前進モンスター
鋼鉄竜の戦車
撃竜ブルート
バフモンスター
賢竜ザミル
担当声優:松本忍
幼い竜族は全身の感覚を研ぎ澄ませ、いつにもまして慎重に体を動かしていた。
小さな丘の上に、彼が目標にした年老いた竜の姿が見えた。
自分の接近に全く気付いていないのか、依然として絨毯の上で胡坐をかいたままだった。
最初は瞑想していると思ったのだが、そのうちただ眠気に勝てずうとうとしていると確信できた。
ふと自分を止めていた他の竜族達の警告を思い出したが、幼い竜族はあえてそれを無視した。
どう見ても、目の前にいる相手は噂通りに強大な力を持っている存在ではなかったのだ。
これはチャンスだ。
数日間老衰した竜を観察した末に、彼はザミルに関する噂は間違っているという結論を下した。
もちろんそうだとしても、これはいいチャンスになると思った。
他の竜族達に、自分の勇猛さを深く印象付けられる良い機会。
考えをまとめた幼い竜族は爪を立て、両足の神経を研ぎ澄ませながら体を縮こまらせた。
数日間悩んでいたのが嘘のようなあっという間の奇襲だった。
自分の爪があのみすぼらしい鱗を引き裂けることに一点の疑いもないような動作だった。
目の前の老いた竜の姿が一瞬ぼやけたと思ったその瞬間、視野がひっくり返り体が床に叩きつけられた。
"どうやって…"
幼き竜族が驚がくした顔で苦しみながらうめき声を出した。
いつの間にか両手両足が魔力で作られた刃に貫かれて、身動きが取れなくなっていた。
彼は体を起せないまま何とか首だけを回し、全く別の方向から現れた賢竜の姿を目にした。
"愚か者…"
幼い竜族は、その時初めて自分が引き裂いたと思ったザミルの姿が実は幻影であったことに気が付いた。
それも、竜族の感覚でも異常を感知できないほどとても精巧に作られた幻。
状況を理解した幼い竜族の額に冷や汗が浮かんだ。
"これまでに儂を見くびって奇襲をかけてきた奴が、まさかお主だけだったとでも思ったのか?"
老いた竜は絨毯に乗ったまま、冷たい目で幼き竜族を見下ろしながら手を振った。
宙に新たに現れたいくつかの刃がその手振りに合わせ、舞い踊るように近づいた。
ザミルの背中と腰は相変わらず曲がっていたが、幼き竜族の目にはどんな竜族よりも巨大に見えた。
それが、生の最後の瞬間に幼き竜族の頭をよぎった考えだった。
眠たい目のロタンド
担当声優:吉田誉
ぶううん-
ロタンドはどっしりとした図体で地面を蹴って飛び上がった。
ゆっくりと風を切りながら、まるで宙を舞うように動き始めた。
いつもと違って軽々しく宙に浮く体、溢れる力に慣れない感覚を覚えた。
そして最も重要なのは、四六時中襲ってきた眠気が全くしなくなったということだ。
"もう!今日みたいな日にスワンの奴を懲らしめてやらないといけないのに…"
ロタンドはスワンを探すため、目を皿にしてあちこちを調べた。
そのうち、片方にぼうっと立っているスワンが目に入った。
今日は何がなんでもスワンの鼻っ柱を折ってやる。
"スワン!今日という今日はこのオレが一発で勝ってやるぞ!"
"......"
"言葉も出ないほど怯えてるのか?フフフッ!"
ロタンドはスワンに向かって猛スピードで突進し、全身に力を込めて体当たりした。
彼は体を支えきれずその場に力なく倒れるスワンを見て、豪快に笑い倒した。
"フハハ!あんなに強がっていたくせに大した事ないな!"
その時、周りが溢れ出るように崩れ始め、全てが踊るように揺らめいた。
周りが全部うっすらとぼやけるのを見て、ロタンドはゆっくりと瞬きをした。
倒れいるスワンの姿は粉々に砕けていて、ロタンドは朦朧とした気運が体にしみこむのを感じた。
「まさか…」
ロタンドは夢ではないだろうな、と切実に祈りながら瞑っていた目をパチリと開けた。
「また寝てんのか?つったく…起きろ。人間どもがこっちに向かっているらしいから。」
後ろから聞こえてくる聞きなれた声に、ロタンドはゆっくりと後ろを振り向いた。
首を横に振りながら舌打ちをするスワンが目に飛び込んだ。
ロタンドは今までの事が全て夢だったことに腹が立ったが、どんどん重くなる瞼を開ける気力すら残っていなかった。
寝るのは今だけで、次はどんな手を使ってでも勝ってやると、ロタンドは決心したのだった。