Contents |
研究領域
- 山極寿一『家族進化論』第4章 生活史の進化 11 老年期の進化 P202
こうした人間にとくに顕著にみられる早期の離乳と思春期スパートのほかに、もう一つ人間に固有な生活史の特徴がある。
それは、繁殖から引退した後の長い老年期の存在である。
この項目では、繁殖から引退した後の期間である、老年期について扱う。
前提となる学問・研究領域
過去に位置する学問・研究領域
原因となる学問・研究領域
解決すべき問題となる学問・研究領域
目的となる学問・研究領域
子ども期・青年期
- 山極寿一『家族進化論』第4章 生活史の進化 11 老年期の進化 P202-204
アメリカの人類学者クリスチャン・ホークスは、人間の女は娘の繁殖を補助することによって子孫の繁栄に貢献したという仮説を立てた。
人間はほかの類人猿に比べて多産なのに、子どもの成長に時間がかかる。
母親は子どもが自立するまで、長いあいだ食物を与え続けなければならない。
子どもを抱えて母親が食物を探し歩くのはたいへんだ。
だから、繁殖を終えてまだ体力のある祖母が娘の子育てを手伝い、食物を分配して孫の生存率を高めたというのである。
これを「おばあちゃん仮説」という。
(中略)
まして、性的なトラブルであれば、その当事者にはならない高齢者の発言が大きな効果を発揮することがある。
思春期スパートを迎えた若者たちは、急速に成長する体をもてあまして危険な行為に出たり、軽はずみな挑戦をしがちである。
それを抑制し、安全な方向へと導くには、もはや若者たちとは張り合う必要のない高齢者の助言が必要なのである。
こうしてみると、人間の老年期の延長は栄養条件と安全性の向上によって引き延ばされただけでなく、人間に固有な子ども期や青年期を支えるために実現したという可能性がある。
人間の老年期は、子ども期や青年期を支えるために実現したという可能性がある。
属する全体である学問・研究領域
本質的な部分である学問・研究領域
非本質的な部分である学問・研究領域
人類学・人類・人間性
- 山極寿一『家族進化論』第4章 生活史の進化 11 老年期の進化 P204
おもしろいことに、閉経と老年期の延長は人類に近縁な類人猿にはみられないが、系統的に離れている鯨類にみられる。
シャチやコビレゴンドウのメスは四〇歳前後で繁殖をやめ、六〇歳ごろまで生きる。
これらの鯨類は母系の社会をつくり、祖母が子持ちの娘たちといっしょに暮らす。
肉食で、水中で獲物を捕る際に知的な技法を用いたり、仲間と協力することが知られている。
まだ詳しい観察は知られていないが、祖母の存在や行動が若い母親や幼児の生存率を上げている可能性がある。
老年期は人類のみならず鯨類にもみられる。