作りに夢中になっている。千の仮面を持ち、万の顔を演じることができる。
富、地位、権力…これらは花火にとって重要ではない。彼女を動かせるのは「愉しいこと」だけである。

  • ストーリー詳細1

彼女は孤児だった。生きてこそいたが、自分がどこにいて、どこから来て、そしてどこへ行くのかも分かっていなかった——あるとき通りがかった、とある劇団の公演を見るまでは。遠く舞台の上で、黒髪ツインテールの少女が、まるで魚のごとく縦横無尽に泳ぎ回っている。様々なお面を着けていたにもかかわらず、彼女が笑ったり、泣いたりするさまは十分に見て取れた。舞台はあんなに遠いのに、まるで目の前にいるかのようだった。魚は音もなく跳ね、また水に入り、さざ波を立てる。

彼女は段々と、自分のしていることが分かってきた。「自分」は「舞台の下」で「演技」を見ているのだと。

彼女は朝も晩も、足繫く舞台に通った。とはいえ一人の観客にすぎず、スポットライトが彼女に当たることもない。そうしてあるとき公演の後で舞台裏に行くと、黒髪の少女にお面を手渡されたのだった。
「私にできるかな?」
「もちろん。お面をつけてれば、どうせ観客は『花火』だって思うし、実際そうだから。さあ、行って」

第四の壁となる幕が開くも、照明はまだついていない。舞台を見下ろすと真っ暗で、お面で顔を隠していてもドキドキしてしまった。彼女は、舞台が観客で埋め尽くされていると分かっていた。観客たちからは彼女が見えるし、声も聞こえている。彼女は常に「花火」の演技を思い浮かべ、動作や声、姿などあらゆる面で彼女を模倣しようとした試みた。

「初めてにしては、とても上出来だったわ」
「でも、君の『花火』とは…やっぱり違うよ」
「そうだとしても、誰かに知られなければ問題ないわ…それに劇団は明日ここを発つの。だからもしあなたが望むなら、ここではあなたが花火よ。あなたが思い描く通りの、ね」
黒髪の少女は、まだ何か言いたげな彼女の頭をなでた。
「あなた以外に、舞台を見に来てくれる人なんてそんなにいないわ。小さな劇団だし、銀河で有名になろうとも思ってない…偶然あなたみたいな子に出会えて、『花火』っていう役を覚えてもらえただけで、十分うれしいわ…このお面をあげるから泣かないで。これはあなたのものよ」
彼女はうなずいた。
「いい?お面をつければ、あなたは誰でもないし、誰にでもなれるの…本当に役者になりたいなら、こんな小さな舞台じゃなく、もっと大きな場所に行きなさいな」


  • ストーリー詳細2

人形族の末裔である彼女には選択の権利もなく、どんなお面を受け取ろうとも、それに従って生きるしかなかった。人形族は「お面」の媒体でしかないのだ。

言い伝えでは、人形族はお面と長く一体になるほど、魂を獲得して「人」に近づいてゆくとされている。しかし一方で、人間のあいだでお面は死者を生き返らせる道具だとされ——ゆえに、彼女たち人形族は数を減らしていた。

だが、人間になることに興味のなかった彼女にとって、型にはまった人形でいることも悪くはない考えだった。お面の言う通りにすれば、迫害の運命からは逃れられなくなってしまうが、それでもお面の意志には逆らうほうが困難だった。

まずは動作。
「お面」の意志に従い、うれしい時は甘やかに微笑み、泣きたい時は手で顔を覆い、怒っている時は歯を食いしばり、嫉妬している時はにらみつけ、絶望した時は叫ぶ。また特徴的な動作もあり、例えば相手に好意を示す時は少し眉を上げて顔の左側を見せる。愛を表現する時は胸に手を当てるが、本当の気持ちを表すためには、その手をおろして下唇を軽く噛まなければならない。

それから声。
「お面」の意志に従い、楽しい時は高い声で、感情を表現する時は柔らかく囁き、説明する時は淡々と、憎しみがある時は歯ぎしりしながら、悲しい時は涙を流すことを欠かさずに。

奇跡的に、彼女は何年もこんな生活をしながらも周囲の環境に完全に溶け込み、劇作家にまでなった。お面をつけていることは誰にも気付かれていない。しかし世の中には、「お面」をつけた人々がもう一種類いると思わずにはいられなかった。彼らは大笑いしながら復讐に燃え、涙を浮かべながら微笑み、無言で激怒する…あるいは限りなく穏やかな口調で意地悪なことを言うのだ。

「お面」の意志でそこまでの演技はできなかったものの、劇作家として、役者にそうした演技をさせることは簡単だった。

ある日の早朝にドアの呼び鈴が鳴ったが、そこにいたのはいつもの配達員ではなかった。
「花火さん、いま少しよろしいですか?」
「私共はあなたの新作を拝見したのですが…もしや、『お面』について何かご存知なのではないかと……」


  • ストーリー詳細3

顔のない少女は、自分が呪われているに違いないと思うようになった。そうでなければ、なぜ刺激を何ひとつ感じられないのか?痛覚、味覚、嗅覚…全て正常にもかかわらず反応できなくなり、それは喜怒哀楽といった感情さえ同様だった。彼女はそれを補うため、様々なシナリオを用意し、他人がどう感じているのかを観察することで懸命に調べた。

「…ものすごく苦いお茶を飲んでいるとき、どう感じる?どういうふうに飲む?」
椅子に縛り付けられて身動きできないまま、左側の浮浪者の男性は称賛するようにうなずき、真ん中の女の子は泣きそうな顔で頭を振り、右側の年配の女性は嫌悪感からか鼻にしわを寄せている。

「とっても寒い小屋の中にいて、手元にこのお茶しかなかったら?」
男性は相変わらず。女の子はひとしきり泣きわめいてから受け入れ、女性はやはり拒絶している。

設定を変えながら昼も夜も質問を投げかけ、被験者が意識を失うまで続けた。彼らを家に送り届けると、また新たな被験者を探した。

その間、町の住民たち全員が同じ悪夢を見ていた。ある場所に閉じ込められ、顔のよく見えない少女に質問をされる夢。拒否する権利はなく、彼女が理解するまで繰り返し答えるしかなかった。少女はそれを全て、詳らかに紙のお面へ一枚、また一枚と書き込んでいく。

この悪夢は程なくして、別の悪夢に取って代わられた。夜中に紙のお面が空を舞い、互いに交わるとかすかに光り、瞬く間に消える。まるで夜空に浮かぶ花火のようだった。まるで町の陰に潜み暮らしているかのように、それは毎晩現れた。

暗い地下室にいた少女は、この悪夢に気付いていなかった。人の感情の機微、さまざな物事に対する考え方——資料は十分に集まり、それらを用いてさらに紙の仮面をたくさん作った。自分に感情はなくとも、作ったお面には血が通っており、いつか本物の生命になると信じていた。


  • ストーリー詳細4

特に人が喜ぶ身の上話って、いくつか種類があるの」愚者の「パブ」で、花火は潔く認めた。「好きなことと、信じることは別だけど…みんな、自分の好きな物語を本当だと信じたがる」

「嘘つけって?やめてよ。こういうことを言うのはね、別になにかをでっちあげたいからじゃないよ…花火はね、自分のために、一生懸命想像力を働かせてるの。刺激をもらうために色んな人生を想像して、それを全力で演じて、見せて、作り直して…想像力の風船が、破裂する寸前で止める」

「本当のことを言うとね、脚本だけじゃ足りないんだ。まず自分が演じる役が本当に存在するって信じなきゃいけないし、その役が他の物語にも登場することを想像しないと。表現の動機を論理的かつ感情のあるものにするために、いつだって多すぎるくらい情報を増やしていかないと」

「そうやって初めて、他の誰にも影響されない、その役の本質を掴めると思うんだよね。結局は他の愚者に会うかもだけど、お互い正体がわかんなければ何がしたいのかも分からない。キャラクターの見た目だけが好きって人もいるし、ちょっと遊んでみたいってだけの人もいる——花火もそういう時があるから」

「もちろん、演技を取引の手段にしたいだけの人もいれば、別人になって認められたいだけって人もいるよ。それでびっくりするようなお金や地位、権力が手に入ることもあるからね…とにかく花火が言いたいのは、道を踏み外さないまま他の物語の役になりきれる人なんて、花火以外にいないってこと!だから想像して、演じ続ける、そうしなきゃダメなんだ」

「別に否定してるわけじゃないって…本当に病みつきになるんだから。想像すればするほど登場人物に夢中になって、彼らのために作った美しい物語や悲惨な境遇、そういう状況で彼らに芽生えるかもしれない感情の、虜になっていくんだよ……」

「もちろん、違う人生を考えたこともあるよ。劇団で役者になって、名もない星で公演をして、自分と同じ名前の役を作って…でもある日ね、突然わかっちゃったんだ!」

「演じるなら、自分の人生に勝る舞台はないって」


巡海レンジャー

黄泉

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「巡海レンジャー」を自称する旅人、本名は不明。長い刀を携え、1人で銀河を旅している。

淡白で寡黙。その刃は紫電のように鋭いが、戦う時は常に鞘を使い、刀を抜くことはない。

  • ストーリー詳細1

「…人が刀を選ぶのではない、刀が人を選ぶのだ。████████████████████████…あの日、私の手で鍛えた『刀』が少女の手に渡るのを見て気がついた。███████に対抗する道のりにおいて、彼女は一見明日へと続いている████████道を選んだ——あるいは、彼女のほうが選ばれたのかもしれない。今が良き時代██████████████████。今なお出雲国が脅威に晒されているとしても、人々は変わらず希望を抱いている。いずれ██はことごとく斬り捨てられ、再び自由の世が訪れるという希望を…███████████████████████████████████████████……」

——古びた残編


  • ストーリー詳細2

「…刀鍛冶が残した古い残編からは、かつて出雲が滅亡の危機に瀕していたことが窺える。国の存続のため、彼らは████を使って刀を打ち、その刀を持つ者を救国の英雄として崇めた。

残念ながら、その世界はすでに星図から消えてしまっている。歴史の真実はどこを探しても見つからず、『記憶』さえも存在しない。武装考古学派が現地に到着した時、星系には「神秘」の歌が流れるばかりであった。『終わりなき雨は████より涙のように湧き出る。朧げな雨の帳に隠れ、出雲国の生き残りは███████████消し去った故郷に背を向けた……』」

——「執筆者」オーバーンハイム


  • ストーリー詳細3

「製剤『アウェイク-310』を使用した。これを飲むと、人は極めて深い眠りに落ち、記憶を追体験することができる。患者の中には、この薬で█████████████を取り戻した者もいるが、彼女は違った。彼女以前に、自力で目を覚ました者はいない。私は彼女の夢を観察したが…それは幸せな記憶とは言い難いものだった。どんよりとした空、破壊された街、荒れ果てた土地と廃墟、そして降りしきる霧雨。

その雨は永遠に降り止まないように思えた。潮は満ち、人々は溺れながら微笑んでいる…深い闇夜の中で、彼方から雷鳴が近づいてくるのがわかる。ある瞬間、稲妻が走り闇夜を切り裂いた。砕け散った空の下で、私は再び彼女を見る——色褪せ無に帰した世界の中で、彼女はそっと刀を抜くと、夢の世界を丸ごと持ち去った。

認めなければならない。この道において、彼女は我々よりもずっと深いところを歩いているのだと。捉えどころのない████が彼女を██へと向かわせる。しかし、彼女は無意識のうちにそれを手中に収めていた。彼女は旅を始めた時から、真の敵に立ち向かう覚悟ができていたのかもしれない……」

——ある薬剤師の手記


  • ストーリー詳細4

「この手紙をここに残しておこう。もし戻って来られなかったら、手紙に彼女の物語を語ってもらえばいい。彼女は██████で出会った仲間だ。理想の世界を目指す道のりはすごく険しい。私が無事でいられたのは、彼女が一緒にいてくれたおかげと言っても過言じゃない……

…私たちが出会う前から、彼女は数々の世界を旅してきたらしく、生活の知恵や技術は十分に身に付いていた。野外で一緒に料理をしたり、テントを張ったり、明日何をするか話し合ったりしたこともあれば、星の見えない夜、彼女が私の話に静かに耳を傾けてくれたこともある。でも、私たちはただ黙々と歩いていることのほうが多かった。この辺りで降る雪は赤紫色をしていて、口に含むとラズベリーのような甘酸っぱい味がする。彼女は█████████████████私の作った███████雪団子を褒めてくれた……

…彼女と知り合う前、私は長い間ずっと█████川の中を歩いていた。そして彼女が手を差し伸べてくれたから、私たちは一緒にその川を進むことにした。別れの時が来た今も、まだ岸には辿り着いていないし、この先で何が待ち受けているのかもわからない…でも、ここで立ち止まる理由はない。命はいつか行き止まる道にすぎない。その時が来るまでは、自分の足で終点へ向かう。きっと彼女も同じだと…私は信じている」

——ある探検家が残した手紙


開拓クエスト「ベルベットの中の悪魔」クリア後

  • ストーリー詳細1

「…人が刀を選ぶのではない、刀が人を選ぶのだ。人が運命を選ぶのではなく、運命が人を選ぶように⋯あの日、私の手で鍛えた『刀』が少女の手に渡るのを見て気がついた。『八百万の神』に対抗する道のりにおいて、彼女は一見明日へと続いているかのように見える道を選んだ——あるいは、彼女のほうが選ばれたのかもしれない。今が良き時代であったなら、どんなによかったことか。今なお出雲国が脅威に晒されているとしても、人々は変わらず希望を抱いている。いずれ悪神はことごとく斬り捨てられ、再び自由の世が訪れるという希望を⋯そして刀の輝きが消え失せた時、ようやく気づくのだ。これは終わりなき破滅の道であり、そこに足を踏み入れた者は、二度と後戻りはできないのだと……」

——古びた残編


  • ストーリー詳細2

「…刀鍛冶が残した古い残編からは、かつて出雲が滅亡の危機に瀕していたことが窺える。国の存続のため、彼らは『神骸』を使って刀を打ち、その刀を持つ者を救国の英雄として崇めた。学会は『八百万の神』という言葉に関心を寄せている。それと国の命運との関連性は今のところ不明だが、後半の記述によると、出雲の人々の刀の持ち主に対する呼称は、次第に『人』から『鬼』へと変わっていったという。

残念ながら、その世界はすでに星図から消えてしまっている。歴史の真実はどこを探しても見つからず、『記憶』さえも存在しない。武装考古学派が現地に到着した時、星系には「神秘」の歌が流れるばかりであった。『終わりなき雨は黒き太陽より涙のように湧き出る。朧げな雨の帳に隠れ、出雲国の生き残りは彼女に救われ、その手で消し去った故郷に背を向けた…彼女の前途には、見えない影が広がるばかりだ』」

——「執筆者」オーバーンハイム


  • ストーリー詳細3

「製剤『アウェイク-310』を使用した。これを飲むと、人は極めて深い眠りに落ち、記憶を追体験することができる。患者の中には、この薬で重苦しい生活に向き合う自信を取り戻した者もいるが、彼女は違った。彼女以前に、自力で目を覚ました者はいない。私は彼女の夢を観察したが⋯それは幸せな記憶とは言い難いものだった。どんよりとした空、破壊された街、荒れ果てた土地と廃墟、そして降りしきる霧雨。

その雨は永遠に降り止まないように思えた。潮は満ち、人々は溺れながら微笑んでいる⋯深い闇夜の中で、彼方から雷鳴が近づいてくるのがわかる。ある瞬間、稲妻が走り闇夜を切り裂いた。砕け散った空の下で、私は再び彼女を見る——色褪せ無に帰した世界の中で、彼女はそっと刀を抜くと、夢の世界を丸ごと持ち去った。

認めなければならない。この道において、彼女は我々よりもずっと深いところを歩いているのだと。捉えどころのない『虚無』が彼女を自滅へと向かわせる。しかし、彼女は無意識のうちにそれを手中に収めていた。彼女は旅を始めた時から、真の敵に立ち向かう覚悟ができていたのかもしれない……一度、『このすべてに何の意味があるのか?』と聞いたことがある。だが彼女は答えなかった。どう答えればいいかわからなかったのだろうか?それとも…彼女の中ではとっくに答えが出ていたのだろうか?

——ある混沌医師の手記


  • ストーリー詳細4

「この手紙をここに残しておこう。もし戻って来られなかったら、手紙に彼女の物語を語ってもらえばいい。彼女はエオルケロンで出会った仲間だ。理想の世界を目指す道のりはすごく険しい。私が無事でいられたのは、彼女が一緒にいてくれたおかげと言っても過言じゃない。初めて会った時、彼女は何か使命のようなものを背負っているような気がした。それは「復讐」?きっと違う。深い憎しみを抱いているなら、ふとした瞬間にそれが露わになってしまうものだ。でも彼女は常に穏やかだった。時々、悲しげな表情を見せることを覗*いて……

…私たちが出会う前から、彼女は数々の世界を旅してきたらしく、生活の知恵や技術は十分に身に付いていた。野外で一緒に料理をしたり、テントを張ったり、明日何をするか話し合ったりしたこともあれば、星の見えない夜、彼女が私の話に静かに耳を傾けてくれたこともある。でも、私たちはただ黙々と歩いていることのほうが多かった。この辺りで降る雪は赤紫色をしていて、口に含むとラズベリーのような甘酸っぱい味がする。彼女は味覚が鈍くなっていたけど、それでも私の作ったエオルケロンの雪団子を褒めてくれた……

…彼女と知り合う前、私は長い間ずっと『虚無』の川の中を歩いていた。そして彼女が手を差し伸べてくれたから、私たちは一緒にその川を進むことにした。別れの時が来た今も、まだ岸には辿り着いていないし、この先で何が待ち受けているのかもわからない⋯でも、ここで立ち止まる理由はない。命はいつか行き止まる道にすぎない。その時が来るまでは、自分の足で終点へ向かう。きっと彼女も同じだと…私は信じている」

——「フリバス」が残した手紙


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