VP9

• 戦後G3と共に華々しくデビューしたH&K社であったが、鬼門となっていたのが拳銃部門であった。グロック17に先駆けたポリマーフレームピストルであるVP70やガス圧作動式ディレイドブローバックのP7など独創的な製品群は一部のマニアには評価されたもののヒットと呼ぶには至らなかった。以降H&K社はメインターゲットをアメリカ市場に定めるが、最も好まれたのはM1911以来の伝統ともいえるショートリコイル・ティルトバレルと.45ACPであった。このためH&KはUSPを基幹とする信頼性の高いポリマーフレームピストルシリーズを完成させ一定の市場を確保したが、これらは重く高価でグリップが握りにくいなど民間、特に小柄な女性やアジア系の人々に不評であった。こうして誕生したP2000やその改良型のP30をベースに、撃発機構をハンマー式からVP70やP7と同様のストライカー式に回帰したバリエーションモデルがVP9である。
• 動作方式は先述の通りショートリコイル・ティルトバレルでストライカー式であることが最大の特徴で、弾倉はP30の13発とグロックに対抗した17発のダブルカラムマガジンの他、一部の国や州の規制に対応した10発のショートマガジンもある。バックストラップとグリップパネルもP30と共通で、射手の手になじむように交換、カスタマイズすることができる。
• グロックに酷似した3分割のトリガー中央を抑えないと発砲しないトリガーセイフティとファイアリングピンセイフティを持ち、ハンマーレスなためコッキング時にはフレーム後方のインジケータに赤いドットが突き出ることで識別できるようになっている。マガジンリリースはパドル式でトリガーガードの付け根にあるが、他メーカーの銃から移行したユーザーに配慮し左右にマガジンリリースボタンも備えており、撃ちきった後はホールドオープンする。マガジンが装填されてない状態ではトリガーを引くことができない。
• スライドのセレーションは冷却とコッキング時の滑り止めの効果があるとされており、銃身下部にはショートサイズのピカティニーレイルを備え汎用のタクティカルライトやレーザーポインタなどを設置可能である。
• このように21世紀のモダンな自動拳銃としての機能を一通り備え、戦略的な価格設定もあり徐々にシェアを伸ばしている。
  2020年には陸上自衛隊でグロック17を抑えて採用が決定し、「9mm拳銃 SFP9」として制式化された。このモデルは対塩水加工されたSFP9Mとされているが、より細かなカスタム化がなされたJモデルとの話もある。

【過去ログ】