ストーリーブック/偉大なる冒険者カラカス

Last-modified: 2023-04-05 (水) 14:46:43

偉大なる冒険者カラカス

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ため息のカラカスの過去の冒険譚。
「2人」「二人」等が混在しているのは原文ママ。

チャプター1

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昔々、平和でのどかなある村でカラカスという小さな男の子が生まれました。
男の子はお母さんのスカートのポケットにすっぽり収まるほど小さかったのです。
 
ある日、お母さんはカラカスをスカートのポケットに入れたまま畑に来ました。
その日、畑にはたくさんのモグラが群がっていました。
お母さんとお兄さん、お姉さんたちは一生懸命モグラを退治しました。
…カラカスが穴に落ちたのも気づかず…。
 
穴に落ちたカラカスは外に出ようともがきましたが、
もがけばもがくほど深いところに落ちていきました。
 
地下に落ちたカラカスの前に老いた巨大なモグラが現れました。
モグラはいいました。
 
モグラ
「坊や、どうしてここにいるんだい?」
 
カラカス
「お母さんのポケットから落ちたの。外に出たいけど上まで登れなくて…。」
 
モグラ
「わしが上まで連れて行ってやろうか。
でも…君は出られるが、わしは捕まって殺されてしまうだろう。」
 
カラカス
「殺さないでって僕がお願いするよ。」
 
モグラ
「よかろう。では、わしの背中に乗りたまえ。」
 
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カラカスを乗せたモグラは約束と違い、もっと深い地下に潜り始めました。
 
カラカス
「止まってよ!どうして地下に潜るの?
これ以上深くなると僕は息ができなくなっちゃうよ。」
 
モグラ
「君の家族がわしを畑から追い出したんだ。だから君を食べて元気をつけて、
もっと住みやすいところに移らなければいけない。」
 
カラカス
「分かったよ…。でも僕はゴブリンの肉を食べているから臭くてまずいよ。
僕を食べたらあなたも臭くなって深い地下に潜ってもすぐバレてしまう。」
 
モグラ
「じゃぁ、どうすればいいんだい?」
 
カラカス
「牛乳を飲むと臭みが消えるらしいよ。
だからそれから、僕を食べて。」
 
モグラ
「なるほど。で、牛乳はどこにあるんだい?」
 
カラカス
「丘を越えて野原に行けば乳牛が草を食べているはずだよ。
そこに行けば牛乳が飲める。」
 
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老いたモグラはカラカスが嘘をついているのではないかと疑いました。
しかし、人間の子供が牛乳を飲むことは知っていたので、
モグラはしばらく悩んだ末、カラカスを乳牛のところに連れていくことにしました。
 
野原までは長い道のりでした。地上の道を行けばさほど時間はかからなかったでしょうが、
太陽に弱いモグラは地下から行くしかなかったのです。カラカスを背中に乗せて。
 
モグラは疲れ果て、倒れそうになりました。でも、カラカスは逃げませんでした。
地下ではモグラの方が速く、すぐ捕まってしまうと分かっていましたから…。
 
カラカスはむしろモグラのひげをしっかりと掴んで、速く走るように促しました。
うとうとしながらも遅いと文句を言うカラカスをモグラは疑わなくなりました。
 
野原に着いた時には老いたモグラは疲れ果て、気を失いそうでした。
しかし、赤ちゃんの柔らかい肉を食べるために力を振り絞り、乳牛がいるところまで行きました。
 
モグラが掘った穴からぴょんと飛び出したカラカスは乳牛の大きな尻尾にしがみつきました。
乳牛はびっくりして暴れ始めました。モグラには乳牛を避ける力は残ってはいなかったのです。
 
モグラは乳牛のひづめに蹴られ、遠くへ飛ばされ、ハチの巣の上に落ちました。
巣が壊され、凶暴化したハチたちがモグラを襲いました。
 
意地の悪いモグラはハチに刺され、幼いカラカスは心配していた
お母さんの元へ無事に帰ることができました。

チャプター2

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カラカスはすくすくと成長し、イタズラ好きの少年になりました。
常に駆け回り、イタズラをして、ポケットの中は自作のオモチャで溢れ返っていました。
 
ある日、カラカスは兄に頼まれました。
「カラカス、僕の凧が西の方に飛んで行ってしまったんだ。探してくれないか?」
 
カラカスの足が速かったので兄は頼んだのです。
カラカスは兄の凧を探すことにしました。
 
家の西に小さな湖がありました。
喉が渇き、水を飲もうとしゃがみこんだ時、湖の水面に赤いものが映っていました。
見上げると兄の凧がヒラヒラと飛んでいました。
 
空に舞い上がっていた凧は森へと飛んでいきました。カラカスは突然怖くなりました。
森の魔法使いが幼い子供をさらうという噂を思い出したからです。
でも、勇気を振り絞って森に入りました。
 
魔法使いの森は古木がうっそうとしているところでした。
どれほど歩いたのでしょうか?カラカスの目の前に魔法使いの家が現れました。
それは灰色の屋根の小屋でした。
 
扉を開けよう思いましたが扉も窓も見当たりませんでした。
その小屋には硬い壁しかなかったのです。中に人がいるかも分かりませんでした。
その時、突然大きな声がしました。雷のような大きな声が…。
 
「坊や、どうしてここにいるんだい?さっさと帰った方が身のためだぞ。」
 
「お兄ちゃんの凧を探しに来ました。こっちに飛んできたと思うけど見ていませんか?
 
「あれは私が拾った凧。だから、私のものだ。帰れ。」
 
カラカスは腹が立ちました。魔法使いの態度は泥棒も同然でした。
カラカスは魔法使いの家に入ると覚悟を決めました。
 
魔法使いの家の前には小さなキノコが生えていました。
家の周りを調べていたカラカスが間違ってそのキノコを踏むと、
何もなかった壁に扉が現れました。
カラカスは驚きましたが勇気を振り絞り、家の中へと入りました。
 
扉の奥は長いトンネルで、壁には魔法のたいまつが燃えていました。
それに息ができないほど臭かったのです。
 
しばらく歩くと大きな部屋が現れました。部屋のテーブルの上に兄の凧が置かれていました。
そして怒り心頭の魔法使いが椅子に腰をかけていました。
 
「勝手に私の家に入るとは!お前の姿を変えるに変えてしまうぞ!」
 
「ごめんなさい。でも、その凧は僕の兄のものです。返してくれたらここから出ます。」
 
ですが魔法使いは凧をカラカスに返す気などさらさらなかったのです。
むしろカラカスに魔法をかけ、一生奴隷としてこき使おうと企んでいました。
カラカスはここでも機知を発揮しました。
 
「分かりました。凧を諦めます。あなたに仕えます。ですが、一つ条件があります。
とても美味しいケーキを作ってください。」
 
「それくらい朝飯前さ。」魔法使いは杖を握り、美味しそうなケーキを作りました。
とても大きくて、様々なフルーツとお菓子で飾られたケーキでした。
少し味見をしたカラカスは首を横に振りました。
 
「美味しくない…。僕は美味しいケーキが食べたいんです。
あなたに美味しいケーキは作れないんですか?」
 
魔法使いは怒りました。自分の魔法の実力を証明するため、しばらくケーキを作り続けました。
部屋はケーキで溢れ返り、カラカスはこっそり兄の凧を隠しましたが、
ケーキ作りに夢中の魔法使いはそれに気づきませんでした。
 
ケーキをたくさん作った魔法使いは、勝ち誇ったような笑顔で言いました。
「どうだい、坊や?美味しくないとは言わせないぞ。」
 
カラカスはケーキを一口食べました。それは舌が溶けそうな甘いチョコレートケーキで、
ほろ苦いワインが入っていて、イチゴで飾ってあり、
焼きバナナを乗せた美味しくて大きなケーキでした。
 
「このケーキは貴族のパーティーで出されるケーキですね。」
 
魔法使いはまた怒りました。
自分の作ったケーキは王様が食べるレベルではないと言われたからです。
魔法使いはまたケーキを作り始めました。
部屋はもういっぱいで、通路までケーキで溢れ返りました。
 
「どうだい?もう文句はないだろう?
 
「さっきより美味しいです。王は喜ぶかもしれませんが、
皇帝はこの程度のものは口にしないでしょう。」
 
魔法使いは怒り狂い顔が真っ赤になりました。そして杖を振りまくりました。
杖から出てくるケーキはどれも本当に美しいものでした。
 
英雄の姿をかたどったケーキ、溶かしたチョコレートで流れる川を表現したケーキまでありました。
カラカスも内心舌を巻きましたが、魔法使いをそそのかし続け、
もっと大きなケーキを作るようにしむけました。
 
魔法使いとカラカスは次第に出口の方へと押し出されていきました。
ケーキがあまりにも多かったからです。
けれどもケーキ作りに夢中の魔法使いはカラカスのたくらみに気づくことはできませんでした。
 
大量のケーキを作り、疲れ切った魔法使いがカラカスに言いました。
「どうだい?これなら皇帝も文句は言わないだろう?」
 
カラカスはうなずきました。
「素晴らしいです。皇帝も喜ぶ美味しいケーキですね。だからあなたも食べてみてください。」
 
カラカスは魔法使いをケーキの方へと力強く押しました。
疲れ果てた魔法使いはそのままケーキで溢れ返った通路に倒れ、魔法の杖を落としてしまいました。
 
カラカスはその杖を拾うと、ケーキを崩しました。
通路いっぱいのケーキは魔法使いの上に崩れ落ちました。
魔法使いは抜け出そうとしましたが、クリームのせいで滑って起き上がることができませんでした。
 
「助けて!助けて!息ができないんだよ!このままだと死んでしまう!」
魔法使いが悲鳴を上げると扉の外に出たカラカスが言いました。
 
「そこから出る方法を教えるから二度と僕を苦しめないで!」
 
「分かった…。どうすればこのケーキの山から出られる?」
 
カラカスは扉の外に生えているキノコを踏みました。扉がゆっくり閉まり始めました。
扉が完全に閉まる寸前に、大きな声で言いました。
 
「ケーキをすべて食べればいいんじゃないですか?そうすれば助かりますよ。」
 
魔法使いは礼を言い、二度と苦しめないと約束しました。そして扉は完全に閉まりました。
無事に出られたカラカスは魔法の杖と兄の凧を手にして言いました。
 
カラカスは魔法使いが二度と悪いことをできないようにその杖を壊しました。
そして家に帰り兄に凧を返しました。
以降、村の子供たちの凧が突然消えることはなくなりました。

チャプター3

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青年に成長したカラカスは本格的に冒険家になるために旅に出ました。
父が使っていた古びた剣を持って足の向くまま旅を続けました。
 
山を越え、川を渡り、カラカスが着いたところはとても寒いところでした。
吹雪を巻き起こす邪悪なドラゴンがいるという噂を聞いて訪れたのです。
 
しかし、ドラゴンは眠りに落ちた後で、カラカスはがっかりしました。
話してみたかったからです。だからといって、
眠っているドラゴンを起こし、人々を危険にさらすわけにはいきません。
 
「仕方ない。また今度にするか。明日他の所に行こう。」
 
そう決めたカラカスは一晩止まる場所を探しましたが、
村どころか、人の影すらありませんでした。
かばんの中に入っていて干し肉と固くなったパンで空腹を満たすことは
できましたが、凍りつきそうな場所での野宿は無理でした。
 
寒さに耐えながら泊まる場所を探していたカラカスは山の奥に明かりを見つけました。
日も暮れ暗くなってきたので急いで明かりの方へと向かいました。
 
カラカスは心優しい老夫婦の山小屋を期待しましたが、着いたところは山賊の巣窟でした。
あまりの寒さに深く帽子をかぶっていたカラカスは彼らの話し声が聞こえず、
気づいた時にはもう山賊に囚われていました。
 
山賊たちは15人くらいで、寒い地方の者ではありませんでした。
帝国の山賊掃討作戦から逃れ、この小屋を見つけて身を隠していたのです。
カラカスは運が悪いとため息をつきました。
 
カラカスは縛られ、小屋の裏にある古い倉庫に閉じ込められました。
もちろん、かばんと剣は取り上げられて…。
 
倉庫の中には毛皮を身にまとった2人の少年がいました。
山賊と戦ったのか体は傷だらけでした。
少年たちはカラカスを見て、二人でこそこそと話しました。
共用語ではなかったため、何を話しているのか分かりませんでした。
 
「おい、僕はここから出る。協力してくれないか?」
 
見かねたカラカスがそう言うと少年たちは静かに彼を見つめました。
共用語が通じると分かったカラカスは少し安心しました。
 
「ここにずっといたら凍死するか、飢え死するかのどちらかだぞ。
もしくは腹を空かせた山賊たちが僕たちを食べてしまうかもしれない。
どうだい?僕と一緒にここからでないか?」
 
やがて賢そうな少年が口を開きました。
「どうやってここから出る?僕たちは体を縛られ、身動きが取れない状態なのに。
声を上げても我が部族のところまで届かないし。」
 
「君たちの部族…?きっと君たちを探しているはずだよ。とにかくここから出よう。
いいことを思いついたから協力してくれ。」
 
「分かった…。僕たちはよそ者を信用しないけど今回だけは信じてみよう。」
賢い少年の言葉に体の大きな少年もうなずきました。
 
カラカスはさっそく体をひねって縛っていたローブを解きました。
冒険に出る前に身につけておいた技で、カラカスは2人の少年のロープも解きました。
自由になった少年たちは山賊に復讐すると怒り出しました。
 
カラカスは彼らを説得し、作戦を説明しました。
少年たちはカラカスの作戦を聞き、その通りにすることにしました。
 
カラカスのかばんの中に入っていた食料で空腹を満たした山賊たちは
深い眠りについていました。真っ暗で静かに雪が降る真夜中、
突然小屋の外から変な鳴き声が聞こえてきました。
 
山賊たちはびっくりして小屋から飛びましました。
鳴き声は倉庫の中からでした。
 
しかし、それは人間のものではなかったのです。
狼の鳴き声でもありませんでした。巨大な怪物が出す恐ろしい鳴き声でした。
山賊たちは恐怖のあまり震え上がりました。
 
山賊の一人が勇気を振り絞って扉を開けようとした瞬間、
カラカスの差し迫った叫びが聞こえてきました。
 
「助けて!怪物が現れた!冷竜に呪われ、怪物と化している!
このままでは僕は食べられてしまう!早く扉を開けて!」
 
しかし、山賊たちは扉を開けませんでした。
怪物にやられるかもしれないと思ったからです。
鳴き声は次第に大きくなり、山に響き渡るほどになりました。
 
山賊たちは全員耳を塞ぎました。次第にカラカスの声も聞こえなくなり、
ついに何も聞こえなくなりました。
 
「どうした…?食われちまったのか…?」
「怪物は?怪物も死んだのか…?」
「奴と怪物が戦ってどちらも死んだんだろう…。」
山賊たちはそう結論づけました。
 
「燃やそう。」
「何言ってるんだ。怪物の爪は高値で売れるぞ。
それさえあれば山賊を続ける必要もないし。」
 
山賊たちは慎重に倉庫の扉を開きました。すると目の前に稲妻が落ちました。
それは山全体を照らすほど明るい光でした。
 
しかし、それは稲妻ではなく、カラカスが召喚した魔法の光でした。
月も星もない夜でしたので突然の強い光を目にした山賊たちは
目を開けることができなくなりました。
 
山賊たちが目を覆って倒れると、二人の少年は声をあげながら彼らに飛びかかりました、
山賊たちは怪物に襲われると勘違いして慌てて逃げだしました。
 
倉庫の中に怪物など最初からいませんでした。
二人の少年が狼の鳴き声を出し、それをカラカスが魔法を使って大きくしたのです。
それが雪の降る山に響き渡り、さらに恐ろしく聞こえたのでした。
 
目を開けられない山賊たちが逃げ出すと、カラカスは小屋へ行き、
自分の荷物を取り戻しました。少年たちも奪われた武器を取り戻しました。
山賊たちが戻ってくる前に逃げようとした時、足音が聞こえました。
一人二人のものではありませんでした。
 
「大変だ。ここは僕に任せて君たちは逃げろ。」
カラカスは剣を強く握りしめました。剣術に自信があり、魔法も使えましたが、
二人の少年を守りながら15人を相手に戦うのは簡単なことではありませんでした。
 
しかし、少年たちはカラカスより幼いですが腕の立つ戦士で、
一緒に戦うと言ってくれました。カラカスは心強い仲間ができた気がしました。
 
立ち向かう覚悟を決めて外に出た3人は驚きました。
戻ってきたのが山賊だけではなかったからです。
 
巨体の少年がはしゃいで大きな声を上げました。
「族長だ!僕たちを探していたんだ!」
少年たちを探していた北の部族が山賊と戦っていたのです。
 
部族の者たちはみな巨体で勇敢でした。
彼らは山賊を全員追い払い、少年たちのところに来ました。
よそ者のカラカスを見て警戒しましたが、事情を聞いて笑顔で手を差し出しました。
 
「お礼申し上げます。この二人は私の弟と友人の弟です。
狼狩りに行ってから連絡が途絶え探していたところでした。
こんなところにいるとは夢にも思いませんでした。
あの大きな鳴き声が聞こえなかったら…。」
 
カラカスが魔法を使って大きくした鳴き声を聞いて駆けつけたのでした。
彼らはカラカスを村に招きました。
カラカスはしばらくその村に泊まり体を休め、
みなに祝福されながら再び冒険の旅に出たのでした。