シーズン5

Last-modified: 2021-05-20 (木) 19:39:11

イザナギの覚悟

「恥。罪悪感。恐れ。私達は全てを纏う。後悔を搔き集め、お前の最高の一発に込めろ。敵にお前の覚悟を感じさせろ」——エイダ1

「持っているわ」私はアンリエットの刺すような視線を感じながら言った。エクソが彼女を押さえていた。彼女が頭の中で私にやめてと叫んでいるのは分かっている。だけどやらなければ。これは愛のためにやるべきことだ。愛する者が引き受ける義務だ。

私は彼女と目を合わせられない。目を見てしまったら止めてしまいそうだから。「エクソはあなたの探している物を持っていない。私が持っている」と、ドローンを伴った男に言う。

涙がアンリエットの頬を流れ落ちている。彼女は首を振っている。まだそちらを見ることができない。見てしまったら、私の中から溢れ出す感情は分かっている。

「由紀、だめ! お願い、やめて…」アンリエットは泣き叫ぶが、男がそれを遮る。「シー、いい子だ。静かにしろ。お友達との取引を続けさせてくれ」

今まで、ほとんど彼女の涙を見たことがなかった。普段は涙を流すような人ではない。いつもなら泣いて慰めてほしがるのは私のほうだ。そして、慰めるのは彼女の役割。恐れ知らずのアンリエット。だからね、今日は私の番。今日は私があなたを救う。

男は顔をしかめ、声が鋭さを増す。「さっさとそれを寄越せ。2度は言わない」私はうなずき、落ち着くよう努める。私は彼を引きつけなければならない。安全だと勘違いさせないと。「バッグの中に手を入れるから」と、彼に告げる。彼は首を振る。「そうはいくか」彼は数歩進んで私の目の前で止まり、顔に銃口を突きつける。「妙な真似をする可能性は潰しておかないとな」それから頷いて続けるよう促す。

私は心底ほっとした。彼が餌に食いついた。あとでその代償を払うことになる。でも、まだだ。あと… ほんのひと目でいい。最後に彼女のあの瞳をひと目だけ。見たくてたまらない。

もう引き返せない。私の手はバッグの中に入り、ピンを抜いてしまった。もう戻れない。私の目が素早く横に動き、彼女の目を見る。最後に一度、視線が絡まる。私の心は穏やかだ。笑顔を浮かべて、彼女に知らせる。どうか彼女も平穏になれますように。

まるで彼女が私の頭の中にいて、私のさよならを聞い——

ラスト・ワード

「お前のものだ。全ての炎が死に絶え、全ての言葉が語られるその時まで」——未知の中に踏み込むにあたって、シン・マルファーから聞き手へ

この日が来るだろうことは分かっていた。そして、この最後の教えも…

全てには終わりがある。良かれ悪しかれ。

確かに、いい時は短く、悪い時は長引くように感じられるだろう、だが永遠なのは不変なものだけだ。

私はそれに出会うために出発する。

運が良ければ、いつかお前もそうするだろう。

だが今のところは、お前にはまだ歩むべき道があるし、生きるべき人生がある。

お前の中に憎しみがあるのは分かっている。みんなそうだ。それを使ってやれ。自分が使われるのではなく。

分かっているとは思うが——復讐はきっかけだ、動機にしてはいけない。

最後にこの言葉を直接… 伝えられればと思っていたが、我々が追っている獲物のことを考えると、書いておいたほうが確実だろう。

正義の味方でいることの最悪な部分はどこだと思う? どれだけそうしたいと思っても、毎回は勝てないということだ。だが私はそれに悩まされることはない。我々は正しいことをする。正しいことが行われなくてはならないのだから。だから、他者がお前やお前の家族に危害を加えたら、行われた罪に対処するために必要な正義を追い求めるのだ。

ひどい扱いを受けたからといって、相手を追うな。

相手が誤ったことをしたから追え。

そこには天と地ほどの違いがある。

片方はお前を自己中心的にする。もう片方はお前を英雄にする。

私はお前が英雄になれると思う。

最後の教えと共に、贈り物をしよう。お前の手に馴染むだろう。重さもちょうどいいし、トリガーは滑らかだ。思うように使ってくれ——正しく使うことは分かっている。

これはお前のものだ。最後の炎が死に絶え、全ての言葉が話し尽くされるまで。

その時まで。

よき旅を。真っ直ぐ狙え。良き狩りを。

J.

——シン・マルファーに宛てられた、3人目の父ジャレン・ウォードからの手紙。ウォードが物乞いの渓谷を越えた森の中のくぼ地で悪名高きドレドゲン・ヨルとの不運な対決をする前に書かれたもの

ル・モナーク

「翼は舞い。美しさは遮られ。毒が盛られる。蝶の呪いが敵まで広がる。儚い命はお前の手でより一層儚いものとなる」——エイダ1

私たちは共に座り、遠くの山を見つめている。天に向かって伸びている山々を。世界にはまだ色鮮やかな場所が存在する。私たちはそれを忘れてはならない。彼女の心をこれらで満たすことが、彼女を人間たらしめる。彼女を以前の世界に繋ぎとめる。

すぐそばで、蝶の群れが周囲の世界がどうなったかを知らずに次の食料を求めて羽ばたいている。

彼女はそれを見る。彼女にとっては目新しいものだ。群れから外れた蝶が彼女の腕にとまる。彼女はそれを見て、それから私のほうを向き、「ル・モナークね」と言う。私は頷き、微笑もうとする。私は彼女を見る。彼女はどことなく蝶に似ている。美しさと危険を兼ね揃えた存在だ。

悲しみが押し寄せる。手を差し伸べ、彼女の背をさする。2人にとって、ほんのつかの間の慰め。彼女の身体の冷たさを感じて、私は手を離す。ほんの一瞬、彼女が何だったかを忘れていた。

気まずい沈黙。もう一度彼女を盗み見る。彼女が誰で、どういう存在であるかに、恐れと畏敬の念を同時に覚えている。

私自身の歪んだ情熱と無謀さが作り出したものだ。

ル・モナークは飛び去る。おそらくもう見ることもないだろう。

ヨトゥン

「野蛮であり。破壊的だ。力強く、混沌としているユミルの様に」——エイダ1

宛先: アンリエット・メイリン
CC: 佐藤由紀
件名: 昨日の件…

アンリエット

昨日の話が行き過ぎてしまったのはお互いに分かっていると思います。私は頭に血がのぼってしまったし、あなたも過剰反応した。今後は、こういう状況においてお互いもっとプロ意識を持つことを学ばなければなりませんね。

ですが、私は引くつもりはありません。これはアーマリー のためになる話です。私たちと同じ目的を持つ組織と有意義な関係を築くチャンスです。可能性は無限大ですよ。

そもそも、私を探し出し、このプロジェクトのために連れて来たのは、私のコネクションが目的でしょう? 彼らはまさに金鉱です。確かに、私は今まで彼らについていい話はしてこなかった。それなりに色々ありましたから。彼らは完璧ではありませんが、それは私たちも同じです。アーマリーがしていることを考えれば、ひとまとめに扱われるのは仕方ないことでしょう。

これは大した売り口上ではないのは自覚しています。だから、展望について述べさせて。我が敵の敵。簡単なことです。相手がなんであれ、私たちはみな同じ脅威と戦う用意をしています。そして私たちはみな、同じものを失う立場です。最善の策は、手を取り合うこと。そこから1歩ずつ歩み始めるしかありません。エクソは未来です。そして私たちは彼らをより良くすることができます。

最後に、今回は私たちが優位な立場であることを忘れないでください。これは私たちが作った技術です。私たちの許可がなければ、彼らは触れることも、改造することもできません。ですが、盗んだり、複製しようとしたりすることはできます。私たちが制御できるようにしておいたほうがいいと思いませんか?

私たちは姉妹です。家族です。私があなたを愛していることも、アーマリーのためにならない話は持ってこないということも分かっているでしょう。もし、あなたが拒否することを固く決意しているなら、私はその決断を尊重します。それは分かっていますよね。

だけど、どうか同意してください。アーマリーの未来のために。人類の未来のために。私たちの子供たちの未来のために。

——ヘルガ