NPC/ペルシカ

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ある42Labの研究者によると、ペルシカの出現はあまりにも自然かつ静かなものであったという。　年　月　日早朝、彼はいつものようにペルシカ博士のオフィスのドアを押し開け、徹夜仕事の残骸から必要な書類を探し出そうとした。ところが部屋の中はすでに、博士とほぼ同じ外見を持つペルシカ人形が、何もかも整理し終えた後だった。彼女は微笑みながら、必要な研究資料を差し出して来たのだそうだ。

ペルシカ人形はその後、博士の仕事の一部を素早く引き継いだ。その敏腕ぶりに、博士はペルシカ人形に一般の研究員と同等の権限を与えた。彼女が一人の研究員人形として、各研究組織の重要科研プロジェクトに参加できるように取り計らったのだ。

ペルシカ人形がいつ開発されたのか、どんな技術を応用したのか、なぜ造られたのか等の質問について、天才科学者ペルシカ博士は、いつも「暇だったから」の一言で終わらせてしまう。普段から変わり者であるが故に、これほど曖昧な理由でも、妙な説得力を持ってしまう。同時に、ペルシカ人形の卓越した業務効率の高さから、研究員たちはこの特殊な同僚を徐々に受け入れていった。

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エリート揃いの研究者の中でも、ペルシカは最も優秀な部類だった。あたかも人工知能の分野における素質が生まれつき備わっているかのように、課題の構想にせよ難問の攻略にせよ、彼女は常に想像以上のパフォーマンスを発揮した。誕生してからわずか２年の間で、ペルシカは続けて参加した５つのプロジェクトに、極めて重要な研究の道筋ならびに具体的な実現プランを複数提供し、さらに３つの細分化された分野において、異なる科研のボトルネックを解消した。同時にペルシカは、自身を実験対象に、人形のデータバッファシステムの最適化プロジェクトを主導し、次世代人形の開発のための重要な基礎理論を構築した。

同時に複数の重要プロジェクトのキーパーソンとなることで、ペルシカは周囲の信頼を勝ち得た。しかし、この成績が休憩時間や食事の時間と引き換えに得た者であることを知る者は少ない。一般の人形とは異なり、ペルシカは製造時に、素体にありがちな機械的構造のほとんどを取り払われ、代わりに生体モジュール部品を数多く組み込まれている。食事や睡眠といった、人形にとってはどうでもよさそうな行為が、ペルシカにはとりわけ重要だった。それでも彼女は、個人的欲求よりも仕事を優先し、一日たりとも休暇を取ろうとしなかった。

何日続けて徹夜したとしても、引継ぎや引き渡しを行う時のペルシカは、常に理路整然としていて、疲れた様子を微塵も見せなかった。唯一、彼女の手にある、日を追うごとに濃度と消費量が高くなる、甘ったるいコーヒーだけが、昼夜弛まぬ彼女の苦労を表徴していた。

教授とは常々、きちんとお話ししたいと思ってはいますが、仕事が途切れる気配はなく……ですので、今度手が空いたらお話しませんか？その時は、コーヒーをご馳走しますよ。

申し訳ありません、少々遅れました。
コーヒーのお味はいかがです？えっ……甘すぎでした？でもこうすると、頭がシャキッとするんです。ペルシカ博士がコーヒーに砂糖をたくさん入れるのも、そういった理由からなんですよ。もちろん、私もです。

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ペルシカはめったに自分について語らない。どれだけ仕事を担おうと、褒賞時には舞台裏に隠れ、功労のほとんどを人に譲ってしまう。あるいは、自己防衛を考えてのことかもしれない――この謙虚さ故に、公開資料上からペルシカの存在を証明することは難しい。オレンジ色の髪をした、匿名希望の女性人形によれば、ペルシカは自分自身の能力に懐疑的であるという。

「ペルシカのヤツ、いっつも自分の気持ちを隠しちゃってさ。仕事に打ち込むことで、不安を忘れようとしてんだよ……知り合った時から、責任を果たせないのが怖くてずっと無理してたんだ。最近は、余計酷くなってる……」

「この話は、『銀炎事件』まで遡らないとね……あれから、ペルシカはずっと自分を責めてた。ニューラルクラウド計画に参加した後、あたしたちみんな■■■■■■、■■■■■■■■■。■■■■■■■、■■■■■■■、■■■■■■■。あの時あたしがもっと……ヘへ。なんか、今の台詞あたしらしくないね」

「もしかしたら、教授ならペルシカのわだかまりを解いてあげられるかもよ……でも、あたしには決められないや。だからせめて、あいつのプレッシャーを少しでも減らしてやりたいんだ、みんなそう思ってるよ」
――人形対談記録より抜粋

声をかけてくださったのは教授ですが……私にも聞きたいことがあるんです。
教授は、ペルシカ博士をどういった方だとお考えですか？それから……私については？

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ニューラルクラウド計画が正式に発表された際、「Persicaria」の名前が突如、長い研究開発メンバーリストの中に現れた。ペルシカは、被験人形と研究開発メンバーという二重の立場でプロジェクトに参加し、被験人形の早期募集段階から、数多くの人形たちと接点を持っていた。

「リターン・トゥ・ゼロ」から数年後、人形たちはメンタルコクーンから目覚め、ペルシカは当然のように「追放者」チームのリーダーとなった、やがて教授が現れるまで。

困難な探索に始まり、チームの結成、今日に至るまでのオアシスの建設、人形の救助……ペルシカの努力は、想像を絶するものがあった。多くの人形の目には、ペルシカは常に優しく微笑み、忙しなくあちこちを奔走しているように映った。その笑顔の下に何が隠されているかは、ごく少数の人形しか知らない。

「ご心配なく、私は倒れたりしませんから。というよりも、絶対に倒れるわけにはいかないんです。もう、誰も失いたくない。そのためには、たとえ……！」
「すみません、なんだか興奮してしまって……お気遣いありがとうございます。オアシスのファイアウォールの観測データを確認しなくちゃならないので、お先に失礼しますね。あなたもこのところ、お忙しいのでしょう？必ず休息をとるようにしてくださいね。何かあれば、すぐに連絡してください。時間を空けておきますから……そうですね。本日の午後、医療部門の定期健診でお会いしましょうか」
――ペルシカのオフィス前・セキュリティシステムの録音記録より

教授は私が、この世界で重責を背負えるとお思いですか？
以前の私でしたら、逃げだしていたかもしれませんね……でも今は、違った見方が出来るようになったんです。聞いて頂けますか？

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「教授、これらのファイルには閲覧権限を設けてあります。故に、見れるのは貴方だけです。これを読んでいらっしゃることを、とても嬉しく思います。一時の好奇心か、それとも私への心配りか、はたまた真実を知るためか……動機がなんであれ、私はお伝えしなければなりません。私の知っていることは、真実のごく一部にすぎないのです」

「貴方に謝らなければ。私がこのファイルの一部を隠したのは、けして不信感からではありません。身分や目的が何であれ、貴方が信頼に値する人間であると、ほとんどの人形は知っているはずです。けれど、今はまだその時ではありません。いつか、私はすべてを貴方に打ち明けるかもしれない。でも今の私たちには、もっと重要な任務がある……一つだけ言えるのは、この先何があろうと、私は絶対に貴方の味方であるということ。どうか、それだけは信じてください」

「それから、今まで言葉にしたことはありませんが、でも……」

「教授、貴方はかけがえのない支えです。追放者たちにとっても、私にとっても……それは同じです。えっと、つまりその……」

「本当に、本当に……ありがとうございます」
――短い録音クリップより

今日のコーヒーのお味はいかがでしょう？砂糖は抜いておきましたよ。もちろん……甘いのがお好きでしたら、お好みで加えて頂いてもかまいませんし、渋みのあるコーヒーも、たまにはいいかもしれませんよ。
とにかく、今日はお話を聞いてくださって、ありがとうございました。これからも、お互いを支え合っていきましょうね。