本棚/仙舟「羅浮」(3)

Last-modified: 2025-07-03 (木) 19:14:12

アーカイブ:固有名詞 | 遺物 | キャラクター | 星神 | 敵対種 | 派閥 | 光円錐


本棚:入手場所|内容:宇宙ステーション「ヘルタ」 | ヤリーロ-Ⅵ(1) | (2) | (3) | 仙舟「羅浮」(1) | (2) |(3) |ピノコニー(1)| (2) |オンパロス (1)|(2)|(3)|紡がれた物語|収録なし



Ver3.1時点で97項目。内37項目。

「尚滋味」の満点好評コメント

殊俗の民である向ヶ丘が金人巷にある「尚滋味」に残した満点の口コミ

「尚滋味」の満点好評コメント

ユーザー名:向ヶ丘
レビューレベル:名誉会員23級
所在地:■星■■■■■■■■■■域

【料理店】尚滋味(金人巷、仙舟「羅浮」本店)
評価:★★★★★(5/5)
タイトル:美食の盛宴、その名の通りのグルメ体験!

本文:
仙舟「羅浮」の観光中に食べた最高の一食。あるストリーマー(赤黒い髪の女性、仙舟人かどうかは分からないけど、仙舟のことをよく知っているよう)の食レポや飲食店探索ムービーが流行りだしてから、ここに来る人が増えて商売も繁盛してきた。おかげでかなり待ったし、危うく予約を取れなかった。

メニューが豊富すぎて、注文する時に選択困難に陥って、呼吸が加速して、しばらくパニック障害を引き起こしてしまった。けど適当に注文した料理でもかなり美味かった。

正直言って美味すぎて形容詞の使い方も忘れてしまった。一ロ一口がサプライズだった。まだ箸を上手く使えないけど、店には他の食器もあったからフォークで食べた。茎ニンニクの豚バラ炒めは美味い、陳婆豆腐はうまい、パリパリキュウリの辣子鶏も美味い。どれも美味くて、何度も口の中で新しい味を探索しているような感じだった。食べてる肉が野獣のものだとは思えないほど新鮮で、荒々しく、爽やか。

牛もつ乱切りのラー油和えは一生忘れないだろう――それは本当の意味での「乱切り」だった。店主、つまり主厨さんの包丁が乱閃すると、牛もつがきれいに切り分けられ、出来上がったばかりのラー油がもつを丁度いい程度に浸透する。五千年生きているのかって聞きたいほどの技量だよ。仙舟人はみんなかなり長生きしてるようだから、その包丁さばきもきっと数千年の修行を経て習得したものなんだろう。そうでもなければ、彼女はきっと不世出の包丁達人だ!

ここは星槎海に似てない。金人巷の特徴はかなり変で、欺瞞性がある――その名前の通り、なぜ「金人」がこの街の命名権スポンサーなのかが全く理解できない。「尚滋味」の店舗もそうだ。通りすがってもただの飲食店だとしか思わないけど、店の中はきれいで整っているし、店主さんは親切で、料理する時はかなり真剣。なにかの獣の肉で作られた団子、確か「九九九手打ち肉団子」って名前だった。店主さんは僕の目の前で肉を900回ほど打ってペーストにして、こうでもしないと「正真正銘の料理」ができないなんて言ったんだ。飲食店を経営してなくてよかったよ、じゃなきゃ家に帰ったら、きっとうちのシェフを叱るだろう――同じ料理人なのに、どうしてこんなに差があるのか、って言い出しちゃいそうだよ。

とにかく、僕はこの店のすべてに満足している。もし新鮮で、特殊で、独特な味の仙舟料理を味わいたいなら、この店をオススメする。この料理店は絶対に五つ星評価に値する!

真志摩の雇用契約書

真志摩の雇用契約書
*雇用契約
甲:真志摩
乙:世宏

一、契約目的
本契約の旨は、甲と乙の間の保安作業に関する権利、義務、責任を明確し、双方の法的権利を確保することにある。

二、勤務内容
1.乙は甲の保安人員として雇われ、保安関連の任務を執行すること。
2.勤務期間中、任務執行の安全性と有効性を保証するため、乙は仙舟「羅浮」の雲騎軍甲冑を装着すること。
3.突発事件と緊急状況に対応できるよう、乙には強健な心身が求められる。

三、勤務地点
1.勤務時間は甲の指定に従うこと。甲の手配を疑ってはならない。

四、賃金と福利厚生
乙の賃金は甲が制定した賃金標準に基づき支払われる。

五、秘密保持契約
1.勤務期間中、乙は第三者の尋問を受ける可能性がある。その場合、乙は勤務内容を厳密に守り、第三者に漏洩してはいけない。
2.乙が辞職した後でも、秘密を保持する義務がある。
3.乙は契約内容を詳しく確認しない、まさしくこの項目が発見されないように。

六、契約不履行の責任について
1.乙が本契約に定められた職責と義務を履行できなかった場合、甲には相応の糾正措置を取る権力があり、状況に応じて乙に相応の処罰、または解雇を行うことができる。
2.乙が違法活動を行ったことにより逮捕された場合、甲は如何なる法的責任も負わない。

七、契約解除について
1.本契約の期限は三日。契約期限が満たされるまで、乙は契約を解除してはいけない。

八、その他の項目
1.本契約は一式二部であり、甲、乙が各一部を持つ。両部には同等の法的効力がある。

本契約はスターピースカンパニー®の関連法律に基づき進行されます。

*甲:真志摩
*乙:世宏

黒市商人調査筆記

黒市商人調査筆記

黒市商人調査筆記(その1)

ことはかなり昔に遡る。それは初めて彼に出会った頃。

前回の豊穣戦争の頃だったかな、難民の仮設住宅地で黒市商人に始めて会った。当時の彼の身なりは怪しいとしか言いようがなかった――大きすぎるフードに紫のマスク、そして身体と釣り合わないほど大きなバッグ。彼は人目を盗み、難民の中に紛れ込んで出所の分からない商品を売っていた――星間海賊が使う武器のようだった。

私は彼と話をした。彼は特に何かを隠そうとする気配もなかった。私に武器をお勧めするだけじゃなく、「昇級サービス」も提供すると言った――つまり、武器の改造だ。私は警戒した、長い年月培ってきたこの道の勘が警告した、こいつはヤバいと。けど私は彼の話を聞き続けた。

彼は周りの難民たちに「悪徳商人」だと言われたことに対して不平をこぼした。「私だって家族を養うために、生命保険も買わずにここに来たんだ。私の命に価値がないのか?私はみんなを助けるためにここに来たんだ」彼は地面の卵の殻を指し、頭に血が上った難民が彼に向かって卵を投げると言った。彼は自分の「好意」が相応に尊重されていないと主張した。

私は商品(主に武器)の価格を尋ねたのだが、確かに仰天するほどの高価だった、難民の中にそれほどの金を出せる者はいるのだろうか。それを聞くと、「楽観的な人は未来に投資する。金を惜しんでも意味はない、今使わなくても、いつかは使うから……」と彼は答えた。その商人はいつも冷笑していたから、どうも気味悪い。

仮設住宅地を離れた後、地衡司に通報した。法律の監督が行き届かない市場は、法律と道徳規範を違反している。地衡司の通達によれば、あの商人は逮捕されたのだろう。

そして、ここ数日、また金人巷で彼に出会った。

黒市商人調査筆記(その2)

マスコミの仕事を始めてから、こういったグレーゾーンに敏感になったから、ついつい真相を探ろうとする。

こいつの身なりは昔と大きく変わった、けど身体の動きからは同一人物だと窺える。彼に近づくと、そちらも私を見かけ、話をしてきた。最初は彼に報復されるかと心配してたが・・・考えすぎだった、彼は入獄のことをまったく気にしていなかった。

最近の仙舟は混乱しているから、薬材商売の商機があると思った、と彼は言っていたが、その薬材がまさか魔陰の身から生えた枝だったとは…そしてそれを長生を求める殊俗の民に売ろうとしている。彼の話を聞くと驚きが止まらない。そんな物、本当に薬材になれるのか?そんなことしていいのか?この悪徳商人がやっていることはなんて狂気じみてるんだ。もしこれを報道したら、彼は世間に批判されるだろうか?いや、彼は生きて仙舟から離れられるのか?

それを考えると、心の中から正義の力が溢れてくる。徹底的に調べ上げるぞ!

黒市商人調査筆記(その三)

あいつめ、永狩原野に行って木の枝を拾っているだけじゃないか!魔陰の身なんかじゃない!

桂乃芬の美食探索台本

仙舟のインフルエンサーである桂乃芬が作成した美食探索動画の台本。本気で取り組んでいると伺える。

桂乃芬の美食探索台本

【撮影シーン】「尚滋味」の店先
【カット番号】01
【撮影内容】店の看板
【ショット】ミディアム
【セリフ概要】なし
【尺】2秒
【音楽】軽音楽
【撮影シーン】夜市の風景
【カット番号】02
【撮影内容】店の外、夜市で人が行き交う街の景色
【ショット】ロング
【セリフ概要】なし
【尺】2秒
【音楽】軽音楽

【撮影シーン】「尚滋味」の店先
【カット番号】03
【撮影内容】店の扉を開けて、受付台と予約した席に向かって歩く
【ショット】アップ
【セリフ概要】尚滋味の評判と金人巷の歴史を簡単に紹介
「金人巷は『羅浮』で最も人情味のある場所」
「ずっとチェックしようと思ってた店だから、今日は友達も連れて来た」
【尺】5秒
【音楽】録音、動画冒頭のBGM

【撮影シーン】「尚滋味」店内
【カット番号】04
【撮影内容】店のメニュー、スライドする様子を映しながら料理を選ぶ
【ショット】アップ
【セリフ概要】料理の味を紹介、個人の好みで注文していることを強調する
「陳婆豆腐は『尚滋味』の看板メニュー。お豆腐が柔らかくて滑らかで、口に入れた瞬間にとろける」
「五枚肉は店主が自ら処理したもので、新鮮すぎて口に入れると感動して涙が出る。店に来るのが遅いと逃してしまう、超人気料理!」
【尺】8秒
【音楽】録音、メニューに触れた時にBGM

【撮影シーン】「尚滋味」店内
【カット番号】05
【撮影内容】料理が出されるまで店の内装を撮影
【ショット】ミディアム
【セリフ概要】なし
【尺】2秒
【音楽】軽音楽、倍速BGM

【撮影シーン】「尚滋味」店内
【カット番号】06
【撮影内容】料理が出される動画、箸で料理を掴む、食べながらおしゃべり
【ショット】クローズアップ
【セリフ概要】なし
【尺】15~30秒
【音楽】録音、ヘッドセットのマイクに変えて録音!!!!

……
……
……

【タイトル候補】
1、親友と金人巷を掃討!一口で彼女が泣き出す美味を発見!
2、あの有名な「陳婆豆腐」がここに?日帰りで金人巷の店を探索!
3、竜巻の如く18食平らげる!金人巷で胃が痙攣しても食べたい1日……
4、金人巷でしか食べられない!手打ち牛肉って本当に素手で打つの!?
5、5分で金人巷を食べ尽くそう!食べ過ぎで口が攣っちゃいそう……
【備忘】
あああああああああああああああ美味しすぎて完全にタイムオーバー素材も爆発するほどあるけど本当に美味しいこれもうシナリオ通りに進行できない!!!

仙舟同盟快遊冊子

摘星社が発行する旅行冊子。仙舟同盟各地の景勝地を紹介したもの。

方壺編
*長楽天旅行会社「摘星社」が制作した観光パンフレット*
仙舟「方壺」・旅行豆知識

仙舟「方壺」。元々は仙舟同盟で最も有名な景勝地でしたが、近年起きた第三次豊穣戦争で被った損害により、大量の観光客を受け入れる余力を失い、一度は旅行ビザの発行も中断されていました。今、方壺が観光業を再開したことにより、私たちもまた波が揺蕩う方寸煙海を訪れることができるようになりました。

現在の地区政策に基づき、方壺に旅行に行く際は仙舟同盟が発行した通行証および、2-3ヶ月前までに方壺通行証を申請する必要となります(仙舟民も同じです)。本籍が仙舟同盟にある旅行者は、方壺天舶司に戸籍所在地の地衡司が発行した素行証明書が必要となります。異邦からの旅行者は、居住地が発行した素行証明書、およびスターピースカンパニーが発行した無犯罪記録証明書が必要となります。

手続きはやや複雑になりますが、方壺天舶司が発行した通行証の有効期間は20年もありますので、一度申請すれば非常に便利になります。

ここで注意すべき点を一つ。方壺は持明族の自治領として、生活習慣および社会組織構造が他の仙舟とは違いがあります。不注意による過失を避けるよう、出発する前に摘星社が販売する『方壺生活指南』を購入することをおすすめします。

仙舟「方壺」・行っておきたい景勝地

【紅水湾】

三澤洞天の紅水湾は多くの観光客が方壺を訪れる最初の場所です。星槎から降りたばかりの人々は、洞天頂部で静かに流れる海に震撼されるでしょう。方壺を訪れる前に、既に幻戯またはホログラムでこの奇景を見ている人は多いかもしれませんが、信じてください、如何なる間接的な体験も自身の目で見たものには勝りません。

大海を仰ぎ見ましょう。官氏ウミヘビの巨躯が視界を横切り、燃灯魚が水中の蛍火のように集まり、ミサイルの如くスリマンダ巻貝が魚群の中で狩猟する景色を…このような衝撃的な体験は、全銀河を見渡しても、ほぼ紅水湾でしか見れないでしょう。

【垂迹記念館】

垂迹記念館は東海洞天に位置します、その全称は「第三次豊穣戦争帝弓垂迹記念館」です。東海洞天全体は前の戦火で廃墟となりました。垂迹記念館はその廃墟の上に建てられたものです。

垂迹記念館には、持明の雲吟法術で造られたホログラム景観『帝弓垂迹始終』があり、その場で災難を見届けたような体験を味わえます――豊穣連合軍が方壺を強攻、珠守り人は退かずに死戦するもついに敵わず、豊穣聯軍が洞天内部に入ってしまった。帝弓の司命はこれ以上の塗炭を防ぐため、やむなく垂迹を顕し、神矢で豊穣連合軍の艦隊を滅ぼした。同時に、陥落した多くの洞天も破壊された。その内、東海洞天は唯一「廃墟になっただけ」の洞天です。

垂迹記念館で最も心を震い上がらせるのは「俗世宮」でしょう。方壺はスターピースカンパニーと共に、戦前の東海洞天で一番繁栄した「陵魚大通り」を再建し、蜃影の形式でそこに住んでいた39823名の住民が災厄に襲われる前の日常生活を再現しました。彼らと話してみると、私たちと同じであり、戦火の中に消え去ることを想像したこともない普通に生きている人であることがわかります。

垂迹記念館は異邦人に対して無料で公開されています――方壺人はより多くの人たちに知ってほしいのです、仙舟同盟が何のために戦っているのかを。

【巨野澤】

巨野澤は方壺で盛名を負う海水浴場です。たとえ複雑な手続きがあろうと、毎年7千万近くの観光客を接待しています。

巨野澤の最大の魅力は、「温泉郷」と「海水浴場」両者の長所を融合したからでしょう。一つ、巨野澤の水には皮膚の健康に有益な微生物が多く含まれています。二つ、巨野澤の畔には壮麗な白砂浜と優美な風景が広がっています。そして巨野澤の最大の欠点は人気すぎて、閑散期でしか観光客の身体に埋もれた白砂浜が見えないことです。

曜青編
*長楽天旅行会社「摘星社」が制作した観光パンフレット*
仙舟「曜青」旅行豆知識
·
仙舟「曜青」への旅行に特別な手続きは必要ありません。仙舟同盟の公民または仙舟同盟が発行した通行証/居住証明さえあれば、曜青へ行けます。しかし曜青は常に交戦星域を航行しているため、安全対策を十分に用意してからご出発ください。摘星社でご自分の興味に合った団体観光に申し込み、曜青を観光することもお勧めします。

仙舟「曜青」へ旅行に行くのは安全かどうかという質問が、多くの旅行者から寄せられました。このような心配があるのは意外ではありません。

ですがご安心ください。曜青の各種軍事行動は主に遠征艦隊により展開されたもので、仙舟主艦が危険に晒されることはありません。当然、豊穣の民は常にこの「災いの元」を除去しようとしています。けど、少なくともここ1琥珀紀、曜青主艦に実質的な損害を与えた敵はありません。

(それでも、必ず曜青当地の法律に従い、観光してください。勝手に観光団から離脱すると、違法もしくは犯罪行為となり得る可能性があります)

仙舟「曜青」行っておきたい景勝地

【天風閣】

広寒洞天に位置する天風閣は曜青で最も有名な観光地の一つです。先代曜青龍尊「天風君」が血戦の末、忌み物の砦獣「百腕」を破壊したことを記念するために築かれた宮閣です。

曜青工造司は持明の匠3,000名と共に20年ほど費やし、青玉と月長石でこの閣を建造しました。天風閣の精巧と雄大を表せる言葉などありません、これはまさに曜青持明建築風格の芸術的な代表とも言えましょう。天風閣の中では、頌風者がいわゆる「羽路」を設置し、16の浮島を繋げています。たとえ飛行/浮遊設備を使わなくても、自由に空を歩けるようになっています。

遊覧する際は、天風閣の規則に従うよう注意してください。規則に反した行為による事故が発生した場合、本社は一切責任を負いません。

【青丘港】

青丘洞天にある青丘港では、曜青の独特な星槎製造工程を見ることができます。

解説員は観光客を連れて産業団地を歩き回り、モコモコな小生物が一歩一歩、妖寇を討滅する青丘軍の忠実なパートナーになる過程を教えてくれます。

ほぼ毎日、新しい星槎が誕生します。そして観光客もまた、作業員の手伝いのもと、新しい星槎の取り上げに参加し、生物技術の奇跡を見届けられます。さらに、新星槎を命名するチャンスまで手に入るかもしれません。数ヶ月後、あなたに命名された子が豊穣の民を掃蕩する戦場に出現し、銀河の存続のために戦う姿を想像してみてください。今から昂ぶってしまいます!

【赤狐戯園】

丸一日の刺激と感動を味わったら、気持ちを切り替えて優雅なイベントを楽しむ時です。白珠街の赤狐戯園で、皆様は最も正統な「平戎戯」を観賞できます。

平戎戯は曜青狐族の伝統戯曲です。戯園に初めて踏み入った人は、大方その広い環状の舞台に衝撃を受けるでしょう。赤狐戯園は数千年の伝統を維持し続け、あらゆる視覚効果技術を拒んだ数少ない戯園の一つです。それ故に、このような広々とした舞台を必要としているのです。

この伝統戯曲は隈取で登場人物とその性格を区別しないため、観賞するには一定のハードルが存在します。幸いなことに、平戎戯は血が滾るほどに真実さを強調する戦闘場面があります。数十名の役者が空中で飛行、撃ち合い、取っ組み合う…物語の筋書きが理解できなくても、平戎戯の魅力は十分に堪能できるのです。

符玄がヤコプ学士に宛てた手紙

符玄がヤコプ学士に宛てた手紙

ヤコブ学士

拝啓

貴方が羅浮に提供してくれた重要な観測データにより、南ディアクヴァ阻止戦における我が軍の死傷者は、少なくとも70%減少した。ここに羅浮六御を代表して、貴方に心より感謝を申し上げる。

六御が共に署名した協議に従い、私は貴方に大衍窮観の陣の技術文書の一部を開示する。同時に、誠意を示すために学会が、理解できる言葉で簡単な解釈を付けておく。

「未来を予測」するうえで、「カオス理論」は超えることが難しい壁であることは、学会も承知のはずだ。如何なる「未来」の予測も最終的には、ある「カオス」の予測に帰結せざるを得ない。ただし、カオスは予測不能だ。天気の移り変わりから三体問題まで、どんなに小さな干渉でも、予測結果に致命的な偏差をもたらす。

しかし大窮観の陣の最初の創造者は、「遍知天君」からある着想を得て、それを未来を予測する方法とした。すべての未来を予測する行為の背後には、絶対的な干渉要素—「観測」そのものが存在している簡単に言えば、私たちがカオス系を観測する時、私たちの観測という行為そのものが、カオス系の最後の運行結果に影響を与えるということ。

この時、私たちの「観測」そのものを変数として扱えば(少し難しい言い方をすると、「私の観測を観測」する)、可能な限り正確な予測結果を得ることができる。

もちろん、これは創造者たちの最初の計画に過ぎない。彼らがこの偉大な機械を使い始めた時、誰も想像していなかった事態が発生した。

その現象については、手紙に添えた文書の中で、より正確な数学用語を用いて述べているため、ここでは簡単に説明する(もしかしたら正確さを失うかもしれない)。大衍窮観の陣が観測結果を観測する時、窮観の陣が観測する未来は私たちに迎合するように、混沌の中から真の姿を顕す――その未来には、大まかな輪郭しかないけれど。

あるいは――格物学上、厳密とは言えない解釈になるが、こう言い換えることもできる。私たちが未来を観測していない時、「まだ発生していない未来」は「すでに発生した過去」のように、現在には存在しない。しかし、私たちが未来を観測する時、未来は私たちが観測したように発生する。

さらに率直に言うと――少なくとも今のところ、大衍窮観の陣の原理はブラックボックスである。私たちが知っているのは、「自分の観測を観測」することで、カオス系から驚くほど正確な予測結果を得られるということだけ。しかし、何故そうなるのかを知る者も説明できる者もいない。

太卜司の同僚を含む多くの人々が、これは人類が自分の力で未来に影響を与え、未来を選択することができるという例証だと考えている。しかし私は…この事実に対して異なる解釈を持っている――

過去、現在、未来、これらは通時的に存在しているのではなく、共時的に存在している。(私の観点は「「時間」の存在を否定しているため、「通時」「共時」と述べるのは些か誤用かもしれない)この宇宙の一分一秒は、創世当初にすでに定められているのだ。

これは同時に、未来は絶対に改変できないことを意味している。

敬具

羅浮太卜司太卜 符玄

仙舟同盟信仰危機小史

通俗的な歴史知識普及文章。仙舟人が「豊穣」に反抗してから、「巡狩」が登神するまでの信仰生活を紹介した。

其の一

仙舟の伝説によると、ある英雄と火皇が力を合わせ、一筋の光矢を放ち、造翼者の穹桑を破壊した。その後、英雄は行方不明となった。やがて其は「帝弓の司命」に昇格して帰還し、仙舟を今まで庇護してきた。

後世から見れば、この件は実に奇怪だ。平均寿命が800年にも達する仙舟人にとって、その戦争は四代前のことでしかない、それこそ「近代史」とも言えるほどだ。しかし何故だろうか、「登神」という何の実証もない神話は今や、仙舟人の間で最も主流な歴史観となっている。

この件をはっきりと述べるには、星暦3400年から星暦4000年の間に起きた信仰危機から始めないといけない。

まずは一つの事実を明確にしよう。「帝弓の司命」という尊号は、「巡狩」が星神として正式に出現したより遥か昔に誕生したものだ。かの英雄と火皇が共に穹桑を破壊した後、「帝弓の司命」は其の尊号となった。そして其の本来の名前は避諱され、どの文献にも記されなくなった。

英雄が「栄光の死」を迎えてまもなくすると、空劫の乱が勃発した。魔陰の身は仙舟の民の心に残る僅かな薬師信仰を徹底的に揺るがした。そして一つの問題が仙舟人の前に浮かび上がった――かつて信仰した星神を捨てた後、仙舟人はどの運命に追従するべきなのか?

同盟が航行を初めた最初の千年から、スターピースカンパニーは同盟と接触しており、彼らが持つ「存護」の信仰は知らず知らずの内、仙舟人に影響を与えていた。それは星神に対する仙舟人の呼称から窺える、「補天司命」は「帝弓の司命」以外で唯一の「司命」である。それ故、「慈悲薬王」が「寿瘟禍祖」になった後、多くの仙舟人は自然に天垣の神クリフォトの運命を選んだ。その者たちを「補天派」と呼ぶ。

信仰危機が起きた600年間、補天司命は一時期仙舟同盟の主流信仰となっていた。今では仙舟人の信仰生活は大きく変化したが、補天司命時代の地名と建物は其の痕跡を仙舟に焼き付けた。たとえば曜青の「琥珀大通り」羅浮の「天垣洞天」、朱明の「補天殿」などがそうだ。

その内で最も壮大な2棟は、カンパニーが建てた朱明の「補天殿」と蒼城の「琥珀宮」。前者は現在、朱明工造司附属学宮の所在地であり、後者は蒼城と共に歴史の長河に消え去り、残るのは若干の映像記録と作者不明の詩。

「欄干に凭れ仙宮の遠きを俯瞰し、歩みを挙げては碧洞の雲に乗ること能う。遥かに補天の壁高き処見れば、天垣衆峰と群れず」

其の二

補天司命信仰は一時期、知識層や商人の間で主流な信仰となったが、補天司命はあまり凡人に関心を持たない星神であり、大多数の一般仙舟人の実用主義な精神の基色には合わなかった。そのため、当時の人々が選択する信仰は多種多彩になった。

時代の流れに背き、薬師信仰に固執する者も少なからず存在した。彼らは、豊穣の民の行いは薬師の意志にそぐわず、魔陰の身の存在も、薬師の意志が正確に貫かれていないが故に発生したものと考えた。その者たちは自身を「薬王秘伝」と称した(現代のテロ組織と区別するため、以下「旧・薬王秘伝」と呼ぶ)。

長い間、「旧・薬王秘伝」は悪名高い組織ではなかった。彼らは開放的な姿勢で懐疑に向かい合い、医館を開いて人々を助けた。とっくに薬師信仰を捨てた仙舟人にとって、薬師の遺老たちの行いは可哀想で可怪しいものであったが、憎悪などはなかった。

特筆すべきは、仙舟人が教科書で極力薄めてはいるが、信仰危機時代の数千年後に歴史の舞台に舞い上がり、仙舟の医療体系を一変させた「寒泉派」の前身が、数千年間密かに継続した「旧・薬王秘伝」なのだ。さらには近年、妖人どもが「薬王秘伝」の名をさん奪して動乱を起こしたことによって、「寒泉派」はやむ得ず、この団体は「既に寿瘟禍祖に対する間違った信仰を捨てた」と公開声明した。

元の道を放棄し、遍知天君に帰依して「知恵」の運命を歩み始めた知識層の人々は「遍知派」と呼ばれた。遍知派の者は俗世の出来事にほとんど興味を持たず、象牙の塔にこもって研究に没頭するだけだった。それ故に、百家争鳴の信仰危機時代で、彼らの存在感は高くなかった。(その上、遍知派は星神に対する尊称は重要ではないと考えていたため、ずっと「天君」の呼び方を保留していた)

存在感が低く、信徒の数も少ないが、遍知派は存続してきた。玉殿にある「遍知格物院」は5000年近くの歴史を持ち、各仙舟各司部に遍知天君を信仰する高度技術人材を絶えなく送り出している。そして帝弓の司命を信仰する仙舟人は、このことに異議を申し立てたことはない。

正気で、実用主義至上の大多数の仙舟人にとって、「巡狩」は従うべき道であり、人を束縛する枷ではない。この偉大なる運命の道を歩んでいるのであれば、たとえどの星神を信仰しようと、それは最終目標を達成するための手段に過ぎない。

其の三

星神信仰以外に、星神ではない存在を信仰する者もいる――古国の皇帝を信仰する「帰航派」、火皇を信仰する「火皇派」、そして帝弓を信仰する「帝弓派」(当時の帝弓はまだ登神していない)。

これはどうも奇怪なことである。既に星神に対して明晰な認知を持つ高等文明に、星神ではない存在を信仰する人がいるとは。

この2派閥に関する歴史文献は宗教心理学の重要資料とされ、これを元に信仰の背後にある心理作用を研究する著書が多く記された。当文ではこの内容を収めきれないため、ここでは信徒の表層動機だけを討論しよう。

帰航派にとって、古国の帝尊に対する「信仰」と「忠誠」は一種の旗印にすぎない。彼らの選択を促したものは哲学的な思弁ではなく、政治的な取捨。理解するのは非常に簡単なことだ。たとえ当時の仙舟人は「故郷」の土地を踏んだことがなくとも、「郷愁」はすべての仙舟人の血と共に身体の中で流れている。

そして故郷を思う人たちは宣言した、「我々は孤独な遠航を続けるべきじゃない。我らの皇帝の呼びかけに応じ、道を探し、故郷に戻るべきだ」。

狐族が仙舟同盟に加入した後、故郷再建を望む狐族の「青丘派」が帰航派と合流し、今でも無視できないほどの政治勢力となった。このちぐはぐな合流を見ればわかるだろう、帰航派(と青丘派)にとって、信仰はただのスローガンでしかない。彼らは家に帰りたいだけ。

もう一方の「火皇派」は、大博打に出ているとしか言えない。彼らは、火皇がいつか登神すると信じている。そして登神の道を阻むのは、仙舟人による囚禁だけ。敬虔に火皇に従い、歳陽を解放して火皇の昇格を助ければ、火皇が運命の主になった後に最も星神に近い凡人となり、多大なる運命の力を授けられると考えている。

少しでも考えればわかるはず。このような信仰は様々な犯罪活動を生み、すぐさま執行部門に殲滅された。そして火皇を補佐しようと躍起になっていた者たちは、歴史の舞台から姿を消した。

この騒動の中で唯一注目すべき点は:覆滅した時になっても火皇派は、「火皇はどの運命を司る」という問題で意見がまとまらなかったこと。ある者は「霊智」と思い、ある者は「燃焼」と思い、さらには「照りつき」と言う者までいた――まるで銀河中の肉串を掌握したかのようだ。

其の四

上文では、信仰危機時代の「帝弓派」の動向が提起されていない。それには簡単で意外な理由がある-帝弓派はほとんど活動せず、厳粛な信仰とも見なされなかったからだ。

仙舟人が帝弓を崇めていないという訳ではない。事実、当時はほぼすべての仙舟人が帝弓の司命を偲び、仙舟のために殉じたことに感謝していた。しかし信仰生活になると、死した英雄が神となり仙舟を庇護することなど本気で信じる人は少なかった。

せっかくここまで話したのだ、少し文脈を外して、当文とはあまり関係のないことを書こう。今の時代、多くの歴史関連の公式アカウントが「虚構歴史学者パニック」を煽いでいる。これは歴史普及にとって極めて害悪である。その内、もっとも広く流布され、最も危害が大きい誤伝は、やはり「『仙舟同盟宣言』は既に虚構歴史学者に改ざんされた」だろう。

これを吹聴する公式アカウントの「論拠」はこれに他ならない:「『宣言』に『上は帝弓に至り、下は十王に達す』とあるが、当時、帝弓の司命はまだ登神していない」。しかし読者諸君は当文を読んで「帝弓の司命」という尊号の歴史を理解した、これでいわゆる「論拠」も自ずと破られただろう。

話を帝弓派に戻そう。信仰危機時代では、帝弓派のように真心から帝弓の司命を信仰する派閥は広まらない。存在しない神に感情的価値を求めるより、人々は実際に存在する星神に庇護を求める傾向がある。このような外野的な立ち位置に対して、帝弓派はあがくことなく、ただただ英雄の帰還を祈った。

やがて神矢が顕現し、豊穣の民が巣食う世界を砕いた――そして仙舟人は「帝弓の司命」が本当に存在することを知った。まずは太卜司、そしてカンパニーと学会、各派閥が次々と新たな星神「巡狩」の誕生を確認した。

一夜にして、帝弓派は辺縁団体から補天派と張り合える主流信仰団体になった。

それから起こったことは信仰の違いというより、路線の争い。

補天派の主張は、補天司命の意志に従うべき、仙舟は豊穣の民との戦争を止めるべき。そして帝弓派の主張は、豊穣の民は決して「逃避」と「防御」で対応できる敵ではなく、同盟存続の唯一の道は巡狩の運命を歩み、妖寇を掃蕩すること。

さらに時間が過ぎ、遠征の連勝、帝弓の垂迹、そして狐族と持明が同盟に加わったことで、信仰の天秤が帝弓派に傾いた。約4100年の時、「帝弓の司命」は仙舟同盟の正統な神となった。

このように、仙舟の信仰危機時代は終結し、帝弓の司命の時代が始まった。

暁虹二公弔文

薬王秘伝との戦闘の中、狐族の兄弟が雄々しく命を捧げた。彼らの戦友は伝統的な方式で追悼文を書き、二名の烈士を弔った。

暁虹二公弔文

亡き暁、虹二公、双子兄弟、羅浮都房洞天の狐族也、一家を挙げて皆雲騎。暁、虹二十七歳、父母 歩離討伐に出征、共に殉節。故に暁、虹従軍し、飛行士となる。

暁、虹五十五歳、薬王賊反乱。賊、星槎で皓日洞天を攻撃。暁、虹それを迎撃し、倶壮烈に殉節。

昊天弔わず!暁、虹二公、難に臨みて恐れず、義のため生を捧げた。兄弟命を同じに、悲しい哉!

今日、二公を列星に帰し、輝きを共にし、英霊を青丘に還さん。ここに薄奠を致す、公 享用すること願わん。

歳陽祓い指導手帳

歳陽が制御不能になった時のために用意された十王司内部の退魔応急マニュアル。

歳陽祓い指導手帳

十王の勅令を受け、我々問字部の判官は書簡の調査や古い書籍の検索を行い、歳陽を追い払った経験をいくつかまとめ、印刷して司部の者たちに配布する。本手帳の内容を詳細に確認し、降魔に役立てるようにすること。

質問:歳陽とはどのような妖魔なのか?なぜ十王司でよく見かける降魔手帳にその資料がないのか?

回答:歳陽は珍しい無形目の生物であり、固定の形を持たないエネルギー生命体である。知的生命体の肉体を乗っ取ることを好む。歳陽の具体的な特性については『大敵名簿』の関連記録を参照のこと。

妖魔が横行し、洪炉が壊れ、魔物歳陽が再び現れた。最後に現れた「奪舎の禍」から数千年が経過している。当時、仙舟の人々はまだ短命種であり、十王司の制度もまだ確立されていなかった。その後、羅浮はこのような魔物の侵攻を受けることはなかったため、十王司は警戒を怠っていた。

本手帳の配布日より、十王司は緊急対応策を発動し、歳陽に対する降魔研修を判官の標準教育課程に追加した。

質問:歳陽の行動パターンと弱点を詳しく教えてもらいたい。

回答:古文書によれば、歳陽同士の動きは蜂の群れに似ているそうだ。これらの火の精は分裂と結合ができ、互いに得た情報や経験を交換し、敵に対する力を強化する。

結合後の歳陽は単独の個体と見なすこともできるが、彼らの中には序列が存在する(仙舟の古い迷信で、人間がいわゆる三魂七魄を持っていると信じられているのと同じ)。ある歳陽は戦闘を担い、ある歳陽は思考や議論に加わり、最も強い歳陽は統制と調整を担う。

ほとんどの歳陽は人間の性質に染まり、互いにうまく協力することができない。この点を利用して、歳陽を弱体化できる。複雑かつ思弁的な問題を提示することで、彼らを内部から分裂させるのだ。もちろん、古代の記録には強力な歳陽の個体――たとえば「火皇」、そして最近仙舟に侵入したと確認された「幻朧」などが存在する。彼らは非常に強い自我を持っている。このような歳陽が長い間存在すると、内在する多様性を消し、分裂しない完全な個体として結合する(歳陽はこの過程を「融合」と呼ぶ)。弱い歳陽は、こうした年長の歳陽に近づくことを極度に恐れている。一度吸収されると、自我を失って死ぬことになるためだ。

質問:歳陽はどのような宿主に憑依するのが好きなのか?

回答:強い欲望を持つ者、豊かな人生経験を持つ者、心に大きな欠点を持つ者…これに類似する宿主は豊かな感情や経験を持つため、特に歳陽の憑依対象となりやすい。

もちろん、被害事例の宿主の分布を見る限り、歳陽は宿主の選択に対して特別な好みを持っているわけではない。

特筆すべきは、歳陽は長命種の体への侵入を好まない点だ。取り調べの記録によれば、彼らは仙舟人の宿主を「消化しきれない」と述べている。このことから、長命種の長い寿命や高い肉体回復能力は、歳陽が宿主の音を簡単に奮えないようにしていると推測できる。

質問:宿主に寄生することで、歳陽は何を得ようとしているのか?

回答:歳陽は寄生することで、宿主の感情を吸収ならびに体験し、その自由意志を奪って好き勝手に行動する。人間に寄生した歳陽は、宿主の人格や行動様式に染まるため、個体の意志が急速に強まり、他の歳陽との結合、融合が難しくなる。

我々の研究によれば、人間が味を楽しむように、歳陽は宿主の感情を感じ取っている。「おいしい」、「酸っぱい」、「甘い」、「苦い」といったように…歳陽は人間がどのような感情状態にあるかを簡単に識別できる。

質問:歳陽に寄生された後、宿主はどのような困難に直面するのか?

回答:被害者の聞き取り記録によれば、歳陽は宿主に寄生した後、絶えずその神経系に干渉すると考えられる。宿主と対話し、宿主の心の内にある欲望や弱点を利用して幻覚を引き起こし、感情を高ぶらせる。

最初、宿主は自分の頭の中に自分のことを理解し、自分と対話するもう一つの「自我」が生まれたと感じるだけだ。しかし、時間が経つにつれて(通常は数日以内に)、宿主は徐々に判断能力を失い、ある考えが自発的に生じたのか、それとも歳陽によってもたらされたものかを判断できなくなる。

この段階の後、宿主は自分が心の奥底で最も切望していることを可能な限り満たそうとする─―たとえ、それがどれほど衝撃的なことであろうと。好戦的な者は戦い続け、口がいやしい者は暴飲暴食を行い、好色家は退廃的になる…歳陽に駆り立てられ、人間は自制心と道徳心を完全に失い、心の奥底の欲望を解放する。この狂気に陥った行動は「魔陰の身」とほぼ同じで、問字部はこの点に研究価値があると考えている。

寄生が終わりに近づくと、宿主の体は歳陽によって完全に消耗し、突発性自然発火現象が起こる。その結果は、短命種にとって致命的なものとなるのが普通だ。

質問:歳陽を完全に消滅させる方法は?

仙舟の先人の記録によれば、歳陽を動力源として絶えず消費する以外(工造司の造化洪炉はそのために用意されている)、歳陽を完全に消滅させる方法はほとんどない。

現在、歳陽に対応する最善策は、無形の力場に閉じ込め、知的生命体との接触を遮断することだ。十王司は、前線で勤務する判官や冥差に対し、歳陽を捕縛するための適切な法器を提供する。

質問:寄生された宿主の体から歳陽を追い払う方法は?

回答:標準的な降魔の方法は、宿主に対して適切かつ永続的なダメージとならない程度の暴力を加えることだ。宿主の肉体が麻痺して機能を失い、感情を感じられなくなると、歳陽は自ら立ち去り、別の獲物を探す。

しかし、改めて述べるが、判官の役割は魔物を鎮圧するだけでなく、仙舟住民の生活を守ることでもある。すべての判官にこの降魔法を放棄することは要求できないが、強硬手段を用いる前に慎重に考えてもらいたい。

成功事例の研究を通じて、宿主が歳陽の侵入を認識し、心の中の欲望を満たすことに執着しなくなると、歳陽が作り出した幻想から逃れられる可能性があると分かった。

少数の事例では、歳陽が自ら宿主の肉体から出ていった。

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羅浮若木災異の始末に関する考察・摘要

十王司判官が建木の危機に対して調査を行った、これはその記録の抜書き。

羅浮若木災異の始末に関する考察・摘要

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周知の通り、建木は帝弓の神矢によって滅ぼされ、丹鼎司、および丹鼎司に関連するものはどれも以前の姿を取り戻していない。しかし、長い時間が経過した今、過去の出来事を忘れない長命種である我々でさえ、過去の危機に対する警戒心が消えてしまっている。羅浮丹鼎司の権力分割は完全には実施されておらず、司の構成員の行動に対しても監視や教育が長くおろそかになっていた。こうした不注意が、今回の建木復活の原因となったのだ。

今回の作戦で捕らえた薬王秘伝の信徒は約半分が丹鼎司出身であった。嫌疑なしとされている丹鼎司構成員に対する取り調べ記録によれば、丹鼎司には長い間、旧時代の権力と地位に対する渇望、現状への不満、薬王秘伝や元凶である丹枢への同情の雰囲気が漂っていたそうだ。薬王秘伝は丹鼎司で深く根を張っていたことが明らかであろう。

経歴を見ると、丹枢は異常なほど清廉だ。それどころか、彼女は仙舟の医士の手本とも言えるだろう。医学書を編纂し、薬の調合法を研究し、何度も表彰されている。前任の司鼎雲華が持明族との争いに関わって追放された後、丹枢は羅浮丹鼎司の実質的な指導者となった。この件がなければ、彼女はいずれ司鼎の地位に登りつめるだろう。

他の六御が司鼎のいない羅浮丹鼎司を望んでいることは知っている。彼らは、そのような丹鼎司の方が安全だと考えているかもしれない。しかし、正にこのような指導者不在の状況が、丹鼎司から丹枢のような危険な存在を生み出したのだ。

私と部下は、丹鼎司の過去70年以上の管理文書、丹枢の非人道的な実験記録、彼女と持明族の龍師とおぼしき者がやり取りした手紙を詳しく調べた。これらから、彼女たちが一時的な興味により、古代の邪教を名乗って行動する犯罪集団ではなく、綿密に陰謀を練っていた妖人であることが判明した。

この災いの根がさらに深くならないよう、丹鼎司に対するさらなる分割と監督を行い、本件に関与していると疑われる持明族の龍師を拘留ならびに取り調べ、前任司鼎である雲華に対して再度調査することをここで十王に奏請する。

…………
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「十王司は人事に関与する権利はない。雲華の件は、六御に任せよう。持明族については…私たちにできることは限られている。災いがここまで大きくなった以上、さらに対立を激化させるべきではない。ましてや、彼らはすでに表に出てきているから」――寒鴉問字部判官

狐太鼓「六昧嘆」

狐太鼓のリプレット。狐族の古い伝説を記したもの。

狐太鼓「六昧嘆」

……
星の光が輝く宇宙で、青丘という美しき土地があった。
水や草は四季を通じて美しく、その美しい景色はこの世のものとは思えない。
突如、歩離の乱が起こり、青丘の平和は乱れた。
侵略者が及ぶところ、椀が血に浮き、狐の民は衰退し故郷を失った。
荒々しい風と雨が悲哀を伝え、故郷を振り返れば涙が止まらなくなる。
今では悲しみとため息の中で、彼らは香を焚きながら天に問いかける。

狐族は戦いから逃れ、6人が山をさまよう。
着るものなく、食うものなく、困った彼らは病に苦しむ。
波乱に満ちた運命は苦しい哉。深い悲しみを抑えきれず、泣き声が山々に響き渡った。

その泣き声は遥か遠くまで響き渡り、雲間の仙人に届いた。
兄弟たちが仙人に名前を尋ねると、杖を持った仙人が真の姿を現した。
仙人は「長生の主」と名乗り、6人になぜ悲しんでいるのかを聞いた。

一番上の兄弟は剣の刃を恐れ、鋭い刃に手足を斬られたと泣きながら訴えた。
二番目の兄弟は薬がないと泣き、病の体が耐えがたい苦痛を感じていると訴えた。
三番目の兄弟は心の中に恐怖が残り、犬賊の暴行によりおびえきっていた。
四番目の兄弟は弱り切って力がなく、山や海に阻まれて安全な場所を見つけるのが難しいと訴えた。
五番目の兄弟は友人が皆命を失い、生き残った者たちは奴隷となって悲しんでいると訴えた。
六番目の兄弟は両種族の戦争が終わり、講和して生き残ることを望んでいた。

長生の主は慈しみ深く、6人の兄弟の言葉に耳を傾けた。
6人は話し終えても泣き止まず、仙人に神通力を求めた。
戦争や病気を恐れず、敵を恐れることなく強く生きたいと願った。
彼らは山や海を越え、痛みや恐怖を感じることなく穏やかに過ごしたいと願った。

一番上の兄は傷を負っても自分で癒やせるようになった。
二番目の兄弟はもう病気にならなくなった。
三番目の兄弟は勇気を持ち、恐れることがなくなった。
四番目の兄弟は翼が生え、歩く代わりに飛ぶようになった。
五番目の兄弟は心身の苦痛を感じなくなった。
六番目の兄弟だけは特別な力が与えられなかった。
長生の主は服の袖を払って去り、彼らに最高の力を授けた。
兄弟5人は特別な力を賜ったが、六番目の兄弟だけは神通力を持たなかった。
それは仙人が何も授けなかったわけではなく、その時が来ればおのずと現れるのだ。
歩離の軍勢は人里はなれた山に迫り、狐族の5人の兄弟はその力を大いに発揮した。
彼らは奇跡的な力で敵を打ち破り、それぞれの神通力で敵を仰天させた。

……

5人が敵を破った話は武勇伝となって広まり、犬賊は侵攻を躊躇う。
しかし、突如として運命が変わり、瞬く間に寿瘟が発生した。

一番上の兄の傷は何度も化膿を繰り返し、二番目の兄弟のいる場所では疫病が蔓延した。
三番目の兄弟は心に殺意と恨みが生じ、四番目の兄弟は全身に羽が生え始めた。
五番目の兄弟は意識がなくなって人形のようになり、六番目の兄弟だけは特別な症状が現れなかった。
5人の兄は全員が魔陰の身に堕ち、六番目の兄弟は一人で歩離の陣地に突撃した。
講和は望めず、泣こうにも涙が出ない中で、ただ死を求めた。

戦首はこれを聞いてひそかに笑い、兵士たちに手を振って合図した。
六番目の兄弟は縄をほどかれて椅子に座らされ、戦前は「いくつか言いたいことがある」と言った。
「お前の兄たちはすでに慈愛を受け、多くの歩離とともに長生を得た」
「お前もすでに歩離人と変わらない。信じないなら、鏡で自分の顔を見るがいい」
六番目の兄弟はその言葉を聞いて震え上がった。鏡に移った顔は、長い耳を持つ犬のような恐ろしい顔をしていた。

嘆かわしきかな。これぞまさに

六人は神通力を手に入れたいと願い、戦乱から離れて夢のようだった。
偶然にも慈愛の長生を手に入れたが、寿癌によってすべてが無となった。

豊穣の忌み物と軽々しく関わってはいけない。共存という幻想は成り立たない。
天弓が災厄をすべて滅ぼさない限り、太平の世は訪れないのだ。

世の言葉を嫌う

シェン先生が書いた志怪小説集。

私は物語を語ることで生計を立てて300年になるが、何かの著作を発表したことはほとんどない。他人のために芸能を紹介する読み物を書いたり、若い作家のために序文を書いたりしたことはあるが…文章を書いて印刷された物語は1つもない。

それは私が文字を信用していないからだろう。言葉とは、何億年も前に人類が誕生して以来、存在している蝶である。一方、文字は言葉の枯れた標本であり、初めて見る時は美しいと感じられるが、細かく見ればみるほどただの死体に思えてくる。私は自分の生きた言葉を傷つけたくないため、筆を執る気になれずにいた。

そのため、今回この文集を出版するのは、ただ物語を記録することが目的なのではなく、奇妙な縁があってのことだ。

その日、私はいつものように不夜侯で講談をしていた。話していたのは『三劫演義』の中のいずれかの回だったと記憶している。具体的にどの回だったのかは覚えていない。ただ私が「次回のお楽しみ」と言った直後、殊俗の民が立ち上がり、力強く拍手をしたことだけは覚えている。

その殊俗の民は女性で、大きな縁の帽子を深くかぶり、顔の上半分は見えず、口元に愉快そうな笑みが浮かんでいるのだけが見えた。他の観客は彼女の突然の行動に驚き、次々と振り返って彼女を見つめたが、彼女はまるで気にせず、私の前までやって来ると、「シエン先生、ずっとあなたの作品が好きでした」と言った。

彼女の目的が分からなかった私は、警戒しながら「あなたは初めて私の講談を聞いたようですね」と答えた。
「確かにそうです」女性は悩ましげにうつむき、「どうして今日まで先生の講談を聞くことがなかったのでしょう?同胞からの助言がなければ、先生に宝の持ち腐れをさせるところでした…謝罪の印として、これをお受け取りください」と言った。

彼女の風変わりな賛辞に感謝する間もなく、彼女が右手を挙げるのが見えた。その時、彼女が手に白い布で覆われた鳥かごを持っているのに気付いた。

「先生は『歴史』を『伝説』に変える才能を持っています」彼女は私の固辞を認めず、鳥かごを私の目の前の机に置き、「このオウムの力が加われば、まさに鬼に金棒となるでしょう」と言った。

彼女はそのまま立ち去ろうとしたので、私は彼女を呼び止めるしかなかった。「お嬢さん、この贈り物は貴重すぎます…理由もなく贈り物を受け取れません…」

「いいえ、すでにたくさんのことをしてくれました」彼女は立ち止まって振り返ると、帽子の下からガラスのような瞳をのぞかせた。「あなたの『物語』は、この乾燥して埃まみれの歴史にいくらかの色彩を加えてくれましたから」

……

私はそのオウムの気性を把握するのに十日以上もかかった。その間、何度かオウムを死なせそうになり、その女性の親切心を台無しにしそうになった。

そのオウムは私にしか親しみを表さないらしい。私以外の人を見ると、すぐにストレス反応を示し、まるで死んだ鳥のように硬直する。私は鳥かごを布で覆い、オウムが他の人に驚いて死なないようにするしかなかった。しかし、外出時にオウムを連れて行かないわけにもいかない。オウムを長時間家に残しておいた場合も、同様に耐えられなくなってしまうのだ。恐怖、ストレス、硬直が一気に押し寄せてくる。

そのため、私はどこへ行くにしても、この白い布で覆われた鳥かごを持っていくしかなかった――不夜侯、尚滋味、市場…さらにはミーガの大物たちと仕事の話をする時もオウムを連れていかなければならず、まるで何かのパフォーマンスアートをしているかのようだった。

あの女性は私を困らせるために、このオウムを使ったに違いないと思い始めた時、ようやくオウムが特別な一面を見せてくれた。

最初に気づいたのは、このオウムの記憶力が非常に優れている点だった。オウムは私が話す講談を聞くと、それを暗記した。しかし、これはそれほど特別なことではない。今では喋る獣は珍しいが、私も長く生きているため、こういった獣は数多く見てきた。それにオウムなので、人間の言葉を覚えるのが早くても、普通のオウムの「本能」の範囲内だろう。

しかしすぐに、そのオウムは私の講談を「一言一句違わずに」暗記しているばかりではないことに気付いた。最初はほとんど「暗記」していたのが、しばらくすると「自分の言葉で話し」始め、さらには一部のあらすじを勝手に変えていた。元の物語にさらなる信ぴょう性を与えられるオウムの修正に対しては、非常に的確だと認めざるを得なかった。

それからしばらく、私が話していない物語をオウムが語るのを聞くようになった。いくつかは、オウムが私と一緒に街を歩きながら聞いたものであると思われるが、他のいくつかは、どこの物語かも知らず、私も聞いたことがない。

ここまで読んだ読者諸氏は、このオウムが特別な知能を持っているのではないかと思うだろう。しかし実際には、このオウムに物語を書く知識や能力があるようには見えなかった。

このオウムは飛ぶことも、鳴くことも嫌がり、気分が良い時は休むことなく物語を語り、気分が悪い時は鳥かごの中に隠れてふてくされるだけ。ある日、家でオウムが私の机の上に飛び乗り、私の隣でガチョウのように体を揺らしながらそばにすり寄ってきた。私が手でその太ったオウムを持ち上げ、かわいらしいと思っていると、オウムは私の手の平にフンを残し、飛び去っていった。

このような単純な生物が、複雑な物語の筋書きを理解できるはずがない。

私は、オウムの行動が終始一貫してオウムとしての「本能」を超えていないと推測している。オウムは、自分が話している人間の言葉の意味を知らない。それは明らかだ。ただ、数万年にわたる進化により、人間の言葉を模倣する彼らの能力はますます優れていき、やがては自分で物語を語るようになったのだろう。

しかし、枯れ葉霞蝶は、自分の「擬態」が枯れた枝とうり二つだと知っているだろうか?私のこのかわいいオウムも同じように、自分が語っている物語が一体何を意味しているのか知らないのではないか、さらには自分が物語を語っていることすら知る必要がないのではないかと推測している。

いろいろと考えた結果、私はオウムが語る物語を書き起こし、他の人に聞かせることにした。

私は数カ月かけてオウムが話す物語を聞き、その中で最も面白いものを一文字残らず記録した。編集作業が終わった後、私は原稿を手に持ちながらオウムに、「この本のタイトルは何がいいと思いますか?」と尋ねた。

オウムは原稿を踏みながら立ち、戸惑うような目で私を見つめていた。そして、首の羽を整えると、ゆっくりと歌い始めた。

「その羽は鳳凰の如く、そのくちばしは天の曲を奏でられる。羽を収め、筆を置き、決して鳴かず、世の言葉を嫌うと語るだけ」

歩離人民謡集

歩離人の民謡集。善宏学宮文化人類学科が整理し、注釈したもの。

其の一

十王に上申する:

私は羅浮善宏学宮の文化人類学博士、宗光と申します。

私は他の博士、学生、計26名と共に捕虜、および解放された奴隷のもとへ訪問し、さらにはカンパニーの貿易使節団としての身分を利用して、歩離人の定住ポイントに潜入してフィールド調査を行いました。この方式を通して私たちは歩離人の集落、猟群の文化的現象を収集し、記録しました。

調査研究の過程で、3名の博士が不慮の事故に遭いました。残念なことに、私の恩師も含まれています。

今、60年あまりに渡る研究と整理作業が一段落しましたので、この『歩離人民謡集』を献上いたします。この書は歩離人の口伝史詩や歌など、計251編が収録されておりますため、参考になるかと思います。

羅浮善宏学宮博士宗光
……

27.都藍の誕生[1]

かつて歩離人は短命で、家畜よりも痩せていた。
白昼に外に出ることもせず、山間の渓流で生存をかけて戦っていた。[2]
その日、急に雲が広がって雨が激しく降り、雲の上では星が駆け回り始めた。
雷が何度か鳴り響いた後、空から血肉が降ってきた。
偉大なシャーマンは頭を地面にこすりつけて、祈りの言葉を唱え続けた。
それは長生の主が作り出した瑞獣だと言われている。[3]
それから72日が過ぎ、村長は自分の子どもを生んだ。[4]
彼は生まれた時から獰猛な獣のようにたくましかった。
この人こそが都藍、我々の最初の戦首である。

注釈:
[1]この民謡は歩離人の祭祀活動において非常に重要な意味を持つ。知っての通り、歩離人は寿瘟禍祖に代表される理念に対してねじ曲がった理解を持ち、実践している。初代戦首である都藍が「寿瘟禍祖への崇拝」を確立したというよりも、彼はその崇拝を利用して「歩離人の民族概念」を形作ったと言える。

[2]現在の考古学的発掘の成果からすると、この部分は基本的に事実であると考えられる。長生を手に入れていなかった時代、歩離人は故郷の過酷な自然環境のせいで発展が遅れていた。

[3]現在、この寿瘟の垂迹が歴史的に発生したという証拠は見つかっていない。一部の史料にもとづくと、都藍が「天命に選ばれし者」であることを証明するために、歌の作者がこの伝説を創作したと推測される。

[4]「数日で妊娠して出産する」ことは、歩離人の民謡では英雄の背景としてよく見られ、今では定番の修辞手法となっている。ほぼすべての戦首が自分は母親の胎内に数日しかいなかったと主張している。

……

28.都藍、長生の主に謁見する[1]

都藍は荊棘の道を歩み、我々のために長生の主を探し求めた。
歩離人が万物を統率し、我々が生、老い、死の苦しみを断ち切れるようにするために。[2]
長生の主は何も考えなしに施しを与えるわけではない。強い者だけが無限の寿命を手に入れられる。[3]
長生の主は無数の狐族に対し、其が点化した霊樹を守るように命じた。[4]
長生の主は彼のために梼机を残し、獣を操って枝の甘露を摘むように命じた。
都藍と梼杌は破竹の勢いで、数多くの敵を蹴散らして雲をも破った。[5]
空は肉と骨の破片で覆われ、誰も彼らを止めようとしなくなるまで殺した。
都藍は血の川を渡って霊樹に向かい、恭しく枝の甘露を摘んだ。
長生を手に入れた都藍は、改めて長生の主に「この恩恵を我が同胞にも与えていただけないでしょう
か?」と尋ねた。
偉大なる長生の主は、雲から無数の甘露を降らせ、地上の万物は永遠の寿命を享受した。[6]
長生の主は万物を変化させた後、再び無数の狐族に命じた。
「お前たちはすでに都藍に征服された。代々歩離の奴隷となるように」[7]
そして歩離人に屈強な肉体を授け、我々に神の恩に報いるために銀河を征服するよう命じた。[8]

注釈:
[1]この民謡は歩離人の民族的記憶の根幹となっているが、その内容は歴史学的信憑性に乏しい。たしかに歩離人の歴史において重要な出来事をいくつか描いているものの、かなりの脚色が行われている。

[2]現存する史料や考古学的証拠によれば、寿瘟禍祖が何も考えず寿瘟を拡散させたことが歩離人の予想外の台頭を引き起こしたと考えられる。当時、その地の歩離人の文明レベルでは、自ら星神を訪ねに行くことなど到底不可能だったからだ。

[3]対象が寿瘟禍祖であっても、この歌詞は無責任な中傷と言える。このことからも信仰の面では、歩離人は彼ら自身の文化習慣にもとづいて豊穣の概念を解釈していることがわかる。

[4]この民謡は、「長生の主が歩離人に試練を与えるよう狐族に命じた」という筋書きを創作している。この創作神話は歩離人が狐族を奴隷として扱うに際し、いわゆる「正当性」を与えている。

[5]現在の考古学的証拠によれば、歩離人が長生を手に入れた後、少なくとも2琥珀紀が過ぎるまで歩離人は現在使用している獣艦を発明していない。この箇所の「梼杌」に関する記述は創作であるに違いない。星間旅行のツールすらなければ、都藍戦首がどのようにして星神に謁見したのか説明がつかないからだ。

[6]この部分は興味深い。物語の中で、寿瘟禍祖は最初からすべての人々に長生を与えるつもりはなく、戦首がすべての人々にも恩恵をもたらすよう其に頼んだのだ。これは筆者が27の民謡の注釈の中で提起している「初代戦首である都藍が『寿瘟禍祖への崇拝』を確立したというよりも、彼はその崇拝を利用して『歩離人の民族概念』を形作ったと言える」という考えを裏付けてもいる。

[7]この部分の意図はシンプルで、歩離人が狐族を奴隷として扱う制度に正当性を与えるためのものである。

[8]この部分の意図もシンプルであり、歩離人が他の文明を侵略ならびに略奪する対外政策に正当性を与えるためのものである。

……

長楽天官衙が総務庁に提出した報告書

長楽天官衙の業務報告。

長楽天官衙が総務庁に提出した報告書

総務庁への報告。

六御および十王司の優れた指導の下、丹枢を首領とする薬王秘伝の、建木を利用して我が羅浮を転覆させようとする陰謀は破綻しました。悪の一派は壊滅し、賊の首謀者は処刑されました。仙舟「羅浮」は上から下まで全体が協力し、この大きな災いを未然に防ぎました。しかし、丹枢の乱は平定されたものの、最近では民衆への二次的な影響が頻発しているため、ここに最近の出来事を報告いたします。

1.丹枢の事件の影響により、一部暴徒が民衆を扇動し、丹鼎司の丹士および医士に取り囲みや嫌がらせを行いました。暴徒たちは先週、丹鼎司の臨時駐屯地で建物に落書きを行い、仙舟の各司を非難し、「仙舟を救い、寿瘟を祓い除けるのは燼滅だけだ」と主張しました。一部の民衆は暴力に訴え、丹鼎司旧址の建物に侵入して物資を略奪し、駐屯していた丹鼎司と雲騎軍と衝突しました。現在、暴徒は雲騎軍に制圧されています。調査の結果、全員が殊俗の民であり、アナイアレイトギャングの暴徒に雇われていたことが判明しました。現在、雲騎軍と協力して鎮圧し、全員を逮捕しています。事件の審理は現在進行中です。

2.地衡司は近頃、天舶司と協力し、仙舟本土の生物を外へ持ち出す密輸事件をいくつか摘発し、仙舟生物の密輸に関与した犯罪者集団を壊滅させました。作戦によって被疑者15人を逮捕し、加工場所や倉庫など、10ヶ所を破壊しました。この組織は、研究を名目にして仙舟本土の生物サンプルを大量に密輸ならびに保管し、輸出貨物に偽装していたそうです。当司が手がかりを追い、組織のアジトを壊滅させた時、密航を企てていた薬王秘伝の逃亡者も逮捕しました。本事件の審理は現在進行中です。

3.一部の民間人が各種ソーシャルメディアなどで、建木が復活した後に魔陰の身を加速させる妖気を放ち続けていると主張しました。この流言は広く拡散され、住民のパニックを引き起こしました。補天司命を信仰する民間団体は、補天司命の神話を根拠に、建木を完全に封印し、その災いを永遠に絶つには建木を包み込む巨大な壁を建設しなければならないと訴えています。こうした殊俗の民の組織は、文書を作成して地衡司に提出することまでしました。しかし、その計画はあまりに非現実的で、建設費用も天文学的数字になります。地衡司に複数回拒否された後、この組織は大衆に向けて壁を建てて妖気を防ぐべきだという宣伝活動を行い、人々を惑わして寄付を募りました。現在、出資法違反の罪で裁かれています。

4.建木の再生後、一部の商人が利益を貪るため、虚偽の情報を拡散しました。彼らは、波月古海は建木の妖気を抑えられるため、古海の水は薬になれると宣伝しました。さらに、普通の食塩を古海の塩に偽装して高値で販売し、人々が塩を奪い合う事態となりました。こうした行為は市場の秩序を著しく破壊し、物価の混乱を招きました。現在、主要な商人たちを重点的に取り締まり、罰金や営業許可取り消しの処分を進めています。

5.厄災の後、人々は丹鼎司に対する信頼を失い、医療に関する詐欺活動が目立つようになりました。被害者たちの多くは、丹鼎司の治療を受けたことがあり、特に厄災の後に子供を失い、魔陰の身に堕ちそうになっている孤独な仙舟人です。詐欺師たちはこうした人々に食品を贈ることを口実に、「健康の専門家」、「民間の神医」、「反丹鼎司の進歩的人間」などと偽り、被害者たちに魔陰の身を遅らせることができるとする健康食品を売りつけました。被害者たちの信頼を獲得し、風説を流布して不安を煽り、霊薬と偽って健康食品を高値で販売していたのです。地衡司の大規模な取り締まりにより、多数の被疑者を逮捕し、販売ルートを壊滅させ、段階的な勝利を収めました。また、外部労働者への警戒や詐欺行為摘発のためのお知らせも各地域に掲示しています。

6.今月初め、天舶司と地衡司は、流雲渡しで集団的な違法出国事件を摘発しました。「朝陽旅行団」を自称するこの団体のメンバーの多くは高齢で身寄りのない者で、まだ魔陰の身に堕ちていません。彼らは互いに家族と呼び合っており、血縁上の家族を失った後、そこで精神的な家族を見つけられたと述べています。供述によると、この団体のメンバーは、命の存在意義に戸惑いを感じ、瞑想や霊的修行などの精神療法に傾倒していったそうです。そして、多くのメンバーが瞑想中に同じ幻覚を見ています――空に浮かぶ黒い太陽、彼らはそれを虚空の黒曜と呼んでいます。団体の組織者は、金人巷の闇市で『虚空の黒曜』に関する書籍や座標を購入し、団体のメンバーを集め、この巡礼ツアーを計画したようです。

地衡司は本件を高度に重視しており、即座に当該団体を引き返させました。現在、組織者を取り調べただけでなく、他のメンバーについても帰宅または現丹鼎司で優先的に治療を受けさせています。今後は、高齢者グループを思いやるソーシャルワーカーを組織し、住民たちの心の健康を注視する予定です。また、金人巷に対しても今後は市場管理を強化し、来歴不明で違法な闇市の商人を排除します。

以上の内容をまとめると、丹枢の乱は平定されましたが、信仰、商業環境、さらには公的信用力など、民間のさまざまなことに対して一定の影響を及ぼしています。一見、これらの事件は小さく、単独で発生しているように思えますが、詳しく調べてみると、互いに複雑に関連しています。いくつかの事件は外部組織や他の信仰とも関連しています。しばらくの間、地衡司の仕事の重点は騒動後の民衆の心を落ち着かせ、精神文明を構築することに置かれるでしょう。ここに報告書を提出し、司衡様におかれては民衆の心情を評価していただきたく存じます。また、長楽天の官衙は、人手不足に対処するため、拡張または他の部署からの増員を要請します。

敬具。

地衡司執行官大毫

薬王妖寇罪証記録

十王司に提出された報告書。丹鼎司文書館を整理した時の発見を記している。

薬王妖寇罪証記録

拝啓

神策府および十王司の依頼により、私は丹鼎司の資料庫を再整理し、丹枢の乱の後に残された薬王秘伝の記録を調べました。

邪党の首領丹枢が就任していた時期、丹鼎司はすでに秘密の生物実験を多数行っており、薬王秘伝は当時の仙人たちが創り出した様々な珍しい動物を復元しようとしていました。これらの実験の成果物は、名前も外見も、かつての軍用獣や古代の記録に対応しているものが多いです。

しかし、整理している中で、丹枢の就任前の実験が1つ見つかりました。記録が保管された時期は先任丹士長の任期中であり、先任丹士長が行方不明となっているため、関係者の名前はすべて塗りつぶされています。当事者に実験の目的について質問することはできませんが、その概要を以下に簡単に述べます。

実験の具体的内容は、いくつかの被験生物に持明族の血液と髄液を注射するものでした。被験生物には鱗類、羽類、毛類、魔陰の身の兆候が現れている長命種の志願者、さらには一部の短命種、および殊俗の民の志願者が含まれています。この実験は、上記の生物の通常の状態と、魔陰の身の状態での反応を観察するためのものです。

引用データは以下の通りです(報告書の添付資料をご参照ください)

「実験番号:丁 鱗類 魚属。注射当日、鱗を持つ被験体が脱鱗し始める。頭部から角状のものが生え、頭部に骨格の二次発育が現れる。口器が明らかに外向きに広がった。背ビレとエラの近くに毛が生え始める…」

「実験番号:辛 毛類 犬属亜種。…翌日、被験体は凶暴化し、爪と歯が徐々に脱落する。しかしその後、より鋭利な器官が対応部位に生えてきた。被験体の首と尾に角質が生えてくる。この被験体は暴走し、丹士2名を襲って負傷させた後、殺処分された。現在、被験体はすでに処分された…」

「実験番号:甲戌 羽類、玉実鳥。髄液を■滴注射し、半日後に羽毛と寄生物が脱落し始める。被験体の体全体が長く伸び、頭部も他の生物の特徴を見せ始める。また、胸部には前足に似た器官が生えた。現在、被験体はすでに処分された…」

「実験番号:甲己 毛類 黄石。…2日後、被験体の皮膚が鱗のように変化し、関節が逆方向に曲がり、額には肉腫が現れ、角と蹄の成長が加速するなどの現象が見られ現在、被験体はすでに処分された…」

「実験番号:乙丙 仙舟人 長命種。本被験体は魔陰の身の前兆を見せており、家族や志願者本人の同意のもと、本実験に参加している。被験体に髄液を注射した後、魔陰の身が顕著に緩和されることはなかった。しかし、注目すべき点として、被験体が完全に魔陰の身に堕ちた後、本人の意識は他の魔陰の身に堕ちた者よりもはるかに鮮明であり、常人とほぼ変わらない理性を保っていた。後に、被験体は自分が治癒したと一方的に判断し■■■■を拒絶、当司はやむを得ず強制的な手段にて被験体を■■■■■」

「実験番号:丁乙 殊俗の民 短命種 本被験体の身体的状況は短命種の中年から老年の段階にある。実験目的を承知の上で自ら実験に参加した。髄液を注射された被験体は、体内の細胞が活性化し、身体機能が大幅に向上した。元々衰えていた肉体が活性化し、視力、肝臓腎臓の機能が回復し、関節の疾患による痛みの症状も一部消えた。本被験体は、皮膚の一部に鱗片が生えてくる以外、他の副作用はなかった…
……しかし、実験に予期せぬ事態が発生した。本被験体は実験後■週間で体に逆成長が現れ、中年の姿から次第に子どもの姿に変化し、精神的にも大幅に退化した。■■の後、肉体は■■液状化し、■■■■■■原因不明で消失したとする結論が報告書に記録されている…」

「実験番号:■■ 短命種 ■■族。本被験体はすでに死亡しており、生前の献体によって実験に参加した者である。■■■■の協力の下、髄液を被験体の死体に注入した。持明髄液は、すでに死亡している肉体に対して活性化させる効果も有していた。体の毛髪が大量に生え、皮膚がはがれ始め、頭部には角のようなものが生えるという変異が起こり、■■化の現象が見られた。
しかし被験体に起きた現象は我々が思い描いていた『死からの復活』ではなく、肉体が脳の死亡を認識していないかのように無秩序に成長し続けていただけ。持明族の血液と髄液は死体に対してもこれほど強力に作用するとは…実験は■■が期待した結果には至らなかったが、安全を期して被験体が■■する前に速やかに処分した」

上記文書と同様の記録については、欠けている箇所や紙幅の都合により、詳細は省略いたします。残りの部分のほとんどは、薬の投与量、注射時間、周期、実験の個体差など、さまざまな情報が記載されています。上記報告書の原本を同封してお送りいたします。

また、この一連の実験の当初の目的を調べ、リスク評価を行うべきかどうかについてご指示ください。

丹鼎司 ■■

不赦十悪詳細解釈

仙舟で最も重大な罪「十の悪逆」に関する法解釈。

不赦十悪詳細解釈

※この仙舟律に関する小冊子は、いわゆる「不赦十悪」に関する法的解釈を繰り返し説いたものである。この十の悪事を犯した者は、最も厳しい刑罰を受けることになる。※

第一悪「長生に堕とす」
この法律は、短命種の遺伝子を汚染して長命種に変える、さらには忌み物に堕とした罪に対するものである。

第二悪「不死を求める」
この法律は、異邦人が仙舟に潜入し、長生の秘密を盗み取ろうとする罪に対するものである。

第三悪「心智を乱す」
この法律は、理性を操る能力を持つ異種族が、特殊な方法で人の自由意志を奪って操る罪に対するものである。

第四悪「魔陰に陥れる」
この法律は、特殊な方法で魔陰の身を誘発させる罪に対するものである。

第五悪「同胞殺し」
この法律は、暴力的な手段で同胞の命を奪う罪に対するものである。

第六悪「機要窃奪」
この法律は、仙舟の政権運営機関の秘密を盗むスパイ行為などの罪に対するものである。

第七悪「破牢釈囚」
この法律は、十王司の監獄を破壊し、幽囚獄に侵入して囚人を解放させようとする罪に対するものである。

第八悪「盟約の離間」
この法律は、仙舟内部の各種族の同盟を煽動、分裂、破壊する罪に対するものである。

第九悪「兵禍を招く」
この法律は、軍事力を結集し、仙舟を攻撃する戦争、反乱を起こす罪に対するものである。

第十悪「仙舟傾覆」
この法律は、仙舟の巨艦本体を破壊し、沈没させようとする罪に対するものである。

十王司重罪人名簿

十王司の重罪人リスト。「不赦十悪」を犯した数名の罪人が記されている。

十王司重罪人名簿

十悪を犯した者は天の罰を受けることとなる。
一部の罪人は消滅が難しいか、またはその身分が特殊であるため、幽囚獄の底に投獄され、永遠に監禁される。

名簿は以下の通りである。

囚人:「止戈」プロトタイプ
罪状の概要:金人の反乱の首謀者。三劫時代に「戦を以て戦を止める」を名目に、金人を率いて反乱を起こし、同盟に多大な犠牲を出した。
拘留方法:そのコアは天金で鋳造された合金容器内に長期間保存されなければならない。容器の厚さは七寸以上、容器内は長期にわたって不活化された液体媒質を注入すること。いかなる機巧も囚人室に持ち込んではならない。違反者は「破牢釈囚」によって裁かれる。
備考:この金人は古国が戦争のために設計した重要兵器であり、その金属製の手足は現在の金人よりもはるかに大きいため、分解して保管する必要がある。戦争以外のいかなる理由でも使用してはならない。

囚人:「火皇」
罪状の概要:歳陽の奪舎の乱の首謀者。
拘留方法:無形の牢獄内に拘留し、移動できないようにすること。さらに、特別な機巧を用い、エネルギーを継続的に消費させること。
備考:火皇に接触する者は、精神的な影響を避けるため、護符を身につけるか、隔離された部屋に滞在すること。懐炎将軍には無制限の面会権がある。

囚人:鳴霄
罪状の概要:豊穣の民「造翼者」衛天種軍団長の1人。多くの侵略戦争およびそれに関連する戦争の罪を負っている。
拘留方法:独房に拘留し、その翼には拘束器具を取り付けること。長い時間、比較的協力的な態度を見せているため、その感情を安定させるために適度に要求を満たしても構わない。
備考:この囚人との会話では「鏡流」に言及しないようにすること。

囚人:造父
罪状の概要:豊穣の民「慧駿」の執綱者。多くの侵略戦争およびそれに関連する戦争の罪を負っている。
拘留方法:その囚人室には絶対に光がないようにし、重力蹄鉄を使用して移動できないようにすること。長い時間、比較的協力的な態度を見せているため、その感情を安定させるために適度に要求を満たしても構わない。
備考:この囚人との会話では「騰驍」に言及しないようにすること。

囚人:呼雷
罪状の概要:豊穣の民「歩離人」の戦首。多くの侵略戦争およびそれに関連する戦争の罪を負っている。狐族を長く奴隷とし、その血で薬を製造していた。
拘留方法:無間剣樹の刑に処し、永遠に釈放されないものとする。定期的に拘留場所を変更し、移送の過程で鎖や枷に不具合がないことを確認し、移送する囚人室の空気フィルターが正しく機能するようにすること。
備考:
1.この囚人は仙舟と狐族の同盟の根幹であり、その判決に異議を唱える者は「盟約の離間」にもとづいて処罰されるものとする。
2.この囚人と接触、会話する場合は事前に丹薬を服用、またはフィルター付きの呼吸マスクを着用し、狼毒の影響を受けないようにすること。
3.1年を周期として拘留場所を変更すること。拘留場所は雲騎驍衛および判官より下の役職の者に知られてはならない。
4.この囚人との会話では「鏡流」に言及しないようにすること。

囚人:「蜃楼」
罪状の概要:フェロモン「六塵煙」を使用して心魔を誘い、数万の仙舟の民を魔陰の身に堕とした。
拘留方法:応星が設計した拘束着に終始拘束し、自身が作り出した幻の中にいる状態を保たせるものとする。1年ごとに拘束着を点検すること。拘留する囚人室は空気フィルターが正常に機能する状態を保つこと。
備考:豊穣の民に改造された特殊なバウェル人。元の名はイタ・アンバルモ。その囚人室は理論上安全ではあるが、点検時には少なくとも20名の雲騎軍で点検する職人を護衛すること。

囚人:「盲目の王酋」
罪状の概要:「歌民」一族の豪商。取引にかこつけて長生の秘密を盗もうとしたために、同盟に逮捕された。
拘留方法:音を完全に遮断した真空の浮遊獄に拘留すること。神策府との取引にもとづき、十王司が被疑者の供述の真偽を判断できるよう、囚人は常に呼び出しに応じるものとする。その見返りとして、毎年7日間の自由を獲得できる。長い時間、比較的協力的な態度を見せているため、その感情を安定させるために適度に要求を満たしても構わない。
備考:歌民の一族は視覚能力に限界があり、主に聴覚を頼りに外界を感知し、コミュニケーションを取る。この囚人はその中でも特に優れており、音のささいな変化を耳で判別できる。会話する時は音声を合成する機巧を用いて会話すること。この囚人との会話では「景元」に言及しないようにすること。

囚人:「無生侯」
罪状の概要:仙舟の民3120人を殺害し、被害者の血液を飲んで長生を手に入れた。
拘留方法:その体に絶えず強い光を照射し、休眠状態に追い込むこと。
備考:この囚人は漆黒天体ナーダから来た短命種である。光を恐れるその種族特有の性質を利用することで、長期的かつ安全に拘留できる。

囚人:倏忽
罪状の概要:多くの侵略戦争およびそれに関連する戦争の罪を負っている。
拘留方法:「削除済み」
備考:今、あの箱に封印されているのが果たして彼なのかどうかはわからない…とりあえず、その箱を監獄の最下層に置く。元帥と十王の共同の命令がない限り、誰もその箱を開けてはならない。

囚人:「食夢者」
罪状の概要:各世界で記憶を盗む重罪を重ねてきた。帝弓天将の記憶を盗んだことで逮捕された。
拘留方法:「天符墨書」および特製の巻物を使用して拘束する。巻物は収容箱の中に置き、開いてはならない。
備考:ガーデンの逃亡犯、メモスナッチャー。現時点ではガーデンに送還しない。肉体がないため、守衛を傷つけることはできない。箱に近づいた時に如何なる奇妙なことが起きても無視すればよい。

囚人:「起源の長命者」
罪状の概要:不死の薬の錬成。
拘留方法:永遠に八尺四方の囚人室に拘留する。囚人室は天金で作られ、四方の壁の厚さは七寸以上とする。囚人室は以下の機能を備える者とする:高温殺菌、空気フィルター、鎮静ガスの注入。
備考:記載によれば、この囚人は仙舟で最初の長命者である。囚人室の中に入ること、この囚人と会話することは禁止とする。毎日、機巧を使用してその生理的変化を観察ならびに記録すること。その体から手足、翼、骨などの構造が生えてくることは通常の状態であり、特に報告する必要はない。ただし、少しでも覚醒の兆しがあれば、ただちに元帥に報告すること。

囚人:「飲月君」
罪状の概要:「削除済み」
拘留方法:「削除済み」
備考:「削除済み」

十王司・造翼者ディエリの尋問記録

十王司が造翼者の幹部を尋問した記録。

十王司・造翼者ディエリの尋問記録
尋問日時:八月三十五日未の刻~申の刻

尋問者:十王司冥差、守霊

被尋問者:ディエリ
性別:女
種族:造翼者
年齢:不明
……

守霊:あなたたちはたしかに許されないことをたくさんしたけど、それは間違った環境の中で成長し、間違った教育を受け、その結果として間違った選択をしたからよ。

守霊:もしあなたが協力すれば、同盟はあなたやあなたの仲間に入滅を言い渡す以外の判決を下すかもしれないわ。あなたのようなプライドの高い大物に、協力するつもりはあるかな?

ディエリ:俺たちを殺さないと言うのか…フッ、むしろ知りたいな。なぜ俺たちはまだ生きている?

守霊:武装考古学派の一団があなたたちを見つけ、あなたたちに衝撃ドラムを売ろうとした。もちろん、あなたたちはそのようなものが欲しいでしょうし、取引も順調に進んでいた…ところが、歩離人の一団がもっと高い値段を出し、その衝撃鼓を手に入れようとした。

守霊:あなたも価格を上げた。それはたしかに貴重なものわね。船上のあらゆる有機生命体を殺すことができ、それでいて財物にはダメージを与えない。私もあなたたちのような盗賊だったら、欲しくなるでしょうね。

ディエリ:一体何が言いたいんだ?まさかあのノラ犬どもがお前らに訴え出たわけじゃないだろう?

守霊:焦らないでよ…私はただあなたの疑問を説明しているだけ。そして、その歩離人たちは急に市場価格をはるかに超える金額を提示した。あなたはそれを挑発行為と見なした。

守霊:でも、あなたは野蛮人ではない…そうでしょう?だから、彼らと話し合い、その「ノラ犬たち」が何を考えているのかを明らかにしようと思った。結果…彼らはいきなりあなたたちを攻撃してきた。

ディエリ:ああ…考えていた。染干はそこまで狂ったヤツではないのに、どうして突然俺を挑発するのかって…そういうことだったのか!さすがとしか言えないな。

ディエリ:以前から歩離人の中にお前らのスパイがいると聞いてたが…どうやったんだ?寝返り工作?それとも、歩離人に似た曜青の狐族に潜伏させた?っ…..痛っ、これはなんだ!?

守霊:あっ、拘束器具が発動したみたい。言い忘れていたけど、あなたには質問する資格がないの。

ディエリ:フンッ…土の中をはいずり回るウジ虫が!

守霊:だから…結論を言うわね。今、豊穣の民は造翼者ディエリの部族と歩離人染干の猟群が不和を起こしたと考えている。染干はディエリの艦隊を襲い、ディエリは消息不明となった。

ディエリ:お前らは俺が染干に報復し、歩離人と造翼者の間で血みどろの戦いが起きることを期待しているのだろう。それなら俺を捕まえる必要なんてない。言われずとも俺は復讐する。

守霊:いいえ、あなたはそんなことをしない。なぜなら、あなたは衛天種ではなく、啼頌種だから。あなたは、あの軍事貴族たちよりも慎重で、忍耐強く、一時的な怒りで「復讐」をすることなどありえないわ。

守霊:さらに、あなたと他の人たちとの最大の違いは、あなたが衛天種の特権階級の一員などではなく、永遠にその仲間入りもできないこと…だから、あなたは造翼者の軍事共同体に興味がなく、自分の部族のことしか頭にない。違う?

守霊:だからこそ、私たちはあなたとあなたの部族の全員を捕まえてきたの。

ディエリ:(数十秒の沈黙)

ディエリ:いくつか質問してもいいか?

守霊:いいわよ。

ディエリ:俺がやつらを攻撃したら…俺の命を保証してくれるか?

守霊:できないわ。

ディエリ:じゃあ部族の者たちは?

守霊:同盟は彼らの罪をすべて許すでしょう。そして、帝弓の名に誓い、彼らは公正な保護を受ける。ただし、彼らが引き続き繁殖することは認められない。公正でしょう?

ディエリ:とても公正だ。

守霊:取引成立かしら?

ディエリ:…取引成立だ。

……

『漁公事件簿周年特別編』の感想

『漁公事件簿周年特別編』を読んだ後の感想。克己的な言葉遣いで、真摯な気持ちがこもっている。

『漁公事件簿周年特別編』の感想

『漁公事件簿』の連載開始から追い続けてきた古参ファンとして、最新の周年記念特別編を読み終え、不満をぶちまけずにはいられない。

このシリーズは規模が大きくなったから商業化に力を入れるのはわかる。けど商業化のために作品の品位を失ってはならない!
初期の『漁公事件簿』は少なくとも推理にこだわっていた。しかし今のは何だ?
派手なシーン!派手なシーン!またまた派手なシーン!
出版社は、「毎年年末に必ず特別編を出すことが『漁公事件簿』シリーズの特徴になっている。しかし、漁公と一緒に成長してきた読者たちの目がますます肥えていったらどうするのか?さらに重要な問題として、200年たったことで銀河中で使える犯罪手法はほぼ使い果たされてしまった。
「仕方ない。それなら事件の主犯に特別な能力を与え、差別化を図り、犯罪の規模を一段とグレードアップさせよう!」とでも考えているのだろう。
製作サイドが作品の商業的価値を十分に高めようとするのは理解できる。しかし、不適切な要素を無理やり詰め込むべきではない!今の『漁公事件簿』の敵役は、仙舟を破壊する陰謀を張り巡らすか、星を爆破する計画を持っていなければパンチが足りないようだ。

摩訶不思議な超魔法アイテムがやたらと現れたり、遥か遠くからボールが飛んできて星槎を貫通したり、はたまた金人を素手で引き裂くような猛者まで現れる。まるで超能力バトルを見ているようだ!漁公も事件解決なんてやめればいい。探偵業なんて向いてない。その身体能力があれば、タイキヤンに行ってレーザーボールの試合に出るべきだ!体中がチェーンソーの巨漢サックも、漁公を見れば尻尾を巻いて逃げるだろう!

それとここ数年の『漁公事件簿』はますます型にはまってきて、低能AIが書いているようだ。結局、以下のような内容が繰り返されている。

漁公の推理ショー
漁公と幼なじみのヒロインとのロマンス
漁公と同じく脱鱗させられたセカンドヒロインとのアレコレ
漁公の周りのアマチュア探偵団の存在感誇示と謎の超的確ヒント
地衡司とヒロインの父の誤った選択の排除
漁公が肝心な時に必ず、それまで言及されたことのない特殊技能やトリビアを披露する――そして「脱鱗
前に学んだ」という理由で正当化する
ヒロインと彼女の裕福な狐族の親友
足を引っ張る地衡司と事件解決後に遅れて登場する執行人
肝心な時にいつも奇妙な発明品(いかなる物理学法則にも当てはまらない)を届けてくる工造司の責任者と彼の笑えない寒いジョーク
ヒロインの断水流古武術
飲茶会にはいつも十王司から派遣されてきたスパイがいる
大人になった漁公に顔が似ていて、敵であると同時に友でもある義賊
……

特に飲茶会。この組織は初めこそ勢いがあったが、最近は緊張感がなくなっている。地衡司、十王司、神策府など、どの組織のスパイでも潜り込めてしまう。結局、働いてるのはプーアルと龍井の2人だけ。

それから、以前のコメントで私を非難していた人たち、作者びいきする読者は、私がブームに便乗しているなどと言わないでほしい。私は小説の連載開始からずっと読み続けており、幻戯も全部見ている。毎年の限定版や特別編も必ず買っているんだ!

でも、もはやどうしても読み続けられない!蘇芳先生、どうか気にとめてください。探偵推理物の初心に戻れないのですか?ファンのお金や作品への愛は容易く手に入るものだと思っているのですか?

雲騎軍より十王司に引き渡した重罪人リスト

雲騎軍が十王司に引き渡した重罪人のリスト。この者たちは皆「不赦十悪」を犯している。

雲騎軍より十王司に引き渡した重罪人リスト

羅浮の雲騎軍は『仙舟律』および『十王刑統』にもとづき、以下の被疑者を羅浮十王司に移送し、審理および判決を受けさせる。

氏名:豊渓
性別:男
罪名:魔陰に陥れる、同胞殺し、兵禍を招く
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。「魁首」丹枢と共謀して太真丹室に罠を仕掛け、多数の同胞を魔陰の身に陥れた。丹鼎司の事件で雲騎軍に逮捕された。

氏名:天錦
性別:男
罪名:魔陰に陥れる、同胞殺し、兵禍を招く
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。丹鼎司の大反乱の共犯。丹鼎司の事件で雲騎軍に逮捕された。

氏名:知宇
性別:男
罪名:魔陰に陥れる、同胞殺し、兵禍を招く
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。丹鼎司の大反乱の共犯。丹鼎司の事件で雲騎軍に逮捕された。

氏名:千浩
性別:男
罪名:魔陰に陥れる、同胞殺し、兵禍を招く
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。丹鼎司の大反乱の共犯。丹鼎司の事件で雲騎軍に逮捕された。

氏名:雲珂
性別:女
罪名:魔陰に陥れる、同胞殺し、兵禍を招く
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。丹鼎司の大反乱の共犯。丹鼎司の事件で雲騎軍に逮捕された。

氏名:清寧
性別:女
罪名:破牢釈囚
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。前歩離戦首の呼雷を脱走させようとした。天涯洞で地衡司に逮捕され
た。

氏名:若茗
性別:女
罪名:破牢釈囚
罪状の概要:薬王秘伝の構成員。清寧の事件の共犯。天涯洞で地衡司に逮捕された。

氏名:揚竹
性別:女
罪名:盟約の離間
罪状の概要:持明族の内乱の扇動。鱗淵境で雲騎軍に逮捕された。

氏名:リルスジャン・ファフナー
性別:男
罪名:不死を求める、機要窃奪
罪状の概要:殊俗の民。司の要人を誘拐し、長生の秘密を聞き出そうとした。雲頂台で地衡司に逮捕された。

氏名:安文
性別:女
罪名:機要窃奪
罪状の概要:スターピースカンパニーに買収され、証拠保管室に侵入して薬王秘伝の人体実験記録を盗んだ。長楽天で雲騎軍に逮捕された。
備考:本事件は極めて重要な機密事項にかかわるため、スパイ交換を求めるカンパニーの要請に断じて応じてはならない。

地衡司司衡からの手紙

地衡司司衡が景元将軍に宛てた手紙。

地衡司司衡からの手紙

将軍殿へ:

将軍が危険な戦いの末、負傷しながらも巨悪を排除したことを知り、驚きの念に堪えません。将軍は羅浮の大黒柱であり、同盟の股肱でもあります。万一のことがあれば、仙舟に多大な影響をもたらします。どうかお体を大切にされ、しっかりと療養してください。

建木繁生の騒ぎは終息し、地衡司は一致団結して後始末を行います。これは私たちの役目です。この厄災により、星槎海、太卜司、工造司などがある洞天はどこも大きな影響を受けました。被害の詳細が確認できた後で、地衡司は工造司と協力して速やかに再建作業に取りかかります。

天舶司舵取の御空様は、危機が発生した後、羅浮を封鎖し、潜在的な危険を探し出し、空域の守りを固め、職務を果たしました。舵取様の今回の功績については、私が言うまでもありません。しかし、接渡使の停雲が邪悪な者に遭遇して中身がすり替わっていたことに関しては、司内で多くの議論があり、隠れた悩みの種となっています。さらに、建木復活の厄災に関するうわさが商人たちによって広まり、近いうちに仙舟にやって来る「薬乞い」の数がまた大幅に増えるでしょう。その中に寿瘟禍祖を信奉するスパイはどれほどいるのでしょうか?また、何も知らずに仙人になりたいと望む患者はどれほどいるのでしょうか?これらの人々の決して満足することのない欲求は、潜在的な危険要因となるでしょう。

太卜司太トの符玄様は、自ら前線に赴き、星核ハンターを捕らえました。危険に立ち向かい、兵を率いて反乱を鎮圧するなど、その功績は大変見事です。しかし、六御の規制により、太卜様が一時的に雲騎軍を指揮することは規則違反とされています。将軍が回復された暁には、速やかに職務にお戻りください。

工造司司鍛の朱輪様は建木の危機の時、仙舟「朱明」を訪問していました。近日中に羅浮にお戻りになる予定です。これまで工造司の事務はすべて公輸大工正が代行されていました。公輸は職人としての腕は確かですが、人間関係には疎いです。幸い、今回の建木の厄災で、彼は職務を投げ出すことなく、通常通りこなしていましたので、その勇気は称賛に値すると思います。

一方、丹鼎司の状況は複雑です。周知の通り、司鼎の職は長らく空席のままでした。玉絡が丹士長に緊急登用され、司鼎の職務を一時的に担っています。しかし、英明なる将軍様であればお分かりかと思いますが、事態が収束した後、同盟は新たな司鼎を羅浮に派遣するはずです。その時、また波風が立つ恐れがあります。将軍様が早く執務に復帰していただけると、私たちも事前に対応策を考えることができます。

建木の復活後、丹鼎司は仙舟の民衆から信頼を失い、「丹鼎司みたいだ」という言い回しで仙舟が悪巧みを隠していることを揶揄する殊俗の民までが現れました。地衡司総務庁はいくつか命令を出し、執行官以下の構成員の言動や客への対応方法について強調を繰り返しました。困難に直面している今、地衡司は事態の沈静化を最優先とし、外部の者との対立激化を回避しなければなりません。

人々にとって医薬はとても重要です。帝弓の勅令に合った医学で殊俗の民を病から救い手助けすることも、寿瘟禍祖に対抗する重要な方式です。私は、丹鼎司に対する民衆の信頼を回復することが最も重要だと考えております。そのため、他の司からの協力を積極的に求めていくつもりです。

手紙をお読みいただき、ありがとうございます。将軍の一日も早い回復をお祈りしております。

地衡司司衡、恵父より

ニューロンテネオン号貨物検査報告書

輸送船「ニューロンテネオン号」の貨物検査に関して作成された報告。

【検査日時】星暦8100年8月7日

【担当職人】工正:耿

【委托機関】天舶司舶航庁

【検査対象】輸送船ニューロンデネオン号積載貨物

【検査理由】
1.星槎が入港報告を行っていないため
2.星槎の積載貨物が危険物である疑いがあり、かつ未報告のため

【検査レベル】スキャニング検査

【検査項目】
1.外形および重量の検査
2.材質および工法の検査
3.動力および武装の検査
4.信号および生化学の検査

【検査結果】
1.この機械の高さは約4.3メートル、重さは約2,905キロ。
2.体形は人狼に似ており、顔には一本の角がある。
3.全体が合金で覆われており、高い硬度と強靭さを持つ。通常の刀剣であれば完璧に防げる。
4.腕は長く、鋭い爪を持つ。爪の鋭さは触れたものすべてを切り裂くほど。
5.反足構造をしている。関節部分の技術は極めて優れており、機械の高速な動きを支えている。
6.太い尾を持つ。機体の重量の均衡を保つのに役立つと推測される。
7.動力源は不明。軽微な動力漏れを検出したが、詳細な位置は特定できず。
8.静止状態では外界の刺激に対していかなる反応も示せない。
9.神経信号の検査結果は陽性であった。これは神経組織に類似したものを持つことを意味している。
10.その関節などの部位から微量の組織液を抽出し、たんぱく質検査を行ったところ、結果は陽性となった。これは炭素生物の一部の特徴を持つことを意味している。

【推奨される処分法】

外形、材質、工法から見て、一種の武器であることに疑いの余地はない。「湿件」を操る武器だと思われる。天舶司の管理条例ではどうなっていただろうか?罰則は、危険度の評価にもとづき「すべて没収」から「港から追放」までさまざまだ。

ついでに言っておくと、この物体から微弱な神経信号とたんぱく質組織が検出されている。正直なところ、これは非常に怪しいと思う。薬王秘伝の一件があったばかりで、上層部は外から入ってきたすべての生物学的製品を厳しく調べるように指示している。わかっていると思うが、これが薬王秘伝の仕業ではないと誰も保証できない。

まずはこの貨物を収容することを提案する。どこに置くかは聞かないでもらいたい。できれば判官に処理を任せるのが一番だ。

この物体の技術原理は私の理解の範疇を超えている。改めて専門の医士を呼び、詳しく調べることを推奨する。

以上、本報告書は判断根拠を提供するものにすぎず、当該貨物の処理については天舶司の判断に委ねるものとする。

輸送船ニューロンテネオン号の航海日誌

「ニューロンテネオン号」の航海記録。

輸送船ニューロンテネオン号の航海日誌

運航基本情報
【艦船番号】スターピースカンパニー-物流輸送部-輸送船ニューロンデネオン号
【出航番号】140
【出航日】琥珀暦2158紀■■年■■月■■日(暗号化によりアクセス不可)
【委託者】博識学会
【委託規格】レベルI
【貨物情報】■■■■(暗号化によりアクセス不可)
【発送地】■■■■(暗号化によりアクセス不可)
【受取人】武装考古学派
【受取地】クリムト-立憲国国境の戦場

運航詳細日誌
【日付】出航1日目
【記録者】船長:ジェーン・ブライクス
【貨物の状況】正常
【燃料の状況】残り99.1%
【補給の状況】残り100%
【航路の状況】正常

荷物を運んでから1週間もたたないうちに、上からまた新しい仕事を入れられた。

やれやれ…部のトップは、できるヤツほど多くの仕事をすると言うが、誰のおかげで好業績のチームになったと思っているんだ。まあいい。新人たちを鍛えるいい機会だ。今の若い船員たちはますますレベルが下がっているし、どいつも忍耐強さがない。十数光年も航行しないうちに港に入って休みたいなどと文句を言ってきた。今回の依頼主は、カンパニー内部の小惑星補給ステーション以外の世界には一切寄港しないように求めている。新人たちにはいい勉強になるだろう。

【日付】出航から17日目
【記録者】船長:ジェーン・ブライクス
【貨物の状況】正常
【燃料の状況】残り54.9%
【補給の状況】残り66.0%
【航路の状況】軽度の騒動、修復不要

今日はカンパニーの専任担当とカードゲームをして、パンツまで勝ち取ってやった。結局、あいつは自分の立派な制服を取り戻すために龍泉老窖を差し出す羽目になった。こいつは貴重な品だと言っていたが、たしかにそのようだ。ボトルのふたを開けた瞬間、酔いそうになった。やれやれ…この航路は羅浮を経由するはずだったが、依頼主がふざけた注文をつけたせいで寄れなかった。とことん飲まないとやってられない。

こんなに謎めいたことをして運んでいるのは、一体どんなお宝なのか専任担当に聞いてみると、学会が開発した最新の秘密兵器で、対反物質レギオン攻撃用のものだと奴は言った。学会の頭でっかちたちはいつもそう言うが、結局は破壊されてスクラップになるのが関の山だ。

【日付】出航から30日目
【記録者】船長:ジェーン・ブライクス
【貨物の状況】正常
【燃料の状況】残り21.1%。小惑星補給ステーションにて燃料の補給を実施、99.1%まで回復
【補給の状況】残り40.0%。小惑星補給ステーションにて物資の補給を実施、80.0%まで回復
【航路の状況】中程度の騒動、航路修正済み

ここは補給ステーションといっても、燃料と水以外に補給できるのはゴキブリも食べようとしない圧縮クッキーだけだ。おまけに数量も制限されている。部に何度も苦情を申し入れたが、改善の様子は一向に見られない。

何よりも腹立たしいのは、同行しているカンパニーの専任担当たちだ。奴らに出す特別食は1回も欠かすことはなく、さらにはアフタヌーンティーまでついている。そして、食後はカードゲームをするだけ。カンパニーがなぜこんな役立たずたちを養っているのか理解に苦しむ。

【日付】出航から49日目
【記録者】船長:ジェーン・ブライクス
【貨物の状況】正常
【燃料の状況】残り49.7%
【補給の状況】残り42.0%
【航路の状況】中程度の騒動、引き続き航路の修復を実施

運航で最もしんどい時に差し掛かった。船内の新鮮な食料や酒は尽き、長いことうまいものを口に入れていない。

食事よりも面倒なのは退屈さだ。大多数の船員は何もすることがなく、何度も貨物室を巡回するだけ。昨日、数人の船員がカンパニーの専任担当とトラブルになった。原因は巡回していた船員が貨物室から奇妙な音を聞き、貨物を確認しようとしたことだ。専任担当は船員たちが貨物に手を触れることを許さず、最終的に口論になった。幸い、私がすぐに両者をなだめたので大事にはならなかった。

長距離輸送船の船員は、奇妙な怪奇現象に驚かされることもしばしばだ。たとえば、コンテナの中の音、自動でシャットダウンする休眠カプセル、換気システムに潜む触手の怪物など……学会はこのことについて、「有機生命体の脳は非常に幻覚を生じさせやすい」という説明を一貫して続けている。たしかに、私も多くの怪奇現象を目にしたが、見なかったものと思ったり、怪物を見ても動じなかったりすれば自然と消えるものだ。若い連中はまだまだ青い。私たちはただ船で貨物を届けるだけで、どのようなことがあろうと、仕事を成し遂げることが最も重要なのだ。

【日付】出航から64日目
【記録者】船長:ジェーン・ブライクス
【貨物の状況】正常
【燃料の状況】2.9%
【補給の状況】0.5%
【航路の状況】異常。不可抗力の影響を受けて航路を変更、補給のために仙舟羅浮に向かう

ひとたび運が悪くなると、すべての歯車が狂ってしまうものだ。
羅浮まで数光年のところで歩離人の襲撃に遭った。レーダーでは接近をまったく察知できず、遠距離武器を使う前に船に乗り込まれてしまった。その時の状況は本当に最悪で、近接戦闘では歩離人にまるで歯が立たなかった。奴らの鋭い牙や爪は、人間の骨をいとも簡単に粉砕する。

私はすべての非常扉を封鎖するよう命令し、全員を中央貨物室に避難させる。私の勇敢な戦いと指揮により、歩離人はそれ以上一歩も進めなくなった。そして奴らが攻めあぐねている隙に、私は救難信号を発信した。

最終的に、近くにいた仙舟の宇宙船が私たちを発見し、彼らはすぐさま近付いてニューロンテネオン号に乗り込んできてくれた。彼らのリーダーと思しき人物は若い女性剣士で、人間より大きな得物を担いでおり、歩離人たちは彼女の敵ではなかった。私はこの人たちのことを羅浮から派遣されてきた雲騎軍だと思っていたのだが、後で自己紹介をした時に仙舟朱明から来たことを知った。仙舟の人々は皆、奇妙な格好をしている……

船はひどく損傷し、燃料や補給品はほとんど失われてしまった。現在の状態では運航を続けられない。朱明人は羅浮へ行って修理するよう提案してきた。それに対して、カンパニーの専任担当は強く反対したが、船長である私には他に選択肢はない。船員の命を最優先に考えなければならないからだ。今、羅浮へ航路を変更することにした。この疫病神のような貨物はカンパニーのものだが、命は私たち自身のものなのだ!

ところで…以前の航路安全報告書には歩離人出没に関することなど一切触れられていなかった。この件は非常に奇妙だ。なぜ歩離人が我々の船を襲うのだろう?

燕翠の取り調べ調書

金人巷の料理人燕翠に対する取り調べの記録。

燕翠の取り調べ調書
尋問記録
被尋問者:燕翠、女性、尚滋味料理長

犯人は仙舟の法律を無視し、武装考古学派の者を私的に雇用して獣艦を襲撃し、被雇用者とそれを分割して食した。以下は尋問内容の記録である。

問:どのようにして獣艦を発見したのですか?

答:友人が…オホン、これは言い訳とかではなく、本当に博識学会に星空の生態を専門に研究している友人がいるんです。彼女は歩離人の狩猟や移動を一年中観察し、追いかけています。

答:最近、彼女が突然、歩離人の獣艦の肉はどんな味がするのかと尋ねてきました。最初は彼女が狂ったのだろうと思いました。歩離人の獣艦の肉を食べたことがある人などいるでしょうか?そして、誰が食べようとするでしょうか?しかし、彼女の質問は私の心に好奇心の種を植えました――獣艦の肉はどんな味がするのか?これまでずっと料理人をやってきた私が、このような食材への挑戦に心を動かされないわけがありません。

答:そこで彼女に何か知っているのかと聞いたところ、彼女は仙舟の近くの宙域で孤立した獣艦を発見したと言いました。これは奇妙なことです。歩離人は通常、負傷した獣艦を大型母艦にエサとして与えます。しかし……まさに千載一遇の機会。彼女から3000巡鏑の手付け金を受け取り、武装考古学士を2人雇いました――

問:(話を遮って質問する)獣艦を発見した後、雲騎軍に報告しないどころか、私的に殊俗の民を雇い、途中で捕獲したのはなぜですか?

答:獣艦を見つけた時、その胸腔のエネルギー貯蔵器官が縮小し始めていました。このままでは、トカゲの尻尾切りのように老化した無用な部分を切り離し、一部の器官を自ら消化してしまうでしょう。それではいけません。

問:それはあなたと何の関係があるのですか?

答:全部食べられてしまったら、私たちは何を食べればいいのですか?

問:……なぜ雲騎軍に報告しなかったのかと聞いています。あなたは雲騎軍の退役兵であり、関連規則の内容をよくわかっているはずです。

答:雲騎軍に報告したら、この獣艦の肉で作った料理を食べられなくなってしまうでしょう。それに、私はもう退役していて、今はただの料理人です。

問:……続けてください。

答:獣艦の額部分の腫れた腺体から、孤立した奴隷船の可能性が高いと判断しました。飢餓、さらに体内に対する真空の圧力によって、圧縮された毒素と燃料が固体化していたのです。私たちはまったく攻撃を受けることなく、その近くのエリアに到達できました。

答:といっても、「餓死していようがそうであっても獣艦は恐ろしい」という言葉があるように、その「虚空ヒレ」も無視できません。ヒラヒラした見た目に惑わされてはいけないのです。ヒレの末端から伸びているクラゲの触手のようなものは、実は複雑な構造をしていて……ひとたび巻き付かれると、獣艦にたちまち押しつぶされてしまうでしょう。

答:何よりも恐ろしいのは、触手のエネルギー蓄積組織がひとたび断裂すると、回流するバイオマスが胆汁のように獣艦全体を悪臭で満たしてしまうことです。最終的に、尾の部分の停泊部分を諦め、他の乗艦口を探すしかありませんでした……

問:待ってください。あなたに獣艦の生物的な構造を説明してもらいたいわけではありません。あなた方は最終的に中で何をしたのですか?

答:通常、食材の処理では頭を壊さないようにします。脳や頭部の筋肉は非常に貴重な食材だからです。しかし、獣艦の操縦室は分散型で、10個もの頭を持つ特殊な攻撃艦もいます。頭が1つでも残れば、本体から離れて、新たな獣艦として戦い続けることができるのです。

答:そのため、断腸の思いで頭部を爆破し、頭骨の中央から退化した鼻腔を通って艦内に入りました。

問:獣艦の内部では、まったく危険な目に遭わなかったのですか?

答:ああ、それ以上言わないでください。頭骨から入った後も他の部分の大脳はまだ死んでいなかったため、私たちが最後の脳を摘出するまで、免疫機能は働き続けていて、廊下の壁から手や触手がしばしば出てきました。

答:それに腹部のエネルギー供給器官も厄介でした。寿瘟禍祖の呪いによって、肉腫は生成された生物工ネルギーを他のエネルギーに変換できます。理論上は、その一帯は獣艦の体で最も脂ののった部分のはずなんです。しかし、自給するエネルギーでは結局必要量を満たせず、食べられた奴隷や各種生物、濃縮された有毒物質、排泄部分に入る前の大量の廃棄物がすべてそこに貯まっていました。そこを通過する時、雇った武装考古学派の人はとても気持ち悪そうな顔をして、今にも倒れそうでした。

問:武装考古学派に対する私たちの理解では、そのような状況に遭遇した場合、彼らは獣艦のエネルギー供給器官を破壊するはずです。あなたが彼らを止めたのですか?

答:そうです。腹立たしくてたまりませんでした。半死半生の獣艦の内部循環を断ち切れば、常に発生しているバイオマスが艦内を加圧し続けます。爆発すれば、私たちはこっぱみじんに吹き飛ぶでしょう。それに、体温低下による脱力に加えて腹部のけいれんが起きていたので、廊下と艦内が崩壊すれば、全員が獣艦の腹の中で圧死します。

問:獣艦の残骸の推進装置部分から高周波小刀による傷痕が多数発見されました。一体何をしたのですか?

答:有毒成分を切除しました。しかし、本当の推進装置は戦闘中に壊れてしまい、現在の推進装置は、残った生殖器官を使って改造したその場しのぎの代替品にすぎません。

答:だからこそ、その位置がちょうど排泄部分の上部になり、残った遺伝子の断片を抽出して新しい胚胎情報を繁殖、補充するのに便利で、さらにたまった廃棄物を利用することで燃料を節約することもできます。しかし、その新しくできた肉は、過負荷運動により、柔らかさと弾力性というほぼ矛盾する2つの特性を兼ね備えており、どうしても手放せませんでした。だから…有毒な嚢腫を1つ1つ切除するしかなかったのです。(被尋問者は急に黙り込んだ)

問:止めるようにとは言っていません。続けてください。

答:すみません、ぼんやりしていました。あの肉の味を思い出していて…意外にも普通の、とても普通の味だったのです。

三月なのか剣術修行ノート

三月なのかが剣術を習い始めてから記録をつけているノート。

三月なのか剣術修行ノート

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剣術の鍛錬って本当に大変。剣の型を覚えるだけで脳の細胞がたくさん死んじゃった気がするよ。でも、彦卿師匠は剣の構えはあらゆる剣法の基礎で、それがしっかりしてないと不安定になるし、構えを間違えると足さばきや剣の勢いも変わっちゃうって言ってた。

へへ、でもウチは天才だから、修行した内容をノートにまとめたんだ。これでどんなに難しい構えも簡単に覚えられるはず。

彦卿師匠から教わったこの型は足や腕の動きがとても多いから、「てんてこ舞い剣法」と名付けたよ。

剣を握り、立ち止まって呼吸を整え、自分は誰よりも強いと信じる
そうすれば、剣を構えただけで相手は震え上がる
体を回転させながら足を踏み込み、腕を軽く振る、この技は習得が難しい……
攻撃を躱しながら前に出て、カためからの一撃で相手を完膚なきまでに叩きのめす
斜め前に足を出して、星神ですら一刀両断にする斬撃を繰り出す
後ろに下がってから体を回転させ、再び斬りつける。一撃で仕留められなかったらもう一撃
足を戻して剣を収め、琵琶を持つ。そして、少し休んでから再び始める
左右に回転して七星を踏む。足さばきのリズムははっきりと
上半身を仰け反らせる姿勢で剣を起こして左膝をあげる。ニワトリのように
前をけん制して後ろに素早く下がる。動きが速すぎると足の指が痛い
弓歩で下に斬りつけてから上に突く。突きで敵の理性を奪う
円を描いて右に斬りつけた後に構えをとり、防御の姿勢を崩さない
刺突と斬撃を組み合わせて剣に勢いをつけ、連続的な攻撃を見抜かれないようにする
体と心を一体化させて剣の意思を悟る。心が素直なら結果が出る
こうして数十回繰り返し、朝から晩まで鍛錬を続ける
剣を収め、気と呼吸を整える。当代の剣客三月なのか

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あああ!本当に頭がおかしくなりそう!雲璃師匠の教えは彦卿師匠と全然違うんだから!

彦卿師匠の剣術では、足さばきに重点を置いて、左右の動きに素早く対応できるようにしないといけない。でも、雲璃師匠はこれらをすべて無駄な動きだと言って、まずは気をためて一撃を全力で放てるようにって、力の使い方を教えてくる。

今のウチはまるで足だけでダンスしながら、手で大きなハンマーを振り回してるみたい。このまま鍛錬を続けたら、そのうち人格が分裂しちゃいそうだよ。

はぁ…とりあえず、雲璃師匠の剣の型を覚えよう。雲璃師匠の型はシンプルで、直接的に攻撃する感じだから、「簡単野蛮剣法」って名前にしたよ。

気を丹田に集めて、馬歩の構えをとる。英雄のイメージを崩してはいけない
息を止め、精神を集中させて剣を前に向ける。そして、この姿勢を1年間続ける
雷のように一歩踏み出して挑み、相手を泣かせるほど怖がらせる
正面から大きく斬りつけ敵の刃を折る。衝撃で自分の頭はクラクラしちゃう……
手を下ろし横なぎで腰元を斬る。敵をキュウリだと思って斬りつける
連続で剣を突き出してけさ懸けに斬る。剣を繰り出す時は確実に力を入れる
技は手数よりも精度の方が大事。重要なのは必殺技
敵を倒すには一撃で十分。強力な一撃で奇跡を起こせる

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ここのところ、2人の師匠による熱心な指導と、ウチの真面目な鍛錬が実を結んで、足さばきや力の出し方は良くなってきたし、気づきもあったよ。

2人の師匠の教え方は違うけど、結局同じ道を進んでる。足さばきだけじゃ力は出ないし、それで剣を繰り出しても致命的な一撃にはならない。そして、力だけじゃ足さばきが悪くなって、技に柔軟性がなくなっちゃう。この2つを融合させるのは口で言うほど簡単じゃないけど、ウチには修行ノートがあるからきっと大丈夫。

このまま頑張れ、ウチ!この調子で鍛錬を続けていけば、いつの日か2人の師匠を超えられるかも。へへ……

猟剣日記:赤棘

雲璃の日記。彼女が魔剣狩りをする過程が記述されている。

猟剣日記:赤棘

私は人の心を読むのが得意じゃない。特に朱明の鋳剣師たちの心の中はまったくわからなかった。

鋳煉宮の工房で、鋳剣師たちが優れた武器を作りあげることに、どれほど恍惚とした表情をして喜ぶかをこの目で見たことがある。そして彼らは、新しい武器の製造を巡って口論を繰り返し、さらには相手を罵倒して、剣を抜いて決闘することもあった。

普段は穏やかでいい人たちだけど、「剣作り」のことになると、まるで頭が剣に支配されたかのように人が変わる。彼らは剣が完成した時の刃の輝き、さらにはその武器がどのようにして無数の敵を斬るかを想像して興奮していた。未完成の宝剣は彼らの口を通して語りかけ、彼らの図面を通して形を現す。そして彼らの言葉を通して人を傷つける。驚くことに、剣には歳陽以上に人の心を奪う力があった。

私の父、含光もそんな鋳剣師の1人だった。父は虚栄心と思いつきに駆られて禁令を破り、剣を求めて外から来た人たちのために数々の不思議な剣を作った。だけど、鞘をつけることはなく、そして父自身が剣の鞘となり、自分の作品によって倒れてしまった。

おじいちゃんはいつも、「剣を好む者は、必ずや剣に傷つけられる」とため息混じりに言ってた。殺傷力の高い武器を手にすると、それを戦いで使いたくなってしまう。そして、父が作った剣は他の剣と比べて群を抜いて凶悪なものだった。

私が物心ついた頃、おじいちゃんは父の名前を口にすることを私や兄弟子、そして姉弟子たちに一切禁じた。でも、そうやってひた隠しにする空気はとても奇妙で、まるで人混みの喧噪の中に空白が残されてるみたいで、そして本でいっぱいの書棚から意図的に剣の書が1冊だけ抜かれたようでもあった。彼らが口を閉ざすほど、その抜け落ちた感覚はますます目立つようになった。

最終的に私はその空白を埋めることを決意し、父の作品を記録した剣の書を引っ張り出して、作品の行方を追い始めた。

※※※

「赤棘」は父が若かった頃の作品。長さは3尺3寸、柄はあるけど、つばと鞘はない。

「赤棘」の剣身は鋭利ではなく、色は暗くさびた鉄のよう。横から鋭いトゲが生えていて、先端の近くには赤く溶けた鉄のような鋭い針が突き出ている――その形状は普通の剣とは違い、まるで先端に長いトゲが伸びた木の杖に見える。

図鑑によると、それは傷を素早く治す豊穣の忌み物を倒すために設計されたものらしい。金属の剣身で包まれた核は、人造の建木の若芽――父はこんな危険な材料を一体どこから手に入れたんだろう?だけど、それは誰にもわからない。唯一わかってることは、この剣が仙舟曜青の影護衛の依頼を受け、豊穣の忌み物を暗殺するために作られたということだけ。

剣先が長命種の肉体に刺さると、「赤棘」は相手の生気を吸い取り、体を急速に衰えさせる。とても不思議に聞こえるけど、おそらく長命種の細胞活性を抑制する毒素を注入するのだろう。このように鋳煉宮の宝剣には、表面上は神秘的に見えても、種明かしをすれば不思議でもなんでもない設計が多い。

※※※

「棘のある外面と深紅の芯」とは、古文書に記された神木の不思議な現象であり、非常に尊い吉兆だ。かつての剣の所有者が持っていた豊穣の忌み物を斬るという理想がどれほど崇高なものだったとしても、今の「赤棘」は雲騎軍を殺すための凶器に成り果てている。なぜなら、「赤棘」が「薬王秘伝」の信徒である蒔者曇伽の手に渡っているからだ。

狩る目標の位置情報が確定したら、後は行動あるのみ。おじいちゃんは私の猟剣計画に反対してたけど、私はその言葉が一貫して本心じゃないことを知ってた――おじいちゃんの机で偵察報告書を見つけた時、今回もまたおじいちゃんが折れたのだとわかった。

「金烏衛」の斥候は曇伽が伊須磨州の奥地に逃げ込んだことを突き止めた。仙舟人の身分で現地の淵民や水居者たちを惑わし、沈没した岱輿の廃虚から数々の遺物を引き上げさせているらしい。

目標の居場所が確定したので、私はすぐに鳴火商会の輸送船に乗って伊須磨洲に向かった。過去に何度か剣を回収した時は、ほとんどの場合は相手と一騎打ちをするだけで済んだ。だけど、今回はそう簡単にはいかないだろう。曇伽がアナイアレイトギャングの殺し屋たちを雇って、古い岱輿の廃虚の周囲に形成された沈没船島を、厳重に守らせていたからだ。

私は1週間かけて地形を観察し、人数を数え、彼らの武器を確認する。そして長い遊撃戦が始まった――敵が仲間と離れた機会を狙い、アナイアレイトギャングの怪物や薬王の一派が作り出した怪物を次々に排除していった。敵を1体倒すごとに、私はホラガイの角笛を吹き、生き残っている曇伽の手下に彼らの末路を見せつけてやった。剣ちゃんに粉砕されたものは灰になって、悪臭を漂わせていた。

およそ2週間後、ついに敵から士気がなくなる。沈没船島の現地の人たちは、神に捨てられた船に怨霊が出没するとうわさしていた。曇伽の手下たちが鞭打ちで阻止しようとしたが、現地の人たちは構わず夜の闇に紛れて水に潜って逃げていった。

私は風が強く波の高い夜を戦いの終わりの日に選んだ。生き残っている薬王妖寇はたいしたことなかったけど、曇伽が出てくると戦局は一気に逆転した――「赤棘」はまるで生きているかのようで、剣ちゃんが命中するたびに、曇伽はすぐさま自分の手下を「赤棘」で突き刺し、容赦なくその命を吸い取らせて傷を瞬時に癒やしたからだ。

血を吸った「赤棘」が裂けて開き、イバラの鞭のように円を描きながら振り回される。一度触れると剣のトゲが伸び、はい上がってきた。そして、私の体に刺さって血液や骨髄を吸い取ろうとする。

持久戦は間違いなく不利だ。だから私は、剣ちゃんを盾にして短時間で勝負を決め、一撃で仕留めることにした。曇伽が「赤棘」を剣ちゃんにしっかりと巻きつけてきて、武器を奪えると思ったであろう瞬間、私は大剣を投げつけ、剣自体の重さで曇伽の体を貫き、岩に串刺しにして動けなくした。

その後は忍耐の試練だった。私は岩のそばで1週間も見張っている間、絶対に瀕死の曇伽には近づかないようにした。曇伽の生命力はどれだけ燃やしても尽きない薪のようだったからだ。最初は力の限り私を罵倒し続けていたけど、何度か夜が過ぎるとむせび泣くような声で懇願し始めた。「赤棘」は奪った生命力をようやく使い果たし、何の変哲もない木の杖に戻った。私はもう反撃できない曇伽の干からびた死体からその剣を取り、剣ちゃんで力強く砕いて、その残骸を剣の箱に収めた。

※※※

その忌々しい剣に血を吸い取られ、一瞬で何百歳も老けたように感じた。そんなに早く老人になるのは嫌だったから、タラサでさらに半月休養した。商船に乗って仙舟朱明に戻ろうとした時、1人の仙舟人が私の目の前に現れた。

その人は、私がライバルだった曇伽を倒したことに感謝し、蒔者を抑止するための魔剣を粉砕したことにもお礼を言ってきた。次の戦いのために剣ちゃんを抜こうとした時、その人は感謝の印として、私が興味を持つであろう情報を提供すると言った。「含光が作った魔剣のうち、いくつかの行方を知っている……」と。

私はその人のツルツル頭を見つめ、心の中でそれを叩き潰したい衝動を抑えながら尋ねた……

「それでお前さんは、一体何を聞いたのだ?」
「美少女の日記を勝手に読むのはよくないよ、おじいちゃん」

椒丘の食事療法に関する処方せん

椒丘が曜青将軍の従者に残した数枚の処方せん(処方せんでもあり、レシピでもある)

椒丘の食事療法に関する処方せん
椒丘が曜青の将軍の従者に残したいくつかのレシピ
…これには主に体を温めて体の調子を整え、戦いを終えた将軍の体の回復に大きな効果がある。

調合方法は以下の通り。

ハイアイーの黄耆2銭
孔泰金花1銭
長楽白及1銭
ウェンワークの乾燥虫草2株
丹参の乾燥粉末2グラム
玉殿帝流漿3滴
方壺の湯海の水を入れ、中型の釜で四刻煮込んでかすを取り除き、懸濁液を取る
朱明の野生の玉実鳥を取り、内臓を取り除いて水通しした後、血も取り除く
別の釜にネギ、ショウガ、ニンニクを入れ、方壺の黒蝮の肉を煮る
強火で沸騰させた後、弱火で1時間じっくり煮込んで鍋から出す
アクを取り除き、透明な上澄みだけを取り、朱明の枸杞をいくつか入れて飾りつける
「将軍は長年の病で気と血がバランスを崩して、怒りっぽくなっていて、また、長きに渡る戦いから生じた疲労と体内出血により、気脈が滞っています。長期の静養が必要で、薬湯を10日ごとに1回服用するのがいいでしょう。その間、生物や辛い物は避けてください。なお、夕食時での服用が最適です」



…これには主に精神を安定させて、体を冷まし、解毒、視力改善の効果がある。食後の甘味にもなり、将軍の知覚機能の回復を助ける効果もある。

調合方法は以下の通り。

ピノコニーのスラーダ1瓶。他のシロップで代用することも可
青丘の米適量
青丘の米を半透明になるまで炊いて水を切った後、別の鍋で透明になるまで炊く
鱗淵藻膠2銭
ドロドロになるまで煮詰めて置いておく
浮羊乳にタラサヤシを加え、煮詰めて置いておく
清心蓮子4銭
方壺の竜眼4銭
ヤシと乳に入れる
ゼリー以外の食材を一緒に半刻煮込んでとろみをつける
鍋から出して粗熱を取り、冷凍させ、シロップ冷凍プリンを加える
波月ミントを加えて飾りつける
「将軍は高速で動くため、心や脳が乱れやすいのです。そのため、両目を整えるだけでなく、精神を安定させる薬を補助的に用いるべきです。別途、酸棗仁5銭、遠志3銭、甘草1銭を使って涼茶を作り、薬として飲んでください」



…これには主に心身の機能を整え、風熱を散らし、筋肉融解症および石灰化の進行を遅らせる効果がある。

調合方法は以下の通り。

永狩原野のキノコブタの後ろ足の肉をぶつ切りにし、湯通しして血を抜く
タラサの糞虫の粉末半さじ
脱鱗した持明の卵殻の粉末4分の1さじ
方壺の竜骨の根2銭
脱水視肉半銭
石筍2つ、洗浄して置いておく
キノコブタの足の骨と肉を火姜の欠片と一緒に土鍋に入れる
波月古海の水から塩分を析出し、土鍋に入れて一刻煮込む
アクを取り、石筍と視肉を加えてから半刻煮る
鍋から出して薬の粉末をスープに入れ、朱明の黒コショウと混ぜて薬の匂いを消す
「将軍の病因は、長年に渡って彼女が生命力を過剰に消費し、そして筋肉内の毒素が分散されずに、筋肉が損傷を起こしたからです。食事によって血気を浄化し、筋肉を修復する必要があります」

『帰正本末』序文

羅浮の学者宗光が親友の原稿を整理して書いた序文…そして彼の親友はなんと歩離人だった。

『帰正本末』序文

親友月里火(げつりか)の遺稿『帰正本末』が30年近い論争の末、ついに出版されることになりました。私はこのことを心から喜んでいます。

この本の多くの読者にとって、『帰正本末』も「月里火」は馴染みのない名前でしょう。ですから、この序文で彼女の生涯を簡単に紹介させてください。

7992年、月里火は腥風猟群(せいふうりょうぐん)のある獣艦使役者の家に生まれました。腥風猟群は巨大な獣艦艦隊で「各地を震撼」させ、月里火のように代々獣艦を使役する一族は、強きを尊ぶ歩離人の社会でおのずと、相当な政治的影響力を持つようになりました。

8023年、月里火はわずか31歳でしたが、その時にはすでに自分の獣艦部隊、「閉戻多(へいれいた)」を持っていて、数十回の略奪を独力で計画して成功させていました。

当時の仙舟の飛行士にとって、月里火は間違いなく悪夢のような存在でした。彼女は死をも恐れぬ勇敢さを持ち、非常に狡猾なことで知られていて、歩離人の中で最も迅速に動く艦隊だと言われていました。

月里火はすぐに、その驚異的な戦功によって猟群内での地位が急上昇しました。8025年、月里火は腥風猟群の首領、忽辛(フシン)可汗と結婚しました。

歩離人の伝統では、首領の配偶者は百官の長の役割を果たすことがほとんどでした。当時、月里火は腥風猟群で第二の権力者となったのです。

8032年、月里火は子どもを生み、「斥露巫(ジルグ)」と名付けました。順当にいけば、斥魯巫が猟群の次の首領になるはずでした。

しかし、斥露巫が5歳になった年、変事が起こってしまいます。

忽辛可汗はすでに400歳を超えていましたが、それまで子どもがいませんでした。そのため、通常の継承順序に従えば、可汗の位は次の「都藍の血筋の子孫」――忽辛可汗の甥、可博(カボ)のものになるはずでした。

しかし、斥露巫の誕生によって、その計画は破綻してしまいます。猟群を継承するために一生をかけて準備してきた可博は、その権力を取り戻すため、自分に忠誠を誓う3,000の獣艦を率いて、首領のいる巨大獣艦を襲撃しました。

忽辛可汗は反撃する間もなく、可博に買収された近衛兵に暗殺されました。そして可博の次のターゲットは、当然ながら月里火と彼女の息子になったのです。

幸い、月里火には一貫して彼女個人に忠誠を誓う艦隊「閉戻多」があります。わずか300の獣艦ですが、彼らは長年彼女に付き従って各地で略奪をしてきた信頼の置ける者ばかりでした。

月里火と彼女の艦隊は可博の包囲網を無理やり突破して脱出することに成功しました。しかし、イナゴの群れのように猛烈な勢いで追いかけてくる獣艦艦隊が相手では、わずか300隻しかいない月里火が逃げるのは不可能に近い状況でした。

しかし、それからほどなくして「可博可汗」は追撃を止め、腥風猟群に戻り、そのまま新たな首領となりました。月里火はその追撃からどう逃れたのかを語りませんでした。ただ1つわかっていることは、彼女の1人息子である斥露巫が逃げる途中、命を落としてしまったことです。

8038年、月里火は「閉戻多」(127人生存)を率いて方壺にやって来て、同盟に帰順する決意をしました。

2年にも及ぶ長い議論の末、同盟は彼ら歩離人の罪を許し、厳しい監視のもと、方壺に住むことを認めました。そして、歩離人に関する同盟の各種研究に協力し、獣艦に関する技術を全面的に提供するようにという条件も課します。

私はその時期に月里火と知り合いました。文化人類学者である私は、127名の歩離人に聞き取り調査を行い、歩離の社会に対する理解を深めるように命じられました。

研究を進めていく中で、私は月里火と深い友情を結びました。彼女は賢く、率直で、勇敢な戦士であり、歩離社会の複雑な構造を簡潔かつ明確な言葉でまとめることができました。

可博に対する憎しみからか、月里火はいつも「閉戻多」を率いて同盟のために戦いたいと言っていましたが、そのような要求は当然認められませんでした。

月里火は何度も頼みましたが、そのたびに却下されました…30年後、彼女はついにその繰り返しに耐えられなくなり、私に助けを求め始めました。

私は彼女に、長文の手紙を書くように提案しました。その中で自分の生い立ちを詳細に語り、なぜ敵を憎み、同盟のために戦いたいと願っているのかを、七天将に伝えるよう言ったのです。その時、私個人の名誉をかけて彼女の保証人になるつもりでした。

2年後、彼女はこの『帰正本末』を書き上げます。

本当に運命のいたずらかもしれませんが――その手紙を書いてからしばらくたった8072年、第3次豊穣戦争が勃発しました。

方壺は主戦場となり、たちまち血の海となりました。追い詰められた状況下では、もう誰も月里火を気にかける余裕はありませんでした――そこで、「閉戻多」は同盟の許可を得ることなく最後の出撃を敢行します。

「閉戻多」が戦争でどれほどの豊穣の忌み物を倒したかは知る由もありません。しかし、確かなことは、彼らは帝弓の光の矢が現われる前に、少なくとも4,000人の一般人を安全な場所に移しました。

しかも月里火を含む127名の歩離の戦士は、全員がその過程で命を落としました。

月里火自身の難しい立場と彼女の否定しようのない過去の罪のため、これまで彼女の物語は歴史の裏に隠され続けてきました。そのせいで、『帰正本末』はいつまでも出版の機会を得られなかったのです。

私は『帰正本末』の出版に向けて長年奔走し、いつの日か彼女の物語が今日のように読者の皆さんに読まれることを願ってきました。

これは学問とはほとんど関係がなく、私の個人的な願望にすぎません。私の友人月里火を皆さんに紹介したいのです――

彼女は罪深い豊穣の忌み物であり、貪欲な強盗であり、手を血に染めた罪人です。
そして、認められることのない仙舟人であり、勇敢な戦士であり、血の涙と怒りに満ちた母親でもあります。

羅浮善宏学宮文化人類学博士
宗光

強きを尊ぶ:歩離文化の考察と弁明

羅浮の学者宗光が書いた提案書。しかし、奇妙なことに、提出先は羅浮の六御ではなかった。

強きを尊ぶ:歩離文化の考察と弁明

十王に上申する:

私は羅浮善宏学宮の文化人類学博士、宗光と申します。

この度、羅浮を無断で離れ、白狼猟群に加わった彦遊(げんゆう)はたしかに私の門下生です。彼が同盟を裏切り、「白狼」となったことにつきましては、私にも責任があります。この過ちを深く反省し、処罰を受ける所存です。

しかし、彦遊の行動は驚くべきことではないことも認めざるを得ません。歩離人の「野蛮」な生活様式は、「文明」の中で暮らす多くの人々にとって、ある種の致命的な魅力を持っています。

実際、第三次豊穣戦争が終結し、歩離人がもはや大きな騒動を起こせなくなった今、私たちとしても過去に語れなかった話題に向き合う準備が整ったのかもしれません。すなわち、歩離人は本当に「野蛮」なのかということを。

148年前のことが思い出されます。私は恩師である介廉先生に付き従い、当時犀犬猟群の領地だった「毘舎闍(びしゃじゃ)」という惑星に行きました。

私たちはスターピースカンパニー担当者として、犀犬猟群の創設者、只里古(ジリグ)可汗と会見し、「毘舎闍」で6星暦月に渡って生活しました。

それは私たちにとって、初めて本当の意味で歩離人と対等に交流した経験――敵でも捕虜でも奴隷でもありませんでした。介廉先生のような歩離学の大家ですら、そのような機会は初めてだったのです。

歩離人の首領に対して抱く通常の印象とは異なり、只里古可汗は生まれつき弱々しい歩離人でした。強き者が尊ばれる歩離人の社会では、そのような肉体は間違いなく生まれながらの欠陥と見なされます。

只里古可汗は苦手な道を無理して進むのではなく、別の道を選びました――それは技術研究です。彼は自分と同じように「古い戦闘技術」が苦手、あるいは学びたくない歩離の青年たちを率い、自身の戦闘能力を高める新しい武器の研究を始めました。

100年も経たないうちに、只里古可汗は外骨骼動力鎧をまとった歩離人たちと共に独立し、「犀犬」という名前の自分の部族を作りました。

今日に至っても多くの歩離人は、犀犬猟群が父狼都藍が創り上げた神聖な生活様式を裏切ったと考えているようですが、肉体的な弱さを理由に彼らを軽視する者は1人もいません。

歩離人の文化についての私たちの典型的な誤解は――歩離人が「強きを尊ぶ」ことを信条としているため、最も強い戦士しか評価されないというものです。

実際にはそれほど単純ではありません。たしかに歩離人は「強きを尊ぶ」ことを信条としていますが、「「強さ」に対する彼らの判断は簡単なものではなく多様なのです。

歩離人にとって何が強さなのでしょうか?呼雷のように一騎当千の実力を持っていることでしょうか?それはたしかに「強さ」です。只里古可汗のように聡明であることでしょうか?それも強さです。鑿歯猟群(さくしりょうぐん)の遺伝子祈祷師たちのように、武器や獣艦の育成に長けていることでしょうか?それもまた強さです。

「毘舎闍」で暮らした6星暦月の間、私は歩離の社会の多様化した評価体系を発見しました。それは彼らの社会生活を抑圧しないどころか、むしろ活力に満ちたものにしていたのです。

たしかに伝統的な歩離の社会では、商人や農民のような職業は軽蔑されます――実際、歩離の社会ではこの2つの職業はほとんど必要とされていません(比較的「新しい」犀犬猟群を除く)。私のかわいそうな友人アハマも、当初は商人になりたいと考えていたがために、故郷では虐げられていました。

それ以外のほとんどの職業――戦士、策士、獣艦使役者、医師、遺伝子祈祷師、祭司、吟遊詩人などは等しい社会的地位を持っています。

たとえ最強の戦士であっても、体の弱い天才的な老詩人をむやみに嘲笑することはできません。もし戦士がそのようなことをすれば、歩離人の評価体系では、彼は「強者を尊ぶことを理解していない」と判断され、軽蔑の対象になるからです。

一方で、歩離人の「強きを尊ぶ」信仰は、「英雄は出身を問わず」を実現させています。歩離人であり、「長生の主」を心から敬う(この点には疑問の余地あり)限り、どれほど身分の低い出自であっても、自分の強さによって成り上がっていき、歴史に名を残すことができます。

大夷離菫(だいいりきん)(歩離語で「最高武官」の意味)の叱力延(しつりきえん)は、大夷離菫に昇進するまで、只里古可汗が偶然買った貧弱な戦争奴隷にすぎませんでした。うわさによると、只里古可汗が彼を買ったのは、幼い頃の自分の姿と重なったからだそうです。

当時の私たちの概算によれば、「毘舎闍」だけでも、叱力延のように戦争奴隷から実権を持つ高官に上り詰めた者は14人いました。これは只里古可汗本人が進歩的な考えの持ち主であったからです。そして、歩離の社会が出自よりも能力をはるかに重視する特徴を十分に表しています。

今では我々が口にしようとしない白狼猟群も、その証左になるのではないでしょうか?狐族の奴隷が反乱を起こし、新たな猟群を作りました――彼らの「奴隷の血筋」を理由に攻撃する歩離人はおらず、むしろ大多数は「白狼」たちの残酷なやり口を恐れています。

このように「強きを尊ぶ」と同時に多様な評価体系を持つ社会は、実際には非常に効率的な意思決定をする体系を生み出しているのです――能力なくして地位を長期間守れる者はおらず、過去の栄光で一生安泰に暮らせる者もはいません。軍事議会で決定権を持つのは、どのような時も真に才能のある歩離人なのです。

私の弟子、彦遊の話に戻りましょう。彼の両親は文化人類学を「仕事に繋がらない学問」と考えていましたが、彦遊が人類学を学ぶと主張したために、彼を勘当してしまいます。しかしながら、数々の困難を乗り越えて学宮に入った彼は、「学術の大家」(私を含む)には1人の例外もなく、数千年の歴史を持つ「学術の家柄」出身者しかいないことに気づいたのです。

このような人物が、能力だけで英雄を見極める歩離の文化に魅力を感じ、極端かつ誤った道に進んでしまうことは、驚くべきことでしょうか?

もちろん、それでも彼のことを愚かだとは思っています。歩離人にとって、おそらく「人類学」は無意味な学問でしょう。もし歩離人が文化人類学を少しでも尊重していたなら、介廉先生を殺めることなどあり得なかったでしょうから。

しかしながら、十王をだまそうなどという気はありません――私も歩離人のこの社会文化を認めています。呼雷が捕えられ、歩離の帝国が崩壊した今、かつての純粋な「強きを尊ぶ」文化も消えつつあります。新世代の歩離の貴族たちは、人材登用の考えが「文明」寄りになりつつあり、自分の政治的「基盤」をより重視し、猟群全体の盛衰を顧みなくなっています。

しかし、仙舟同盟にとってこれは過去の思想的な重荷を捨て、「野蛮」から学ぶ絶好の機会です。仙舟社会に蔓延する停滞感は、「強きを尊ぶ」文化によって一掃されるかもしれません。

羅浮善宏学宮博士 宗光

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曜青新兵一般教養マニュアル:歩離猟群概説

仙舟曜青の兵士用一般教養教材。

曜青新兵一般教養マニュアル:歩離猟群概説

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第三次豊穣戦争の後、歩離の政治的版図は極めて不安定な状態が続いており、現在も把握できていない小規模な勢力や、新たに形成されつつある強力な派閥が多数存在している。そのため青丘衛の斥候兵団は、雲騎軍戦士たちの参考となるように、歩離人に関する情報を要約して整理した。

現在、歩離の世界は主に六大猟群によって統治されている――蝕月猟群(しょくげつりょうぐん)鑿歯猟群(さくしりょうぐん)玄爪猟群(げんそうりょうぐん)腥風猟群(せいふうりょうぐん)犀犬猟群(さいけんりょうぐん)白狼猟群(はくろうりょうぐん)である。

蝕月猟群
蝕月猟群は最も戦闘に長けた略奪者である。その創始者は神の肉を食べたと主張していたため、「食神狩人」と呼ばれている。この猟群の歩離人は、月狂いの祝福を最も多く受けていて、彼らが「月狂い」に陥ると暴走して発狂状態になる。彼らはこれを「赤月の怒り」と呼ぶ。

蝕月猟群の伝統により、彼らは異なる種族の肉を摂取するため、非常に高い変異率が特徴となっている。彼ら自身の肉体は絶えず進化を繰り返す遺伝子機械のようで、異種族の生体情報フラグメントを補充することで自らを強化している。蝕月猟群と交戦する際は、戦場の清掃作業を徹底し、戦友の遺体を戦場に残さないようにすること。これは名誉や感情の問題だけでなく、必ず守るべき規律である。

鑿歯猟群
歯猟群は戦闘よりも遺伝子祈祷術に長けている。歩離人が日常的に使用する器獣や武器の技術のひな型は、ほとんどが鑿歯猟群の遺伝子祈祷師たちによってつくられたものだ。

内戦が最も激しい時代であっても、鑿歯猟群を攻撃しようとする猟群はなかった――この遺伝子祈祷師たちを攻撃することは、歩離人全体の怒りを招き、他の猟群からの攻撃を受ける可能性があったからだ。仙舟曜青は幾度となく鑿歯猟群への攻撃を、他の歩離部族に責任転嫁することに成功しており、この戦術は大規模な内紛を引き起こした。

鑿歯猟群の複雑な生物学的技術にもとづき、青丘衛は博識学会の協力のもと、彼らが散布するほとんどのウイルス兵器に効果的に対抗できる拮抗薬を短期間で開発した。上陸作戦の前にこの薬、または同様の製品が配備されていることを確認すること。

玄爪猟群
玄爪猟群は歩離人の傭兵であり、どのような戦闘でも彼らに遭遇する可能性がある。彼らは極めて高い忍耐力とステルス性を持ち、狩猟、暗殺、恐怖を与える戦術に長けている。

彼らは他の歩離人よりもはるかに優れた嗅覚を持っていたため、極めて効率的な嗅覚による言語を発展させ、それを使って協力し、狩猟を行う。そのため、玄爪猟群を相手にする場合には、嗅覚による連絡を断つことが有効となる。青丘衛がとれる現時点での対策は、妨害用臭気とアンチフェロモンを撒くことだ。出撃前に、少なくとも対魅了製剤(通称「香水」)を1人2単位以上所持すること。

腥風猟群
腥風猟群は歩離人の中で最も優れた獣使い兼占星術師である。彼らは最大規模の獣艦艦隊を有しているため、部族全体で迅速に移動することが可能だ。その卓越した機動性により、彼らの本拠地を正確に見つけることはほぼ不可能である。一方、彼らは常にこちらに対して襲撃や略奪を行うことができる。

歩離の帝国が完全に衰退する時代において、腥風猟群は同盟が将来最も扱いに苦労する歩離人派閥となる可能性が高い。

(文章の下側に生体認証マークがついており、飛行士訓練コースの申し込みページへのリンクが表示されている。しかし残念ながら、あなたでは開くことができない)

犀犬猟群
犀犬猟群は現時点で最も若い猟群である。狩猟を主な生活様式とする歩離人にとって、犀犬猟群は異端だ。彼らは自分たちが支配する星で農耕や念入りに作業することを好み、防衛を得意とする。

その文化的特性にもとづき、犀犬猟群は商事に長けており、「どちらかというと平和的」な行動を取る。これにより、彼らは一部の派閥(カンパニーなど)と「どちらかというと平和的」な関係を築き、交易を行っている。

生命科学に夢中になる大多数の歩離人とは異なり、犀犬猟群は肉体を強化する鋼鉄科学の研究を好んだ。成年の儀を終えると、犀犬猟群の青年は最初の動力鎧を手に入れる。これも彼らが「犀犬」と呼ばれる理由だ――これは歩離の神話の中で無敵の防御力を誇る神獣の名前である。

多くの歩離人は、犀犬猟群が父狼都藍が創り出した神聖な生活様式を裏切ったと考えている。しかし、若い歩離人の中には「犀犬こそが未来である」と考える者もいる。

犀犬猟群の者は時折交渉相手になることがあるが、過度な期待を抱いてはならない。歩離人はやはり歩離人であり、こちらが怯えたり負傷したりすれば、彼らは本性を露わにし、襲ってくるだろう。

白狼猟群
白狼猟群は現在の六大猟群の中で最も特殊であり、最も邪悪な猟群かもしれない。彼らは歩離人ではなく狐族が指揮する唯一の歩離猟群である。猟群内の狐族は自らを「白狼」と呼ぶ。

700年以上前、同盟が呼雷を生け捕りにし、歩離人は激しい内戦を繰り広げた。そして混乱に乗じて、部の狐族奴隷が反乱を起こす。その大規模な奴隷の反乱の中で、「白狼可汗」を名乗る奴隷の首領が自分の主を斬り、その猟群のいた惑星を占領した。歩離人はこの反乱を鎮圧することができず、「白狼可汗」の王国はそのまま続いた。

現在、狐族が統率する白狼猟群は、すべての歩離人猟群の中で最も残忍な行動を取る猟群とである。彼らは再び奴隷になる運命を免れるために、このような改宗者の扇動的な熱意によって「歩離人以上に歩離人」らしくなっているのだ。

白狼猟群の最も一般的な戦術は、接近戦の中で狐族の同胞を弾よけとして先に突撃させ、こちらの兵士の感情を乱すというものだ(この戦術は他の猟群でも見られるが、白狼たちが最も頻繁に使用する)。さらに、戦闘中に仙舟の狐族に変装し、青丘語で「手を出すな、味方だ」と叫び、雲騎軍を欺いて二の足を踏に、戦闘中に仙舟の狐族に変装し、青丘語で「手を出すな、味方だ」と叫び、雲騎軍を欺いて二の足を踏ませ、その隙に攻撃を仕掛けるという手もよく使う。

変装、諜報、後方での暗殺を得意とする白狼猟群の特性により、曜青の雲騎軍は狐族の兵士に対して精神鑑別試験を定期的に実施している。もし狐族である場合、精神鑑別認証を定期的に更新し、軍務庁が随時状況を把握できるようにすること。

さらに、白狼猟群と交戦する際には、いかなる投降も受け入れてはならない。捕虜も受け入れないようにすること。また、自分や仲間が生きたまま「白狼」の手に落ちることがないように注意すること。彼らと戦う時には必ず矢、または銃弾…あるいは自分を殺すのに十分な武器を必ず残すようにすること。

丹輪寺
歩離帝国が崩壊した後、「丹輪寺」という名前の新しい派閥が現れた。

丹輪寺の信徒は、いかなる生物であろうと傷つけることを拒み、救済の道をある種の宗教的思想のようなものとして信じている。この歩離人たちはいつまでも続く豊穣戦争に反対し、同族の内紛に動揺していた。彼らは青丘の伝統である「狼神と狐神」の神話を改めて評価し、現在の混乱の源は「豊穣」と「巡狩」の力の均衡が崩れたことにあると考えている。

現在、丹輪寺には約1万人の僧がいる。その大多数は歩離人であり、一部は他の種族の豊穣の民だ。丹輪寺の僧の保護により、戦争に疲れた豊穣の民は一息つく場所を手に入れられた。

丹輪寺の僧は識別可能な明確な特徴を持っている。彼らは全員が金属で作られた戒環を持ち、それを身体のどこかに装着している(たとえば頭や首など)。これによって戒律を守り、殺生をしないということを象徴しているのだ。

「殺生をしない歩離人」という概念は信じがたいが、現在の記録によると、この派閥はたしかにその信条を守っているようだ。軍務庁は故意に丹輪寺の僧侶を傷つけることを厳しく禁じている。違反者は故意に民間人を傷つけたものとみなされて処罰される。

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スターピースカンパニー羅浮駐在オフィスからの届出

カンパニーの専任担当からの苦情。書かれている文字は綺麗だが、行間から不満が見え隠れしている…

スターピースカンパニー羅浮駐在オフィスからの届出

天舶司の接渡庁および互市庁の担当者殿
スターピースカンパニーを代表し、この度の羅浮天舶司による我が社の輸送物資に対する不当な押収に対し書面にて抗議する。また、この機会を借りて本件の深刻さと弊社の立場を明らかにし、貴庁が本件を重視し、即刻適切な措置を取ってくださることを願う。
今月上旬、弊社の物流輸送部に所属する輸送船ニューロンテネオン号は、本来クリムト立憲国辺境の戦場へ輸送を行う計画であった。ところが羅浮の航路を通過する際、輸送船が歩離人の獣艦に襲撃されてしまった。幸いにも朱明使節艦の協力により難を逃れたのだが、弊社と仙舟同盟が締結した『商業貿易安全強力枠組みに基づく相互支援緊急対応策および商業貿易促進協定』における緊急時の危険回避に関する項目に基づき、襲撃された艦船は羅浮の港での停泊を余儀なくされた。
艦船と貨物は仕方なく一時的に停泊をしただけだったが、貴庁の天舶司は断固として貿易輸出入貨物に関する詳細なデータ情報の提供と、検査の実施を要求してきた。弊社社員は交渉を重ね、その貨物が弊社の知的財産、商業機密に関わる重要物であることを繰り返し強調したが、貴庁は一貫して強固な態度を取った。こうして貨物は滞留したばかりか、開封検査まで命じられた。貴庁は弊社の提出した合理的な説明を明らかに無視し、そして職権を濫用し、双方のビジネス規範に関する合意に完全に背いている。
お聞かせ願いたいのだが、貴庁にとって職権の濫用、他国企業の貨物の強制押収は日常茶飯事なのだろうか?ビジネス規範を遵守する弊社は、権力を濫用するこのような行いを目の当たりにし、羅浮全体の管理水準、法治観念にただただ失望するのみである。
本件に関し、弊社を代表して貴庁に以下の通り要求する。
1、天舶司は輸送船ニューロンテネオン号のすべての貨物をただちに返還し、出港日をただちに定めること。
2、滞留期間中に生じた一切の経済損失を算出し、賠償すること。
3、今回の滞留事件のために被ったイメージの低下を挽回するよう公式に謝罪を行うこと。
双方が直接コミュニケーションを取って協議することで、この度のいさかいを早急に、そして合理的に解決し、不必要な法的対処、および双方の商業貿易関係を損なうネガティブな影響が生じずに済むよう、心より願っている。貴庁においては、本件を重要視されたい。
以上

スターピースカンパニー特派員リンドン・スコート

仙舟「羅浮」演舞典礼案内

演武典礼と競鋒艦に関する案内

仙舟「羅浮」演舞典礼案内

序文

ご来賓の皆さま、今回の星天演武典礼の開催地――仙舟「羅浮」洞天上空に停泊する競鋒艦へお越しいただき、まことにありがとうございます。

ご存知の通り、星天演武典礼は仙舟同盟の伝統的な武道の祭典です。元々、演武典礼は帝弓の司命の指導のもと、雲騎軍が仙舟を守り、寿瘟を掃討したことを記念するために設立されました。仙舟の雲騎軍は精進を重ね、互いに競い合うことで、かつての英雄たちを讃えているのです。

時が流れ、星天演武典礼の概念は競技や祭典にとどまらず、1つの絆となりました。演武典礼を通じて、我々は世界の距離を越えて銀河各地から多くの猛者を招き、戦いの意志と同盟の大切さを示しています。

本日、ここで武芸者たちの実力と仙舟の姿をご覧いただけます。

試合会場の概要

今回の星天演武典礼の開催地「競鋒艦」は、第三次豊穣戦争時代に使用された戦闘艦です。同クラスの戦闘用星槎の中で、競鋒艦は大勢の雲騎軍の英雄を戦場に送り出し、方壺の戦いやサキンシャド突撃戦、カラリク虫災などの有名な戦いで、近接航空支援を行いました。

数々の戦果と傷を残し、競鋒艦は退役しました。そして、新しい姿で観光客を迎えるため、工造司の職人たちがその装甲を外しました。数カ月にわたる改造の末、競鋒艦のキャビンは選手の控え室や観客の観戦エリア、飲食エリアとなり、また、メディアの配信や来賓のもてなしといったエンタメ商業イベントの開催など、さまざまなニーズに対応できるように設計し直されました。

試合会場:激情と技術の衝突

観戦エリアと決勝エリアは艦の中央の巨大なオープンデッキに位置します。改造により、元のキャビンとデッキエリア下層にはサブ会場が設けられ、観客全員が熱戦の迫力を間近で体感できるようになっています。

サブ会場にはグラウンドフロア内部の環状ルートや駐機場、他にも多数の機能的な部屋があり、医務室、トレーニング室、休憩エリア、娯楽室も完備しています。これによって、選手たちが試合の合間に最適な休息とトレーニングを行えるようになっています。

試合観戦とレジャー:それぞれの瞬間を楽しむ

艦内各階に配置された観戦エリアは、死角のない視界で試合を見られるだけでなく、快適な座席とリアルタイムデータ分析スクリーンも備えています。観客は視覚的に楽しめるのと同時に、試合の詳細を深く理解できます。また、VIPルームやメディアエリアも備えており、さまざまな人の需要に対応しています。

艦内には休憩エリアと飲食エリアも設けられていて、銀河各地の特色あるグルメが提供されています。さらに金人巷、長楽天など、多くの飲食店が提供する羅浮の飲食エリアは、観戦の合間に心身をリラックスさせ、交流を楽しむのに理想的な場所です。

大会期間中、「競鋒艦」では文化交流会や選手との交流会など、特別イベントも開催されます。詳細は運営のお知らせをご確認ください。

艦の秘密探訪:歴史の反響

艦首の歴史展示ホールに入ると、ホログラフィック映像と実物展示品を通じて、羅浮天舶司の歴史、そして「競鋒艦」の建造から運用、退役後の再生に至るまでの輝かしい過去が紹介されています。この星の大海原で、新たな伝説がどのように作られるのかを見届けましょう。

コントロールセンターは軍事指揮の役割を担わなくなりましたが、内部には元の制御パネルと戦略星図が残されており、訪問者が艦長になりきり、その場にいるかのように戦略をめぐらす体験ができます。

開放時間

大会期間中は毎日システム時間4時から16時まで観戦エリアが開放されています。特別イベントや夜間のライトショーについてはお知らせをご確認ください。

チケットの購入方法

公式サイトでの事前予約、または指定の購入ポイントでお買い求めいただけます。チケットをお持ちの方は完全ガイドツアーや、特定エリアでの観戦をお楽しみいただけます。非公式の販売ルートにはくれぐれもご注意ください。

アクセス

長楽天などの地域には専用のシャトル星槎があり、「競鋒艦」下方のシャトル用プラットホームに直行します。自家用の乗り物は天舶司に登録した上で指定区域に停めてください。

安全のために

艦内にいるすべての人の安全を確保するため、見学時は必ず指示標識や係員の指示に従ってください。また、許可されていない機器には触れないようにしてください。

最後に、今回の星天演武典礼で主催者の誠意と気持ちを感じていただけますと幸いです。よい旅になることをお祈りしております。

星天演武典礼実行委員会

羅浮司鼎上六御書

羅浮の新任丹鼎司司鼎が提出した公文書

羅浮司鼎上六御書

この書簡を以て、丹鼎司の最近の改革と計画について報告いたします。

丹枢の乱以降、羅浮丹鼎司の評判は失墜し、人々は動揺して、外部からも非難の声が多くあがっています。私は羅浮の司鼎として、丹鼎司を導いて苦境から脱するため、3つの措置を講じたいと思います。

1つ目、これまでの羅浮丹鼎司の閉鎖的な体制が腐敗を招いたと考えられるため、門戸を開放し、同盟や殊俗の民の著名な医士を招いて交流を行います。また、司内の医士と丹士が外で学ぶことを奨励し、診療手段を多様なものにします。

2つ目、朱明仙舟の行香術を導入、ならびに伝授し、羅浮丹鼎司の治療手段の1つとします。豊穣の忌み物と戦う前線の兵士は、戦争の傷による影響を受けやすく、戦時、および戦後に「魔陰の身」に堕ちる割合が一般人よりも高いです。「薬王秘伝」も当該集団を誘惑の対象としています。朱明の治療法は揮発性のある薬で患者の気持ちを落ち着かせ、身体の状態を整えることを重視しており、「魔陰の身」の進行の遅延、抑制に顕著な効果があります。

また、丹鼎司に特別研究チームを設立して薫香療法の構造を深く分析し、羅浮の医術と融合させ、調合および操作手順を改善することで、安全かつ効果的なものにします。今後、丹士を前線に派遣して雲騎軍の負傷者を救助し、前線に薬品提供、ならびに医療研修を施し、丹鼎司に対する人々の偏見を改善します。

3つ目、丹鼎司は他の部署との連携を強化し、各司に職員を派遣して業務を支援し、互いに補完します。具体的に、天舶司への支援に関しては、域外からの旅行者に多い疾患に関する医療研修を行います。地衡司の支援に関しては、各洞天の住民を対象とした対面診療を実施し、医療の負担を軽減します。

以上の措置を以て、丹鼎司を他の各司と協力させ、羅浮全体の信頼を取り戻せるようにしたいと考えております。

敬具

丹鼎司司鼎霊砂

丹輪寺問題に関する意見書

丹輪寺の僧侶からの陳情に対する回答

丹輪寺問題に関する意見書

仙舟「羅浮」と丹輪寺の間に正式な外交関係が結ばれて以来、丹輪寺の問題をどのように扱うべきか、各司の間で常に議論になっています。

私は地衡司を代表して、各司、および十王司に改めて意見を表明します。丹輪寺とこれ以上の協力は断じてするべきではなく、さらにはその同盟を結成するという甘い考えはただちに放棄すべきです。

ここ数日の会議で、多くの同僚が地衡司の判断に不満を抱き、そして、そのことで私を薄情な人物だと思っている者さえいます。私はこれ以上の誤解を避けるため、自身の理由を明確に説明する必要があると考えました。

1つ、現在丹輪寺と外交関係を結んでいる仙舟は「羅浮」だけです。遠く離れている同胞や、長いこと世間との接触を避けている同胞は別として、「曜青」や「朱明」がこのことについて判断を下す前に、我々は勝手に丹輪寺とこれ以上親交を深めるべきではありません。

2つ、第三次豊穣戦争が終わってからわずか30年しか経っておらず、「豊穣の民」という言葉は多くの仙舟住民にとって、依然として憎しみと悲惨さを意味しています。狐族と歩離人の1,000年におよぶ殺りくの被害は言うまでもありません。これらは数1,000人の僧侶が短期間で変えられることではないです(たとえ彼らが、本当に非常に純善な人々であったとしても)。

3つ、丹輪寺と同盟を結んだ後、彼らはあの荒れ果てた寺に孤立して住むことを望むでしょうか?たとえ望んだとしても、同盟結成後は豊穣の民の憎しみの的になるでしょう。我々は彼らをそのまま住まわせておいて、平然としていられるでしょうか?それは仙舟の礼儀に反します。

彼らを羅浮に住まわせた場合、彼らの文化習慣や信仰生活をどう扱えばいいのでしょう?許可しないつもりでしょうか?それも、仙舟の礼儀に反します。

しかし、もし許可すれば、彼らは当然自分たちの信仰に従い、各戦場から忌み物を連れてきて寺院の中で感化させることでしょう。寺院が宇宙を漂っているならば、そのような善行は我々には関係ありません。ところが、その寺院が「羅浮」にある場合、そうした忌み物が寺院から逃げ出して街で暴れないと保証できる人などいるでしょうか?誰がその責任を負うのでしょうか?

彼らの生活に適切な手配をする自信がないのであれば、その考えを今すぐ捨てた方がいいでしょう。

4つ、皆さんはご存じないかもしれませんが、博識学会の調査結果によると、丹輪寺の涅槃殿に奉納されている1万3千体の「金身」は、生物学的にはまだ「生きている」そうです。

これらの「金身」は条件がそろったときに目覚めるかどうかはわかりませんし、ましてや彼らが目覚めた時に「悟りを開いた高僧」になるのか、「豊穣の忌み物」になるのかすらわかりません。

以上のことから、私は地衡司を代表して、改めて意見を強調します。丹輪寺とのこれ以上の協力は断じてするべきではなく、さらにはその同盟結成という甘い考えをただちに放棄すべきです。

地衡司司衡、恵父より

演舞典礼・演舞台秘話

無名の記者が書き残した大会に関する原稿。真偽のほどは定かではないが、大勢の選手の大会での驚くべき事績が、目を見張るような表現で記載されている……

演舞典礼・演舞台秘話

仙舟の演武典礼では、これまで英雄豪傑が現れてきた。しかし毎回大会が終わると、勝者は有名になって街の話題になる一方で、他の出場者たちは忘れ去られてしまう。これは実に悲しいことだ。

筆者は武人ではないが、英雄たちの戦いを見て、感銘を受けてきた。演武台での物語が時の流れに埋もれ、忘れ去られるのは筆者の望むところではない。そこで、筆を動かして記録し、後世に先人たちの活躍を伝えることにした。

1.中性子の剣客

無名の剣客で、3尺の長剣を2本背負って演武典礼に登場した。その宝剣は2つの中性子星で作られており、非常に硬く、鉄をいとも簡単に切り裂いた。身体と技術を極めた達人でなければ振るうことができないものだった。

まさに英雄が英雄を殺し、宝剣が宝刀に出会ったといったところだろうか。中性子の剣客は最初の試合で、白色矮星刀を手にした相手と対峙した。2人は剣の火花が散るほどの激しい戦いを繰り広げた。しかし予想外なことに、中性子星と白色矮星の激しい衝突によって、演武台に勢いのあるマイクロワームホールが形成されてしまう。そのワームホールは瞬く間に対戦相手を呑み込み、彼を宇宙の未知の領域へ転送してしまった。期待を寄せられていた剣客は、失踪した選手を見つけるよう大会運営者から命じられた。それ以降、彼は仙舟を離れ、遠い航海の旅に出ることになったのである。

その後どうなったのかをここに記すのは控えておこう。

2.スパイダーボーイのドドコニ

周知のように、演武典礼は仙舟人だけの大会ではなく、宇宙にも門戸が開かれ、殊俗の民の強者が大勢挑戦しに来る場でもある。筆者が思うに、今回の大会で最も注目を浴びた殊俗の民の武芸者は、スパイダーボーイのドドコニに他ならないだろう。

ドドコニは種族という強みと自身の努力により、8本の手で同時に8種類の異なる武器を操り、それぞれの武器に対応した技を駆使できた。演武典礼に出場するにあたり、ドドコニは銀河武術の宗師鬼洞子に師事し、8つの過酷な惑星で有名な武術奥義「八輪天」を会得したと言われている。演武台でその奥義に敵う者はいなかった。

しかし、ドドコニは最後まで勝ち残ることはできなかった。彼は自身の第4試合で倒れてしまう。理由は他でもない、テレパシー・スパイダーであるドドコニは、すでに「スパイダーオールドボーイ」になっていたからである。そう、彼は老衰によって死んだのだ!

3.虚空クジラのオーバ

演武典礼で最も観戦する価値のない選手といえば、虚空クジラ拳の当主オーバに他ならないだろう。仙舟古象形拳の伝承者の一人として、大会が始まる前からこの持明族の武術家は優れた実力と容姿で武術愛好家たちの間で大勢の支持者を集めていた。「誰も虚空クジラ拳を受け止めることはできない。もしできるなら、2発目を受け止めてみろ」というのが彼の決め台詞だった。

実際、オーバはその技を極限まで鍛え上げていた。同門の兄弟弟子の奇抜な技とは対照的に、オーバの戦闘スタイルはとても素朴で、虚空クジラ拳を繰り出し続け、純粋な強さ、気合、覇気のある拳で目の前の敵を簡単に倒していった。

筆者個人としては、武術は実用性だけでなく、ある程度の観賞性もあってしかるべきだと思う。しかし、オーバ選手は家庭の事情で試合を諦めざるを得なくなった。実に残念なことだ。

4.ダニールと金人14号

この2人を一緒に挙げる理由は、彼らがオムニックであるだけでなく、2人とも鬼洞子の最後の弟子であり、ともに相手の「次の技」をシミュレーションする特殊な能力を持っているためだ。2人は強力な計算能力によって試合中に驚異的な実力を見せつけ、順調に勝ち進み、ついに同門対決に至った。

試合では、ダニールが先に相手の次の技を推測し始めた。一方、金人14号も負けじと次の技に対処する相手の次の技を推測し始める。そして、ダニールは次の次の次の技を推測し始めた。そのようなことを繰り返しているうちに、オムニックたちは、結局次の技を繰り出すことなく、こう着状態に陥ってしまう。しびれを切らした大会運営者は、彼らを演武台から下ろすしかなかった。

仙舟側は、試合の決着がついていない2人の出場資格を次の演武典礼まで残すとしているが、筆者はたとえ1万琥珀紀経っても、彼らの対決は終わらないのではないかと思っている。これは古代の仙舟武芸者が言っていた

「同じ師匠から教わった者同士では、相手の技を破ることができない」ということなのだろう。

5.漫雲

星天演武典礼が開催されてから今日に至るまで、試合のルールは何度も改善されてきた。しかし、宇宙は広大であり、常識を超える状況は常に起こり、観客を板挟みにさせてしまう。筆者が無名の漫雲をこの記録に加えた理由もそれだ。

漫雲選手は、種族も年齢も不明だ。その化雲功法は、物質と意識の境界を曖昧にする特徴があり、修行者の実力が高いほど、その物質の存在はますます希薄になる。ここまで聞くと読者は、この漫雲選手は多くの猛者たちの中でも比較的奇抜な1人にすぎないと思うかもしれないが、話を続けさせてもらいたい。

最後の試合で、漫雲の功法はついに究極に達し、彼の肉体は失われ、完全な意識体となった。科学的に言えば――「ミーム」だ。物質を攻撃できないミームと、漫雲に接触できない対戦相手は、演武台で見つめ合うしかなかった。大会の規定によれば、ミーム体に出場資格はないはずだが、演武台に上がる前はミームではなかった場合はどうなるのだろうか?大会運営者は試合の勝敗を判定できなくなってしまった。

しかし、漫雲は特に気にした様子もなく、「ついに完成した!」と叫ぶと、演武台から飛び去り、その後二度と戻ってこなかった。

椒丘の再診報告書

曜青の策士、椒丘の身体的状況に関する診断書

椒丘の再診報告書

氏名:椒丘
性別:男性
本籍:曜青
種族:狐族

負傷狀況
1.首から胸にかけて大きな噛み傷があり、傷口は毒の影響で腐敗し萎縮している。大量出血により急性ショックを引き起こしている。鎖骨にはひびが入っている。
2.「頂躓散」を服用しており、これが血液循環の乱れを引き起こし、体内で大量の内出血が発生。神経機能が萎縮し、視神経が退化して機能的失明を起こしている。
3.肝機能、腎機能、リンパ、免疫系が毒素の影響で損傷している。
4.大量出血があり、造血機能が抑制され、炎症が認められる。
5.発見時、瞳孔が拡大しており、体温が低下していた。

診療方案
1.噬患虫を用いて傷をきれいにした後、薬を塗布して包帯を巻く。骨折した箇所には玉髄風骨散を用いて外側から固定する。
2.灸療法を用いて、魚際、中封、太衝、大椎など、大小36のツボを刺激し、行香術を併用して経絡を活性化し、毒素の代謝を促す。さらにウェンワーク水蛭を用いて、負傷者の臓器内にある残留淤血を吸い出させる。
3.持明族の龍尊直々の施術により、龍涎露滴を注射し、皮膚の再生を促す。
4.血を補い、傷口の再生を促す補助薬を服用し、体力を回復させる。傷口を密封した状態で薬湯風呂に浸かり、体から毒素を排出させる。

負傷者の現状
1.精神状態は良好で、睡眠と食事も比較的正常にとれる様子。時折、悪夢に悩まされることがあり、その場合は夢枝薫香を用いて精神を安定させる必要がある。傷の回復速度はやや遅れているが、感染はしていない。
2.各生理指標は正常。現在のところ、狼化の症状は一切見られない。
3.「頂躓散」の影響で血液凝固機能が低下しているため、鋭利な物に触れさせないようにしなければならない。
4.視力が著しく損なわれている。神経の損傷による目の器質的な病変が疑われるため、治療方法についてさらなる検討が必要。
5.現在の状態、および本人の意向にもとづき、基本的な退院条件は満たしている。

退院に伴う医療指示
1.狼毒の残留によって悪夢を見る場合は、精神集中系の香を用いて入眠を促すこと。
2.辛い食べ物は絶対に禁止。傷口の炎症を引き起こしたくなければ、食べてはならない。
3.傷口の回復状況を随時報告すること。帰郷の際には、曜青丹鼎司の協力を仰いで診察してもらうこと。

丹鼎司 霊砂