失われた反響/第一章

※象牙の塔シリーズ衣装はこちらへ

プロローグ

年に一度のクリケットボール決勝戦は、波乱の末に幕を下ろした。
そして騒ぎが収まると同時に、時計台出火事件の新たな手掛かりが浮かび上がる。
「ナイチンゲール」の不幸な境遇が、「戒告」と「白鳥」に深く関係していることが明らかになったのだ。

一方、学院では様々な怪奇現象が起こり始めていた。
小動物が次々と行方不明になったり、空き教室から誰かの囁き声が聞こえたり、誰も手入れしていないはずの花壇にイチハツの花が咲いていたり……
そういった異変が、これまで平穏だった学院に影を落としていった。

真実が1つずつ明らかになるにつれ、学院を包む不穏な空気はより一層濃くなっていく。
迫りくる嵐に、探偵部は果たしてどう立ち向かうのか？
今、聖なる使者と見なされるあの人物によって、物語の新たな章が幕を開けようとしていたーー

第一章「騒がしい探偵部」

• 1. 探偵社
  「タッチダウン」：匿名のビックリ箱事件……チャンピオンロード招き猫幽霊事件……ペット探しの依頼……
  「タッチダウン」：……っておい！亀探しは今月でもう3回目じゃないか！
  「タッチダウン」：もっとまともな依頼はないのか？ビックリ箱から壊れた木製のウグイスが飛び出してきて、依頼人が爆笑してたぞ！
  「アンサー」：まあまあ、こういった日々の積み重ねが名探偵になるための近道になるんだから。
  「アンサー」：それに、「試金石」が図書館の幽霊暗号事件の調査に向かってる。何かいい知らせを持ってくるかもしれ……ほら、帰ってきた！
  「アンサー」：おはよう、「試金石」。幽霊暗号とやらを残した犯人は見つかったか？
  「試金石」：ああ……ここまで手強くて、推理のしがいがある事件は初めてだ！
  「試金石」：あの引退したおっかない図書館管理員が、パイプの中でハムスターを飼ってるなんて思いもしないだろ？
  「野生児」：おはよう！探偵部の新たな挑戦を迎える準備はできているかな？
  イノシシさん：フフン！
  「野生児」：おや？「試金石」、顔に図書館の幽霊暗号が写っているようだね！
  「試金石」：パイプの中で散々転がったハムスターが顔面に落ちてきたら、お前の顔にも同じ模様がつくだろうな。
  「タッチダウン」：部長、もう16日だぞ。「七弦琴」の9通目の手紙が届いたはずだが、今のところ時計台出火事件の調査に進展はない。
  「アンサー」：「戒告」は何かの病気にかかってずっと姿を見せないし、「白鳥」は……
  「試金石」：「ごめんね、面会予約は冬まで埋まってるの」とか言って、いつもはぐらかす。
  「野生児」：まあ、そう焦らないで……今日集まってもらったのは、次の対策を練るためなんだ。
  「アンサー」：対策って、雨上がりの午前中にイノシシさんと泥遊びすることか？足が泥だらけじゃないか！今日の掃除当番はイノシシさんに任せたからな！
  「野生児」：こ、これは探偵部の日常業務だ！今朝、校内をパトロールしていたら、グラウンドの近くで怪しい泥の跡を見つけて……
  「アンサー」：十中八九イノシシさんの仕業か、西南の森から猫でも迷い込んだんだろう。
  「野生児」：ムム……確かにそれも……ゴ、ゴホン！
  「野生児」：いいかい、諸君！「戒告」はすでに完治して昨日から授業に戻っている。ダンス部の公演も大成功を収め、「白鳥」にも時間ができたようだ。
  「野生児」：それから、学校側に事件の手掛かりを提供したというボーイスカウトの中に、まだ我々が話を聞いていない人物が2人いる。
  「タッチダウン」：「晩鐘」なら、昨日の昼に中央庭園ですれ違ったぞ。
  「野生児」：そう、今こそ調査を再開する好機というわけさ！早速今からーー
  
  「野生児」の熱弁は小さなノックの音に遮られた。
  返事がなかったため、訪問者はそっと扉を開け、ためらいがちに探偵部に入ってきた。
  
  「タッチダウン」：おはよう、「信号」。今日は直接手紙を届けに来たのか？ウィックはどうした？イノシシさんが会いたがってたぞ！
  「野生児」：（この学園のメッセンジャーは身を固くしたまま入口に立ち、床とイノシシさんをオロオロと交互に見つめている。「タッチダウン」の挨拶にどう返せばいいのか分からないようだ）
  「野生児」：（面白いことに、「信号」の配達犬であるウィックはこの探偵部の常連なのに、「信号」本人は授業以外でめったに見かけない）
  
  
  1. 顔
  礼儀正しい微笑みを浮かべてはいるが、その表情からは焦りと落ち着きのなさがにじみ出ている。
  2. 郵便袋
  膨らんだ郵便袋。留め金が今にも外れそうだ……ん？「信号」はまだ、今日の分の手紙を届けていないのか……？
  3. 靴
  昨日の夕方から今日の朝までずっと雨が降っていた。にもかかわらず、「信号」の足元には泥がついているものの、服は乾いている。どうやら、雨が止んだ後に校内を走り回っていたらしい。
  
  「野生児」：「信号」、何かあったの？大丈夫、決して依頼人を失望させないのがデモリー探偵部の信条だよ。
  「信号」：……
  
  「信号」はしばらく黙り込み、紙を1枚取り出して鉛筆で子犬の絵を描いたーーウィックだ。
  
  「タッチダウン」：ウィックがどうかしたのか？
  
  ぽとりと水滴が滲んだ子犬の絵を、「タッチダウン」は真剣な眼差しで見つめた。
  「信号」はコクリと頷いた。
  
  「アンサー」：皆見てくれ、「花蕊」からのメッセージがある！
  「アンサー」：「ウィックが昨日の昼前に手紙を届けに行ったまま戻ってきていないの。探偵部の皆、どうか探してあげて！」
  「タッチダウン」：一晩も……ウィックは賢いし、勝手にどこかに行くような犬じゃない。まさか……
  「アンサー」：早とちりはよせ！判断するにはまだ証拠が足りない。
  「野生児」：その通り。探偵部として、まずは配達先を1件ずつ当たって、目撃者がいないか探すべきだろう。
  「アンサー」：そうだな。よし、この依頼を引き受けよう。必ずお前の相棒を見つけてみせるぜ！部長、早速手分けして……
  「野生児」：いや、闇雲に探すべきじゃない。昨夜から今朝にかけての大雨で、恐らくウィックの痕跡は消えてしまっている……
  「野生児」：ウィックが昨日、だれに手紙を送ったのかが分かれば、そのルートを辿って手掛かりを得られるかもしれない。
  
  静かに耳を傾けていた「信号」がポケットから1枚のリストを取り出した。
  そこには昨日の配達相手の名前が書き出されている。
  
  「野生児」：心配しないで、「信号」。ここは私たちが引き受けるよ。君が今日の手紙を届け終える頃には、ウィックの居場所を突き止めてみせるから。
  
  探偵部一同は無口な校内メッセンジャーを見送ると、厳かな空気の中で本日の「第1回探偵部会議」を始めた。
  
  「野生児」：「タッチダウン」、何をそんなに焦っているんだ？「信号」が怯えていたじゃないか。
  「タッチダウン」：だってよぉ、あの噂を思い出して……
  「試金石」：「メッセンジャーがその目を失った時、7つ目の聖霊が無垢な瞳を閉じ、邪悪な手が岸辺への門を開く」ってやつか？
  「タッチダウン」：知ってるのか！最近、学院はこの呪いの噂で持ち切りだ。「淑女」のモルモットと三毛猫のジャスミンが行方不明になってからは、呪いは本物なんじゃないかって、更に怖がられてる。
  「タッチダウン」：噂ではその全ての黒幕が……うわっ、イノシシさん！ウィックが心配なのは分かるが、配達リストとランチを間違えないでくれ！
  
  クシャクシャという音に気付いた時にはすでに遅く、「タッチダウン」はイノシシさんの口元からリストの残骸をなんとか奪い返し、目の前の「野生児」の相棒を困ったように見つめた。
  
  「アンサー」：まあ、責めないでやってよ。イノシシさんは準備万端みたいだな？ウィックほど賢い配達犬ですら攫われた可能性があるんだから、他の動物たちが不安がるのも無理はない。
  「野生児」：幸い、損傷はそれほど深刻じゃなさそうだ。端を合わせれば、まだ内容は読み取れるはず。
  
  イノシシさんに破られた配達リストをつなぎ直そう
  
  
  
  「野生児」：できた！ウィックを探しに行く前に、今日の時間割を確認しておこう！
  
  

キャラ

生徒

• 「野生児」
  
  • 所属クラス：S1-1組
  • 担当職務：探偵部副部長
  • 生徒ファイル：
    サーカス団の出し物として、「野生児」は幼いころからサーカス団で動物の子供として育てられた。
    有名教育者たちは彼の経験に関心を持ち、彼を救い出してデモリー学院に入学させた。
    入学式当日、彼の相棒が旧探偵部室に迷い込み、「戴冠の謎」を解いてしまったことから探偵部の新任副部長（対外的には部長を名乗っている）となり、現在1年前の時計台出火事件の真相を調査している。
    
    
• 「アンサー」
  
  • 所属クラス：S1-1組
  • 担当職務：霊能部部長/探偵部部員
  • 生徒ファイル：
    「野生児」と同じスポンサーを持つが、全く異なる経験を持つ。
    幼い頃に故郷から離れた後、彼女は上流貴族家庭で当時最も優れた「エリート教育」を受けた。
    しかし、彼女の心の中に根付く炎が消えたことはなく、今も世の中の偽善の仮面を焼き払いたいと思っている。
    
    
• 「試金石」
  
  • 所属クラス：S1-1組
  • 担当職務：探偵部部員
  • 生徒ファイル：
    「野生児」同様、落第ギリギリの成績を維持している。
    鉱員家庭出身の彼が外部入学テストに合格してデモリー学院に入学したことで、当時は世間を騒がせていたが、それはデモリーの外に限った話だ。
    学院の中での彼は最も影の薄い生徒の1人で、蔑まれることも注目を浴びることもない。
    「エリート」たちはこの小汚いクラスメイトの存在を、たとえ突然いなくなっても気に留めないほど徹底的に無視している。
    
    
• 「タッチダウン」
  
  • 所属クラス：R1-2組
  • 担当職務：クリケットボールチームメンバー/探偵部部員
  • 生徒ファイル：
    元ラグビーチームメンバー。
    チームメイトとのトラブルが原因でチームから追い出され、クリケットボールチームの顧問教師に拾われたものの、過去や才能を恐れられ補欠に甘んじていた。
    栄光の馬車交通事故事件の後、花蕊に誘われて探偵部へ入部する。
    そこで彼は、溢れんばかりの情熱をもって人々に証明するのだーールールを破らなければ、分からない真相もあるのだと。
    
    
• 「花蕊」
  
  • 所属クラス：R1-2組
  • 担当職務：園芸部部長
  • 生徒ファイル：
    顧問教師の娘。
    平民出身だが、どの階級の生徒も彼女には友好的に接する。
    親しみやすい甘い笑顔のためか、明るく元気な挙動のためか、あるいは……人知れぬ特殊な才能があるためか。
    
    
• 「ラビッツ・フット」
  
  • 所属クラス：A1-1組
  • 担当職務：マジック協会会長
  • 生徒ファイル：
    彼が率いるマジック協会は、かつて学院で最も人気のサークルだった。
    しかし、ショーの最中に起きたアクシンデンとをきっかけに、誰も彼の舞台を見に来なくなった。
    「ラビッツ・フット」の努力もむなしく、サークルは解散寸前まで追い込まれていた。
    
    
• 「信号」
  &ref(): File not found: "「信号」.png" at page "失われた反響/キャラ";
  • 所属クラス：R1-2組
  • 担当職務：学院メッセンジャー
  • 生徒ファイル：
    寡黙だが非常に頼もしい学院のメッセンジャー。
    学院の各所へ手紙を届けている。
    
    
• 「晩鐘」
  
  • 所属クラス：R2-1組
  • 担当職務：不明
  • 生徒ファイル：
    入学早々生物学における並外れた才能を発揮し、視覚器官を造物主の最も素晴らしい傑作だと称える彼は、常に人気のない部室で独り解剖学に没頭している。
    一方で、寮の周辺をうろつく小動物が減っているという噂が広がり始めていた。
    
    
• 「面取り」
  
  • 所属クラス：R2-1組
  • 担当職務：実験室の助手
  • 生徒ファイル：
    複雑な機械を組み立てることに熱中している。
    優秀な物理の成績によって、実験室で「自在継手」の助手を務めることになった。
    
    
• 「テレビン油」
  
  • 所属クラス：A2-1組
  • 担当職務：美術部部長
  • 生徒ファイル：不明
    
    
• 「乾杯」
  
  • 所属クラス：A2-1組
  • 担当職務：不明
  • 生徒ファイル：不明
    
    
• 「戒告」
  
  • 所属クラス：A2-1組
  • 担当職務：不明
  • 生徒ファイル：不明
    
    
• 「白鳥」
  
  • 所属クラス：A2-1組
  • 担当職務：不明
  • 生徒ファイル：不明
    
    
• 「ベイル」
  
  • 所属クラス：S2-1組
  • 担当職務：クリケットボールチームメンバー
  • 生徒ファイル：
    クリケットボールチームメンバー。
    優れた技術を買われて、遥か遠い東からクリケットボールの伝統を持つデモリー学院に推薦で入学した。
    時計台出火事件の目撃者の1人。
    
    

教師

• 「暴君」
  
  • 所属授業：ラテン語
  • 担当職務：校長
  • 教師ファイル：不明
    
    
• 「羽根扇子」
  
  • 所属授業：現国
  • 担当職務：現国教師/寮監
  • 教師ファイル：不明
    
    
• 「金床」
  
  • 所属授業：図工
  • 担当職務：図工教師/クリケットボールチーム顧問教師
  • 教師ファイル：不明
    
    
• 「自在継手」
  &ref(): File not found: "「自在継手」.png" at page "失われた反響/キャラ";
  • 所属授業：科学/図工
  • 担当職務：科学教師
  • 教師ファイル：不明
    
    

事件記録

• 今回の事件
  
  学院のメッセンジャー「信号」の配達犬ウィックが昼前に配達に出かけたきり、次の日まで戻っていない。
  突然の大雨によって痕跡を辿るのは難しく、探偵部は昨日手紙を受取った者たちに話を聞き、ウィックの手掛かりを探すことにした。
  そんな彼らの行動によって、穏やかに見えた学院に潜む不穏な気配が露わになっていく。
  
  
• 時計台出火事件
  
  1年前、時計台で火事が起こり、「ナイチンゲール」が不幸にも命を落とした。
  元探偵部部長「七弦琴」が事件を調査し、「社交シーズン」の「公開日」に真相を明らかにすると宣言したが、彼は何の予兆もなく「公開日」前夜に行方不明になった。
  学院側は「六ペンス」が時計台の傍でタバコを吸っていたことが火事の原因だと判断し、彼を退学処分にした。
  探偵部の新任部長「野生児」は、「ベイル」から重要な証言を得た。
  事件当日、「ナイチンゲール」は「戒告」、「白鳥」と共に時計台に入り、その後に火事が起こったらしいーー事の真相は、見かけよりもずっと複雑なようだ。
  
  

コメント