SVD

そもそも戦後ソ連は歩兵用の装備をAK、RPD、SKSといった、7.62x39mm弾を使用する銃器に統一する事を当初のドクトリンとしていた。

• しかし、短小弾である7.62x39mm弾はアサルトライフルには向いていたものの、機関銃や狙撃銃に使うには射程不足であることが中東戦争で露呈したため、SVDは西側の7.62x51mmNATO弾と同等の火力と射程を持つ7.62x54mmR弾に対応する次世代アサルトライフルとして、AKをスケールアップした汎用機関銃PKと共に開発が開始されている。
  • もっとも、強いテーパーと巨大なリムを持つ7.62x54mmR弾は戦前からソ連の自動火器設計者を苦しめてきた弾薬であり、AVS-36やAVTの失敗から反動の大きい7.62x54mmR弾のフルオート射撃が歩兵一人では扱えない事も目に見えていた。
    また、リムこそないものの同クラスの弾薬である7.62x51mmNATO弾も事情は同様であろうというのが東側開発者の統一見解であり、実際にこの予想は見事的中することとなる。
• こうした理由で本銃の存在意義は失われたかにみえたが、従来の狙撃銃とは一線を画した軽量かつセミオートによる速射能力を持つことから、山岳や市街地などの遮蔽物の多い地形で行う狙撃任務での有効性が認められた。これがSVDの将来を決定づけることになる。
  本銃を持った兵士は野戦小隊に随伴して立射ないし立膝射で比較的高い精度の射撃を機動的に行う事が可能であり、敵指揮官や機関銃手、通信兵といった高価値の目標の排除や、AKの射程外で待ち伏せる狙撃手または観測手へのカウンタースナイパーなど、野戦小隊における支援任務に最適な銃として生まれ変わったのである。
  こうしてSVDはAKを代替するのではなく、お互いの欠点を補いあう新たなカテゴリの武器としてアフガンや湾岸戦争で威力を発揮した。

動作機構はショートストロークガスピストン・クローズドボルトでローテイティングボルトを採用し、セミオート専用だが当初の設計の名残で射撃統制機構にフルオート用のシアーがある。

• これは軍用モデルではそのまま採用されたが、民間用輸出モデルのTigerでは問題となり規制回避のため銃剣用ラグと共に除去されている*2。
  • なお、ブルパップモデルSVUの派生OTs-03Aでは残されたシアーを利用してフルオート機能が復活しているが、やはり実用には至らなかったようだ。

• ストックはピストルグリップとストックが融合した独特のスケルトンストックで、チークパッドを上面に取り付けることで光学照準器に対応する。
  リアサイトはエレベーション式で1200mまでのノッチがあるが、実用的な距離は600mまでとされる。
  専用の光学照準器PSO-1も開発されており、4倍望遠のほかトリチウムや赤外線感知*3による夜間射撃にも対応する。
  • この照準器は東側諸国でコピーされたほか、のちに採用されたボルトアクション狙撃銃のSV-98にも採用されている。
• 東側狙撃銃の代名詞的存在で知名度の高い銃ではあるが、それゆえに誤解も多い。
  各種メディアなどでは臥せ撃ちする描写も多い銃だがそうした用途は想定しておらず、バイポッドも基本的に装備しない。
  また、射撃精度も特に秀でたものではなく、AKベースの動作機構をもつユーゴスラビアのツァスタバM76やルーマニアのPSLとも大差はない。
• 本銃の成果の多くは選抜された射手と照準器の能力によるものであるといっても過言ではなく、純粋な精密狙撃任務ではモシン・ナガンやSV-98といったボルトアクション式ライフルが使用されている。
  これは銃の優劣ではなく設計思想や運用から来る差異と言うべき物で、与えられた任務において必要な能力を備えた本銃は材質などのアップデートを重ねながらもいまだに現役であり、冷戦終結後も採用国は多く中国でもノリンコ社によって85式狙撃歩槍としてライセンス生産され人民解放軍が装備するほかNDM-86として輸出も行われている。
  また、イズマッシュ純正の民間用モデルTigerには.308Winchester弾採用モデルもあり、日本国内でも弾倉が5発以内かつライフル免許を取得していれば所持や発砲は原則可能である*4。
• 近年では後継モデルとなるSVChも発表されたが、こちらもPDWをベースとするなど従来の狙撃銃とは明確に異なる構造と設計思想を持ち、今後もSV-98との併用が続くと思われる。

【過去ログ】