プリーストの道
ニルバス=グラシアの帰りを待つグランディス=グラシアと、ニルバスの同期グロットの会話。
ニルバスが戻らない理由や彼の心中はエピッククエストで語られた通り…と言いたいところだが、
時間の扉ダンジョンから黒き聖戦が削除されてしまい、彼にまつわるエピソードはほぼ謎に…。
文章中に「意志」と「意思」が混在しているのは原文ママ。
ストーリー
- プリースト教団の拠点はヘンドンマイアのレミディア・バシリカである。
教団の中心的な組織が時刻の首都にあるということが
公国の民たちにとって辛い日々を耐えられる力になってくれた。
レミディア・バシリカの若いプリースト、グランディス=グラシアは
真っ直ぐで変わらぬ信仰で訪ねてくる人々を迎えた。
たった一人の兄、ニルバス=グラシアのことを心配していたからである。
両親と離れ、寂しがる妹を慰め、勉強も手伝ってくれた。
偽装者の見分け方を教えてくれたのも兄だった。
ニルバスは実に素晴らしい師だった。
ニルバスはグランディスを教団に残し、偽装者を倒すための旅に出て、連絡が途絶えた。
グランディスは兄は必ず生きていると信じていた。
しかし、それは行方不明になった兄を諦められない妹の漠然とした想いとは違うものだった。
直接お告げを授かったわけではなかったものの、
祈るたびに諦めるなという声が聞こえてきた。
修行を理由に人の少ない静かな田舎に移る他のプリーストとは違い、
様々な人々が集まる賑やかなヘンドンマイアに残ったのも
ニルバスに関する情報を集めるためであった。 - グロット
- グランディス様、お久しぶりです。
- グランディスに巨体のプリーストが近づいてきた。
重甲で身をまとった彼はニルバスの同期、グロットという男だった。
ニルバスより先に修行の旅に出ていたが、
時々戻ってきては教団を助け、また旅に出たりしていた。 - グランディス
- グロット様、お久しぶりです。いつお戻りになられたんですか?
- グロットはグランディスとしばらく話をした。
ヘンドンマイアの外の話は他のプリーストたちから聞いてはいたものの、
ほとんどは旅の最中に経験した悲しい話ばかりだった。
だが、グロットはいつも明るくて希望に満ちた話をしてくれた。
お互い力を合わせて転移の傷を乗り越えようと頑張っている人々、
海から聞こえてくる力強い船の汽笛の音。
まるで荒地に生えてくる新芽のような話ばかりだった。 - グロット
- 私の話はこれくらいで…。
グランディス様は最近どうですか?慣れない場所で…大変では…。
ニルバスの奴、一体どこにいるんでしょう。 - グランディス
- 平気です!兄はどこかで神のご意志を貫いているのでしょう。
プリーストの道を歩む兄の苦労に比べると…私は…。 - グランディスは笑顔で答えたが
明るく振舞うその裏に緊張と焦りが隠れているのにグロットは気づいていた。 - グロット
- 神のご意志…ですか。
お言葉ですが、この世の中に神のご意志より分かりにくいものはないでしょう。 - グランディス
- はい…?
- グロット
- 計り知れない知恵をお持ちになっている神のご意思が、
我々には理解できないのは当然のことですが。
まあ、あの方をさぞかしもどかしがっていることでしょう。
「口まで運んだのに飲み込めないのか」と。
一日中大主教のお使いでいろんなところを飛び回り、
疲れて部屋に戻りベッドに身を沈めた時
「なるほど…そういうことだったのか」と後から気づくのと同じです。
しかし、様々な経験をすることでより多くのことを学ぶことができる、と
そうなさっているのでしょう。
「これが神様からの私への試練なのか。」と思っていることでしょう。
これもまた神様のご意志なのです。 - 真面目な顔で話すグロットを見てグランディスはクスッと笑ってしまった。
しかし、グロットは表情一つ変えなかった。 - グロット
- 例えが少し変でしたか…。
神様のご意志は我々には理解できないもの…。
ですが、グランディス様。
何もかも「神様のご意志」だと決めつけないでください。
それが「神様のご意志」だと決められるのは神様しかいないのです。
自分が人間であることを常に意識していなければなりません。
神様の示してくださった道を最後まで歩むのも人間…
逆方向に進むのも人間なのです。
神になろうとしてはいけません。
ニルバスのことを恨んでいるなら、恨んでいると言うのです。
あいつがプリーストの道を歩むために精進しているのは事実ですが、
自分の意志で帰ってこないのもまた事実ですから。
それでこそ恨み、悲しむ人々を理解し、正しい道へ導くことができるのです。
それを忘れないでください。 - 最初は戸惑っていたグランディスだったが、
グロットの話すことの意味を理解し、微笑んだ。
感情を押さえつけるばかりではいつか必ず爆発する…。
その前に少し緩めた方がいいと言っているのだ。
プリーストにとっても慣れない環境に適応するのは容易なことではない。
人を正しい道に導かなければならないプリーストだからこそ、より孤独で苦しいのだ。 - グランディス
- ありがとうございます。
少し息抜きしながらプリーストの道についてゆっくり考えてみます。
兄とは違う…私にしかできない道を見つけ人々を救います。 - グロット
- 素晴らしい。まあ、ニルバスのことはあまり心配しなくてもいいでしょう。
奴が姿を現さなければ私が必ず見つけ出し、連れてきますから。 - グランディス
- その時は私もこれまで心配した分、殴ってやります。
そのくらいで気が済みそうにもありませんけど。 - にっこりと笑うグランディスを見て、グロットは凛とした忍耐強いこの少女が
自分の伝えたかったことを理解していると分かり、彼もまた笑顔になった。
巨大な十字架を軽々と振り回すこの少女にやられる友のことが心配でたまらなくなった。