狂竜の圏域

Last-modified: 2023-03-27 (月) 21:07:40


死闘の牢獄

雷のエクレア

雷のエクレア.gif
担当声優:森樹里

ストーリー

鬨の声と悲鳴、そして武器がぶつかり合う音で満ちている戦場のど真ん中。
突然、暗雲が押し寄せた。やがて、空が暗くなり始めると同時に大きな落雷が落ちた。
雷の余波を受けた激しい風と共に強い衝撃波が発生し、近くにいた大勢の者たちが大きな傷を負って倒れた。

"な…何が…"

突然の事態に、遠くにいた者達がたじたじと落雷が落ちたところを見ると、
既に濛々たる埃に包まれたその場所に、巨大な影の隣から飛び降りる小さな影の姿がいた。

"バカル様のお慈悲のおかげで生き延びているあんたたちが、身の程も知らずに反乱を起こすとはね。"

その影が軽く剣を振るうと、雷の音と共に近くにいた連合軍が雪崩れるように倒れ、

"これを機に全部根絶やしにしてやるわ。"

目の前を覆っていた埃が沈むと同時に、彼らの姿が露わになった。
そしてその姿を目にした連合軍は真っ青になった。

"これは一体…!ここにドラゴンナイトが現れるなんて聞いてないぞ…!"

"皆しっかりしろ!まずは攻撃だ!少しでもダメージを与えられるように何とか…!"

素早く状況を把握した連合軍兵士の一人が声を上げ、その場の全ての連合軍がいっせいに攻撃し始めた。
それを見たドラゴンナイトがイラついた表情で剣を一振りし、
同時に彼女の後ろにいた巨大な竜が赤黒い稲妻を落とし、突きかかる天界連合軍を攻撃した。

"うわぁぁぁぁっ!!"

攻め殺す勢いで落ちてくる稲妻の中で、天界連合軍は一人また一人とその数が減っていった。
連合軍は倒れながらも何とか彼女に一矢報いろうと頑張ったが、
悔しいことに稲妻のように動くドラゴンナイトには何一つ届かなかった。
そして、稲妻が止まった後にも戦場に立っていられた者はたった一人だけだった。

"なんで…なんで一発も当たらないんだ…"

あっという間に一人になってしまった連合軍の兵士は、腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。
ぼうっと周りを見渡す彼は完全にあっけにとられていた。
その姿を見て、赤黒い稲妻の宿った剣を手に彼に向かってゆっくりと近づいたドラゴンナイトが鼻で笑った。

"バカね。自分の身の程も知らずにバカル様に歯向かうからよ。"

時を同じくして雷鳴が轟き、最後まで生き残っていた連合軍の兵士も力なくその場に倒れた。
兵士の死体を軽蔑するような目で見ていたドラゴンナイトは、剣を肩にかけた。
その後、静まり返った周りを一度見回すと、身体を翻し他の場所に移動した。

"行くわよ、トネル。"

戦場の熱気で満ちていた場所は既にそこにはなかった。
うら寂しい風だけが、ひと時戦場だった場所を通り過ぎるだけだった。

廃墟の上の花園

妖竜ニンファ

妖竜ニンファ.gif
担当声優:山田京奈

ストーリー

緑豊かな森の中、ニンファが木の枝の間をそよそよと飛んでいた。
鼻歌を口ずさみながら、草葉を静々と踏む彼女はまるで妖精のようだった。
しかし、青々と生い茂っていた植物は、彼女の手と足が触れたとたんまるで養分を吸い取られたかのように萎れてしまうのだった。
その姿を見たニンファは、萎れてしまった花の前にしゃがみ込んで悲しそうな顔で呟いた。

"あら、お腹が空いているのね?"

憐れむ視線で花びらを見つめていたニンファの羽根が突然ピリリと震えた。
何かを感じ取ったかのように面を上げたニンファは、いつしか口元に意地悪な笑みを浮かべていた。

"お客さんが来たみたいよ。"

花びらのような羽根をばたつかせたニンファは、たちまち浮かれた様子で宙をクルクルと舞った。
まるで子供のように鼻歌を口ずさみながら踊っていた彼女が、突然その場にピタリと立ち止まった。
そして萎れてしまった花びらの前にかがんだニンファは淡い笑みを浮かべた。

"ちょっとだけ待っていてね。君の養分になってくれるお客さんをここに招待するから。"

天真爛漫な笑みを浮かべたニンファが翼を羽ばたかせると、その場には薄紅色の花びらと花粉だけが宙を舞っていた。
ポツンと残った萎れた花の上、妖精の羽根のような花びら一枚がそっと舞い落ちた。

狂竜の滅尽堂

狂竜ヒスマ

1フェーズ
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2フェーズ
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担当声優:今川柊稀

ストーリー

グアアアアァ

バカルが創造した三頭の竜の中で最も強靭な肉体を持つ存在、恐竜ヒスマが鳴き叫ぶ。 ヒスマが降り立った屋根の瓦はすぐにでも崩れ落ちそうにぐらつき、 床と壁には鮮明な爪跡が刻まれていた。 力に耐えきれなくなった地層には鮮明な亀裂が入り、まるで苦しんでいるかのように少しずつ歪み始めた。

"奴さん、イイ喉してるな。そいつを持ち帰って、兵士達の起床ラッパに使えばちょうどよさそうだ。ハハ!"

オスカーは腕を組んだままヒスマの方を向いて笑っていた。 彼らが立っている場所はバカルの宮とはかなり離れていたが、その辺りを見下ろせるほどの高さのある峰だった。 肉眼では小さな点に見えるほど遠くても、地響きはまるですぐ隣から起きているかのように鮮明に聞こえた。 ジュヴェニルが覗いていた双眼鏡を下ろしながら答えた。

"おそらく奴の武器は、あのとんでもない身体を使った純粋な物理攻撃力なのでしょう。"

"ハハ!そうだ。それなりに肝の据わった竜族たちも、あの狂竜の滅尽堂(めっしんどう)には近寄らないとサラが言っていた。 そのうえ、性格も悪いそうでな。一度暴れだしたら周りの全てを破壊するまで止まらないらしい。"

"そんなに暴れたがる奴がどうしてバカルの宮の中で大人しくしているのか、理解しがたいですね。"

その時、さらに大きくなった狂竜の叫びが再び聞こえた。 ジュヴェニルの質問に答えようとしたオスカーは、眉をひそめて言葉を止めた。 装備で音を遮断しているにもかかわらず、鼓膜が破れそうな痛みが走った。 心の弱い人は、遠くでその音を聞いただけでも怖さで身体が固まってしまうという狂竜の喚きだった。

"それだけバカルへの忠誠心が強いということだろう。"

オスカーはじっとジュヴェニルの顔を見つめた。 峰に沈みゆく夕日のせいか、彼の表情が普段よりも悲壮に見えた。

"まだここにいるつもりか?"

"先に降りてください、爺さん。俺はもう少し奴の様子を見届けます。"

首を縦に振ったオスカーは、物思いにふけたジュヴェニルを後にしてゆっくりと峰を下り始めた。