ストーリーブック/カルテルに迫る

Last-modified: 2023-04-17 (月) 13:18:53

カルテルに迫る

カルテルに迫る.png

チャプター1

本.png
「カルテル」という無法者の集団は初期と現在の姿がまるで別もののように異なる。
初期の彼らは今のような組織的集団ではなく、
喧嘩好きのチンピラたちの集まりに過ぎなかった。
 
血の騒ぎを抑えきれずに、酒に酔って銃を撃ちまくるどうしようもない連中であった。
 
カルテルという名前が彼らを称する名前として認識されたのはつい10年前のことである。
しかし、兆しはそれよりずっと前に現れていた。
 
20年前、「エドンの兄弟団」を率いていた
エンゾ=シフォと砂風のベルクトという二人の若者がいた。
彼らは当時無法地帯で敏腕ガンナーとして名を馳せていた。
また、平和を尊重する者たちだったため、住民たちにも支持されていた。
 
もちろん、敵に慈悲はなかった。
紳士的ながらもどこか冷酷な彼らの姿は非常に魅力的に見えたことだろう。
 
だが、個人の魅力だけで今のカルテルが作られたとは考えにくい。
無法者という連中は何かに縛られるのを嫌う。
様々な規則が存在する軍隊には似合わない連中である。
 
…あれほど徹底的な個人主義者たちをどうやって束ね規模を大きくしただろう…。
なぜ軍隊のような組織にしたのだろうか…。
 
彼らを知るためにはまずウェスピース、
通称無法地帯の者のコンプレックスと憤りについて考えてみよう。
 
無法地帯は荒れ地で、昔から罪人が強制移住させられた場所。
厳しい政策によって彼らの子孫もそこから出ることを許されず、
100年前までこの制度は維持されていた。
 
時が流れ、差別政策は廃止され、居住移転の自由が与えられたが
無法地帯出身の者が正常な社会に溶け込むのは今もなお難しい。
彼らは脱落者という烙印を押され、社会は彼らを拒む。
 
無法地帯に生まれ、入隊して皇都に渡った
ジェクト・エルロックス准将が注目を集めた理由もそのためである。
最高司祭ベルドラン様の無法地帯出身起用政策の代表的な成功事例となった彼は
あるインタビューでこう語った。
 
「(中略)…海を渡り、こちらに来た人は何人もいた。
だが、訛りやアクセントが違うことで出身がバレ差別を受ける…。
再び海を渡って無法地帯に帰ってくる。居残っても惨めな暮らしを強いられる。
だからみな外の世界に出ようとしない。」
 
こんな状況が長年繰り返され、
無法地帯の住民たちは「正常な社会」に属したいという気持ちと、
自分たちを拒む社会を否定する気持ちを同時に持つようになった。
だが、多くの政治的な理由による彼らに対する擁護政策はまだ始まったばかりである。
 
無法地帯の者たちは挫折し、酒と暴力で怒りを発散した。
しばらく意味のない破壊を続け、やけくそになっていた彼らの心に疑問が浮かび上がった。
 
「なぜ私たちだけがこんな目に遭わなければならないのか?」という当然の不満が…、
今の我々にとっては嬉しくない疑問が…。

チャプター2

本.png
次は視点をエドンの兄弟団に移してみよう。
20年前まで無法地帯にはカルテルと呼べる組織、
すなわち無法者集団カルテルは存在しなかった。
 
ただ、多くの小さな勢力が名誉をかけ、争っていた。
彼らを一つに束ねる者がまだいなかったのである。
 
だが、浮かび上がった小さな疑問が次第に大きくなり、ついに無法者たちを動かした。
暴力漬けの生活を変えようとする者、天下を取ろうとする者、単なる喧嘩好きまで…。
 
それぞれ目的は違ったがみな立ち上がった。それこそ暴風の時代であった。
 
より激しい戦いが至るところで繰り広げられた。
戦う力のない住民たちは差別を受けることを覚悟し、海を渡った。
しかし、その数は多くはなかった。
 
老若男女の隔てなく、彼らの遺伝子に植え込まれた憤怒は凄まじいもので、
その爆発のエネルギーをお互いにぶちまけた。
エドンの兄弟団は激しい生存競争に負けた弱小集団を
吸収しながら組織の規模を拡大していった。
エルロックス准将は当時のことをこう振り返る。
 
「聞こえのいい大義名分を掲げた他の集団とは違い、
エドンの兄弟団は「ロマン」という変わったスローガンを掲げた。
非常に利発な作戦であった。
 
ウェスピース軍は反逆を起こす恐れがある他の組織に監視の目を向けた。
ロマン等という「くだらない遊び」に付き合う暇などなかったのだ。
 
性分に合わない大義名分に飽きていた無法者たちは
自分たちの本来の姿に最も近いエドンの兄弟団を逃げ場とした。
また、激しい争いの中で勝ち抜く自信のない組織は彼らと同盟を結ぶことを望んだ。
 
勢力は次第に大きくなり、他の組織が彼らを脅威に感じた時には時すでに遅し。
 
リーダーのシフォは用兵術に長けていた。
自らナンバー2を名乗るベルクトは独断的なところはあったものの、
強烈なカリスマ性で支持を集めた。このツートップ体制は長く続いた。
 
最初はシフォもベルクトと同じくロマンを追い求めていたようだ。
だが、勢力が大きくなるにつれ、彼は次第に変わっていき、
当時有名な傭兵団であった 「ランジェルスの犬」を吸収した。
それからシフォは国全体を支配したいという野望に駆られるようになった。
 
ランジェルスの犬のリーダー、ランジェルスはシフォの右腕となり、
生粋のロマン主義者であったベルクトは勢力の再編成に伴い、除外された。
シフォは友を裏切った。
 
そんな状況でもベルクトはシフォを陰ながら支え続け、
エドンの兄弟団を本来の姿に戻すために力を尽くした。
しかし、それを果すことができず、遂にはエドンの兄弟団を脱退した。

チャプター3

本.png
読む側を混乱させないためにこれまでカルテルという単語を使わなかった。
知っての通り、カルテルというのは本来複数組織の統合を意味する。
 
複数の組織と手を組んだエドンの兄弟団は
シフォを首長とする無法者集団カルテルであり、
他にも無法者たちのカルテルは存在した。
しかし、ベルクトの脱退を起点とし、組織は急激に大きくなり、
エドンの兄弟団はついに無法地帯唯一無二のカルテルとなった。
 
皮肉なことにシフォと共にエドンの兄弟団を創設した
ベルクトの脱退がカルテル誕生のきっかけになったとも言える。
 
カルテルが誕生して10年が経った。
単なる無法者集団に過ぎなかったカルテルは
軍隊のような組織となり、素晴らしい軍事力を誇るようになった。
 
もちろんセブン・シャーズを中心とする皇都の技術と長年の歴史を誇る軍には劣るが
実戦を重ねるたびに発展を遂げる彼らの執念は凄まじいものであった。
 
知識人の間では彼らを警戒すべきだという懸念の声も出てはいる。
だが、それはまだごく少数の意見であり、
資源の不足により自滅するだろうという楽観的な意見が多数を占めている。
 
無法地帯の劣悪な状況を考えると彼らの言い分も間違っているとは言い切れない。
その上、巨大化したカルテルの乱暴な振る舞いはすでに多くの住民の反発を買っている。
我々は無法地帯の「自浄能力」を信じ、それに期待してもよいものだろうか?
 
セブン・シャーズの一員で天界最高の科学者であり、
ガラハ砂漠を研究するため頻繁に無法地帯を訪問しているジゼル・ローガン博士は
筆者の質問に確信を込めて答えた。
 
「ウェスピースでカルテルが大きな影響力を持っているのは事実だ。
だが、現地の住民の話を聞く限り、内部分裂の兆しも見えているようだ。
まあ、物資が不足している彼らの状況では当然のことかもしれん。
 
組織生活の基本は自らの自由を制限する規則に従うこと。
だが、ルールを無視する無法者たちがそういった状況下で
長く耐えることはできないだろう。
生まれつきそういう者たちなのだからな。」
 
しかし、執筆する前から何度もインタビューに応じてくれた
エルロックス准将の考えは異なる。
 
「厳しい環境で勝利を収めたカルテルには強力な原動力が秘められている。
一つは天界に対する不満、
もう一つはカルテルに属すことによって奪われた自由への不満。
 
そしてシフォはその不満の解決策をよく知っている。
ウェスピースを完全に支配したら…その後は銃口を外に向けるだろう。」
 
大なり小なり被害は出るだろう。
万全の備えと迅速な対応が肝心になるかもしれない。
 
無法地帯でまったく反乱が起きなかったわけではない。
だが、彼らの多くは慢性的な資源不足問題を解決することができず軍によって倒れた。
 
カルテルに対して楽観的な意見を述べる者も
時間がすべてを解決してくれるとは思っていないだろう。
だが、筆者をはじめ、悲観的な意見を持つ者には
カルテルの成長ぶりは凄まじいものであった。
 
考えすぎだと思われるかもしれないが備えあれば憂いなしという言葉もあるように、
予め対応を考えておいた方がよいのではないだろうか…。
今日の一針が明日の十針になるかもしれない。
我々のできることが何か考えて動く時が来たのだ。