ストーリーブック/戦う少女
Last-modified: 2023-04-09 (日) 20:10:58
戦う少女
ストーリー
- 黄金に染まった女が空気を引き裂いて飛んで来る。
そしてものすごい音と共に、敵の間に着地した。
強烈な衝撃波が発生して油断していた敵を四方八方に吹き飛ばす。
さらに、光を放つ槍が空を飛ぶ敵を縫うように命中した。
瞬く間に致命傷を負った敵は、うめき声すら上げる間もなくそのまま倒れていく。
- 男
- か…怪物だ…!
- 男は運良く攻撃を避けられたようだ。
だが、愚かにも恐怖に襲われて声を出してしまった。
黄金に染まった女は顔を上げて男を見つめた。
だが、微動だにしないまま、ただ凝視するだけだ。
- 男
- (な、何だ?た、助かったのか?)
- 力でも抜けたのだろうか?それとも、殺す価値も無いということだろうか?
今の状況ではどうでもいいことだ。
とにかく攻撃されなくて良かったという思いしかなかった。
‘やった! 助かったぞ!’
男は心の中で喝采を挙げながら身を翻し、逃げようとする。
しかし、どこからか飛んで来た木の棒が頭を強打し、
そのまま気絶してしまった。
逃げて行く男に向けて投げようと槍を振りかざしていた黄金の女は
その場面を見て、そっと槍を下ろしてため息をつく。
- ニウ
- ふぅ…。危ないって言ったでしょ、パイ。
- 彼女の言葉に、男を気絶させた木の棒を握るピンク色の髪をした少女が応えた。
- パイ
- ニウお姉さんはいつも一人で戦ってるから…あたしも…手伝いたいの…。
ダメ?
- 女を包み込んでいた黄金の光が消えていった。
明るい輝きが消えると、青く長い髪が風に揺れた。
女は…、いや、女だった少女はピンクの髪の少女の頭を撫でて
にっこりと笑いながら答えた。
- ニウ
- ありがとう。
でも、戦わなくても手伝う方法はたくさんあるから、無理しないでいいの。
分かった?
- パイ
- うん…分かった。
- ピンクの髪の少女は笑って見せながらも表情は暗かった。
昨日も大規模な戦いがあった。
今日もついさっきまで熾烈な戦いが続いていた。
前にもたまに他の組織と衝突することがあったが、
近頃のように頻繁ではなかった。
何が起きようとしているんだろう?
ニウは毎日のように戦闘を繰り返すほどに
襲ってくる正体不明の不安を振り払えずにいた。
特に、遥か昔…守護者たちが単なる弱者の集まりに過ぎなかった頃から
折り合いが悪かったカシュパとの衝突が目に見えて増えている。
数年前、バトルメイジとして覚醒し、その力で守護者たちを武装させてから、
カシュバが簡単には手出しできないようになった。
そうして次第に衝突の回数が減っていた中で魔界の会合が開かれ、
それにかかわる些細な事件が静かに幕を下ろしてからは、
ほとんど衝突は起こらなくなっていたところだった。
ところが最近、おかしなほどに衝突が増えている。
さらには偶発的に起きたのではない、
計画的な衝突と言えるほど露骨な敵意を見せて挑発してきていた。
- ニウ
- (間違いなく、何かある。何かが…)
- ニウは顔をしかめながら考えに耽った。
カシュパとの物理的衝突。 意図的な挑発。
尋常でない動向…何だろう…カシュパは何を狙っているんだろう?
いくら考えても答えは出なかった。
それでも、答えを見つけなければならない。
このままでは衝突がいつまでも繰り返され、力を無駄に消耗するだけだ。
彼らの狙いを見抜かなければ。
そうしないと…
- パイ
- ニウお姉さん…
- 心配そうな声が耳に届く。
二ウは反射的にしかめた顔を緩めて、
にっこり笑いながら声が聞こえた方を振り返った。
- ニウ
- パイ!
- パイ
- お姉さん…疲れてるみたい…手伝いたいの。
- パイだった。記憶すら残っていない遥か昔から、
いつもそばで手を握り、力付けてくれた子。
どんな物にも代えがたい大事な人。
幼い年で守護者に加わったことも、
カシュパの襲撃の中でバトルメイジとして覚醒したことも、
そしてこれまで頑張って戦えたのも全てこの子のためだった。
希望の無い魔界で生きる理由を与えてくれる、唯一の存在・
愛する妹だった。
- ニウ
- 大丈夫。疲れてないよ。心配してくれてありがとう。
- パイに心配をかけたくなかった。
いくら疲れて辛くても、パイの前では笑顔でいると決めていた。
そうしないと、この子は私と一緒に泣き、苦しみ、傷ついてしまうから。
自分の体が塵となって地面を彷徨うことになったとしても、
パイのそんな姿は見たくなかった。
- ニウ
- もうすぐ終わるから。 すぐに昔みたいに楽しく遊べるようになるよ。
- パイ
- うん、分かった。二ウお姉さん…絶対に…無理はしないで。分かった?
- 静かにほほ笑んだパイの顔を見たニウは、
頭の中の重しが消えたような気がした。
‘そうよ、この子を守るためにも、頑張らなくちゃ。’
改めてそう誓った。
- 守護者
- ニウ!
- 守護者の一人が慌てたように叫びながらニウを探している。
- 守護者
- 空からハーレムの方に…!
- ニウはもう知っていたかのように頷くと、自分の槍を掴んだ。
これまでとは違う、大きな衝突が起きそうな気がしていた。
そして、ハーレム…いや、 魔界全体がこの衝突に巻き込まれるという予感も…。
‘ふぅ…’
しばらく目を瞑って深呼吸したニウは、緊張した表情の守護者たちを見つめた。
どれも親しく、見慣れた顔ばかり。
多くの闘いの中でニウを信じて従ってくれた仲間たちだ。
彼らを守らなければ。 一人の血も流したくはなかった。
これまで守護者たちを導いて来た者たちがそうしてきたように。
弱者を守り、仲間を救うために命を惜しまなかった人たち。
彼らの後を継いだ自分もそうすべきだと思った。
彼らのように自分を犠牲にできるだろうか?
それでみんなを守れるなら、それでいい。
でも、守れなかったら…様々な思いが頭の中を駆け巡り、肩に重くのしかかった。不安が
不安が不安を飲み込んで、全身を押さえつける。
だが、そんな不安と緊張は長く続かなかった。
仲間の間にひょっこりと顔を出してまた
‘あたしだけ仲間はずれにしてどこに行く気?’
と言いたげに口を尖らせながらニウを見つめるパイを見た瞬間、
嘘のように心が軽くなった。
ニウは思わず笑いだした。
仲間たちが驚いたように彼女を見つめたが、気にも留めずにしばらく笑い続けた。
そしてようやく落ち着いた彼女は何かが吹っ切れたような表情で仲間たちに目を向けた。
- ニウ
- ハーレムに行くわ。
- ニウの言葉を聞いたパイが、何が言いたげに前に出た。
‘一人で行くの? ハーレムは危険だよ!
‘カシュパがお姉さんを狙ってるのに!’
‘あたしも連れて行って!’
言いたいことはいくらでもあった。
袖に縋り付いて止めたかった。
でも、彼女の決然とした表情を見ると、口に出せなかった。
いつも傍にいた愛する姉がどんな決心をしたのか、分かったからだ。
- パイ
- ニウお姉さん…気を付けて…絶対に帰って来て…お願い。
- ニウ
- 絶対に帰って来るから。約束する。
- ニウは先を急ぐようにハーレムへ向かった。
パイはニウの後姿を見ながら、自分の手をぎゅっと握る。
いつもみんなを守るために先頭に立っていたお姉さん。
いつも笑いながら帰って来て優しく手を握ってくれたお姉さん。
今回もみんなのために、そしてパイのために危険を顧みなかった。
少し寂しい気もしたが、それよりも嬉しくて誇らしい気持ちが強かった。
いつか、自分も皆のために…そしてニウを守りたいと思った。
いつも無表情だった顔に決然とした表情を浮かべたパイは、
自分だけに聞こえる声でつぶやいた。
- パイ
- あたしも、頑張る。