ストーリーブック/ウルの最後末裔

Last-modified: 2023-04-09 (日) 18:41:39

ウルの最後末裔

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アントンの過去を描いたストーリー。

ストーリー

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彼らが暮らしていた世界は魔界と比べものにならないほど大きく、広かった。
 
そこはウルと呼ばれる種族が支配していて、
見た目はそれぞれ違ったが全員強靭な力を持っていた。
 
人間の弱い皮膚なら触れた瞬間溶けてしまう毒と鉄も溶かすことができるほどの
熱い環境に彼らは適応し、生き残ったのだ。
 
常に食糧が足りず、目に見えるものは手当り次第に飲み込んだ。
生存こそ最高の勝利である世界であった。
 
一方、彼らと同じ時代を生きる種族がいた。
彼らは小さかったが弱くはなかった。
知恵があり、様々な生存方法を編み出した。
 
彼らはウルに立ち向かって戦う技を覚えたが、結局敗れた。
彼らは敗北を受け入れ、ウルたちを神として崇めながら生きた。
彼らはタルタンと名乗った。ウルとタルタン。
二つの種族の奇妙な共存はこの時から始まった。
 
ウルはタルタンを黙認し、タルタンはウルに獲物を捧げた。
ウルの体は小さな獲物を探すには効率が悪かった。
それに巨体を維持するために大量のエネルギーを必要とした。
ウルは次第にタルタンに頼るようになった。
 
ウルは巨体と大量のエネルギーを吸収する能力に長け、
タルタンは環境に適応しやすい体を持ち、精神感応能力に長けていた。
 
タルタンの弱い肉体は次第にウルのように強靭な体となり、
特殊な精神連結網を利用し、効率的な狩りを行った。
そしてとうとうウルと種族を超えた精神接触にまで成功した。
 
だが、ある日、世界が突如止まってしまった。
ウルの過剰なエネルギー吸収によって…。
 
タルタンはかつてからこの事態を防ごうとしていたが彼らにできることは何もなかった。
すでにタルタンはウルの一部となり、ウルの食欲もまたタルタンの本能になっていた…。
ただ見ているしかなかったのだ。
 
滅びゆく世界でアントンは最も幼いウルであった。
彼の体はまだ幼く、軽かったため 4本の足を動かして移動することができた。
 
年を取るにつれ、体が次第に硬く、重くなり、
最後には山となる高齢のウルに比べると動きも機敏で、体も柔らかった。
そしてタルタンもまたそれを知っていた。
 
存亡の岐路で星の動きを観察していたタルタンはお告げを受け、
動く時が来たことを悟った。彼らは全員アントンの体に乗り移った。
 
長年崇めてきた神々を捨てるのは気が進むことではなかった。
だが、仕方ない。
ここでは生存こそ最高の勝利…。
 
そしてアントンはタルタンの期待を裏切らなかった。
ウルすら生きられないほどの熱い溶岩地帯をアントンは移動し続け、生き残った。
 
最後に移動した大地が崩れ落ち、かけらとなって散らばり始めた時、
突然光が差し込み、優しい声が聞こえてきた。
 
「あなたたちのために来ました。」
 
世界が完全に崩壊する寸前、アントンはタルタンと共に
声の聞こえた先へと乗り移った。
彼らの足が新しい大地に触れた瞬間、
ウルとタルタンが共存していた世界は跡形もなく消えた。
 
まるでアントンが新しい大地に移るのを待っていたかのように。
 
タルタンが受けたお告げ通り、アントンは選ばれし者であった。