道の発見

Last-modified: 2021-09-09 (木) 20:58:21


道の発見


I. 道の終わり

エイダ1は、通信チャンネルが開いたことを告げる高い音と、それに続けて流れる歪んだ声を聞いた。「出入り口は監視してる。大丈夫よ」

彼女は錆びた戸口を抜けて中庭に出た。老朽化した建物の隙間を風がひゅうひゅうと吹き抜け、外れかけた金属板にぽたぽたと雨粒が滴っている。彼女はぬかるみの中を進むと、かつてベルグシアの炉があった場所で足を止めた。

「呪いだ」エイダは吐き捨てるように言った。

彼女はそわそわと手を動かしながら、ほとんど荒れ地と化した風景に視線をさまよわせた。折れた柱にアルテミス5が腰かけていて、彼女のスコープが入り口と窓を巡回し、頭上にはゴーストが静かに浮かんでいる。エイダの他の護衛の2人は、後方の壊れた壁に寄りかかり、静かにそのブラックアーマラーを見つめていた。エイダは見つめ返し、彼らののっぺりしたヘルメットプレートを観察した後、さっと顔を背けた。彼女の足に何か硬い金属のような物が当たった――身をかがめて拾い上げると、それはブラックアーマリーの合金の破片だった。失われた炉の名残だ。

アルテミスが再び通信に入ってきた。「あの炉の生産物? ここで起きたことに、何か心当たりは?」

エイダはそれを観察しながらため息をついた。「スコーチキャノンで焦げた跡、ワイヤーライフルで切られた跡、跳弾の跡」

「ここで何年も戦闘が行われていたようなものね」アルテミスが皮肉っぽく言った。

「鋭いな」エイダは素っ気なく言った。「これ以上ここで集められる物はない」彼女は深呼吸をした。エクソの体には意味のない行為だが、そうしたい衝動に駆られたのだ。

「陽が翳ってきてる」アルテミスが言った。「デヴリムはフォールンの襲撃隊を注視してる。まだこっちには向かってないけど、リスクは冒したくない。必要な物は持った?」

「ほとんど持っていない」エイダは言った。「だが他に見つかりそうな物は特にないだろう。このエリアは漁り尽くされた。他と同じように」

「フォールンの仕業?」アルテミスが尋ねる。

「阻止しようとするガーディアンがいない状況だ。誰だろうと不思議はない」

アルテミスは顔をしかめた。「あなたはさぞかし辛いでしょうね。バンガードは難しい決断を迫られた… 惑星撤退が優先だった」

「そして今、彼らは刺激的な新境地へと乗り出している。私ががらくたの中に取り残される一方で…」エイダは偽りの陽気さに溢れた声で言った。

アルテミスは見晴らしの利く場所から飛び降り、エイダの腕に手を置いた。

エイダは肩を落とした。「撤退には満足している。私が後悔しているのは――」

建物のどこかから遠吠えが響いた。アルテミスがライフルを構え、護衛隊の1人が通信チャンネルに入った。「パイク団が行き先を変えた。彼女を連れ出した方がいい」

「準備はいい?」アルテミスが尋ねる。

エイダは手の中の金属片を裏返し、ギザギザの縁をなぞりながらじっと眺めた。「分からない」彼女は破片を握りしめた。「でも、他にどうしようもないだろう?」

II. 迷い

エイダの溶接トーチが立てるシューシューという音がアーマリーのホールに響き、継ぎ目が完成するまでのあいだ耳障りな雑音の海の中に混じった。彼女は道具を置き、合金を手に取ると、接合の強度を試した。その動作で指の中の作動装置がうなりを上げたが、机の上の開かれた書物に注意が移ると、金属はたちまち折れてしまった。エイダは苛立ちの声を上げた――すでに散らかっている床の上に、さらに2つの破片が落とされる。

「2回測るのを忘れたのか?」背後から声がした。エイダが振り向くと、ホーソーンがホールに入ってくるところだった。

「それは木工細工をする時の教えでは?」エイダは平淡な口調で尋ねた。

ホーソーンが肩をすくめる。「溶接絡みの冗談は知らない」彼女はもつれたケーブルを慎重に跨いだ。「いい仕事場だな。内装が気に入った」

エイダは熱心な様子で書物に向き直った。「手を借りたいことでもあるのか?」

ホーソーンが含み笑いを漏らした。「同じことを聞こうと思っていた。階段の吹き抜けの上まで罵り声が聞こえてきたぞ」

「アーマリーの図面を読み取って、組み立てに必要なパーツを加工することはできるか?」エイダは顔を上げずに答えた。

「無理そうだ」ホーソーンは言った。

「いつ炉の運営が再開するのか尋ねるのをやめるよう、ザヴァラを説得することは?」

ホーソーンは頬を膨らませてから息を吐きだした。「もっと無理だな」

エイダは書物のページを素早くめくった。紙が破れそうになりながら音を立てる。「なら、頼めることはないようだ」

「これはバンガードの指令を受けてやっていることなのか?」

エイダは自分の胸を親指で突いた。「炉は私の遺すべき財産だった――今でもそうだ。運営を続けるのは私の責任だ。ザヴァラの望みと直接の関係はない」

ホーソーンはエイダの作業台に近づいた。「質問させてくれ。私はお前の高名な組織の歴史にはあまり詳しくない。アーマリーは、世界一の銃製造炉を作るという夢から生まれたものなのか?」

エイダはため息をついた。「アーマリーは暗黒に対抗するために創設された。他に頼れる者がいない時、人類を守るために。炉は私たちの使った道具に過ぎない」

「壮大な計画も形無しか。ピラミッドが現れて、私の知る限り火星は今も行方不明だ。衛星タイタンも、水星も」

「私の反感を買うためだけにここへ降りてきたのか?」エイダは切り捨てるように言った。

「まあまあ…」ホーソーンがなだめる。「私たちが友達同士でも何でもないことは分かってる。お前に友達がいるのかも知らないし――」

エイダは睨みつけた。

「分かった、謝る」ホーソーンは素早く言った。「要は、この辺りの人々は人類が最優先だと大口を叩きながら、常にガーディアン一辺倒だということだ」

エイダは頷いた。「光の戦士への献身は、時に狂信的に見える」

「だがお前はそうじゃない、エイダ」

エイダは首を振った。「気持ちは嬉しいが、スラヤ、その事と炉に何の関係があるのかわからない」

ホーソーンがエイダの机に寄りかかる。「この辺ではお前の声が重要になると思う。私はお前に成功してほしい。だが、お前は過去にこだわりすぎているように見える」

エイダはせせら笑った。「私にアーマリーの遺産の受け継ぎ方を指図するつもりか?」

ホーソーンはホールに散らばった炉の品々を指し示した。「まさか。だが、創設者たちはある日目覚めたら頭に炉の構想が浮かんでいたわけじゃない。まず問題からスタートして、彼らにしか考案できない解決策を編み出したんだ」

エイダは思慮深げな目をして振り向いた。「私が解決策からスタートしていると言いたいのか? 視野を狭めていると?」

「私が言っているのは、これがお前の知る唯一のものなら、そのすべてを手放すのが難しいのも理解できるということだ」

エイダは頷いた。「確かに、炉を残して去ることを考えると不安になる」

「それは分かる」ホーソーンが言う。「だが、古いやり方は機能していない。創設者の遺産を、お前ならではのやり方で存続させる時かもしれない」

エイダはしばらく沈黙していた。「作業に戻らなければ。助言をどうも」彼女は腕を突き出した。ぎこちない握手の仕草だ。

ホーソーンはくすくすと笑い、エイダの手を握った。「幸運を祈る。だが、もう少し音を抑えてもらえるか? 鳥が落ち着かなくなるんだ」

III. 探求

エイダ1はクリプタリウムの中に立ちながら、苛立たしげに足を鳴らした。「それで、できるのか?」

ラフールは気だるげにデータパッドから視線を上げ、顔をしかめた。「なんと馬鹿げた質問を。もちろん可能だ。問題は、いつ私がそのための時間を持てるかということだ」

エイダはうつむいた。「意味論の話をしていたとは気づかなかった」

ラフールは装置を指で打ちながら、味気ない返事をした。「それに勝る愉しみはない」

「いいだろう。いつなら時間がありそうだ?」

「ふむ…」ラフールは顎に手をあてた。「ガーディアンへの日常的な武器支援に加えて、エウロパから入ってくるデータも重要だ。言うまでもなく、その問いには時間の制約がない…」

問題を熟考するクリプトアーキの目がせわしなく動く。

「控え目に見積もって、2~3週間後といったところか」

エイダはうめき声を出した。「あんまりだ。そんなに長い間のんびり待つわけにはいかない」

「君は誤解している」ラフールは答えた。「私は君が時間をどう使うべきかについては何も言っていない」

エイダはクリプトアーキの机を掴んだ。「分かった、自分で探してもいいか?」

ラフールが首を振る。「機密アーカイブにアクセスできるのは、認可されたガーディアン、タワーのサポートスタッフ、そしてバンガード自身に限られる。君はどれにも当てはまらない」

エイダはあざ笑った。「馬鹿なことを。あの放浪者が自分の楽しみのために毎週のようにデータを調べているのを見たぞ」

「それは違… そんなはずは…」ラフールは口ごもって赤面した。「断言しよう、そんな違反は起きていない」

エイダは腕を組み、ラフールが言葉を継いだ。「たとえ起こっていたとしても、ひとつの犯罪によって他の犯罪が許されることはない」

エイダはぐっと身を乗り出した。「一切助けになってくれないということか」

ラフールは肩をすくめた。「少なくとも、2~3週間はな」

エイダは不平の声を漏らし、クリプタリウムの高くそびえる扉を勢いよく通り抜けた。扉のガラスがその鮮やかな色で彼女の肩を照らした時、ラフールが大きな声で呼びかけてくるのが聞こえた。

「君が調べようとしている者の名前は何といった?」ラフールは尋ねた。

「アンリエット・メイリン、佐藤由紀、ヘルガ・ラスムッセン」

最後の名を聞いて、ラフールの眉が上がった。「君はついているかもしれない。我々の興味の対象は重なっているようだ」

IV. 導きの手

エイダは、シティのエリクスニー居住区を縫って歩くエリクスニーの案内人に遅れを取らないよう努めた。薄暗く照らされたその場所は、まるで角張った迷路のようだ。ぼんやりと見える開いた窓と扉からは、新たな客の生活の様子が窺える。洗面器に詰め込まれた紫の布切れ。大きすぎる鍋の中で茹でられながらぶつかり合って音を立てる、見知らぬ食べ物の瓶。使い込んだ毛布にくるまれた幼子を見つめながら、優しく顎を鳴らす親たち。遠くでは、ブーンと音を立てるサービターの周りを従者が囲んでいる。

案内人は地下の住居に入った。エイダは粗い綿のカーテンをかき分けて進む案内人の後に続き、無数の敷物とカーペットの寄せ集めで溢れた蒸し暑い部屋の中に立った。1つしかない小さな窓からシティの明かりがかすかに入り込み、かき集められたガラスの器の中でろうそくの火が揺らめいている。部屋の中央には半円を描くようにソファーベッドが並べられ、そこにエリクスニーの一団が寝転んだりもたれかかったりしながら、床に座っている1人の話し手の言葉に耳を傾けていた。エイダには意味のわからないカタカタという喉音と低い唸り声がその場を満たしていた。聴き手たちが散り散りになり、案内人にその書記官の隣に座るように言われてようやく、エイダは話が終わったことに気が付いた。

「エウロパについて、救済について聞きたいことがあると?」書記官は言った。

エイダは顔をしかめた。「私たちの言葉をずいぶん上手に話すんだな」

「私の生い立ちは変わっているから」エリクスニーは答えた。「私はエイド。何を探しているの? ブラックアーマラー」

エイダはそのエリクスニーとの自然な距離を保ちつつソファーベッドに腰掛けた。「エウロパのブレイ・テク施設の情報を探している」

「我々がそれを持っていると?」

「お前の同胞の一部がハウス・オブ・サルベーションから離脱してきたのは知っている。彼らなら何か知っているかもしれない」

エイドは頷いた。「彼らは多くのものを見てきた」

「私の先人の1人、偉大な武器職人がエウロパのブレイ施設で働いていた… だが、私は彼女がそこでしていたことの片鱗しか知らない」

「なるほど」エイドは言った。「いつも銃絡みね」

エイダは表情を歪めた。「お前の同胞だって武器作りになじみ深いはずだ」

エイドは息を吸い込んだ。「確かに。そして今、信じがたいことに、我々の武器庫はどちらも大いなる機械の陰にある」

「お前が私を助ける十分な理由となる同盟のはずだ」エイダは言った。

エイドは鉤爪を合わせた。「助けることはしない。なぜなら助けられないから。これまでアーマリーの創設者について言及されたことはない」

エイダは視線を床に落とした。

エイドは首を傾げ、そのエクソを観察した。「随分な落胆ぶりね。銃以外に何か理由でも?」

エイダは一呼吸置いて言った。「私は失くしたんだ。自分の一部を」

エイドは神妙に頷いた。「炉のこと?」

「私の存在のすべてはアーマリーに、炉に結びついていた。それなしでは、私は…」

「目的を見失う?」エイドが代わりに言葉を継いだ。

エイダは首を振った。「これは――お前に分かるようなことじゃないかもしれない」

エイドは笑い声をこぼした――しゃがれた唸りと歯を鳴らす音が合わさったものだ。「私たちの歴史の中には、失われたハウスの旗が散乱している。私たちの大半がこれまでに2つ以上の色を身に纏い、次から次へと異なるケルに跪いてきた。今度こそ最後であれと願いながら」彼女はエイダの方に身を乗り出した。「エリクスニーは目的の流動性をよく理解している」

「流動性には継続が伴う」エイダは深くため息をついた。「だが、私の道は終わりに近づいているようだ」

エイドの顎の内側でカチカチという音が響く。「デビルズは死んだハウスだった。エラミスが新しくするまでは。ミスラックスはダスクだったけれど、今では光と共にある。道が終わるのは、我々が歩くのをやめた時だけ」

エイダはエリクスニーをじっと眺めた。「こんな会話になるとは思わなかった」

「もしこの移住が上手くいくようなら、古い見込みは断ち切るのが一番でしょう」エイドが言った。

エイダは頷き、窓から漏れる柔らかな光に目をやった。「そろそろ失礼する。ありがとう」彼女は心からの感謝を込め、堂々とした態度で腕を伸ばした。

そのエリクスニーはエイダが差し出した手を握る代わりにデータパッドを渡し、鉤爪のある手をエイダの肩にそっと置いた。エイダは戸惑いながら、画面に素早く目を通した。

「これは我々がブレイのアーカイブの中で見つけたもの。探しているものとは違うでしょうけど、進むべき道を決める助けになるかもしれない」とエイドは言った。

「見… 見てみることにしよう」

「そうするといい」エイドは答えた。エイダはデータパッドを脇に抱えて立ち上がり、ためらった。

「本当にこれをくれるのか? お前の… 仲間たちはどう捉える? こんな風に私を助けたら」

エイドは囀るような音を立てた。「結束に見えるでしょうね」

V. 前進

最初にエイダに気づいたのはルイスだった。その鳥は止まり木の上でもぞもぞと動きながら、エイダの方にさっと頭を向けた。ホーソーンは振り向き、一瞬驚いた表情を浮かべた後、にやりと笑った。

「隠者のアーマラーじゃないか」ホーソーンが言った。「様子を見に行こうかと思っていたところだ」

階段の上にたどりついたエイダは、ホーソーンの持ち場から見渡せるシティの風景を驚嘆の目で眺めた。

「というと、また私の騒音が気になったのか?」

ホーソーンは首を振った。「その逆だ。あまりにも下が静かすぎてな」

エイダはくすくすと笑った。「最近は、前より物事が順調に進んでいるんだ」

「それはよかった」ホーソーンは頷いた。彼女は腰のポーチから肉片を取り出してルイスに投げ、ルイスはそれを勢いよく食べた。「で、答えは何だったんだ?」

「誇大妄想にとりつかれた者が遺した、物質プログラミングに関する数世紀前の研究だ」エイダは言った。

ホーソーンは口笛を吹いた。「なかなかの冒険だな」

「まさにな。この体験で自分が大きく変わった気がする」エイダは声を少し弾ませて言った。

「時には変化もいいものだ」

エイダはシティの中を縫うように進むエンジンフレアを眺めた。「この前私たちがした話の中で、心に残っている事がひとつある」

ホーソーンは片方の眉を上げた。

「ひとつしかないのか? とても残念だ」

「私に友達がいるかどうか知らないと言っていたな」エイダは続けた。

「エイダ、私は別に――」

「正直に言うと、他人と関係を築くのは昔から得意じゃなかった」

「自分をさらけ出すのが怖い気持ちは理解できる。これまでのお前の苦労を思えばなおさらだ」ホーソーンは優しく言った。

エイダは慎重に言葉を選んだ。「ああ。でも、この新しい旅は前より恐ろしくないように感じる。他の人々と共に歩もうとしているからだ」

「いい教訓を得たな」ホーソーンはにやけながら言った。

エイダは星座のように輝くシティの建造物に視線を巡らせた。歪んだ格子を描く道路、その向こうに広がる起伏のある景色。エイダは深呼吸をし、シャーシの中を空気で満たした。

「そろそろ下に戻ろうと思う。仕事が山ほどあるんだ」エイダは咳払いをして言った。

ホーソーンはエイダの肩を掴み、そのエクソを驚かせた。「いつでも来るといい、エイダ。もっと洞穴から出てくれば、自分で思っていたより友達が多いことに気づくかもしれないぞ」