アーカイブ/キャラクター/花火

Last-modified: 2024-02-29 (木) 14:39:18

「仮面の愚者」の1人。つかみどころがなく、手段を選ばない人物。
危険な演劇のマスターで、役作りに夢中になっている。千の仮面を持ち、万の顔を演じることができる。
富、地位、権力…これらは花火にとって重要ではない。彼女を動かせるのは「愉しいこと」だけである。

  • ストーリー詳細1

彼女は孤児だった。生きてこそいたが、自分がどこにいて、どこから来て、そしてどこへ行くのかも分かっていなかった——あるとき通りがかった、とある劇団の公演を見るまでは。遠く舞台の上で、黒髪ツインテールの少女が、まるで魚のごとく縦横無尽に泳ぎ回っている。様々なお面を着けていたにもかかわらず、彼女が笑ったり、泣いたりするさまは十分に見て取れた。舞台はあんなに遠いのに、まるで目の前にいるかのようだった。魚は音もなく跳ね、また水に入り、さざ波を立てる。

彼女は段々と、自分のしていることが分かってきた。「自分」は「舞台の下」で「演技」を見ているのだと。

彼女は朝も晩も、足繫く舞台に通った。とはいえ一人の観客にすぎず、スポットライトが彼女に当たることもない。そうしてあるとき公演の後で舞台裏に行くと、黒髪の少女にお面を手渡されたのだった。
「私にできるかな?」
「もちろん。お面をつけてれば、どうせ観客は『花火』だって思うし、実際そうだから。さあ、行って」

第四の壁となる幕が開くも、照明はまだついていない。舞台を見下ろすと真っ暗で、お面で顔を隠していてもドキドキしてしまった。彼女は、舞台が観客で埋め尽くされていると分かっていた。観客たちからは彼女が見えるし、声も聞こえている。彼女は常に「花火」の演技を思い浮かべ、動作や声、姿などあらゆる面で彼女を模倣しようとした試みた。

「初めてにしては、とても上出来だったわ」
「でも、君の『花火』とは…やっぱり違うよ」
「そうだとしても、誰かに知られなければ問題ないわ…それに劇団は明日ここを発つの。だからもしあなたが望むなら、ここではあなたが花火よ。あなたが思い描く通りの、ね」
黒髪の少女は、まだ何か言いたげな彼女の頭をなでた。
「あなた以外に、舞台を見に来てくれる人なんてそんなにいないわ。小さな劇団だし、銀河で有名になろうとも思ってない…偶然あなたみたいな子に出会えて、『花火』っていう役を覚えてもらえただけで、十分うれしいわ…このお面をあげるから泣かないで。これはあなたのものよ」
彼女はうなずいた。
「いい?お面をつければ、あなたは誰でもないし、誰にでもなれるの…本当に役者になりたいなら、こんな小さな舞台じゃなく、もっと大きな場所に行きなさいな」


  • ストーリー詳細2

人形族の末裔である彼女には選択の権利もなく、どんなお面を受け取ろうとも、それに従って生きるしかなかった。人形族は「お面」の媒体でしかないのだ。

言い伝えでは、人形族はお面と長く一体になるほど、魂を獲得して「人」に近づいてゆくとされている。しかし一方で、人間のあいだでお面は死者を生き返らせる道具だとされ——ゆえに、彼女たち人形族は数を減らしていた。

だが、人間になることに興味のなかった彼女にとって、型にはまった人形でいることも悪くはない考えだった。お面の言う通りにすれば、迫害の運命からは逃れられなくなってしまうが、それでもお面の意志には逆らうほうが困難だった。

まずは動作。
「お面」の意志に従い、うれしい時は甘やかに微笑み、泣きたい時は手で顔を覆い、怒っている時は歯を食いしばり、嫉妬している時はにらみつけ、絶望した時は叫ぶ。また特徴的な動作もあり、例えば相手に好意を示す時は少し眉を上げて顔の左側を見せる。愛を表現する時は胸に手を当てるが、本当の気持ちを表すためには、その手をおろして下唇を軽く噛まなければならない。

それから声。
「お面」の意志に従い、楽しい時は高い声で、感情を表現する時は柔らかく囁き、説明する時は淡々と、憎しみがある時は歯ぎしりしながら、悲しい時は涙を流すことを欠かさずに。

奇跡的に、彼女は何年もこんな生活をしながらも周囲の環境に完全に溶け込み、劇作家にまでなった。お面をつけていることは誰にも気付かれていない。しかし世の中には、「お面」をつけた人々がもう一種類いると思わずにはいられなかった。彼らは大笑いしながら復讐に燃え、涙を浮かべながら微笑み、無言で激怒する…あるいは限りなく穏やかな口調で意地悪なことを言うのだ。

「お面」の意志でそこまでの演技はできなかったものの、劇作家として、役者にそうした演技をさせることは簡単だった。

ある日の早朝にドアの呼び鈴が鳴ったが、そこにいたのはいつもの配達員ではなかった。
「花火さん、いま少しよろしいですか?」
「私共はあなたの新作を拝見したのですが…もしや、『お面』について何かご存知なのではないかと……」


  • ストーリー詳細3

顔のない少女は、自分が呪われているに違いないと思うようになった。そうでなければ、なぜ刺激を何ひとつ感じられないのか?痛覚、味覚、嗅覚…全て正常にもかかわらず反応できなくなり、それは喜怒哀楽といった感情さえ同様だった。彼女はそれを補うため、様々なシナリオを用意し、他人がどう感じているのかを観察することで懸命に調べた。

「…ものすごく苦いお茶を飲んでいるとき、どう感じる?どういうふうに飲む?」
椅子に縛り付けられて身動きできないまま、左側の浮浪者の男性は称賛するようにうなずき、真ん中の女の子は泣きそうな顔で頭を振り、右側の年配の女性は嫌悪感からか鼻にしわを寄せている。

「とっても寒い小屋の中にいて、手元にこのお茶しかなかったら?」
男性は相変わらず。女の子はひとしきり泣きわめいてから受け入れ、女性はやはり拒絶している。

設定を変えながら昼も夜も質問を投げかけ、被験者が意識を失うまで続けた。彼らを家に送り届けると、また新たな被験者を探した。

その間、町の住民たち全員が同じ悪夢を見ていた。ある場所に閉じ込められ、顔のよく見えない少女に質問をされる夢。拒否する権利はなく、彼女が理解するまで繰り返し答えるしかなかった。少女はそれを全て、詳らかに紙のお面へ一枚、また一枚と書き込んでいく。

この悪夢は程なくして、別の悪夢に取って代わられた。夜中に紙のお面が空を舞い、互いに交わるとかすかに光り、瞬く間に消える。まるで夜空に浮かぶ花火のようだった。まるで町の陰に潜み暮らしているかのように、それは毎晩現れた。

暗い地下室にいた少女は、この悪夢に気付いていなかった。人の感情の機微、さまざな物事に対する考え方——資料は十分に集まり、それらを用いてさらに紙の仮面をたくさん作った。自分に感情はなくとも、作ったお面には血が通っており、いつか本物の生命になると信じていた。


  • ストーリー詳細4

特に人が喜ぶ身の上話って、いくつか種類があるの」愚者の「パブ」で、花火は潔く認めた。「好きなことと、信じることは別だけど…みんな、自分の好きな物語を本当だと信じたがる」

「嘘つけって?やめてよ。こういうことを言うのはね、別になにかをでっちあげたいからじゃないよ…花火はね、自分のために、一生懸命想像力を働かせてるの。刺激をもらうために色んな人生を想像して、それを全力で演じて、見せて、作り直して…想像力の風船が、破裂する寸前で止める」

「本当のことを言うとね、脚本だけじゃ足りないんだ。まず自分が演じる役が本当に存在するって信じなきゃいけないし、その役が他の物語にも登場することを想像しないと。表現の動機を論理的かつ感情のあるものにするために、いつだって多すぎるくらい情報を増やしていかないと」

「そうやって初めて、他の誰にも影響されない、その役の本質を掴めると思うんだよね。結局は他の愚者に会うかもだけど、お互い正体がわかんなければ何がしたいのかも分からない。キャラクターの見た目だけが好きって人もいるし、ちょっと遊んでみたいってだけの人もいる——花火もそういう時があるから」

「もちろん、演技を取引の手段にしたいだけの人もいれば、別人になって認められたいだけって人もいるよ。それでびっくりするようなお金や地位、権力が手に入ることもあるからね…とにかく花火が言いたいのは、道を踏み外さないまま他の物語の役になりきれる人なんて、花火以外にいないってこと!だから想像して、演じ続ける、そうしなきゃダメなんだ」

「別に否定してるわけじゃないって…本当に病みつきになるんだから。想像すればするほど登場人物に夢中になって、彼らのために作った美しい物語や悲惨な境遇、そういう状況で彼らに芽生えるかもしれない感情の、虜になっていくんだよ……」

「もちろん、違う人生を考えたこともあるよ。劇団で役者になって、名もない星で公演をして、自分と同じ名前の役を作って…でもある日ね、突然わかっちゃったんだ!」

「演じるなら、自分の人生に勝る舞台はないって」