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1日目
あなたは「研修ガイド」の道案内に沿って進んだ。
異様に狭い路地を横歩きで通り、オナモミの茂みをかいくぐり、今にも崩れ落ちそうな塀をよじ登り、その次は廃棄された排水管の中に降りていく。
あなたはこれが何かの悪戯だったのではないかと何度も疑ったが、もはや意地になって先へ進み続けた。
人の腰辺りまでしかない壁の穴を這いつくばって通った後、ついに広々としたきれいな建物が目に入った。
周りに人の気配はなく、不自然なほど静まり返っている。髪にへばりついたオナモミを気にしていられず、あなたはもう一度あの「研修ガイド」を取り出した。
| 研修ガイド このたびは、No.26キッチンの適正審査に合格されましたこと、心よりお祝い申し上げます。11月より、ぜひ当キッチンでご活躍ください。 研修施設の所在地は厳重に秘匿されておりますゆえ、このガイドをお受け取りになった場所から、記載の手順に従い、徒歩でお越しください。 確実に目的地に辿り着けるよう、ガイドに記された手順は全て実行してください。「壁を叩く」、「その場で回転」などの指示も見逃さずに従う必要があります。 …… あなたのお越しを、心よりお待ちしております。 助けを必要としている世界中の子供たちに栄養豊富な食事を作り、共にその成長を支えましょう。 (文章の最後には猫の肉球の跡が押されている) |

「私」:はぁ……やっとついた。「No.26キッチン」……ここで間違いない。
「私」:こんな道を通らせるなんて、絶対どうかしてるよ。一体何の冗談なんだろう。
子猫:ニャー。(猫が通る道だからにゃ。一応、人間の研修生用に通りやすい道にしたつもりだけど……)
「私」:確かに!猫が通る道なら納得……って、今もしかして、猫が喋った?
あなたは改めて自分の横で丸まっていた子猫をよく見た。その毛皮の模様はうっすらと「25」に見える気がする。
子猫:ニャン!?(覚えてないとはどういうことにゃ!?せっかくあのガイドを送ってやったのに……人間は薄情だにゃあ……)
子猫:ニャ……(まあいいから、早く入るにゃ!うちの部はいつも忙しいんだにゃ。料理長No.26が中で待ってるにゃ!)


あなたは慌てて「No.26キッチン」の扉を押し開けた。食べ物のいい香りが鼻をつき、調理器具がぶつかる心地良い音が聞こえるーーどうやら、このキッチンの従業員は全員猫のようだ。
「No.25」は尚も人間の研修生は使いにくいとブツブツ呟きながら、このキッチンの「料理長」の元へあなたを連れて行った。
料理長「No.26」:ニャニャ!(完成にゃ!次は盛り付け!火加減に気を付けて……!)
それは一匹のーーいや、一台の巨大な猫型ロボットだった。フワフワの毛皮が全身を覆い、こちらに気付くと丸い顔に大きな笑みを浮かべた。
そして、ガバリとあなたを抱きしめる。あなたはその胸の中で加速する歯車の音まではっきりと聞こえた。
料理長「No.26」:ニャニャ!(久しぶり!久しぶりだにゃ!やっと来てくれたにゃ!)
「私」:こ……こんにちは!研修に来たんですけど……
料理長「No.26」:ニャニャ……(ああ、しばらく見ないうちに大きくなって……)
料理長「No.26」:ニャ!(料理を作るのが好きなんだって?おいらのキッチンには、世界各地からの注文が届くにゃ)
「No.25」:ニャニャ……(というのも、世界のどこかで栄養不足に陥っている子供が一人増える度、このキッチンに対応する「注文」が来るようになってるにゃ)
料理長「No.26」:ニャ!(子供たちの成長を守るのは複雑な課題だけど、おいらたちなら健康で温かい料理を提供することができるにゃ)
料理長「No.26」:ニャニャ……(子供たちが夢中で腹を満たすのを路地裏から見守るのが、「猫」の従業員たちの一番の幸せなんだにゃ)
料理長「No.26」:ニャ!(今のところかなり忙しいけど、これでも何十年か前よりは大分マシになったにゃ)
「私」:(そっか……世界各地には、まともに食事をとれない子供がまだたくさんいるんだ……)
料理長「No.26」:ニャニャニャ!(そういうことで!複雑な研修課題とかはないから、早速コンロの前に立ってみるにゃーー一人目の子供に手を差し伸べるんだにゃ!)


熱いコンロと緊張感のあるリズムから一度身を引くと、一匹の子猫がタイミングよくあなたの額の汗を拭ってくれた。
「私」:(どれも難しい料理じゃなくてよかった……)
料理長「No.26」:ニャニャ……(注文されるのは世界各地の家庭料理で、人々の記憶にある「家」の味だにゃ)
料理長「No.26」:ニャ!(どこであろうと、人間は周りにある食材でおいしい料理を作ることができるーーこれらの料理は、人間の生計と生活を支えているんだにゃ)
「No.25」:ニャニャ!(なかなかやるにゃ!新入りの料理はボクが後で配達しておくにゃ)

「No.25」:ニャ……(このキッチンの扉や窓は、世界のどんな場所にも繋がるんだにゃ!たとえ災害を受けた地域でも、険しい山頂でも……)
「No.25」はそう説明しながら、手際よく料理を包んだーーここのベテランのようだ。
その時、キッチンにある大小さまざまな窓に映っている風景がそれぞれ違っていることに気付いた。砂に覆われた砂漠に、雨に濡れた路地裏……
「私」:出来上がった料理は、「猫」が子供たちの元に届けるんですか?
料理長「No.26」:ニャニャ……(そうだにゃ。ロボットの見た目じゃ目立っちゃうからーーまだ人間のメディアに気付かれたくないにゃ……)
「No.25」:ニャ……(料理長もぽっちゃりした茶トラ猫になれるけど……料理長は料理以外のこととなると不器用なんだにゃ)
「No.25」:ニャ!(それでうっかり子供たちにロボットの姿を見られたことがあって……大人たちが彼らの言葉を信じなくて助かったにゃ)
料理長「No.26」:ニャ……(ロボットは体型が大きすぎるから、隠れるのが難しいんだにゃ……)
「私」:確かに猫ならどんな場所でも柔軟に動き回れそうですね。それに、猫は世界中にいるから、目立たず行動できます。
「私」:(道端で慌ただしく行き交う猫を見かけたことがあったけど、ひょっとしたらあれも大事な任務の最中だったのかもしれない……)
「No.25」:ニャ!(よし、そろそろ出発にゃ!どれどれ……今回の注文はどれも初めて行く場所みたいだにゃ)
料理長「No.26」:ニャニャ……(もしこのキッチンの昔話に興味があるなら、レシートボードを見てみるといいにゃ。人間世界での出来事がいくつか記されているにゃ……)
| 001:世界のどこかから集められた紙 (日記の1ページ。拙い筆跡で、うっすらと森の植物の匂いがする) 今日が、学校の帰り道で、とてもきれいな石を何個かひろった。 帰り道は長いし、山道は歩きにくいし、天気も寒いけど、ぼくはへっちゃらーーでも、午後の授業は眠くなっちゃうんだ。 おじいちゃんとおばあちゃんは、ぼくのためにいつも昼ごはんを用意してくれる。今日はおまんじゅうと野菜がゆだった。 もうお年よりなのに、ぼくが温かい料理を食べられるようにがんばってくれてる。学校にはお弁当を持ってくる子も多いけど、お昼になると冷めて、あまりおいしくなくなっちゃうんだ。 都会にいるお父さんとお母さんは、今日は何を食べてるのかな?早く二人に会いたいな。 今度戻ってきた時は、いっしょにたくさん写真をとろう。そうすれば、いつでも二人の顔を見られるから。 |
| 002:世界のどこかから集められた紙 この前、おじいちゃんが病気になった。ぼくももう子どもじゃないんだから、自分の食べ物くらい自分で何とかしなきゃ。 そう思ってたら、なんと猫がごはんを持ってきてくれたんだ!しかも、ごはんといっしょに月みたいな形をした石もプレゼントしてくれた。あの子も石集めが好きなのかな? お弁当の中身は、ジャガイモとお肉のシチューだった。ジャガイモはホクホクで、お肉もたっぷり入ってた。口の中でとろけて、ほっぺたが落ちそうなくらいおいしかったから、全部のこさず食べた。 ほかのみんなも、何人か「ごはんを届ける猫」に会ったことがあるみたい。先生たちは想像力があるねって、本気にしてくれなかったけど。 そういえば絵本にも、おとぎばなしの世界に通じるとびらは、子供たちにしか見えないって書かれてたっけ。 その後、学校の先生たちが食料を買いに行って、ぼくたちのために小さな食堂を作ってくれて、その横には小さな菜園もできた。 たくさんのお兄ちゃんやお姉ちゃんたちのおかげで、長い山道を歩かずにすむようになったし、温かいごはんを食べられるようになった。おじいちゃんとおばあちゃんは学校に行ったことがないみたいけど、この変化を見て、「学校はいいところだねえ」って感心してた。 手伝ってくれたお兄ちゃんたちに手紙を書こうとした時、ぼくはお父さんとお母さんのことを思い出した。きっと、お兄ちゃんたちの仕事も大変なんだろうなーーみんな、もっと良い生活を送るためにがんばってるんだ。 少し考えて、ぼくは手紙にこう書いた。 「お仕事がんばってください。僕は勉強をがんばります。おいしいごはんをたくさん食べて、いっしょにがんばりましょう」 絵本に書いてあった言葉が、ぜったいに正しいとは限らないと思うーーおとぎばなしの世界が見えるのは子どもだけでも、大人はすてきなおとぎばなしの世界を現実に変えることができる。 ただ、学校に食堂ができてから、「ごはんを届ける猫」は見かけなくなった。今では上級生しか知らない小さな秘密だ。 ぼくに石を届けてくれたあの猫は、今ごろ元気にしているかな?またどこかで、君に会えるといいな。 |

「No.25」:ニャ!(これこれ!ここに書いてある「食事を運ぶ猫」は、ボクのことなんだにゃ!あの石が好きだった子は、今頃どうしているのやら……)
「No.25」:ニャニャ!(彼は想像力がとても豊かで、すごく長い山道を越えなければならないのに、歌を歌ったり、枝を振り回したりしながら、その道のりを楽しんでいたんだにゃ)
「No.25」:ニャ……(もう一度あの子に会いたいけど……やっぱり山奥の学校に料理を届けに行かずに済む方が嬉しいにゃ)
料理長「No.26」:ニャニャ!(早く引退したいにゃ……)
「私」:仕事が大変なんですか?
「No.25」:ニャニャ……(料理長はお腹を空かせた子供がいなくなればいいって言いたいんだにゃ。全く、製造者譲りのひねくれた性格だにゃ……)
料理長「No.26」:ニャニャ!(コ、コホン……新入りさん!まだ必要な知識がいくつかあるにゃ……ノートで確認するのを忘れないように!)
| 研修ノート1 栄養不足について 栄養不足の症状は、主に消耗症、発育不良、体重不足、ビタミン・ミネラルの欠如の4つに分類される。現在、世界では5歳未満の子供の6.7%が消耗症に悩まされている。 日々空腹のまま学校へ行き、勉強に集中できなくなっている子供が、世界中には数多く存在する。 中には親と離れて暮らしている子供も多く、家庭や学校では栄養豊富な食事を提供できない状況が続いている。 彼らにとって、学校で毎日提供される給食は、栄養と健康を保つだけでなく、教育水準の保障にもなる。学校の給食は、保護者が子供を学校に通わせる積極性にも繋がる。 |
