本棚/ヤリーロ-Ⅵ(2)/出せなかった家族への手紙

Last-modified: 2024-03-11 (月) 03:17:56

脆くなった便せんには昔のベロブルグの厳寒と温かさが記録されている、これは過去の温もり、そして一種の立ち合い。

その1
※長い年月保存されてきた便せんはセミの翼のように薄く、脆くなっており、触れると粉々になってしまいようだ。※

お母さんへ
ママがこの手紙を受け取った頃には、ベッティーに頼んで家に送ったプレゼントも届いてるでしょう。

今年はママの誕生日を祝ってあげられなくてごめんね、軍の仕事が多すぎるの、毎日忙しいわ。

でも安心して、私たちがいるところは前線から離れているし、結構安全よ。大守護者様も数カ月間ここに留まって指揮を執っているし、みんなそれぞれの仕事を全うしている時に、私だけが現場を離れるなんてよくないでしょ?

ママ、私最近よく子供の頃の夢を見るの。子供の時、よくママの帰宅が遅いって言ってたでしょう?そうするとママは「職務は全うするべき」って言ってたわよね、でもその時の私は全然理解できなかったわ。でも今、ベロブルグに迫る危機が増える今、前線に行って私はようやく「建創者」が背負うべき責任を感じたの。前線は緊迫しているし、私は極秘のプロジェクトに参加している、ごめんねママ、たとえ設計院の職員にも言えないの。私が言えるのは、これは私が見てきた建創者の造物の中でも最も偉大なる作品よ、こんなものの設計に携われるなんて栄光よ。まさか自分の仕事にこれ程の誇りを持てる日が来るなんて……

これが動き出す姿をママに見せたいわ、どんな敵でも、この勇姿を見ると絶対に逃げ出すわ。でも大守護者様はこうも言った、これを起動させるという事は、ベロブルグの存続が危ういという事。だから、私たちがどんな物を作っているのかは永遠に知らない方がいいわ。

この話はもうやめましょう、何か別の事にしよう——先月、作戦司令室が完成したの、今は物資の搬入作業をしているの。私は暖陽花を買ってデスクに置いたの、暖陽花を見ているとリビングに置いてある花を思い出すわ、まだ育ってるかしら?ママはいつも窓の前に座ってセーターを編んでいたよね、最近は寒波が増してきたし、まだそこに座っていると体に良くないよ。ベッティーにお願いして届けたプレゼントは膝掛けよ、ずっと寒くなると膝が痛むって言ってたから。任務から戻った兵士に狼の毛を貰って、同僚に作ってもらったの、ちゃんと使ってね。

そして最後に、ちょっと遅くなったかもしれないけれど、ママ、誕生日おめでとう。

ラーナ
その2
※長い年月保存されてきた便せんはセミの翼のように薄く、脆くなっており、触れると粉々になってしまいようだ。※

ベッティーへ

ラリーに頼んで狼の毛で膝掛を作ってもらったんだ、彼の所へ取りに行ってね。ラリーは足を負傷してもう前線に立てないの、だから私の代わりに慰問品を買って彼に送って。それと、ちゃんと人に礼を言うのよ、じゃないと失礼でしょ。

私は何日か前に塹壕を検査する時にちょっと怪我しちゃったの、だからここ数週間は帰れないの。それほどの傷でもないけど、ママには言つちゃダメだよ、心配するから。ママの方にはずっと作戦司令室で仕事しているって伝えたの。

最近はものすごく忙しくてね、今は負傷で休んでいるからやっと手紙を書く時間ができたよ。あなたの近況はアニーから聞いたわよ、まさかこんなお利口さんになっていたとは。でも家でママの面倒を見ながら勉強も頑張らなくちゃいけないのはさすがに負担が重いよ。お姉ちゃんとして必要な時に傍にいてあげられなくってごめんね。

私はここでたくさんの死を見てきたの、だから段々…自分も突然死んでしまうのではないかって考えるようになって…もし本当にそうなってしまったら、一家を支えるのはあなたよ、自分とママを守るんだよ。実は家にお金を置いてあってね、これまで貯めた貯金なの、あなたのタンスの中に隠してあるわ、そう、そこよ、こう言えば分かるでしよ。何か食べたいものとか、買いたいものがあったら使ってね、あなたは無駄遣いするような子じゃないって信じてるから。

これ以上のお節介はいらないと思うけど、ベッティー、やっぱりママとは喧嘩しないでね、ママはそういう人なんだよ、争いになりそうな時は譲ってあげちゃいな。

それとさぁ、ずっと教えなかったけど、はは。実はね、ずっとあなたを一番かわいい妹だと思っていたの、ずっと。

麗しいあなたの姉
ラーナ