オーウェン

• 太平洋の南半球に浮かぶオーストラリアは生物が独自の進化を遂げた如く銃器も独自の進化を遂げたものが多かったが、ほとんどは実戦を経験することなく倉庫に眠ることとなった。
  しかし第二次大戦の勃発により、大日本帝国が鉄鉱石やボーキサイトをはじめとした資源を目当てに侵略してくることが予想され、しかも宗主国であった大英帝国はフランス亡命政府(ヴィシー政権)と共に西欧や北アフリカでドイツと、東～東南アジアでは大日本帝国との交戦に手いっぱいで、オーストラリアは自営用の武器の輸入すらままならないありさまであった。
• さかのぼること数年、銃器をはじめとした武器類の自作を趣味としていたエヴリン・オーウェンは数年かけて旋盤加工までマスターし.22LR弾を連射可能な短機関銃を創り出していた。オーウェン少年は自らシドニーまで向かいオーストラリア陸軍本部でテストを受けたが、威力不足を理由に不採用とされた。その後も独力で改良を重ねていたが、太平洋に戦火が及ぶと陸軍に志願し、手土産に改良型をオーストラリアでは大手の鉄鋼業ジョン・ライサート製造所のポート・ケンブラ工場にて工場長を務めるヴィンセント・ワーデルに試作銃を見せて、その口利きで陸軍発明局 (Army Inventions Board AIB) へ配属してもらうとそこで更なる改良に努めた。
  こうして完成した新型短機関銃はステンやトンプソンといった既存の短機関銃にテストで勝利し、制式採用の座を勝ち取った。これはオーウェン・マシンカービン、または単にオーウェンガンと呼ばれることとなった。製造はオーウェンをAIBに紹介したワーデルのポート・ケンブラ工場が担当することになった。
• 動作機構はシンプルブローバック・オープンボルトと一見平凡だが、高温多湿で砂漠やジャングルといった悪環境の多いオーストラリアでの動作の信頼性向上に重きを置いており、多くの独自構造や工夫が凝らされている。
• 一見して目立つのが上方からマガジンを挿入し、下方から排莢する独特のシルエットで、軽機関銃ではそれほど珍しくないものの短機関銃ではあまり例のない配置と言える。これは初期にパンマガジンを採用していた名残だが、給弾不良やマガジンの携帯性や強度、価格の点で箱型の方が優れると判断された。ちなみにステンと同様の左側面から挿入する試作品もあったようだが不採用となっている。
• 内部構造的に最大の特徴は薬室が隔壁に隔てられた2室構造となっている点で、前方の燃焼室にメインスプリングとボルトなどが全て納められ、隔壁はボルトハウジング後方から延びるシャフトが通る穴だけが開いている。後方室にはシャフトに直結したチャージングハンドルとその動作用スロットのみがあり、ここから異物が侵入しても燃焼室には入らないようになっている。また全長が伸びたことで前後のアイアンサイトの距離が稼げたためにエイムもしやすく、連射時にも重心点が安定しており実重量以上に持ちやすく反動もマイルドと評判であった。前後のサイトはマガジンを避けるため右側にオフセットされており、右利きよりも左利きの時に狙いやすい配置となっている。ただ軽量化と省資源化のために後室下のトリガアセンブリ周辺はトラス構造となっており、いかにも貧相で脆弱そうな印象を与える結果となっている。オーウェンガンの最大の欠点と言えるのがこの見た目であり、味方の士気にも関わる問題であるにもかかわらず改善されないどころか、試作銃では木製であった銃床までステンを模した固定式ワイヤーストックとなり、あまりの不評から木製に戻されたほどである。
  それらを除けば戦時急造にもかかわらずその性能は高く評価され、初期に弾薬不足などのトラブルもあったものの友軍も含めておおむね好評であった。
• 大戦終結後に生産は終了したものの、1960年代まで現役で朝鮮戦争やベトナム戦争に参加したオーストラリア軍部隊で使用された。後継のF1サブマシンガンの制式採用によりその任を解かれたが、上面給弾などの特徴は引き継いでいたものの、薬室の構造が簡略化されてしまったため、オーウェンガンほどの評価は得られなかった。
• とはいえもともと低コストなうえに過酷な環境下での運用によってサビや摩耗による強度低下を起こした個体も多く、現役復帰どころか実射可能なものはほとんどないというありさまで、マニアには高値で取引されるまでになっている。

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