アーカイブ/キャラクター/姫子

Last-modified: 2023-06-03 (土) 22:42:46

チャレンジ精神に溢れた科学者。彼女がまだ少女であった頃、故郷で座礁した星穹列車を発見した。
数年後、ついに列車の修理を終えた姫子は、それがただの始まりに過ぎないことに気付いた。新たな世界を「開拓」する旅路には、より多くの仲間が必要である——
たとえ同行者たちの目指す方向が違っていても、彼らは同じ星空の下にいる。

  • ストーリー詳細1
    少女は道に迷っていた。

彼女は自分がいつ方向を見失ったのかもわからないまま、ただひたすら歩き続ける。
何度も何度も、倒れるまで闇夜の中を歩き続け、太陽と月を追い求めた。

彼女は大学に入ったばかりの自分を思い出した。
自分が選んだ学科——星間航行動力学。
そして今、彼女は泥濘の道に横たわっている。

星空を見上げると流れ星が見えた。
1つ、2つ、3つ…そして無数の小さな星がチカチカと点滅したかと思うと、最後に壮麗な烈光が夜を引き裂いていく。

彼女の四肢は体を引きずり、彼女を陸地の果てに導いた。
そこは海の起点、海岸線。
座礁した列車を打つように、潮水は彼女を押し進める。
一人ぼっちで、道に迷ってしまった彼女を。

彼女が列車に足を踏み入れると、舷窓の外の景色が変わり始めた。
列車は色とりどりの景色を彼女に見せていく。
それは故郷から遥か遠い場所でもあり、列車に乗れば辿り着ける場所でもあった。

彼女は列車の修復を試みた。
それは短い時間しか動かなかったが、彼女を乗せて故郷の空を横切るには十分だった。
彼女は一目で帰り道を見つけた。
上空から見れば、その道はあまりにも近い場所にある。故郷の海さえもちっぽけなものに思えた。

列車は彼女に尋ねた、一緒に行くか?と。
一体どのような旅になるのか、彼女は興味が湧いた。

「それは始まりへ向かう旅」
「行くわ」少女は躊躇なく答えた。「私を家に連れ帰ってくれたように、今度は私があんたを家まで連れて行ってあげる」


  • ストーリー詳細2
    姫子はトランクを持っている。

トランクは彼女の宝箱だ。
以前は列車の修理に使う道具がぎっしり詰まっていて、彼女はそれを頼りに列車を修理した。
現在は単分子チェーンソー、軌道を逸脱した衛星、そして様々な機巧が詰め込まれている。
それぞれが彼女の奇想を具現化したものであり、彼女が歩み続けてきた証でもある。

彼女のトランクほど忠実な旅の仲間はいない。列車の乗客はしばしば変わる。
あの「車掌」でさえ、最後まで彼女と列車に同行できるとは限らない。

しかし彼女は気にしない。あの気取った金髪の男が、別れも告げずに列車を降りたことを気にも留めなかったように――

遠すぎる故郷や家族のことを気にも留めていないように。

彼女はこの旅が孤独であることを知っている。
たとえ旅の途中で志を同じくする仲間に出会ったとしても、たとえ旅の仲間から恩恵を受けたとしても、
たとえ仲間と共にひとつの旅の終点を見届けられたとしても

——それは彼女にとって単なる僥倖に過ぎない。

彼女はこの旅が孤独であることを知っている。
如何なる者も、他人と同じ軌跡を辿ることはできない。
如何なる者も、他人の代わりに旅路の風景を見ることはできない。
彼女が頼れるのは、自分の両目と両足だけ。

そして彼女は、その目で見たすべての景色と、その足で残したすべての足跡を、自分のトランクに収めるのだ。


  • ストーリー詳細3
    姫子は記憶力がいい。

旅が長くなり、仲間が増えても、彼女は常に多くの物事を覚えている。

彼女は覚えている。パムと気ままにおしゃべりした時間も、列車の最初の乗客がヴェルトと彼の金髪の仲間だったことも。
寡黙な丹恒が星を吞む巨獣を一撃で退けた姿も、明るい三月なのかが氷の中から目覚めた時のことも。
三月なのかのためにデザインした服も、彼女の最愛も。
そして、宇宙ステーション「ヘルタ」で開拓者に出会い、また新たな旅に出たことも。

彼女は覚えている。列車のあらゆる部品の仕様も、それらをどのように接続するのかも。
列車のベアリングに潤滑油を供給する周期も、列車の植物に水やりをする時間と頻度も。
パムには決して越えてはならない一線があることも、ヴェルトには少し子供っぽい趣味があることも。
丹恒が夜通しアーカイブを整理していることも、三月なのかは寝坊が大好きだということも。

列車組全員の性格、習慣、趣味、誕生日、そして他の記念日も。

もし彼らが列車に乗って自分の終点に辿り着くことができれば、姫子にとってそれ以上に喜ばしいことはない。

「旅には必ず終わりがある。その時が来たら、きっと笑ってみんなに別れを告げるわ」

いつもそう言っている姫子だが、彼女は決して忘れないだろう。

その記憶が彼女の歩んできた道を織り成し、やがて起点となった海に戻ることを。


  • ストーリー詳細4
    「本当に長い旅ね」彼女は言った。

「僕はずっと待っていた。とても、とても長い時間を」█████は彼女のほうを向いた。
「君をこの道に導いたのは不運ではなく、探求欲と好奇心だ」

「その通りよ」彼女は笑った。
「でも、私の経験はあなたに遠く及ばないわ」

「そうでもないよ。僕は君が経験したすべてを経験していない」█████は首を横に振る。
「歩む足の数だけ旅路があるんだ」

「今この瞬間、僕たちは同じ場所に立っているけれど、見るものや考えることには違いがある」

彼らは静かに星空を見上げた。
すると、流れ星が1つ、2つ、3つと横切っていく…
やがて、無数の小さな星がチカチカと点滅したかと思うと、最後に壮麗な烈光が夜を引き裂いた。

静かな声が再び空気を震えさせる。

「君には何が見えた?」

「星々が旅の終わりを迎えたわ」彼女は答えた。

█████は笑う。「でも僕から見れば、彼らの旅はまだ始まったばかりだ」

彼らは黙り込んだ。

「そろそろ帰りましょう。彼らが待ってるわ」

█████は沈黙する。そして口を開けた。「今までの旅は、幸せだったと思うかい?」

彼女はトランクを持ち上げ、振り返らずに列車のほうへ歩き出した。

「いつも通りよ」