本棚/宇宙ステーション「ヘルタ」/ヘルタの手稿

Last-modified: 2023-11-19 (日) 19:53:25

本書は「スターピースカンパニー」が出資し、「天才クラブ」#83 ヘルタにより著された手稿。宇宙、星神、派閥、及びその他の一切について記している、「これこそ私が書きたいもの:孤独な神と盲目的な信徒」

『序文』

作者序文

ある日、燭炭学派のクリオ学士が私に聞いた。「君は宇宙のために何か書こうと思わない?」「思わない」って返事したら、彼女は続けてこう言った。「やっぱり書いてほしい、これはカンパニーからのお願いよ」。

正直なところ、今まで考えたこともなかった。私たち、天才クラブには独自のルールがあり、得たものを外部と共有することはほとんどない。実際、宇宙のことが私に何の関係があるだろう?勉強して、発見して、幸せになって、それで十分なのだ。私たち程の実力を持つ人は、銀河系が戦争に巻き込まれても生き残ることができる——だったら、本を書くことが私の妨げになるだろうか?ならない。実のところ、天才クラブの歴史上、本を書くために動いた人たちがいないわけではない。会員#1のザンダーは本を書いたことがある。九字算法を発明した会員#22リルタも書いていた。何琥珀紀前の会員#76のスクリューガムもハウスキーパーのために、膨大なコンピューター管理システムのメンテナンス方法を紹介する冊子を作成していた。それに、偉大な「知恵」のヌースが、自分の体内にすべての情報を蓄積しているのは、文章を書くことになるのではないか?そう考えると、実際に本を書いてみるのも悪くないと思ったのである。

先週、スターピースカンパニーから原稿の前金が来て、その数字の0の数には本当に驚かされた。この時から、私は書くことを真剣に考えるようになった。まず、この序文で、本書がどのようなものかを説明したい。この本には、私の驚くべき発見や、素晴らしい数学的導出が書かれているわけではない——もうすでに十分注目を浴びているが、ここでさらに素の自分を見せたいと思う。宇宙、星神、派閥、その他もろもろについて本を書きたいと思う。この1琥珀紀で、私は異世界との交流を深めてきた。「カンパニー」と提携し、「仙舟」が敵と戦うのを手助けし、「星穹列車」から数多くの興味深い物品を手に入れ、それから「ガーデン オブ リコレクション」と何回かの小競り合いを起こした。まさに、過去100年に類を見ない充実した経験ができた。宇宙で本当に面白いのは、味気のない法則や法律ではなく、凝縮した哲学の化身である星神たちと、その下に群がる愚かな人間たちであることがわかったのだ。これが私の書きたい内容である。孤独な神と盲目な信者たち。彼らが読者たちに満足をもたらすことを願う。

スターピースカンパニーの協賛に感謝する。

『天才クラブ』

第2章 天才クラブ

本章の最初に、読者に考えて欲しい問題が1つある。全宇宙で最も神秘的な組織は?

有名な、あえてカンパニーに逆らう「星核ハンター」?すべてが謎に包まれ、未知の「第IX機関」?アキヴィリと共に生涯を閉じた「ナナシビト」?それとも伝説の「天外聖歌隊」?どれも違う。宇宙で最も神秘的で超越的で説明のつかない組織は、この本の著者である私が所属し、ヌースの恩恵を受けている「天才クラブ」である。

まず1つの通りを通すことにする。宇宙規模で見ても、著者は100万年に1人の天才である——もう一言付け加えよう。著者は恥を知らないわけではないが、恥は著者の人生の一部ですらないのである——幼少期にソリトン波の難題とスパークスモデル予想を解決した。青年期のシグマ粒子の変換方法を発見した。壮年期にはヘルタシークエンスを提唱し、若返りに関する論文を発表した。老年期には若返りを果たした。再びの幼少期、虚数が満ち溢れる現象の謎を解き明かし、天外ある星核を捕らえ、封印した。著者は19回、自分のいる星を滅亡の危機から救い、2回、星神に拝謁している。上記はすべて、著者の数え切れない業績のほんの一部に過ぎない。著者のような100万人に1人だけが、天才クラブからの招待を受けることができる。ヌースの誕生以来、このような人は84人しかいない。したがって、天才クラブが最もミステリアスであるという著者の主張は、正当であり、説得力がある。本文では、史上で初めて天才クラブのベールを剥がしていこうと思う。

(原稿用紙はここで唐突に終わり、次のような走り書きがされている。
このクソみたいなクラブの人たちは全然会話しない、何書けばいい?
見知らぬ筆跡がその下にあった。
君は何としても書かなければならない、読者が望んでいるのだから。
見慣れたヘルタの筆跡が後に続く。
簡単に言うのね、だったらあなたが書けば?)

『博識学会

第3章:博識学会

宇宙は広大で、知性はすべてを包含している。天才には天才の生き方があり、凡人には凡人の自足がある。才能に溢れ、ヌースが直接接見した天才クラブ以外にも、銀河には「知恵」を動力とし、たゆまぬ学習と研究を行っている組織がある。彼らは「博識学会」と自称している。

個人的な好みはさておき、本会の努力はある種の尊敬に値する。ヌースのクラブにいるのは、怪人、狂人、一匹狼、心を閉ざした天才、社会不適合者がおり、彼らは絶えず驚くような発見をしている。出版するために体系化することはおろか、外部に知られることもなかった(本書は例外である)。しかし、博識学会の理念は交流と共有である。知識は通貨で、通貨は流通することで奇跡を起こす。スターピースカンパニーは彼らを受け入れ、スポンサーとなった。「カンパニー」の実力と世界中を移動できる技術で、学会の学士たちは世界中を旅して、あらゆる貴重な知識を集め、それを商品として取引している。

一般的な研究者に比べ、博識学会はもっと商業団体に近い。学会は「学派」を基本単位とし、各学派は独立した採算制をとっている。異なる領域の知識をテーマに、学士たちは自分の持つ知識を研究し、交換することで、かけがえのない宝物を見つけ出そうとしている。以下では、比較的有名な学派をピックアップして紹介している。

-通感学派-

宇宙に最も貢献した思想家がいるとすれば、それは通感学派である。コミュニケーションは、スターピースカンパニーにとって長い間重要な課題だった。取引の基本は契約であり、契約を結ぶにはコンセンサスが必要なのに、知的生命体は多種多様な言語を話す。通感学派の研究者は、種族間に共通の思考の架け橋を作ることに尽力している——その成果が、今日は広く知れ渡るほど発展してきた「共感覚ビーコン」である。

共感覚ビーコンは、物理的な動き、光の点滅信号、音の振動、におい分子の変化など、あらゆるものに反応する——意味を持つすべての信号は、思考インパルスに変換され、理解可能な言語に転換される。こうして、コミュニケーションの第一関門が突破された。共感覚ビーコンを基礎に、「スターピースカンパニー」は膨大なデータベースを構築し、1億近い言語と文字がストックされ、言葉はもはや神秘ではなくなった。

カンパニーは今でも毎期、かなりの額の特許使用料を通感学派に払っているらしく、学派は一国に匹敵するほどの富があるようだ。筆者は、通感学派の次の研究テーマは、超距離センシング通信技術であることを知らされた。この技術は、既に百数十年前に天才クラブ#56のイリアスサラスが発明し、クラブに応用しているものである。しかし、もちろん、天才は凡人にも知性を磨き続けることを勧める。

-星空生態学派-

この学派は、宇宙をより大きな生態系の観察対象として捉え、虚空歌鯨やブライトクラゲなどの宇宙の生き物の研究に夢中である。この学派は「天彗星ウォール」の発見から始まる。この壁が「存護」のクリフォトの古代遺物であることが証明されたことで、カンパニーは大喜びし、多額の資金を与えたそうだ。これは十分に「いい論文を書くより、いいテーマを選ぶ方が重要」を証明していると言えるだろう。

-燭炭学派-

燭炭学派は学会の印刷部門であり、多数のライター、スクリプター、タイピスト、プログラマー、書籍制作者などで構成されている。この学派は、利他的で崇高な意図から、利己的な科学研究を放棄し、より多くの人々が知識にアクセスできるようにするという大義名分に専念したのだ。学会の科学的蓄積は、ここで種類別に製本され、世界中に配布するために出版されている。特に『漫遊指南』と呼ばれる一連の書籍は、その代表格である。

-武装考古学派-

星間探査と文明の考古学に情熱を傾け、常に最も人を寄せ付けない惑星を旅し、最も危険な遺跡を探索する学派。想像してみるといい。徹底した武装で、学派は傭兵を率いて探査船から飛び出し、古代の建物の隙間をゴキブリのようにすり抜け、琥珀紀に忘れ去られた運河へ、途中で何人か馬鹿がトラップに引っかかって生贄となる。目的地に到着すると、貴重な古文書や書類を掘り出し、容赦なく爆薬を仕掛け、通路を爆破で作り、そして嬉々として船に乗り込んで離れる……彼らは学者というよりも傭兵だったと言う意見もあるが、その通りである。

  • 量子歴史学派-

元祖心理歴史学派の破綻から生まれた新しい学派。その本来の目的は、歴史の中に隠された擾乱や変化のパターンを見つけ出し、未来を予測することである。しかし、今は難解な「算法」を使って運命を占う魔術師の集団に過ぎない。ここでこの学派のことを書くのは、笑い話で終わる面白い文章になるからである。

『スターピースカンパニー』

第2634章:スターピースカンパニー

「琥珀の王」クリフォト——首のない巨大な像で、世俗のことには無関心で、ただひたすら神秘的で不可解な巨大な壁を作り上げることに専念している。なぜなのか?わからない。何に備えている?わからない。しかし、正気を保ってる人々は、自分の無知を悟り、この星神のことは考えないようにしてしまう。しかし、世の中には異常な人たちがいる。このグループは、2つのカテゴリーに分けられ、そのうち1つは、次のように考えている。「わあ、神様が壁を造っている!それって、この壁が神聖だということだな!自分たちも壁を造らないと!ロジックなんか知るか!」この者たちは、天啓を得たと思い込んで、それぞれの惑星の貴重な物質資源を浪費して、役に立たないものを作り始めた。彼らは「建創者」と呼ばれている。もう一方の人たちは建創者よりもバカである。建創者は、正気とは言えないが、少なくとも自分にとって何が利益になるかを考えていた。しかし、この人たちはこう考えている「わあ、神様が壁を造っている!それって、この壁が神聖だということだな!自分たちはその手伝いをしないと!」意味不明である。

そして、宇宙の彼方で、献身的な人間たちが集まり、クリフォトの後方支援隊が結成された。この後方支援隊は、自分たちの能力の低さを心得ながら、運命の力で様々な世界に飛び、壁作りに必要な様々な物資を調達し、神々に捧げた。この時、この愚かな集団の中から2人の賢い者が現れ、全宇宙の運命を一挙に変えてしまった。

これから、何が起きたのを陳述する。

まず、後方支援隊は見知らぬ惑星に着いた。幸運なことに、この星は親切な種族が多く、温かく迎えてくれた。後援隊は言った。「我らの偉大なる同志よ!宇宙は今、危機に瀕している。我々の星神は、光年の彼方で銀河を守るための壁を造っている。我々は、君たちにもそれに参加してほしい!」

そこに住んでいた宇宙人は微笑を浮かべながら「わあ、それは凄い。私たちにできる事はありますか?」と言った。

後援隊は「私たちは、木材、石、鉄骨、コンクリート、チタン合金……とにかく、全ての建築に必要な素材は全部必要だ」

「それはいい」宇宙人は言った「私たちは、この素材をたくさん持っています。何と交換してくれるのですか?」

——この時、経済学の最初のシンボルが生まれた。資源の交換が発生したのだ——

後援隊は「私たちは、木材、石、鉄骨、コンクリート、チタン合金……とにかく、全ての建築に必要な素材は全部ある」

宇宙人は言った。「それじゃあ交換する意味はありませんね」

先ほど言った賢い者はここで登場する。ルイス・フレミングと東方啓行の名前はスターピースカンパニー本部の全ての壁のタイルと天井に刻まれている。賢い者はすぐに答えた。「ここから3銀河ほど離れたところにクレメンタインという惑星がある。そこのウィンターサニーの実という特産品は、口の中で溶けて、凄く美味らしい。舌の上で綻ぶ甘さは、天上でも地上でも得難いそうだ」

宇宙人はそれを聞いて「本当に美味しそうですね。では、木材500kgとウィンターサニーの実500kgを交換しましょう」と言った。

——この時、その資源は定量的な価値を持ったのだ——

ウィンターサニーの実はとても貴重である。賢い者1号であるルイス・フレミングは言った。「琥珀紀1年でも500kgは生産できない!しかし、500kgの木材はあなたにとってそれほど貴重ではないはずだ。500kgの木材と2.5kgのウィンターサニーの実を交換するのはどうだろう?」

この会話は、約800琥珀紀前の出来事で、今なら一目瞭然である。賢い者1号は口から出まかせを言っている。ウィンターサニーの実は美味しくとも、そこまで貴重ではないはずだ。頭のいい人は嘘をつく、彼らが重要な富を握っているからだ。情報は非対称である。相手より多くの情報を持っている人が主導権を握れる。具体的に言えば、この例では、賢い者1号は値段を決める権利を持っているのだ。

それで、物事が好転し始めたのである。後援隊は、物資を得るためには、相手側に興味のある物品を交換に提供しなければならないことに気づいた。そうして、後援隊は、もう建材だけを扱うことはなくなった。食べ物、飲み物、洋服、日常用品……他の惑星が興味を持つようなものは、すべて買うようになったのだ。売買をするにつれ、商売が大きくなるにつれ、賢い者2号の東方啓行はあることを考えた。現在、全宇宙でこのような商売をしているのは自分たちだけなのだから、そろそろ独自のルールを導入してもいいのではないだろうか。

——こうして、星間通貨が誕生した——

今からおよそ770琥珀紀前、ルイス・フレミングと東方啓行は、後援隊の再編成を発表し、スターピースカンパニーを設立することを宣言した。それと同時に、スターピースカンパニーは宇宙共通の通貨を発売した。信用ポイントである。それ以来、すべての星の人々は、自分たちの特産品と引き換えにいくらもらえるかを心配する必要がなくなった——全ての価格が決まったからである!カンパニーから信用ポイントをもらい、その信用ポイントを使ってカンパニーから商品を購入する。取引は、カンパニーが管理する三者間市場を経由せず、カンパニーと直接決済されるようになった。買う側にも売る側にもあまり変化がないように見えるかもしれないが、官跡継ぎにとっては大きな利益が生まれている。

買い手と売り手の資産の流れに停滞が現れた。

——そして、停滞は固定資産の登場を意味する——

この何兆もある資産は、カンパニーの信用ポイントという形で静かに隠されていて、あっという間にスターピースカンパニーの懐を満たしたが、その懐は底なしだったのだ!こうしてスターピースカンパニーは、星神のために物資を調達する小さな組織から、宇宙最大の勢力になったのである。

注目すべきは、これだけの成功を収めても、カンパニーは当初の設立の理由を忘れていないことだ。現在、同社が蓄積した約800琥珀紀分の建築素材は、星神クリフォトの周りの惑星を埋め尽くし、その量は今も増え続けている。星神はそのことに対して何も言わない、何かを贈るつもりもない、それでもカンパニーの態度は変わらなかった。

これが信仰である。