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鳩と不死鳥
1: 責務 第1部
一基のエンジンがデッドゾーンの偽りの静寂の中を突き進み、薄明かりに照らされた境界線のすぐ内側で、金属のシャーシを軋ませている。輸送船は雲を突き刺す針のような山脈を通り抜けた。切り刻まれた雲は層に分かれ蒸気へと姿を変え、まるで石けん水のように黄昏の海へと溶け出した。非公開通信の音が鳴り響く。
マリン・オル:
どこもかしこも林冠が分厚すぎて着陸できそうにない。開けた空き地で姿をさらすことになりそうだ。
セイント14:
彼女はそこにいるはずだ。最後の通信で6人の難民がいることを確認している。エーテルの密売人だ。
ゼペット:
それに30体以上のフォールンもいます。
マリン・オル:
それならマシンガンを持ってきて正解だった。
セイント14:
奴らと取引をしているウォーロードには… 話を聞く必要があるな。
マリン・オル:
目の前の任務に集中しろ。あと30秒だ。
ゼペット:
ミス・ルシーンのゴースト、その名も「ゴースト」から、パイクの報告は受けていません。ただ、野営地の中に面白そうな穴があります。無線は使えなさそうです。
マリン・オル:
関わらないほうがいい、間違いなく。
彼らは谷間の影の中に入り込むと、雲の航跡を残しながらゆっくりと着地した。輸送船が大きな音を立て、エンジンが完全に止まる。タイタンとウォーロックが船から下り、そのまま待機した。
「よくやった、ゼペット」と、ヘルメット越しにマリン・オルの声が響いた。そのバイザーは木々の方を向いたままだ。
ゼペットは薄暮の地平線に向かってコードを送信して応答を待っている。「ありがとう、ブラザー・マリン。初の試みでした」
マリンは動かなかった。
セイントは輸送船の積み荷を開くと、マリンのほうを見た。「彼女はここにいるはずだ」
ゼペットは瞬きをした。「ミス・ルシーンからの応答はありません」
「心配ない、まだこれからだ。ティヴは明日には我々と一緒に笑っているはずだ」セイントはマリンの背中を叩いた。
「明日」マリンの視線は暗い木々から離れなかった。
「ああ。明日だ。その翌日、その次の日、そしてやがていつかはアーマーの装備すら必要ない日が訪れる」
「悪くない考えだ」と言うとマリンは背筋を伸ばし、さらに木々の深淵をのぞき込んだ。
木々の間から光が微かに見える。
「ブラザー・セイント。彼らを見つけたぞ」
2: 責務 第2部
ティヴ・ルシーンは6人を引き連れて木々を離れた。彼女は黄昏の中で輝くゼペットの光を見つめた。彼女の「ゴースト」という名のゴーストは、彼らを目的地まで「案内」する子供の手の中で回転し、明滅している。月明かりが谷間に忍び込み、日没と月の出の間を浮き彫りにする。彼女のブーツと足元の草が露に包まれる。彼らが接近し、ゴーストは消えた。
マリンはその場で身動き一つしなかった。その肩にはロングバレルの武器が固定されている。
「マリン、今回のことは本当にありがとう」とティヴは優しく言った。彼女は頼りになりそうな手を差し出した。
彼は頷くと彼女と握手をした。「セイントのアイデアだ」
「彼がそう言ったの?」彼女は、避難民たちと言葉を交わしながら輸送船に誘導するセイントの方を見た。
「誰のアイデアかは関係ない」セイント14は彼女と抱擁を交わした。
マリンはその場から動かず、彼らの向こう側を見た。林冠から炎が立ち上り、空に再び青白さが戻ってきている。金切り声と光が森の中で興奮に変わる。そして空を覆う雲がそこに闇を投げかける。
マリンが動き出した。「ティヴ、積もる話は後にしてくれ。セイント、こっちだ」
マリンは草の中にバイポッドを置いた。セイントは光を照射し、木々の手前に光のバリケードを生成した。
「行け。長い旅になる。追跡者が出ないよう援護する」そう言うとセイントはライフルを担いだ。
ティヴは頷き、コックピットに向かって走った。
扉が閉められた輸送船に向け、セイントが敬礼した。
端のほうから遠吠えが響いた。フォールンが姿を現した。
マリンがリピーターを構えた。「出番だ」
輸送船のエンジンが炎を上げる。うなり声をあげながら、輝き、炎が揺らめいている。それは篝火であり、希望だった。
遠くから不協和音が聞こえてきた。悲鳴を上げる赤いシェルが空き地を切り裂き、林冠の向こうにいた熱い船体を引き裂いた。
輸送船は完全に破壊された。
ティヴは吹き飛ばされ、なすすべもなく草の上を滑った。
耳をつんざくような衝撃が夜の静寂を破った。その中で、声が響いた。
「スパイダータンクだ!」
3: 責務 第3部
セイントは輸送船があった場所にできた裂け目を見た。「全員死んでしまった…」
「制圧射撃だ!」マリンは木々に向かって叫んだ。フォールンがその声に向かって突進してくる。「行け!」
セイントはティヴの姿を見た。新たに呼吸を始めた。彼女は残骸の中をうずくまるようにして、少し離れた場所をよろめきながら歩いていた。彼女は輸送船の外郭の破片に寄りかかり視界から消え、ゴーストは忙しく光を発していた。夜の空気はひたすらにしんとしていた。
エクソの目は木々のほうを向いていた。彼の意思を示すように、それは虹色に輝いていた。彼の回りの空気がどんどん濃くなっていく。彼のプレート上に紫色の光のさざ波が起こり、恐怖に屈するかのようにたわみ、光り輝くシールドとなった。彼はボイドの光でフォールンを迎撃した。マシンガンが頭上で鳴り響き、ドレッグたちを引き裂くと、前線は2つに分かれた。彼は一歩一歩進みながら、立ちはだかる者たちをなぎ倒していった。木々までたどり着くと、シールドを投げてウォーカーの四肢の1つを切断した。
彼は今、死と向かい合い、その瀬戸際に立っていた。自身の身長ほどもあるウォーカーの銃が垂直状態に戻ろうと動いた。セイント14はそこから動かなかった。彼はまばゆい光を放つ防壁と化した。それは報復であり、夜に歯向かう紫色の壁であった。だが夜明けが訪れることはなかった。ウォーカーのキャノンが再び轟音を響かせ、大きな衝撃波を発生させた。その爆発によって彼は吹き飛ばされ、残ったのは暗闇だけだった。
金属の手が、麻痺したように開かれ、徐々に拳を形作っていく。力が入らない。セイントは意識をなんとか取り戻した。彼の視界は炎と残骸で埋め尽くされていた。ウォーカーの炎の中で木々が揺らめき、フォールンが煙の中から姿を現した。フォールンはくぐもった空虚の叫びを上げながら空き地を埋め尽くした。セイントは瞬きをした。急速に現実の世界が蘇ってくる。
「スカス・ヴェスキリスク」残っていたフォールンたちの中から巨大なキャプテンが現れる。「スカス・ヴォラススク!」彼が叫び声を上げると、バンダルからドレッグへとざわめきが広がっていった。
マリンが後ろを守っていた。息を乱し血を流している。「もっと速くだ… ティヴ…」
「カプソク・アプス・ヴァンケムラプタリラスク。カプソク・アプス・ヴァメサケプトシルロスク」そう言うとその集団は武器を構えた。「メリクスニスク。モネクイン」。彼らはボルトの嵐を解き放った。
ティヴは空中でボルトの嵐に見舞われ、真下の地面に稲妻が走った。彼女は鋭い判断力でその嵐を素早く回避し、ファイアチームの周囲にアークボルトの雨を降らせた。土が甲高い音を立て、ボルトが地面を焦し、空中に煙を渦巻かせている。彼女は身を隠すために塵の中に滑り込むと、混乱に陥っているフォールンを高純度のアークで押し流した。
マリンはその隙を見逃さなかった。集中力を高め、力を振り絞り、光を一点に集めた。周囲から色が失われ、辺りが闇に包まれていく。彼がそれを解放すると、現実を永遠に引き裂かれんばかりの青白い光が辺りを包み込んだ。ボイドの球体がウォーカーに命中すると、金属体がねじ曲げられながら虚無へと押し込まれていった。
フォールンは一体残らず消え去った。
瓦礫の山に囲まれ立っているの彼らだけだ。
4: 火に入る蛾 第1部
残り火が音を立て、オシリスの顔に光を投げかける。後ろの木々は形を失い、真夜中の虚無の中に溶け込んでいる。サギラが肩の近くを横切った。遠くまで静寂に包まれている。彼女は小さなダイヤモンドだ。孤独には慣れている。熱気の中を楽しそうに飛びながら瞬きをしている。ぼんやりとした精神は、肉体を置き去りにした。
彼は無の中に独りでいる。
もう邪魔者はいない。
深淵にはある場所が存在する。
直接見ることはできない。
掘り下げ、潜り込み、さらに奥深くへ。
「炎が消えていきます」
うんざりするようなこの世の騒音が戻ってくる。
「うん?」
「寒くないですか?」
「大丈夫だ」と言うと、オシリスは眉間をこすって炎をかき立てた。「ありがとう、サギラ」
「あなたが望んだだけでどうにかなる問題ではありません、オシリス。あなたには時間が必要です」
オシリスは歯を食いしばった。彼は広い浅瀬に立ちながらも、認識できないほどの深淵にいるような感覚に陥っていた。「なぜ私を選んだ?」とオシリスは虚ろな声で言った。彼はサギラが乗れるように手のひらを広げた。
「あなたは輝きを持っている」彼女の声は暖かかった。炎がパチッと音を立てた。
「輝き?」彼の顔に苛立ちが見える。「この世界は滅びる。何度も何度もな」
「それはあなたも同じです。だから私が連れ戻しました」と言うと、サギラはオシリスの手の中に納まった。「私はあなたが独り立ちできるまで育てました。あなたも彼らのためにそうするのです。あなたなりのやり方で」
彼女の言葉が優しく耳に響いた。
「サギラ、私にはお前のような忍耐はない」
彼はゆっくりと息を吸い、吐き出した。
「誰か来ます」彼女の声が鋭くなった。
「私を隠してくれ」彼は静かに言った。
オシリスが手を閉じるとサギラは姿を消した。そして彼の姿がおぼろげになった。
5: 火に入る蛾 第2部
オシリスの側面に広がる森の中から、数名の人間が姿を現した。中には使い古された武器を持っている者もいる。先頭に立っていた者がさっそうと近づいてきた。
「立て、そこの老人」肩越しから投げかけられたその言葉は、湿っぽくて重かった。
「断る」
派手な色のゴーストがオシリスの目の前で言った。「ウォーロード・ライヒが立てと言っているのです」
「お前は私の縄張りの木を燃やした。これはある種の窃盗だ。腕1本分に相当する」
「不死であるのに、自分の身の回りのものを手に入れることしか頭にないんだな。何とも贅沢な話だ」
ウォーロードは笑った。ゴーストもそれに合わせてすぐに笑った。
「恥知らずめ」オシリスは自分の肩越しに言った。「立ち去れ。もう一度その生き方を考え直すんだな」
「腕でなければ、その命をもらう。それが決まりだ」
「好きにしろ」オシリスはウォーロードに選択の猶予を与えた。
「私の後ろでは6丁の銃が構えられている」そう言うとウォーロードはオシリスのフードに銃を突きつけた。
「私は輝くものを持っている」炎がオシリスを飲み込み翼へと姿を変え、夜の中に影を映し出した。その手から、白く燃えさかる剣が伸びている。それは一瞬だった。オシリスによってウォーロードは炎を上げる塊となり、空中で固まっていたゴーストは彼に拘束された。オシリスが他の者たちのほうを見ると、森の中へと急いで逃げていく背中が見えた。彼はゴーストに視線を戻した。
「なぜこの男を選んだ?」オシリスは炎を消した。
「離してください!」
サギラが再び姿を現した。
「そこのあなた! 頼む、助けて!」
「大丈夫です。彼はあなたを傷つけたりしません。私に話してください。彼のことは気にしないで」そう言うと、サギラはそのゴーストの目の前に移動した。ゴーストたちは目を合わせると、不規則に何度も瞬いた。
「彼を離してあげてください」
オシリスは手を離した。ゴーストは姿を消した。「サギラ?」
「彼は強者を必要としていました。戦士を」
「それだけか?」
サギラが動きを止めた。
「トラベラーは… 私たちを作った時に負傷していました。その痛みは反響し、やむことはありません。私たちの中には誤った選択をする者もいます。中には怖がる者も。皆が一様に対処できるというわけではありません」
「傷か」オシリスは、光が届かないほどの森の深みに身をすくませた。光に傷があるのなら、破損の可能性があるということだ。無敵ではないということは、いずれはそれに立ち向かう者が現れるかもしれない。
「私たちは全体を成す要素の内の1つにすぎませんが、同じではありせん。それぞれに個性があります。あなたとて独りで完璧な存在なわけではありません」
彼は忍耐というものを学ぶ必要がありそうだ。
「あのゴーストはどこへ行くんだ?」
「トラベラーのところに戻りました。新たな人物を、そしてより良い人材を見つけるために」
6: 礎 第1部
シティの街がオシリスの目前に現れた。周囲には今にも崩れそうなバリケードが数キロにわたって築かれている。彼は大股で作りかけの錆びた壁を通り過ぎると、小さな銃弾の跡がいくつもある道を横切った。住人は壁の溶接や修理などを行っており、素材を転用して頑丈な家を作るために、戦争の被害に遭った小屋を解体している者もいた。
数人の光の戦士の姿も目にした。急速に高くなっていく壁に使うために大量の金属を運ぶ者、ソーラーの光で骨組みを溶接する者、死者を港に誘導する灯台のように、シティとの境界に建てられている監視塔から迫り来る脅威を警戒する者などがいた。ゴーストはダイアグラムと設計図を表示し、労働者たちに指示を出している。ある男がバケツの中から粗雑なコップを取り出した。きれいな水がしたたり落ち、彼がそれを持ち上げ音を立てて飲んでいる。そのバケツは台車に乗せられ、他の者たちの渇きを癒やすために別の場所へと運ばれていった。
「こんなにたくさんのゴーストを見たのは初めてです。長居する予定なのですか?」
「サギラ、ここにはトラベラーがいる。答えを探すのに最適な地が他にあるか?」
茶とスパイスの匂いが空中に漂い、煙と蒸気越しに五感を刺激する。スパイスの利いた肉の香りがオシリスを中央広場へと導いた。材料が散乱し、鉄くずのようなライフルが立てかけられた低い塀がそこかしこに見られる。アーマーを身につけたエクソが、瓦礫でできた輪の中でグリルの間をすり足で踊るように動いている。
「もっと… 壮大な場所だと思っていました」遠くにあるテントの設営地の痕跡を見ながらサギラが呟いた。
「噂というのはそういうものだ。フェルウィンターが言っていたオアシスとは比べものにならない。だがまだまだこれからだ」
「これ以上に壮大な場所があるか?」エクソのシェフはそう言いながら、粗野な岩のカウンターの上に数枚の木製の食器を音を立てながら置いた。「希望だ、ガーディアン。こういう穏やかな日が… すぐにもっと訪れるようになる」
「私はガーディアンではない。友人に会いに来ただけだ」オシリスは、遠くでひときわ存在感を放っているタワーを見て言った。そこだけ、骨のように白いオーブの影に包まれていた。
「私がその友人になろう。さあ。座って共に食べようではないか。食べ物は十分にある。私はセイント14だ」
オシリスは皿に乗った肉と煙を上げるグリルを見てから、再び遠くの建物に目を戻した。「お前ならあの壁の上で、20人分の仕事を余裕でこなせそうだな」
「あれは彼らの壁だ。協力が必要なら、助けを求めに来るだろう」セイント14はそう言うと、オシリスに料理を差し出し、笑顔を見せた。
「彼が自己紹介をしないようなので… 彼はオシリス、私はサギラです。お会いできて光栄です、セイント!」
7: 礎 第2部
「こちらこそ、サギラ! オシリス、座ってくれ」セイント14は壊れそうな木製の椅子を示した。
2体のゴーストが目の前を通り過ぎ、カウンターの皿を片づけるとすぐに移動した。
「サギラ、彼らが食べ物を運ぶのを手伝ってやってくれないか?」
「もちろんです。先にサービスプロトコルだけ読み込ませてください」冗談は空振りに終わった。セイント14は心から感謝の意を示した。「オーケー! すぐに戻ってきます!」そう言うと、サギラは空中で慎重に皿のバランスを取りながら遠ざかっていった。
「腹は減ってないのか?」
「お前なら鉄の豪傑と一緒にパトロールもできたはずだ」とオシリスは皿を引き寄せながら言った。
セイントは座った。「お前はそこに意義を見出せるか?」
ゴーストの一団が向こうから現れ、一緒に大騒ぎしながら楽しそうに喋っている。瓦礫の前に移動して、きれいな皿を置くと、別の皿を拾い上げ、再び姿を姿を消した。
「あそこには怪物がいる。光なき者では生き残れないだろう」
「人生はそう易しくない」セイントは立ち上がり、グリルに薄切りの豚肉を並べた。「助けられる者が、助けるべきだ」
「私が心配しているのは、失われた可能性だ」オシリスは皿から小さな肉の塊をこっそりと取った。
「預言者に会うべきだな。彼なら進むべき道を示してくれるかもしれない」
オシリスは冷笑した。「それはどうだろうな」
「賭けてみるか?」セイント14は豚肉の山を手でひっくり返した。
「ギャンブルはしない主義だ」とオシリスは動きを止め、肩越しに目線をやった。
サギラは他のゴーストと隊列を組んでいる。空中を踊るように進み、即席テーブルの上にある空になった皿を片づけている。
「善人なのか?」
「彼になら自分の命すら賭けられる」
「ふむ」
セイント14はシティの境界線を示した。「つまりはだ、一息つけるかどうかが問題だ。そういう時間があると人はより善い行いをする」
「本気でそう思うか?」
「ああ、お前にもいずれ分かる時が来る」
ゴーストたちが宙返りをした。サギラが笑っている。
「そうかもな。食事をありがとう、セイント14」
「どういたしまして」
2人は食事を続けた。
オシリスの肩から力が抜けた。「焦げた味がしないか?」
「いいや」
8: 観察者効果
セイント14は、色とりどりの様々なパターンに染め上げられた、辺りに広がったウールの房の間を突き進んだ。
ファイアブレーク隊は谷まで勢力を拡大し、圧力をかけられても、決してそこを明け渡そうとはしなかった。だがその抵抗も長くは続かなかった。8名が倒れ、1名が行方不明になった。
彼は西の境界の尾根に姿を現した。まるで万華鏡の縞模様のように、アーマーにはまだウールの房が引っかかっていた。後ろの空で爆発が起きた。それに続いて稲妻が落ちる。シティはまだ失われてはいない。
8名のガーディアンが光を失い、倒れた敵が埋め尽くす焼けた大地の中で、背中合わせになって横たわっている。フォールンはハゲワシのように彼らを取り囲んでいる。その混乱の中で、ゴーストたちは誰にも見つかることなく尾根の頂上へと逃げ出していた。セイント14からは、見つからないように急いで低空移動しているゴーストたちの姿が見えていた。彼は急勾配の尾根のへりにある小さなクレーターへの行き方を頭に描いた。そこで彼らと合流できるはずだ。
彼はクレーターへと注意を向けた。9人目。エルリックだ。彼女は無事だった。独りでいる。小さくなって身を隠している。
セイントはクレーターに滑り込みエルリックの横に立った。驚きによって浮かんだ恐怖の表情が次第に彼女から消えていく。
「大丈夫か?」
「大丈夫」彼女のゴーストは傷を負ってはいるが生きている。
「我々で突破口を開く。そして彼らをもう一度立ち上がらせる」
フォールンの頭上で爆発が起きた。付近にいた者は灰になり、その場にはオシリスの黄金の光が輝いていた。爆風は近くにいたキャプテンのバリアを破壊し、彼らを地面へ叩き伏せた。悲鳴と叫び声が鳴り響く。衝撃波によって空に稲妻が走った。
炎が降り注ぎ彼らは四散した。きらびやかなリボンを切断するかのように、彼はフォールンの間を移動した。当惑が混乱となり、次々と炎に飲み込まれていった。
「奴らに地獄を見せてやれ」セイントはエルリックのほうを見た。「準備はいいか?」
「無理だ」
オシリスは一瞬逃げるゴーストたちのほうを見やった。カチ。彼らは尾根を登り切ろうとしていた。カチ。そして視線を戻し、手のひらに炎を灯した。カチ。キャプテンが立ち上がり、スコーチキャノンの怒りを爆発させた。オシリスのイメージは爆発によって引き裂かれ、光が谷全体に降り注ぎ、溶けたガラスに覆われた。
フォールンがさらに谷に押し寄せている。
「お前が必要だ、タイタン」
「私はもう死にたくない」
「なら死ななければいい」そう言いながらセイントはマガジンを確かめた。
尾根の端で小さな光がいくつか光っている。「ガーディアンだ!」
彼女は体を起こして数を数えた。数は8。全員生きている。彼らはどんな大きな困難をも乗り越えてみせる。
「私にはできなかった…」
「これは新たな選択肢だ」とセイント14はクレーターから出て言った。「人はなりたいと思った自分にしかなれない」
エルリックは立ち上がった。「小さき者たちよ、皆は隠れていて。あなたたちのガーディアンは必ず連れ戻す」
9: 希薄
オシリスが炎を上げている。塵に覆われた空を背に叫び声が轟く。終わりのない夜が圧縮され、光の群れがねじれて音を立てる。力を溜めた腱が筋肉と骨を繋ぐ。無数の輝く黄金のマリオネットが集まり、彼の命を受けてシティの防衛網の隙間を埋める。逆上して大声を上げるフォールンの波が東側から侵入した。前線は突破されておらず、後退しただけだ。彼は予見をそこに集中させた。
小さなファイアチームが前線を維持している。オシリスは身をよじった。黄金の軍勢がフォールンの勢いをそぐために動いた。1つの予見がタイタンと目を合わせ、頷いた彼女を素早く空へと運んだ。彼女は嵐を呼び出し、シティの防壁に稲妻を落とすと、進撃する軍隊を撃退した。シャックスが遠くから叫び声を上げる。
複数の群れが倒れた。星のない夜に空が広がっていく。息苦しさがその場を満たす中、忘却がオシリスの精神の境に押し寄せてくる。その端で、光が薄く引き延ばされている。それは避けることはできない。永遠に満たされることはない。
西側が歪んでいく。
そして瞬時に移動する。
オシリスが地獄を紡ぎ出す。エーテルと炎がお互いを飲み込んで灰色の奔流を作り出す。彼は8つの光が尾根を登るのを確認した。カチ。1人のガーディアンが地平線上に見える尾根の頂上で転がる。カチ。彼らは生き延びられるだろう。カチ。彼は振り返る、手のひらに――
北が歪んでいく。
神経が高ぶっている。シティの金色の色相が揺れる。息を吐いた一瞬のことだった。
北が断裂した。野戦砲が防壁を引き裂く。
彼はそこにいる。2人のハンターがそこを守っていた。1人は炎に包まれたライフルから太陽の光を撃っている。2人目は敵の間を踊るように移動している。その刃は純粋なアークでできていた。彼らの間を通り抜けられる者などいなかった。
彼の予見はその隙間を埋めるために動いた。
瓦礫の中で死体が積みあがっている。
東の侵攻から逃れようとして爆発に巻き込まれた人々だ。
死の全容が焼きつけられている金色に彩られた20の瞳が彼の精神を埋め尽くした。
オシリスが黄金の光で北の前線も洗い流すだろう。
彼は崩れた壁を見た。その隙間から、終わりのない絶壁が、無益な精神に影を投げかけている。辺りは危険な者たちで溢れかえっていた。下のほうをのぞき見ながら、徐々に拡散し、腹を空かせ、深淵によって最後の希望が覆い尽くされる瞬間を待ちわびていた。光がフォールンの前線を切り崩している今も、それ以外の者たちは星のない深淵でただ傍観していた。今回は凌げても次はそうはいかない。ダムはいずれ決壊する。全ては時間の問題だ。
ただ今は、南が歪んでいる… そしてまだ炎で浄化することができる。
10: 戦いの物語
ゼペット:
通信障害はもうありません。再接続します。どうも。ようこそ――
シャックス:
こちらシャックス、敵は全面撤退した!
オシリス:
北の壁は持ちこたえたが――
私の助けが必要なようだ。
セイント14:
シャックス? 聞こえるか? 西の前線に敵の姿はない。こちらセイント14。
シャックス:
素晴らしい! それなら南に向かおう。
サラディン:
フォールンの南からの進軍は失敗した。シティは無事だ。
静寂が訪れた。だが次の瞬間――
シャックス:
奴らはここを突破して我々全員を排除できると考えていたらしい。
皆が笑った。
サラディン:
そうだな。
オシリス:
全ファイアチームの生存確認。死者はいない。
セイント14:
お前と友人エルリックのおかげだ。彼女の活躍を見るべきだったな。8つの小さな光を救い、私と一緒に何十体ものフォールンに罰を与えた。稲妻に、弾丸――なかなかの見物だったぞ。
エルリック:
褒めすぎだ。一緒に戦えて光栄だった。
シャックス:
何十体も?
サラディン:
それは凄いなセイント。その代償に何回命を落とした?
セイント14:
一度も死ななかった。エルリックの素晴らしい援護のおかげで――
シャックス:
嘘に決まっている。
セイント14:
それはお前が死んだからか、シャックス? フォールンに角を折られたらしいな。
シャックス:
どこでそれを聞いた?
エルリック:
セイントの言っていることは本当。私たちは死ななかった。
セイントは思わず吹き出した。
シャックス:
皆がお前みたいにできたら良かったんだがな、セイント。
セイント14:
さっきも言ったとおり、援護が素晴らしかったんだ。
オシリス:
私は自分が何度死んだか覚えていない。
私はあの戦いをシティの瞳を通して監視していた。
まさに綱渡りだった。
我々は広範囲に散らばっていた。
セイント14:
お前は良く戦った。
それを誇るべきだ。お前がいなければ、我々は恐らく死んでいた。
オシリス:
実際に死んだ者もいる。
11: 一息
高い壁の境界線近く、シティの他の区域から離れた場所に、戦争で肥えた土から生まれた小さな農園がいくつかあり、その耕された畑に野菜の種が蒔かれていた。戦争後、長い間放置されていた瓦礫に蛇のようなツルが絡まっている。シティがシックスフロントから解放されてから数週間しか経っていないため、街全体がまだ慌ただしかった。草花がトラベラーの光の中で芽吹いている。
間もなく雨が降るだろう。
太陽を彩るように色を踊らせる大きめの夏用の生地が、濃色の複数の層から成るウール生地に取って代わられた。エメラルドの房が鉄の柱の頂上で風に吹かれて波打ち、明日の祭りのための種の並びを広く作り出している。イコラはシティの中心に住んでいる住人に、追憶に参加するように促している。セイントが肩からくびきを下ろすと、彼らはお互いに笑い合った。この祭りの前は、これだけ多くの人々と一緒に種まきができるとは思っていなかった。誰かがそこを訪れるたび、彼は挨拶を交わした。握手をする者もいれば、感謝の気持ちを述べる者もいる。一部の者は、彼の金属フレームに結びつける紫色のリボンをプレゼントした。
壁の上に鳥がとまっている。
ザヴァラはウォードクラッシュの円を作るように、最後の数本の柱を置いている。シャックスは子供たちの中で身動き一つせずに立ちすくみ、芝居じみた口調で英雄譚を話すその様に子供たちが釘付けになっている。アナはソーラーによる爆竹を使ってランタンを作り、お祭りの参加者のためにそれを種の並びの前に設置した。オシリスの姿はない。無限の偏愛に支配されている彼の心配事が尽きることはなかった。
彼の回りで世界は成長した。
セイントは代わる代わる種の並びを訪れる住人たちの姿を眺めている。彼らは周囲に種をまき、風に吹かれたランタンが畑と壁を照らしている。仕事を終えて家路につき始めると、迫り来る夕暮れに逆らうように炎が輝きを増した。ガーディアンたちは準備を終え、夜の任務へと向かう。辺りは徐々に静けさを取り戻していく。
「忘れたくない人はいる?」アナは空っぽのランタンをセイントに渡した。
彼は手の中でそれを回した。「我々が暗黒を撃退したらどうする? 平和が訪れたら?」
「分からない」と彼女は笑った。「他の13人のことは気にならないの? 私は時々考える」
「私は14で満足している」
アナは彼の肩を掴んだ。「私もよ、セイント14」と言うと、彼女は一掴みの種を彼にまいた。「足下に気をつけて。暗くなってきたから」と言って、彼女は笑った。
「ありがとう、アナスタシア」
アナは頷いた。「アナでいいから」と言うと、彼女はシティへと戻っていった。
セイント14はランタンをボイドの光で満たすと真っ直ぐと歩き出した。「マリンのために」
彼は腰を下ろした。鳩が彼にとまり、種をつついている。ランタンを眺めていると、それは次第に星の中に溶け込んでいった。
「良い子だ。ここを家に選んでくれてありがとう」
12: マージン 第1部
オシリスはトラベラーの下にある小さな石造りの庭に座っている。親交を深めるという彼の試みは失敗に終わった。彼は数時間、そこに立つ預言者を見続けていた。
イコラは渋々ながらも追憶で彼のもとを訪れることに同意した。断固とした話し方だったが、心の奥底では勝利が誤った充足感をもたらしていることに彼女は気づいていた。
今にも押しつぶされそうな、恐ろしいほどの圧力を感じる。
絞首刑台が足を踏み外す時を待ちわびている。
これは繊細な駆け引きだ。
炎が影を投げかけ、邪魔な影が視界を幾度となく遮り集中力を奪った。
オシリスは深呼吸をした。
石造りの庭は無限の空間だ。空の境界と地平線は繋がっている。
息を深く吸う。
無の中に独り。もう邪魔者はいない。
奥底にはある場所が存在する。直接見ることはできない場所だ。
掘り下げ、潜り込み、さらに奥深くへ。
それでも、光の届かない唯一の場所。
虚無。広大。
オシリスは新たな視点を得ようと没頭した。その場所はまだ残っている。
非常におぼろげで、遠くにはあるが、彼は光が見えることを知っていた。
彼は必死に手を伸ばした。手と、その場所の間にある空間にある明瞭。骨のように白い色をした場所。そして今はぼやけている。
それは偏在していた。
尽きることのない応答。
はるか彼方。非道に立ち向かう自身。際限なく広がる夜。そして隔離された場所。
13: マージン 第2部
「また会えてよかった。座ってもいいか?」彼が言った。
うんざりするような雑音。石造りの庭はそこに存在する。彼もそこに存在している。
トラベラー。荒涼とした、薄暮のインクを支配する唯一絶対の君主。
「ああ」そう言うとオシリスは立ち上がった。
「ここにいろ」
オシリスは足を止め、預言者のほうを見た。トラベラーの光が骨のように白い彼のマスクに打ち寄せる。「何か必要か?」
「シティでは色々と忙しい。お前と最後に話したのもだいぶ昔のことのように思える」
オシリスは何も言わなかった。彼はトラベラーを見た。
恐ろしいほどの圧力がそこにはあった。
「何かあったのか?」預言者はオシリスに近づきながら言った。
オシリスは鋭く息を吸った。「私の報告書を読んだか?」
「もちろんだ」と預言者は言うと、体から力を抜いた。「お前の考えは評価している」
「我々は限りなく近くにいた。だが間違った場所にいたのだ」オシリスは預言者のほうを見た。
預言者はうなずいた。「ああ。だが光はお前を導いた」
絞首刑台が足を踏み外す時を待ちわびている。
「シックスフロントではトラベラーの姿が見えなかった」
トラベラーのせいでオシリスが小さく見える。「いや、息子よ、お前には見えていた。お前の同志を救った炎の中に存在していたのだ。それは敵を切り裂いたアークボルトの中にいた。前線を維持していたシールドにも――」
「責務を美化するな。我々は武器を手にしている」
預言者は首を振った。「光がお前を利用しているのだ、オシリス。お前自身がお前という存在を形作っている。その偉大なる栄光の一部なのだ。その方向性も一つとは限らない」
オシリスは自分の語りに合わせて歩いた。「それならはっきりと示してくれるはずだ。より正確に私を導くためにな」
預言者は首をかしげた。「意志もなくか? それなら暗黒と変わらない」
「私は導きを必要としているだけだ。我々が行っている駆け引きは繊細だ」オシリスの声から苦悩が感じられた。
預言者が再び堂々たる所作で、石造りの庭を示した。「一緒に座らないか?」
14: 守護者
石が敷き詰められた道がシティのあちこちに伸びている。セイント14は故郷にいる時、毎日のようにそこを歩いた。時間の許す限り。
人の波。皆の歓声。
彼らは友愛というものを教えてくれる。
パン。記念品。ロイヤルパープルの飾り房と帯が優雅に揺れている。
彼の名前はガーディアンの代名詞となっていた。
信奉し、敬うべき象徴。
彼は笑顔で握手を交わした。
彼は笑顔で贈り物を受け取った。
彼らの喜びは彼の喜びでもある。
皆から送られたロイヤルリボンを首に巻き、その重みを感じていた。それは期待ときつく結びつけられていた。
彼のアーマーは信念だ。移動するにしたがって、それは滑り落ち、緩くなっていく。
彼らは共に歌った。声の持ち主たちとパンを分け合った。そして彼らの髪にリボンを結びつけた。
彼の喜びは彼らの喜びだった。
彼らは彼に新しい歌を贈った。
その声は光り輝いている。
15: 導き手
父と息子がタワーの頂上に立っている。
彼らの目の前でシティは花を咲かせ、トラベラーのもとで、外界にその種を芽吹かせていく。シックスフロントは喊声となり、それが人類を次の偉大なる目標へと進ませた。長い夜の間に、希望を胸に抱き、多くの約束を実現するために、大勢がシティのゲートへと向かった。
「最初にここに来た時、こうなると予想していたか?」セイント14はタワーの手すりに寄りかかりながら聞いた。
預言者は人で溢れかえる通りを見て言った。「こんなに早くとは思っていなかった。だが我々ならできると信じてはいた」
「私が最初に目を覚ました時のことを覚えているか?」
「ああ」
「私が他の者の手本になるような人物になると言っていた。なぜそれが分かった?」
「さあな。だがお前にはそれだけの可能性があると信じていた」
トラベラーが青い空を覆っている。その表面の光の層が、遠くに見える孤立した山に反射してきらめくドームを作り出している。
「私は時々、自分たちの選択について考える。果たしてそれは正しいのか、失われた者たちはそれに賛成してくれるのだろうか、と。彼らの残してきたものには敬意を払いたい」
「我々は弱い存在だ。エクソであってもそれは同じだ。確かに自分の気持ちを見つめ直すのは良い問いかけだ」彼はセイント14の肩をつかんで真っ直ぐ立たせた。「私では、お前が皆のために何を犠牲にしてきたのかを知ることはできない。だが失うものがあるからこそ人生は美しい」
セイントはうなずく。「多くのことを学んできた」と言い、彼は頭を上げた。
彼らはシティの動きと流れを目で追った。
「我々が勝ったらその後はどうする?」
預言者は頭の中で慎重に言葉を紡いでいる。
「ゼペットと私はコスモドロームにたどり着く以前に、多くの不毛の大地を調査してきた。彼女はほとんど希望を失いかけていた」彼はセイント14に向き直った。「探すべき場所を指示された途端に、あの小さな光はお前の居場所を即座に突き止めた」そう言いながら預言者は笑った。「そこには過去も未来もないのだ、息子よ。我々は挑戦し、疑い、成長する。全てが繋がっているのだ」
16: 政治
「オシリス、悪いがイコラはお前の役割を引き継げない」
「イコラ、席を外してくれないか」
彼女は振り返ると厳しい口調で言った。「議題の張本人が話の場にいてはいけないのか?」
「彼女が望むなら残ればいい。彼女にも聞く権利はある」預言者はイコラに向かって頷いた。
彼女は答えた。「私も同意見だ」
「いいだろう」
「では、オシリス――」
「彼女のことは総意に任せる」とオシリスは自分を納得させるように言った。「彼女なら私の仕事を十分にこなせる。それに…」今度は声が小さくなる。「ここなら彼女を安心して預けられる」
預言者が前に乗り出す。「オシリス。お前に引き継ぎを決める権利はない。ここまでたどり着くのに多くの議論を重ねてきた。総意はバンガードに期待している。それぞれが負うべき役割というものがある」
「私も理解はしている」イコラが――
「まさしく政治だな」
預言者は姿勢を正した。「同意によって平和は維持される、そうすることで我々は未来のために力を合わせて戦うことができる」
「イコラは私の後任として最適だ。彼女の代りはいない」
「お前はここで自らの役割を果たすべきだ」
オシリスの視線が預言者のマスクを貫いた。「シティを守ることこそ私の役割だ、違うか? 我々は今、暗黒の中にいる。脅威が目の前に現れるまで待っているわけにはいかない。誰かが対処する必要がある」
預言者は立ち上がった。「我々が対処する。その時が来たら、一緒にな」
オシリスは溜息をつく。「辛抱しろということか…」その言葉にわずかな敵意がにじみ出る。
17: つかの間
ゼペット-3-1-294:
こんにちはサギラ、ブラザー・オシリス。
この通信チャンネルは開けたままにしておいてください。
サギラ-3-1-294:
お、良いアイデアですね。私たちをサブネットにしてください。
オシリス-3-7-294:
次の合流時間には間に合わないかもしれない。
セイント-3-8-294:
本当か? お前の旅程が突然長くなるようなことがあれば、そうなると思っていたが。バンガードには、お前の船に損傷があり、そのせいで遅れていると言っておこう。二度と私に嘘をつかせるなよ。嘘をつくのは嫌いなんだ。ゼペットが嫌がるからな。
それとサギラに、約束のことは忘れていない、守れなかった場合はいつかその借りを返してもらうと言っておいてくれ。
オシリス-4-0-294:
サギラは賭け事をしない。
セイント-4-1-294:
これは賭け事じゃない。そういうのとは違う。彼女はお前にあまり厳しくできないからな。もっと早く返信してくれ。
ひとまず私の提案を試してみてくれ。必ず役に立つはずだ。
オシリス-5-14-294:
イコラは元気か? お前はどうだ?
セイント-5-14-294:
どちらも落胆はしているが、死ぬことはないだろう。
父はこれ以上お前を守れない。
オシリス-5-14-294:
いずれ自身で証明するしかないな。
セイント-5-17-294:
なかなかのショーだったよ。
お前は今どこにいるんだ?
オシリス-6-2-294:
答えを探している。
またそのうちな。
オシリス-9-29-296:
どこにいるんだ?
18: 責任
ソーラーウィンド
砂が涙を洗い流す
石の上を滑りながら
それは草の上で儚く散る
その形を保つために
お前が正しかった。
役に立った。
19: 再開
セイント14はハンガーに出入りしている船を眺めている。船のドッキングと着陸の拍子が、忙しない街にリズムを生み出す。見慣れた日常。慣れ親しんだ光景。まさに平和そのものだ。
1人の訪問者が、灰色バトに乗り込む。
ゼペットは振り返って歓迎した。「ようこそ、ブラザー・オシリス。よく来てくれました。サギラも一緒ですか?」
「やあ、ゼペット。サギラはイコラのところに行っている」オシリスは灰色バトのタラップに腰を下ろした。指の間にリボンを滑らせる。「やあ、セイント」
「オシリス? この出会いもお前は予期していたのか?」
「私は…」
「お前のために随分と仰々しい神殿が建てられたものだな。もうすぐ死ぬんじゃないだろうな?」
セイント14は笑った。
「また会えて嬉しいよ、兄弟」