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5日目

木の聖霊が焦土に根を生やし、新芽が呪いの土を破る。
蒼き大樹の下、全ての種族は焚火の傍で永久不変の誓いを刻む。
我らは神々を見送り、凡人として蝋燭の火を掲げる。
塵の中で山をも動かす力を蓄え、闇夜の中で黎明を照らす星火を点す。

3人で協力することになったものの、船ができれば必ず脱出できる保証はどこにもない。
その点に関して、暮影は噓をついていなかったようだ。光塵と朧夜に確認したところ、魔境を出る条件が厳しいのは本当らしい。
この大地はまるで意志を持っているかのように、生ける魂を絡め取ろうとする。
それでも、この世界の果てまで行ってみるべきだ。頭の中は今も空っぽだが、あなたは言い知れぬ焦りを感じていた。
作業の合間、朧夜は荒野の小屋の前にあるランプを灯したが、そこに置いたまま動かさなかった。
私:場所を移さなくていいんですか?
朧夜:ええ、ここに置いておくだけでいいの。
私:でも、これだと照明として役に立たないのでは……?
朧夜:大丈夫、照明として点けたわけじゃないから……えっと、何のためだったかしら?
光塵:これは昔、警戒用に置かれたランプなんだ。どれも特殊な技術で作られてる。
光塵:サウィンの魔力や、サウィンに連なる生き物が現れた時、この明かりが警告してくれるんだよ。
光塵:かつて、交流の効率を上げるために発明されたものさ。
光塵:当時の普通の人間は、魔法の存在を感知するのが難しかったからーー今もそうだけど。
光塵:でも、その頃はサウィンに対抗するという共通の目的があったから、各種族が協力し合ってこの特殊な魔法の産物を完成させることができたんだ。
光塵:魔術師がランプの中に込める魔法を設計し、血族が生命の変化を細かく完治する灯芯を提供する……
光塵:そして人狼が最高の材料を寄越し、精霊族が彫刻に長けた職人を見つけ、その内部に複雑な呪文を刻んだ。
光塵:こうして1つ目のランプが灯された時、その場の全員が歓声を上げたと言われている。
光塵:最後、精霊族たちの中から金色の鳥が1羽飛び上がり、咥えていた1本の羽根を灯芯に入れた。
光塵:金色の鳥はささやかな奇跡をもたらした。それ以来、その1つ目のランプは決して消えず、永遠に光り続けたそうだ。
光塵:その後に作られたランプも、主人が魔法素材を補充する必要はなく、一度灯すだけで探知魔法が稼働し始める。
光塵:彼らはランプの製造方法を広め、家々の前に置くことでなるべく明かりを絶やさないよう人々に勧めた。
光塵:サウィンやその手下が現れる度、ランプの火は探知魔法によって色が変わり、人々に避難を呼びかけていたんだ。
私:はっきりとは覚えてないけど……それはずっと昔のことのはずだよ。たぶん、そんなに古い建物じゃないと思うけど、どうしてまだこのランプを置いてるの?
光塵:幸運を祈る呪(まじな)いという認識でしかないけど、この風習は現代まで受け継がれているらしい。
朧夜:すごいのね。長生種でもないのに、長い時を経ても忘れていないなんて……
光塵:寿命が短いからこそ、人間は知識と伝承を重んじ、自分なりの記録の手段を持っているんだ。
光塵:未だに扉や窓枠を白や赤で飾り付けているのもそう。
光塵:サウィンの手下を阻む魔法素材によく見られる色だったことが由来なんだよ。
光塵:誰かがずっと覚えていたのかもしれないし、ただ慣れただけなのかもしれない。
あなたは感慨深くランプを見つめた。安定して燃え続ける炎からは、数百年にわたる伝承が感じられる。

やがてその火種はあなたの目の前で揺らめき、不思議な青色に変化した。
私:これってまさか……警戒の色?
光塵は静かに頷いた。そして少し離れたところから、暮影と知らない女性がこちらに歩いて来るのが見えた。
暮影:随分賑やかじゃないか。……どうした、なぜそのような表情で私を見ているのだ?
私:……暮影さんこそ、新しいお友達ができたようですね。
引導者:私のことは「引導者」と呼んで。
暮影:引導者さんは魔術師だ。魔術師なんて、今時滅多にお目にかかれない。彼女の助けがなければ、私もこの魔境についてここまで詳しく知ることはできなかった。
朧夜:魔術師……どこかで聞いたことがある気がするわ。でも、そんなに珍しい存在なの?
暮影:神秘の衰退と共に、魔術師は百年以上前に人間の前から姿を消し、独自の集落で暮らすようになった。
暮影:噂では、人間に友好的な派閥が魔術師と人間が共に暮らす都市を作ったらしいが、それも魔術師の魔法で特殊な空間に固定され、普通の人間が入れないようになっている。
朧夜:そうだったの……ごめんなさい、よく覚えていなかったみたい。
引導者:いいのよ。この世界に長くいると、外界の変化を忘れてしまう人も多いわ。
彼女はにこやかにそう言ったが、顔は無表情のままだ。
その時ようやく、彼女が顔全体を覆う仮面をつけていることに気付いた。目の部分にだけ穴が開いている。
朧夜:普通よりも速く死へ向かっていっているせいかしら?いつか自分のことさえ忘れてしまうかもしれない……やっぱり早く離れるべきね。
引導者:いいえ。むしろここは、死から最も遠い場所よ。
私:どういうことですか?
引導者:死という概念について、一度考え直してほしいのだけど……あなたは死をどのように捉えているの?
◆肉体の腐朽
私:死は肉体が腐り落ちることだと思います。衰弱した感覚器官が、本来鋭い感覚を持つはずの魂を閉じ込めてしまうのです。
引導者:ええ。あなたも、魂こそが生命の根本だと認めているのね。
引導者:なら、肉体がなくなった後も、別の方法で精神を留めることができれば、それは生きていると言えるんじゃないかしら?
引導者:四季の移り変わりと同じよ。肉体は落ち葉のように生え変わり、魂は木として存在し続ける。
引導者:でも、肉体の寿命とは関係なく、魂は時間がもたらす苦痛と試練によって成熟していき……
引導者:同時に、衰えていくの。
◆魂の衰え
私:死は魂が衰えることだと思います。
私:魂が活力を失えば、いくら強健な肉体を持っていても、それは生ける屍にすぎません。
引導者:その通り。だからこそ、種族に関係なく多くの者が黒魔法を研究し、サウィンの力を求めているわ。
引導者:サウィンの魔力は魂の本質に触れることができる。魂を消滅させることができるなら、修復もできるはずでしょう?
私:……処刑台の刃も、使いようによっては散髪の道具になる、ということですか?
引導者:面白い例えをするのね。まあ、そういうことよ。危険なだけで、不可能ではないと思わない?
あなたは引導者の隣に立つ暮影に目を向けた。
彼はとても気楽な様子で立っている。何も口にしていないが、その沈黙が答えでもあった。
◆可能かもしれない
私:確かにいい方法かもしれません。
◆受け入れられない
私:すみません。普通の人間にとっては、やっぱり危険すぎるように思えます。
朧夜(?):ねえ、あなたたちはサウィンの偉大さを宣伝するためにここへ来たの?
いつの間にか朧夜の雰囲気がガラリと変わり、なんと服まで着替えていた。今に始まったことではないため、あなたは驚かなかった。
暮影:そうではない。私は友人に会いに来ただけだ。
私:友人って……私?
暮影:もちろん。協力すると約束した以上、この契約は対等かつ公平な利益をもたらすものであるべきだ。
暮影:いつまで経っても脱出用の船が造れなかったら、私が君を利用したようになるだろう。
私:それなら心配せずとも……朧夜さんと光塵さんが手伝ってくれているので、作業は結構進んでいます。
私:あと2日もすれば完成するかと。
暮影:君らは3人とも……ここを出たいのか?
朧夜(?):……
光塵:そうだけど、何か?不可能だって言いたいの?
暮影:自分の状況が分かっていないようだな。ここを離れたら、君は必ず死ぬ。
暮影:今はサウィンの魔力に生きる機会を与えられているだけだ。それでもここを出ると言うのか?
あなたは驚いて光塵に目を向けた。そんな話は初耳だ……しかし光塵は笑みを崩さず、口調や眼差しも穏やかなままだった。
光塵:それがどうかした?
私:光塵さん……
光塵:まあ、ここも魔法の世界だからね……僕は最善を尽くした。あとは運命に身を任せるさ。
そう言い、光塵はすぐに飄々とした調子に戻った。
光塵:なにその顔ーーまさか、僕を心配してるの?平気平気、大丈夫だよ。
光塵:ここは明日どうなるかも分からない場所だ。他人よりも、まずは自分の心配をした方がいい。
私:朧夜さん、大丈夫ですか?火の色が変わった時から、ずっとランプを見つめてますけど……
朧夜:何だかこの光が懐かしくて……どこかで見たことがあるんだと思う。
私:もしかして、朧夜さんの家の前にもランプが置いてあったとか?
朧夜:いいえ、家の前じゃないわ……もっと上の、とても高いところ。
朧夜:空に散らばる星のような……いいえ、あれは動いていた。まるで流れる光の川のように……
ふと、朧夜の口角が上がり、美しい弧を小さく描いたのが見えた。
朧夜:町の端から、ずっと向こうの端まで、ランプが1つ、また1つと……
朧夜:それらは連なる炎のように、私が通った場所から順番に燃え上がり、暗い夜を照らしていったの。
朧夜:人々の笑い声が聞こえる。子供がランプの下を走り回り、その影が長く伸びていく。食べ物の甘くて温かい香りも漂っていて……
朧夜:テントから出てきた人々は、身を寄せ合って談笑していたわ。
朧夜:それから……歌声?変な旋律だけど、とても心地良かった覚えがある……
私:何かの集会のように聞こえますね。その歌も、きっと楽しい歌だったのでしょう。朧夜さんも歌ったんですか?
朧夜:私は、あの光の川の上からその光景を眺めていた。風が温もりや歌声を運んでくれて……
朧夜:そうね、私も一緒に思い出していたかもしれない。でも……
朧夜:楽しかった記憶のはずなのに、どうして今の私は……
朧夜は眉をひそめて目の前のランプを見つめ、ブツブツと困惑したように呟いた。
朧夜:その時の私は、本当に楽しかったのかしら?どうして今の私の心は動かず、むしろ悲しみを感じているの?
私:私には十分、楽しい話に聞こえました。活気に満ちた、温かい幸せが感じられます。
私:朧夜さんはきっと……
◆サウィンの魔力の影響を受けているから
私:サウィンの魔力の影響を受けているからでしょう。それは分厚く冷たい灰のように、生き生きとした記憶や感情に蓋をしているのです。
私:今は鮮やかな色や熱を持つ感情を忘れてしまったとしても、灰を取り払えば、きっとその全てを取り戻せますよ。
◆完全に記憶が戻っていないから
私:まだ完全に記憶を取り戻していないからでしょう。
私:もっと大切な過去が虚無に吞み込まれているから、心が痛むのかもしれません。
私:今は一部思い出せただけでも十分です。それがたとえこのランプのように小さく、魔境全体を照らすことはできなくても、私たちの視界や、私たち自身を照らしてくれている……
私:そして皆で船を造り、脱出の道を探す手助けにもなってくれます。
私:日の当たり場所へ戻ることができれば、封じられた喜びも、春に咲く花のように自然と綻ぶはずです。
朧夜:あなたの言う通りね。必ず、一緒にここを出ましょう。
