永夜に詠う詩/3日目

Last-modified: 2025-11-23 (日) 22:27:00
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3日目

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人里離れた山の頂、鬱蒼と茂る古木の森で、響き渡る遠吠えと共に、満月が空高く昇る。
それは深淵をこだまする残響であり、穏やかに暖炉を囲む魂への警告だ。
これらの生命は、獣の肉体の中で知性の寒光を磨き、人の形の中で野生の魂を燃え滾らせる。

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あなたの身に起こる変化を観察したいと言った暮影は、なぜか小さなカボチャ型のランプを取り出した。
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彼がランプにあなたの血を1滴滴らせると、ランプは明るく燃え上がった。

暮影:これからはこのランプを持ち歩いてくれ。これで君の変化を感知できる。
私:今のって、魔法……?
暮影:もちろん、魔法だ。
私:でも、人狼は魔法が得意な種族じゃなかったはず……
暮影:記憶がないと言っていたわりには、そういうことは覚えているのだな。
暮影:確かに人狼のほとんどは魔術師や血族のように魔法に長けているわけではないが、何事も例外は存在する。

そう言って胸を張る彼は、同族との違いを誇示したがっているようだった。

私:暮影さんは、同族の中でもかなり優秀なんですね。
暮影:……当然だ。それに、この地のサウィンの魔力に侵蝕されている。命を蝕む一方で、魔法は使いやすくなっているのだ。
私:あなたが使っているのは……黒魔法ですか?
暮影:ただサウィンの力を借りているだけで、なぜ黒魔法などと呼ばれねばならない?
暮影:各種族はサウィンを死神と恐れ、邪悪なものだと考えているが、それは世界における「消滅」という概念を司る存在にすぎない。
暮影:生き物は有限の命ゆえにサウィンがもたらす死を畏れ、彼を邪神と呼んでいる。
暮影:だが、世界は栄枯を繰り返すものだ。消滅も生命の輪廻の一部を担っている。
暮影:各種族が手を取り合いサウィンを封印したのは、彼が根源的な本能のままに魔力で大地を蝕み、あらゆる生き物を死の領域へと引きずり込んでしまうからだ。
暮影:だが、それは際限なく使われるのが問題なのであって、破滅の力そのものが悪いわけではない。

◆その通りかもしれない
私:そうかもしれませんが、使用者の能力が常に試されます。猛獣と共に歩むようなもので、一瞬の油断も……
暮影:私だって、他人の目には「猛獣」に見えている。
私:人狼も、ただの獣として見られるべきではありません。
暮影:珍しい考えを持っているのだな。
暮影:人狼でさえ、魔法の力を失った後、自ら獣として生きることを選ぶ者は少なくない。
◆いや、この魔力の本質は危険だ
私:ですが、サウィンの魔力は触れるだけで使用者を蝕み、その感情や肉体、魂さえも変えてしまいます。
暮影:この力がなければ、私は次の日まで生き延びることさえできなかった。今更、空虚な終焉など恐れるに足りない。

私:けれど、あなたは……そのような最後には甘んじないと思います。

暮影がくれたランプは、あなたの状態を表すためだけのものではない。彼によれば、これを使って船の材料も探せるらしい。
また、魔力で構成された魔境の川は、普通の河とは真逆の性質を持っているとも教えてくれた。
普通の水の中では、軽いものが浮き、重いものが沈む。しかしここでの「重み」は魂ーーつまり肉体は沈み、魂は浮くという。
この法則は生ける屍となった「人」にも適用されるが、純粋な生者が川を渡るのは更に難しいだろう。
暮影の紹介によると、生者を乗せる渡し船は、死に浸透された樹木でしか作れないそうだ。
そしてその条件に合うのは、このランプの炎でも燃えない木材だけだ。
魔境の空は常に暗く沈んでいる。あなたは長い間探し続けたが、周りにはあなた以上に感覚が麻痺した「人」しかいない。
彼があなたに関心を示すことはなく、あなたもまた彼らの横を通り過ぎ、ただ黙々と動き続けていた。
身体は疲れも空腹も感じず、休憩の秘密もないようだ。
そんな時、ふと何者かに手首を掴まれた。肌から感触が伝わってくるまで、近くに誰かの気配を感じた覚えはないのに。
その者はノートから顔を上げ、明るい笑みを浮かべてあなたを見つめた。

光塵:また会えて嬉しいよ。でも、言うことを聞かずに星を見たうえ、この地で一生懸命働いていたようだね?
私:ど、どうしたの?

声を発した時、自分の口元の筋肉が硬くなっていることにようやく気付いた。

光塵:時間の流れを感じなくても、人には休憩が必要なんだよ。
光塵:疲れを忘れさせ、飢えへの恐怖を取り払う魔力が、使えば使うほどより大きな対価を払うことになる。
光塵:現代の魔法は、強弱に関わらず使用者に代償が求められる。まあ、自分のためを思うなら、なるべく手を出さないことだね。

彼はそう言って、あなたが持っていたカボチャのランプをそっと取り上げた。
いつの間にか弱まっていたランプの炎がかすかにに揺らぎ、再び勢いを増したように見えた。

光塵:このランプも同じだ。
私:これの仕組みを知っているの?魔法に詳しいんだね。
光塵:そんなことないさ。僕も君と大して変わらない普通の人間だよ。
光塵:ただ、両親がそういうものを研究していたんだ。ここへ来て、必要に駆られたから、昔の知識を引っぱり出したってところかな。
私:あなたの両親って、魔術師?
光塵:いや、違うよーー魔法が使える種族なんてたくさんいるんだから、人間だって研究していいはずだろう?
私:偉大な構想に聞こえるけど……あなたは少し違う意見を持っているように見える。

何となく、あなたは光塵がこのランプを好ましく思っていないと感じた。

光塵:そこまでバレてるなら、包み隠さず言うけど……
光塵:妖精や魔女、血族から人狼までが大地で暮らしていた、魔力に満ち溢れた旧時代であれば、この力を支配しようとするのも悪くないと思うんだ。
光塵:なぜならその時代では、魔力は観測可能で、法則も見出せる現象だったからね。
光塵:でも今はーー火は火でしかないし、水は水でしかない。もはや僕らの指令に従う元素じゃなくなった。それは神や魔法、伝説と共に消えていったのさ……
光塵:だったら、すでに僕らのもとを去った神に縋りつき、消散し始めた魔力に執着する必要なんてないんじゃないかな?
光塵:かつて魔術師が人間に歓迎されたのは、彼らが人間と似ていながら全く異なる力を持っていたからだ。
光塵:彼らは夜に空を飛び、片手を振るえば山々を崩し、川を断ち切ることができた……
光塵:そういうロマンあふれる伝説が人々の力を掴んだのは、彼らが思い描く自由と力が具現化されていたからだろうね。
光塵:人は、本来持つべきだった自由と力を得られなかったのだと考えている。
光塵:でも、それらは別に魔法でしか手に入れられないわけじゃない。僕らは他の種族とは違う。
光塵:生まれた時から魔法に頼らず生きてきた人間は、決して魔法がなければ生きていけないような種族じゃない。
光塵:片手で山を崩す光景には確かに憧れるかもしれないけれどーー時間がかかるだけで、それは魔法のない人間にだって可能なことだ。
私:……私に、別の方向性を説こうとしているんだね。
光塵:そう、僕はずっと考えていた……
光塵:神や魔法がなくなっても、世界は別に滅んだりしない。だとしたら、それらは本当に必要不可欠なものなんだろうか、ってね。
光塵:人類が初めて道具を作り出した時も、それに魔法なんてかかっていなかった。なら、どうしてその道を歩み続けてはならないのか?
光塵:火打石で火を点し、溝を掘って水を引く……いつも思うんだ。人類には、人類だけの特別な力があると。
私:でも、今の私たちは魔法で構成された魔境にいる。

光塵はため息をついたが、表情は雲っていなかった。

光塵:君の言う通りだ。僕が魔法を研究し始めたのもそれが理由さ……少なくともここには、まだ魔法の法則が残されているからね。
光塵:ここへ来た人の多くは、この世界の本質と自分がじきに迎える結末を意識した後、受け入れることを選んだ。
光塵:今までがそうだったから、これからも変わらないのだと誰もが思い込んでいる。この質問は何人にも聞いてきたけど、君にも改めて聞こう。
光塵:代償は大きいけれど、ここから脱出できるかもしれない魔法があるーー知りたいかい?
光塵:今すぐ答えなくていい。君を連れていきたい場所があるんだ。決めるのは、そこに着いてからでいいよ。

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