「ガーデン・オブ・リコレクション」のメモキーパー。謎めいた雰囲気の優雅な占い師。
常に優しい微笑みを浮かべ、相手の言葉に辛抱強く耳を傾けることでその人の「記憶」に入り込み、全ての情報を把握する。
唯一無二の記憶を集めることに夢中になっているが、その真意は見通せない。
- ストーリー詳細1
「あの子は不思議な子だったの。そのことはずっと早くから分かっていたわ。あの子が生まれた日は、ヒバリが鳴いていて、月の淡い影と朝日が一緒になっている空が見えたわ。手の中のカードには過去を懐かしむ魂がこの世にやってくると書かれていた。そして小さい頃から、過去の物語を知ることに一番興味があったわ。私たちは誰に作られどこから来たのか、この世界がどのように生まれたのか。あんな質問、どんなに博学な人でも答えるのは大変でしょうね。あの子は周りの子供たちによく笑われていたけど、とても重要な質問じゃないかしら?人生は入り組んだ迷宮で、私たちは記憶以外なにも持ってないのだから」
——ある母親の記憶
認知症を患った母は物忘れが多くなり、家族を見分けることができず、少し前に起きたことも思い出せなくなった。
彼女は診断書を手に、戸惑う母をしっかりと抱きしめながら、日記をもう一度読み聞かせようとした——母は確かにそこにいた、けれど、本当はどこにいたのだろうか。
彼女は母に、その最期まで付き添った。しかし母の記憶が支離滅裂になったあの日から、母自身の存在も曖昧となっていることに気付いていた。いつか彼女の記憶も支離滅裂なものになってしまったとき…母は、完全に彼女のもとからいなくなってしまうだろう。
「人生は入り組んだ迷宮で、私たちは記憶以外なにも持ってないのだから」この言葉の意味が、初めて分かった。
- ストーリー詳細2
「探検家としてこの星にやってきて、ずっと川の流れる方向や街のレンガの材質、一番急な坂の傾き、煙突の数と分布なんかを調べていた…こういう仕事は星の「記憶」を保存したいという人々の想像と一致している。
——でも、それだけでは足りない。
僕が本格的に仕事を始めてから、あの女の子を頻繁に見かけるようになった。ある時は陽光が木の葉を掠めて彼女の姿を追いかけるも、最後は街灯に照らされた角を曲がると消えていった。またある時は、毎週水曜の夕方に大祭司の住む城を出る伝書鳩を追いかけ、翌日の夜明けに政敵と知られている衛兵長のところに戻ってくる。対岸から発射された大砲の傷跡が残る下水道に、雨水が滴るのをじっと観察していた時もある。時には川で洗濯をしていた老婦人が、前の権力者とその五人の隠し子たちについて一人語っている間に、水しぶきでスカートを濡らしていることもあった。
——星がこんな風に「記憶」を隠していることを知っている人は、僕たちを除いてほとんどいない。
僕は彼女を荒野の岩の前まで追いかけ、そろそろ声をかける時だと思った。
『何が見えたんだ?』彼女に見える姿になって聞いた。
彼女は雑草が生えている所を指さして、磨かれた跡が見えると言った。
『石が一個、前は暖炉の一部だったんだと思う…でもそれだけじゃないみたい』
僕はうなずいて、岩の隙間にある雑草と土を取り除くのを手伝った。
『記念碑でもあったのね』石に刻まれた文字を指でなぞりながら言った。
『そうだよ。でも「記憶」はこれだけじゃない』
そして彼女に見せてあげた。荒野の石はかつて暖炉であり、その前は記念碑であり、花壇であり、祭壇でもあった…そしてさらにもっと前には、やはり荒野の岩だったということを。
『こういう「記憶」を見るためには、どんな対価が必要なの?』
『あなたが姿を現わすまで、誰もあなたの存在を知らなかった』
『黒鳥を見るまで、白鳥は白しかいないと思われていたように?』
『そんな感じ』」
——ある探検家の記憶
メモキーパーは多くの星を行き来し、街に記憶されないために自分の痕跡は決して残さないよう、街のあちこちで記憶を掘り起こしている。そして、メモキーパーの資質を備えた人に出会うと街の記憶から連れ出して、より広い世界へと誘うのだ。
- ストーリー詳細3
「多くの人は、過去の美しい思い出に浸って生きたいがためにメモキーパーを志す。けど残念なことに、そういう人たちは欲望に負けて焼却人となり、好き勝手に記憶を変えてしてしまう。でも彼女は違った…記憶そのものに対する敬意と、強い決意を感じたんだ。だからお決まりのように三つの質問をすると、彼女はこう答えた。
『記憶を集めることに自分の人生を費やしてもいいか?』
『はい』
『そのために自分の肉体を捨て、姿を変えることを受け入れられるか?』
『はい』
『もしある日、自分が存在しなくなったら、世界に何を残すか?』
『私の記憶です。そこには未来に生まれ変わる過去の種があります』
小さくて温かい記憶、果てしなく大きい記憶、ペットのように飼いならされた記憶、猛獣のようにコントロールできない記憶…彼女がメモキーパーになったその時、彼女の記憶は静かで穏やかになった。まるで荒れ狂う波が、自分の港を見つけたように」
——あるメモキーパーの記憶
「何を思いだしたのかしら?」メモキーパーが尋ねた。
彼女が目を開けると、記憶のかけらが舞い上がる。
「人々は現在から未来に向かっていると思い込んでいるけど、実際は過去に向かっていると誰も気が付いていない」
- ストーリー詳細4
「場所:ピノコニー
時間:██年██月██日
お客様:██、██、██、██
『悲しい記憶、██より。この金色に輝く記憶は誇張と憧憬に満ちている。この先何年も悲しみを隠し、持ち主に影響を与え続ける運命にある』
『楽しい記憶、██より。この劇的な思い出は美しい色彩をまとい、喜び、混乱、滑稽をも含んでいる――しかし幸福とは言いがたく、その示す未来もまたしかり』
『残念な記憶、██より。つかの間の幸せな思い出は、死の炎から飛び出した流星のように美しく、瞬く間に消えた。うたかたの時を楽しむべきだ、楽しい時はすぐに過ぎ去るのだからと教えてくれた』
『ぼんやりとした記憶、██より。このおぼろげな記憶は混沌としていて、終わりの見えない冷たい雨のよう。私はその指し示す明日を知りたい。それが雨だろうと、晴れだろうと……』」
——ブラックスワンの記憶
「女の人の姿が見えた、映像と絵の間で、形を変えながら跳びはねてたんだ。いや…おかしくなったんじゃない。確かに『彼女』を見たんだ。あの声…ベルベットのような質感で、いかにも魔力が宿ってそうな手の中にあった色鮮やかなカード…ああ、そうだ、占ってみないかと誘われたんだ。『占うのが幸運、災難、なくした物、予期せぬ収穫、何であろうと…私に必要なのは真実の物語だけ』だと——『過去と未来は元々同じ円周上の、同じ点に重なっているのだから』と…頭はぼんやりしてたが、彼女は本当に優しくて、いろんなことを話してくれた。こっちのくだらない話にも辛抱強く耳を傾けてくれた…それから占いどおり、ホテルの宿泊客用の鏡を見つけたんだ!彼女に何を話したかって?——大したことじゃない。過去の噂についてさ……」
——あるピノコニーの住民の記憶
今では占い師として異なる世界を旅しながら、自身にまつわる運命や星神の記憶を探している。これらの記憶はダイヤモンドのように硬く、忘れられたとしても完全に消えることはないと信じている。
「たくさんのメモキーパーたちがピノコニーにやって来たけれど、何の収穫もなかったと言っていたわ。あれは水に浮かぶただの派手な夢だって」
「でも夢は…記憶が形を変えたものよ。メモスナッチャーや焼却人がまだ来ないうちに、何か残っていないか見に行くわ」