アーカイブ/キャラクター/寒鴉

Last-modified: 2024-02-24 (土) 01:20:03

仙舟「羅浮」十王司の判官の1人。拘、鎖、刑、問のうちの「問」を担っている。
罪人の因果や罪を読み取り、「冥兆天筆」を用いて業を書き、判決を下す。
毎日夢占いの形式で仕事を行い、大量の魔陰の身の因果情報を浴びているため、世の中の万事に対して何も感じなくなっている。
同じ判官である姉の雪衣と一緒に行動する時だけ、本心を露わにする。

  • ストーリー詳細1

巨大な棺は嵐の中で揺れる小舟のようで、荒れ狂う意識の海の中で今にも沈みそうになっている。彼女は人々の怒り、願望、憎しみ、恐怖、疲労に己の体を晒している。それは無色の波が彼女を1つの流れから別の波頭に投げつけるようなものだ。

溺れて死んだ者のように、彼女はついに小さな自分を捨て、その混沌とした大海原に溶け込んでいった——

ある時の彼女は地衡司で忙しなく働く執行人で、山のような雑務をこなしながら、上へ行くため歯を食いしばって耐えていた。しかし、ついに頭の奥で弦が切れるような音が響き、そのまま幽霊のように街中を彷徨い始める……

次の瞬間、彼女は深い悲しみを堪え、生まれながらに天欠のある子供を星槎培養液で満たされたカプセルの中に沈めた。彼女も夫も、その子供が生まれてくることをずっと待ち望んでいたはずなのに……

かつて雲騎軍の兵士だった彼女は、鋭いオオカミの爪に激しく踏みつけられたことがある。冷たい爪が顔の皮膚を引っ張り、歪んだ「笑顔」を作り出した。それからというもの、彼女は微笑むたびに痛みを感じるようになった……

占いの結果を見て、自分の命が尽きようとしていることを知った彼女は、信じられない思いで窮観の陣の演算端末を点検する。自分自身を陣の中枢に繋ぎ、そのすべての力を使おうとしたが、窮観の陣の力は容赦なく彼女の精神を引き裂いた……

彼女は自分が丹精込めて設計した機巧を砕くと、それと共に彼女にあれこれ難癖をつけていた師匠も破壊した。彼女は自分が職人になれる望みがないことを理解している。しかし、職人以外に自分に何ができるのかもわからなかった……

彼女は彼ら全員になり、彼らのすべてになった。しかし、まるで滴り落ちた1滴の墨汁のように、ある光景が彼女の目の前に広がっていく……

彼女は青空の下に座っていた。周りでは麦の穂が波打ちながら成長している。器用な手が彼女の頭に花冠を載せた。彼女は枝や葉、花の香りに包まれ、まるで温かい両手に抱き締められているかのようだ……

その懐かしい温もりによって、彼女は溺れる寸前で情報の海から目を覚ました。

彼女は自分が彼らではないことに気がついた。彼らの中の誰でもなく、彼らのすべてでもない。その瞬間、彼女は意識の海の中で取るに足らない一滴の水滴となり、自分の名前、自分が担っている仕事を思い出した——

彼女は十王司の判官の1人、代名は「寒鴉」。

彼女が目を覚ましたことに気づき、棺の傍に控えていた金人が素早く筆を動かし始める。その動きは肉眼では追えないほどだ。

業判の結果はすでに出ていた。夢の中に現われた名前が玉兆の令牌に書き込まれ、送り出される。洞天の陽が落ち夜が更けると、また多くの人がこの世を去るだろう。彼らは仙舟の最奥の片隅で、自分たちの命が尽きる瞬間を決めている人物がいることなど知る由もない。そして数時間後には、その人物は彼らのことを忘れているのだ。


  • ストーリー詳細2

棺の反対側で、白い服を着た判官が彼女をじっと見つめていた。見慣れた顔のはずなのに、笑顔がないため少し違和感を覚える。判官は手を伸ばすと、金の杯を渡された。

杯の中には翡翠のような緑色の酒が注がれている。それは因果殿の薄暗い室内で彼女を見つめる碧眼のようだった。

「またお酒を飲む時間?忘れるところだった」彼女は棺桶の中から身を起こした。「なんで夜魄じゃなくて、お姉ちゃんがお酒を届けに来てくれたの?」

「夜魄…覚えていないようですね?」姉は目を半分閉じた。それは不安を表現する時の彼女の仕草だ——残念ながら、彼女が体としている機巧は精巧ではないため、その表情はどこか眠そうに見える。「彼女は薬王秘伝の妖人を追っている最中、不幸にも重傷を負った。そして、十王は彼女の入滅を認めました」

彼女は慌てて話題を変える。「今日の敵は手強かったの?」

「はい。会敵した瞬間に片腕を潰され、膝の骨も砕かれました。あの者は機巧の構造を熟知していた…それは彼が仙舟『朱明』のあの名匠だという何よりの証明です。ただ、彼の技は記録しましたので、何度か見返せばきっと見破れるでしょう」

彼女は姉が自分の生死の危機について語るのを聞きながら、まるでどうでもいい機械が壊れた話をしているようだと思った。「またフォフォにお姉ちゃんの修理をお願いしないとね」

「フォフォは…10日くらい前に判官に昇任しました。今、機巧整備を担っているのは守霊です」

姉は金の杯を彼女の手が届かない棺の端に置いた。その流れるような動作は正確で、杯の中の酒はまったく揺れなかった。

「忘川の酒、飲み干せば皆無に帰す…そこまでする必要はありません。私の罪は私の手で償うべきですから」夢の中と同じように、姉は彼女の頭を優しく撫でる。しかし、触れ合ったところからは少しの温もりも感じられなかった。

「忘川酒のちょっとした副作用でしかないよ。もし私が本当にお姉ちゃんのことを忘れたら、その時は私もお姉ちゃんも気兼ねなく入滅できる。十王の厚意で、この約束は因果殿の奥深くに記録されているでしょ?」

「それは私たちがすべてを捨て、永遠の眠りにつく時だよ」彼女は身を乗り出して、温もりのない手を握って自分の頬に当てた。

彼女は棺の端から酒の入った杯を取ると、その濃い液体を苦しそうに、少しずつ飲み下していく。酒とは言っても、辛さや刺激的な香りはまったく感じられず、まるで金人の体に注入される油を飲んでいるかのようだった。

「その前に、お姉ちゃん、十王、そして…あの将軍のために、もう少し働かせて」


  • ストーリー詳細3

飲んだ酒はずしりと重い水銀のようになり、体の隅々にまで回っていった。思い出したくない秘密、人間だった千年前のあらゆる記憶が呼び起こされ、そしてまた徐々に色褪せていく——

彼女は「羅睺」と呼ばれる深紅の星が仙舟蒼城の上空に昇り、心臓のように絶えず脈打つ様を見た。その後、岩、腱、蔦からなる外殻がゆっくりと引き裂かれていき、無数の子供を呑んだり吐いたりしているところも。それは満ちるを知らない獣が暴食を繰り返しているようでも、出産を控えた母親のようでもあった。

悪夢のような月明かりの下で、彼女は曜青の狐族たちが無意味に星槎を操っているのを見た。まるで鬱陶しい蚊が動かざる巨神を刺しているかのようだ。やがてそれは歩離人の巨獣艦に駆逐され、空中で星の光のように消えていった。

歩く巨木が戦場にいる彼女にゆっくりと近づいてきた。その巨木は無数の腕を広げ、行く手を遮る人々、そして彼女と共に戦う友人たちを突き刺していく。彼女は恐怖と戦いながら折れた剣を握り締めたが、突然、その木に笑顔が浮かんだ——それは姉の顔だった。

「寒鴉、私です!わからないのですか?」

枝や葉がガサガサと音を立て、戦友たちの顔が枝に生った実のように大きくなっていき、鋭い笑い声を上げる。「死に屈してはなりません。死に慣れてはいけません。さあ、私の中に入って、私を抱き締めてください——」

彼女の剣に花が咲き、心臓が数回鼓動する間に錆びて朽ちてしまった。器用に動く枝が花の冠を彼女の頭に載せる。彼女は枝や葉、そして花の香りに包まれ、かつて温かい両手に抱き締められていた時のことを思い出した……

燃え盛る大剣が彼女の幻覚を貫き、空気中の甘ったるい腐臭を焼き払う。彼女は息ができなくなりそうだった。重い甲冑を身に纏った巨漢が流星のように戦場に落ち、雄叫びを上げながら巨木に向かって突進する。その勇敢さはまさに彼の名に相応しい。しかし、彼も窒息しそうなほど纏わりついてくる巨木を払い切ることはできなかった……

ああ、またこの夢だ。忘川酒を何度飲んでも、彼女はこの夢から逃れることができないでいる。

彼女は懸命に、必死になって飲み下し…やがて夢は捉えどころのない煙となって消え去った。これでようやく眠りにつける。それが意識のあるうちに彼女の頭に浮かんだ、唯一の考えだった。


  • ストーリー詳細4

棺の傍らでは、白い服を着た判官が閉じられた棺を見つめていた。眠る妹を見守るのは、人間だった頃の習慣だ。

彼女は痛みを感じることも、後悔の念を抱くこともない。眠りにつく妹を見守ることは重要な使命であり、自分のためにしているのだと、頭の中に封じられた意識が彼女に訴えかけている。

判決を推察して生死を決める、それは重要なことだ。こうしたことは、世間から遠ざかりながらも人の心を持った判官に委ねるしかない。金鉄は所詮金鉄だ。彼女は人間の言葉の微妙な声の変化や表情の強張りを捉えられるが、それが彼女の金属の意識の中で波紋を起こすことはない。生身の肉体の喜怒哀楽を鋼鉄に共有させる魔法は存在しない。しかし、それこそ妹が十王司に捧げられるすべてだった。

1体の金人·勾魂が近づいてくる。「新しい任務ですか?」白い服を着た判官は顔を上げた。

「もし寒鴉様の傍に残りたいのなら、他の判官に任務遂行を伝えますが」

「その必要はありません、寒鴉の気持ちを裏切りたくはありませんから。それに、十王と交わした約束で、私は重罪人を1人捕まえるたびに、半日還陽する自由が与えられる。寒鴉はずっと棺の中にいるので、私は…この経験を、陽の光を見ることのない彼女に贈りたいのです」

「それでは、法器を用意して伏魔を始めてください」金人は下を向いて礼をした。

白い服を着た判官は、表情を変えることなく暗闇を見つめている。もう動じることのない心には1つの想いしかなかった。妹に温かく優しい夢を見てもらいたい——

青空の下にいる自分が、器用な手つきで彼女の頭に花冠を載せる夢を。