偉大なる冒険者カラカス
ため息のカラカスの過去の冒険譚。
「2人」「二人」等が混在しているのは原文ママ。
チャプター1
- 昔々、平和でのどかなある村でカラカスという小さな男の子が生まれました。
男の子はお母さんのスカートのポケットにすっぽり収まるほど小さかったのです。
その日、畑にはたくさんのモグラが群がっていました。
お母さんとお兄さん、お姉さんたちは一生懸命モグラを退治しました。
…カラカスが穴に落ちたのも気づかず…。
もがけばもがくほど深いところに落ちていきました。
モグラはいいました。 - モグラ
- 「坊や、どうしてここにいるんだい?」
- カラカス
- 「お母さんのポケットから落ちたの。外に出たいけど上まで登れなくて…。」
- モグラ
- 「わしが上まで連れて行ってやろうか。
でも…君は出られるが、わしは捕まって殺されてしまうだろう。」 - カラカス
- 「殺さないでって僕がお願いするよ。」
- モグラ
- 「よかろう。では、わしの背中に乗りたまえ。」
- カラカスを乗せたモグラは約束と違い、もっと深い地下に潜り始めました。
- カラカス
- 「止まってよ!どうして地下に潜るの?
これ以上深くなると僕は息ができなくなっちゃうよ。」 - モグラ
- 「君の家族がわしを畑から追い出したんだ。だから君を食べて元気をつけて、
もっと住みやすいところに移らなければいけない。」 - カラカス
- 「分かったよ…。でも僕はゴブリンの肉を食べているから臭くてまずいよ。
僕を食べたらあなたも臭くなって深い地下に潜ってもすぐバレてしまう。」 - モグラ
- 「じゃぁ、どうすればいいんだい?」
- カラカス
- 「牛乳を飲むと臭みが消えるらしいよ。
だからそれから、僕を食べて。」 - モグラ
- 「なるほど。で、牛乳はどこにあるんだい?」
- カラカス
- 「丘を越えて野原に行けば乳牛が草を食べているはずだよ。
そこに行けば牛乳が飲める。」 - 老いたモグラはカラカスが嘘をついているのではないかと疑いました。
しかし、人間の子供が牛乳を飲むことは知っていたので、
モグラはしばらく悩んだ末、カラカスを乳牛のところに連れていくことにしました。
太陽に弱いモグラは地下から行くしかなかったのです。カラカスを背中に乗せて。
地下ではモグラの方が速く、すぐ捕まってしまうと分かっていましたから…。
うとうとしながらも遅いと文句を言うカラカスをモグラは疑わなくなりました。
しかし、赤ちゃんの柔らかい肉を食べるために力を振り絞り、乳牛がいるところまで行きました。
乳牛はびっくりして暴れ始めました。モグラには乳牛を避ける力は残ってはいなかったのです。
巣が壊され、凶暴化したハチたちがモグラを襲いました。
お母さんの元へ無事に帰ることができました。
チャプター2
- カラカスはすくすくと成長し、イタズラ好きの少年になりました。
常に駆け回り、イタズラをして、ポケットの中は自作のオモチャで溢れ返っていました。
「カラカス、僕の凧が西の方に飛んで行ってしまったんだ。探してくれないか?」
カラカスは兄の凧を探すことにしました。
喉が渇き、水を飲もうとしゃがみこんだ時、湖の水面に赤いものが映っていました。
見上げると兄の凧がヒラヒラと飛んでいました。
森の魔法使いが幼い子供をさらうという噂を思い出したからです。
でも、勇気を振り絞って森に入りました。
どれほど歩いたのでしょうか?カラカスの目の前に魔法使いの家が現れました。
それは灰色の屋根の小屋でした。
その小屋には硬い壁しかなかったのです。中に人がいるかも分かりませんでした。
その時、突然大きな声がしました。雷のような大きな声が…。
カラカスは魔法使いの家に入ると覚悟を決めました。
家の周りを調べていたカラカスが間違ってそのキノコを踏むと、
何もなかった壁に扉が現れました。
カラカスは驚きましたが勇気を振り絞り、家の中へと入りました。
それに息ができないほど臭かったのです。
そして怒り心頭の魔法使いが椅子に腰をかけていました。
むしろカラカスに魔法をかけ、一生奴隷としてこき使おうと企んでいました。
カラカスはここでも機知を発揮しました。
とても美味しいケーキを作ってください。」
とても大きくて、様々なフルーツとお菓子で飾られたケーキでした。
少し味見をしたカラカスは首を横に振りました。
あなたに美味しいケーキは作れないんですか?」
部屋はケーキで溢れ返り、カラカスはこっそり兄の凧を隠しましたが、
ケーキ作りに夢中の魔法使いはそれに気づきませんでした。
「どうだい、坊や?美味しくないとは言わせないぞ。」
ほろ苦いワインが入っていて、イチゴで飾ってあり、
焼きバナナを乗せた美味しくて大きなケーキでした。
自分の作ったケーキは王様が食べるレベルではないと言われたからです。
魔法使いはまたケーキを作り始めました。
部屋はもういっぱいで、通路までケーキで溢れ返りました。
皇帝はこの程度のものは口にしないでしょう。」
杖から出てくるケーキはどれも本当に美しいものでした。
カラカスも内心舌を巻きましたが、魔法使いをそそのかし続け、
もっと大きなケーキを作るようにしむけました。
ケーキがあまりにも多かったからです。
けれどもケーキ作りに夢中の魔法使いはカラカスのたくらみに気づくことはできませんでした。
「どうだい?これなら皇帝も文句は言わないだろう?」
「素晴らしいです。皇帝も喜ぶ美味しいケーキですね。だからあなたも食べてみてください。」
疲れ果てた魔法使いはそのままケーキで溢れ返った通路に倒れ、魔法の杖を落としてしまいました。
通路いっぱいのケーキは魔法使いの上に崩れ落ちました。
魔法使いは抜け出そうとしましたが、クリームのせいで滑って起き上がることができませんでした。
魔法使いが悲鳴を上げると扉の外に出たカラカスが言いました。
扉が完全に閉まる寸前に、大きな声で言いました。
無事に出られたカラカスは魔法の杖と兄の凧を手にして言いました。
そして家に帰り兄に凧を返しました。
以降、村の子供たちの凧が突然消えることはなくなりました。
チャプター3
- 青年に成長したカラカスは本格的に冒険家になるために旅に出ました。
父が使っていた古びた剣を持って足の向くまま旅を続けました。
吹雪を巻き起こす邪悪なドラゴンがいるという噂を聞いて訪れたのです。
話してみたかったからです。だからといって、
眠っているドラゴンを起こし、人々を危険にさらすわけにはいきません。
村どころか、人の影すらありませんでした。
かばんの中に入っていて干し肉と固くなったパンで空腹を満たすことは
できましたが、凍りつきそうな場所での野宿は無理でした。
日も暮れ暗くなってきたので急いで明かりの方へと向かいました。
あまりの寒さに深く帽子をかぶっていたカラカスは彼らの話し声が聞こえず、
気づいた時にはもう山賊に囚われていました。
帝国の山賊掃討作戦から逃れ、この小屋を見つけて身を隠していたのです。
カラカスは運が悪いとため息をつきました。
もちろん、かばんと剣は取り上げられて…。
山賊と戦ったのか体は傷だらけでした。
少年たちはカラカスを見て、二人でこそこそと話しました。
共用語ではなかったため、何を話しているのか分かりませんでした。
共用語が通じると分かったカラカスは少し安心しました。
もしくは腹を空かせた山賊たちが僕たちを食べてしまうかもしれない。
どうだい?僕と一緒にここからでないか?」
「どうやってここから出る?僕たちは体を縛られ、身動きが取れない状態なのに。
声を上げても我が部族のところまで届かないし。」
いいことを思いついたから協力してくれ。」
賢い少年の言葉に体の大きな少年もうなずきました。
冒険に出る前に身につけておいた技で、カラカスは2人の少年のロープも解きました。
自由になった少年たちは山賊に復讐すると怒り出しました。
少年たちはカラカスの作戦を聞き、その通りにすることにしました。
深い眠りについていました。真っ暗で静かに雪が降る真夜中、
突然小屋の外から変な鳴き声が聞こえてきました。
鳴き声は倉庫の中からでした。
狼の鳴き声でもありませんでした。巨大な怪物が出す恐ろしい鳴き声でした。
山賊たちは恐怖のあまり震え上がりました。
カラカスの差し迫った叫びが聞こえてきました。
このままでは僕は食べられてしまう!早く扉を開けて!」
怪物にやられるかもしれないと思ったからです。
鳴き声は次第に大きくなり、山に響き渡るほどになりました。
ついに何も聞こえなくなりました。
「怪物は?怪物も死んだのか…?」
「奴と怪物が戦ってどちらも死んだんだろう…。」
山賊たちはそう結論づけました。
「何言ってるんだ。怪物の爪は高値で売れるぞ。
それさえあれば山賊を続ける必要もないし。」
それは山全体を照らすほど明るい光でした。
月も星もない夜でしたので突然の強い光を目にした山賊たちは
目を開けることができなくなりました。
山賊たちは怪物に襲われると勘違いして慌てて逃げだしました。
二人の少年が狼の鳴き声を出し、それをカラカスが魔法を使って大きくしたのです。
それが雪の降る山に響き渡り、さらに恐ろしく聞こえたのでした。
自分の荷物を取り戻しました。少年たちも奪われた武器を取り戻しました。
山賊たちが戻ってくる前に逃げようとした時、足音が聞こえました。
一人二人のものではありませんでした。
カラカスは剣を強く握りしめました。剣術に自信があり、魔法も使えましたが、
二人の少年を守りながら15人を相手に戦うのは簡単なことではありませんでした。
一緒に戦うと言ってくれました。カラカスは心強い仲間ができた気がしました。
戻ってきたのが山賊だけではなかったからです。
「族長だ!僕たちを探していたんだ!」
少年たちを探していた北の部族が山賊と戦っていたのです。
彼らは山賊を全員追い払い、少年たちのところに来ました。
よそ者のカラカスを見て警戒しましたが、事情を聞いて笑顔で手を差し出しました。
狼狩りに行ってから連絡が途絶え探していたところでした。
こんなところにいるとは夢にも思いませんでした。
あの大きな鳴き声が聞こえなかったら…。」
彼らはカラカスを村に招きました。
カラカスはしばらくその村に泊まり体を休め、
みなに祝福されながら再び冒険の旅に出たのでした。