リヴァイアサン

Last-modified: 2021-07-14 (水) 15:56:52


リヴァイアサン


目次

ゴースト・プライマスの強さは、外見を損なっていたからこそ。あの者だけがワシの完璧な新世界を作るという夢を共有した。あの稀に見る美しい生物ガウルをワシはとても愛していた。

ガウルは我がコロシアムへの予期せぬ贈り物だった。自分の体重の3倍もある敵を倒した、外の荒れ地に住む醜い白色変異体。そんなユニークな生物をどうして拒むことができようか?
そやつは恐ろしいほどの自制心と忍耐力で戦った。ほとんどの剣闘士はコロシアムの中央に留まり、弱い者が死んでいくまで戦いたがったが、ガウルは違った。決して正面からは攻撃せず、決して1つの場所に留まらなかった。そして、敵はイラつき、疲れ果て、判断ミスをするようになる。
我がアリーナで賭けをするあの思い上がった貴族どもと、よくゲームをしたものだ。ワシはガウルに賭け、ワシに不愉快な思いをさせた者達にはその敵に賭けさせた。しばらくは楽しかったが、ガウルの才能はコロシアムで危険にさらすには貴重すぎた。代わりにレッドリージョンのプライマスに任命し、ワシの敵に解き放った。

共謀者達はワシを恐れて殺すことができなかった。当然だ。ワシは愛されし群衆の父。この名誉ある群衆がワシの死を黙ってはいないだろう。故に、ワシの判決は追放となった。

陰謀者達は夜遅くにやって来た。宴会が開かれているワシの宮廷に忍び込んだ。ガウル自身がクーデターを率い、その直属のレッドリージョンにワシらは囚われた。
副総督が満面の笑みで宮廷に入ってきた時、ワシは相当に驚いた。あやつは私の顔に唾を吐きかけ、下品な喜びを味わっていた。ワシらは夜の闇の中、リヴァイアサンへと連行された。
処刑は行われなかった。ガウルと副総督は群衆を恐れたのだ。自分達が権力を掌握しきれていないことを、群衆がワシという皇帝をどれだけ敬愛しているかを知っていたのだ。
ガウルは私からずっと目を逸らしていた。あの顔に浮かぶあの感情は何だったのだ? 恥か? 父親同然の存在に対して、どうやってあれほどの憎悪を抱けるのだ?
ワシらはリヴァイアサンの中に閉じ込められ、宇宙の果てへと放たれた。遥か昔、私が副総督に与えたのと同じ運命だ。死ぬまで宇宙を彷徨うという運命だ。

ワシは完璧で、愛情に満ちた神だ。あらゆる者がワシを知り、身震いするだろう。

ワシの近衛兵が議会が開かれる神殿へと入って行った。兵達はそこで護衛のために円を作った。そこから、ワシの鶴の一声を聞かせてやった。
「今日から、帝国を隅々まで我が配下として受け入れよう。帝国の父として、万物の父として、疲れ切った機関や哀れな役人がワシと、ワシの子供達の間に立ちはだかることは許さぬ。ワシは完璧かつ愛に溢れた神である。万物がワシを知り、震え上がるであろう」
そして、近衛兵が完璧なタイミングで一斉にレールガンを撃った。

ワシの皇帝としての最初の仕事は、あの副総督を不毛の地に送ることだった。金色の太陽があの穢れた体を焼き払うだろう。ワシの治世へと繋がる革命に相応しいシンボルだ。

ワシの祝祭のために、真っ白な砂漠が欲しかった。不快な色の石や植物を荒れ地から取り除くのに3日かかったが、作業が終わった後、そこは紫色の館の完璧なキャンバスとなった。輝く太陽の下、細部に至るまでほぼ完全に我が宮廷を再現した。
ワシの戴冠式の第1幕は、副総督をワシの足元に跪かせること。称号も階級も服も剥ぎ取られ、情けない姿であった。もう二度と力を行使することも、世継ぎをもうけることもない。それができぬように、ワシ自らが既に手を打った。
あやつに言うべきことは一言だけ。「消えろ」とな。

ガウルは常に共和制を夢見ていたのだろうか? ワシの愛を裏切り、ワシに反逆しようとするなど、あの心にどんな醜い虫が住み着いてしまったのだろうか?

ガウルは、ワシが貶めた者達とあまりにも長い時間を過ごし、あまりにも深く交流している。あんなひそひそ話や流し目から良きものが生まれるわけがない。ワシが気付かないとでも思ったのか?
あやつを追うために密偵を派遣した。その瞬間に罪悪感を感じるとは... 他人を信頼することに関しては、決して直感を疑うべきではない。
あの時に気付いているべきであったことを、今気づいた。ワシは唯一無二の存在。そして、ワシは誰よりも孤独な存在。愛を与える神になるとは、なんという呪いか!

群衆の前で金に汚い貴族に恥をかかせることほど、愉快なことはそうそうない。ワシは人々の父だ。人々は誰よりもワシを敬うのだ。

我が宮殿を真の宮廷と考えたことは一度もなかった。ワシが唯一大事だと思っていた王座は、大衆を見下ろしていた。その王座にいる時は、ワシとワシを敬愛する輝かしい群衆との間には何の障壁も存在しなかった。ワシは群衆の父で、群衆はワシの子供達だった。
ワシが群衆の目の前で種族の穢れを裁いたのもそこだった。そやつらの富を群衆に投げた時の情けない泣き声。そやつらの目が真実に気づいて見開くのを、ワシは愉快に見ていた。そやつらは気づいたのだ。この地に安全でいられる場所などないと。そやつらが苦しめた者達に安全でいられる場所がなかったように。
ワシはその泣き虫どもを群衆へ1人また1人と投げ込んだ。群衆は歓喜の叫びを上げてそやつらのローブを剥ぎ取り、宝石をもぎ取った。

ワシは宇宙の端で永遠の闇を覗き込んだ。それはワシを見つめ返し、喜びを露わにした。ワシはその闇が勝利するよう先駆者となろう。そして、あらゆる創造の証人となろう。

リヴァイアサンは無限の虚無の壁の前で止まった。ナビゲーションシステムがひどく故障したため、それ以上進むことはできなかった。陰謀者達が定めた航路は、存在しない宇宙を横切っていたのだ。
どれほどの間、旅してきたのだろうか? 何年か? それとも何千年か? 追放された絶望を嘆いていたワシにとって、時間は意味をなくしていた。だが、この出来事のお陰でワシは放心状態から抜けることができた。宇宙の果てで、ワシは何かを見つけた。いや、無を見つけたのだ。
展望室の椅子に座りながら、ワシはその完璧な無を見つめた。神であるワシのみが、その光景を理解することができた。それはワシよりも偉大なものだった。そのようなものが存在し得るのなら、ワシも今以上に偉大になれるはずだ。

過去はまた繰り返される。歴史は復讐を果たすだろう。

カバルの変わり果てた姿にワシは嘆いた。ガウルの思うがままに戦う兵器と成り下がった。ガウルの理想の姿に対する執着が、文化を失い、歴史を奪われた廃人を作り出した。
今や、リヴァイアサンのカバルだけが真のカバルだ。ワシらは古いしきたりを忘れぬ。カバルの偉大な文明は、ワシという泉を通して溢れ出すのだからな。
そして、我が帝国が戻った時、反逆者達は暗い鏡の向こうからワシらを見るだろう。ワシらの姿を見て、かつての自分達の面影を思い出し、胸を痛めるだろう。その瞬間に、ワシを裏切ったことを恥じるだろう。ワシが復讐のためにやって来たことを知るだろう。
レッドリージョンは過去の罪から逃げられはしない。その罪によって飲み込まれるのだ。

皇帝の感謝の念をもって、陛下の敵を倒したように、自分の敵も速やかに倒せ。

ワシがカバルの最後にして最高の皇帝、カルスである。ゴースト・プライマスは偽りであった。あやつがトレーター・フェートに出くわした時、ワシの臣下としてのお前の地位が確固たるものになった。我が戦士よ、遂に我々の間に立ちはだかるものがなくなった。
空を見上げよ。ワシが大きく腕を広げている姿を見るだろう。ワシのところへ飛んで来い。お前に大量の金をやり、我が庭園の果物を分け与え、酒に酔わせてやろう。
ワシの心は愛情で膨れ上がる。ワシの贈り物を受け入れられるものを、ワシの手を取り陽気に過ごせるものを探している。
共に、帝国を築き上げようぞ。