死竜の圏域

Last-modified: 2023-07-17 (月) 22:24:02


色褪せた金柱庫

悪童スワン

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担当声優:堀金蒼平

ストーリー

共にこの世に生まれてきた竜人達は、いつの間にかカッコイイ爪と鱗を持つ立派な姿に成長していた。
しかし小さな竜人の爪は誰よりも脆く、薄い鱗は少しの寒さも防いでくれなかった。
天界のどこにも小さな竜人の居場所はなかった。誰も彼には手を差し伸べてくれなかった。
小さな竜人に許されたのは暴力と蔑視、そして冷たく放たれる言葉だけだった。

お前みたいな失敗作は、バカル様の計画には入っていなかったはずだと。

終わりの見えない殴打と逼迫、その日もそんな日だった。
もはや自分を受け入れてくれる群れを探すことさえ何の意味もない気がしていた。

"こんな奴がどうやって今まで生き残ったんだ?"

何の抵抗もできない自分が悔しかった。小さく弱い身体が一層恨めしく思えた。
本当に自分にはほんの小さな力も許されてないのかと、何度聞き返しても無駄だった。

"何度生まれ変わろうと、君の首は必ず僕が折ってやるんだ…"

言える事が精々これぐらいしかないことが悲しかった。
冷たい床に叩きこまれた小さな竜人は目を瞑った。このまま息が途絶えるとしても未練はなかった。
そして地獄のような記憶が小さな竜人の頭の中をかき乱した。爪に切られ、踏みにじられた瞬間が走馬灯のように流れ込んできた。
生の最後の瞬間に小さな竜人を一番惨めにさせたのは抵抗すらできなかった、いや抵抗すらしなかった自分に対する嫌悪感だった。
悔しさと怒りで床に爪を立てた。小さく脆い爪が折れるほどに恨みをぶちまけた。
息が途絶えそうになった瞬間、突然暖かな気運に身体が包み込まれた。そして痛みも消えていった。
やがて、自分を苦しめていた竜人達の悲鳴が小さな竜人の耳に届いた。

"クアッ…何だよこいつ…いきなりどこからこんな力が…"

小さな竜人が再び目覚めた時、たった今まで彼を踏みにじっていた竜人達は小さな竜人の巨大になった左腕に潰されたまま転がっていた。
その中には、みすぼらしい爪の上に新しく生えてきた爪と、3匹の竜ほど巨大になった腕と溢れんばかりの力を持った竜人、スワンが立っていた。
刹那の惨劇の後、唯一生き残った竜人が一変してしまった状況に驚き、真っ青な顔でスワンを見た。

"な…なんだお前は…力を隠していたのか?"

圧倒的な強さを見て逃げる意志さえ失った竜人にスワンが一瞬で飛びかかった。
鋭い爪を相手の首元に近づけたスワンが竜人の耳元に囁いた。

"君の首は僕が必ず折ってやると言ったよね?違うかな?もう死んでしまったアイツだったかな…?"
"まあ、どっちでもいいや。どうせ皆殺しにするんだから。"

スワンの左腕が竜人の首を握りしめた。段々と息が詰まってくるせいでぼやける視界の中、笑っているスワンの姿が目に入った。
首根っこを捕まれたまま向き合ったスワンは、首を絞めている左手に力を入れながら嫌味を言った。
スワンは左手をさらに強く握った。周りを響かせるほどの悲鳴がその場を満たした。

"はぁ…こんなに面白いことを今まで君たちだけでやっていたんだ?"

空虚な魂倉

九尾のブロナ

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担当声優:金景美

ストーリー

"つまらないわ…アンタ達の魂はこの尻尾にちゃんと納めてあげる。"

ブロナはあっけなく倒れた天界人達の死体をじっと見下ろした。
苦しみながら死んでいった者達の表情は、滑稽で惨めだった。

"どうせ死ぬくせに、必ずかかってくるんだから…大人しく死ねばいいのに。"

ブロナの言葉が終わるや否や、亡者達の死体から魂が抜け出し始めた。
魂はもつれあいブロナの尻尾に吸収され、あっという間に尻尾の数が増えた。
そして、誰かが息を潜めたままその姿を見つめていた。

「ふぅ…。そんなことができるのも今日が最後だ。」

正体を隠した男は、決意のこもった目で弾丸を装填した。
彼はブロナの尻尾に向けて銃を構え、迷いなく引き金を引く。
そして轟音と共に煙たい煙が辺り一面に満ちた。

「キャアアアアア!アタシの尻尾…尻尾が…!!!」

ブロナは全身を覆う凄まじい熱気に息を荒らげながらも、たちまち辛そうに身体を起こした。

"まずは…身を…身を隠さない…と…"

やっとのことで増やした尻尾がまた一つになったのを見て頭に来たが、それは後で考えても良いことだった。
ブロナは片隅に移動してしゃがみこんだまま、立ち上がった煙が晴れていくまで静かに待った。
まもなくして、遠くから天界人らしき男の姿がうっすらと見えてきた。

「…人間風情が…直にアンタの魂も…この尻尾に納めてやるんだから、楽しみにしてなさい…」

ブロナは遠ざかる男の後姿を目に精一杯焼き付けた。
あの天界人とまた遭遇するかも知れないという予感、いや確信があった。

死竜の魂魄堂

死竜のスピラッジ

1フェーズ
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2フェーズ
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担当声優:城岡祐介

ストーリー

サアアア-サアア-

死の帳が落ちてくる。
死竜の息吹はあの世の入口に霧を撒き散らし、亡者を彷徨わせる。

引き裂かれた翼は死に立ち向かい足掻いた亡者達の沈痛。
爪にこびりついた旗は使命を叫ぶ亡者達の執念なり。
悔しくもあり、恨めしくもある。

死を覚悟し、自ら飛んで火に入る虫になったが
叫んでいた使命と怨恨は、たったの一息で虚しくつぶれてしまった。
堅い決意は崩れ、声を張り上げ謳ったのも虚しく…

自由のため死に飛び込み、
死という自由すら得られなかった可憐な戦友たちよ。
待っていてくれ、もう少しで君らがいるその場所に届くはず。

我々の悲痛さよ、どうか風に乗って一粒の種になり小枝に届け…
どうかその小枝で死も飲み込む業火の火種を起こせるように…
そう念じながら霧の中に横たわる。

息が切れる。
空は黒く…
飢えと渇きと恨みの中で、もう一人の亡者が彷徨い始める…