アーカイブ/キャラクター/雪衣

Last-modified: 2024-02-24 (土) 01:11:01

仙舟「羅浮」十王司の判官の1人。拘、鎖、刑、問のうちの「拘」を担っている。
鉄の鎖と破魔錐を手に、疲れを知らずに重罪人を追い、捕らえる。
過去の肉体はすでに灰となっているため、今は傀儡の身を借りて「還陽」している。罪人を1人捕らえるたびに、半日の休みが与えられる。

  • ストーリー詳細1

「十王の聖裁、業報は常に在り」

雪のように白い服を着た判官は、暗い路地から出て彼の退路を断った。

さらに男に近づくと、彼の恐怖を裏付けるような一際震えた声が聞こえた。「なんだ…あいつらを捕まえるだけじゃ物足りねぇってのか?」

「なんだ」という言葉で始まってはいるが、それは質問ではなく反語だ——語意の分析が頭の中をグルグルと回る。しかし、「目標と共犯者の末路はハッキリしている」以外の情報は何もない。

彼女は与えられた使命を直ちに遂行することを決めた。

目、こめかみ、下顎、心臓、腑、下腹…彼女は瞬く間に急所を捉える。相手は反射神経が鋭いことで知られる狐族だが、彼は隙だらけだ。一度…多くても二度武器を交えれば終わるだろう。

しかし、最初の一撃は空振りだった。

判官は好奇心から彼を見た。その男の筋肉は、まるでネズミが走り回っているかのように絶えず起伏しており、両目は計画通りに事が進んでいることを暗示するように光輝いている。

直後、彼は急病にかかったかのように激しく喘ぎ始めた。耐えがたい苦痛による叫びの中で、体からは細い毛が生え、四肢は見えない力によって膨らんでいく。洞天の月明かりの下、立ち上がったのは1人の巨大な人狼だった。この時の判官の視界には、人体を囲む深紅の輪郭が炎のように辺り一面に広がっていく様子が映っていた。

「あなた…それは自ら死に向かうようなものでは?」彼女は心の奥底に眠る習慣から溜め息をつこうとしたが、今の体にそのような機能はない。「薬王秘伝の薬を飲むのは、死期を早めることになりますよ」

しかし、男の目の光は少しも揺らがない。「お前らに見つかった時点で、俺の命はもって数日だった」

狐族の男は背負っていた薬袋を掴むと、豆でも食べるように、さらに薬を口の中に放り込んだ。「血も涙もないお前らにはわからねぇだろうが、俺には意地でもここを離れなきゃなんねぇ理由があるんだ!」

巨大な拳が瞬く間に視界全体を覆い尽くしたが、判官の機巧の体はかろうじて反応することができた。彼女は両腕を振り、いつも手にしている鎖で輪を作ると、相手の拳を受け止めようと試みる。

しかし、拳は凄まじい力で胸にめり込み、白衣の判官が踏み締めていた地面は蜘蛛の巣のようにひび割れ、深く窪んだ。

痛みはない。ただ機巧の器官が壊れた音がしただけだ。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細2

「雪衣様、この体はもうダメだと思います。ア…アタシが新しい傀儡の中に移しますね。途中で少し混乱するかもしれませんが、ちょっとだけ我慢してください」

彼女と冥差フォフォの間では、これまで何度も同じような会話が繰り返されている。彼女の返事はいつもと変わらなかった。「ありがとうございます。できれば、今度はもっと頑丈なのにしてください」

その言葉を聞いて、フォフォの狐の耳が揺れた。落ち込んでいるのだろうか?彼女にはわからない。彼女は目が見えても、感情を識別する能力はないからだ…もしかしたら、これは目の問題ではないのかもしれないが。

「雪衣様の体には、もう一番頑丈で、一番俊敏に動ける部品を取り付けてます。それなのに、アナタの負傷率と損傷率はここで一番高い…問字部の職人たちも愚痴を言い始めてる……」

「あなたが組み立て終わったら、私…私は……」

「…お姉ちゃん、またあの人たちの頭を『軽く』叩いたんでしょ?」聞き覚えのある声がバラバラになった彼女の傍にやって来た。「あの人たちは生身なんだから、お姉ちゃんのお遊びには耐えられないよ」

長い髪が彼女の顔に落ち、人工皮膚が妨害信号を発する。こちらを見下ろす女性の顔にあるそれぞれの五官から、それは彼女が最も見慣れた、最も親しい顔であることが識別できた。

「お姉ちゃん、機巧の体は『自分は鋼のように壊れない』って錯覚させるのかもしれない。でも、私は還陽の日を使って、お姉ちゃんの体の早期損傷を補わないといけないの。今度任務に出る時は、お姉ちゃんの心配をしてる妹がいるってことを忘れないで」

「わかりました、ちゃんと覚えておきます」

「それでもダメなら、フォフォにお姉ちゃんの頭の中に刻んでもらわないと…あ、大丈夫、フォフォ、今のは冗談だから…お姉ちゃんなら忘れないでいてくれるって信じてる」

「じゃあ雪衣様、始めますね」

彼女は自分が切り開かれ、複製され、数千部に分割され、十王司の数千万もの回路の中にアップロードされていくのを感じた——
一瞬にして、彼女は因果殿にある無数の記録を読み、仙舟人の魂の全貌を目の当たりにして、再び忘れた。
次の瞬間、彼女は近くにいた金人・勾魂の身体に入り、金属の体の強さと玉兆の揺るぎない意志を感じた。
彼女は千の目を持ち、機巧鳥の翼と目を使って星槎海の人の流れを見下ろした……
彼女は千の耳を持ち、無限の周波数から鋭い声を聞いた……
彼女の千の手は、冥差の体に業判を書き、千の足は見知らぬ道で先を急いでいる……
彼女は自分が十王司の玉兆回路の中にいることを理解していたが、同時に自分がどこにも存在せず、徐々に消えていくような気がした……

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

声紋の波形を超えて、よく知る声が再び耳に届いたかと思うと、彼女は記憶の中に固く閉じ込められてしまった。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細3

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

彼女は自分が青空の下にいることに驚く。周囲ではのびのびと成長した麦が風に揺られ、波のように寄せては返していた。

彼女は笑いながら、細い枝と朝に摘んできた花を一緒に編み込んだものを、腕の中にいる女の子の小さな頭に載せる。すると女の子は振り返り、花よりも明るい笑顔を見せた。

彼女は女の子の顔を両手でそっと包み込むと、この繊細で壊れやすい存在を守るためなら、何でもすると誓った。 

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

気がつくと、女の子の顔は成長して大らかになっていた。その美しい五官には、もう彼女の庇護を必要とする弱さはなく、ただ剛毅さだけがあった。その顔は自分と肩を並べて歩き、共に星槎に乗り、外域に遠征したこともある。

風砂、氷霜、泥痕…時間はこの愛しい顔に多くの汚れを残したが、いつも自分の手で優しくそれらの汚れを拭い取ってきた。

自分と同じように、妹はもう大人になったのだ。甲斐甲斐しく世話を焼く母親のように、大勢の前で彼女の顔を拭うべきではなかったかもしれない。だが、そう簡単に手放すことなどできるだろうか?彼女はこの繊細で壊れやすい存在を守るためなら、何でもすると誓ったのだ。

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

彼女は炎と血に満ちた焦土から顔を上げた。地面にはとっくに生気が失われた数千もの仲間たちの顔が転がっている。その中には妹のものもあった。

しかし、彼女は自分の顔を見つけることができなかった。

「吾は汝を救える、汝ら全員を救える。手にある枝を軽く振るえば、再び骨に肉を纏わせ、泥の中の花びらを花の芯に戻すことができる。汝はそれをよく知っているであろう」

彼女の体の下で、千の顔を持つ奇怪な樹が彼女に、すべての人に話しかけていた。其が枝を振るうと、枝が大地の奥深くに入り込んでいく。

「吾すなわち倏忽、吾すなわち万古。吾から始まり、汝らは真の長生を得る」

彼女は泣きながら目を閉じた。もう反抗する力もない。この時の彼女は巨大の樹に生る果実の1つに過ぎず、雄大な根に抗うことなどできなかったのだ。

燃える巨大な剣が天から舞い降り、空気中の甘い腐臭を焼き尽くしていく。そして重い鎧を身に着けた大柄な男が流れ星のように戦場に降り立ち、怒声を上げながら巨樹に突進する。その巨樹は花のように再び綻ぶと、金色の枝が勢いよく伸びていき、きつく宿敵を絡め取った。

「死の克服とは常に、この上ない喜びである。彼奴らと同じように、汝の血肉は取るに足らないものだが、その苦痛は吾の悦びとなるのだ」

枝先は笑いながら、それぞれの頭に其の代わりに一音ずつ発言させ、言葉を紡いだ。「騰驍、今度は如何にして吾を殺すつもりだ?楽しみにしているぞ」

「私自身を使うつもりだ」男は静かに答える。彼の背後にいた金色の幻影が、巨大な刃を天から振り下ろし大地を貫いた。

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!」

その叫び声はますます切迫したものになっていく。彼女は再び自分が選別され、削除され、統合され、狭く限られた自我の中に押し込まれていくのを感じた。

「いわゆる幽府の判官、十王の使者も大したことねぇな」

夢から目覚めた人のように、彼女は自分の体に戻った途端、先ほどの夢を忘れてしまった。白衣の判官は、しばらくの間呆けていた。


  • ストーリー詳細4

白衣の判官の耳もとで、狐族の掠れた笑い声が狼の遠吠えのように響く。

男は組織の中で最も貴重な丹薬を数十粒持ち去った。そして彼は戦闘経験が不足しているというのに、たった1粒服用しただけで、目の前の判官を軽々と捻り潰してみせたのだ。

「結局、機巧には限界がある…俺たち長命種の身体、計り知れない潜在能力には敵わない」

狐族は笑って手を引こうとしたが、腕がピクリとも動かせないことに気がついた。何重もの鎖が彼の手を締め付け、蜘蛛の糸のように絡みついていたのだ。

顔を覆う黒い髪の隙間から、判官の光る瞳が覗いている。その表情は狐族に血の匂いを嗅ぎつけた捕食動物を連想させた。「『五臓神』、私の機巧の器官が壊されました。同情を司る部分の性能が少し落ちています」

「…何わけのわかんねぇことを!」狐族は指を鉤爪のように丸め、渾身の一撃を繰り出そうとしたが、逆に鋭い三陵尖が手のひらを貫く。彼は声もなく叫んだ。

「本当は五体満足のまま幽囚獄に送り込んで裁きを受けさせ、肉体の苦しみを減らしてあげようかと思っていたのですが…あなたは私の同情心を打ち砕いてしまった」

「ふざけたことを!お前、俺と鎖で繋がれてることを忘れたのか?」罠に落ちた手負いの獣が激しく藻掻く。狐族は鎖を引っ張り、白衣の判官を腕の中に引きずり込んだ。巨大で硬い筋肉が彼の怒りに呼応して、絞首刑に使われる縄のように判官を締め上げる。機巧の関節が外れるぞっとするような音が響いた。

「あなたの言う通り、生きた肉体の潜在能力は計り知れませんが…1つだけ欠点があります。それは痛みを感じること」

白衣の判官の声と男の壮絶な叫び声が夜空に響いた。

彼女は砕けた右腕を支えた。折れた腕の鉄骨は鋭い槍先のように剝き出しになり、狼の姿になった狐族の下顎に突き刺さっている。逃走犯は無我夢中で逃げようとしたが、判官を振り払うことはできず、激痛によってのたうち回り、やがて意識を失いぐったりとしてしまった。

「血も涙もない?」血染めの衣を纏った判官は、犯人の巨体の上でゆっくりと立ち上がる。「あなたたち豊穣の忌み物が…私の同情心を打ち砕いたのでしょう」

彼女は頭蓋骨、脊椎、そして膝蓋骨を無理やり正しい位置に戻した後、どうしても繋げられなかった腕を腰に結びつけた。

今度は妹とフォフォからどんな小言を言われるのだろうか。彼女は心の奥底に眠る習慣から溜め息をつこうとしたが、今の体にそのような機能はない。