ジナイーダの城の断章

Last-modified: 2024-04-19 (金) 08:02:11
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イベントストーリー

※真髄ページはこちら

ジナイーダの手稿

  • アイコン「ルノ大陸」
    東部にはネストの森、中部には民衆の町、北部には氷河の背がある。
    そして南部は今、謎の力の影響を受けて幽暗の地となっている。
  • 1日目
    彼はシャドウパレスに生まれた。
    幼いころから大学士の元でルノ大陸の知識について学び、大学士が語る不思議な種族の話に耳を傾けていた。
  • 2日目
    大学士は何も言わず、彼に金貨を1袋渡し、今にも滅びそうなこの地から立ち去るよう言いつけた。
  • 3日目
    ネストの森はかつて妖精たちの楽園だった。
    しかし今はもう、荒れ果てた土地と恐怖しか残っていない。
  • 4日目
    アスモは、この世界に再び災いが訪れると彼に言った。
    邪神の信者が邪神の子を見つけるのだと。
  • 5日目
    裏切りに遭った彼は、正義と悪の選択を迫られる。


ジナイーダのゲーム

  • 1.探偵事務所
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    数週間前、1通の手紙を受け取った。
    ジナイーダという名の人気小説家の葬式に招待するという内容だった。
    彼女のニュースは新聞紙で読んだことがある。
    警察は彼女の死を自殺と判断していたが、手紙の内容を見る限りそんな単純な事件ではなさそうだ。
    とにかく、私は荷物を整理して出発することにした。
    事件そのものだけでなく、この招待状の署名にも興味を引かれたからだ。

    Mr.リーズニングへ
    4月15日に、我らが友ジナイーダの葬式を執り行う予定です。追悼に際し、ジナイーダの古城にあなたをご招待いたします。
    我々の友人、ミズ・ジナイーダ。文学界の明星がここに潰えてしまいました。
    追悼の念だけでは、我々の心にかかる靄を晴らすことはできません。
    警察はジナイーダが残したと思われる遺書を我々に提供し、各方面の調査も踏まえてこれは自殺だと断定しました。
    しかし、それは真実の氷山の一角に過ぎません。
    疑惑の霧をかき分けた時、その裏にはどのような「サプライズ」が隠されているのでしょうか?
    D.M

    手紙と一緒に、彼はジナイーダの小説も私に送り届けた。
    彼女についてもっとよく知れということだろう。
    彼女の小説の名は『メディアの救済』。ファンタジー冒険が題材の小説だ。
    ジナイーダは丁寧にファンタジーの世界にある風土や人情ーー様々な種族、不思議な魔術や魔法を文字で表現していた。
    葬式とは言え、D.Mから誘われるのは珍しい。やつの行動にはきっと裏があるはずだ。
    彼の言う通りジナイーダの詩に本当に裏があるなら、彼は一体どんな手掛かりを握ってるんだ?
    確かな証拠はあるのだろうか?
    様々な疑問が渦巻く中、同行人が私を急かしたため、私は彼とのしがらみを一旦忘れ、とある古い友人に声をかけた後に出発した。

  • 2.ジナイーダの城
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    Missトゥルース:慌てて来たのに、結局お葬式には間に合わなかったね。しかもこのどしゃ降り……せっかくの探偵劇が始まる前に終わっちゃったわ。
    Missトゥルース:皆はどこに……?
    Mr.リーズニング:まだ戻ってきていないのかもしれない。
    Mr.リーズニング:(待っている間、片隅に置かれたアナグラムゲームと1枚のメモに気付いた。)
    Mr.リーズニング:「ジナイーダのゲーム、奇妙な冒険、サプライズは完成した後に。ーーD.M」
    Missトゥルース:……「奇妙な冒険」?なんのことだろう?
    Mr.リーズニング:ジナイーダは人気小説家だ。主にファンタジー世界の作品を書いている。もしかしたらこのアナグラムゲームも、ジナイーダの小説に関係しているのかもしれない。
    Missトゥルース:D.Mのメッセージによれば、この後に「サプライズ」があるんだよね。気になるし、試してみる?
    Mr.リーズニング:(私は頷いた。ここに招待された理由にも関係している可能性があったため、私は興味深くアナグラムの解読を始めた。)

  • 3.ジナイーダ城
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    Missトゥルース:さすがジナイーダのゲームね、どのアルファベットもファンタジー世界に関係しているみたい。
    Mr.リーズニング:(全てのアナグラムを解いた後、私はそれらのアルファベットに対して首をひねった。)
    Missトゥルース:どうしたの?何か気付いたことでもあった?
    Mr.リーズニング:これらの単語が交差する箇所も、単独の単語になるんじゃないか?
    Mr.リーズニング:(私は該当するアルファベットを取り出し、箱に入れなおした。)
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    Mr.リーズニング:DーEーLーPーHーIーS
    Missトゥルース:ドーフィンのこと?
    Mr.リーズニング:(ジナイーダのアナグラムと何の関係があるんだ?彼女はどうしてこの単語を残した?そして……これがD.Mのメモにあった「サプライズ」なのだろうか?)
    Mr.リーズニング:(私は長らく思考に陥った……)

  • 4.ジナイーダ城
    Missトゥルース:うぅ、なんて寒い部屋なの。今にもおばけが出てきそう。
    Mr.リーズニング:雨が降ったからだろう。自分を脅かしてどうする。
    Missトゥルース:おばけと言えば……今年は夏がないのよね。本来夏に入るはずだった日は、過去最低気温を記録したもの。
    Mr.リーズニング:そうだな。北半球の火山の噴火によるものらしい。
    Mr.リーズニング:(私は暖炉の上にかかっているジナイーダの肖像画に目を向けた。唯一の窓が自画像に影をさし、窓を打ち付ける雨粒が涙のように肖像画を伝った。まるでジナイーダ本人が、こちらに何かを訴えているようだ……)

ジナイーダの城の断章

第1章

  • 1.ジナイーダの城
    Mr.リーズニング:(アナグラムゲームを置いた後、ギギィという音を立てて扉が開き、追悼の間から一行が部屋に入ってきた。彼らは暗い表情を浮かべており、元々寒かった部屋の温度が更に低くなった気がした。)
    D.M:本日、皆さんがここに集まったのは他でもありません。
    D.M:我らが共通の友人、自立した強い友人、優しい心を持った善人。そして偉大な女性作家、文学界に輝く光……ジナイーダさんを弔うためです。
    ???:この城は彼女と知り合った時と何も変わらないわね。彼女の先祖が残してくれたものだと彼女から聞いたことがあるわ。
    ???:でも、彼女はこの城があまり好きではなかったみたい。書斎以外の部屋は空っぽだし、今はもう書斎にすら物がないわ。
    Mr.リーズニング:(1人の若い女性がジナイーダの肖像画に歩み寄った。)
    ???:まさか、再びジナイーダに会うのが彼女の葬式になるなんて。
    ???:一読者として、彼女とは手紙のやり取りをしていたわ。小説に対する意見を交わしていたけれど、かれこれもう2年前のことよ。
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    1.腰にはハサミや注射器などの医療器具、そして何らかの液体が入っている試験管が掛かっている。
    2.品の良い身なりで、質の高い教育を受けているように見える。
    3.傍にいる男性と親し気な様子で、ただの知り合いには見えない。

    Mr.リーズニング:(しかし彼女の隣にいる男性は目の焦点が合っておらず、会話の内容に集中していないようだ。)
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    1.腰にはハサミやピンセットなどの簡単な医療器具がぶら下がっている。

    Mr.リーズニング:(2人の服装から察するに、彼らは医者である可能性が高い。)
    ???:公爵、知らせてくれてありがとう。
    ???:毎日激務に追われている児童病院の責任者として、私は情報に疎くて。あなたが手紙で知らせてくれなかったら、私と私のアシスタントは友人の葬式にすら来れなかったと思う。
    Mr.リーズニング:(ジナイーダを友人だと言うが、なぜ友人の死すら知らなかったんだ?ジナイーダはかなりの影響力を持った小説家で、彼女の死も新聞紙で報道されていたのに。)

  • 2.ジナイーダの城
    D.M:ジナイーダはあなたたちのことを気にかけていましたよ。児童病院に関するーーとある興味深い見解について、何度か手紙で語り合っていたのをよく覚えています。
    児童病院の責任者:あら、そうなの?
    Mr.リーズニング:(児童病院の責任者はわずかに眉を顰めて不満げな表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻った。)
    児童病院の責任者:全て過ぎたことよ。彼女が亡くなった今、不愉快な過去を掘り返すのはやめましょう。
    D.M:いいでしょう……今回招待したのは私の一存ではありません。ジナイーダからの頼みでもあり、私は彼女の代わりに招待を出したまでです。
    Mr.リーズニング:「不愉快な出来事」……失礼かもしれないが、ジナイーダと何かいざこざがあったのか?
    Mr.リーズニング:(口をはさんだ私に対して、彼女は警戒心を露わにした。)
    児童病院の責任者:失礼、どちら様かしら?
    D.M:ああ、彼は私が招待した方です。紹介しましょう。Mr.リーズニング、かの有名な探偵です。
    児童病院の責任者:へえ?聞いたことがある名前ね。確か、あのゴールデンローズ劇場事件を解決したのもあなただったわね?
    Mr.リーズニング:いかにも。
    児童病院の責任者:今日はジナイーダを偲ぶための集まりでしょう。Mr.リーズニングもジナイーダのご友人なの?
    Mr.リーズニング:……残念ながら面識はなかった。今日の葬式がジナイーダの初対面だったと言える。
    Mr.リーズニング:レディー、心配しないでくれ。当面、私たちのことは無視してもらって構わない。
    児童病院の責任者:当面?じゃあ、構う時も来るかもしれないってこと?
    Missトゥルース:真相が隠され、事実が嘘によって覆われた時。そんな時に探偵は腕を発揮する。
    Missトゥルース:永遠の「眠り」に落ちた人の代わりに真相を明らかにすること。これが探偵の正義であり、使命よ!
    児童病院の責任者:こちらのお嬢さんは?
    Mr.リーズニング:……私のアシスタントで探偵でもある、Missトゥルースだ。
    Missトゥルース:いかにも!
    Mr.リーズニング:それから、こっちは菖蒲。私たちの共通の友人だ。
    菖蒲:こんにちは。迷惑をおかけするわ……
    児童病院の責任者:Mr.リーズニング。友人として来たわけじゃないのなら、今日のあなたは「探偵」なのね?
    児童病院の責任者:ジナイーダは自殺ではなく、別の理由で死んだとでも言うのかしら?

  • 3.ジナイーダの城
    ???:コホン。
    Mr.リーズニング:(片隅に立ったまま沈黙を貫いていた男性が初めて咳き込み、こちらの会話に割り込んできた。)
    Mr.リーズニング:(彼はこれまで会話に一切参加せず、片手は常に分厚い古い本の上に置いたまま、もう片方の手で胸元のペンダントを取り、キスをして声のない祈りを呟いていた。)
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    1.皮膚が真っ白だ。何らかの病気だと思われる。
    2.重々しい服装を見る限り、聖職者だと窺える。
    3.目は少し腫れ、顔には乾いた涙の痕がある。ジナイーダとの離別を悲しんでいるようだ。

    聖職者:すまない……でもこれだけは言わないと……
    聖職者:今日はジナイーダが神のもとに帰る日であり……我々が彼女を偲ぶための日でもある。こんな日に、不愉快な話は止めた方がいいんじゃないか?
    聖職者:神の機嫌を損ねてしまう……
    Mr.リーズニング:(彼は胸元のペンダントにキスをした。明かりに照らされ、ペンダントが怪しげな光を反射した。)
    Mr.リーズニング:(あのペンダントには何らかの液体が入っているみたいだな、彼が信仰する聖水とやらかもしれない。)
    児童病院の責任者:同じジナイーダの友人として、その意見には同意できないわ。本当に彼女の死に何かあるなら、あやふやにしたままなのは可哀想じゃなくて?
    Mr.リーズニング:(聖職者らしき格好の彼はそれには答えず、分厚い本の上に手を戻した。)
    Missトゥルース:D.M、あなたもソファーで黙ってないで。
    Missトゥルース:真相を探すのが私たちの仕事よ。ここで時間を無駄にするより、全て話した方がいいでしょう?
    D.M:(冷笑)Missトゥルースにそう言われたからには、もう隠す必要もないでしょうーー
    D.M:あなた方と同じく、私はジナイーダをよき友だと思っておりました。ある日偶然クラブで彼女とチェスをして以来、私たちは同じ趣味を持つ仲間として絆を深め合いました。
    D.M:しかし、一般的な基準に基づいた評価を述べるなら、ジナイーダは付き合いやすい友人とは言えませんでした。
    D.M:小説がきっかけで縁を結び、小説が示す事実によって道を分かつことになった者もいれば、
    児童病院の責任者:……
    D.M:善き信念がきっかけで交流を深めたものの、その背後に隠された目的に気付かぬ者もいる。
    聖職者:……

  • 4.ジナイーダの城/エリザ・ゴッドウィンとの会話
    Mr.リーズニング:(児童病院の責任者と聖職者は揃って俯いた。D.Mの言葉が何かを指していたのだろう。)
    Mr.リーズニング:(それぞれに事情を聞いてみることにした。)
    Mr.リーズニング:レディー、聞きそびれていたがーーあなたの名前は?
    児童病院の責任者:私はエリザ・ゴッドウィン。ある児童病院の責任者で、ジナイーダの長年の友人でもあるわ。
    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさん、よろしく。ジナイーダとはどうやって知り合ったんだ?
    エリザ・ゴッドウィン:きっかけは、とある読書会だったかしら。彼女とは読者と意見を交わすのが好きだったから、彼女の大ファンとしてよく手紙のやり取りをしていたわ。そうしているうちに、徐々に仲のいい友達になっていったの。
    Mr.リーズニング:そうだったのか。失礼ながら、2年も連絡を取っていないと言っていたが、理由を聞いてもいいか?
    エリザ・ゴッドウィン:(探るような視線を私に向けた)それは、彼女の作品にーー
    エリザ・ゴッドウィン:……私の病院は一度、世論に叩かれたことがあって。友人なら私たちの味方についてくれるはずなのに、彼女は私が教えたことを全部小説のネタにしたのよ。
    エリザ・ゴッドウィン:誰もが文字の全てを信じる訳じゃないけれど、小説を読んで妙な想像を膨らませる人は多いわ。
    Mr.リーズニング:当時、児童病院で何があったんだ?
    エリザ・ゴッドウィン:小規模な伝染病よ、ジフテリアだったわ。当時の私たちはもちろん伝染の拡散を止めようと努めた。
    Mr.リーズニング:(「小規模」という部分を強調していたな。)
    エリザ・ゴッドウィン:けれど、私たちの対応の仕方には賛否両論あって……
    エリザ・ゴッドウィン:すぐに彼女に説明できなかったから、彼女との間に誤解が生じてしまったの。
    Mr.リーズニング:どんな対応をしたんだ?
    エリザ・ゴッドウィン:あなたが知らなくていいことよ。

  • 5.ジナイーダの城/アイザック・ゴッドウィンとの会話
    Mr.リーズニング:こんにちは。君はゴッドウィンさんと一緒に来たのか?
    Mr.リーズニング:(やはり目の焦点が合っていない。こちらの声が聞こえていないみたいだ。彼の目の前で手を振ってみた。)
    Mr.リーズニング:あの?
    責任者のアシスタント:……ん?ああ……どうも……
    Mr.リーズニング:急にすまないな。君はゴッドウィンさんと一緒に来たのか?
    責任者のアシスタント:うん、そう。俺はアイザック・ゴドウィン。彼女のアシスタントで、夫。新婚なんだ。
    Mr.リーズニング:ジナイーダとの関係を聞いてもいいか?手紙のやり取りをしていたと聞いたが。
    アイザック・ゴッドウィン:ジナイーダ……ジナイーダ……ごめん、あまり話したことはない。役に立てないと思う。
    アイザック・ゴッドウィン:(そう言うと、会話に興味ないと言わんばかりに彼は私から目をそらした。)
    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさん、ゴッドウィンさんーー
    アイザック・ゴッドウィン:……ん?
    Mr.リーズニング:児童病院で伝染病が流行っていた頃……君たちとジナイーダの間に誤解が生じた時、一体何があったんだ?
    アイザック・ゴッドウィン:彼女はもう、知っていることを全部話したはずだけど。
    Mr.リーズニング:そうだな。ただ、何か補足があれば聞かせてほしいのだが……
    Mr.リーズニング:(しかし彼はこちらの返答を聞くまでもなく俯き、放心状態に戻った。)

  • 6.ジナイーダの城/パストとの会話
    Mr.リーズニング:こんにちは、名前を伺っても?
    パスト:パストと呼んでくれればいいよ……
    Mr.リーズニング:そうか、会えて光栄だ。今回のことは、なんと言えばいいのか……
    Mr.リーズニング:(彼は緊張しているようで、頑なに目を合わせようとしない。)
    Mr.リーズニング:パスト、緊張しなくていい。私はただ、君もD.Mに招待されたのか知りたいだけなんだ。
    パスト:いや、僕はジナイーダに招待された……
    パスト:彼女は約束してくれたんだ。彼女の葬式で、「サプライズ」を用意してくれたと。
    Mr.リーズニング:「サプライズ」?それはどんな?
    パスト:まだ分からない……
    Mr.リーズニング:(私はアナグラムの木片の中で見つけたもののことを思い出した。あれもジナイーダが残した一種の「サプライズ」なのかもしれない。)
    Mr.リーズニング:ジナイーダとはどれくらいの付き合いなんだ?
    パスト:ジナイーダとは……2年ほどの付き合いになる。教会で会ったのが初めてで……
    Mr.リーズニング:(見ず知らずの他人と話しているからか、彼の語尾は尻すぼみしていた。)
    Mr.リーズニング:パスト、落ち着いてくれ。私はただ、ジナイーダについて知りたいだけなんだ。
    Mr.リーズニング:(彼は頷き、ゆっくりと息を吐いた。)
    パスト:彼女とは知り合ってそんなに長くないけれど、まるで一生の付き合いみたいに感じられたんだ。
    Mr.リーズニング:ジナイーダとは気が合ったのか?君はずいぶん若く見えるが。
    パスト:ああ。彼女は毎週の日曜日に、遠くから車で教会に来ていた。だから私はよく、告解室で彼女の絶望や懺悔を聞いていて……
    パスト:たぶん、私のせいだ……
    Mr.リーズニング:え?
    パスト:彼女はずっと前から自殺願望の片鱗を見せていたんだ。私が彼女からのSOSに気付いていれば……
    Mr.リーズニング:それはいつ頃の話だ?
    パスト:この間、ぱったりと教会に来なくなったから、気になって会いに行ったら……
    パスト:その時の彼女はすでに、うっすらと悲観的な言葉を漏らしていた。なのに私は……彼女に何もしてあげられなかった……
    Mr.リーズニング:(彼は溢れ出る感情を抑えているようで、胸の前のネックレスに再び口付けた。)
    Mr.リーズニング:君は十分彼女のためになったさ、パスト。
    パスト:ありがとう……
    Mr.リーズニング:つまり、教会に来なくなった頃にはもう、そんな考えが生まれていたんだな?
    パスト:ああ、私のせいだ……
    Mr.リーズニング:(私は彼の肩を叩いて慰めた。)

  • 7.ジナイーダの城/「夜魔」との会話
    Mr.リーズニング:(彼らのほかにも馴染みの顔ぶれがあった。D.Mに招かれて来た人間なら、色々な推測を抱いてきたうえで準備をしてきているに違いない。)
    「夜魔」:またお会いしたわね、Mr.リーズニング。
    Mr.リーズニング:夜魔さん。
    「夜魔」:メロディー公爵の山荘で会った時以来だけど、まさかまたこうして再会できるなんて。
    Mr.リーズニング:失礼ながら、夜魔さんはここへ何を?
    「夜魔」:私はジナイーダに招待されてきたの。彼女からの最後の手紙には、これから起こる「おもしろい」出来事を私に見せたいと書かれていたわ。
    Mr.リーズニング:今のところ、ジナイーダから間接的に招待されたのはゴッドウィン夫婦だけで、夜魔とあの聖職者はジナイーダから直接招待されたようだ。)
    Mr.リーズニング:(ジナイーダは一体何を用意したんだ?)
    Mr.リーズニング:夜魔さん、ジナイーダとはどのように知り合ったんだ?
    「夜魔」:ジナイーダさんは数年前に知り合った友人なの。
    Mr.リーズニング:どこで知り合ったんだ?
    「夜魔」:彼女が私の家を訪ねたのよ。彼女は私の父と付き合いがあってね、私から創作の素材を探そうとしたのかもしれないわ。
    「夜魔」:でもおかしなことに……ふふ。付き合っていくうちに、彼女の方が私の素材になってしまったみたい。
    Mr.リーズニング:どういう意味だ?
    「夜魔」:彼女に面白い事が起こったの。一般人なら精神が狂うほどの。でもジナイーダはそうならなかった。むしろ、ジナイーダが遭遇した不幸は、彼女のインスピレーションの源だった。

  • 8.ジナイーダの城/菖蒲との会話
    Mr.リーズニング:菖蒲、ここに来てくれてありがとう。そうだ、君はまだベルスタインの一件を追っているのか?
    菖蒲:何?まだあの事件に興味があるの?
    Mr.リーズニング:いや、そういうわけじゃない。君の仕事に不要な迷惑をかけるのではと思っただけだ。
    菖蒲:だったら首を突っ込まない方がいいわ。ウリエル家の人間が手段を選ばないのは知ってるでしょう?彼らは……
    Mr.リーズニング:(彼女は突然何かを思い出したように話題を変えた。)
    菖蒲:今回の事件で何か手伝えることがあれば、いつでも手を貸しましょう。
    Mr.リーズニング:(私はコクリと頷き、以前の事件については聞かないことにした。しかし私が振り返った時、夜来香が警戒した様子でこちらを見ていることに気付いた。)

  • 9.ジナイーダの城/夜来香との会話
    Mr.リーズニング:夜来香、久しぶりだな。まさかもう出てーー
    Mr.リーズニング:(彼は私の言葉を遮り、続きを述べた。)
    夜来香:高額の保釈金を出してくれた人がいたのです。
    夜来香:そして今日は、公爵に誘われて参りました。
    Mr.リーズニング:D.Mに招待された理由は?
    夜来香:あなたと同じですよ。(含みのある笑顔を浮かべた)
    Mr.リーズニング:調査に参加するためか。何か気になるところは?
    夜来香:じきに分かるでしょう。

  • 10.ジナイーダの城/霊犀調査員との会話
    Mr.リーズニング:お前はどうやってここにたどり着いたんだ?
    霊犀調査員:(自分のお宝を叩いた)探測器によれば、ここで霊能事件が起こるらしい。
    Mr.リーズニング:……霊能事件?どこで?
    霊犀調査員:この部屋で。しかも、もうすぐだ。
    Mr.リーズニング:……
    霊犀調査員:アハハ、冗談さ。しばらく雨宿りさせてもらっているだけだよ。
    Mr.リーズニング:(空気を読まない冗談に、私は諦めて手を振ることしかできなかった。)

  • 11.ジナイーダの城
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    Mr.リーズニング:(一瞬にして、稲妻が空を横切ったーー室内は突然暗くなり、静寂が訪れた。窓の外の雨が強くガラスを打ち付ける音だけが響き、何か恐ろしい存在がひっそりと近付いているように感じられた。)
    D.M:ブレーカーが落ちただけです。ご心配なく。ですが、このような雰囲気で皆さんに重たい話をするのも、面白い展開ですね。
    D.M:皆さんをここに集めたのは、我らが友人、ジナイーダが恐らく自殺ではなく他殺であることを知らせたかったからです。
    Mr.リーズニング:(室内が驚きに満たされた。)
    D.M:私が知るジナイーダは、少し頑固なワーカホリックでした。創作に対する姿勢は特にそうです。
    D.M:彼女はどんな物語でもぱたりと「途中で止めた」ことはありませんでした。むしろ常人には理解しがたい、狂気的な行動すら取っていたほどです。
    D.M:例えば、創作中の眠気覚ましに、死んだ狐を部屋にぶら下げる、など。
    エリザ・ゴッドウィン:何に使ったの?
    D.M:気になりますか?その薬草でしたら、今もなお本棚に置かれています。手稿の隣にありますよ。
    Mr.リーズニング:(D.Mは背後の本棚を指さした。)
    夜来香:ダツラです。
    Mr.リーズニング:(夜来香に言われたことが脳裏に浮かんだ。D.Mが彼を呼んだ理由はこれだろう。)
    D.M:すでにお会いされたと思いますが、こちらは私の友人で、薬草に造詣があります。彼がここへ来たのは、この件を証明するためです。
    D.M:彼女がダツラをかじりながら執筆している姿が目に浮かびますね。
    D.M:しかし、彼女が近頃何に忙しくしていたかはご存知ですか?ーーあの未完成の小説が、彼女をずいぶん悩ませていたようです。
    D.M:小説を完結させるためなら我を忘れる境地に陥る彼女を見て、私は驚かずにいられませんでしたーー
    D.M:つい先日、短い時間でしたが、私たちは顔を合わせました。彼女の髪はまるで雑草のようでしたが、それでもその瞳に宿る光は明らかでした。
    D.M:考えてみてください。あなた方が知るジナイーダは、そんな時に自殺するような人でしたか?彼女なら、自分の「子」をこのまま流産させるでしょうか?
    D.M:「創作を始めたら最後、私は死ぬ日までずっと執筆し続けてしまうでしょう」。これは彼女がいつものように口にしていた言葉です。フッ、まさか本当になってしまうとは。
    Missトゥルース:ちょっと待って。それだけじゃジナイーダの死が自殺じゃないとは断定できないわ。
    D.M:ダツラ……用量を守ればいい気付け薬になるが、過度に服用すると死亡することがあります。
    D.M:ここまでくると少し怪しくなってきます。ジナイーダは執筆を終わらせるために自分を死に至らしめたのか、それとも彼女の習慣を知る何者かが、薬に何かを仕込んだのでしょうか?
    Missトゥルース:Mr.リーズニング、どう思う?
    Mr.リーズニング:まだ分からない。だが、D.Mが言っていた本棚の方を見るつもりだ。
    D.M:ここにある者は全て、役に立つと思うなら好きに見ていって構いません。無暗に乱さない限り、ジナイーダはきっと理解してくれます。

  • 12.ジナイーダの城/調査
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    Mr.リーズニング:(これはジナイーダが残した最後の手紙だ。一同が筆跡を鑑定したところ、彼女が書いたもので間違いないという結論に至った。)

    私が愛する者、そして私を愛してくれている者へ
    このような形で別れを告げることをどうか許してほしい。この決断は、私が恐怖や遺憾を感じたから下したものではない。
    むしろ肩の荷が降りて、とても安らかな気分だ。私はもう、苦しみの沼に嵌る苦痛に耐えられない。
    今思えば、私は人生の半分をあの最悪な婚姻に囚われ、精神的にも肉体的にも苛まれていたのかもしれない。
    あの悪魔が去らなければ、私はひと時の安寧を得ることすら叶わなかっただろう。
    執筆は、私の生命における最大の喜びの1つだった。けれど、制御を失った感情が脳を圧迫している今、私は自分が生み出した人物をうまく扱うことができなくなっていた。
    不眠の夜が訪れ、魂のない文字が悪魔となってく私の心を縛り付ける。精神科の医者に助けを求めても、脳内の声は収まってくれなかった。
    私は疲れてしまった。今はただ、ぐっすりと眠りにつきたい。安寧の場所には、雑音がないことを祈る。

    Mr.リーズニング:(棚には小説のノートが置かれていた。普段の執筆で不採用となった原稿だと思われる。)
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    Mr.リーズニング:(ノートには特殊な香りが付いていた。夜来香はダツラの匂いだと言い、D.Mはこれを興奮作用がある薬物だと言った。生前のジナイーダはワーカホリックで、この薬物を使って目を覚ます習慣があった。)
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    Mr.リーズニング:(暖炉の上に涙の瓶が並べられている。瓶は透明で、中身は空っぽなのが分かる。)
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    Mr.リーズニング:(壁には独特な剣が3本掛けられている。)
    Mr.リーズニング:(D.Mに送られてきた『メディアの救済』という本にも書かれていた3本の剣。ファンタジー世界で1人の女性が夫を殺して復讐を果たすという物語だ。事前調査を行ったところ、最後はある者が女性の代わりに夫を殺していたため、このスト―リーはかなり問題視されていたらしい。ジナイーダはオープニングエンディングを使うのが得意で、物語の想像を読者に託していたが、この物語が彼女の過去を反映しているかは不明だ。)
    Mr.リーズニング:(1枚の黄ばんだメモが小説ノートから落ちた。)

    あの電力事故であなたは愛する人を失った。
    しかし予想外の出来事とは完璧なショーに過ぎない。
    真相を求めるなら、郊外の聖歌にあなたの探す人がいる。ーー?

    Mr.リーズニング:(署名はハテナマークだ。郊外?電力事故?予想外の出来事?その時、パストの声が私の思考を遮った。)
    パスト:君の判断には賛成できない……
    Mr.リーズニング:(パストはギュッと拳を握りしめている。勇気をふり絞っているようだ。)
    パスト:……君の武断は……神に対する不敬であり、ジナイーダに対する不敬でもあると思う……
    Mr.リーズニング:(彼は終始神の存在を何よりも優先していた。)
    Mr.リーズニング:ジナイーダは神のもとに帰り、彼女は神の最も純粋な子となった。ジナイーダにとって、生前の葛藤はもう重要ではない。神の抱擁の中、彼女はすでに永遠の安寧を手に入れたのだ。
    エリザ・ゴッドウィン:あなたの信仰は尊重するわ。公爵の言うことも一理ある。ジナイーダは様々な不公平に腹を立てていたし、彼女の小説は復讐の意味を持っていた。口には出さなかったけど、そのペンで正しくない人々を罰していたでしょう。
    エリザ・ゴッドウィン:ただ、時々、確かにあまり好かれない性格をしていたわ。
    パスト:……彼女が君たちの病院の醜聞を小説にしたから、彼女のことをーー目障りに思っていたんだろう?
    アイザック・ゴッドウィン:なんだと!?
    Mr.リーズニング:(ずっと沈黙を保っていた夫が怒りを露にし、握りこぶしをもう片方の手に打ち付けた。)
    Mr.リーズニング:(パストは口を閉ざしたが、固く握られた拳はそのままだった。
    Mr.リーズニング:不満か?それとも緊張?
    パスト:すまない……生前のジナイーダはそんなに過激な性格じゃないんだ。皆彼女のことを誤解している……
    パスト:過去の不幸な婚姻生活に、彼女はひどく苛まれていた……あの手紙を読んだだろう?彼女が言っていたことだ……
    Mr.リーズニング:(彼は再び俯き、ネックレスに口付けた。じめじめとした部屋は異常なほど静まりかえり、窓の外から聞こえる雨の音だけがこの知られざる物語に耳を傾けているようだった。)
    パスト:2年前、彼女は教会を訪れた。最初はよくある普通の告解だと思ったんだけど……知れば知るほど、ジナイーダが家庭内暴力に苦しめられていることが分かったんだ。
    パスト:彼女と知り合った時、物理研究に携わる科学者だという夫はすでに電力事故で亡くなっていた……
    パスト:けれど、彼女はまだ受けた暴力から抜け出せていなかった。痛みは彼が去った後も変わらず彼女の脳裏に焼き付いていて……
    パスト:神は迷える子羊に家への道を示し、ジナイーダに確固たる意志の力を与えた……僕はただ、彼女のために祈り続けなかったことを後悔しているだけなんだ……
    D.M:(D.Mは少しイラついた口調で口をはさんだ。パストの手は終始握られたままだった。)
    D.M:彼女の夫に関しては、私も耳にしておりました。あれは研究者のなり損ない……「科学者」と呼ぶことすらもったいない。2年前、警察は現場で酒の瓶を見つけましたよ。酔っ払いに相応しい、よくある死に方でしたよ。

  • 13.ジナイーダの城
    菖蒲:その事件なら、私も資料を読んだことがある。
    Mr.リーズニング:ほう、聞かせてくれ。
    菖蒲:事実は皆さんが思っているものとは違うかもしれません。
    菖蒲:現地の警察は彼の体内から致死量ある特殊な薬物を確認しました。調査によると、シダ系の植物らしいですが、現地の警察はこれが自主的な服薬であるかどうかを断定できませんでした。
    パスト:……コホン、ジナイーダの話に戻りましょう。彼女の夫は本日の主役ではありません。
    Mr.リーズニング:(つまり、ジナイーダの夫は電力事故で死んだ訳ではないのかもしれない。)
    Mr.リーズニング:(私は壁にある3本の剣を連想した。物語の基盤は彼女と夫の関係性が元となっているのかもしれない。そして話の中では女性本人ではなく、別の人物が彼女の代わりに夫を殺していた)
    Mr.リーズニング:(実の夫は事故死のはずなのに、ジナイーダは別の人物に彼を殺させた。なぜそんなことを?まさか、現実に対応する人物がいるのか?)
    D.M:パスト、あなたの本当の身分については話してくださらないのですか?ジナイーダと親しかったと言うばかりですが、その夫とも全くの無関係とは言えないでしょう?叔父なのですから。
    Mr.リーズニング:(パストはジナイーダの夫の甥だったのか!)

    ◆彼に質問する
    Mr.リーズニング:パスト、悪気はないんだが、ジナイーダの夫との関係性をなぜ黙っていたのか教えてくれないか?
    パスト:……悪かったよ。叔父とはずっと前から連絡を取っていなかった。だから、自分からは誰にも言っていない。
    Mr.リーズニング:それだけか?叔父が謎の死を遂げたと聞いたら、少しは気になるものじゃないのか?
    パスト:俗世の他人には興味ない。彼らが世界を捨てて神のもとに帰り、神の民となるまでは。
    ◆黙っている
    パスト:……叔父とはずっと前から連絡を取っていなかった。
    パスト:神の民になることを選んで以来、俗世の他人には興味ない。彼らが世界を捨てて神のもとに変えるまでは。

    パスト:ジナイーダは僕の友人で、神の国における姉妹と言える存在だった。そして彼女の夫は……
    パスト:彼女の夫は確かに僕の叔父だった……でもその関係以外、特に交流があったわけでもない……
    Mr.リーズニング:(少し冷たい返答をされ、それはジナイーダの夫との関係性を表すような態度に思えた。)
    Mr.リーズニング:(彼の態度はこうも示していた。彼の信仰に関係する人間以外はどんな者でも……たとえ自分の親戚であってもどうでもいいと。)
    Mr.リーズニング:(しかしパストの態度を見て、私は疑問に思った。あのメモにあった「郊外の聖歌」とは、彼のことではないだろうか)
    Mr.リーズニング:(そして、あの謎めいたメモをジナイーダに渡したのは誰なんだ?)
    パスト:でも、私がジナイーダと知り合ったのは叔父がきっかけじゃない。彼女が自分から教会へ足を運んだから知り合ったんだ。それまでは関わりもなかった。
    パスト:まさか、叔父のことを話さなかったから、私とジナイーダの関係性まで疑うのか……
    Mr.リーズニング:(彼は再び拳を強く握った。)
    D.M:落ち着いてください、パスト。友人に対するあなたの情は誰もが理解しています。誰も疑っておりませんよ。
    Mr.リーズニング:(パストは黙り込んだ。)
    D.M:このような話をすべきではありませんでしたね。和やかだった葬式の雰囲気が台無しです。
    D.M:本来やるべきことに戻りましょう。そろそろ追悼の言葉の時間です。今は不愉快な気持ちを隅に置いてーー
    Mr.リーズニング:(D.Mは暖炉の上にある涙の瓶を取った。)
    D.M:永遠の友ーージナイーダを弔いましょう。

  • 14.ジナイーダの城
    Mr.リーズニング:(一同はD.Mの手から自分の瓶を取って行った。この風習は知っている。この辺りの地方宗教では、葬式で死者に関する最後の涙を祝福を施された瓶に入れるのだ。この涙は思いや懺悔を表す。それを瓶に封じることで、懐かしさや後ろめたさを全て世から隔てるのだ。)
    Mr.リーズニング:(パストも自分の気持ちの整理をつけ、追悼の言葉を朗読し始めた。先ほどまでの怯えた様子とは打って変わり、仕事を始めた彼はまるで別人のように強い意志を持っていた。)
    Mr.リーズニング:(一同は少し涙を流し、涙を瓶の中に滴らせた。悲しみの雰囲気がピークに達し、これまでの不愉快なやり取りも涙に流された。)
    パスト:神の庇護の下、我々は亡くなったジナイーダさんを偲び、彼女の死を重く受け止めている。しかし、我々は神が彼女を楽園の抱擁に受け入れていることも理解すべきだ。
    パスト:彼女の生命の中で、彼女は己の才能と信仰で世の人々に愛とは何かを示してきた。彼女のペンは、美しく不思議な世界を描いてくれた。神の懐に戻った今、彼女はその栄誉を享受しているはずだ。
    パスト:私たちは、彼女の作品と彼女が私たちに与えた影響をいつまでも胸に刻む。私たちが再び楽園の彼方で再会するその時まで、彼女は永遠に我々の記憶の中に生き続けるだろう。
    D.M:ジナイーダのことを思い続けたいのであれば……
    D.M:もっと有意義なことをして、彼女を記念するのはいかがでしょうか?
    D.M:人物の設定と序章のみ完成されたあの遺作……永久の眠りについた彼女も、自分の作品がこのままなかったことにされれば、いつまでも安眠を迎えられないでしょう。
    D.M:そして彼女は現実世界での見聞を暗喩を通して本に落とし込むのが好きな作家でした。どうでしょう?彼女の宿願を果たし、この作品を「完成」させませんか?
    エリザ・ゴッドウィン:私たちはどうすればいいの?
    Mr.リーズニング:(彼が机に隠された仕掛けを回すと、ゲームセットが設置されたテーブルが姿を現した。)
    D.M:私はよく彼女と対局を行いました。ゲームの中では人生を予行演習したり、人間の本来の素顔を暴くことができると彼女はよく言っていました。
    D.M:この小説の設定について、ぜひご覧ください。
    D.M:ですがこれだけは約束してください。物語の中の人物がどんな不思議な出来事に遭遇したとしても、物語の進行を止めてはいけません。
    D.M:Mr.リーズニング、これはいい機械ですよーー
    Mr.リーズニング:私はやめておこう。ジナイーダのことなら君たちの方がよく知っている。よそ者の私が彼女の小説に関わるのは、少し具合が悪いだろう。
    Mr.リーズニング:(私が断ろうとした時、D.Mはその執筆ノートを私に渡した。視線を落とすと、執筆ノートにメモが1枚挟まっていた。)
    D.M:おや?それは小説の設定を見てから決めてもいいのでは?興味が沸くかもしれませんよ?
    Mr.リーズニング:(掴みどころのない言葉だったが、明らかに含みのある言い方だった。仕方なく、私は彼に手渡されたノートを受け取った。)
    Mr.リーズニング:(ノートに挟まれた紙は、死亡鑑定報告書だった。)

    ……
    検死に送られてきた時の死者の状態は以下の通りです:
    両目の瞳が縮み、瞳の直径は2mm以下まで縮小。目立つ傷跡や争った痕跡もなし。
    ……薬物の過剰摂取による死亡の可能性あり。更なる検査が必要。
    報告日:3月25日

    Mr.リーズニング:(報告日はジナイーダが亡くなった当日だ。この報告書がジナイーダの死亡報告書なんだろう。)
    Mr.リーズニング:(D.Mはなぜこの報告書を私に見せた?)
    Mr.リーズニング:(こんな回りくどいやり方でジナイーダの死因を伝えたのはなぜだ?……まさか彼は、ここにいる者たちがジナイーダの死に関係していると疑っているのか?D.Mの言葉が私の思考を遮った。)
    D.M:どうでしょう、Mr.リーズニング。この小説の設定が面白いと思いませんか?
    Mr.リーズニング:確かにずいぶんと興味深い。お前はこの「設定」についてどう思っているんだ?
    D.M:人は、人に言えない秘密や動機によって己を偽るものです。そして物語も、一種の偽装と言えるでしょう。
    D.M:ですがどれほど巧妙に偽装を施しても、完璧とまではいきません。この機会を借りて全員の動きや表情を観察し、性格と動機を推測したくはありませんか?
    Mr.リーズニング:(参加する気はなかったが、報告に目を通し、D.Mの言うことも気になったため、やむを得ず頷いた。)
    Mr.リーズニング:(彼は人物のイメージが描かれたカードをテーブルに並べた。)
    Mr.リーズニング:(一同はテーブルのカードを確認した。この小説には合計10人の登場人物がいる。それぞれが好きな人物を選び始めた時、トゥルースが何かに気づいたーー)
    Missトゥルース:待って!この登場人物の設定、ここにいる皆と関係しているみたい。
    Missトゥルース:一番分かりやすいのはゴッドウィン夫婦ね。物語の設定だと、導きの天使と聖なるアスモは運命によって深い繋がりがある。あなたたちは夫婦だし、小説の設定にそっくりじゃないかしら?
    Missトゥルース:次にパスト。設定の中で、ハーフエルフナイトは何らかの秩序を強く信じている。パストも聖職者で、同じように神を信仰しているでしょう?
    Missトゥルース:そしてD.M。設定には謎の人物とだけ書かれているけれど、全ての登場人物を繋げることができる。今日葬式に参加した私たちも互いに知り合いだったわけじゃないけれど、D.Mは全員を知っていたでしょう?これも設定と同じじゃないかしら?
    Missトゥルース:夜魔さんに関してはーー
    Mr.リーズニング:(トゥルースは言い淀んだ。眉をひそめて夜魔を見やり、一瞬だけ思い出に浸ったようだ。)
    Missトゥルース:小説の中で王国に捨てられたルキア姫は、まるであなたの家族と……
    Mr.リーズニング:(彼女は最後まで言葉を続けなかった。夜魔はトゥルースと目を合わせ、最終的にトゥルースの方から目がそらされた。)
    Mr.リーズニング:(トゥルースの気付きは私のヒントにもなった。巧妙に配置された登場人物は、ジナイーダの「サプライズ」を指し示しているのかもしれない。しかし彼女はなぜ彼らを集めたんだ?この小説を完成させるためだけなのか?)
    D.M:ジナイーダが全てを手配したなら、ジナイーダの願い通りに登場人物を分配し合いましょう。

  • 15.ジナイーダの城
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    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさんは聖なるアスモ役だ。アスモは半神に属し、彼女を導く天使と片時も離れない。
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    Mr.リーズニング:その夫、ゴッドウィンさんは天使のガイドを選んだ。彼はアスモに仕え、アスモの優しさと正直さに善の心を影響される。
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    Mr.リーズニング:聖職者パスト、ハーフエルフナイト役。一族に追い出され、真のエルフではないがエルフの力を持っていることを証明するために、彼は1人で破壊された世界樹へと向かう。
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    Mr.リーズニング:夜魔、ルキアの亡霊役。死した帝国の姫君。悲惨な運命を持つ。
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    Mr.リーズニング:D.M、このゲームの組織者。謎めいた未知の人物を演じる。
    D.M:それでは、残りの人物を選んでください。
    霊犀調査員:この人、面白そうだな。放浪者の気分を味わってみたかったんだ。
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    Mr.リーズニング:霊犀調査員、ハーフリングのトリビン役。狡猾な放浪者だ。
    菖蒲:この少し控えめな人物がいいわ。
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    Mr.リーズニング:菖蒲はティフリン役。ネストの森に身を隠している。
    夜来香:彼は善良な人物には見えませんね。面白い。
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    Mr.リーズニング:夜来香、亡霊の守衛役。かつては姫に従っていた守衛だったが、亡霊と化した。
    Missトゥルース:ハーフリング?かわいい種族に見えるわ、彼女にする。
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    Mr.リーズニング:Missトゥルース、ハーフリングのヴィッセル役。景色が美しい町に住んでいる。過去の災いによって、今の町はボロボロだ。
    Mr.リーズニング:なら……残るは主人公だけか……
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    Mr.リーズニング:そして私はシャドウパレスに生まれた孤児を演じる。真相を見つける使命を背負い、シャドウパレスを発つ。
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物語の舞台であるルノ大陸はすでに滅びを迎えていた。
過去の災いによって、今でも流行り病が蔓延っている。
大学士からの任務を受け、この世の神託を得るため、冒険が幕を開けた。

第2章:キャラ演繹(実際にはキャラ演繹の半分までが第1章)

終極.jpg
別ページ参照

第3章

シャドウパレスの孤児オリオンによるルノ大陸での冒険はここで終わりだ。
物語を通して登場人物の詳細を知り、私は思考に陥った。

  • 1.ジナイーダの城
    D.M:どうです?Mr.リーズニング、答えは出ましたか?
    Mr.リーズニング:(D.Mは執筆ノートを閉じ、挑発的な口調で問いかけた。)
    Mr.リーズニング:物語には興味深いポイントがたくさんあった。これらのストーリーや人物を見る限り、確かにジナイーダは自分の生活を話の中に落とし込むのが好きな作者であることが分かった。
    Mr.リーズニング:例えば、あのハーフリングは死んだ狐を部屋に飾っていた。ジナイーダも気付けのために狐を部屋に吊るしていたのだろう?
    Mr.リーズニング:(一同は軽やかな笑い声を上げた。)
    D.M:確かに、彼女はあまり生活に拘りがない女性でした。
    Mr.リーズニング:ゴッドウィン夫婦に当てはまる人物は、聖なるアスモと導きの天使だ。しかしこの話に登場したアスモは、裏で亡霊の魔術師に従い、亡霊の魔術師と薬のやり取りをしていた。だとすると、児童病院の2人とD.Mにも人知れぬ繋がりがあったと考えるのだが妥当だが……薬は現実世界の何を表しているんだ?
    Mr.リーズニング:最後にハーフエルフナイト。ハーフエルフは最終的に「私」を裏切った。ジナイーダはなぜハーフエルフにこんな結末を与えたのだろうか?
    Mr.リーズニング:(ゴッドウィンさんが咳払いした。)
    エリザ・ゴッドウィン:ただの小説よ。本気にすることはないわ。
    Mr.リーズニング:もちろん。あくまで小説の流れに沿って考えているだけだ。ゴッドウィンさんも気にしなくていい。
    Mr.リーズニング:(この時、強い風が窓を開け放った。暖炉の上の肖像画が床に落ち、ガラスが割れる大きな音が響いた。)
    Mr.リーズニング:(パストはすぐさま暖炉の方に顔を向けた。少し気になって彼の視線の先を追うと、どうやら暖炉に置いてあった涙の瓶が1本落ちてしまったらしい。)
    D.M:死者を哀悼する涙の瓶が砕けましたね。これは凶兆だ。
    Missトゥルース:Mr.リーズニング、あれを見てーー
    Mr.リーズニング:(顔を寄せてみると、馴染み深い化学用品の匂いがした。)
    Mr.リーズニング:(執筆ノートに付着していたダツラの匂いにそっくりだ。)
    Mr.リーズニング:これは……涙じゃないな。
    Mr.リーズニング:ほんの少し触れただけなのに、布が焼かれている。この液体には強い腐食性があるんだろう。
    Mr.リーズニング:(一同は警戒し、一歩退いた。)
    Missトゥルース:涙の瓶に入っていたのに、涙じゃなかった?そんな……まさか誰かがすり替えたの?
    Mr.リーズニング:(安全を確保するために私は手袋をはめ、液体が付いた布を切り取り、持っていた試験管の中に入れた。)
    Mr.リーズニング:(追悼の儀式には合計8本の涙の瓶が用意されていた。私とMissトゥルース以外の全員分のもののはずだ。
    Mr.リーズニング:パスト、一番最初に反応していたが、これは君の瓶か?
    パスト:違う、僕のじゃない……
    Mr.リーズニング:そうか?では、誰のものなんだ?
    パスト:分からない……
    Mr.リーズニング:(彼は胸の前のネックレスに唇を当て、黙り込んだ。)
    Mr.リーズニング:(パストの返答は短く、目が合わないように視線を逸らしていた。私は彼の言葉に疑問を抱いた。)
    D.M:ですが、割れたのは都合がいい……ちょうど物語にあった亡霊の魔術師の薬も、瓶が割られていましたからね。
    Mr.リーズニング:(D.Mはわざわざジナイーダの肖像画の前まで歩いた。)
    D.M:ああ、ジナイーダよ。これも全てあなたの思惑通りなのでしょう?我々に何を伝えようとしているのですか?
    Mr.リーズニング:(大げさに振舞うD.Mを見て、この涙の瓶には絶対に何かがあると私は確信した。それに、物語にはまだ解けていない謎もある。それぞれに事情を聞いてみようか……)

  • 2.ジナイーダの城/エリザ・ゴッドウィンの証言
    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさん、この瓶はあなたのものか?
    エリザ・ゴッドウィン:いいえ。
    Mr.リーズニング:なら、誰のものだと思う?あるいは、何か気になることはあったか?
    エリザ・ゴッドウィン:(彼女は首を振り、少し落ち着きのない表情を浮かべた)こんな偶然、どう考えたってあり得ない。誰かがわざとこうなるように仕組んだとしか……そして、誰かがこれが私のものだと証言するはずよ。
    Mr.リーズニング:ほう?君の意見を聞かせてくれるか?
    エリザ・ゴッドウィン:匂いを嗅いだ限り、何らかの薬物であることは確かでしょう。私が持っている薬にもよく似ているし……
    Mr.リーズニング:(彼女は腰元にぶら下がっていた試験管を取り、蓋を開けて手であおいで嗅ぐよう私に示した。)
    Mr.リーズニング:ダツラか?
    エリザ・ゴッドウィン:いいえ。ダツラに似ているけれど、よく嗅ぎ分けてみると少し違うわ。
    Mr.リーズニング:なら、これはなんの薬なんだ?
    エリザ・ゴッドウィン:特殊なシダ植物で作られたものよ。私にとって特別な意味がある薬で……いろいろあった時に私たちの病院を救ってくれたの。
    Mr.リーズニング:いろいろあった時?
    エリザ・ゴッドウィン:あの時……「一定の規模の伝染」の時よ。
    エリザ・ゴッドウィン:思いつく限りの方法を試したけれど、全て失敗に終わったわ。仕方なくヒル治療を採用したのだけれど、その治療法も賛否両論だった。
    エリザ・ゴッドウィン:後のことはご存知の通り。この件も素材としてジナイーダの小説に書き込まれて、うちの病院は世論に責められた。
    Mr.リーズニング:だが、最終的に伝染は抑えられたんだろう?
    エリザ・ゴッドウィン:ええ。思えばずいぶん運が良かったわ。ある特殊な身分を持つ医者がうちの病院を訪れて、彼が丁度研究していた薬を紹介してくれたの。
    エリザ・ゴッドウィン:彼からはヒル治療をやめて、彼の薬を使うようアドバイスされた。幸いにも、それは正しい決断だった。子供たちの症状は改善され、伝染も制御することができたから。
    Mr.リーズニング:もしそれがこれと同じ薬物なら、強い腐食作用はなかったのか?しかも、それを子供に与えたとなれば……
    エリザ・ゴッドウィン:Mr.リーズニング、考え過ぎよ。この薬に腐食性はないわ。
    エリザ・ゴッドウィン:この薬を使った時、短い間だったけれど、子供たちの身に副作用が確認されたのは確かよ。とてもーー静かだったの。
    Mr.リーズニング:静かだった?どういう意味だ?
    エリザ・ゴッドウィン:眠気を誘う薬はいくつかあるけれど、それが悪い副作用とは言えないでしょう。
    Mr.リーズニング:(彼女は私の質問に正面から答えなかった。)
    Mr.リーズニング:なら、その特殊な身分を持つ医者のやらの名を聞いてもいいか?
    Mr.リーズニング:(ジナイーダの小説を連想せずにはいられなかった。物語では、亡霊の魔術師がアスモに薬を渡していたのだから。)
    Mr.リーズニング:(まさか、ゴッドウィンさんとD.Mには本当に薬のやり取りがあったのか?そうだとしたら、ジナイーダはどうやってそれを知ったんだ?)
    Mr.リーズニング:(彼女は再び回答を避けた。)
    エリザ・ゴッドウィン:その質問は私の職権範囲外よ。でも、彼についてほとんど知らないのも本当。
    エリザ・ゴッドウィン:私は、彼が謎に包まれた一族の人間であることしか知られていないの。シダ植物と深いかかわりがある一族らしいわ。
    エリザ・ゴッドウィン:私が教えられるのはここまで。というより、私が知っている情報はこれで全てよ。
    Mr.リーズニング:児童病院が世論に叩かれた後、ジナイーダと連絡を取ったことは?
    エリザ・ゴッドウィン:ないわ。二度も言わせないで。
    Mr.リーズニング:(彼女は急に口調が厳しくなった。鬱陶しいと思ったのか、あるいは何かを隠そうとしているのか……。彼女は少し間を置き、先ほどまでの中立的な態度に戻った。)
    エリザ・ゴッドウィン:私の知る限り、あの頃彼女は別件で忙しくしていたはずよ。彼女の夫に関することで。
    Mr.リーズニング:彼女の夫が事故に遭った時か?
    エリザ・ゴッドウィン:当時、彼女に何があったのかは私も知らない。ただ世論の波のが早く去ることを祈るばかりだったから……そのせいで、彼女の身に次々と降りかかった不幸にも気がつけず……
    Mr.リーズニング:(彼女は徐々に話す速度を落とし、ジナイーダの肖像画に視線を向けた。)
    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさん、あなたの涙の瓶はどれなんだ?
    Mr.リーズニング:(彼女は手術用のメスの模様が描かれた瓶を手に取った。)
    エリザ・ゴッドウィン:ジナイーダは理想主義者で、揺るがない意志を持っていた。私が児童病院の医者じゃなかったら……世論の中心にいない、ただの一般人だったら、彼女と対立することもなかったでしょう。
    エリザ・ゴッドウィン:でも、全てが丸く収まる選択ができないこともある。
    Mr.リーズニング:今でも残念だと感じているのか?
    Mr.リーズニング:(長い沈黙の中で、私は彼女の答えを窺い知れた気がした。)
    Mr.リーズニング:話してくれてありがとう。

  • 3.ジナイーダの城/アイザック・ゴッドウィンの証言
    Mr.リーズニング:ゴッドウィンさん、どうも。あのーー
    アイザック・ゴッドウィン:……それを近付けるな!
    Mr.リーズニング:(彼は試験管に対し、激しい拒絶の反応を見せた。私がそれをしまうと、彼はようやく落ち着きを取り戻してくれた。)
    Mr.リーズニング:すまない、これは君の涙の瓶か聞きたかったんだ。
    アイザック・ゴッドウィン:……俺のじゃない。
    Mr.リーズニング:そうか、なら質問を変えよう。あの時の流行り病は最終的に薬物治療に移行されたようだが、それは君が決めたことか?
    アイザック・ゴッドウィン:いや……
    Mr.リーズニング:なら、奥さんの決断なんだな。子供にとってリスクがあるとは思わなかったのか?
    アイザック・ゴッドウィン:分からない……
    Mr.リーズニング:知らなかったのか?それとも、彼女を阻止しなかっただけか?
    アイザック・ゴッドウィン:彼女は何も悪いことをしていない!彼女の決断は正しかった!
    Mr.リーズニング:(彼は彼女のことを庇っている。他人が少しでも疑うことを許さないようだ。)
    Mr.リーズニング:君が庇えば庇うほど、彼女が危険にさらされると……考えたことはないのか?
    アイザック・ゴッドウィン:……危険?でも、俺は確かに……
    Mr.リーズニング:(彼は心配そうな眼差しを妻に向けた。エリザ・ゴッドウィンは彼の手を取り、慰めるように頷いた。それを見た彼はほっと息をつく。)
    エリザ・ゴッドウィン:Mr.リーズニング、アイザックは普段から私の考えを尊重してくれているの。あの決断は確かに私1人で行ったこと……彼は関係ないわ。
    エリザ・ゴッドウィン:まだ涙の瓶を調べたいなら言うけれど、アイザックの瓶はこれ。私のものと同じよ。
    Mr.リーズニング:(確かに、彼が握っていた瓶にも同じ手術用のメスが描かれていた。)
    Mr.リーズニング:そうか、他意はないんだ。気にしないでくれ。

  • 4.ジナイーダの城/霊犀調査員の証言
    Mr.リーズニング:霊犀調査員、君の番だ。これは君の瓶か?
    霊犀調査員:割れたやつなら違うな。私の瓶はこっちだ。
    Mr.リーズニング:(彼は空っぽの瓶を手に取った。)
    Mr.リーズニング:何も入っていないが。
    霊犀調査員:メソメソ泣くのは性に合わないからね。それに、そもそもジナイーダのこともよく知らないし。
    Mr.リーズニング:君は誰の瓶だと考えている?
    Mr.リーズニング、君は気付いたかい?涙の瓶が置かれていた位置は、丁度肖像画の真下だった。風が吹いたことで肖像画が落ちて、あの涙の瓶が割れたわけだけど、どうして他の瓶は無事だったんだろうな?
    Mr.リーズニング:(調霊犀査員の言葉を聞いて、私は少し考え込んだ。そして肖像画の前まで歩くと、肖像画の裏から途切れた糸を見つけた。)
    Mr.リーズニング:(他の瓶が置かれている位置は暖炉の縁から離れていて、肖像画が落ちても当たらないようになっている。まさか、誰かがわざとあの瓶と肖像画を結んでおいたのか?肖像画が落ちれば、糸が切れて瓶が転がり落ちるように。)
    Mr.リーズニング:(肖像画の裏を探り続けると、やはり長い糸が天井から窓まで繋がっており、窓も閉め切られていなかった。)
    Mr.リーズニング:何者かが故意に仕組んだもののようだ。こんな回りくどいやり方で……一体何のために?
    霊犀調査員:どうだ、Mr.リーズニング。何か気付きはあったか?
    Mr.リーズニング:いや、特には。
    Mr.リーズニング:(今はまだ言うべきではない。他の者たちの反応を確認してからだ。)

  • 5.ジナイーダの城/D.Mの証言
    D.M:Mr.リーズニング、瓶が誰のものか分かりましたか?
    Mr.リーズニング:今のところ、誰のでもなさそうだ。
    D.M:利益が関わってくると、人は己を偽装する理由ができます。自分のものだとしても、彼らは決してそれを認めないでしょう。
    Mr.リーズニング:なら、これはお前の瓶か?
    Mr.リーズニング:(D.Mは嘲笑うような目差しで私をジロジロと観察した。)
    D.M:他の人に聞いたらどうですか?
    Mr.リーズニング:(彼は答えたくないようだが、私は何とかしてその口を開かせる必要がある。)
    Mr.リーズニング:だったら質問を変えよう。ゲームが始まる前、お前はなぜ私にジナイーダの死亡鑑定書を見せたんだ?あんな回りくどい手段を使ったということは……この場にいる者たちの中に、ジナイーダを殺した犯人がいると疑っているのか?
    D.M:的を得た質問ですね、Mr.リーズニング。
    D.M:警察にどのような圧力がかかったのかは知りませんが、彼らは自殺として早くこの事件を終わらせたいようです。しかし死亡鑑定書を見る限り、彼女はある特殊な薬物によって命を落としたはずです。
    D.M:私がかつて研究を諦めたプロジェクトの一つが、その薬物に関するものでした。言っておきますが、ごく普通の真っ当な研究ですよ。
    D.M:初期の頃、その薬物の構造はまだ不安定で、大量に服用すると一定の確率で幻覚を見るようになるほか、マウスを死なせてしまうこともありました。)
    D.M:偶然にも、その薬物はジナイーダが気付けに使っていたダツラによく似ていた……もし目の前に並べられたら、専門家でもない限り、間違えてしまう人の方が遥かに多いでしょう。
    D.M:失敗した実験品をうっかり市場に広ませてしまうことなど、この私が許すはずもない。よって、ジナイーダ本人がこの薬を手に入れる機会はなかったと言ってもいい。何者かが……その入手先をジナイーダに漏らしたのなら、話は別ですが。
    Mr.リーズニング:……お前はここにいる誰かが、違法の取引を介してジナイーダにこの薬物を与えたと疑っているんだな?
    Mr.リーズニング、そんなに驚くようなことではありませんよ。確かに一般人の手には届きにくいですが、医学界にとってはなじみ深いものなのですから。
    D.M:私は多くの医薬会社に原材料を提供しています……今回のような薬物も、その一部でしかありません。
    Mr.リーズニング:つまりジナイーダを殺した薬と接触する機会があった人物……その見当はお前もついていないんだな?
    D.M:彼女の生活習慣を知ることができたのは、身近な人間だけでしょう。
    Mr.リーズニング:お前も身近にいた一人だろう。お前なのか?
    D.M:さあ?どう思いますか?
    Mr.リーズニング:(彼は目を細めて笑みを浮かべたが、その瞳は笑っていなかった。彼の飄々とした態度を崩すために、私は長髪を試みることにした。)
    Mr.リーズニング:ジナイーダを殺した薬が本当にお前のものなら……D.M、この状況はお前にとって不利かもしれないな。
    D.M:はっきり言いますが、ジナイーダを殺したのは私ではありません。それに、あなたには私が殺したという証拠もない。
    Mr.リーズニング:(彼は自分が潔白だと言わんばかりに両手を広げて見せた。)
    D.M:もう一つ教えてあげましょう。先ほど床にこぼれた薬は、まさしくあの時私が研究に失敗した薬です。
    Mr.リーズニング:確かなのか?
    D.M:ええ。
    Mr.リーズニング:お前がわざとそう仕向けたのか?
    D.M:さあ……それを調べるのが探偵の仕事かと。あとは、その瓶にでも聞いてください。

  • 6.ジナイーダの城/「夜魔」の証言
    Mr.リーズニング:夜魔さん、この涙の瓶は君のものか?
    「夜魔」:残念ながら、私のじゃないわ。
    Mr.リーズニング:残念?
    「夜魔」:だって、皆がそれのせいで慌てふためいていたでしょう?それがなんだか面白くて。だから、私のものじゃなかったのが残念っていう話。
    Mr.リーズニング:なら、誰のものだと思う?
    「夜魔」:どうしてそれが生きた人間のものだと決めつけているの?
    Mr.リーズニング:君もD.Mと同じように、瓶を割ったのはジナイーダの「意志」だとでも言いたいのか?夜魔さん、現実は小説とは違う。
    でも、彼女からのヒントかもしれないでしょ。彼女がヒントを与えたのは、これで2回目よ。
    Mr.リーズニング:……1回目というのは?
    「夜魔」:もちろん、小説の中で。ルキア姫はオリオンがシャドウパレスに戻ろうとした時に現れ、戻るなと彼に忠告した。
    Mr.リーズニング:それなら覚えているが、何か深い意味があるのか?
    「夜魔」:彼女はあなたにだけではなく、彼女自身にも忠告していたのよーー
    Mr.リーズニング:数年前、ジナイーダは執筆の素材を求めて私の住まいに足を運んだ。あの頃、彼女は自分の夫から離れるために一人暮らしをしていたわ。夫の暴力から離れても、彼女はずっと苦しんでいた。
    「夜魔」:苦しみを感じる時間は、その源を断ち切っても短くはならない。それに気づかせてくれたから、私は彼女に興味を持つようになったの。
    Mr.リーズニング:それは全部彼女の私的なことだろう。どうやって知ったんだ?
    「夜魔」:馬鹿ね。インスピレーションを貰っていたのは、彼女だけじゃなかったってこと。
    「夜魔」:でも残念なことに、人や物の面白さって長持ちしないのよね。……結局彼女も他の大多数の人間と同じように、なんの新鮮味もなく、どこにでもあるような物語に溺れていったわ。
    「夜魔」:だから、私は彼女を帰した。彼女にとっては、屈辱的な「追放」だったかもしれないけれど。
    Mr.リーズニング:屈辱?
    「夜魔」:私は彼女との関係を絶ち、再会を拒んだ。でも、2年前に彼女から手紙が届いたの。「讃えられるべき新鮮な出来事」がようやく起こったと。
    Mr.リーズニング:ほう。どんな?
    「夜魔」:いい知らせだったわ。彼女の旦那さんが死んだのよ。
    「夜魔」:新聞に載っていた彼女は悲しみに暮れていたけれど、あれは公衆に見せるためのものでしょう?
    「夜魔」:それに彼女は、夫の死はただの事故じゃないとも言っていた。旦那さんの荷物を片付けていた時、見たことのない薬の瓶が出てきたから。
    Mr.リーズニング:(また薬か……)
    「夜魔」:この薬の名前は「ドーフィン」。特殊なシダ植物でできていると手紙に書かれていたわ。夫を殺した元凶はそのドーフィンかもしれないって、彼女はそう推測していたの。
    Mr.リーズニング:「ドーフィン」?
    Mr.リーズニング:(私はアナグラムゲームのことを思い出した。ライン上のマスを組み合わせると、ドーフィンという単語が浮かび上がっていた。)
    Mr.リーズニング:待てよ……ドーフィンという薬もシダ植物が材料になっているのか?
    Mr.リーズニング:(児童病院で伝染病を直した薬もシダの植物でできていた。これは偶然か?)
    「夜魔」:彼女は自分の判断を何よりも信じていた。だから、薬の手掛かりを探すようにしたそうよ。私は余り薦めないと返事の手紙に書いたけれど。
    Mr.リーズニング:それはなぜ?
    「夜魔」:そもそも彼女は自分の夫を愛していなかった。だから、別に真相を探る必要も、私に何かを証明する必要もないわけでしょう?)
    Mr.リーズニング:普通の人からすれば、彼らは夫婦だっただろう。
    「夜魔」:彼女は普通なんかじゃなかったわ。
    Mr.リーズニング:その返事を書いた後、連絡を取ったことは?
    「夜魔」:ないわね。
    Mr.リーズニング:(彼女は静かに最後に残された涙の瓶を取り、ギュッと手に握った。
    「夜魔」:あんなに面白い人がいなくなってしまったなんて、本当に残念。
    Mr.リーズニング:(そう言い、夜魔は何かに思いを馳せた。)

  • 7.ジナイーダの城/夜来香の証言
    Mr.リーズニング:夜来香、これは君が落とした瓶か?
    夜来香:もちろん違います。私の瓶はこれです。
    Mr.リーズニング:(彼は優雅に涙の瓶を1本取り、鼻先に近付けて匂いを嗅いだ。
    夜来香:この匂い、分かりますか?
    夜来香:伯爵に招待された私は、ジナイーダが愛用していたダツラについて調査をしていました。そのため、私の両手にはダツラの匂いが染みついています。
    夜来香:この香りは隠そうと思って隠せるものではありません。信じられないなら、瓶の中身の匂いを嗅いでみてください。
    Mr.リーズニング:(彼が持つ瓶からは確かにダツラの匂いがした。他の瓶にはない匂いだ。)
    Mr.リーズニング:そうか、分かった。

  • 8.ジナイーダの城/菖蒲の証言
    Mr.リーズニング:菖蒲、割れた瓶は君のものか?
    Mr.リーズニング:(彼女は首を振った。)
    Mr.リーズニング:何か気になるものは見なかったか?
    Mr.リーズニング:(彼女は再び首を振った。)
    菖蒲:Mr.リーズニング、どうしてこの瓶の主を見つけなければいけないの?
    Mr.リーズニング:これは計画された「事故」に見えるからだ。それに、涙の瓶の出現によって、複数の事件が繋がった。
    Mr.リーズニング:ゴッドウィン夫婦はある医者から薬を貰い、ジナイーダは夫の遺品を整理していた時に薬を見つけた。そしてD.Mは昔、とある薬の研究に失敗している。
    Mr.リーズニング:3種類の薬はそれぞれ児童病院の伝染病、ジナイーダの夫の死、そしてジナイーダの死に対応していた。
    Mr.リーズニング:そして3つの事件を結びつけた人物が、ジナイーダだ。
    Mr.リーズニング:この瓶は何者かによって、私たちを惑わすために故意に割られたものだと私は踏んでいる。
    Mr.リーズニング:どのような秘密が隠されているのか……明らかにしてやらねば。

  • 9.ジナイーダの城
    Mr.リーズニング:初歩的な推測はできている。
    Mr.リーズニング:あの涙の瓶は、何者かによって割られた。先ほど、肖像画の裏で涙の瓶と肖像画を繋いでいた糸を見つけた。この涙の瓶は風のせいではなく、肖像画が落ち、糸が切れた反動で地面に転がり落ちたのだろう。
    Mr.リーズニング:(トゥルースは地面に這いつくばりながら手掛かりを探した。)
    Missトゥルース:あったわ!やっぱり床に糸が残っていたわ。
    Mr.リーズニング:犯人が瓶を割った目的は、誰かの注意を引くためか、調査を惑わすためか……あるいは、人目を忍んで行動するため?
    Mr.リーズニング:この場にいる全員が、これを自分の涙の瓶とは認めなかった。なぜこうなったのだ?それはこの涙の瓶に入っていた薬が、ここに居る全員に関わっていたからかもしれない。
    Mr.リーズニング:後は消去法だ。まず、ゴッドウィンさん。その腰に付けている試験管を渡してくれ。
    Mr.リーズニング:児童病院はある特殊な薬を使って子どもの伝染病を治療した。涙の瓶に入っていた薬は児童病院の薬と匂いが似ていたが、同じものではない。
    Mr.リーズニング:(トゥルースはじっくりと2本の試験官の匂いを比較した後、興味深そうにこちらを見ていた霊犀調査員にも試験管を渡した。他の者たちはかなり抵抗があるようで、一部は手で鼻を覆っていた。)
    Mr.リーズニング:ゴッドウィン夫婦はすでに一度世論に叩かれた。自分の薬を晒すような真似はしないだろう。涙の瓶はゴッドウィン夫婦のものではないはずだ。
    Mr.リーズニング:次に霊犀調査員。彼はジナイーダの城に偶然迷い込み、ジナイーダやここにいる他の者たちと親しいわけでもない。涙の瓶を割って一同をからかう理由なんて尚更ないだろう。
    Mr.リーズニング:菖蒲も同じだ。彼女は私の友人で、ジナイーダのことも知らない。礼儀上追悼の儀式には参加したが、涙の瓶を割る理由は彼女にもないはずだ。
    Mr.リーズニング:次に夜魔さん。夜魔さんは短い間ジナイーダと交流があったが、ジナイーダの夫が死んで以来、一度も連絡を取っていない。夜魔さんにも十分な動機はない。
    Mr.リーズニング:そして、この部屋でジナイーダのダツラに触れた人物は2人いる。1人は私で、もう1人は夜来香だ。ダツラの匂いが付いた涙の瓶が夜来香のものだった。だから彼の可能性も省いていいだろう。
    Mr.リーズニング:これで6人は除外されたわけだが……残されたパストとD.Mの2人は、はっきりとした理由を示さなかった。
    D.M:さすがは名高い探偵さんですね。
    Mr.リーズニング:もう少し範囲を縮めよう。
    Mr.リーズニング:実は、ゲームが始まる前にD.Mが特別なものを見せてくれた。ジナイーダの死亡鑑定書だ。そこには、死者が特殊な薬物によって亡くなったことが書かれていた。
    Mr.リーズニング:私がD.Mに質問した時、彼は割れた瓶から零れた薬がーー研究に失敗した彼の試験品だと言った。
    Mr.リーズニング:もう一度聞く。D.M、正直に答えてくれ。
    Mr.リーズニング:この割れた涙の瓶に入っていた薬は、お前が研究に失敗した薬か?
    D.M:自分のものですから、よく知っているのは当然です。この特別な匂い、そして液体の粘りから判断したところ、確かにそうだと確信しました。
    D.M:残りの薬を試験管に保管したのでしょう?どうしても心配なら、私の実験室を貸しても構いません。残りの薬を持って行って、本当かどうか確認してはどうです?
    Mr.リーズニング:(D.Mの態度はとても誠実に見えた。)
    Mr.リーズニング:いいだろう。それと、その薬を服用した者は一定の確率で幻覚を見るようになり、最悪の場合死に至るとも言っていたな。これは確かなのか?
    D.M:ええ。
    Mr.リーズニング:ジナイーダの死亡鑑定書には、死者の「両目に縮瞳が認める」という特徴が書かれていた。そこから死者が薬を摂取したことで亡くなったという結論に至ったわけだが……だとしたら、ジナイーダの命を奪った薬には一定の幻覚作用があって、その薬のせいで彼女の瞳孔は収縮していた……この推論も間違ってはいないな?
    D.M:ええ……確かにそう言えます。
    Mr.リーズニング:(D.Mは胸の前で両手を絡ませ、分かり切った答えを私が口にするのを待っているように見えた。)
    Mr.リーズニング:薬が絨毯についた時、それが何の液体かは分からなかったが、何よりも先にその匂いが鼻を突いた。それはダツラととても似ている匂いだった。
    Mr.リーズニング:それに関しては、ゴッドウィンさんも先ほど同じ意見を持っていた。
    エリザ・ゴッドウィン:ええ、確かに匂いはとても良く似ていたわ。じっくり嗅ぎ分ければ違いが分かるけれど……ここまでくると専門家の範疇だから、一般人には判別が難しいんじゃないかしら。
    Mr.リーズニング:では諸君、考えてみてくれ。この薬とダツラを目の前に並べた時、一般人であるジナイーダにそれを判別することはできただろうか?
    Missトゥルース:分かった!Mr.リーズニング、つまり何者かがこの薬とジナイーダが愛用していた気付け用のダツラをすり替えたってことね?そして執筆で忙しかったジナイーダはそんなことを気にする余裕もなく、普段から使っている物に細工がされているか判断することもできなかった。だから誤って服用し、亡くなってしまったの?
    Mr.リーズニング:(私は頷き、補足した。)
    Mr.リーズニング:だが、これは推論でしかない。検証したければ、ジナイーダの執筆ノートと残りの薬を実験室で比較してみればいい。ジナイーダが薬を服用したなら、そのノートにも薬が付着しているはずだ。
    Mr.リーズニング:(ここまで話を進めると、パストが椅子にぶつかった。)
    Mr.リーズニング:彼女の生活習慣を知ることができたのは、身近な人間だけ……事情聴取の最中、D.Mは私にそう言った。涙の瓶は彼のものではないはずだ。自分の薬を瓶に入れるなんて、犯人が自分だと言うようなものだろう、だとすれば、答えは一つーー
    Mr.リーズニング:(私は人差し指でその方向を……パストを指さした。)
    Missトゥルース:パストの涙の瓶に入っていたのがジナイーダを殺した薬なら、これは何を意味するのかしら?
    Mr.リーズニング:それは、この瓶をわざと割った人間に聞くべきだろう。
    Mr.リーズニング:(私はD.Mの方を振り向いた。)
    Mr.リーズニング:この瓶は意図的に割られたものだ。全員の瓶は一人の手に集められ、肖像画の下に並べられた。パストから涙の瓶を受け取った時、彼はすでに入っていたのが涙ではなく薬であることに気付いていたんだろうーー自分が研究した薬とやらに、ずいぶん自信を持っているようだったからな。
    Mr.リーズニング:その「彼」が、正にD.Mだ。
    D.M:分かりました。どうやら認めなくてはならないようですね。確かに、瓶を割ったのは私です。
    D.M:犯人は殺人を犯した後に凶器を晒すことで満足感を得る……そんな心理を聞いたことがあります。
    D.M:私にとって、この薬の匂いはあまりにも馴染み深いものでした。ましてやパストにそんな度胸があるなんて、瓶を集めて暖炉の上に置いた時まで考えすらしませんでした。
    D.M:だからあの停電の時、私はあなたの瓶を抜き取ったのです。こんな形で凶器が暴かれた時、あなたはどんな顔をするのか……早く見たくて仕方ありませんでしたから。
    Mr.リーズニング:(部屋に再び静寂が訪れた。窓の外で雨粒が窓を打ち付ける音だけがこだましている。)

  • 10.ジナイーダの城
    パスト:……違う……
    パスト:……満足感のためなんかじゃない……
    Mr.リーズニング:(パストは部屋の隅の影に隠れていて、表情がはっきり見えない。しかし、その光景に私は既視感を覚えたーー物語の最後、ハーフエルフも同じようにシャドウパレスの闇の中に身を隠していたからだ。彼が暗闇から歩み出た時、オリオンはようやく彼が自分を裏切ったことを悟った。)
    パスト:薬を涙の瓶に入れたのは、僕の罪を永遠に封印してもらうためだ……
    パスト:僕が神の国へ返った時に、僕の罪を清められるよう……
    Mr.リーズニング:(彼は再び胸の前のネックレスに口付けた。)
    パスト:許してくれ、ジナイーダ……
    パスト:伯爵から聞いただろう?ジナイーダの夫は、僕の叔父だったと……
    パスト:僕は小さい頃から病気を患っていて……
    Mr.リーズニング:(彼は手で自分の顔を覆い、無意識に腕も隠そうとしていた。だが、彼がどう隠しても、そのまだらな白い皮膚は露になったままだった。)
    パスト:これは生まれつきだから、僕にはどうしようもない。なのに叔父は僕のことを……不純な雑種で、不浄な人間だとよく言っていたんだ。
    Mr.リーズニング:(彼はギュッと拳を握りしめた。)
    パスト:だからあの夜、僕はこっそりと叔父の後をつけて、叔父の実験室に忍び込んだ。そこでゴム手袋を付けて、彼の器材を使って感電死させた……
    パスト:彼の自業自得だ……僕の苦しみを、彼も味わうべきだったんだ……
    パスト:その後ジナイーダに出会って、叔父に苦しめられていた人間が他にもいたことを知ったよ。
    パスト:でも彼女を前にした時、僕はひどく動揺した……もし彼女の訪問に、何か意図があったとしたら?もし確かな証拠を握られていたら、僕はどうすればいい?
    パスト:……僕は叔父を殺したことを彼女が知ったら、このことを世にバラしてしまうかもしれない……聖職者でありながら私怨のために人を殺めるなんてバカげていると、人々の間で噂されるに違いない……
    パスト:それに、彼女はあの日を境にぱったりと教会に来なくなった。僕の不安は膨らむばかりで、考えれば考えるほど僕を嘲笑う声が大きくなっていって……
    パスト:そんな恐怖に絶えず苛まれていた僕は、彼女に会いに行くことにした。
    パスト:彼女は僕を信頼していたし、僕が彼女のことを本気で心配していたと思い込んでいたよ。執筆で忙しくしていたから、教会に顔を出さなかったのだとーー
    パスト:僕は彼女の習慣を調べ、ダツラをすり替えた。後のことは、君たちの想像通りだ。
    Mr.リーズニング:(彼の声はどんどん小さくなり、窓の外の雨の音がますます大きく聞こえた。)
    Missトゥルース:彼女の夫を殺したことを、彼女に知られたのではないかと疑ったからーーただそれだけでジナイーダを殺したの?
    Missトゥルース:仮にその事実を彼女に知られたとしても……あなたは二度も彼女を傷付けるんじゃなくて、自首するべきだったのよ!
    パスト:……本当に、申し訳ない。
    Mr.リーズニング:(怒っているトゥルースの傍で、菖蒲が立ち上がった。)
    菖蒲:そんなものは、あなたの言い訳でしかない。
    菖蒲:ジナイーダの夫の資料に書いてあったと言ったでしょう?死者の体内から、致死量の薬物が発見されたと。守秘義務があるから、今までの事件の真相を黙っていたけれど……パスト、これは私個人からの言葉だと思って聞いて。
    菖蒲:薬物が体内に留まっていた時間から逆算した結果、彼がその薬を服用したのは感電する前だった。
    Missトゥルース:つまり……あなたが手を下す前に、彼はすでに死んでいたの。そして今、ジナイーダもその「誤解」のせいで死んでしまった……
    Missトゥルース:あなたは彼女を大切な友人だと言っていたのに……なんて残酷なことを。
    Mr.リーズニング:(パストは力なく地面に膝をつき、頭を抱えて悲痛の表情を浮かべた。しばらくした後、彼は嗚咽交じりにこう言ったーー)
    後悔していないわけじゃない。僕はとうに神の意志に背いてしまった……すまない、ジナイーダ。すまない、すまない……
    Mr.リーズニング:(彼は目を閉じたまま、何度も何度も謝罪した。)
    菖蒲:あなたにはもう、チャンスは残されていない。あなたの神があなたを許すかは知らないけれど、法律はあなたを許さない。
    菖蒲:パスト、一緒に来てもらうわよ。
    菖蒲:Mr.リーズニング、悪いけど調査のために残りの薬と執筆ノートを押収してちょうだい。執筆ノートに残った薬が、何よりの証拠となるから。

  • 11.ジナイーダの城
    Mr.リーズニング:トゥルース?
    Mr.リーズニング:(トゥルースに執筆ノートを渡してもらおうとした時、彼女がそのノートを抱えて考え込んでいる姿が目に入った。)
    Missトゥルース:Mr.リーズニング……
    Mr.リーズニング:ん?どうした?
    Missトゥルース:さっきうっかり最後のページまでめくったら、ジナイーダの手書きの手稿が挟まっていたの。私たちが見落としていた、小説のもう一つの結末よ。
    Missトゥルース:バキッと骨が折れる音が響き、亡霊の魔術師は倒れ伏した。燃え上がる邪霊の炎は徐々に消えていき、灰色の煙だけがその場に残された。
    Missトゥルース:亡霊の魔術師に打ち勝ったハーフエルフは、ついに世界樹の足下にたどり着いた。谷の間を風が吹き抜け、血に染まる彼の服のすそを少しめくった。
    Missトゥルース:「我が子よ、もうそなたに敵はいない。」まるで谷の奥底から語り掛けてきたかのような、重厚感のある声だった。巨大な反響音をこだまする。それは、世界樹の呼びかけだろうか?
    Mr.リーズニング:(パストは菖蒲の手を振りほどき、その執筆ノートに飛びついた。)
    Mr.リーズニング:(彼の背中は震えており、丁寧にそのページを手に取った。)
    Missトゥルース:ハーフエルフは思った。これが世界樹からの返答なのだろうか、と。
    Missトゥルース:その瞬間、巨大なエネルギーが彼の全身に注がれ、今までにないほど体が軽やかに感じられた。それは柔らかい葉っぱを彷彿とさせる、優しい感覚だった。
    Missトゥルース:世界樹の頂まで飛んで行った時、彼はようやくあの枯れ果てていた木葉から、新たな花が芽吹いたのを見ることができた。
    Missトゥルース:かつて彼が信じていたように……この世界は秩序を取り戻したと、ハーフエルフはついに理解した。
    Mr.リーズニング:(この結末を読み終えても、誰も沈黙を破ろうとはしなかった。一方パストはその目から涙が溢れ、手稿にポタポタと大粒の雫を落としていた。)
    Mr.リーズニング:(驚いたことに、そのページに涙が触れた瞬間、パチッと紙に火が点き、執筆ノートは忽ち炎に包まれた。
    Mr.リーズニング:(エリザ・ゴッドウィンがどこからか水を持ってきたことで、なんとか鎮火はできたが……)
    Mr.リーズニング:(焼け焦げた痕跡以外、床には何も残されていなかった。)
    「夜魔」:これもジナイーダが仕組んだものかもしれないわね。面白くなってきたわ……
    Mr.リーズニング:(私はしゃがんで地面に残った灰を指ですくい、じっくりと匂いを嗅いでみた。)
    Mr.リーズニング:化学用品の匂いがするな。あの手稿には何らかの特殊な細工が施されていたんだろうな。
    D.M:ジナイーダは、今の私たちにも結末を用意してくれたようですね。彼女は、パストにもう一度チャンスを与えたかったのかもしれません。
    Mr.リーズニング:(私とトゥルースは肩を落とした。)
    D.M: Mr.リーズニング、これで唯一の証拠もなくなってしまいました。どうやらあなたの負けのようです。
    菖蒲:パスト。事情聴取があるから、警察署には来てもらうわよ。
    Mr.リーズニング:(パストは重い腰を上げた。)
    パスト:行くよ……
    D.M:待ってください。Mr.リーズニング、その前にあなたに聞いておきたいことがあります。あなたがジナイーダだとしたら……ハーフエルフの2つの結末のうち、どちらの方がお好みですか?
    D.M:裏切者として世界を滅ぼすか、救済者として世界を蘇らせるか。
    Mr.リーズニング:私はジナイーダではないから、私個人の意見しか述べられないが……2つとも好きにはなれない。
    Mr.リーズニング:罪は、秩序に沿った正しい罰が与えられるべきだ。だから、1つ目は気に食わない。
    Mr.リーズニング:どれほど美しい景色に包まれても、犯した罪は消えてなくならない。だから、2つ目も嫌いだ。
    D.M:では、このジナイーダの城の結末は気に入りましたか?
    Mr.リーズニング:(私は目の前に残された灰と、恍惚とした様子のパストに目を向けた。)
    Mr.リーズニング:昔なら……私は迷わず、正義の名のもとに正しい罰を与えるべきだと考えただろう。こうすることでしか罪悪の本性は変えられないのだと信じていたから。
    Mr.リーズニング:だが今の私は……昔の自分を疑うようになった。
    D.M:ほう?では、人の本性は変えられるものは何だと思いますか?
    Mr.リーズニング:私にとってはーー懺悔だ。

全章完了

ストーリーの大まかなまとめ

  • 2年前、エリザ・ゴッドウィンの経営する児童病院で伝染病が発生する。
    ゴッドウィン夫妻は思いつく限りの対策を施したが意味をなさず、仕方なく賛否両論の「ヒル治療」を使うことにした。
    しかし友人のジナイーダがそれを小説のネタにしたことで病院は世間から叩かれ、以降エリザとジナイーダが会うことはなかった。
    エリザは特殊な身分を持つ医者から「とある薬」を薦められ、危機から脱することができた。
  • 2年前、生まれつきの病を罵倒してくる叔父に耐え兼ねたパストは、彼の実験室に忍び込んで感電死させた。
    殺した直後から彼の妻であるジナイーダがパストの教会に通うようになり、パストは叔父の被害者が自分だけではなかったことを知る一方で、ジナイーダが殺人の証拠を持っているのではないかと疑っていた。
    ジナイーダが教会に来なくなってからは更に疑心暗鬼に陥り、パストはジナイーダの城に訪問して生活習慣を調べ、彼女か愛用する気付け用ダツラと「ドーフィン」*1をすり替えた。
  • 数週間前、オルフェウス探偵事務所へD.Mからの手紙が届く。
    手紙は人気小説家ジナイーダの葬式に招待するという内容で、彼女の作品である「メディアの救済」という復讐をテーマにしたファンタジー小説が添付されていた。
    D.Mの思惑、警察曰く「自殺」である筈のジナイーダの死因……それらに疑問を抱きつつも、友人の菖蒲に連絡を取り、Missトゥルースと共にジナイーダの城に向かうことにした。
    しかしリーズニングとトゥルースが城に到着した時、既に葬式は始まっていたため参加することはできなかった。
  • 葬式が終わり、客人たちが追悼の間からやって来た。
    参加者は葬式の主催者D.Mを始めとするリーズニングと過去の事件等で知り合った5人、そしてジナイーダの友人である聖職者パストと児童病院の責任者を務めるエリザ・ゴッドウィン、その夫アイザック・ゴッドウィン。
    エリザはジナイーダとは長年の友人だったが、2年前から連絡を取っていなかった。
    パストは2年前にジナイーダと知り合い、葬式を訪れたのはジナイーダから「サプライズ」があると約束されたからだという。
  • D.Mは参加者たちに、今回皆を集めたのはジナイーダが「自殺」ではなく「他殺」だからだと告げる。
    彼曰く、ジナイーダは物語の執筆を始めると絶対に途中で止まらないワーカーホリックで、眠気覚ましに死んだ狐を部屋にぶら下げるような狂気的な面があったという。
    数日前にD.Mが会った時の彼女は物語の執筆中で、物語の完成に狂気的な執着がある彼女が未完成の小説を遺して自殺をするのか?とのことだった。
    一同はD.Mの声掛けで「涙の瓶」*2の儀式を行う。
  • 儀式の後、D.Mはとある提案をした。
    「ここにはジナイーダの遺した序章と人物設定だけが作られた未完成の小説がある。この小説のキャラクターをそれぞれが演じ、小説を完成させるテーブルゲームをしないか」と。
    物語のキャラクター達は今回の葬式の参加者たちと似通った特徴があり、リーズニングはこの物語には現実のジナイーダの生活の話が落とし込まれていると考えた。
  • ゲーム終了後、儀式で使った涙の瓶の1つが砕けて強烈なダツラの香りが漂う。
    瓶の液体には強い腐食性があり、参加者たちの証言によって、この液体はかつてD.Mが研究を諦めたプロジェクトの失敗品の幻覚薬「ドーフィン」で、2年前に死んだジナイーダの夫もこの薬が死因かもしれないことが判明した。
    リーズニングはD.Mに見せられた死亡鑑定書からジナイーダが「ドーフィン」の摂取によって亡くなったと推理し、犯人がパストであることを突き止める。
  • ジナイーダの遺作でパストが演じたハーフエルフは裏切り者として亡霊の魔術師に利用されて死んだ。
    しかし、ジナイーダはもう1つの結末を描いた手稿を遺していた。
    ーー亡霊の魔術師に打ち勝ったハーフエルフは、ついに世界樹の足下にたどり着き、世界樹からの呼びかけを得る。
    ーー枯れ果てた世界樹からは新たな花が芽吹き、ハーフエルフは世界が秩序を取り戻したのだと理解した。
    この結末を読んだパストは泣き崩れ、その涙が手稿に触れた瞬間、手稿は炎に包まれて焼き消えてしまった。
    菖蒲はパストに、警察の調書では死因と思われる「薬の服用」は逆算すると「感電死」よりも前のものだと告げ、ジナイーダに謝罪するパストを警察署に連れて行った。
  • D.Mはリーズニングにハーフエルフの境遇について、裏切者として世界を滅ぼすか、救済者として世界を蘇らせるかどちらの結末が好みかを問いかけた。
    リーズニングは「罪は秩序に沿った罰が与えられるべきだと思うので1つ目の結末は気に食わない。2つ目も、美しい景色に包まれようと犯した罪は消えてなくならないので気に食わない」と言った。
    D.Mはジナイーダの城の結末は気に入ったかを問いかけた。
    リーズニングはパストを見ながら、「かつての自分なら正義の名のもとに正しい罰を与えることでしか人の本性を変えられないと考えていた」と言った。
    そして「今の自分は過去の自分を疑っている。懺悔によって、人の本性は変えられると思う」と続けた。


コメント

  • このストーリーは大好きなので、セリフも細やかに書かれていてとてもわかりやすくて良かったです -- あい? 2023-10-29 (日) 20:08:13

*1 D.Mが研究を諦めたプロジェクトの失敗品。ダツラに似た香りが特徴的。摂取すると幻覚症状が起き、死に至ることもある。
*2 この辺りの地方宗教では葬式で死者に関する最後の涙を祝福を施された瓶に入れる。この涙は思いや懺悔を表す。それを瓶に封じることで、懐かしさや後ろめたさを全て世から隔てる。